★ (数ヶ月後)森と草原の境・ストレングスの家
秋が過ぎ、冬が明けた、ある晴天の日の昼間。
白い雲が遥か上空に、綿毛のように散ばって流れていく。
ざわ、と庭先の広葉樹の葉が、風にそよぐ。
それを、家の窓の縁に片肘を着いて眺めているストレングス。
ガオガオも窓枠に、ちょこん、と両前足を乗せて眺めている。
ストレングス「そろそろあったかくなってきたね・・・アタイ、冬苦手だからさ。ガオガオもそうだもんね」
ガオガオ「(しみじみと)ガウァァ・・・」
ふと、誰かが庭先に足を踏み入れて近付いてくる気配。
その方向に目をやると、ハイエロファントの姿。
笑顔を浮かべ、両手を後ろ手に組んで、ふたりの目の前に立つ。
ハイエロファント「こんにちは、ストレングスちゃん、ガオガオ」
ストレングス「(意外そうな表情で)エロファント兄ちゃん・・・どうしたの?」
ハイエロファント「ちょっと時間、あるかな? 今じゃなくてもいいんだけど、来てほしい場所があるんだ」
ストレングス「・・・場所・・・(少し考えて)そんな遠くなきゃ、別に今からでもいいよ」
ハイエロファント「そう、良かった。じゃあ、ガオガオも一緒に」
窓を閉め、玄関から外に出てくるストレングスとガオガオ。
庭から玄関に周り込んでくるハイエロファント。
ハイエロファントが先導し、ストレングスとガオガオが一歩後に追いて歩き始める。
ハイエロファント「(微笑んで)デスが待ってるよ」
ストレングス「え・・・デスが? 何で?」
ハイエロファント「是非君に見てほしい景色があるんだ、って。それで、僕が呼びに来たんだよ。本当はね、デスと一緒に来るつもりだったんだ。でも『自分が行くと来ないだろう』って言ってね、結局デスにそこにいてもらって、僕が来ることになったんだ」
ストレングス「ふーん・・・別にデスも来てくれて良かったのに・・・」
ハイエロファント「ストレングスちゃんは、デスのこと、どう思う?」
ストレングス「嫌いじゃないよ。怖くもないし。実はずっと、気になってんだ。いろいろ話もしたい」
ハイエロファント「(柔らかい笑顔で)それは何より」
ストレングス「エロファント兄ちゃんは、どう思ってるの? デスのこと」
ハイエロファント「一番大切な女性だよ。言葉では言い尽くせないくらい、デスのことを考えているんだ」
ストレングス「要するに、大好き、ってこと?」
ハイエロファント「(満面の笑みで、頷いて)もちろん!」
つられたように、顔を見合わせて笑顔になるストレングスとガオガオ。
★ 岩山・谷底を見下ろせる高台
険しく切り立った岩山の、更に突き出たように存在する高台。
その端に立ち、大鎌を左肩に掛けて、眼下を見下ろしているデス。
普段の表情だが、目を細めて視線を彼方に投げている。
その背後から、道を登ってくるハイエロファント。続いて歩いてくるストレングスとガオガオ。
ハイエロファント(少し離れたところから)「デス、お待たせ」
くるり、と上半身を返して、ハイエロファント、ストレングス、ガオガオを視界に映すデス。
ドキッ、として立ち止まるストレングス。
今まで見たことのないような、デスの柔らかな眼差し。
デス「・・・来たか」
凍結したように足を停めたストレングスを、振り返るハイエロファントとガオガオ。
その向こう側から、じっ、とこちらを見ているデス。
暫くの、間。
デス、顔を彼女に向けたまま、右手の人差し指を高台の崖下に向ける。
そして、二回、指先で突くような仕草をする。
合図を受けたように、ハッ、としてデスに近寄っていくストレングス。
ガオガオも、隣に並んで続く。
デスの傍らに並んで、その先の眼下を視界に映す。
途端。
金色の、風景。
大きく開かれた峡谷に、一面の金色の化粧。
谷底、崖の法面、見渡す限りを染め上げている金色。
それからがすべて、背の低い黄色い花。
無数の、星と見紛うばかりの、黄色い花。
真正面に、再構築された吊り橋がある。その真下から奥にも広がる黄色い花。
更には、今いる高台の縁からすぐ傍にも咲いている黄色い花。
まるで、金色の絨毯。
ストレングス「(心底の驚きで)うわあぁぁー! すっごぉーい! 何これーっ!」
ハイエロファント「タンポポの花だよ。草原ではこの時期によく見掛けるけど、この辺りに咲くのは珍しいね。しかも、こんなに広く、たくさん咲くなんて、今まで見たことなかった。綺麗だよね」
両目を宝石のように輝かせて、笑顔になるストレングスとガオガオ。
ハイエロファント「ストレングスちゃん、そこに咲いてるタンポポ・・・よーく見てごらん」
ハイエロファントが右手で指し示す先、高台の端に、一輪のタンポポが花開いている。
ハイエロファント「誰かに、似てない?」
屈み込んで、訝し気にタンポポに顔を近付け、じーっ、と凝視するストレングスとガオガオ。
柔らかく、たてがみのような金色の花弁。
瞬時に、ふたりの脳裏に浮かび上がる姿。
ハッ、と同時に顔を上げ、見合わせる。
それを目にして、安心したように表情を和らげるデス。
デス「(ふうう、と大きく息を継ぎ)・・・まったく・・・随分と気が早い奴だったな」
ストレングスとガオガオ、思わずデスを見詰める。
彼女の横顔に、視線を固定する。
デス「(口元に笑みを湛え)・・・もう、生まれ変わってきた」
直後。
緩やかに、ゆっくりと表情を明るくしていく、ストレングスとガオガオ。
そして、はち切れんばかりの満面の笑みを浮かべる。
バッ、と再度、前方に広がるタンポポの群生を、瞳いっぱいに映す。
どこまでも敷き詰められている、眩しいほどの金色。
ストレングスとガオガオ、目を正円に近いほど丸く見開き、感嘆に、ブルッ、と震える。
視界と、脳裏に浮かぶキングの姿が鮮やかに被さる。
途端。
金色の風景に身体を正対させ、両掌を口の両側に立て、直角に当てるストレングス。
すううっ、と深く息を吸って、一度止める。
ストレングス「(心底の歓喜を込め)おかえりーっ!!! キングーっ!!!」
ガオガオ「(心底の歓喜を込め)ガアゥォォーッ!!!」
ふたりの声が、岩山と谷全体に轟き渡る。
やまびことなり、いつまでも残響を後に引き、遥か彼方まで飛翔する、声。
突然。
ブワッ、と一陣の風が、谷底の奥、金色の絨毯の向こうから吹き上がってくる。
タンポポの群生、その一輪一輪が、波のように揺れ動いている。
風は高台まで一気に駆け上がり、ストレングスの髪とガオガオのたてがみを、ふわっ、と浮かせる。
再び顔を見合わせ、目を細めて喜びを溢れさせるストレングスとガオガオ。
ハイエロファント、デスの隣に並んで立つ。
デス、ハイエロファントに視線を送る。
柔らかい微笑みを浮かべ、眼差しを絡め合うふたり。
そして、ストレングスとガオガオに、優しく温かい表情を向ける。
陽の光が、すべてを包み込むように、穏やかに天空より注がれている。
外伝【 ダンデライオン Episode of Strength : 了 】
[ この挿話を、「ダンデライオン」作詞者・藤原基央氏、並びに、ストレングスファンのP氏に献ず ]