ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ 作:ぐーたら提督
「よし、ご飯にしようぜ」
「さんせーい!」
「僕も同意見だよ」
サンヨウジム、ジムリーダーのデントも加わり、また賑やかになった一行。時間も良いぐらいなので、ポケモン達を出して朝食にしようとする。
「いただきまーす!」
「ちょっと待った!」
「ヤプ!」
木の実を串で刺したのを丸かじりしようとするサトシ達。しかし、デントやヤナップが待ったを掛けた。
「どうしたんだよ、デント?」
「いや、このまま食べる気かい?」
「そうよ?」
「……健康には悪くないと思うけど、このままは流石にどうかと思うよ」
「……ヤプヤプ」
サトシもアイリスも調理技術が無いため、木の実をそのまま食べるのが普通だったのだ。
これは行けないと思ったデントは、何処からか調理セットを取り出す。
「僕が料理を作るから、少し待ってて」
「分かった。じゃあ皆、その間特訓しようぜ」
「ピカ!」
「ミジュ!」
「ポー!」
「カブ!」
先日のサンヨウジム戦、勝利こそはしたものの、ピカチュウ以外はサトシの指示に追い付くには能力が不足しているのが判明した。
このままでは、サトシの足手纏いになってしまう。それを避けるには特訓あるのみだ。
「始め!」
「ピカピカピカピカ……!」
「ミジュミジュミジュミジューーーッ!」
「ポーポーポーポーーーッ!」
「カブカブカブカブーーーッ!」
「やけに張り切ってるなあ~」
特訓スタート。ピカチュウは適度なペースで、しかし、他の三匹は全力で疾走、或いは滑空していた。その速さと勢いはピカチュウを追い越し、思わず唖然とするほど。
「ふふ、君に応えようよと必死なんだよ」
調理から目を離さないまま、デントはサトシにポケモン達が彼に追い付こうと努力していると語る。
「そっか、嬉しいな」
ポケモン達が自分に応えようと必死に努力している。彼等のトレーナーとして、こんなに嬉しい事はない。
「ちょっと暑苦しい気もしなくはないけどね~」
「キバキバ」
ポケモン達の頑張りを茶化すようなアイリスと、サトシはムッとなるもそこは個人の感性だろうと押し込めた。
「アイリスはしないのか? キバゴの特訓」
逆に、キバゴに特訓を提案していた。
「あ、あたし?」
「キバゴはオノノクスになるのが夢なんだろ?」
「キバ」
夢の煙の騒動時、キバゴはオノノクスになる夢を見ていた。今も頷いて肯定している。そこからも、キバゴには強くなりたいという想いが有ることが窺える。
「だったら、強くなる為の特訓は必須じゃないか」
「確かにそれは言えてるね。どうなんだい、アイリス?」
「え、えと……パス! あたしにはあたしに合うやり方があるし!」
「ふーん、まぁ良いけど」
若干焦り気味なのが引っかかるも、やり方は人それぞれ。彼女なりにキバゴの事を真剣に考えているのなら、特に言う気はサトシには無い。
「ポー……ポー……」
「ミ、ミジュマ……」
「カ、ブゥー……」
「ピカ~……」
「うわ、大丈夫か?」
その後、全力疾走、もしくは滑空でへとへとになった三匹と、何時も通りのペースなので疲労せず、呆れ気味のピカチュウが戻ってきた。
「随分と頑張ったみたいだね」
「だとしても、これはやり過ぎだよ」
サトシのポケモン達の頑張りにクスクスと微笑むデント。サトシは少し呆れはしてるものの、嬉しくはあった。
「今日はここで――」
「ポー!」
「ミジュ!」
「カブゥ!」
まだやれる!三匹はそう言いたげに翼を上げたり、胸を張ったり、鼻息を立てたりする。
「分かった分かった。じゃあ、技の練習しようぜ。特にポカブはな」
「カブ!」
サンヨウジム、ポッド&バオップ戦でポカブは偶然とは言え、ニトロチャージを発動していた。その完全な修得をする必要がある。
「ミジュマルやマメパトは得意な技の練習、ピカチュウも含めて無理しない範囲でな」
三匹はコクンと頷くと、それぞれ技を磨きに始めた。
「よーし。行くぞ、ポカブ!」
「ポカ!」
「ニトロチャージ!」
「カブカブカブ……!」
ポカブが意識を集中させると、全身から炎を展開。熱さや勢いはもうかを発揮していないあの時よりも当然ながら劣っているが、そこはサトシは気にしない。
充分な炎を出すと、ポカブは走り出す。触れる空気を次々と焼き、熱して行くが。
「――ポカ!?」
「あっ……!」
その途中で炎が四散した。つまり、失敗したという事だ。
「カブー……」
「気にすんなって、ポカブ。そんな簡単には出来ないさ」
失敗にしょぼんと落ち込むポカブを、サトシは優しく慰める。ポカブはトレーナーに捨てられたポケモンの為、サトシは少し気を配っていた。
「少しずつ完成させようぜ」
「――ポカ!」
笑顔のサトシに、ポカブは全力で頷く。彼のためにも、絶対にニトロチャージを修得してみせる。火豚ポケモンはそう誓った。
「よし、もう一度だ。ニトロチャージ!」
「カブ!」
「……」
失敗にめげず、ニトロチャージの練習を続けるポカブ。そんな彼を、ミジュマルがチラッと見ていた。
(俺にも新技がいる)
強くなる為、既存の技の鍛錬をしているが、新しい技も必要だ。
そう思ったミジュマルは、炎を纏って走るポカブを見て自分にもあんな技が必要なんじゃないかと考える。
ポカブが炎を纏うのなら――自分は水を纏い、突撃する。そんな技を。
「ミジュ~……!」
「えっ……?」
ミジュマルがその意識を高めると、周囲からバシャッと水が溢れ出し、彼の身体を覆う。
「これは……げきりゅうじゃない」
デント&ヤナップ戦の時と違い、水が出ておらず、オーラもない。つまり、特性げきりゅうではない証拠だ。一旦、ポカブからミジュマルに集中するサトシ。
「マーーーッ! ――ミジュ?」
そのまま前に向かって、ミジュマルは突撃する。しかし、途中で止まって空中であたふたとしあと、地面にべちゃっと落ちる。どうやら失敗の様で、ガックリと肩を下ろしていた。
「今のは……」
「かなり不完全だけど……アクアジェットだね」
水を纏い、高速で突撃する水タイプの技、アクアジェット。それをミジュマルはかなり不完全ながらも発動したのだ。
「ミジュ……」
「ミジュマル。ポカブにも言ったけど、簡単に技は身に付かない。ゆっくり修得していこうぜ」
「……ミジュ!」
ミジュマルはおうと頷くと、対抗心が宿る眼差しでポカブを見る。お前には負けないと言いたげに。
「……」
そしてポカブも、ミジュマルを見つめていた。それはこっちの台詞だと言わんばかりに。
バチバチと視線の火花が上がるも、数秒後には互いの技の修得に戻った。
「……ポー」
二匹が互いを意識するように、マメパトもまた彼等の新しい技の片鱗に、対抗心を抱いていた。
ポカブが炎、ミジュマルが水、ならば自分は風を纏い突撃するような一撃。マメパトはそう考えていた。
「クルー……!」
「お?」
「ミジュ?」
「ポカ?」
サトシ達がマメパトに視線を向ける。マメパトは高く飛び上がると、一気に降下して風を纏うかの如く加速していく、が。
「ポ? ポー!?」
「マメパト!」
途中で体勢を崩し、必死に建て直そうとあたふたとマメパトは羽ばたく。しかし、落下していき、あわや衝突と言った所でサトシに抱えられる。
「無事か?」
「ポー……」
「今のはつばめがえしだね」
「俺もそう思う」
突撃するという点はでんこうせっかと同じだが、速度が低く、代わりに威力が有った。つばめがえしと見て間違いないだろう。
「ポカブだけでなく、ミジュマルやマメパトからも滲み出始めた新しい味。君とだからこそのテイストかな?」
「どうかな? 分かんないな」
「君らしいね。――さぁ、丁度料理も出来たよ。疲れた身体に取り込んでおくれ」
「皆、特訓は終わり! 飯にしようぜ!」
テーブルに料理を並べていくデント。見たところ、パンケーキと一口大にカットした木の実とサラダのようだ。ソースもある。
「召し上がれ」
「あらためて……。いただきまーす!」
サトシ達がパンケーキを取り、軽く一口かじる。
「美味しい!」
「ほんと! すっごく美味い!」
生地の柔らかさと木の実の甘さが程よく合わさっている。食べやすくて良い。特訓で疲れたミジュマル、マメパト、ポカブも次々に口にしていた。
「こっちも……やっぱり美味しい!」
もう片方は油で軽く焼き揚げた木の実であり、そのままでも美味しいが、ソースを付けるとまた違った味わいがある。
「流石、レストランを経営するだけ有るわね!」
「キバキバ!」
「喜んで頂けて何よりだよ」
料理を作った者として、喜んで貰えたのは嬉しい。
「こんな美味しい料理が毎日食べれるなら、三人旅も悪くは無いわね~。あっ、お代わりある?」
「勿論。多めに作ってあるから、欲しかったら用意するよ」
「じゃあ、お代わり! 皆の分も!」
「了解」
デントがお代わりを用意していく。その間、サトシはピカチュウに確認を取る。
「今日はどうだった?」
「ピカピカ……」
「まだ今一か……」
あの日からそれなりの時間は経ったが、まだまだ本調子とは言い難い。
「まぁ、ゆっくり行こうぜ。仲間も沢山いるしな!」
うんとピカチュウは頷く。しかし一方で、サトシの最初のパートナーとして、努力している彼等に負けたくないという対抗心も有ったりする。
(新しい、技か……)
ボルテッカーに代わる新技。早い内に覚えておきたくはあるが、そもそもその鍛錬が難しいと、ピカチュウは辛かった。
「ピカチュウ、俺にとってお前は最高のパートナーだ。それはどんな時でも、状態でも変わらないよ」
(――ありがとう)
自分の心境を理解してくれたのだろう。親友の言葉にピカチュウは笑みを浮かべた。
「あれ? おかしいな……」
とそこで、デントがそう言い出した。
「どうした、デント?」
「いや、木の実とサラダのセットのお代わりが用意したから、次にパンケーキをと思ったんだけど……数が足りない気がするんだ」
「足りない?」
「最初から無かったんじゃないの?」
「いや、そんなはずは――」
ないとデントが言おうとしたその時、草むらが音を立てて揺れた。何かがいるとサトシ達は瞬時に理解し、食事を中断して草むらの奥に向かう。
「あれは……!」
草を思わせる緑色の身体、葉のような尾を持つサトシが見覚えのあるポケモン。草蛇ポケモン、ツタージャだった。
ツタージャは岩の上でパンケーキをかじっていた。足りないパンケーキはツタージャが食べていた様だ。
「ツタージャだ。野生?」
「トレーナーのポケモンにしては、周りにいないのが変だね……」
「……よし!」
「サトシ?」
アイリスとデントが話していると、サトシは何かの意を決したのか、一人でツタージャの前に立つ。
「ツタージャ!」
「……タジャ?」
何?と、ツタージャはクールさと警戒に満ちた眼差しをサトシに向ける。
「食べたいなら、一言言いなさい!」
「……ジャ?」
「それを言いに!?」
「あはは。彼らしい」
どうやら、パンケーキをくすねた事を注意している様だ。
「……タジャ」
予想外の言葉にぱちくりとするツタージャだが、数秒後目を閉じ、プイッと顔を反らす。聞くつもりが無いようだ。
「ツタージャ! ちゃんと聞く!」
「……」
無視。それ以外に無いとツタージャは態度を崩さない。
「ここに一つパンケーキが有るんだけどな~」
サトシはツタージャの数歩前で座り、パンケーキを突き出す。これで謝らせようとするも。
「タジャ」
「あっ、鼻で笑われたわね」
ばかじゃないのと、ツタージャは呆れた様子で鼻で笑った。
「さっき、パンケーキくすねた癖に」
「……タジャ!」
「うわっ!」
思わぬ指摘にイラッとしたのか、ツタージャは蔓を出してサトシの前を強く叩いた。
「ピカ!」
「タジャ?」
外しはしたものの、危うく攻撃を受けるとこだったため、ピカチュウがサトシの前に立ってツタージャに威嚇する。
「……」
ツタージャは興味深げにピカチュウ、サトシの順に一瞥する。
「ター……!」
「な、なに!?」
「これは……!」
数秒後、ツタージャは大量の木の葉を周囲に展開。草タイプの技の中でも最強クラスの技、リーフストームだ。
そのまま自分達に向けて発射するのかと、警戒するサトシとピカチュウだが、木の葉の嵐は少しすると消えた。ツタージャと共に。
「……行っちゃった」
「ピカ……」
どうやら、あのリーフストームは目眩ましだったようだ。
「サトシ、大丈夫かい?」
「うん。ツタージャは外してくれたし」
それはよかったと、デントは胸を撫で下ろす。
「けど……」
「けど? 何?」
「あのツタージャ、何か、俺とピカチュウを真剣な様子で見ていた様な……」
「ピカチュウが珍しいからじゃない?」
「……そうかな」
どうも、そんな気がしない。あれは珍しいからではなく、別の理由で自分達を見ていた。そう思えて仕方ないのだ。
「というかさ、ツタージャって野生で見かけやすいポケモン?」
「いや、かなり限定的な場所じゃないと見掛けない、珍しいポケモンのはずだよ。アララギ博士の研究所以外だと、かなり難しいんじゃないかな」
「じゃあ、あのツタージャってまさか……」
サトシは思わず側にいるポカブを見下ろす。あのツタージャはこのポカブと同じく、トレーナーに捨てられたポケモンなのだろうか。
「もしかしたら……捨てたポケモンかも」
「捨てたポケモン?」
しかし、アイリスはその逆だと言うように告げる。
「ツタージャってポケモンは賢いの。だから、トレーナーが駄目だったり、実力不足だった場合、そのトレーナーから離れるって話を聞いたことがあるの」
「その可能性はあるね。あのツタージャはさっき、草タイプの技の中でも最高クラスのリーフストームを放っていた。相当な実力の持ち主であることは確かだよ」
「トレーナーを捨てたポケモン、か……」
今までとは違う、トレーナーを見限ったポケモン。どうしてだろうか。サトシは不思議とあのツタージャが気になる。
「……俺、あいつを追い掛ける! 皆、行くぞ!」
「ピカ!」
「ミジュ!」
「ポー!」
「ポカ!」
「えっ、サトシ?」
「ち、ちょっと待ちなさいよ~!」
決断したサトシは、ツタージャの後を追うことにした。
『上手く進んでいるか?』
「はい」
深い草原の近く岩場で、ロケット団がボス、サカキと定時連絡、報告をしていた。
『ならば、結構。但し、一つ忠告して置くが、イッシュ地方には謎の組織が暗躍しているとの情報がある。気を付けろ』
「謎の組織、ですか」
『そうだ。制圧を進めながらも、その連中の情報を集めてもらう』
「分かりました。必ずや、その者達の情報を得て見せます」
『任せたぞ』
そこでモニターの映像が途切れた。
「謎の組織。一体、どんな奴等にゃ?」
「分からんが、情報収集は必須だろうな」
「どうせ、大したことは無いと思うけど」
ニャースとコジロウが警戒する中、ムサシは大した脅威にはならないだろうと告げる。
「――では、その身を持って、我等の脅威を味わって貰おうか」
突如して響いた謎の声。ロケット団が振り向くと、そこにはバイザーを付け、まるで冬服の様な濃紫のかなり分厚いコートを着る人物と、部下と思われる工作員の様な黒い服を纏う人物が数人いた。
「お前達か? このイッシュで悪事を企もうとする悪党、ロケット団は」
リーダーの声は、見掛けに合わない若々しい。正体がバレないよう、変声機を使っているのだろう。
「そうよ。我等こそ――」
「あぁ、最後まで言わなくていい。――寝てもらおう」
ロケット団と認識した謎の連中、そのリーダーと思わしき濃紫の厚手の服の人物が指示を出す。
部下達はそれぞれポケモンを出すと、ロケット団達に攻撃を命じる。
「コロモリ、かぜおこし!」
多勢に無勢。ムサシは直ぐにコロモリを呼び出し、風を起こさせる。
その風に複数の攻撃が突き刺さり、風を消す。しかし、そこにはロケット団の姿は無い。
「逃げたか。逃げ足は早いな」
「どうなされますか?」
「二人一組で追え。奴等を捕らえ、ロケット団本部の情報を吐かせろ。但し、深追いはするな」
「はっ」
十人の内、八人が二人一組となって散らばり、ロケット団の捜索に向かう。
二人残ったのは、リーダーの濃紫の厚手の服の人物の護衛、及び、いざという時に備えてある人物を守る為だ。
「薄汚ない悪党共が。何れ我等の王が統べるこの地で、勝手をさせてたまるものか。如何なる手段を持ってしても排除してやる」
氷を思わせる、冷たい声色が静かに響いた。
「はぁ、はぁ……!」
「あ、危なかったわ……!」
謎の組織と思わしき連中の追跡を何とか掻い潜り、適当な岩影に姿を隠すロケット団。
まさか、いきなりあれだけの数と遭遇するとは完全に予想外だった。
「まだ気を抜いちゃ駄目にゃ。近くに一組いるにゃ」
「しつこいわね……!」
岩影から周りを覗くと、連中の一組が互いの隙をカバーするよう、背を合わせながら辺りを伺っていた。近くにはポケモンもトレーナー同様に見ている。
「どうする? 戦うか?」
「コロモリ一体じゃ難しいわよ」
工作の道具もあるが、それは向こうも所持しているだろう。
「一応、にゃーもいるにゃ」
「あんたはほとんど戦力になんないでしょ」
人の言葉を話せる、手先が人間並みに器用になった代償か、ニャースは差ほど強くない。
何せ、サトシの指示有りとは言え、捕まえたばかりのマメパトに軽くあしらわれた程度の実力しかないのだから。
「そんなにはっきり言わないで欲しいにゃ……」
「おい、そんなことを話している場合じゃないだろ。今はあいつらに対してどんな行動を取るかを選ぶのを考えるのが先決だ」
「そうね」
戦闘か撤退か。少し考え、彼等は後者を選んだ。戦力がほとんどないこの現状では勝ち目が薄く、また例の連中に関しての報告を優先したのだ。
「さて、そうと決まったらここから離れるぞ」
「えぇ」
「にゃ」
方針を決めたロケット団は、素早くその場を後にしたその時、パキッと音が鳴る。ニャースが転がってあた枝を踏んでしまったようだ。
彼等の心臓が一度高鳴るも、冷静になって二人組を見る。まだバレては無いようだ。
「何やってんのよ、ニャース」
「ご、ごめんにゃ」
「おい、そんなの良いから、早くここから――ん?」
突如、モンスターボールが生えた。あり得ない光景だが、彼等にはそう見えたのだ。
恐る恐る近付くと、それはモンスターボール型の傘をした茸のようなポケモン、タマゲタケだった。
「――タマ!」
タマゲタゲはロケット団の接近に驚き、花粉を撒き散らす。それを吸い込み、慌てて嚔を仕掛けたが、口を抑えて塞ぐ。
しかし、ニャースから音が出た。口からではなく――尻、つまり、屁である。
「げほ、げほ! 臭いわよ、アンタ!」
それはムサシに諸に直撃、臭いで噎せ、ついつい怒鳴ってしまう。
「ごめんにゃ!」
「おい馬鹿! そんな大声を出したら――」
影が差し、物音がした。ロケット団が恐る恐るそちらを見上げると、さっきの二人組がいた。
「ターゲット発見!」
「確保!」
「全力で逃げろおぉぉおおぉーーっ!!」
「ニャース、あんた本当に覚えてなさいよぉおおおぉぉおーーっ!!」
「本当に、本当にごめんだにゃああぁあぁぁーーーっ!!」
こうして、ロケット団と謎の一団との逃走劇と追跡劇はしばらく続くのであった。
「タージャ……」
草むらの中を、ツタージャはゆっくりと歩く。その内、小さな広場に着いた。
「――やぁ」
「……!」
そこには人やポケモンと腰かけれる岩場があり、そこには先客がいた。薄緑の長髪の少年、Nとゾロアとポカブだった。
Nは後ろを向いていたが、それでも来たのがツタージャなのは理解していた。
「――久しぶり、だね」
『……えぇ、そうね』
振り返り、笑顔で久しぶりと語るNに、ツタージャは肯定する。
彼等は初対面ではなく、一度会った事が有るのだ。ツタージャがあるトレーナーの元にいた時に、一度だけ。
そして、その時の出会いこそ、ツタージャが今旅をしている切欠でもあった。
『その子は……初めて見る子ね。近くで会ったの?』
ツタージャはポカブを見る。トレーナーや野生で遭遇した事もあるが、このポカブとは初対面だった。ゾロアと違って。
「いや、ある場所で会って、同行して貰ってるんだ。ね、ポカブ」
「ポカ」
『仲が良いのね』
「うん」
笑顔で近寄るその表情や、Nがポカブを優しく撫でている点から、互いが互いを信頼しているのは疑いようがない。その様子を、ツタージャは羨ましいと感じていた。
『……貴方、何をしているの?』
「ボクは彼等と空を見ている。良い天気だね」
『そうね。日向ぼっこには良いわ』
空を見上げる。そこには、雲一つすら存在してない晴れやかな蒼天があった。
「――何かあった?」
『……どうして、そう思うの?』
「何となく」
自分の心を見据えるようなNの言葉に、ツタージャは一瞬の間を置いて答える。
『ある人間に会ったわ。貴方みたいに純粋で、真っ直ぐで、そして――絆を感じる人と』
「どんな人だい?」
『貴方と同じように帽子を被ってて、ここらでは見ない黄色のねずみ、かしら? そんな子と一緒にいた人』
その特徴に、Nは覚えがあった。何しろ、二度も会っているのだから。
「……サトシくん?」
『知ってるの?』
「二度程会ってるんだ」
『そう……』
Nとさっきの少年、サトシが知り合いだったのは、ツタージャも予想外だった。
『なら、どんな人か知ってる?』
「そこまでは。ただ、彼はボクと違う視線でポケモン達を深く思っている。そんな人物だよ」
『そんな評価を出すのね。あの貴方が』
「『あの時』よりは、世界を知ったつもりさ」
サトシの評価に、当時のNを知るツタージャはらしくないと思うが、あの時よりも時間が経っている。Nが成長している証なのだろう。
「おや?」
『どうしたの?』
「見上げてごらん」
『……マメパトがいるわね』
気配を感じたNが見上げると、一匹のマメパトが自分達を見下ろしていた。しかも、驚いた様子で。
「あのマメパトは、彼といるマメパトだよ。キミを捜しているようだ」
そこにNを見付けたため、驚いているようだった。
『……彼があたしを?』
「もう一度会ってみたら? それに――彼となら、本当の意味での強さを得れるかもしれないよ」
『……』
「じゃあ、ボクはここで。縁があったらまた会おう」
Nは帽子を被り直すと、ゾロアと一緒に草むらの向こうへと去っていった。
ツタージャはマメパトを見上げる。マメパトは自分を確認すると、何処かへ去っていく。サトシの元に報告しに行ったのだろう。
(さて、どうしようかしら)
ここで来るだろう彼を待つか。それとも、ここから立ち去るか。数秒考え――ツタージャは後者を選択した。
ゆっくりと草の揺れる音や土の感触を味わいながら、歩いて行った。