ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ 作:ぐーたら提督
その数分後、マメパトはサトシの元に戻って来た。
「ツタージャは見付けたか?」
「ポー」
マメパトは頷く。先ずはツタージャについての報告が先だ。
「方向は?」
あっちとマメパトは翼を向ける。サトシはその方向に向けて走ろうとしたが、その前にマメパトに止められた。
「どうした?」
「ポー、ポーポー、ポーポーポー!」
身振り手振りを行ない、マメパトはNがいたことをサトシに必死に伝える。少し時間は掛かったものの、サトシはそれを理解する。
「Nさんがツタージャと……?」
「ってことは、そのツタージャはNさんの手持ち?」
「ポー」
違うとマメパトは首を振る。様子や離れたことから、どうにもパートナーには見えなかった。
「僕もそう思うよ。Nさんがツタージャのトレーナーなら、ツタージャがサトシを知らないのは少し変だ」
話していない。手持ちになって間もないからとも考えられるが、それでも違和感があった。
「とりあえず、俺は追い掛けてみるよ。気になるし!」
マメパトが示す先に向かって、サトシ達は走り出した。
「もう、また行っちゃった。子供なんだから」
「うーん、単に話してみたいだけに見えるかな。僕には」
何にしても、安全の為にもサトシ達と離れるのは不味いので、アイリスとデントは彼等の後を走る。
草むらを抜け、道を歩くとツタージャはゴツゴツとした岩山に到着。軽やかな動作で難なく頂上に移動する。
「――いた!」
(この声……!)
その声に、ツタージャは素早く反応する。振り向いて見下ろすと、サトシとピカチュウ達が岩山の前にいた。
(……)
ツタージャは色々考えながら、周りの岩を見る。そして――何を思ったのか、それらを尾で叩き落とす。サトシ達に向けて。
「う、うわあぁ!?」
「――ピカ!」
「――ミジュ!」
「――ポー!」
「――ポカ!」
迫り来る岩の数々に、サトシのポケモン達は前に立つと、雷で、水で、風で、炎で転げ落ちる岩を破壊する。
(……ふーん)
その様子を、ツタージャはまた興味深げに見つめる。ポケモン達が何の迷いもなく、サトシを助けに動いた。
自分の感じた通り、彼とポケモン達との絆は強い様だ。それを確認すると、少し奥に移動する。
「よっ……と!」
同時にサトシとそのポケモン達が先に頂上に到着。デントとアイリスは少し遅れて続いた。
「また会えたな、ツタージャ」
「……タジャ」
「なぁ、お前は何で――」
俺達を興味深げに見るんだ。そう言おうとしたサトシだが、ツタージャが指をクイクイと動かす。言葉はいらない。かかってこい――と言いたげに。
「……戦えって事か」
「タジャ」
そうだと、ツタージャは首を縦に振る。
「良いぜ、ツタージャ!」
向こうが望むのなら、こちらは応えるまで。ツタージャの宣戦布告をサトシは受け入れた。
「――ピカ!」
「ピカチュウ」
前に出たのは、ピカチュウ。サトシの最初のパートナーとして、ツタージャの先の行動は意図があったとしても許せなかった。
「……行けるか?」
「ピカピ!」
まだ万全ではないピカチュウを戦わせるのは不安が有るも、当のピカチュウが望むのなら、自分はそれを尊重するだけ。
それにミジュマル、マメパト、ポカブは特訓でかなり疲れている。体力を考えてもピカチュウが最適だろう。
「なら! ピカチュウ、君に決めた!」
「ピカ!」
「ピカチュウ対ツタージャ。属性は不利だけど……」
「彼等には関係ないだろうね」
サトシとピカチュウ。体調の点は不安だが、彼等の戦いをやっと見れる。ジムリーダーとしても、ポケモンソムリエとしても気になる戦いだ。
「ピカチュウ、でんこうせっか!」
「ピッカァ!」
「――タジャ!」
高速の突撃を、ツタージャは見事な動きで紙一重で避ける。
「ター……ジャ!」
ツタージャは回避するだけでなく、首から蔓を伸ばすと回転。しならせてピカチュウに向ける。
「つるのムチ! かわせ!」
かなりの速度と不規則な軌道の鞭に対し、ピカチュウもまた不規則な動きで避ける。
『やるじゃない』
『こちとら、幾度も戦いを潜り抜けてるからね!』
『成る程、歴戦の戦士という訳ね。――なら、これは?』
ツタージャは色気に満ちた態度でパチッと片目を閉じる。すると、ハートマークが次々と現れ、ピカチュウの周りに向かって行く。
「これは……メロメロ!」
自分と異なる性別のポケモンを魅了する技。限定的な技だが、その分効果が大きい技でもある。
「ピカチュウ、その場に留まれ!」
「えっ、避けないの!?」
「違うね。これは……」
サトシの行動に、アイリスは驚くも、デントは何かを見抜いた様だ。静かに見守っている。
ピカチュウが動きを止めると、ハートマークが彼を包囲。次の瞬間、ハートマークが一斉にピカチュウに迫る。
「今だ、ジャンプ!」
「――ピカ!」
そのタイミングでピカチュウは跳躍。ハートマークの衝突を回避する。
『やるわね。だけど――これはどう?』
「リーフブレード!」
そのタイミングを見計らい、ツタージャは高速回転しながら尾による草の刃を発動していた。空中という回避が困難な場所で追撃を放ったのだ。
「アイアンテール!」
「ピッ……カァ!」
草の刃と鋼の尾が衝突。しかし、発動したばかりのアイアンテールは体調不良の影響もあって、高速回転で威力が増したリーフブレードに負け、ピカチュウは吹き飛ばされる。
「でんこうせっか!」
しかし、ピカチュウは直ぐに体勢を立て直し、でんこうせっかを放つ。つるのムチで迎撃を仕掛けるツタージャだが、まだ空中にいたために上手く当てれず、カウンターの一撃を食らう。
「タジャ……!」
一撃を受けたが、ツタージャは不敵な笑みを浮かべる。
「……タジャ!」
「あっ!?」
「逃げた!?」
そこでツタージャはサトシ達から背を向け、走り出す。サトシは当然追い掛け、アイリスやデントも続く。
「……タジャタジャ」
また指でクイクイと、サトシ達を挑発するツタージャ。
「今度は追いかけっこってか? だったら、付き合ってやるさ!」
サトシの言葉にクスッと微笑むと、ツタージャは全力で走る。サトシもピカチュウを肩に乗せ、三匹はモンスターボールに戻すと全力で後を追う。
追いかけっこは草木の中でしばらく続き、ある場所でツタージャは振り向く。
「タジャ!」
「リーフストーム!」
そのままリーフストームを展開。サトシに向けて放つも、本人は無視して突き進む。
「へっ、どうだ――うわっ!?」
「ピカ!?」
突如足が空を切ったかと思うと、鈍い水音を立ててながら落下する。どうやら、沼地に誘導されていたらしい。
ツタージャは蓮の葉の上でクスクスと、からかうような笑みを浮かべている。
「くそー、引っ掛けたなー。だけど、こんなので――なっ!?」
(あら、底無し沼だったのね)
サトシの身体が沈んでいく。その沼は底無し沼だったのだ。
これにはツタージャも驚きだが、同時に見極める機会だとも考えた。サトシという少年の本質を知るチャンスだと。
「くそっ、もがけばもがくほど沈むな……! ピカチュウ、頭に乗ってくれ!」
「ピ、ピカ……」
「早く!」
沈んでいく中、サトシはピカチュウを頭に乗せさせながら、周りを見る。少し離れた場所にある一つの蓮の葉に視線を集中させ、三つのモンスターボールを放り投げる。
三つのモンスターボールは見事に蓮の葉に乗る。これで三匹の安全は確保出来た。次はピカチュウだ。
「ピカチュウ、あそこまでジャンプするんだ。そしたら、お前も助かる」
サトシは!?とピカチュウは大声で叫ぶ。親友を見捨てるなど出来るわけが無い。
「このままじゃ、お前も一緒に沈むんだぞ! 良いから早く!」
(……自分よりも、仲間が優先なのね)
命の危機に瀕していると言うのに、己ではなく仲間を第一にする。少年のその心に草蛇は揺れる。
「――サトシ!」
「これに掴まって!」
少年の身体が胸の辺りまで沈み、このままでは本当に危ない。ツタージャが動こうとしたが、彼女の動作よりも早く、大きな蔓が森から放たれた。
サトシを助けようと、アイリスとデントが投げたのだ。サトシは蔓を掴み、何とか底無し沼から脱出する。
「助かったよ。デント、アイリス」
「どういたしまして」
「もう、無茶ばっかり!」
「ごめんごめん。デント、ヤナップってつるのムチを使える? あそこに置いた、皆が入ったモンスターボールを取って欲しいんだ」
「お任せ。マイビンテージ――」
デントがヤナップを呼ぼうとしたが、その前に三つのモンスターボールがサトシの手元に放り投げられる。
「これって……」
「……」
投げられた方向を見ると、ツタージャが伸ばした蔓を縮めていた。どうやら彼女が投げたらしい。
「……タジャ」
サトシを何かを伝えるような眼差しで一度見た後、ツタージャは向こうへと去っていった。
「よし、追うぞ。ピカチュウ」
「ピカ!?」
「まだ追うの!? あのツタージャ、サトシの手に負えるとは思えないわよ!?」
「うーん、それは僕も感じたかな。あのツタージャ、癖がとても強い。君でも手こずるんじゃないかな?」
「その方が面白いじゃないか!」
癖が強すぎると忠告する二人だが、サトシは逆にだからこそ良いと語る。ポケモンマスターを目指す彼からすれば、個性が有るからこそ、意味が有るのだ。
「それに、二人が言うほど、あいつそんなに厄介な奴とは思えないんだよな。俺」
「さっき沼地に誘き出されて、危うく沈む所だったじゃない!」
「けど、その気にしては直接手を出そうとはしなかったじゃん」
「言われてみれば……」
ツタージャがそのつもりなら、サトシ達を沈めることは容易かっただろう。なのに、彼女はそうしなかった。
誘い込む思惑は有っても、沈めるつもりが無かったのは明白だ。それに、三匹が入ったモンスターボールをわざわざサトシの元に戻した。
「あと、まだ俺達はあいつとのバトルに勝ってないしな。――行こうぜ!」
『はいはい』
痛い目に遭いながらも、諦めないサトシにやれやれとしつつもピカチュウは微笑み、走る彼を追う。
「しつこすぎるわよ~」
「諦めないって言うべきだと僕は思うね」
うんざりとしたアイリスと、苦笑いするデント。しかし、一人にするわけには行かないのでまた走り出す。
「……」
歩きながら、ツタージャは時折後ろを見る。何かを期待しているかのように。
(……流石にもう来ないわよね)
あんな目に遭遇したのだ。幾ら彼でも、もう自分を追おうとはしないだろう。仕方ないとは思いつつも、ツタージャははぁとため息を溢す。
(……どうして、ため息なんかしてるのかしら)
知らず知らずの内に、自分がサトシに期待をしていることにツタージャは驚く。
彼と会って、一日どころか半日も経ってないにも拘らず、自分はそんなに彼に興味を抱いたのだろうか。
そんなことを考えながらしばらく歩くと、流れる水音が耳に響く。どうやら川に着いたらしい。喉も乾いたし、水を軽く飲んで潤す。
「追い付いた!」
「――!」
声が聞こえた。振り向くとあの少年が、サトシがそこにいた。
「へへっ、俺とお前の勝負はまだ終わってないだろ?」
「……」
まだ自分との勝負を諦めてなかった。まだ自分を追い掛けてくれた。
その事実は一瞬、ツタージャの脳裏にある光景が過るも、少年の純粋な瞳の光がそれを簡単に掻き消す。
今のツタージャには、サトシと彼の仲間達にしか興味がない。アイリスやデントなど、歯牙にも掛けない。
「どうする? まだ追いかけっこするか? それとも、バトルの再開か?」
「タージャ」
ツタージャは蔓を少し伸ばし、サトシに戦いの意志を示す。ここまで来れば、もう見極めるものはない。後は戦って決めるのみ。
「ピカチュウ、行くぜ!」
「ピカ!」
ピカチュウ対ツタージャ。そのバトルが再開される。
「でんこうせっか!」
「ピカァ!」
「タジャ!」
先程と同じく、高速の突撃。それをツタージャも先程同様、見事な動作で回避。またつるのムチを放つも、これもまたピカチュウはかわしていく。
「ター……ジャ!」
「――メロメロ!」
ハートマークがまた次々現れ、ピカチュウに迫る。
「ピカチュウ、停止!」
「また繰り返し?」
「だけど、このままだと……」
跳躍の隙を狙われる。先程はリーフブレードだが、今度は安全に攻撃できるつるのムチかリーフストームが来るかもしれない。
(わざと? それとも、それしか手がない?)
前者ならともかく、後者ならがっかりだ。しかし、どちらにせよ、自分は向こうの行動に合わせて対応するだけだ。
ハートマークがそろそろ、ピカチュウに向かおうとする。
「ピカチュウ、地面に向かってアイアンテール!」
「ピッカァ!」
鋼鉄の尾が大地に叩き付けられ、その衝撃で煙と石礫が跳ね上がり、ハートマークを破っていく。
(跳ね上げた礫でこの技を破った!?)
予測を上回る対処のやり方に、ツタージャは驚愕する。
(だけど、関係ないわ)
ツタージャはその場で回転。大量の木の葉を纏う風、リーフストームを発生させ、煙に向けて放つ。煙ごと、ピカチュウを吹き飛ばすつもりなのだ。
「ピカチュウ、ジャンプ! そのままアイアンテール!」
「ピカ!」
木の葉の嵐が煙を吹き飛ばす直前で、ピカチュウが大ジャンプ。リーフストームを回避し、技を放った硬直の間を狙ってアイアンテールをツタージャを叩き込んだ。
「タジャ……!」
やられた。アイアンテールで地面を叩いたのは、メロメロを破るだけでなく、煙を起こしてリーフストームを誘導する目的も有ったのだ。
(なら、こうよ)
ツタージャは草の刃を地面に叩き付ける。先程のピカチュウの時と同じ様に、石礫と煙が発生する。
「ピカチュウ、気を付けろ。来るぞ」
「ピカ」
次の攻撃に備え、ピカチュウは身構える。その直ぐ後、煙を突き破るように上下から蔓の鞭が出てきた。
その鞭をかわすと、突然煙から何かが出てきた。それは――ハートマーク。
「メロメロ!?」
「どういうこと!?」
よほど鍛えてない限り、技は通常、一度に一つしか出せない。今つるのムチを出している以上、メロメロは使えないはずだ。
「――時間差か!」
「そうか、先にメロメロを放ってからつるのムチを……!」
つるのムチは身体から出す技。その為、先に放てば仕舞うまで他の技を使えない。
しかし、メロメロは発射型の技。放てば、他の技が問題なく使えるのだ。煙とこの性質を利用し、ツタージャは恰も二つの技を使った様に見せ掛けたのだ。
「ピカチュウ、後ろ右斜め後ろ左!」
「ピカピ!」
つるのムチとメロメロ、二つの技をピカチュウはサトシの指示の元、縦横無尽に動いて回避していく。
「タジャア!」
しかし、ツタージャも黙ってこの機を見逃すつもりはない。つるのムチを維持したまま、ピカチュウに接近。
蔓で掴む――と見せ掛け、岩を掴んでその蔓だけを縮め、擬似的な高速移動を行ない、背後に回るとピカチュウを後ろから腕で捕らえる。
「ちょっ、捕まったわよ!?」
「これは不味いね……!」
身動きの取れない状態では、メロメロが確実に受けてしまう。
「ピカチュウ――でんきショック!」
「ピカァ!」
「タジャッ!?」
絶体絶命、かと思われたその時、ピカチュウは身体からそれなりの規模の電気を発射する。
今の状態では、電気は差ほど使えない。しかし、でんきショックなら数回だけ使えるのだ。
電気は組み付いているツタージャにダメージを与え、同時にメロメロも焦がす。
「ピ……カァ!」
「タジャ……!」
思わぬ攻撃から拘束が緩んだ。ピカチュウは脱出と同時に身体を回転。尻尾をツタージャに勢いよく叩き付ける。
「タ……ジャア!」
「――ピカ!?」
「つるのムチ!」
しかし、ツタージャもただで攻撃を受けるつもりは微塵もない。
素早く伸ばしていた片方の蔓を、ピカチュウに叩き込む。確かなダメージを与えつつ、もう片方の蔓を身体に絡ませ、一気に縮める。
その勢いを利用し、リーフブレードを放つ。その一撃はサトシの指示で直撃はしなかった。
しかし、技の性質で急所に少し擦っており、小さくはあるが無視出来ないダメージをまた与えた。
「やっぱり、相当な実力者ね。あのツタージャ……」
「うん。サトシとピカチュウのベストテイストに食らい付いている。これほどとはね……」
不調が影響しているとは言え、一番のコンビであるサトシとピカチュウとここまで戦える。明らかに、並の野生とは一線を画する実力の持ち主だ。
並のトレーナーでは余程対策しない限り、勝負にもならない。自分でも手こずるレベルだとデントは確信していた。
「強いな、お前! 楽しいぜ!」
「ピカピカ!」
それはツタージャもだった。こんな充実感と熱さに満ちたバトル、久々――いや、本当の意味では初めてかもしれない。
この時間をもっと楽しみたい、もっと味わいたい。何よりも――彼等に勝ちたい。だからこそ、『あの時』から今まで抑えていたこの『力』を解き放つ。
「ターー……!」
「リーフストーム! だけど……!」
「威力がさっきより上がってない!?」
ツタージャが放つのは木の葉の嵐。しかし、その規模は先程を優に上回る。
「しんりょく? いや……」
しんりょく。ミジュマルのげきりゅう、ポカブのもうかと同じく、体力が少ない時に発動し、草タイプの技の威力を引き上げる特性。
草タイプのジムリーダーだけあり、デントはその特性について知ってはいる。
しかし、それとは違う。何しろ、ミジュマルやポカブの時と違い、オーラが出ていない。
(もしかして、あのツタージャ……)
ある推測を立てるデント。しかし、そうであれば、あのツタージャは実力だけでなく、その秘めたる力も相当なものの様だ。
「ジャアァアアアァーーッ!!」
木の葉の竜巻が放たれる。竜巻は縦の状態で、石や土を巻き込みながらピカチュウに迫る。
(相殺は無理か!)
今の体調では十万ボルトは使えない。でんきショックでは威力不足だ。アイアンテールの衝撃でも焼き石に水。
残るは回避だが、その間あのツタージャが何もしない訳がない。ただ、回避するだけでは駄目だ。
「ピカチュウ、リーフストームに飛び込め!」
「ち、ちょっと!? それ、自殺行為よ!?」
鋭い木の葉が大量に舞う竜巻に飛び込む。大ダメージは免れない。しかし、ピカチュウはサトシの判断を疑わず、危険地帯へと進む。
「タジャ!?」
自らこの竜巻に入ったピカチュウに、ツタージャは驚きを隠せない。しかし、関係あるかと言わんばかりにリーフブレードを放つ。
リーフストームの勢いを利用し、回転しながら複雑な螺旋状に移動の刃の嵐。木の葉と草の二重の刃だ。
「ピカチュウ、竜巻の流れに乗れ! アイアンテール!」
(こっちと同じ方法を!)
攻撃を食らうのを覚悟で、勢いを利用した鋼鉄の尾の乱撃。しかし、リーフストームを受けている分、あちらが不利。ツタージャは草刃の乱舞を続ける。
アイアンテールとリーフブレード。木の葉の竜巻の中で二つの技が次々と衝突し、火花を撒き散らす。
(徐々に威力が増している……!?)
尾から伝わるアイアンテールの衝撃が、一撃ごとに大きくなっている。向こうは草の竜巻でダメージを受け続けているというのにだ。
どうしてと考えた瞬間、十何度目の衝突。すると身体が痺れ出した。痺れと威力により、ツタージャは竜巻から吹き飛ばされた。
その一秒後、勢いで加速したピカチュウが竜巻から脱出。でんこうせっかを放つ。ツタージャは痺れる身体を無理矢理起こし、辛うじて避ける。
「タ、ジャ……!」
「まひになってる?」
ツタージャを見ると、バチバチと火花と電気が発生していた。
「せいでんきだね。ピカチュウの特性で、相手が接触した時にまひにする効果がある」
(それだけじゃないわね……!)
自身の防御力が、かなり低下していることにツタージャは気付いた。
その理由はアイアンテールとの幾度の激突。それにより防御力が幾度も下がっていた。
(……しばらく使って無かったから、中途半端に発揮されたのね)
本来なら、『逆』になるはずなのだが、『これ』を長期間抑え込んでいため、この結果になったようだ。
ただ、逆になっていても有利になったかと言えば話は異なる。何度も接触したことで、せいでんきでまひになっているのだから。
(なら、次で決める!)
この状態では長期戦は不可能。ならば、次の一撃で決めるしか道は無い。
「ター……」
痺れる身体に渇を叩き込み、三度リーフストームを放つ。その大きさは更に増し、規模は最早巨大竜巻その物だ。
「こ、これ……! 回避出来る規模じゃないわよ!?」
「これほどとは……!」
「最後の勝負だな、ピカチュウ……!」
「ピカ……!」
この攻防で決まると、サトシとピカチュウも確信していた。それほどの威力、そして気迫を感じたのだ。
「ジャアアァァアアアァ!!」
その小さな身体のどこに有るのかと思える程の竜巻が、発射される。今度の渦は縦ではなく、前に真っ直ぐに全てを削らんとするばかりに進む。
「ピカチュウ! でんこうせっか! リーフストームにもう一度飛び込め!」
「何考えているのよ! そんなことしたら直撃じゃない!」
「……」
確かに直撃だ。しかし、デントは何かあると、そしてピカチュウはサトシの指示を聞き、どうすれば良いのかを理解。でんこうせっかで再度巨大化した竜巻に飛び込んだ。
直後に、竜巻の余波がサトシやアイリス、デントを襲う。目を覆うほどの強風だが、サトシは塞がない。その瞬間を見逃さないために。
(――勝った!)
あのリーフストームを食らったのだ。自分の勝利、そう確信したツタージャだが、次の瞬間、緑色に染まった景色に黄色が写る。
それはみるみる大きさを増し、こちらに向かって来る。その色の正体は――ピカチュウだ。
「ピッ……カァ!」
(う、嘘!?)
「あの竜巻を……乗り越えたの!?」
ツタージャの驚愕の間に、ピカチュウはダメージを受けながらも、竜巻を突破する。そして、決着を決める一撃を放った。
「たたきつける!」
「ピー……カァアアァ!!」
「タジャーーーッ!」
渾身の力を込めた、たたきつける。強烈な尾の一撃を受け、ツタージャは悲鳴を上げながら大きく吹き飛んで仰向けの態勢になる。
痛みに耐えながらも身体を動かそうとする。しかし、まひもあって動けない。自分の敗け、だった。
(……負けた)
勝ちたいと思った勝負に負け、とても悔しい。しかし、何処かこの空の様に清々しい気分でもあった。
「俺達の勝ちだな、ツタージャ」
「ピカ」
「……タジャ」
傷だらけ、然れど快晴の空の様な明るい笑みの少年とポケモンが写る。そうねと、ツタージャは笑いながら頷いた。
「……タジャジャ?」
「ん?」
しかし、どうしても一つ分からない事があった。あのリーフストームをピカチュウは何故突破出来たのか。それだけが引っ掛かった。
その質問がツタージャからピカチュウ。そして、サトシへと送られた。
「台風の目って、あるだろ?」
「……タジャ」
猛烈な嵐の際、一時的に風や雨が無くなる場所の事だ。それぐらい――と、そこでツタージャは気付いた。
まさか、リーフストームの中心、無風となる場所をピカチュウは進んだと言うのか。
「それぐらいしなきゃ、勝てなかったからな」
「ピカピカ」
どうやら本当らしい。やれやれと、威力に溺れて犯した自分の失態もそうだが、それ以上にそんなとんでも行為を指示、実現させた彼等の絆と強さに、ツタージャは苦笑いを浮かべていた。正に完敗だった。
「……タジャ」
話の間に、少しだけ動けるようになった。ツタージャは身体を起こすと、サトシのモンスターボールを指で指す。
「……俺と、俺達と来るか?」
少年の問いかけに――ツタージャは頷いた。彼ならば良いと、彼女は認めたのだ。
「よし――モンスターボール!」
コツンと、ツタージャの頭にモンスターボールが当たる。赤い光が彼女を包み込み、中に仕舞うと地面に落ちて揺れる。数度揺れた後――パチンとなって止まった。
「ツタージャ……ゲットだぜ!」
「ピッピカチュ!」
こうして、また一匹、新たな仲間が加わったのであった。
「……ゲットしちゃった。あのツタージャを」
「実に、実に見事なテイストだよ」
自分やアイリスでは、こうは行かなかっただろう。サトシだからこそ、あのツタージャをゲットしたのだ。
「だ、だけど、あんな癖のあるツタージャと上手くやって行けるのかしら?」
「僕は大丈夫だと思うよ?」
この先が心配と呟くアイリスだが、デントは大丈夫だと信じて疑わない。
サトシなら逆に、あの癖すら取り込んで新しい味を、力を引き出してしまうだろう。自然にそう思えた。
「あっ、そうだ。サトシ、ツタージャを出した状態で君の図鑑をちょっとだけ借りても良いかい?」
「何で?」
「ほら、激戦の後だろう? まひが残ってるかもしれないし、手当ての為にね。後は、草タイプのジムリーダーとして、少し情報が見たくてね」
「良いよ、ほら」
納得出来る理由のため、サトシは自分の図鑑をデントに貸した。
「出てこい、ツタージャ!」
「……タジャ」
更にツタージャを出す。ダメージや痺れが残っているせいか、少し辛そうだが問題ないと、腰に両手を当てる構えを取って気丈に振る舞う。
「――やっぱり」
そのツタージャのある能力を、デントは確認する。自分の思った通りだ。
「デント、今何か言った?」
「いや?」
「……」
アイリスの質問に違うと答えるデントを、ツタージャが睨む。
「気にしなくて良いよ。僕は言わないから。君の為にも――サトシの為にもね」
「……タージャ」
「……デント?」
しゃがみながら、デントは優しい表情でツタージャに伝える。
ジムリーダーとして『この事』は時が来るか、ツタージャが言うまでは話すつもりはない。
ツタージャもデントの目から、その言葉をとりあえずは信じることにした。
「なぁ、デント。ツタージャと何を話してるんだ?」
「ちょっとした質問だよ。どんなのかと言うと――♀なのを話した置いた方が良いかな、とか」
「♀!? お前、♀だったのか!?」
「タジャ!?」
自分が♀だと気付いてなかったサトシに、ツタージャは軽くショックを受ける。
「サトシ、それぐらいは気付いて上げなよ。メロメロは異なる性別に対して効果を発揮する技なんだから」
「そういや、そうか……」
「そ、そうよ。それぐらい気付かないなんて、本当に子供ねー。言っておくけど、あたしは気付いてたわよ?」
「へー」
「ちょっと! 何よ、その言い方!」
口癖を軽く流すサトシに、アイリスは声を荒らげる。
「……タージャ」
二人のやり取りに、やれやれと首を横に振るツタージャ。これから色々と大変そうだ。面白くもありそうだが。
「あっ、そうだ。ツタージャ、お前Nさんと知り合いみたいだけど……どこで出会ったんだ?」
「タジャ」
サトシにNとの関係を尋ねられるも、ツタージャは秘密よと答える。
サトシも無理に問い質すつもりは無いので、彼女から言うまで待つつもりだ。
「じゃあ、ツタージャの治療が終わったら次の町に向かって進もうぜ」
賛成と、その場の全員がサトシの提案に頷いた。
「――ゾロ」
その時、一匹のポケモンがその場を後にしたのは、気付かなかった。ツタージャを除いて。
草木に満ちた道を、一匹のポケモンが走る。岩山を見付けるとそこを登り、頂上で待つ仲間の元に駆け寄る。
「どうだった?」
「ポカポカ?」
「ゾロ」
待っていたのはNとポカブ。駆け寄るのはゾロア。そう、彼等だった。
「ゾロゾロ、ゾロア」
「そうか。やっぱり、彼女は彼と歩むことになったんだね」
ゾロアの説明に、Nは笑顔で頷いていた。こうなると確信し、また二人の関係の誕生を祝福しているかのようだ。
「カブカブ?」
「うん、喜んでる」
Nにとっては、トモダチが最善の道を歩んでくれれば、それで良いのだ。例え、それが自分とではなくとも。
「――N様」
一人の男性がNの背後から近寄る。ロケット団を急襲した一団のリーダーだ。
「やぁ、ヴィオ。上手く行ったかい?」
「申し訳ありません。逃がしました」
ヴィオと呼ばれた男性は、自分よりもかなり年下のNに敬称を付け、膝を地面に着けた状態で頭も下げていた。まるで、王に仕える臣下の様な態度だ。
「ロケット団の尖兵。それなりの実力は有るだろう。逃げを優先していたのなら仕方ないさ」
「次こそは必ず――」
「いや、捕縛は無理をしてまで行わなくて良い。それよりも、向こうがどう来るかが知る方が先決。しばらくは泳がせよう。但し、監視はしてくれ」
「承知しました」
Nの言う通り、ロケット団に関しては動向が不明。対策の為にも、彼等は泳がせた方が良い。
「他にもお伝えします」
「頼む」
Nの指示を受け、ヴィオは一例すると静かにそこから離れた。
「もうすぐだよ、サトシくん。もうすぐで始まりの時を迎え、何れ、多くの運命を決める出来事が起きる。その時、キミはどうするかな? ――考えるまでもないか」
きっと、立ち向かうのだろう。彼ならそうするとNは確信していた。
そして――その時、自分は彼と、死力を尽くして戦うことになるだろうとも。
運命は既に動き出している。その流れを止めることは――もう出来ない。