ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ   作:ぐーたら提督

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 これは二話同時に出します。


激闘、ツタージャ

 その数分後、マメパトはサトシの元に戻って来た。

 

「ツタージャは見付けたか?」

 

「ポー」

 

 マメパトは頷く。先ずはツタージャについての報告が先だ。

 

「方向は?」

 

 あっちとマメパトは翼を向ける。サトシはその方向に向けて走ろうとしたが、その前にマメパトに止められた。

 

「どうした?」

 

「ポー、ポーポー、ポーポーポー!」

 

 身振り手振りを行ない、マメパトはNがいたことをサトシに必死に伝える。少し時間は掛かったものの、サトシはそれを理解する。

 

「Nさんがツタージャと……?」

 

「ってことは、そのツタージャはNさんの手持ち?」

 

「ポー」

 

 違うとマメパトは首を振る。様子や離れたことから、どうにもパートナーには見えなかった。

 

「僕もそう思うよ。Nさんがツタージャのトレーナーなら、ツタージャがサトシを知らないのは少し変だ」

 

 話していない。手持ちになって間もないからとも考えられるが、それでも違和感があった。

 

「とりあえず、俺は追い掛けてみるよ。気になるし!」

 

 マメパトが示す先に向かって、サトシ達は走り出した。

 

「もう、また行っちゃった。子供なんだから」

 

「うーん、単に話してみたいだけに見えるかな。僕には」

 

 何にしても、安全の為にもサトシ達と離れるのは不味いので、アイリスとデントは彼等の後を走る。

 

 

 

 

 

 草むらを抜け、道を歩くとツタージャはゴツゴツとした岩山に到着。軽やかな動作で難なく頂上に移動する。

 

「――いた!」

 

(この声……!)

 

 その声に、ツタージャは素早く反応する。振り向いて見下ろすと、サトシとピカチュウ達が岩山の前にいた。

 

(……)

 

 ツタージャは色々考えながら、周りの岩を見る。そして――何を思ったのか、それらを尾で叩き落とす。サトシ達に向けて。

 

「う、うわあぁ!?」

 

「――ピカ!」

 

「――ミジュ!」

 

「――ポー!」

 

「――ポカ!」

 

 迫り来る岩の数々に、サトシのポケモン達は前に立つと、雷で、水で、風で、炎で転げ落ちる岩を破壊する。

 

(……ふーん)

 

 その様子を、ツタージャはまた興味深げに見つめる。ポケモン達が何の迷いもなく、サトシを助けに動いた。

 自分の感じた通り、彼とポケモン達との絆は強い様だ。それを確認すると、少し奥に移動する。

 

「よっ……と!」

 

 同時にサトシとそのポケモン達が先に頂上に到着。デントとアイリスは少し遅れて続いた。

 

「また会えたな、ツタージャ」

 

「……タジャ」

 

「なぁ、お前は何で――」

 

 俺達を興味深げに見るんだ。そう言おうとしたサトシだが、ツタージャが指をクイクイと動かす。言葉はいらない。かかってこい――と言いたげに。

 

「……戦えって事か」

 

「タジャ」

 

 そうだと、ツタージャは首を縦に振る。

 

「良いぜ、ツタージャ!」

 

 向こうが望むのなら、こちらは応えるまで。ツタージャの宣戦布告をサトシは受け入れた。

 

「――ピカ!」

 

「ピカチュウ」

 

 前に出たのは、ピカチュウ。サトシの最初のパートナーとして、ツタージャの先の行動は意図があったとしても許せなかった。

 

「……行けるか?」

 

「ピカピ!」

 

 まだ万全ではないピカチュウを戦わせるのは不安が有るも、当のピカチュウが望むのなら、自分はそれを尊重するだけ。

 それにミジュマル、マメパト、ポカブは特訓でかなり疲れている。体力を考えてもピカチュウが最適だろう。

 

「なら! ピカチュウ、君に決めた!」

 

「ピカ!」

 

「ピカチュウ対ツタージャ。属性は不利だけど……」

 

「彼等には関係ないだろうね」

 

 サトシとピカチュウ。体調の点は不安だが、彼等の戦いをやっと見れる。ジムリーダーとしても、ポケモンソムリエとしても気になる戦いだ。

 

「ピカチュウ、でんこうせっか!」

 

「ピッカァ!」

 

「――タジャ!」

 

 高速の突撃を、ツタージャは見事な動きで紙一重で避ける。

 

「ター……ジャ!」

 

 ツタージャは回避するだけでなく、首から蔓を伸ばすと回転。しならせてピカチュウに向ける。

 

「つるのムチ! かわせ!」

 

 かなりの速度と不規則な軌道の鞭に対し、ピカチュウもまた不規則な動きで避ける。

 

『やるじゃない』

 

『こちとら、幾度も戦いを潜り抜けてるからね!』

 

『成る程、歴戦の戦士という訳ね。――なら、これは?』

 

 ツタージャは色気に満ちた態度でパチッと片目を閉じる。すると、ハートマークが次々と現れ、ピカチュウの周りに向かって行く。

 

「これは……メロメロ!」

 

 自分と異なる性別のポケモンを魅了する技。限定的な技だが、その分効果が大きい技でもある。

 

「ピカチュウ、その場に留まれ!」

 

「えっ、避けないの!?」

 

「違うね。これは……」

 

 サトシの行動に、アイリスは驚くも、デントは何かを見抜いた様だ。静かに見守っている。

 ピカチュウが動きを止めると、ハートマークが彼を包囲。次の瞬間、ハートマークが一斉にピカチュウに迫る。

 

「今だ、ジャンプ!」

 

「――ピカ!」

 

 そのタイミングでピカチュウは跳躍。ハートマークの衝突を回避する。

 

『やるわね。だけど――これはどう?』

 

「リーフブレード!」

 

 そのタイミングを見計らい、ツタージャは高速回転しながら尾による草の刃を発動していた。空中という回避が困難な場所で追撃を放ったのだ。

 

「アイアンテール!」

 

「ピッ……カァ!」

 

 草の刃と鋼の尾が衝突。しかし、発動したばかりのアイアンテールは体調不良の影響もあって、高速回転で威力が増したリーフブレードに負け、ピカチュウは吹き飛ばされる。

 

「でんこうせっか!」

 

 しかし、ピカチュウは直ぐに体勢を立て直し、でんこうせっかを放つ。つるのムチで迎撃を仕掛けるツタージャだが、まだ空中にいたために上手く当てれず、カウンターの一撃を食らう。

 

「タジャ……!」

 

 一撃を受けたが、ツタージャは不敵な笑みを浮かべる。

 

「……タジャ!」

 

「あっ!?」

 

「逃げた!?」

 

 そこでツタージャはサトシ達から背を向け、走り出す。サトシは当然追い掛け、アイリスやデントも続く。

 

「……タジャタジャ」

 

 また指でクイクイと、サトシ達を挑発するツタージャ。

 

「今度は追いかけっこってか? だったら、付き合ってやるさ!」

 

 サトシの言葉にクスッと微笑むと、ツタージャは全力で走る。サトシもピカチュウを肩に乗せ、三匹はモンスターボールに戻すと全力で後を追う。

 追いかけっこは草木の中でしばらく続き、ある場所でツタージャは振り向く。

 

「タジャ!」

 

「リーフストーム!」

 

 そのままリーフストームを展開。サトシに向けて放つも、本人は無視して突き進む。

 

「へっ、どうだ――うわっ!?」

 

「ピカ!?」

 

 突如足が空を切ったかと思うと、鈍い水音を立ててながら落下する。どうやら、沼地に誘導されていたらしい。

 ツタージャは蓮の葉の上でクスクスと、からかうような笑みを浮かべている。

 

「くそー、引っ掛けたなー。だけど、こんなので――なっ!?」

 

(あら、底無し沼だったのね)

 

 サトシの身体が沈んでいく。その沼は底無し沼だったのだ。

 これにはツタージャも驚きだが、同時に見極める機会だとも考えた。サトシという少年の本質を知るチャンスだと。

 

「くそっ、もがけばもがくほど沈むな……! ピカチュウ、頭に乗ってくれ!」

 

「ピ、ピカ……」

 

「早く!」

 

 沈んでいく中、サトシはピカチュウを頭に乗せさせながら、周りを見る。少し離れた場所にある一つの蓮の葉に視線を集中させ、三つのモンスターボールを放り投げる。

 三つのモンスターボールは見事に蓮の葉に乗る。これで三匹の安全は確保出来た。次はピカチュウだ。

 

「ピカチュウ、あそこまでジャンプするんだ。そしたら、お前も助かる」

 

 サトシは!?とピカチュウは大声で叫ぶ。親友を見捨てるなど出来るわけが無い。

 

「このままじゃ、お前も一緒に沈むんだぞ! 良いから早く!」

 

(……自分よりも、仲間が優先なのね)

 

 命の危機に瀕していると言うのに、己ではなく仲間を第一にする。少年のその心に草蛇は揺れる。

 

「――サトシ!」

 

「これに掴まって!」

 

 少年の身体が胸の辺りまで沈み、このままでは本当に危ない。ツタージャが動こうとしたが、彼女の動作よりも早く、大きな蔓が森から放たれた。

 サトシを助けようと、アイリスとデントが投げたのだ。サトシは蔓を掴み、何とか底無し沼から脱出する。

 

「助かったよ。デント、アイリス」

 

「どういたしまして」

 

「もう、無茶ばっかり!」

 

「ごめんごめん。デント、ヤナップってつるのムチを使える? あそこに置いた、皆が入ったモンスターボールを取って欲しいんだ」

 

「お任せ。マイビンテージ――」

 

 デントがヤナップを呼ぼうとしたが、その前に三つのモンスターボールがサトシの手元に放り投げられる。

 

「これって……」

 

「……」

 

 投げられた方向を見ると、ツタージャが伸ばした蔓を縮めていた。どうやら彼女が投げたらしい。

 

「……タジャ」

 

 サトシを何かを伝えるような眼差しで一度見た後、ツタージャは向こうへと去っていった。

 

「よし、追うぞ。ピカチュウ」

 

「ピカ!?」

 

「まだ追うの!? あのツタージャ、サトシの手に負えるとは思えないわよ!?」

 

「うーん、それは僕も感じたかな。あのツタージャ、癖がとても強い。君でも手こずるんじゃないかな?」

 

「その方が面白いじゃないか!」

 

 癖が強すぎると忠告する二人だが、サトシは逆にだからこそ良いと語る。ポケモンマスターを目指す彼からすれば、個性が有るからこそ、意味が有るのだ。

 

「それに、二人が言うほど、あいつそんなに厄介な奴とは思えないんだよな。俺」

 

「さっき沼地に誘き出されて、危うく沈む所だったじゃない!」

 

「けど、その気にしては直接手を出そうとはしなかったじゃん」

 

「言われてみれば……」

 

 ツタージャがそのつもりなら、サトシ達を沈めることは容易かっただろう。なのに、彼女はそうしなかった。

 誘い込む思惑は有っても、沈めるつもりが無かったのは明白だ。それに、三匹が入ったモンスターボールをわざわざサトシの元に戻した。

 

「あと、まだ俺達はあいつとのバトルに勝ってないしな。――行こうぜ!」

 

『はいはい』

 

 痛い目に遭いながらも、諦めないサトシにやれやれとしつつもピカチュウは微笑み、走る彼を追う。

 

「しつこすぎるわよ~」

 

「諦めないって言うべきだと僕は思うね」

 

 うんざりとしたアイリスと、苦笑いするデント。しかし、一人にするわけには行かないのでまた走り出す。

 

「……」

 

 歩きながら、ツタージャは時折後ろを見る。何かを期待しているかのように。

 

(……流石にもう来ないわよね)

 

 あんな目に遭遇したのだ。幾ら彼でも、もう自分を追おうとはしないだろう。仕方ないとは思いつつも、ツタージャははぁとため息を溢す。

 

(……どうして、ため息なんかしてるのかしら)

 

 知らず知らずの内に、自分がサトシに期待をしていることにツタージャは驚く。

 彼と会って、一日どころか半日も経ってないにも拘らず、自分はそんなに彼に興味を抱いたのだろうか。

 そんなことを考えながらしばらく歩くと、流れる水音が耳に響く。どうやら川に着いたらしい。喉も乾いたし、水を軽く飲んで潤す。

 

「追い付いた!」

 

「――!」

 

 声が聞こえた。振り向くとあの少年が、サトシがそこにいた。

 

「へへっ、俺とお前の勝負はまだ終わってないだろ?」

 

「……」

 

 まだ自分との勝負を諦めてなかった。まだ自分を追い掛けてくれた。

 その事実は一瞬、ツタージャの脳裏にある光景が過るも、少年の純粋な瞳の光がそれを簡単に掻き消す。

 今のツタージャには、サトシと彼の仲間達にしか興味がない。アイリスやデントなど、歯牙にも掛けない。

 

「どうする? まだ追いかけっこするか? それとも、バトルの再開か?」

 

「タージャ」

 

 ツタージャは蔓を少し伸ばし、サトシに戦いの意志を示す。ここまで来れば、もう見極めるものはない。後は戦って決めるのみ。

 

「ピカチュウ、行くぜ!」

 

「ピカ!」

 

 ピカチュウ対ツタージャ。そのバトルが再開される。

 

「でんこうせっか!」

 

「ピカァ!」

 

「タジャ!」

 

 先程と同じく、高速の突撃。それをツタージャも先程同様、見事な動作で回避。またつるのムチを放つも、これもまたピカチュウはかわしていく。

 

「ター……ジャ!」

 

「――メロメロ!」

 

 ハートマークがまた次々現れ、ピカチュウに迫る。

 

「ピカチュウ、停止!」

 

「また繰り返し?」

 

「だけど、このままだと……」

 

 跳躍の隙を狙われる。先程はリーフブレードだが、今度は安全に攻撃できるつるのムチかリーフストームが来るかもしれない。

 

(わざと? それとも、それしか手がない?)

 

 前者ならともかく、後者ならがっかりだ。しかし、どちらにせよ、自分は向こうの行動に合わせて対応するだけだ。

 ハートマークがそろそろ、ピカチュウに向かおうとする。

 

「ピカチュウ、地面に向かってアイアンテール!」

 

「ピッカァ!」

 

 鋼鉄の尾が大地に叩き付けられ、その衝撃で煙と石礫が跳ね上がり、ハートマークを破っていく。

 

(跳ね上げた礫でこの技を破った!?)

 

 予測を上回る対処のやり方に、ツタージャは驚愕する。

 

(だけど、関係ないわ)

 

 ツタージャはその場で回転。大量の木の葉を纏う風、リーフストームを発生させ、煙に向けて放つ。煙ごと、ピカチュウを吹き飛ばすつもりなのだ。

 

「ピカチュウ、ジャンプ! そのままアイアンテール!」

 

「ピカ!」

 

 木の葉の嵐が煙を吹き飛ばす直前で、ピカチュウが大ジャンプ。リーフストームを回避し、技を放った硬直の間を狙ってアイアンテールをツタージャを叩き込んだ。

 

「タジャ……!」

 

 やられた。アイアンテールで地面を叩いたのは、メロメロを破るだけでなく、煙を起こしてリーフストームを誘導する目的も有ったのだ。

 

(なら、こうよ)

 

 ツタージャは草の刃を地面に叩き付ける。先程のピカチュウの時と同じ様に、石礫と煙が発生する。

 

「ピカチュウ、気を付けろ。来るぞ」

 

「ピカ」

 

 次の攻撃に備え、ピカチュウは身構える。その直ぐ後、煙を突き破るように上下から蔓の鞭が出てきた。

 その鞭をかわすと、突然煙から何かが出てきた。それは――ハートマーク。

 

「メロメロ!?」

 

「どういうこと!?」

 

 よほど鍛えてない限り、技は通常、一度に一つしか出せない。今つるのムチを出している以上、メロメロは使えないはずだ。

 

「――時間差か!」

 

「そうか、先にメロメロを放ってからつるのムチを……!」

 

 つるのムチは身体から出す技。その為、先に放てば仕舞うまで他の技を使えない。

 しかし、メロメロは発射型の技。放てば、他の技が問題なく使えるのだ。煙とこの性質を利用し、ツタージャは恰も二つの技を使った様に見せ掛けたのだ。

 

「ピカチュウ、後ろ右斜め後ろ左!」

 

「ピカピ!」

 

 つるのムチとメロメロ、二つの技をピカチュウはサトシの指示の元、縦横無尽に動いて回避していく。

 

「タジャア!」

 

 しかし、ツタージャも黙ってこの機を見逃すつもりはない。つるのムチを維持したまま、ピカチュウに接近。

 蔓で掴む――と見せ掛け、岩を掴んでその蔓だけを縮め、擬似的な高速移動を行ない、背後に回るとピカチュウを後ろから腕で捕らえる。

 

「ちょっ、捕まったわよ!?」

 

「これは不味いね……!」

 

 身動きの取れない状態では、メロメロが確実に受けてしまう。

 

「ピカチュウ――でんきショック!」

 

「ピカァ!」

 

「タジャッ!?」

 

 絶体絶命、かと思われたその時、ピカチュウは身体からそれなりの規模の電気を発射する。

 今の状態では、電気は差ほど使えない。しかし、でんきショックなら数回だけ使えるのだ。

 電気は組み付いているツタージャにダメージを与え、同時にメロメロも焦がす。

 

「ピ……カァ!」

 

「タジャ……!」

 

 思わぬ攻撃から拘束が緩んだ。ピカチュウは脱出と同時に身体を回転。尻尾をツタージャに勢いよく叩き付ける。

 

「タ……ジャア!」

 

「――ピカ!?」

 

「つるのムチ!」

 

 しかし、ツタージャもただで攻撃を受けるつもりは微塵もない。

 素早く伸ばしていた片方の蔓を、ピカチュウに叩き込む。確かなダメージを与えつつ、もう片方の蔓を身体に絡ませ、一気に縮める。

 その勢いを利用し、リーフブレードを放つ。その一撃はサトシの指示で直撃はしなかった。

 しかし、技の性質で急所に少し擦っており、小さくはあるが無視出来ないダメージをまた与えた。

 

「やっぱり、相当な実力者ね。あのツタージャ……」

 

「うん。サトシとピカチュウのベストテイストに食らい付いている。これほどとはね……」

 

 不調が影響しているとは言え、一番のコンビであるサトシとピカチュウとここまで戦える。明らかに、並の野生とは一線を画する実力の持ち主だ。

 並のトレーナーでは余程対策しない限り、勝負にもならない。自分でも手こずるレベルだとデントは確信していた。

 

「強いな、お前! 楽しいぜ!」

 

「ピカピカ!」

 

 それはツタージャもだった。こんな充実感と熱さに満ちたバトル、久々――いや、本当の意味では初めてかもしれない。

 この時間をもっと楽しみたい、もっと味わいたい。何よりも――彼等に勝ちたい。だからこそ、『あの時』から今まで抑えていたこの『力』を解き放つ。

 

「ターー……!」

 

「リーフストーム! だけど……!」

 

「威力がさっきより上がってない!?」

 

 ツタージャが放つのは木の葉の嵐。しかし、その規模は先程を優に上回る。

 

「しんりょく? いや……」

 

 しんりょく。ミジュマルのげきりゅう、ポカブのもうかと同じく、体力が少ない時に発動し、草タイプの技の威力を引き上げる特性。

 草タイプのジムリーダーだけあり、デントはその特性について知ってはいる。

 しかし、それとは違う。何しろ、ミジュマルやポカブの時と違い、オーラが出ていない。

 

(もしかして、あのツタージャ……)

 

 ある推測を立てるデント。しかし、そうであれば、あのツタージャは実力だけでなく、その秘めたる力も相当なものの様だ。

 

「ジャアァアアアァーーッ!!」

 

 木の葉の竜巻が放たれる。竜巻は縦の状態で、石や土を巻き込みながらピカチュウに迫る。

 

(相殺は無理か!)

 

 今の体調では十万ボルトは使えない。でんきショックでは威力不足だ。アイアンテールの衝撃でも焼き石に水。

 残るは回避だが、その間あのツタージャが何もしない訳がない。ただ、回避するだけでは駄目だ。

 

「ピカチュウ、リーフストームに飛び込め!」

 

「ち、ちょっと!? それ、自殺行為よ!?」

 

 鋭い木の葉が大量に舞う竜巻に飛び込む。大ダメージは免れない。しかし、ピカチュウはサトシの判断を疑わず、危険地帯へと進む。

 

「タジャ!?」

 

 自らこの竜巻に入ったピカチュウに、ツタージャは驚きを隠せない。しかし、関係あるかと言わんばかりにリーフブレードを放つ。

 リーフストームの勢いを利用し、回転しながら複雑な螺旋状に移動の刃の嵐。木の葉と草の二重の刃だ。

 

「ピカチュウ、竜巻の流れに乗れ! アイアンテール!」

 

(こっちと同じ方法を!)

 

 攻撃を食らうのを覚悟で、勢いを利用した鋼鉄の尾の乱撃。しかし、リーフストームを受けている分、あちらが不利。ツタージャは草刃の乱舞を続ける。

 アイアンテールとリーフブレード。木の葉の竜巻の中で二つの技が次々と衝突し、火花を撒き散らす。

 

(徐々に威力が増している……!?)

 

 尾から伝わるアイアンテールの衝撃が、一撃ごとに大きくなっている。向こうは草の竜巻でダメージを受け続けているというのにだ。

 どうしてと考えた瞬間、十何度目の衝突。すると身体が痺れ出した。痺れと威力により、ツタージャは竜巻から吹き飛ばされた。

 その一秒後、勢いで加速したピカチュウが竜巻から脱出。でんこうせっかを放つ。ツタージャは痺れる身体を無理矢理起こし、辛うじて避ける。

 

「タ、ジャ……!」

 

「まひになってる?」

 

 ツタージャを見ると、バチバチと火花と電気が発生していた。

 

「せいでんきだね。ピカチュウの特性で、相手が接触した時にまひにする効果がある」

 

(それだけじゃないわね……!)

 

 自身の防御力が、かなり低下していることにツタージャは気付いた。

 その理由はアイアンテールとの幾度の激突。それにより防御力が幾度も下がっていた。

 

(……しばらく使って無かったから、中途半端に発揮されたのね)

 

 本来なら、『逆』になるはずなのだが、『これ』を長期間抑え込んでいため、この結果になったようだ。

 ただ、逆になっていても有利になったかと言えば話は異なる。何度も接触したことで、せいでんきでまひになっているのだから。

 

(なら、次で決める!)

 

 この状態では長期戦は不可能。ならば、次の一撃で決めるしか道は無い。

 

「ター……」

 

 痺れる身体に渇を叩き込み、三度リーフストームを放つ。その大きさは更に増し、規模は最早巨大竜巻その物だ。

 

「こ、これ……! 回避出来る規模じゃないわよ!?」

 

「これほどとは……!」

 

「最後の勝負だな、ピカチュウ……!」

 

「ピカ……!」

 

 この攻防で決まると、サトシとピカチュウも確信していた。それほどの威力、そして気迫を感じたのだ。

 

「ジャアアァァアアアァ!!」

 

 その小さな身体のどこに有るのかと思える程の竜巻が、発射される。今度の渦は縦ではなく、前に真っ直ぐに全てを削らんとするばかりに進む。

 

「ピカチュウ! でんこうせっか! リーフストームにもう一度飛び込め!」

 

「何考えているのよ! そんなことしたら直撃じゃない!」

 

「……」

 

 確かに直撃だ。しかし、デントは何かあると、そしてピカチュウはサトシの指示を聞き、どうすれば良いのかを理解。でんこうせっかで再度巨大化した竜巻に飛び込んだ。

 直後に、竜巻の余波がサトシやアイリス、デントを襲う。目を覆うほどの強風だが、サトシは塞がない。その瞬間を見逃さないために。

 

(――勝った!)

 

 あのリーフストームを食らったのだ。自分の勝利、そう確信したツタージャだが、次の瞬間、緑色に染まった景色に黄色が写る。

 それはみるみる大きさを増し、こちらに向かって来る。その色の正体は――ピカチュウだ。

 

「ピッ……カァ!」

 

(う、嘘!?)

 

「あの竜巻を……乗り越えたの!?」

 

 ツタージャの驚愕の間に、ピカチュウはダメージを受けながらも、竜巻を突破する。そして、決着を決める一撃を放った。

 

「たたきつける!」

 

「ピー……カァアアァ!!」

 

「タジャーーーッ!」

 

 渾身の力を込めた、たたきつける。強烈な尾の一撃を受け、ツタージャは悲鳴を上げながら大きく吹き飛んで仰向けの態勢になる。

 痛みに耐えながらも身体を動かそうとする。しかし、まひもあって動けない。自分の敗け、だった。

 

(……負けた)

 

 勝ちたいと思った勝負に負け、とても悔しい。しかし、何処かこの空の様に清々しい気分でもあった。

 

「俺達の勝ちだな、ツタージャ」

 

「ピカ」

 

「……タジャ」

 

 傷だらけ、然れど快晴の空の様な明るい笑みの少年とポケモンが写る。そうねと、ツタージャは笑いながら頷いた。

 

「……タジャジャ?」

 

「ん?」

 

 しかし、どうしても一つ分からない事があった。あのリーフストームをピカチュウは何故突破出来たのか。それだけが引っ掛かった。

 その質問がツタージャからピカチュウ。そして、サトシへと送られた。

 

「台風の目って、あるだろ?」

 

「……タジャ」

 

 猛烈な嵐の際、一時的に風や雨が無くなる場所の事だ。それぐらい――と、そこでツタージャは気付いた。

 まさか、リーフストームの中心、無風となる場所をピカチュウは進んだと言うのか。

 

「それぐらいしなきゃ、勝てなかったからな」

 

「ピカピカ」

 

 どうやら本当らしい。やれやれと、威力に溺れて犯した自分の失態もそうだが、それ以上にそんなとんでも行為を指示、実現させた彼等の絆と強さに、ツタージャは苦笑いを浮かべていた。正に完敗だった。

 

「……タジャ」

 

 話の間に、少しだけ動けるようになった。ツタージャは身体を起こすと、サトシのモンスターボールを指で指す。

 

「……俺と、俺達と来るか?」

 

 少年の問いかけに――ツタージャは頷いた。彼ならば良いと、彼女は認めたのだ。

 

「よし――モンスターボール!」

 

 コツンと、ツタージャの頭にモンスターボールが当たる。赤い光が彼女を包み込み、中に仕舞うと地面に落ちて揺れる。数度揺れた後――パチンとなって止まった。

 

「ツタージャ……ゲットだぜ!」

 

「ピッピカチュ!」

 

 こうして、また一匹、新たな仲間が加わったのであった。

 

「……ゲットしちゃった。あのツタージャを」

 

「実に、実に見事なテイストだよ」

 

 自分やアイリスでは、こうは行かなかっただろう。サトシだからこそ、あのツタージャをゲットしたのだ。

 

「だ、だけど、あんな癖のあるツタージャと上手くやって行けるのかしら?」

 

「僕は大丈夫だと思うよ?」

 

 この先が心配と呟くアイリスだが、デントは大丈夫だと信じて疑わない。

 サトシなら逆に、あの癖すら取り込んで新しい味を、力を引き出してしまうだろう。自然にそう思えた。

 

「あっ、そうだ。サトシ、ツタージャを出した状態で君の図鑑をちょっとだけ借りても良いかい?」

 

「何で?」

 

「ほら、激戦の後だろう? まひが残ってるかもしれないし、手当ての為にね。後は、草タイプのジムリーダーとして、少し情報が見たくてね」

 

「良いよ、ほら」

 

 納得出来る理由のため、サトシは自分の図鑑をデントに貸した。

 

「出てこい、ツタージャ!」

 

「……タジャ」

 

 更にツタージャを出す。ダメージや痺れが残っているせいか、少し辛そうだが問題ないと、腰に両手を当てる構えを取って気丈に振る舞う。

 

「――やっぱり」

 

 そのツタージャのある能力を、デントは確認する。自分の思った通りだ。

 

「デント、今何か言った?」

 

「いや?」

 

「……」

 

 アイリスの質問に違うと答えるデントを、ツタージャが睨む。

 

「気にしなくて良いよ。僕は言わないから。君の為にも――サトシの為にもね」

 

「……タージャ」

 

「……デント?」

 

 しゃがみながら、デントは優しい表情でツタージャに伝える。

 ジムリーダーとして『この事』は時が来るか、ツタージャが言うまでは話すつもりはない。

 ツタージャもデントの目から、その言葉をとりあえずは信じることにした。

 

「なぁ、デント。ツタージャと何を話してるんだ?」

 

「ちょっとした質問だよ。どんなのかと言うと――♀なのを話した置いた方が良いかな、とか」

 

「♀!? お前、♀だったのか!?」

 

「タジャ!?」

 

 自分が♀だと気付いてなかったサトシに、ツタージャは軽くショックを受ける。

 

「サトシ、それぐらいは気付いて上げなよ。メロメロは異なる性別に対して効果を発揮する技なんだから」

 

「そういや、そうか……」

 

「そ、そうよ。それぐらい気付かないなんて、本当に子供ねー。言っておくけど、あたしは気付いてたわよ?」

 

「へー」

 

「ちょっと! 何よ、その言い方!」

 

 口癖を軽く流すサトシに、アイリスは声を荒らげる。

 

「……タージャ」

 

 二人のやり取りに、やれやれと首を横に振るツタージャ。これから色々と大変そうだ。面白くもありそうだが。

 

「あっ、そうだ。ツタージャ、お前Nさんと知り合いみたいだけど……どこで出会ったんだ?」

 

「タジャ」

 

 サトシにNとの関係を尋ねられるも、ツタージャは秘密よと答える。

 サトシも無理に問い質すつもりは無いので、彼女から言うまで待つつもりだ。

 

「じゃあ、ツタージャの治療が終わったら次の町に向かって進もうぜ」

 

 賛成と、その場の全員がサトシの提案に頷いた。

 

「――ゾロ」

 

 その時、一匹のポケモンがその場を後にしたのは、気付かなかった。ツタージャを除いて。

 

 

 

 

 

 草木に満ちた道を、一匹のポケモンが走る。岩山を見付けるとそこを登り、頂上で待つ仲間の元に駆け寄る。

 

「どうだった?」

 

「ポカポカ?」

 

「ゾロ」

 

 待っていたのはNとポカブ。駆け寄るのはゾロア。そう、彼等だった。

 

「ゾロゾロ、ゾロア」

 

「そうか。やっぱり、彼女は彼と歩むことになったんだね」

 

 ゾロアの説明に、Nは笑顔で頷いていた。こうなると確信し、また二人の関係の誕生を祝福しているかのようだ。

 

「カブカブ?」

 

「うん、喜んでる」

 

 Nにとっては、トモダチが最善の道を歩んでくれれば、それで良いのだ。例え、それが自分とではなくとも。

 

「――N様」

 

 一人の男性がNの背後から近寄る。ロケット団を急襲した一団のリーダーだ。

 

「やぁ、ヴィオ。上手く行ったかい?」

 

「申し訳ありません。逃がしました」

 

 ヴィオと呼ばれた男性は、自分よりもかなり年下のNに敬称を付け、膝を地面に着けた状態で頭も下げていた。まるで、王に仕える臣下の様な態度だ。

 

「ロケット団の尖兵。それなりの実力は有るだろう。逃げを優先していたのなら仕方ないさ」

 

「次こそは必ず――」

 

「いや、捕縛は無理をしてまで行わなくて良い。それよりも、向こうがどう来るかが知る方が先決。しばらくは泳がせよう。但し、監視はしてくれ」

 

「承知しました」

 

 Nの言う通り、ロケット団に関しては動向が不明。対策の為にも、彼等は泳がせた方が良い。

 

「他にもお伝えします」

 

「頼む」

 

 Nの指示を受け、ヴィオは一例すると静かにそこから離れた。

 

「もうすぐだよ、サトシくん。もうすぐで始まりの時を迎え、何れ、多くの運命を決める出来事が起きる。その時、キミはどうするかな? ――考えるまでもないか」

 

 きっと、立ち向かうのだろう。彼ならそうするとNは確信していた。

 そして――その時、自分は彼と、死力を尽くして戦うことになるだろうとも。

 運命は既に動き出している。その流れを止めることは――もう出来ない。

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