ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ 作:ぐーたら提督
「今日も頑張ってるなー、皆」
サトシの視線の先では、今日も五匹のポケモン達が走り込みをしている。今は一休み中なので、自主練という訳である。
「そっちも頑張れよ~、アイリス、デント」
一方、振り向くとそこにはアイリスとキバゴ、デントとヤナップが向き合っていた。今からバトルするのである。
ちなみに、サトシが相手でない理由は、本気でやるのをアイリスが避けたためである。
「当たり前よ!」
「キバキバ!」
「ヤナップ、オーダー通りにね」
「ヤプ」
「オーダー?」
どういう意味だろうかと、頭を捻らせるサトシ。
「見てたら分かるわよ。キバゴ、ひっかく!」
「キババ~!」
「ヤナップ、タネマシンガン。――優しくね」
「ヤプ」
「優しく?」
両手を前に出して迫るキバゴに、デントはサトシにとってこれまた意味不明な指示を出す。
「――ナプ」
ヤナップは歩いて距離を詰めるとポン、威力を全く感じさせない勢いの種を一発だけ放った。
「キバ!」
「えぇ……」
明らかに威力が低すぎるタネマシンガン、というよりタネだが、それでもキバゴは怯み、顔を手で守るようにしていた。
超低威力、ドラゴンタイプに今一つの草タイプの技にもかかわらずこの有り様である。
「あぁ、キバゴ! 大丈夫?」
「キバ~……」
心配したアイリスがキバゴに近寄る。キバゴは涙目で弱々しい声を上げていた。
「あら~、今ぐらいのパワーでもダメか~」
「ナプ~」
かなり威力を落としたのだが、それでも駄目だったらしい。
「キバゴ、これは練習なんだから頑張って、ね?」
「練習? このバトルが?」
「そう、キバゴをバトルに慣らす練習。だから、こっちは技の威力を十%にまで落としたんだけど……もう少し下げる必要があるみたいだね」
「……それ、バトルって言うのか?」
とてもだが、バトルには思えないサトシだった。
「良いの! ちょっとずつちょっとずつバトルに慣れる。そういう育て方もあるの!」
「ガンガンぶつけ合った方が面白いし、力も引き出せると思うんだけどな……て言うか、そもそも気迫や緊迫感の無いバトルが練習になるのかも疑問だよ」
身心昂るからこそ、潜在能力は引き出される。そう思っているサトシからすれば、このバトルに意味が有るとは到底思えなかった。
「う、うるさいわね! 何でもバトルすれば良いってもんじゃないの! それに、人にはそれぞれ適したやり方があるの! そんなことも分からないの? 子供ね~」
「……まぁ、それもそうか」
今の発言は正しい。自分には自分のやり方があるように、アイリスにはアイリスのやり方がある。
「第一、デントとヤナップはサトシと違って紳士的だし、私達に合わせてくれるのよ」
「指名、ありがとうございます」
「ナプナプ」
デントとヤナップは礼儀正しく構えを取り、頭を下げる。
「そういや、アイリスとキバゴがバトルするの初めて見るな……」
イッシュ地方を訪れたその翌日から、今に至るまで彼女達がバトルする所を見たことが無かった。
「まぁサトシ、ここは彼女達のやりたいようにやらせてみたら?」
「別に良いけどさー。でもよ、それなら違うやり方で練習したら?」
「例えば?」
「ちょっと待って。えーと……」
サトシは少し考えると向こうを、ポケモン達が走っている方角を見る。今日もピカチュウとツタージャ、その後ろをミジュマルとマメパト、ポカブを走っていた。
「よし。おーい、ツタージャ。走り込みを止めて、こっちに来てくれないかー?」
「タジャ? タジャ」
自分だけ呼ばれたので、一度疑問を抱いたが、何かの指示だろうと直ぐに理解し、サトシの元に駆け寄る。
「つ、ツタージャでどうする気よ?」
「ツタージャ、今キバゴがバトルに慣れようとしているからさ、付き合ってくれないか? 但し、技は一切禁止。ツタージャはかわすだけだ」
「タジャ」
分かったと頷くツタージャ。聞いた話や自分が見たところ、キバゴは駆け出しですらない。
サトシの旅の仲間のポケモンだし、一歩進む手伝いぐらい構わないと、ツタージャは考えた。意外と面倒見は良いようだ。
「なるほど。先ずはキバゴに沢山技を使わせようという訳だね」
これなら、キバゴは攻撃されない。しかし、ツタージャは全力でかわすので、必死にならなければ攻撃は擦りもしないという訳である。そうして、気迫と緊迫感に慣らせるのだ。
「うん、良いんじゃないかな? アイリス、君は?」
「……ツタージャ以外はダメなの?」
はっきり言って、今のキバゴではサトシのツタージャに攻撃を当てるなど不可能だとアイリスは理解している。出来れば、ツタージャやピカチュウ以外が有難い。
「いや、ピカチュウはせいでんきがあるし、他は今走り込んでる最中だしなあ……」
不調とは言え、一番長い間一緒にいて経験を重ねたピカチュウや、既に高い実力を持つツタージャと違い、他の三匹はまだまだ成長途中。
三匹とも、自分の指示に応えうるだけの体力を付けたがっているし、そうなると残るは実力、性格、適正を考慮すると自動的にツタージャだけなのである。
「じゃ、じゃあ、デントがそうしてよ! 良いでしょ?」
「僕は構わないよ。ヤナップ、付き合ってくれるかい?」
「ヤプ」
「決まり! ツタージャはいつかね!」
「……タジャ」
やれやれと、ツタージャは顔を左右に振る。自分が付き合おうとしたのに、断ったアイリスに少し呆れた様子だ。
「キバゴ、続ける?」
「――キバ!」
アイリスの言葉に、キバゴは小さな勇気を奮い起たせ、ヤナップに向き合う。
「よし。キバゴ、強い!」
「キバ!」
「キバゴ、頑張れ!」
「……タジャ」
アイリスやサトシはキバゴを応援するも、ツタージャは少し呆れ顔だ。頑張りなさいとは言ったが。
「それじゃあ、もう一度ひっかく! 行ってみよ~!」
「キバ!」
「ヤナップ、かわして」
「ナプ」
「キババババ~!」
ぶんぶんと両手を振り回すキバゴだが、その攻撃は全てヤナップに軽々と回避される。
というか、ヤナップはその場に留まっており、身体を動かすだけで避けていた。
「……ダメだ、こりゃ」
「タジャ」
適当に振り回しているのもそうだが、身体の使い方がなっていない。あれではそもそも当たりもしないし、当たっても技の威力はほとんど発揮されないだろう。
「キバゴー、そんなんじゃ当たんないぞー。もっと肩や身体を使って全体で振らなきゃ」
「ちょっとサトシ! 余計な事を言わない――」
「キバ!」
「おっ」
「ヤプ」
ブンと、それまでよりも遥かに勢いを感じるひっかくを、キバゴは放った。ヤナップは思わず一歩下がってかわす。
「今のひっかくは良かったよ、キバゴ。しっかりと力と勢いがあった」
「ナプナプ」
「キバ~」
「結構、筋が良いのかな?」
まだまだではあるが、一度聞いただけでダメな所を改善した。以外と、呑み込みが早いのかもしれない。キバゴも誉められて嬉しそうだ。
「う、うぅ……」
そんなキバゴとは対照的に、アイリスは色々と複雑そうな表情を浮かべていた。
「なぁ、アイリス。他に技は無いのか?」
「え……。い、一応、あるにはあるけど……」
「じゃあ、それも使えよ。他の技をどう使うのも、練習には重要だぞ?」
「そ、それはそうなんだけど……」
態度がおかしい。さっきの複雑そうな様子ともまた違う。
「もしかして、反動がある技とか?」
「だとしたら、それは止めた方が良いね」
今のキバゴはレベルがかなり低い。反動がある技の使用は控えた方が良いだろう。
「いや、そういう類いの技でも無いんだけど……」
「もうなんなんだよ、さっきからはっきりしないな! その技見せてくれよ!」
要領を得ないアイリスの態度に、少し腹立ったのかサトシはその技の使用を促す。
「……分かったわよ! 見せて上げるわよ! キバゴ、りゅうのいかり!」
「キバ!」
「りゅうのいかり!」
「へぇ、そんな技もあるんだね」
キバゴは口を開き、青色のエネルギーをチャージ。かなりの力が集まっていき、その威力は今のキバゴに反して中々のものだと分かる。
「――ハクシュン!」
「ッ!」
キバゴがクシュンと、くしゃみをする。瞬間、閃光が迸り、大爆発が発生した。
「ピカピー!?」
「ミジュミジュー!」
「ポーポー!?」
「カブカブ!」
その音に、走っていた四匹のポケモン達が走りを止めてサトシの元に向かう。
「お、お……」
「ヤ、ヤナ……プ……」
そこには、思わぬ大爆発に巻き込まれ、煤が付着したデントとヤナップ。アイリスもである。
「……あれ、大丈夫?」
「……タジャ」
しかし、サトシとツタージャは無傷だった。見ると、ツタージャの前方にたつまきの渦の残りがあった。
どうやら、ツタージャが危険を感じ、咄嗟に防御をしたため、自分は無傷だった様だ。
「ありがと、ツタージャ」
「タージャ」
どういたしまして。ツンとした表情でツタージャはそう答えた。
「あ、あはは……。失敗失敗! ……はぁ、今日もダメか~……」
「今日も!?」
「……タジャ」
アイリスの言葉にサトシは驚き、ツタージャは呆れの態度を見せた。
一方、さっきの爆発で凹みになった場所ではキバゴが照れ臭そうにしていた。
森にある廃墟。そこの一部屋にロケット団がいた。コジロウが機械のキーボードを叩くと、ロケット団ボス、サカキの姿が映る。
「サカキ様、我らここに揃っています」
『うむ。早速、次のミッションについて伝える。目的地はリゾートデザートだ』
「リゾートデザート? 確か、砂漠が広がる場所ですね?」
『そうだ。そこには、メテオナイトと呼ばれる隕石が埋まっている。ミッションはその隕石の捜索及び、確保だ』
「何故、その隕石を?」
ただの隕石なら、精々珍しい石っころでしかない。態々入手する必要は無い筈だ。
『メテオナイトには、膨大なエネルギーが宿っているからだ。小さな欠片ですら。メテオナイトは太古の昔、この星の大気圏に到着し、砕け散り、世界中に分散した。その中でも一番大きな物が存在する場所こそ――』
「リゾートデザート」
『その通り』
これはロケット団が夢の跡地で入手した、夢のエネルギーを解析した結果、判明した事である。
『メテオナイトを入手すれば、世界のエネルギー事情は一変する。ロケット団世界戦略の切札となるだろう』
それだけのミッションに参加出来る。団員としてはこれほど光栄な事はない。ロケット団達は表情を緩ませる。
『また、このミッション遂行に当たり、エージェントを送る』
画像に、そのエージェントの姿特徴が映し出される。これほどのミッションだ。増援が送られても当然だろう。
『直ちにミッションにあたれ』
「はっ!」
彼等は謹んで了承する。しかし、その会話全てを聞かれているなど、想像もしてないだろう。
「メテオナイト、ですかあ~」
遠く離れた場所。何処かの研究所で、薄い金色と濃い青の独特の髪型をし、白衣を纏う人物が目の前のモニターから流れる会話をつまらなさそうに聞いていた。
「連中はそれを狙っているみたいですね」
その背後には、二メートルの長身と目のような意匠が施されたマントを纏う人物がいた。右目には奇妙な形のモノクルを付けている。
二人は、ロケット団のやり取りを盗聴していた。その方法は至って簡単。部下に命じ、彼等が行きそうな場所の候補に予め盗聴機を仕掛けたのだ。
そして、その内の一つにロケット団が来たと言う訳である。
「しっかし、何と言うか、無知って本当に愚かですね~」
「えぇ、ワタクシもそう思います」
二人はロケット団に対し、嘲笑を浮かべる。
「で、どうします? 放って置きます?」
「いえ、利用させてもらいます。彼等がメテオナイト、それも大型のを使うとなると、大規模な作戦になります。となると、行われる場所はかなり限られる」
「ヒウンシティですね。99%以上の確率で」
イッシュ地方一の大都会、ヒウンシティ。そこでなら大規模な作戦を行うのに適している。
「で、具体的にどう利用するんですか?」
「おや? 貴方がそれを思い付かないとは考えられませんが?」
「私には研究があります。一々、小さな事に頭を使いたく無いのですよ。作戦はそちらにお任せします」
「やれやれ」
目の前の彼は、とても優秀なのだが同時にかなり癖のある人物でもあった。それでも有能なので置いている訳だが。
「まぁそうですね。あれこれ考えるのはワタクシの役目。貴方は研究するのが役目。ここは役割分担と行きましょうか」
「助かります」
「ですが、例の物は頑張って手に入れてください」
「セキュリティ凄まじく堅いので、そろそろ止めたいのですが」
「駄目です。ここが終わった後に備え、今から得て置きたいのです。また、可能なら素早く確保し、戦力にするべきです」
「はいはい。分かりました。間が有ればしっかりとやって置きますよ。まぁ、私も気にはなりますからね」
白衣を纏う人物の研究テーマ。その追求の為にも、彼はその情報を是非とも入手して見たかった。
とは言え、それらの情報は悪用から遠ざける、万一の事態を避けるため、凄まじいセキュリティロックが仕掛けられている。
なので、色々やっているが、今のところ入手する見込みは全くなかったりする。命令なので、続けるが。
「ところで、王様とやらは?」
「まだ見つかってません。彼等が動くまでには、戻って来て欲しいのですが……」
下の者達を安心させるためにも、絶好の機を得るためにも。
(最悪の場合、無しで動くことになりますが……)
その場合はとても面倒になる。何としても戻ってもらわねばならない。
「全く……どこにいるのやら。――N」
彼は静かにそう呟いた。
「はぁ~、上手く行かないわね~……りゅうのいかり」
「キバ……」
木の幹の上で、りゅうのいかりの失敗をアイリスとキバゴが嘆く。
「あれは、りゅうのいかりと言うより……」
「りゅうのくしゃみ、だね」
「ピカ!」
「上手い! アイリス、これからはりゅうのくしゃみにしたらどうだ?」
「くしゃみじゃな~い! あたし、真剣に悩んでるのに……」
「ごめんごめん。冗談だよ」
落ち込んでいるアイリスを励ましたかったのだが、上手く行かなかったようだ。
「なぁ、キバゴの技はその二つだけ?」
「うん……。ひっかくとりゅうのいかりだけ」
キバゴを撫でながら、アイリスは話を続ける。
「普通のりゅうのいかりは、ドラゴンの力を塊にして発射してダメージを与える技。だけど、この子の場合は違うの。力が暴発しちゃうの」
ピョンと、キバゴ、ピカチュウの順に木から降りる。
「最初はゆっくりじっくり旅をして、習得して行けばなあ、って思ってたんだけど……全然上手く行かなくて。オノノクスまで道のりは遠いなぁ……」
アイリスの言葉に、サトシは思った。
「なぁ、アイリス。俺思ったんだけどさ。キバゴには体も技も足りないんじゃないか?」
「……どういう事?」
「だから、りゅうのいかりの力を留めようにも、今のキバゴじゃあ、それを行えるだけの体と技が無いんだよ」
「確かにそれは考えられるね。あのりゅうのいかりから、キバゴには相当な潜在能力を感じた。だけど、それを発揮出来る土台が今のキバゴにない。だから、失敗するんだと思う」
力を支えるための器がなっていない。これでは、失敗して当然だ。
「じ、じゃあ、どうしたら良いの?」
「そりゃあ……特訓しかないだろ。身体作りに走って、技の練習もする」
「うん、こればかりは地道に一歩ずつ進むしかないと思うよ」
「そっか……。あのさ、付き合って……くれる?」
「当たり前だろ、仲間なんだから」
「そうだね。僕達は旅の仲間だ。困っている時は支え合うのは当然だよ」
「……ありがと」
何の迷いもなく、力になると言ってくれたサトシとデント。嬉しいが、照れ臭さからつい小声になっていた。
「キババ」
「キバゴ?」
いつの間にやら、キバゴが木の実を持って来ていた。それも器用に両牙に刺して。
キバゴは木の実を牙から外すと、その内の一つをアイリスに差し出す。
「へぇ、中々に器用だね」
アイリスは木の実を一口かじる。程好い酸味と甘味が美味しい。
「美味しい。ありがとね、キバゴ」
「キババ~! キバ!」
キバゴはアイリスのその言葉を聞くと、また木から降りた。
「あっ、キバゴ?」
「誉められて嬉しいんだろうね。もっと持って来るんじゃないかな?」
「遠くに行っちゃダメよ~」
ピカチュウが念のために降り、キバゴの後ろを追う。
「キバゴも励ましてるんだし、頑張ってみたら?」
「あぁ、やる気十分って感じだしな」
「……そうね。あたし、頑張ってみる!」
キバゴに、サトシとデントも付き合ってくれるのだ。トレーナーの自分が頑張らなくてどうすると、意気込むアイリス。
「ところでさ。アイリスはどうやってキバゴをゲットしたんだ?」
「それは僕も気になるね」
アイリスの手持ちはキバゴ以外に見たことが無い。となると、キバゴをどうやって手に入れたかが気になる。
「授かったの。古里のおばば様から」
「おばば様?」
「あたしの古里は、竜の里って呼ばれてて、ドラゴンポケモンを放牧して育ててる自然豊かで穏やかな場所なんだ」
「で、そこでキバゴを託されたって訳か?」
「そう。ある日、おばば様から呼び出されて、卵から孵ったばかりのキバゴをオノノクスにまで立派に育てる。それがあたしに課せられた試練」
その時、おばばが言っていた言葉はよく覚えている。キバゴがどう育つかは自分次第であり、一人前になるにはポケモンを知り、育て、心を一つにすることだと。
「……はぁ、と言う訳なの。旅立ってそれなりの時間は経ってるし、少しでも強くするためにバトルに慣らそうと、デントに相手を頼んだの」
それで、さっきのバトルに繋がると言う訳だ。
「そのおばば様ってのは、アイリスのおばあさん?」
「ううん。里で一番偉い人。ねぇ、キバゴ――って、あの子まだ戻ってないの?」
「みたいだね。ピカチュウもだ」
「どこまで行っちゃったのよ……」
「とりあえず、探――」
三人が探しに行こうとその瞬間、前で大爆発が起きた。
「今のは……!」
「りゅうのくしゃみ――じゃなくて、りゅうのいかり?」
「見てくる!」
「僕達も行こう!」
「あぁ!」
三人は走る。すると、前の茂みからピカチュウが現れ、サトシに抱き着いた。
「ピカチュウ!」
「キバゴは!?」
「ピカピカ、ピカピカチュ! ピカピカー!」
ピカチュウは身振り手振り、得意の顔真似などで必死に状況を伝えるも、焦っているせいかほとんど分からない。
「お、落ち着け、ピカチュウ。焦らずに説明を――」
「キバーーーッ!」
「ドラーーーッ!」
「何だ、今の!?」
キバゴの悲鳴、そしてもうひとつの聞き慣れない雄叫び。その二つの声に反応し、サトシ達が振り向くと紫色の巨体と楕円の模様、二本の角と四本足が特徴のポケモンが見えた。
「あれは……!?」
『ペンドラー。ホイーガの進化系。素早い動きで敵を追い詰め、頭のツノで攻撃する。とどめを刺すまで容赦しない、とても攻撃的な性格』
キバゴはそのペンドラーの角の間に挟まっていた。
「な、何で、あんな状態になってるのよー!?」
こうなったのは、キバゴがアイリスの為に木の実を採ろうと無理をした結果、木から落下し、偶々その下にいたペンドラーの角の間にこれまた偶々挟まってしまったのだ。
「ピカピカ、ピカチュ!」
ある程度冷静になったピカチュウが、再度顔真似や身振り手振りでサトシに伝える。
「え~と、つまり、木の実を取ろうとしたキバゴが落下して、偶々下にいたペンドラーに挟まったって事か!?」
「間が悪いと言うか、何と言うか……」
「キバーキバー!」
「ドラドラーーーッ!」
ペンドラーは雄叫びを上げながら、ぶんぶんと顔を勢い良く左右に振る。その勢いでキバゴも左右に振り回され、涙目になる。
「――ドラァ!」
「きゃあ!?」
「アイリス!」
ペンドラーが走りながら口から紫色の毒々しい液体を、アイリスに向けて吐き出す。サトシは腕を掴んで引っ張り、アイリスを助ける。
「今のはペンドラーのどくどくだ! 触れたら危ない! 絶対に避けてくれ!」
どくどくは時間が経てば経つほど体力の消耗が激しいもうどく状態にする技だ。対策の木の実はあるとは言え、避けるべきである。
「とりあえず、あれを撒き散らされたやばい! 直ぐにペンドラーを止めよう!」
「あぁ!」
「マイビンテージ、ヤナップ!」
「ツタージャ、君に決めた!」
「ナプ!」
「タジャ」
迫る大百足に、二匹の草ポケモンが立ちはだかる。
「デント、ちょっとだけでも良いから、ペンドラーを足止め出来るか?」
「可能だよ! ヤナップ、ペンドラーの足にタネマシンガン!」
「ナププゥ!」
無数の種がヤナップの口から発射され、それは全てペンドラーの足に当たって怯ませる。
「今だ、ツタージャ! メロメロ!」
「ター……ジャ」
色気を込めてパチッと片目を閉じる。ハートマークが次々と現れ、ペンドラーの周囲を囲み、一斉に命中する。
「よし、当たった!」
「これなら、ペンドラーを無力化出来る!」
「サトシ、やるじゃない!」
メロメロにすれば、ペンドラーは暴れることはない。安全にキバゴを助けれる。彼等はそう思った――が。
「ドラーーーッ!」
「――効いてない!?」
「タジャ!?」
「どういうこと!? 命中したのに!」
しかし、ペンドラーはメロメロになっておらず、暴れまわる。サトシとアイリスはどうしてと思うも、デントは直ぐにその理由に気付いた。
「あのペンドラー、ツタージャと同じ♀なんだよ!」
「そうか、だから効果が……!」
メロメロは異性に対して効果が発揮する技。使い手のツタージャはペンドラーと同じく♀。これでは効かない。
「仕方ないわね……! キバゴはあたしのポケモン。あたしが助ける!」
「それ……!」
「モンスターボール!? アイリス、君はキバゴ以外にも手持ちがいたのかい!?」
アイリスが取り出したのは、赤と白の丸い物体――モンスターボールだった。
「……」
「アイリス?」
しかし、何かを躊躇ったかのように、アイリスはそのモンスターボールを投げない。
「どうしたんだ、アイリス!?」
「このままだと、危ないよ!」
「……行け、ドリュウズ!」
モンスターボールから、一体のポケモンが現れる。半分は鋼色、もう半分は土色の楕円形の姿をしたポケモン。
しかし、そのポケモンはその姿のまま地面に落下し、ゴロンと転がる。
「……えっ、何だこれ?」
その様子に、サトシは呆気を取られた。とりあえず、ポケモン図鑑で情報を調べる。
『ドリュウズ、地底ポケモン。モグリューの進化系。鋼に進化したドリルは鉄板をも貫く破壊力。地下千メートルに迷路のような巣穴を作る』
「全然、姿が違うじゃないか!」
図鑑には鋼の頭と爪を構え、足で立つ姿が写っているが、今出ているドリュウズはまるでサツマイモみたいな姿になっている。
「確か、ドリュウズはこの姿を取って地面を掘るとは聞いた事があるけど……これはどういうことだろう?」
掘る体勢を維持したまま、何もしようとはしない。明らかに妙だ。
「ドリュウズ! お願い! 力を貸して!」
アイリスが必死にドリュウズに訴えるも、ドリュウズは全く動こうとしない。
「……もう、こうなったらあたしがやる! サトシ、デント! 何とかしてペンドラーを足止めして!」
「おいおい、無茶だぞ!」
「そうだよ! 直接なんて……!」
「これも、おばば様が言う試練の一つよ! キバゴは私のパートナー! 私が守らなくてどうするのよ!」
それだけは譲れないと、アイリスは断言する。
「……分かったよ!」
「僕達でペンドラーを止めるから、その隙に」
ここまで言うアイリスの想いを、尊重しない訳には行かない。サトシとデントは足止めを受け入れた。
「ピカチュウ、ミジュマル、マメパト、ポカブ! 同時にペンドラーの手前に攻撃して、怯ませてくれ!」
「ピカ!」
「ミジュ!」
「ポー!」
「カブ!」
四匹は頷く。先ずは彼等の攻撃でペンドラーの足を止める。
直接ではないのは、ペンドラーにダメージを与えて逆上するのを避ける。また、ペンドラーには非がないので、直接攻撃は控えたいためだ。
「ヤナップ、動きを止めたペンドラーをつるのムチで数秒でも良いから封じてくれ」
「ツタージャも頼むよ」
「ナプ」
「タジャ」
次に、怯んだ隙を狙って、ヤナップとツタージャがつるのムチで動きを封じるという訳である。
「ドラーーーッ!」
「来るよ!」
「皆準備だ!」
ピカチュウ、ミジュマル、マメパト、ポカブの四匹が道に立ち、ツタージャとヤナップが左右の木に移動。直後にペンドラーが迫る。
「三、二、一……今だ! ピカチュウ、でんきショック! ミジュマル、みずてっぽう! マメパト、エアカッター! ポカブ、ひのこ!」
「ピー……カーーーッ!」
「ミジュ……マーーーッ!」
「クルー……ポーーーッ!」
「ポーカー……ブーーーッ!」
「ドラァ!?」
電気、水、空気、炎。四つの力がペンドラーの手前の足場で同時に炸裂。ペンドラーの動きを止める。
「タジャ!」
「ナプゥ!」
そこにツタージャとヤナップが木影から木に絡ませながら蔓を放ち、ペンドラーの身体に巻き付けて動きを封じる。
「今だ、アイリス!」
「うん!」
準備している間に木に登っていたアイリスは、蔓を掴んだままぶら下がる。
勢いや落下、重さを利用して加速すると、キバゴを見事にキャッチ。そのまま着地する。
「大丈夫、キバゴ?」
「キババー!」
アイリスの元に戻り、また温もりを感じて安心したのか、キバゴは笑顔を浮かべる。
「――ドラーーーッ!」
「タジャ!」
「ヤプ!」
「ツタージャ!」
「ヤナップ!」
と、そこで終われば良かったのだが、まだ怒りが収まらないペンドラーが暴れ、ツタージャとヤナップが振り回されて飛ばされる。サトシとデントは二匹を慌てキャッチ。
「キバゴは助けれたけど……」
「まだペンドラーは、怒り心頭のようだね……」
「ドラー……!」
後は怒れるペンドラーをどう止めるか。それを考えるサトシ達だが、その時、ペンドラーの足がドリュウズに触れる。
ごろんごろんと転がっていくドリュウズは岩に当たって跳ね上がり、その岩に突き刺さる。
すると、今までは動かなかったのに突如回転し始め、岩や地面を貫通。地中から出てくると図鑑と同じ姿で登場する。
「ドリューーーウズッ!!」
「ドラ!?」
その雄叫びに、ペンドラーが振り向く。
「ドリュウズ!? やる気になってくれたの!?」
「……」
「ド、ドリュウズ?」
戦う姿勢のドリュウズにアイリスが嬉しそうに呼び掛けるも、ドリュウズは先程同様に答えない。ただ、鋭い眼差しをペンドラーに向けていた。
「ドラァ!」
どくどくを吐き出すペンドラー。紫色の液体はドリュウズに掛かるも、何ともなさそうに堂々としている。
「どくどくが効いていない……? あのドリュウズ、鋼タイプ?」
「うん。正確には、鋼と地面タイプ」
毒が効かないのは、同じ毒タイプか鋼タイプのみ。外見からはとてもだが、毒タイプのポケモンには見えないので、鋼タイプとサトシは予想したが、半分当たっていた。
「――リューズ!」
どくどくが効かず、戸惑うペンドラーの隙をドリュウズは見逃さない。身体を出てきた時と同じ姿にすると、高速回転しながら突撃。ペンドラーを力ずくで後退させる。
「今のは……!」
「ドリルライナー。身体を高速回転して突撃する技だよ。かなりの威力と、急所に当たりやすい特性がある」
確かに、あのペンドラーを力で押し退けた。技の威力、そして、ドリュウズの能力が伺える。
「それに、怯んだ隙を的確に突いた。あのドリュウズ、相当なセンスを感じるね。ただ……」
ドリュウズはアイリスの指示をやはり、一切聞いていない。自分の力量だけで戦っている。
「なぁ、アイリス。何で指示を出さないんだ?」
「……の」
「えっ?」
「……聞かないの。ドリュウズはあたしの指示を」
「ど、どうしてだい!?」
指示を聞かないとの発言に、デントは困惑するも、サトシは昔のリザードンみたいだと感じていた。
「……」
「ド……ドラァ!」
「メガホーン!」
自分に強烈なダメージを与え、鋭い眼差しで睨むドリュウズに、ペンドラーは角を突き付けた状態で猛突進。虫タイプの技の中でも最強の威力を誇る技、メガホーンだ。
「ドリュウズ!」
「ド……リーーーウズッ!」
「――受け止めた!」
その突撃を、ドリュウズはペンドラーの角を的確に掴み、足に力を込めて強く踏ん張る。
後退はしたものの、ドリュウズは完全にペンドラーの技を受け止めていた。
「ド、ドラ……!」
「……」
自身の最強技を受け止められ、ドリュウズとの力量差を悟ったペンドラーは戦意を喪失。
そんなペンドラーに、ドリュウズは無言で爪を硬質化。メタルクローだ。これでペンドラーを倒すつもりなのだ。
「だーーーっ! 待った待った、ドリュウズ!」
「……ドリュ?」
「……ドラ?」
そこに、サトシが立ちはだかる。疑問符を浮かべるドリュウズを他所に、サトシは同じく疑問符を浮かべていたペンドラーと向き合う。
「ペンドラー、怒らせてごめん! だけど、キバゴには悪気は無くて、偶々こうなっちゃったんだ!」
「ピカピカ、ピカピ!」
サトシはペンドラーに事情を説明。また、ピカチュウも攻撃したことについて頭を下げていた。
「アイリス、キバゴ!」
「う、うん!」
サトシに呼ばれ、アイリスもペンドラーに近付く。デントもだ。
「ペンドラー、キバゴが迷惑を掛けて、本当にごめんなさい!」
「キバキバ、キババ!」
「本当に申し訳ない」
「……」
ペンドラーはしばらく、彼等をじーと見つめる。冷静に考えると、彼等は直接攻撃を控えていた。
「……ドラドラ」
十数秒ほど経つと、故意にやったのではない事を納得したのか、ペンドラーは次からは気を付けろよと告げると、背を向けてサトシ達からゆっくり離れていった。
「どうやら、納得してくれたみたいだね」
「良かった~」
「キバゴ、次からは無茶しないこと!」
「キババ……」
キバゴも反省したのか、頭をペコペコと何度も下げていた。
「後は……」
ドリュウズだ。サトシ達が見つめ、アイリスが一歩を前に出る。
「ドリュウズ、その……」
「……リュズ」
ふんと不快そうに鼻を鳴らすと、ドリュウズはサツマイモみたいな体勢に戻ってしまった。
「……戻って、ドリュウズ」
アイリスは憂鬱な表情で、ドリュウズをモンスターボールに戻す。
「ねぇ、アイリス。君とドリュウズの関係って……」
「……色々あって、今は良くないの」
そのアイリスの言葉に、サトシはあることを思い出した。
「アイリス、前にNさんが言ってた仲直りってもしかして……」
「……うん、この子との事。あの人がどうやってそれを知ったかは、分からないけど」
Nは前の町で、アイリスに仲直り出来ると良いと言っていた。あの時さっぱりだったサトシとデントだが、今なら分かる。あれはドリュウズとの事だったのだ。
「……Nさんは、ポケモンの声が聴こえるって言ってたから、多分それでだと思う」
「……そうなの? ……羨ましい」
自分にも有ることは有るが、それは限定的。N程の力が有れば。アイリスはついそう思ってしまう。
「だけど、アイリス。Nさんはその能力を話す時、こう言っていた。重要なのは、ポケモンの心を感じ取ることだって。アイリスも、このままが良いって思ってはないんだろ?」
「……うん。いつかきっとまた一緒に戦える日が来るって、あたしは信じてる」
今はダメでも、何時かは。アイリスはそう思いながらドリュウズが入ったモンスターボールを見つめていた。
「アイリス、バトルも料理も、熟成するには時間と手間がかかるものだよ。焦らずにゆっくり、キバゴとアイリスのペースを、大事にしていけばいいんじゃないかな。もちろん、ドリュウズとも」
「手助けが欲しいなら、俺達が手伝うよ。なっ、デント?」
「勿論」
「……ありがと」
キバゴとの事も、ドリュウズとの事も、力になると言ってくれた二人に、アイリスはまた小さくはあるが、礼を言う。
「じゃあ、スッキリするためにも軽くバトルしようぜ」
「やだ」
「えぇ~?」
「だって、キバゴはまだまだだし、ドリュウズは言うこと聞かないし。負ける勝負はやなの」
これではまともなバトルなど出来ず、サトシには勝てない。
「そんなこと言ってたら、強くなれないだろ。それに言うことを聞かなくても見ることでドリュウズの気持ちを知れるかもしれないじゃないか」
「そ、そうかもしれないけど! イヤなものはイヤなの!」
駄々っ子のように、アイリスは断る。とは言え、その台詞は上手く行くかどうかの不安からのだと、デントは気付いていた。
「そ、そんなにバトルしたいのなら、サトシがピカチュウとでもすれば?」
「俺とピカチュウで? ……うん、面白そうだな! やろうぜ、ピカチュウ!」
「ピカ!」
「……え? ウソ? 本気?」
「いや、サトシ。今のはアイリスの冗談……」
アイリスが戸惑い、デントが冗談と伝えるも、既にサトシとピカチュウはその気になっており、近くの広場で向き合う。
ちなみに、サトシのポケモン達もいや、まさかと思いながら見ている。
「でんきショック!」
「ピーカ、チュ!」
「うひゃあ! 中々痺れるぜ! 次はアイアンテール!」
「ピッカァ!」
それを見て唖然とする者達。サトシは電撃を食らい、鋼鉄の尾を腕で受け止めながらも、平然としていた。
しかも、高速の突撃のでんこうせっかはサトシも動いてかわすは、たたきつけるは腕で弾く。その後もやりあうわと、無茶苦茶である。
『……え? これ、夢ですか? 夢ですよね?』
『気持ちは分かるけど……多分現実、だと思う……』
『す、すげえぜ、サトシ!』
『いや、もうこれ凄いってレベルじゃないわよ……。あたし、色んな意味でとんでもない人といるのかも……』
その光景に、ミジュマルを除いたサトシのポケモン達は唖然としていた。ちなみに、話しているのは順にマメパト、ポカブ、ミジュマル、ツタージャである。
「……ね、ねぇ、あそこまでやらなきゃダメ、なのかな?」
「いや、あれは……流石に例外」
生身でポケモンと戦ってまで、鍛錬させる人間など早々いるわけない。これにはデントも冷や汗を流していた。
「行くぞ、ピカチュウ~!」
『こっちも遠慮なくやるよ!』
サトシとピカチュウ、人とポケモンのバトルは、しばらく間続いたのであった。
ちなみに、その後サトシは四匹にもしないかと聞いたが、ミジュマル以外は断り、唯一頷いたミジュマルもツタージャに止められたので、行われなかったのは余談である。