ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ 作:ぐーたら提督
「ちょっとちょっとーっ!」
「へっ?」
川の側を歩いているサトシ達に、慌ただしい声が聞こえた。
振り向くと、大きくハネた金髪の髪型と緑色の瞳、緑のベレー帽や白のベルスカートを来た少女が近付いている。
デントは見たことがある容姿に記憶を探ながら、サトシとアイリスは誰だと思いながら其処で止まる。
「待って待って――わわっ!?」
少女が石に躓き、フラフラとしながらこっちに来る。その拍子でサトシとデントにぶつかり、二人は川に落ちてしまった。アイリスは前と同じ様に避けたが。
「何すんだよー……」
鞄の中にはこの前育て屋の幼稚園で受け取ったタマゴがある。
ケースに入ってるとはいえ、水から守るため、咄嗟に鞄を持ち上げていたサトシはびしょ濡れになりながらそう呟いた。
「ごめんなさい!」
その後、濡れた服を脱ぎ焚火の近くで暖をとるサトシとデントに、少女は何度も頭を下げていた。
「もう良いから……ところで、君は確かベルって名前だったよね?」
「あっ、はい」
「知ってるのか、デント?」
少女、ベルの事を知ってるようなデント。彼女も了承したことから、それが事実だと分かる。問題は何処で会ったかだ。
「以前、サンヨウジムに来た挑戦者だよ」
「あっ、デントさん? どうしてここに?」
そこでベルもデントの存在をしっかりと認識し、ジムリーダーの彼が目的の人物といるのかを尋ねる。
「僕は今、彼と旅をしているんだ。ところで、君がサンヨウジムに挑んだのは結構前だよね?」
「えっ、そうなの?」
「うん、シューティーやサトシよりもかなり前のはずだよ」
「じゃあ、ここにいるのっておかしくない?」
時間や距離を考えると、彼女はもっと離れた場所にいるはずだ。
「そ、それは……」
その事を聞かれ、ベルは困った表情を浮かべる。
「負けたからとか?」
「いや、彼女は勝ったよ。……まぁ、かなり無茶苦茶な戦い方だったけど」
「だったら、変よね?」
無茶苦茶な戦い方というのが引っ掛かるも、ベルはサンヨウジムで勝った。ならば、この場所にいるのはやはりおかしい。
「そ、そんなことどうでもいいでしょ! それよりも、あなたサトシくんよね?」
「俺?」
「ピカ?」
「これ見て」
ベルが腕に付けたライブキャスターのスイッチを押すと、アララギ博士の顔が映る。
「アララギ博士!」
『はーい、サトシ君。元気? ジムはどう? バッジは?』
「一つゲットしました!」
『やるわね。――で、そのバッジなんだけど……。ごめんなさい、バッジケースを渡すのを忘れてたわ。だから、その子、ベルから受け取って』
急にサトシが旅立ちを決意したこともあり、バッジケースまでは頭が回らなかったのだ。
これはNの時もであり、彼の場合は直ぐに思い出したことで届けれた。
「分かりました」
『あと、薬はまだある?』
この薬とは、ピカチュウの体調を改善するための物だ。
「え~と、まだあります」
『良かった。足りなくなったら言ってね。ちょっと時間が掛かるけど、必ず送るわ』
「はい」
『じゃあ、頑張ってね』
報告が終わり、ライブキャスターの映像が途切れた。
「と言うこと」
「そっか、ありがとう」
届け物を渡してくれたベルに、サトシは礼を言う。
「一応自己紹介。わたしはベル」
「俺はサトシ。こっちは相棒のピカチュウ」
「あたしはアイリス。こっちはキバゴ」
「僕はデント。今は一人のポケモンソムリエ、ポケモントレーナーとして旅をしてる」
自己紹介が終わると、サトシは気になる事を尋ねる。
「ベルは、アララギ研究所まで行ったのか?」
サンヨウシティから、カノコタウンまで戻り、またここまで来た。何故、そんなに歩いたのかが引っ掛かる。
「ま、まぁ、それは良いでしょ! とりあえず、バッジケースね!」
誤魔化す様な態度でベルは話を切り上げると鞄を開き、バッジケースを取り出そうとする。
「あ、あれ? ここに容れたはずなんだけど……」
しかし、どうやら鞄の中がごちゃごちゃしているせいか、バッジケースが中々見つからない。
しばらく立ち、火が消えて服が乾いた頃。
「バッジケース、まだ?」
「待って! え~と――あった! はいこれ」
漸くバッジケースを発見し、ベルは取り出したが埃にまみれており、思わず嚔する。
「凄く汚れてるじゃない!」
「ふー、ふー……はい、どうぞ」
息を吹き掛け、埃をある程度飛ばすとベルはサトシにバッジケースを手渡す。その様子を、木の上からあるポケモンが見ていた。
「じゃあ、早速」
バッジケースを開き、トライバッジを仕舞う。
「あと、七つか」
それでイッシュリーグへの参加権を得られる。速く手に入れたいと思うサトシだった。
「サトシなら順当に行けるよ」
「ありがとう」
「サトシくんは幾つ持ってるの?」
「まだ一つ」
まだ挑戦したのはサンヨウジムだけなので、一つしかない。
「奇遇! わたしも一つなんだよ!」
「トライバッジよね?」
「うん、デントさんに勝ってゲットしたの」
「戦ったの、デントだったのか?」
「うん」
「どんな勝負だったんだ?」
「……猪突猛進?」
デントにベルとの戦いを聞くが、その言葉にアイリスはえっと呟く。
「とにかく突撃ばかりしてきてね……。おかげでペースを崩されて、負けちゃった」
色んな方法で対処しようが、そんなのお構い無しに突撃し、その内に特性の力が合わさった一撃を受けて負けたのだ。
「凄い戦い方……」
サトシも攻めるタイプだが、突撃ばかりはしない。彼以上に超攻撃的なバトルスタイルだ。
流石のサトシも少し呆れていると、手にあったバッジケースが突然無くなった。
「えっ!?」
何かが持っていたのを察したサトシがその方向を見ると、灰色の身体のポケモンが走っていた。あのポケモンが持っていたのだろう。
「俺のバッジ! ピカチュウ!」
「ピカ!」
そのポケモンを追いかけるピカチュウ。その後ろをサトシ達が追う。
「結構、すばしっこい……!」
この辺りに住んでいるからか、そのポケモンはスムーズに道を走っていた。
「やるわね~!」
「誉めてる場合?」
「だって私、あんなに素早いポケモン見たこと無いから、嬉しくなっちゃって!」
「変わった人だね……」
何と言うか、マイペースな性格をしているベルに、デントはそう思ってしまった。
「早く取り返さないと……!」
「バッジは理由を言えば、また渡してくれるわよ?」
「あのバッジは俺とポケモン達が一生懸命頑張ってゲットした物なんだ! 新しい物なんて却下だよ!」
あのバッジでなければならない。代わりのバッジなど、お断りであると木を乗り越えて走りながらサトシは言う。
「ピカピカ」
「ピカチュウ、いたか?」
ピカチュウはコクンと頷き、サトシ達を案内。茂った草から顔を出すと、視線の先にはあのポケモンがバッジケースに尻尾で何かしていた。
「可愛い!」
『チラーミィ、チンチラポケモン。綺麗な物が大好きなポケモン。汚れている物を見ると、尻尾を箒代わりに汚れを払う』
「なるほど、バッジケースが埃まみれだから取っていったのか……」
ポケモン図鑑からの情報を聞き、デントはチラーミィが何故バッジケースを取ったのかを理解する。
「綺麗好きなポケモン。面倒臭がりのわたしにはピッタリ!」
「とりあえず、バッジを取り返――」
「決めた!」
バッジを取り戻そうとサトシが前に出ようとしたが、それよりも先にベルが前に出た。
「あのチラーミィ、わたしがゲットする!」
「えぇ!?」
「本当にマイペース……」
「自分勝手なだけじゃない?」
「おい、俺が――」
「良いから、良いから! バッジケースもわたしが取り戻してあげる!」
サトシは溜め息を吐く。とりあえず、ここはベルに任せた方が良さそうだ。
「――あむ」
ベルの行動に、チラーミィはバッジケースを口に含んでから向き合う。
「さぁ行くわよ、チャオブー!」
「――チャオー!」
「あのポケモン……」
ベルのモンスターボールから出てきたのは、初めて見るポケモンだが、何処か見覚えのある容姿のポケモンだった。
「チャオブー。ポカブの進化系だよ」
『チャオブー、火豚ポケモン。ポカブの進化系。食べた物を燃料にして、胃袋で炎を燃やす。体内の炎が燃え上がると、動きのキレとスピードが増す』
「チャオブー、チラーミィにたいあたり!」
「チャオチャオチャオ!」
チャオブーはチラーミィに向かって真っ直ぐに走り出すも、軽々とかわされて草の茂みに突っ込んだ。
「うーん、やはり素早いね」
「――チャオー!」
チャオブーは草から出て、ベルの前に立つ。
「ニトロチャージ!」
「チャオチャオチャオ……!」
「あのチャオブー、ニトロチャージが使えるのか」
ポカブはまだ未完成のニトロチャージを、チャオブーが完全に使える事にサトシは少し驚く。
そんなサトシを余所に、チャオブーは炎の突撃を放つ。しかし、それもかわされ、チラーミィは木を走って登っていた。
「惜しい~!」
「チャオチャオ~!」
技が外れたことに、ベルとチャオブーは一緒に地団駄を踏む。
「うーん、僕の時と全く同じの突撃振り……」
「サンヨウジムの時もそうだったの?」
「うん、ニトロチャージが中心の突撃ばっかりの攻撃」
そうして、速さが最大まで上がった所をひたすら攻められ、負けたのだ。
「早く、バッジケース取り戻してくれよー」
「分かってるって!」
「チャオ!」
チャオブーの声に振り向くと、チラーミィが登った木の枝に立ち、バッジケースを出す。
「チャオブー、もう一度ニトロチャージよ」
「チャオチャオ……」
それからチャオブーに向き合い、両耳を畳むと大量の息を吸い込んで口を大きくすると――大声を発射する。
「ハイパーボイス!」
「チャオーッ!」
強烈な音波にダメージを受け、チャオブーは軽く吹き飛ぶ。
「――チラ!」
その隙を狙い、チラーミィは素早くチャオブーの懐に入り込む。そして、尻尾を使ってチャオブーの身体を擽る。
「チラチラチラチラ!」
「チャオチャオチャオーッ!」
「くすぐるか!」
相手の身体を擽り、攻撃と防御を下げる技、くすぐるだ。
「ハイパーボイスでダメージを与えて怯み、その隙を狙ってくすぐるで攻防を下げる……」
その次はおそらく、攻撃してダメージを与える。中々の戦術だ。
「戻って、チャオブー!」
不利と悟ったのか、ベルはチャオブーをモンスターボールに戻す。
「なになに、あのチラーミィ、小さいのにあんなに出来るなんて~! 益々ゲットしたくなっちゃった~!」
「もう良いよ、俺がやる!」
これ以上は待てないと判断したのか、サトシは自分でやると前に出る。
「さてと、誰に――」
「ミジュ!」
しようかと思ったサトシに、モンスターボールからミジュマルが出てきた。
「ミジュジュ!」
「お前がやりたいのか?」
「ミジュ!」
あのトライバッジは、サトシや自分、仲間のマメパトやポカブが一生懸命頑張って手に入れた努力の証。だからこそ、自分の手で取り戻したかった。
「分かった! 君に決めた、ミジュマル!」
「ミジュ!」
サトシはその意志を汲み、ミジュマルで戦う事を決めた。
「へ~、サトシくんのポケモンって、モンスターボールから勝手に出てくるんだ~」
「まぁ、ミジュマルだけ――」
「面白ーい!」
「話聞かないし……」
勝手に出てくると思い込んだベルに、ミジュマルだけの例外だとアイリスは言ったが、やはり話を聞いていない。
「ミジュマル、アクアジェット! 前!」
「ミジュマーーーッ!」
先制攻撃に、ミジュマルは水を纏って突撃する。
「チラ!」
「右!」
「ミジュ!」
「チラ!? チラーーッ!」
右に避けたチラーミィだが、サトシの指示で方向転換したアクアジェットが直撃、吹き飛ぶ。
「みずてっぽう!」
「ミジューーーッ!」
「ミィーーッ!」
追撃のみずてっぽう。体勢が崩れた事もあり、チラーミィは諸に受ける。
「チラー……ミィーーーッ!!」
距離を取り、両耳を畳むとまた大声を放つ。ハイパーボイスだ。
「右にかわして、たいあたり!」
「ミジュ! ミジュマ!」
「チラーーッ!」
ハイパーボイスをかわし、技を放つ硬直の間を狙って体当たり。ダメージを与える。
「ミージュ」
「チラ……!」
どうだと、ミジュマルはチラーミィに向けてふんぞり返る。
「うわ、サトシくん強い!」
「まぁ、あのチラーミィも出来なくはないけど、サトシの敵じゃないね」
特にチラーミィはハイパーボイスを放つ時、耳を畳むと言う、分かりやすい事前の動作がある。
Nのゾロアのハイパーボイスとは雲泥の差だ。あれに比べれば、かわすのは容易い。
「ミジュマル、アクアジェット! 後ろだ!」
「――ミジュ!」
チラーミィとは正反対の方向だがミジュマルは従い、そちらに向かって移動。
「……チラ!?」
その方向に、チラーミィはまさかと思ったが、止めることが出来ない。
「上! そこでアクアジェットを解除! バッジケースを取るんだ!」
「――ミジュ!」
チラーミィがバッジケースを置いた木の枝にまで移動したミジュマルは、バッジケースを回収。サトシの元に戻り、手渡す。
「ありがとう、ミジュマル」
「ミジュミジュ」
どういたしましてと、ミジュマルは自信満々に胸を張る。
「攻撃と見せ掛け、バッジケースを取り戻す。流石サトシだ」
「さてと、後は――」
「チラーミィーーーッ!」
チラーミィをどうするか。ベルがまた前に出ようとしたが、その前に綺麗にしようとしたバッジケースを奪われ、怒ったチラーミィが突撃する。
「チラーーッ!」
「おうふくビンタか! ミジュマル、シェルブレードで打ち合え!」
「ミジュ!」
尻尾を振り回すチラーミィだが、水刃で何度も弾かれる。
「ミジュマ! ミジュー……マーーーッ!」
「チラーーーッ!」
シェルブレードの打ち合いで防御を低下し、尾が弾かれて隙が出た一瞬を狙い、斬撃で叩き込んで大きなダメージを与える。
「うーん、一方的……」
「実力は完全に上、怒りでまともな判断が出来ていない。これじゃあ、チラーミィに勝ち目はないね」
自分のヤナップ、シューティーのヒトモシやジャノビーとの厳しいバトルでの経験を得た、ミジュマルに勝てる要素はないとデントは断言する。
「ミィ~……」
「ふらついてる」
「チャンス!」
また、シェルブレードの一撃でチラーミィはフラフラだった。それをゲットのチャンスと見たベルが、モンスターボールを取り出そうとする。
「あ、あれ? モンスターボールどこだっけ?」
「おーい、早くしないと逃げちゃうぞ?」
「わ、分かってるってば! え~と、これじゃない、これでもない……」
「――チラ? ……ミィ!」
「あっ、逃げちゃう!」
「――あった!」
その間に多少回復し、ミジュマルには勝てない、諦めるしかないとチラーミィは逃げようとしたが、同時にベルがモンスターボールを取り出した。バッジケース同様、埃だらけの。
「また埃だらけ……」
「ミィ!?」
「けほ、けほ……。ふー、ふー……」
また息を吹き掛け、埃を飛ばすベル。そこにモンスターボールの汚れに反応したチラーミィがベルの肩に乗ると、さっきのバッジケース同様、尻尾でモンスターボールの汚れを払っていく。
「あっ」
「ミィ!?」
すると、モンスターボールのスイッチに尻尾が触れ、チラーミィが吸い込まれた。
そして、ダメージの蓄積もあってかそのままパチンと鳴って、ゲットされてしまう。
「……ゲットしちゃった」
「えぇ!?」
これには、流石のサトシも驚くしかなかった。
「うわー、完全に棚ぼた」
「よほど、あの汚れが気になったんだな……」
無視して逃げれば、ゲットされなかっただろうが、チラーミィには見逃せなかったようだ。
「だけど、大丈夫なの? 面倒臭がり屋と綺麗好きって……」
「まぁ、そういう凸凹コンビだからこそ、上手く行くマリアージュもあるよ。それに、最初は悪くとも、付き合い方次第では良くなるさ。サトシとピカチュウの様にね」
「それもそっか」
サトシとピカチュウは最初険悪だったが、旅の中であれほどの中になったのだ。まぁ、そう行くかはベル次第だが。
「じゃあ、チラーミィもゲットしたことだし、近くのポケモンセンターに向かいましょ!」
「ちょっと、おーい!」
ベルはサトシの手を取ると、ポケモンセンターに向かって走り出した。
「本当、マイペースね~……」
「あはは……。とりあえず、着いていこうか」
こうして、四人はポケモンセンターへと向かった。
「――ノクス」
その騒ぎを聞き、一匹のポケモンが静かに歩いているのを、まだ知らないまま。
場面は変わり、シッポウシティ。カラフルなデザインが施された倉庫が並ぶ町の一ヶ所にロケット団がいた。これからの作戦に向け、下見を兼ねて来たのだ。
「ここがシッポウシティにゃ」
「倉庫ばかりね……」
「まぁ、使われなくなった倉庫を再利用して出来た町だからな。それよりも……」
コジロウが持っているタブレットを操作し、シッポウシティの地形のデータを出す。
「これは?」
「今は使われていない鉄道の線路だ。昔は倉庫が沢山あったと聞くし、その為のだろうな」
「博物館はどこにゃ?」
「――ここだな」
タッチパネルを操作し、目的の物がある博物館を発見する。
「後は下見ね。逃走経路を確保して置きましょう」
「あぁ」
予定も決まり、ロケット団は任務の為の準備を始めた。
「――追跡はどうですか?」
その近くのホテルの一室。そこで、明るい目の色の男性がロケット団を追う三人組の男とあっていた。
「問題ありません、リョクシ様。追跡は順調です」
「流石、あの方の側近ですね」
「有り難き御言葉」
「ところで、例の物は?」
「これです」
リョクシと呼ばれた男性は、持っていた鞄を三人組の一人に手渡す。
一人が鞄を開くと、そこには人の腹ほどの長さの岩があった。
「しかし、これが使える時が来るとは、世の中何が役に立つか分からない物ですね」
この岩は失敗作。ある目的で造られたものの、その目的を達成する事が出来ず、後の研究の為のサンプルとして保管されたが、今回の目的には使えると持ち出されたのだ。
「後は貴方達にお任せしますよ」
「はい、お任せください」
目的の物も渡した事なので、リョクシは部屋を後にする。
「では、今日の夜に動くぞ。データはあるな?」
「あぁ、以前の調査で入った事があるからな」
以前、ある調査で向かった事があるので、構造については知っていた。
「確か、岩や骨を調べていたのだったな?」
「そうだ。ただ岩はともかく、骨は目的の物とは違ったがな」
「そうか。それよりも、入るタイミングだが、明日秘宝展の展覧会が開催されると聞くぞ。今夜直ぐに向かうべきではないか?」
「ふむ、では今日中に実行しよう。ただ、準備や警備で人が多い場合も有り得る。慎重にだ」
展覧会の話を聞き、三人組は今日中に済ませる事にした。
「では、始めるぞ」
「了解」
次の任務に向け、三人組も準備を始めた。
「はい、お預かりしたポケモンは皆良くなりましたよ」
「ありがとうございます」
ポケモンセンター。戦いで疲れたミジュマルや、ダメージを受けたチャオブー、チラーミィの治療が終わり、モンスターボールを受け取るサトシとベル。
「あと、サトシさんが持っていたタマゴの健康診断ですが、とっても元気ですよ」
「本当ですか? 良かった」
「タブンネ」
元気と聞いて喜ぶサトシだが、タブンネの言葉にちょっと微妙になった。
「なんのタマゴなの?」
「さぁ、俺も聞いてないから分からない」
「そう。それよりサトシくん、わたしのバトルしない?」
「おっ、良いね! やろうぜ!」
タマゴに興味を持っていたベルだが、何かは不明と聞いてサトシとのバトルを提案。サトシは勿論受けた。
「使用ポケモンの数はどうする?」
「折角だから、二体にしましょう!」
ポケモンセンターの隣にあるバトルフィールドで、サトシとベルが試合のルールを決めていた。
チャオブーだけでなく、ゲットしたばかりのチラーミィともやってみたいので、ベルは二体を提案した。
「分かった」
「バッジは一つ同士。どっちが勝つかしら?」
「サトシだね」
デントは迷わずに断言した。サトシが勝つと。
「何で即答で断言出来るの?」
「確かに僕に勝った者同士。だけど、差がある」
「差?」
「まぁ、見れば分かるよ」
どのみち、今の自分達は観客なので、そうするつもりだった。デントと一緒にこれから始まるバトルに気を集中させる。
「じゃあ、行くわよ~! 先ずはチラーミィ!」
「チラ!」
「じゃあ、俺は――」
「サトシくん、ミジュマル出してよ! この子、さっきのリベンジしたいでしょうし。ねっ、チラーミィ?」
「チラ!」
チラーミィは頷く。先ほどのリベンジをしたかった。
「やだ。――行け、マメパト!」
「ポー!」
サトシはベルの要請を断り、マメパトを繰り出す。つばめがえしの完成のためにも、経験を積ませたいのだ。
「むー、サトシくんのいけず。まぁ良いわ! チラーミィ、ハイパーボイス!」
「ミィーーーッ!」
「右から攻めろ! つばめがえし!」
「ポーーッ!」
「ミィッ!?」
放たれたと同時に右に動いてかわし、直ぐに左に動いてチラーミィに突撃。軽々と命中する。
「うー、やっぱり強い……。だったら、これよ! スピードスター!」
「チラーーッ!」
「でんこうせっか! 突っ込め!」
「ポーーーーッ!」
星型のエネルギー弾を大量に放つチラーミィだが、機動力で全て回避されてしまう。
「かぜおこし! そして、そこからのつばめがえし!」
「クルーポーーーッ!」
「チラーミィ、避けて!」
「チラ――ミィーーーッ!」
避けようとしたチラーミィだが、最初の風で体勢を崩された所につばめがえしを叩き込まれる。
「もー! こうなったらこの技よ! メロメロ!」
「メロメロ?」
「あのチラーミィ、メロメロが使えるの?」
「これは意外なテイスト」
「チラー……ミィ!」
チラーミィがツタージャと同じ様にウインク。すると、ハートマークが次々と出てマメパトに迫る。
「周りにかぜおこし、次にエアカッター! 切り刻め!」
「ポー!」
風を周囲に展開し、次に空気の刃を放ってハートマークを切り刻んでいく。
「えっ、ウソー!?」
「ミィー!?」
「まぁ、素直に食らおうとするわけないよね」
「それもそうね」
とっておきに出したメロメロだが、瞬時に対処されてしまった。
「でんこうせっか!」
「ポー!」
「ミィ!」
「あぁ、チラーミィ!」
ショックなチラーミィだが、その隙をサトシは見逃さない。素早くでんこうせっかでダメージを与える。
「とどめだ、つばめがえし!」
「クルー……ポーーーーッ!」
「チラーミィ、おうふくビンタ!」
「ミィッ!」
つばめがえしとおうふくビンタが激突。しかし、一撃のつばめがえしと連撃のおうふくビンタでは前者に軍配が上がり、チラーミィは吹き飛んだ。
「ミィ~……」
「チラーミィ! そんな~」
「ご苦労様、マメパト」
「ポー」
勝利と労いの言葉に、マメパトは笑みを浮かべる。
「ゆっくり休んでくれ」
サトシはマメパトをモンスターボールに戻し、次のモンスターボールを取り出す。
「今度は負けないんだから~! チャオブー!」
ベルもチラーミィを戻すと、チャオブーを繰り出す。
「チャオ!」
「やっぱり、チャオブーか」
良かったと、サトシは安心する。これで良い経験になる。
「よし――」
「サトシくーん! 次はピカチュウにしてー!」
「えぇ?」
「ピカチュウと戦える経験なんて、中々ないもーん! 良いでしょー?」
「だから、ベルが決めないでくれよ。――ポカブ、君に決めた!」
「――ポカ!」
またベルに頼まれたが、サトシは断ると次のポケモン、ポカブを出す。
「えっ、ポカブ? 何で?」
「あー、なるほどね。だからポカブを……」
てっきり、ミジュマルかと思いきや、出したのはポカブ。アイリスは疑問符を浮かべたが、デントは納得した様だ。
「ふーん、ポカブかぁ……。なら、この勝負はわたしの勝ちね!」
「どうかな?」
進化前のポカブを見て、このバトルは自分の勝ちだと思うベル。一方、サトシは不敵な笑みを浮かべる。
「チャオブー、とっしん!」
「チャオーーーッ!」
「ポカブ、かわせ!」
「ポカ!」
チャオブーの荒々しい突進を、ポカブは軽やかにかわす。
「むー、やるわね……。なら、ニトロチャージ!」
「チャオチャオチャオ……!」
「カブ!?」
何度か踏むと、チャオブーから炎が噴き出す。それにポカブは驚くも、同時に何故サトシが自分を出したのを理解した。
「チャオブーーーッ!」
「ポカブ、かわしてひのこ!」
「ポカ! カブーーーッ!」
「チャオッ!」
チャオブーの突撃をポカブはかわし、加速から止まった所に、火の粉が命中させた。効果は今一つだが、確かなダメージを与え、怯ませる。
「ポカブ、ニトロチャージ!」
「カブカブカブ……! カブーーーッ!」
その隙にニトロチャージ。炎の突撃を放つポカブ。
「かわして!」
「チャ――オブー!」
回避しようとしたチャオブーだが、ダメージによる怯みが影響して鈍り、直撃してしまう。
「サトシくんのポカブもニトロチャージが使えるんだ! ならチャオブー! もう一度ニトロチャージよ!」
「引き付けてから避けろ!」
「チャオーーーッ!」
「カブ!」
更にニトロチャージを放つチャオブーだが、直線的な為に引き付けられてかわされる。
「かみつく! 更にひのこ!」
「カブカブ!」
「チャオ!」
また止まった所を狙い、かみつく。次にひのこの連続攻撃を浴びせる。
「ニトロチャージ!」
「カブーーーッ!」
「チャオーーーッ!」
更にニトロチャージ。ダメージを着実に重ねていく。
「チャオブー! もー、どうしてこうも一方的なのー!?」
相手が進化前にもかかわらず、一方的な展開にベルは戸惑う。
「良い様にされてるわね~」
「彼女の戦法は単調過ぎるんだ。ひたすら突撃じゃあ、サトシには通用しない」
ジム戦でベルが自分に勝てたのは、デントが待ち受ける、受け側だった、初めて見たという理由もある。だからこそ押し切れた。
しかし、一度見た以上はサトシには通用しない。攻撃的という点は似ているが、その攻撃を当てれるだけの技量がサトシにある。一方でベルにはない。それゆえに届かない。
「だったら……そうだ! チャオブー、全力でヒートスタンプ!」
「チャオー!」
「何だ?」
初見の技に、サトシは少し反応が遅れた。その間に跳躍したチャオブーはポカブ目掛けて落下する。
「のしかかりみたいな技か! ポカブ、かわせ!」
「カブ!」
動作から、ヒートスタンプをのしかかりのように身体で押し潰す技だと判断したサトシは素早く回避を指示。ポカブは距離を取る。
「ふふーん、やっぱりそうくるよね。でも、本当の狙いは――地面よ!」
「チャオブーーーッ!」
ヒートスタンプによる衝撃が大地を揺らす。その揺れにより、ポカブやサトシがふらつく。
「うおっ!」
「ポカ!?」
「今よ、とっしん!」
「チャオー!」
隙が出来た。チャオブーが全力の突進を仕掛ける。速さもニトロチャージで上がっており、ポカブは体勢が崩れたまま。確実に決まるとベルとチャオブーは思った。
「ひのこ! 足下にだ!」
「カブ!」
しかし、その前にポカブが足下に向けて火の粉を放つ。すると激突による爆風が発生、その勢いでポカブは跳躍して突進を回避する。
「えぇええぇー!?」
「チャオーーーッ!?」
当たると思った一撃をかわされ、ベルとチャオブーは大声で叫ぶ。
「たいあたり!」
「ポッ――カァ!」
「チャオ!」
ポカブは着地すると素早く体当たり。チャオブーがダメージで吹き飛んだ所を狙い、サトシはとどめの指示を出す。
「ニトロチャージ!」
「カブカブカブ……カーブーーーッ!!」
「チャオーーッ!」
「チャオブー!」
炎の突撃を受け、大きく転がるチャオブー。ゴロンと止まると、目を回していた。
「チャオブー、戦闘不能。俺の勝ちだな」
「あーん、完敗……。戻って、チャオブー。ご苦労様……」
ベルは完敗のショックで落ち込みながらも、チャオブーを労いながらモンスターボールに戻す。
「良くやった、ポカブ。ニトロチャージも完成間近だな。良い経験になったろ?」
「カブカブ!」
「経験……。もしかして、チャオブーがニトロチャージを使うから、サトシはポカブを?」
「うん。完成してる技を使う相手とのバトルは、これ以上ない技の鍛錬になる。だから、サトシはポカブを選んだんだ」
況してや実戦だ。これ以上ない経験を得れる中でそれが出来たのは、とても大きい。サトシの言った通り、ニトロチャージの完成も近いだろう。
「はぁ、まだまだね~。これじゃあ、追い付けないな~」
「追い付けない?」
「あっ……まっ良いか。わたし、カノコタウンに同い年のお馴染みがいたんだけど、その人わたしよりも先に旅を経験して、今ではジムリーダー候補にまでなってるの」
ベルは幼馴染み、同年のその人物に付いて話す。彼は前の電話で順当に進めば、あと一年か二年でジムリーダーになれると言っていた。
「へぇ、それは凄いね」
若くしてジムリーダーになるには、相当な努力が必要だ。自身がジムリーダーだからこそ、デントはそれを理解していた。
「でしょ? だから、わたしも頑張らなきゃと思ってるんだけど……」
バッジはゲットしたが、サトシには完敗。これでは先は長い。
「旅をすれば、大丈夫さ」
「そうだね。旅ほど沢山の経験を得るものはない。頑張って行けば、その友人に追い付けるよ」
「そう上手く行けば良いけど……」
「何か不安でもあるの?」
「え? ないない! そんなのないよ!」
感付かれると思ったベルは、慌てて手を振って誤魔化す。
「そんなことより! サトシくん、今日はわたしの完敗だけど、次に会う時までには強くなってリベンジするから宜しくね!」
「あ、あぁ」
落ち込んだり、はしゃいだりと忙しいベルにサトシは思わず押された。
「じゃあ、わたしはこれで――」
バイバイ、とベルが言おうとしたその時、草がガサッと揺れた音がした。
「なんだ?」
音は、ベルが立っていた側のバトルフィールドの方から聞こえた。
野生のポケモンかと、サトシ達が待っていると――そのポケモンは草木の奥から姿を現した。
瞬間、サトシ達全員に寒気が走る。その迫力を間近で感じたために。
「あれは……!」
「オノノク、ス?」
現れたのは、刃を持つ黒き竜――キバゴの最終進化系、オノノクス。
自分を見る少年に、黒き竜は微かに表情を歪ませた。