ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ   作:ぐーたら提督

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 設定を変えている技があります。



シッポウジム、シューティー対アロエ

「ふぅ……」

 

 博物館の騒動から一夜明け、シューティーは身体をベッドから起こす。モンスターボールをしっかりと確認し、ホルダーに付けると部屋からポケモンセンターのロビーに移動する。

 

「おっ、シューティー。おはよう」

 

「サトシ。おはよう」

 

「はい、サトシくん。タマゴの健康診断が終わりましたよ。状態は至って問題ありません」

 

「タブンネ」

 

「ありがとうございます」

 

 タブンネの声がやはり引っ掛かるも、問題なしと聞いてサトシはタマゴの入ったケースを持つ。

 

「サトシ、それは……ポケモンのタマゴだよね?」

 

「あぁ、これ? シッポウシティに向かう途中で寄った育て屋を譲ってもらったんだ」

 

「へぇ……」

 

 本やテレビでは見たことがあるが、実物を間近で見るのは初めてだ。ポケモンのタマゴに、シューティーは興味を持っていた。

 

「一枚良いかい?」

 

「それぐらいなら良いぜ」

 

「ありがとう」

 

 許可を貰い、シューティーはポケモンのタマゴの写真を一枚だけ撮る。また一枚、良い写真が撮れたと内心で喜ぶ。

 

「――おや、サトシくんとシューティーくん」

 

「Nさん!」

 

 そこに一人の人物がポケモンセンターに入ってきた。ゾロアとポカブを連れた青年、Nだ。

 

「あれ? Nさん、それって……」

 

「ポケモンのタマゴ……」

 

 Nが大事そうに持っているポケモンのタマゴに、サトシとシューティーが強く反応する。

 

「そのタマゴ、もしかして……」

 

「うん、サトシくんが思ってる通りだよ。キクヨさんとユリさんから譲ってもらった」

 

「やっぱり」

 

 ヤブクロンやヤブクロン戦隊の子供達や、ユリやキクヨがいた幼稚園で受け取ったと考えたサトシだが、見事に的中していた。

 

「このタマゴの診断、お願いします」

 

「任せてください」

 

 ジョーイはポケモンのタマゴをNから受け取ると、丁寧に運んでいった。

 

「にしても、サトシ、Nさん。ポケモンのタマゴを預かるって……大変じゃないですか?」

 

「と言うと?」

 

「生まれるまでしっかり見ないと行けませんし、生まれたら生まれたで一から育てないとならないでしょう?」

 

 シューティーはポケモンのタマゴについて、個人としては命が宿る素晴らしいものと理解しているが、トレーナーとしては手間が掛かるものと認識している。

 何しろ、大切にしないとダメだし、生まれたポケモンはレベルが低く、一からの子供のために二重の意味で育てるのに苦労する。

 タマゴを卑下しているつもりはないが、正直な話、自分は遠慮したい。

 

「うーん、俺はそういうの気にしないしなー。新しい仲間が出来る方が嬉しいし」

 

「ボクもサトシくんと同意見。それに、一から育てるのは多くを学べると思うよ」

 

「なるほど……」

 

 言われてみればそうかもしれない。研究所や野生のポケモンとはまた違う育て方が必要になる。多くを学べるのは確かだろう。

 

「シューティーも経験したら見たら?」

 

「機会が有れば、そうして見るよ」

 

 とはいえ、ポケモンのタマゴは中々手に入らない代物。そんな機会が有るかどうか分からないが。

 

「サトシ、もう起きて――って、Nさん」

 

「Nさんも来てたんですか?」

 

「やぁ、デントくん、アイリスくん」

 

 デントとアイリスがロビーに訪れ、Nと顔を合わせた。

 

「さっき会ってさ。あと、Nさんもタマゴを持ってた」

 

「Nさんも?」

 

「うん、このタマゴと同じく、あの幼稚園で」

 

「何のタマゴかは……」

 

「不明。その方が楽しみだけどね」

 

 サトシとN。二人が同じ場所で受け取った二つのタマゴ。一体、どんなポケモンが生まれてくるのか、五人全員が興味津々な様子だ。

 

「じゃあ、サトシ。僕はジムに挑んで来るよ」

 

「観戦しても良いか?」

 

「対策の為かい?」

 

「それもあるけど――応援したいから?」

 

「何で疑問?」

 

 応援は別に良いのだが、疑問符が付くのが引っ掛かった。

 

「アロエさんが許可を出すのなら僕は構わないよ」

 

 ジムリーダーのアロエが許可を出すのなら、シューティー自身に反対する理由もないため、断らなかった。

 

「さて、そろそろ僕は行くよ」

 

「じゃあ、俺達も」

 

「ボクはこの子の検査があるから。じゃあ」

 

 Nと別れ、シューティー達はシッポウジムへと向かった。

 

 

 

 

 

「アロエさん、どこでジム戦をやるんですか?」

 

 博物館。騒動が片付き、多くの来場者で満ちた部屋を歩くシューティー達。

 

「まだ秘密さ。付いてきな」

 

 はいとシューティーは頷くと、アロエとキダチの後ろを歩く。サトシ達はその次に続く。

 六人が少し歩いていると、機会的な扉の前に立つ。キダチがセンサーに手を翳すと開く。

 

「ここからは一般人は立ち入り禁止のエリアです」

 

「挑戦者専用、と言う訳ですか?」

 

「他にも用がある人も使うよ。とりあえず入りな」

 

 扉が開いた先には、本棚が並んでいた。ここまでなら先程の部屋と大差はない。

 

「この部屋は……?」

 

「貴重な本や研究書を集めた書庫だよ。閲覧にはあたし達の許可が必要さ」

 

「ここにある蔵書の数はイッシュ地方一! イッシュ地方の事なら、歴史も文化も全て分かりますよ」

 

 そう豪語するキダチの表情や仕草に、ここには相当な数があることが理解出来る。

 

「歴史……」

 

 サトシのその呟きは、ピカチュウにしか聞こえなかった。

 

「凄い、ポケモンソムリエの歴史書もある……!」

 

「あはは、あんたは確かポケモンソムリエだったね。そりゃあ、気になるだろう」

 

「えぇ、とても」

 

 許可が貰えるのなら、今すぐにでも読んでみたかった。

 

「と言うよりデント、あんたはそもそもどうしてシッポウに? 予定はあったかい?」

 

 それなら、連絡の一つぐらい入って来そうなものだが。

 

「実は僕は今、ジムリーダーを止めて、見聞を広めようとサトシやアイリスと旅をしているんです」

 

「そうだったのかい。頑張りな」

 

「はい」

 

 予定の話が入ってないのも納得が行き、シューティーに問いかけをする。

 

「さて、シューティー。ポケモンバトルには知識も必要。分かるね?」

 

「えぇ、基本です」

 

「そうだね~、この本はどうだい?」

 

 アロエは移動し、ある本を叩く。この本を読めということだろうか。

 

(……何かある)

 

 ジムリーダーが挑戦者にわざわざに勧めるのだ。そう思っても無理はないだろう。

 

「いえ、他の本にします」

 

「――そう。何を読むんだい?」

 

 シューティーは本を見渡していく。ここには歴史の本、それも貴重な代物があるとアロエは言っていた。

 ならば、『あれ』に関しての本もあるのではないのかと思っていたのだ。

 

「――あった」

 

 そして、それは予想通りあった。シューティーはその本を手に取る。

 シューティーが手にしたその本の題名は――理想の竜、即ち、ゼクロムに関しての本だった。

 

「ほう、まさかそれを狙って開くとはね」

 

 適当な本や、他の興味がある本を探す中でその本を読む挑戦者はいたが、狙ってこの本を読もうとしたのはシューティーが初めてだ。

 

「どうしてそれを?」

 

「信じてもらえないかもしませんが、僕は一度ゼクロムを会ったことがあるんです」

 

「あのゼクロムに……?」

 

 イッシュの理想とも呼ばれし伝説のポケモン、ゼクロム。そのゼクロムとシューティーが会ったと知り、アロエとキダチは目を見開く。

 

 

「それは本当かい?」

 

「はい。まぁ、ゼクロムはサトシに会いに来たようですが」

 

「へぇ、そうなのかい?」

 

「いや、どちらかと言うと、ピカチュウに会いに来たんだと思います」

 

 今と次、二人の挑戦者がゼクロムと遭遇したと知り、アロエは興味深げに見ていた。

 

「あの、アロエさん。俺もゼクロムの本を読んでも構いませんか?」

 

「やはり、興味あるかい?」

 

「まぁ……」

 

 初日に会った伝説のポケモンだ。色々と気にして当然だろう。

 

「構わないよ。ただ、一つ質問に答えて貰うよ」

 

「どんな質問ですか?」

 

「アンタが挑戦者だった場合、その本とさっきの本。どっちを先に取る?」

 

「俺が挑戦者だった場合……」

 

 サトシは少しだけ考え、直ぐに結論を出した。

 

「さっきの本です」

 

「どうしてだい?」

 

「ジム戦、早くやりたいですし……」

 

 若干照れ臭そうにサトシはその理由を告げる。ゼクロムの事は気になるが、優先すべきはジムなのである。

 

「なるほどなるほど」

 

 サトシの返答を聞き、アロエは理解した様な表情を浮かべる。

 

「質問は終わり。好きに見て良いよ」

 

「ありがとうございます」

 

 アロエに許可を貰い、サトシもゼクロムに関しての本を見る。

 

「ふーん、サトシったら無理しちゃって。勉強苦手でしょ?」

 

「まあな。だけど、興味あるから読みたいんだ」

 

 そのやり取りを聞き、アロエはふむふむと納得した表情にする。

 

「ここに有るのは、歴史書だけでしょうか?」

 

 しばらく本を読んでいく二人だが、シューティーがそうアロエに尋ねる。

 

「残念ながら、ここでもゼクロムに関しての情報は少ないんだよ」

 

「伝説の存在ですからね……」

 

 歴史や物語は有るのだが、ゼクロムの詳しい生態や力に付いてはほとんど手に入らないのだ。

 

「じゃあ、アロエさん。レシラムに付いては?」

 

「イッシュの真実、レシラムかい?」

 

「はい」

 

 そこでサトシがゼクロムの対の存在、レシラムについて質問する。

 

「サトシ、君はレシラムにも会っていたのか?」

 

「いつの間に!?」

 

 シューティーはつい、そう思ってしまう。とはいえ、いきなりそんな話を持ち出した。サトシがゼクロムに会ったことを考えれば、そう早とちりしても仕方ないだろう。

 

「いや、ふと思っただけだよ。前にレシラムの話を聞いたことがあってさ、ゼクロムの対って聞いたから」

 

「あぁ、それで」

 

 だから、レシラムについても少し気になった。と言う事だろう。筋は通る。

 

「なんだ、会ってないのね。勘違いさせないでよ」

 

「ごめんごめん。で、アロエさん」

 

「あぁ、レシラムに関してだね。それはあっちにあるよ。まぁ、成果はゼクロムとほとんど同じだけど」

 

「歴史や物語しかない、と」

 

「そう」

 

「僕達も、その二体に付いては日々情報を集めているのですが……ほとんど成果がありません」

 

 詳しい情報に関しては、ほぼ手に入らないのだ。

 

「ただ、少し判明していることもあるよ」

 

「それは一体?」

 

「ゼクロムとレシラム。この二体はどうも、石に変化するらしいのさ」

 

「ポケモンが石に!?」

 

「あぁ。石から二体になったのか、逆に二体が石になったのかは不明だけどね」

 

 二体のその変化を聞き、サトシ達は目を見開く。ポケモンが石になるとはどういう事なのだろうか。

 

「その話、聞いたことがあります」

 

「アイリス、知ってるのかい?」

 

 そこでアイリスが自分も聞いた事があると話す。デントが聞くと、アイリスは説明する。

 

「うん、おばば様がその話について言ってたの。二頭の竜は石になって眠りに着いたって」

 

「そう。そして、ゼクロムが石に変化したのをダークストーン、レシラムが石に変化したのはライトストーンと呼ぶらしい」

 

「ダークストーンとライトストーン……」

 

「とはいえ、分かってるのは精々、これぐらい。後はさっぱりでね」

 

「アイリスも?」

 

「うん、あたしが知ってるのもそれぐらい」

 

 そもそも、何故二匹が石になるのか、石からどうやって二匹になるのかは不明だった。

 

「なるほど」

 

 丁度本を読み終えた所なので、シューティーは本を本棚へと戻す。

 

「アロエさん。本を読みましたが、この後は?」

 

「こっちさ」

 

 アロエはシューティー達をある場所まで案内する。そこは、彼女が最初の本を勧めた場所だった。

 

「ほいっと」

 

 アロエがシューティーに勧めた最初の本を動かす。すると機械的な音が鳴り、本棚が動き出す。

 

「これは……!」

 

「階段!?」

 

 本棚が動いた後には、違う部屋に続くだろう階段があった。

 

「これはバトルフィールドに繋がる階段さ」

 

「今回の挑戦者は、几帳面な性格ですね」

 

「そうだね」

 

「……どういう事ですか?」

 

 突然の事態にシューティーも頭が着いていかず、アロエに説明を求めた。

 

「シューティー、アンタはこの部屋に入った瞬間からあたしに試されていたのさ。挑戦者はあたしが本を勧めると、自分の得意な分野の本を探そうとする。最短ルートを教えているにもかかわらずね」

 

「……あなたの言葉を深読みして、ですか」

 

「正解。だけど、ジム戦をしたいから大抵は興味のある本や薄い本を読む。トレーナーの傾向はその時の行動で大体分かるのさ。シューティー、アンタは努力家で上昇志向が強く、バトルでは有利な展開を優先する。要するに、相性や鍛錬などの基本を重視したトレーナー。違うかい?」

 

「……正解です」

 

 全て見抜かれていた。アロエのその洞察力に、シューティーは一筋縄では行かなさそうだと理解する。

 

「そして、サトシ。アンタはバトル好きのストレートな性格。だけど、苦手な事でもしようとする所から、それだけじゃなくて苦難にも立ち向かえる柔軟さもある」

 

(見抜いている)

 

 シューティーだけでなく、サトシの性格もほとんど見抜いていた。やはり彼女は出来ると、デントは感じた。

 

「二人の性格がバトルにどんな風に反映されるか、楽しみだよ」

 

「ある程度予想出来ますが」

 

 キダチはそう言うも、アロエは少し違う。サトシの深さがどこまであるのかが気になるのだ。

 

「じっくり見てください。アロエさん。それでも僕は勝ちます」

 

 自信に満ちた台詞だが、それが自分を鼓舞するためのものでもあることを、アロエは見抜いていた。

 

「頼もしいね。じゃあ、行こうか」

 

 先に階段を降りるアロエとキダチに続き、シューティー達も降りていく。少しすると、バトルフィールドに着いた。

 

「ここがシッポウジムのバトルフィールド」

 

 サンヨウジムにも引けを取らない規模の、フィールドだった。

 

「アロエさん、早速ジム戦を――」

 

「待ちな。その前に見せて置くよ、あたしのポケモン達をね」

 

「――ヨー!」

 

「――ホッグ」

 

 アロエは二つのモンスターボールを取り出し、二匹のポケモンを出す。一匹は肌色と茶色の長い毛をした子犬の様なポケモン。

 もう一匹は、首と背が高く、鋭い眼差しと長い尾、濃い茶色と肌色に黄色い模様がある身体をしたポケモンだ。

 

「わぁ、可愛い!」

 

 その内の、子犬ポケモンにアイリスが近付く。そのポケモンに頬擦りしたり、舐めたりしている。人懐っこい性格の様だ。

 

『ヨーテリー、子犬ポケモン。顔を覆う長い毛は優れたレーダー。周囲の気配を敏感に察知する』

 

『ミルホッグ、警戒ポケモン。ミネズミの進化系。体内に発光物質を持ち、目や全身の模様を光らせる事が出来る』

 

「ヨーテリーとミルホッグか……」

 

 初めてのポケモンに、サトシは図鑑で情報を得ていた。

 

「あたしが使うのはこの二体さ」

 

「どちらもノーマルタイプ。つまり、アロエさんはノーマルタイプ専門のジムリーダー」

 

「はい。またこの二体はこの博物館の警護に一役買っている頼もしいポケモン達ですよ」

 

「かわいいな~」

 

 話の間にヨーテリーはサトシの元に寄り、アイリス同様に舐めたり頬擦りしたりしていた。

 

「ノーマルタイプは弱点が一つしかない分、癖がほとんどない。チャレンジャーの実力を試すには打ってつけさ」

 

「確かにそうですね」

 

 かくとう以外では弱点を付けないため、純粋な強さが勝敗の決め手になりやすい。そう言われれば、確かにジムにはピッタリのタイプと言える。

 

「あはは、今日は頑張れよ、ヨーテリー」

 

「ヨー!」

 

「君、僕を応援しに来たんじゃなかったのか?」

 

「て言うか、話聞いてる?」

 

 ヨーテリーを応援するサトシに、シューティーもアイリスも微妙な表情だ。

 

「バトルを前に、手持ちを明かす。相当な自信に現れだね。んー、チャレンジャーを試すジムリーダーと、癖の少ないノーマルタイプの組み合わせ……。これはチャレンジャーの持ち味を引き出す素晴らしいテイストだよ!」

 

「は、はぁ……」

 

「また出た……」

 

「あはは、デントは相変わらずだねぇ。ただ、言っている事は合ってる。あたしが目指しているのはそんなバトルだからね」

 

 テイスティングにアイリスとシューティーが何とも言えない表情に、アロエは苦笑いを浮かべるも、的を得ているとも告げる。この辺りは流石ポケモンソムリエと言ったところだろう。

 

「さて、アンタ。ルールを説明しな」

 

「はい。当シッポウジムでは、バトルの前に使うポケモンを二体決めてもらいます」

 

「予め……」

 

 つまり、バトルが始まってから自由に変える事は不可能と言う事だ。これは選択が重要になる。

 

「そして、バトルは二対二の入れ替えは自由。どちらかの二体が全て戦闘不能になった時点で試合終了です」

 

「二対二……」

 

 サンヨウとは全く違うルールに、シューティーは真剣な表情を浮かべる。

 

「よく分かりました」

 

「ちなみに、あたしの先発はヨーテリーさ。アンタは何で来る?」

 

 シューティーは暫く考えると、二つのモンスターボールを出す。

 

「――決めました」

 

「シューティーは何を選んだのかしら?」

 

「さあな」

 

「シューティーの性格、バトルスタイルを考えると……自ずと決まってくるね」

 

 サトシやアイリスは疑問符を浮かべるが、デントはある程度気付いていた様だ。

 

「じゃあ、始めようか。戻りな、ミルホッグ。ヨーテリー」

 

「ヨー!」

 

 アロエはミルホッグを戻し、ヨーテリーを連れてジムリーダー側のコーナーへと立つ。シューティーはチャレンジャー側のコーナー、キダチが審判の立ち位置に移動する。

 

「これより、シッポウジムのジム戦を始めます! ジムリーダー、アロエ! チャレンジャー、カノコタウンのシューティー! バトル――開始です!」

 

「行きな、ヨーテリー」

 

「ヨー! ――ヨー……!」

 

 アロエは宣告通り、ヨーテリーを繰り出す。そのヨーテリーはバトルフィールドに立つと、先程までの人懐っこい様子から一変し、戦意剥き出しの状態へと表情を変える。

 

「うわ、迫力ある……!」

 

「雰囲気がガラリと変わった。戦闘モードって所か……」

 

「シューティー、頑張れー!」

 

「言われなくとも。さぁ行け、プルリル!」

 

「リルー」

 

 シューティーの一番手は、プルリルだった。デントはやはりと呟く。

 

「シューティーはプルリルか」

 

「水もあるけど、ゴースト対ノーマル。タイプ的には、互いが互いを無効に出来る」

 

「どっちも有利でどっちも不利って事?」

 

「うん。こうなると、試されるのはトレーナーとポケモンの純粋な実力」

 

 それこそがこのバトルを左右する一番の要素になるだろう。

 

「プルリル、みずの――」

 

「ヨーテリー、ほえる」

 

「ヨーーーッ!」

 

「リルッ!?」

 

 先制攻撃を仕掛けようとしたシューティーとプルリルだが、その前にヨーテリーが大きく吼える。

 その声にプルリルがビクッと押されると、次の瞬間ボールの中に戻り、シューティーからあるポケモンが出てきた。

 

「コラッ!?」

 

「なっ……!?」

 

「なるほど、アンタのもう一匹はドッコラーかい」

 

「今の技って……!」

 

「ほえる、だよな」

 

「うん、強く吼える事でポケモンを強制的に入れ替えさせる技だよ。それにしても、いきなりほえる……」

 

 挑戦者の出鼻を挫き、作戦や調子を狂わせるにはこれ以上ない技だ。まだ一つしか技を使っていないにもかかわらず、デントはアロエの相当な実力を感じる。

 

「あのポケモン……」

 

『ドッコラー、筋骨ポケモン。重い角材を振り回して戦う。建築現場に現れて、工事を手伝うポケモン』

 

 角材を持ち、灰色の身体にピンクの模様をしたポケモン、ドッコラーの情報をサトシは得る。

 また、ドッコラーはノーマルタイプに弱点を付けるかくとうタイプであることも把握した。

 

「ノーマルタイプを無効にするゴーストタイプのプルリルでこっちの手持ちの体力を削りつつ出方を伺い、かくとうタイプのドッコラーで一気に決める。良い判断だ。正に基本だよ」

 

「くっ……!」

 

 こちらの戦術全てが見抜かれ、シューティーは苦い表情を浮かべる。

 

「戻りな、ヨーテリー」

 

 そこにアロエは更に仕掛ける。ヨーテリーを戻すと、ミルホッグと交代した。

 

「なら、こっちも――」

 

 ほえるを使うヨーテリーが引っ込んだ以上、当初の戦術に戻そうとシューティーはプルリルと交代させようとする。

 

「ミルホッグ、くろいまなざし!」

 

「ホッグ!」

 

「ドッ……!?」

 

 しかし、その前にミルホッグが瞳を黒く輝かせる。その瞳を見たドッコラーの身体に黒い靄が掛かるも、ダメージはない。

 

「戻れ、ドッコラー!」

 

 プルリルと交代しようとするシューティー。しかし、仕舞う為のモンスターボールの赤い光は弾かれてしまう。

 

「これは……!」

 

「くろいまなざしって、交代を封じる技だよな?」

 

「うん、これでシューティーはドッコラーのまま戦うしかない」

 

「うわ、完全に作戦が崩されてる……」

 

 ほえるで強制的に入れ替え、くろいまなざしで交代を封じる。相手の全てを崩すには、これ以上ない技の組み合わせだ。

 

「さぁ、シューティー。ここからどうする? と言っても、ドッコラーで戦うしかないわけだけどね」

 

「なら、そうするまでです!」

 

 作戦は崩されたが、相性ではこちらが有利なのだ。ドッコラーのかくとうタイプの技で弱点を付き、ミルホッグを倒す。

 

「ドッコラー、こわいかお!」

 

「コラーーーッ!」

 

「ホグ!?」

 

 ドッコラーが表情を険しいものにすると、それを見たミルホッグが身体を強張らせた。

 

「ほう、こわいかお。相手のスピードをグンと下げる技だね」

 

「えぇ、これでミルホッグのスピードはかなり下がりました。――ドッコラー、ばくれつパンチ!」

 

「ドッコーーーーーッ!」

 

 ドッコラーは拳に力を込めると、ミルホッグへと向かう。

 

「ばくれつパンチ! かくとうタイプの技の中でもかなりの威力と、当てると混乱をさせる効果を持つ技だ!」

 

「スピードを下げてからばくれつパンチで大ダメージと混乱を与え、そこから一気に決めようって訳ね!」

 

「やるなあ、シューティー!」

 

 これが決まれば、一気に有利になるだろう。先ずは一体とシューティーはフッと笑みを浮かべるが。

 

(……笑ってる?)

 

 しかし、アロエも笑っていた。危機が迫っているというのに。何故と思うも、余計な事は考えるなと払う。

 

「ミルホッグ。――あやしいひかり」

 

「ホッグ!」

 

「ドコッ!?」

 

 ミルホッグの回りから光が放たれ、その光がドッコラーを包む。すると、ドッコラーは足取りがおぼつかない様子でフラフラとし出した。

 

「ドッコラー!」

 

「ドッ、コ……?」

 

 シューティーに呼ばれるも、ドッコラーは訳も分からないと言った様子だ。

 

「あやしいひかり……!」

 

「相手をこんらんにさせる技。治すには、交代させるか時間を待つしか無いけど……」

 

「けど、交代はくろいまなざしで禁じられてるから、このまま戦うしかないじゃない!」

 

 そう、シューティーとドッコラーはこんらんのまま戦うしか無いのだ。圧倒的な不利なこの状態で。

 

「幾ら相性的には有利だったとしても、それをまともに発揮出来ないんじゃあ、意味が無いよねえ?」

 

 尤もなアロエの言葉に、シューティーは苦い表情を浮かべる。

 くろいまなざしをほえるとだけでなく、あやしいひかりとも組み合わせて活かすアロエの実力に、戦慄を抱いていた。

 

「そして、あたしは相手が立ち直るのをわざわざ待ってやるほど、お人好しじゃあない。ミルホッグ、10まんボルト!」

 

「ミールホッグーーーッ!」

 

「ドッコラー、とにかくそこから離れるんだ!」

 

「ドッコ……? ――ラーーーッ!」

 

 ミルホッグから電撃が放たれる。シューティーはとにかく回避させようとしたが、混乱中のドッコラーには指示が届かず、直撃してしまう。

 

「かみなりパンチ!」

 

「ホッグ!」

 

 そこにアロエとミルホッグの容赦無い追撃が迫る。シューティーはまた回避の指示を出すも行き届かず、ドッコラーはまた吹き飛ぶ。

 

「ドッコラー、ローキック!」

 

「ローキック? デント、どんな技だ?」

 

「かくとうタイプの技で下に向けて放つキックだよ。当たると、相手の素早さを下げれる。ただ――」

 

「ドコ……?」

 

「あの状態じゃあ、まともに命中させるどころか、使うのも厳しいね……」

 

「ドッコラー、しっかりするんだ!」

 

 指示を出してもフラフラとしているか、あらぬ方向にキックするだけでだった。

 

「シューティー、アンタは基本に忠実。作戦もしっかりと立てる几帳面な性格だ。だからこそ、こうやって崩されると脆いのさ」

 

 自身の弱点を指摘され、シューティーは歯を食い縛るしかない。

 

「ミルホッグ、かみなりパンチ」

 

「ホッグ!」

 

「ドコ? ――ドコッ! コラッ!」

 

 まだ混乱し、隙だらけのドッコラーに、ミルホッグは連続でかみなりパンチを叩き込む。

 

「10まんボルト」

 

「ホッグーーーッ!」

 

 更に電撃を食らわせ、ドッコラーを追い込んでいく。

 

「ドッ、コ……!」

 

「この状態……!」

 

「まひ!?」

 

「さっきの10まんボルトか……!」

 

 今でも窮地なのだが、そこに追い討ちを掛けるように、ドッコラーの身体が痺れ出した。

 10まんボルトの追加効果でまひ状態になったのだ。ただ、不幸中の幸いな事に、その影響で混乱が消えた様である。

 

「おやおや、折角こんらんが治ったのに、次はまひかい。運が悪い」

 

「……それはどうでしょう?」

 

「……ほう? それは――」

 

 どういう事か、そう言おうとしたアロエだが、直後に気付いた。ドッコラーが纏うオーラに。

 

「これは……」

 

「ドッコラーーーーッ!」

 

「な、何あれ!?」

 

「こんじょうだな」

 

「うん、状態異常になった時に自身の攻撃力を高める特性」

 

 まひになった事で、特性が発動したのだ。

 

「なるほど。その高まった状態で効果抜群のかくとうタイプの技、特にばくれつパンチを食らえば、ノーマルタイプのミルホッグは一堪りも無いだろうね。――食らえば、ね。まひのその状態で、出来るのかい?」

 

 シューティーが険しい表情になる。そう、確かに直撃すれば一撃で戦闘不能も有り得る。

 だが、逆に言えば、食らわなければ高まった力も何の意味も無い。何しろ、まひはポケモンの動きを鈍らせ、時々行動不能にしてしまうのだから。

 

「なら、倒される前にミルホッグを倒すだけです! 接近しろ、ドッコラー!」

 

「ドッコ!」

 

「遅い。けど、それはこっちも同じか」

 

 麻痺で動きが鈍っているドッコラーだが、動きが鈍っているのはこわいかおを受けたミルホッグも同じ。速さに関しては五分と言った所。

 

「ただ、そっちのペースに付き合うつもりは無いよ。ミルホッグ、あやしいひかり」

 

「ホッグ!」

 

「またあやしいひかり!」

 

「今度受けたら、確実にやられる!」

 

 まひの上にこんらんまでされたら、間違いなくやられる。対処するしかないが、今のドッコラーにそれが出来るだろうか。

 

「ドッコラー! 木材を使ってあやしいひかりを弾くんだ!」

 

「ドッコォ!」

 

 ドッコラーはブンブンと木材を振り回し、あやしいひかりを弾いてミルホッグとの距離を縮める。

 

「やるね! 木材をそんな風に使うとは! だけど、このまま素直に攻撃を食らうと思うかい?」

 

「それは僕も理解しています。だから――ドッコラー、木材をミルホッグ目掛けて放り投げろ!」

 

「――何っ!?」

 

「ドッコ!」

 

「ミル!? ――ホッグーーーッ!」

 

 放り投げた木材。不意を付くその行動により、ミルホッグは一瞬動きが鈍り、こわいかおの効果も合わさって直撃して体勢を崩す。

 

「ローキック!」

 

「ドッコォ!」

 

「ホッグ!」

 

「ローキックが決まった!」

 

 こんじょうと効果抜群の技を受け、ミルホッグの表情が歪む。

 

「今だ、ドッコラー! ばくれつパンチ!」

 

「ドッコー……ラーーーッ!!」

 

「ミルホッグ、かみなりパンチ!」

 

「ミールー……ホッグーーーッ!!」

 

 二つの拳が激突。その衝撃で爆風が発生し、二匹が大きく吹き飛び、地面に転がっていく。

 

「ドッ、コ……」

 

「ホッ、グ……」

 

「ドッコラー、ミルホッグ、両者戦闘不能!」

 

「おやおや、やられちゃったよ」

 

 残念そうだが、まだ余裕を感じさせるアロエ。一方シューティーは、何とかミルホッグを倒せた事にホッと一安心。これで五分だ。

 

「戻れ、ドッコラー」

 

「戻りな、ミルホッグ」

 

 シューティーとアロエはポケモンを戻すと、頑張りを労い、残りの一匹を繰り出す。

 

「もう一度行きな、ヨーテリー!」

 

「もう一度行け、プルリル!」

 

「ヨー!」

 

「リル!」

 

 最初の先発の二匹が再びバトルフィールドに立ち、対峙する。

 その際、ヨーテリーが鼻をクンクンと動かし、またプルリルが何だ言いたげに自分の身体を見ていた事にデントが目を細めていた。

 

「お互いに残り一匹ずつ。もうほえるは使えませんよ」

 

「だねぇ。ヨーテリー、シャドーボール」

 

「ヨー!」

 

 ヨーテリーの付近から黒い玉が四つ出現。プルリルに向けて発射されるが、プルリルは軽やかにかわす。

 

「中々良い動きだね」

 

「どういたしまして。プルリル、ヘドロばくだん!」

 

「――そこだよ、ヨーテリー。かたきうち!」

 

「ヨー!」

 

 毒性の塊を放ったプルリルの隙を狙い、ヨーテリーがその技を使う。すると、全速力で走る子犬ポケモンの全身からオーラが漂う。速さや間から、プルリルの回避は間に合わない。

 

「かたきうち?」

 

「仲間が倒れた後に使うと、一度だけその威力を大きく高めるノーマルタイプの技だ」

 

「えっ、でもそれならプルリルには……」

 

 ゴーストタイプの通用しない。なのに、何故とサトシやアイリス、シューティーが訝しむ。

 特にシューティーは前にサトシがのろわれボディを封じるため、敢えてたいあたりを使ったのを思い出していた。

 しかし、あれはのろわれボディこそは封じられたが、結局通用はしてなかった。

 なら、このかたきうちは何なのか。その間の思考が、致命的だった。

 

「アロエさん、プルリルにはかたきうちは――」

 

「ヨーーーーーーッ!!」

 

「リルーーーーーッ!?」

 

 効かない、シューティーがそう言おうとその瞬間、プルリルにヨーテリーのかたきうちが炸裂。威力が高まった状態のその一撃は、プルリルを容易く吹き飛ばし、大ダメージを与えた。

 

「なっ!?」

 

「命中した!?」

 

「ど、どうして!? ゴーストタイプにはノーマルタイプの技は効かないはずでしょ!?」

 

 三人が戸惑う中、デントはやはりと呟いた。

 

「アロエさん、ヨーテリーは出た直後、かぎわけるを使ってましたね?」

 

「流石だねえ、デント。その事に気付くなんて」

 

「かぎわけるって……」

 

「鼻で相手の位置を感知する技だよ。ただ、この技にはもう一つの効果がある。ゴーストタイプにノーマルタイプやかくとうタイプの技を効くようにさせると言う効果が」

 

「それで、効果が無いはずのかたきうちが通用したのか!」

 

「相性は勿論、基本。だけど、技を有効に使うのも――基本だろう?」

 

「くっ……!」

 

 歯を噛み締めるシューティー。プルリルは威力が高まったかたきうちを諸に受け、体力を大きく削られてしまった。

 しかも、のろわれボディは発動しておらず、かたきうちは封印出来ていない上にヨーテリーは無傷。圧倒的に不利だ。

 

「さぁ、仕上げと行こうか。ヨーテリー、シャドーボール」

 

「プルリル、かわせ!」

 

「リル……!」

 

 ヨーテリーが黒い球を複数展開し、発射。大ダメージで動きが鈍りながらも、プルリルはなんとかかわす。

 

「サイコキネシス!」

 

「リ……ル!」

 

 プルリルは念動力を放つも、ヨーテリーの速さに軽々と回避されてしまう。

 

「かたきうち」

 

「プルリル、避けろ!」

 

「リー――ルーーーッ!」

 

 そして、ヨーテリーは技の後の硬直を狙い、プルリルにかたきうちを放つ。プルリルは今度こそはかわそうとするも硬直や鈍りにより避けきれず、また吹き飛ぶ。

 

「ヨー!?」

 

 直後、ヨーテリーに黒い靄が掛かる。特性、のろわれボディの発動だ。

 

「のろわれボディ。かたきうちが封じられたね。まぁ、問題無いけどね。ヨーテリー、止めのシャドーボール」

 

「ヨー……!」

 

「とにかくかわすんだ、プルリル!」

 

「プ……ル……!」

 

「テリーーーッ!!」

 

 力を集中させた、大型のシャドーボールが放たれる。プルリルはかわそうとしたが、ダメージが動きを封じ――直撃した。

 

「リルーーーーーッ!!」

 

「プルリル!」

 

 二回地面にバウンドし、ゴロンと転がったプルリル。その目は――渦巻いていた。

 

「プルリル、戦闘不能! ヨーテリーの勝ち! 同時にチャレンジャーの手持ちが全て戦闘不能になったため、この勝負、ジムリーダーアロエの勝ち!」

 

「あたしの勝ちだね」

 

「負けた……」

 

 その事実を受け止めれるまで、シューティーは十数の時間を要した。

 

「ポケモンも作戦も悪くなかった。ただ、アンタの判断能力の甘さが敗因だね。良くも悪くも事前の予定に頼り過ぎて、対応力が弱い」

 

「……失礼します」

 

「また挑戦しに来な。待ってるよ」

 

 シューティーはアロエに一礼すると、手持ちを回復させようとポケモンセンターに向けて歩く。

 

「シューティー!」

 

「……少し一人にして欲しい」

 

 負けは負け。シューティーは潔くその事実を受け入れてはいるが、直ぐに割り切れるかと言えば答えは否だ。

 また、ある想いを抱いているサトシには励まされたり、弱いところを見せたくない。だからこそ、シューティーはサトシにそう告げた。

 

「――分かった」

 

 シューティーのその言葉が、彼の意地だと分かったサトシはそれ以上何も言わず、彼を静かに見送った。

 こうして、シューティーのシッポウジム戦は苦い敗北に終わったのであった。

 

「負けちゃったわね……」

 

「うん。だけど、きっと彼はこのままではいない。しっかりとリベンジを果たす筈さ」

 

「だな」

 

 デントの台詞に、シューティーの上を目指す意志を見ているサトシは頷いた。

 

「さて、次はアンタだね。サトシ。今日は頑張ったこの子達の治療をしたいから、アンタのジム戦は明日になるけど良いかい?」

 

「はい、構いません」

 

 万全の彼女達を倒してこそ、意味がある。サトシはアロエの提案を素直に受け入れた。

 

「じゃあ、明日待ってるよ」

 

「はい」

 

 そのやり取りを最後に、サトシ達もシッポウジムを後にした。

 

「次は君の番だね、サトシ」

 

「あぁ」

 

 今日のバトルややり取りで見たアロエとポケモン達の実力。サンヨウジム戦でも苦戦したが、明日のシッポウジム戦も苦戦は避けられないだろう。

 

「やる気、出てくるぜ!」

 

 握った拳をもう片方で受け止め、明日への意気を見せるサトシ。彼等はその後、ポケモンセンターに向かったのであった。

 

 

 

 

 

 夜、暗闇に染まった博物館。ムサシとニャースが静かに足を踏み入れていた。

 

『こちらR1。ハッキングは成功した。自由にセキュリティを操れるぞ』

 

「こっちもミッションを済ませるわ」

 

 機器越しに聴こえるコジロウの声に、ムサシとニャースは頷く。そして、ターゲットがある部屋に辿り着く。

 ゴーグル型のスコープには、赤外線センサーが無数に写り、ターゲットを確認する。

 

「目標確認」

 

『二十秒解除する。その間に頼むぞ』

 

「十秒も有れば十分にゃ」

 

 直後、赤外線センサーが消える。コジロウが消し、そのタイミングを見計らってムサシとニャースが鞄を滑らせながら走る。

 鞄を開き、次に素早くメテオナイトのケースを外し、中の物と持ってきたダミーと交換。ケースを付け、そのまま走って廊まで移動。最後に中の物を鞄に仕舞う。

 

『上手く行ったな』

 

「完璧にゃ」

 

「じゃあ、このまま外に行って合流する――」

 

 イッシュ地方に来る以前は比べ物にならない程、鮮やかに狙いの物を奪取したロケット団。ここまでは完璧だった。そう、ここまでは。

 

「デース?」

 

「……えっ?」

 

「……にゃ?」

 

 聞き慣れない鳴き声にムサシとニャースが振り向く。そこには、秘宝展の時に荷物に混ざり、怪奇現象の騒ぎを起こしたあのデスマスがいた。

 あの後、デスマスはここを気に入り、アロエやキダチを驚かせようと夜にこっそり来たのだ。

 

「な、なに、こいつ?」

 

『おい、どうした?』

 

「へ、変なポケモンがいるのにゃ」

 

『何? 馬鹿な、警備員やポケモンはまだそこにはいないはず……』

 

「と、とりあえずさっさと逃げ――」

 

「マース?」

 

 そこから逃げようとムサシとニャースだが、それより先にデスマスが問い掛ける。

 

「な、何て言ってるのよ?」

 

「お前達は誰だと言ってるにゃ」

 

「……アタシ達が誰ですって? 誰かと言われたら」

 

『答えてあげよう。明日のため』

 

 そして、彼等はやってしまった。その口上を。

 

「フューチャー。白い未来は悪の色!」

 

『ユニバース。黒い世界に正義の鉄槌!』

 

「我等この地にその名を記す」

 

「情熱の破壊者、ムサシ!」

 

『暗黒の純情、コジロウ!』

 

「無限の知性、ニャース!」

 

「さぁ集え! ロケット団の名の元に!」

 

 ここにコジロウはいないが、それでも彼等はやってしまった。静かにやるはずのミッションなのに、大音量で。

 

「……あっ」

 

「デスデース」

 

 パチパチと、デスマスは両手を叩いて拍手する。面白いと思った様だ。

 しかし、ムサシとニャース、離れた場所にいるコジロウはやばいと冷や汗を大量に流していた。

 

「おい、変な騒ぎが聴こえたぞ!」

 

「他の警備員じゃないか?」

 

「いや、最後微かだが、ロケット団と言う単語を耳にした!」

 

「何!? あの指名手配中の悪党か!?」

 

「こっちからだ!」

 

 警備員達が、ムサシとニャース、デスマスがいる方へと走り出す。

 

「ちょっ、これ明らかにヤバイわよ!」

 

『警備員がそちらに向かっている!』

 

「今すぐ逃げ――にゃにゃー!?」

 

「デスマース」

 

 警備員が来る前に脱出しようとしたムサシとニャースだが、デスマスの目が光るとニャースが宙に浮く。サイコキネシスだ。

 怪しい態度や、逃げると言う台詞から、人が来るまで捕らえて置くことにしたのだ。

 

「邪魔すんじゃないわよ! コロモリ、エアスラッシュ!」

 

「コローモリー!」

 

「デスマース!」

 

 モンスターボールから出たコロモリのエアスラッシュを食らい、デスマスが倒れる。同時にサイコキネシスも解け、ニャースは自由を取り戻した。

 

「あぁもう、余計な時間を食った!」

 

「さっさとコジロウと合流しておさらばするにゃー!」

 

 急いで外に向かうムサシとニャース。一方、警備員達は途中、倒れたデスマスを発見。アロエやキダチに聞いていたことや、指を指した方向からロケット団の追跡に当たっていた。

 

「おい、連絡は!?」

 

「済ませた! 警察が直ぐに来るぞ!」

 

「俺達も奴等を追うぞ! まんまと逃がしたら、警備員の名が廃る!」

 

 コジロウが制圧したのは、あくまでセキュリティ関連。

 連絡は手間も掛かるし、気付かれる恐れもあったので手を付けてなく、ジュンサーは直ぐに始動。警備員を含めて、ロケット団確保に向けて動き出す。

 

「早く逃げるわよ!」

 

「向こうからも迫ってるにゃー!」

 

「くそっ、なんでこうなったんだー!」

 

 理由は明らかに彼等が口上を出したからである。

 何はともあれ、ロケット団は暫し必死の逃走劇を繰り広げる羽目になったのであった。

 

「……あれはどうする?」

 

「……とりあえず、追跡はするぞ」

 

「……下手すると、我等も巻き込まれて捕まらないか?」

 

「……一応、最優先任務だ。さっさと行くぞ」

 

 一連の流れを聞いていた、三人組が何とも言えない表情をしていた。あれが自分達の敵なのだろうかと。

 

「……いや、待て。ここまでの事態になると、判断を仰いだ方が良い」

 

「直ぐに済ませろ」

 

 三人組の一人が、自分達の主に連絡を取る。

 

『――何ですか?』

 

「はい、実は――」

 

 主に繋がり、内容を素早く簡潔に報告する。

 

「――と言う事です」

 

『……ロケット団とやらはバカなのですか?』

 

「……」

 

 通信の相手である三人組の主は、思わずそんな事を言ってしまう。三人組も何とも言えない様子だ。

 

『まぁ、それはともかく……これは少し不味いですね』

 

 このままだと、予定が狂ってしまう。それは不味い。何とか避けるべく、主は一つの賭けに出た。

 

『お前達が奪ったメテオナイト。まだありますね?』

 

「はい」

 

 先日の夜に盗み出したメテオナイトは、まだ手元にあった。本日渡す予定だったのだ。

 

『それを戻しなさい。この騒ぎを小さくするのです』

 

「分かりました」

 

 起きた騒ぎを無かった事には出来ないが、小さくして早期に終息する事は出来る。

 メテオナイトの強奪は難しくなるが、そもそもそこまで重視はしていないし、問題はあまり無かった。

 

『では、朝になるまでに何としても済ませない。これは時間との勝負です』

 

 はっと三人組は頷くと、速やかに新たな任務へ取り掛かった。彼等の夜はまだ終わらない。

 




 もっと今のロケット団にコミカルさを出させたい。けど、シリアス状態だと無理に組み込むとストーリーが成り立たないので難しい。もどかしいです。
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