ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ   作:ぐーたら提督

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 今までで一番長くなってしまいました……。特訓回です。


三日間の特訓

「早速特訓を開始する訳だが――その前に、初めて見るサトシくんやNくんの為に、幾つか説明しよう」

 

「ありがとうございます」

 

「助かります」

 

「先ずはこの部屋からにしよう」

 

 ジョージが最初に案内したのは、大きな画面と広いコンベア、後は幾つか何かが出すような箇所がある部屋だ。

 

「ここはランニングルームだ。勿論、ただのではないがね。さて、サトシくん、Nくん、ポケモンを出しなさい」

 

「じゃあ……ポカブ!」

 

「ボクも」

 

「カブ!」

 

「ほう、二人とも同じポカブ。少し珍しい。まぁ、とりあえずそのコンベアの上に」

 

 二匹のポカブがコンベアの上に乗る。ジョージがコンピュータの前に立ち、パネルを操作して起動するとコンベアが後ろに向かって動き出す。

 

「さぁ、ポカブ達、前に走りたまえ!」

 

「ポカ!」

 

「カブ!」

 

 二匹のポカブは、コンベアの方向とは逆に走り出す。

 

「では、一段階スピードを上げよう」

 

 ポカブ達が十数秒走るのを見て、ジョージが操作。すると、コンベアの動く速さが一段階上がった。

 

「カブカブ……!」

 

「ポカポカ」

 

「少しずつ上げていくぞ」

 

 ジョージはポカブ達の様子を見ながら、コンベアのスピードを引き上げていく。

 

「カブカブカブ……!」

 

「ポカポカ」

 

「中々だ。では、更に――これはどうだね?」

 

 またスピードアップと思いきや、今度はコンベアが上下に変化。その状態で動き出す。

 

「カブカブ、カブカブカブ……!」

 

「ポカポカ、ポカポカ!」

 

 これにはサトシのポカブもだが、Nのポカブも驚き、手こずっていた。

 

「初見のポケモンなら確実に、ある程度でも振り払われるのだが、食らい付いている。見事だ。では、更にだが――」

 

 ジョージが一つの箇所を押す。直後、左右の何かが出そうな箇所からボールが発射され、ポカブ達に迫る。

 

「カブ!」

 

「ポカ!」

 

 足場は波打ちながら高速で後ろに向かう。その状態ながらも、二匹のポカブはボールをかわし、更に落ちることなく走り続ける。

 

「これもかわすとは! 大したものだ。一旦、中止しようか」

 

 説明の途中のため、ジョージはランニングルームの操作を中止した。

 

「では、他のルームも案内しよう」

 

 その後、サトシ達は他のルームを回る。水泳や、鳥ポケモンなどの飛行の場所、的に攻撃を当てて命中を高めたり、堅い的に当てて力を高めたり。

 他にも複数のトレーニングルームを、ジョージの説明や体験を交えながら回っていく。

 

「これで全部だ。では、好きな部屋を使い、特訓に励んでくれたまえ。また私はこの部屋にいる。何かあったら呼ぶように」

 

「はい!」

 

 説明も終わり、サトシ達はそれぞれの特訓を開始する。ポカブ達は最初の部屋での特訓を再開。

 

「ミジュミジュ……!」

 

「プルル……!」

 

 水泳ルームでは、ミジュマルとプルリルが逆方向に進む水に逆らいながら泳ぎ。

 

「ポー!」

 

「ボー!」

 

 飛行ルームでは、マメパトとハトーボーの進化前、進化後の二匹が様々な箇所にある輪を潜り抜け。

 

「――タジャ」

 

「ジャノ!」

 

 足場が不安定かつ、素早く移動するルームでは飛行ルームと同じくツタージャ、ジャノビーの進化前と後の二匹が素早く動く。

 

「ドッコ! ドッコォ!」

 

 サンドバックのある部屋では、ドッコラーが大きくて重いサンドバックに強く攻撃し、反動で戻ってくるそれを受け止める。

 

「ヤナップ、かわらわり! イシズマイ、シザークロス!」

 

「ヤー……ナ! ――ナップ!」

 

「イー……マイ! イママイ!」

 

「キバ! ――キ~バ~!」

 

「あぁ! キバゴ~!」

 

 ちなみに、同部屋にはデントとヤナップ、イシズマイ。アイリスとキバゴもいた。

 デント達は難なく訓練をこなしていたが、キバゴは軽いのをひっかくで飛ばしたものの、帰ってきたサンドバックに吹っ飛ばされてしまう。

 

「うーん、キバゴはまだまだだね~」

 

「ナプナプ」

 

「イママーイ」

 

「ドッコ……」

 

 それを見ていたデント達は苦い表情を浮かべ、ドッコラーはこめかみに冷や汗を流していた。

 

「バニ! バニバニ!」

 

「モシモシ! モシモシ!」

 

 的当ての部屋では、バニプッチやヒトモシが技の命中率、正確性を高めており。

 

「ピカ、ピカピカ!」

 

「ゾロ、ゾロゾロ!」

 

 ピカチュウやゾロアがいるルームでは、壁中にある点滅した光に先にタッチする形式の試合が行われていた。

 

「えっほ、えっほ……!」

 

「はぁはぁ、はぁはぁっ……!」

 

「一二、三四……」

 

 最後にサトシ、シューティー、Nはランニングマシンを使い、走り込みをしていた。

 ポケモンの特訓に来たので、一見トレーナーの彼等には必要なさそうにも思えるが。

 

「ポケモンバトルはポケモンだけが強ければ良いという訳ではない。彼等に指示を出すトレーナーが慌て、戸惑っていればどうにもならん。故に、常に的確な指示、判断を出来るよう、身心を鍛えるべきである」

 

 ドン・ジョージのこの発言により、三人は走り込む事となったのだ。

 

「よし、一旦休憩に入ろう。ポケモン達への報告は私に任せ、君達はしっかりと休むと良い。ドリンクはそちらにあるぞ」

 

「はぁ、はぁ……! もう、限界……!」

 

 休憩と言われ、三人は特訓を止める。しかし、シューティーは既にクタクタ。思わず地面に仰向けになってしまう。

 

「あー、疲れたー」

 

「ふぅ、こんなに汗を掻いたのは久しぶりかな」

 

「なんで、サトシとNさんは、そんなに、余裕があるん、ですか……」

 

 自分は既に疲労困憊なのに、サトシとNはまだまだ余裕があった。しかも、この二人は自分よりもキツいペースでしていたのにである。どういう体力をしているのだろうか。

 ちなみに、この二人は二時間で何と、42.195km近く走ってたりする。

 

「あはは、何でだろうなー」

 

「自然の中にいると逞しくなるからかもね」

 

「そう、なんですか……?」

 

 疲れきったシューティーには、そう言うしか出来なかった。

 

「ほら、シューティー」

 

「ありが、とう……」

 

「急いで飲むと噎せるかもしれないから、ゆっくりとね」

 

「は、い……」

 

 仰向けの状態だが、サトシからドリンクを受け取り、シューティーはゆっくりと飲む。水と冷たさが染み渡るように喉や身体へと取り込まれていく。

 

「……生き返ったかもしれない」

 

「シューティーもそんなこと言うんだな」

 

「ふふ、今の内にしっかり休むようにね」

 

 コクンとシューティーは頷くと、ドリンクをゆっくりと飲み干していった。

 その後、明日挑戦をするNを除き、夜まで彼等は特訓に励み、この日を過ごしていったのであった。

 

 

 

 

 

「ニトロチャージ!」

 

「カーブーーーーーッ!」

 

 特訓二日目。この日もサトシとシューティーはバトルクラブに赴き、二人は今、技のトレーニングをしていた。Nはシッポウジムに挑戦している。

 ポカブの炎の突撃が、サンドバックを大きく揺らす。戻って来たサンドバックをヒラリとかわし、ポカブは一息付く。

 

「完成、だな」

 

「カブ!」

 

「――ミジューーーーーッ!」

 

「――ポーーーーーーッ!」

 

 隣では、ミジュマルとマメパトがアクアジェットとつばめがえしを放っており、その二つの技もサンドバックを大きく揺らしていた。

 

「よし、つばめがえしも完成! 後はアクアジェット、なんだけどなー」

 

「何か問題あるのかい?」

 

 困った様子のサトシに、シューティーが尋ねる。見た限りは問題など全く無さそうだが。

 

「一つな。見てもらった方が早いか。ミジュマル、アクアジェット!」

 

「ミジュー……マーーーッ!」

 

 指示なしのアクアジェットを放つミジュマル。しかし、滅茶苦茶に動き回り、最終的には地面に激突した。

 

「ミジュジュ……」

 

「と言う訳なんだ。今までは俺が動く方向を決めてたから、上手く行ってたんだけど……」

 

「それが無いとこうなってしまう、と。原因は?」

 

「不明。それが分かりさえすれば、アクアジェットも完全に完成するんだけどなー……」

 

 何度やっても、その理由が見抜けない。その事がサトシはもどかしい。

 

「サトシ、もう一度アクアジェットを指示してくれないか?」

 

「なんでだ?」

 

「僕のカメラで撮影すれば、制御出来ない原因が分かるかもしれない」

 

「良いのか?」

 

「あぁ」

 

 勿論、単なる人助けではない。制御出来ないのが理由でサトシに勝てても、それは本当の意味での勝利ではない。

 万全の強い彼に勝ってこそ、勝利になる。だからこそ、手を貸すのだ。

 

「よし、ミジュマル。アクアジェット!」

 

「ミジュマーーーッ!」

 

「……」

 

 アクアジェットを使い、また無茶苦茶に動き回るミジュマルを、シューティーは何度も撮影。その間にミジュマルは壁に当たり、墜落。サトシが駆け寄る。

 

「ミジュジュ……」

 

「どうだ? シューティー?」

 

「少し待ってくれ。えと――えっ?」

 

 写真をしっかり見て――戸惑うシューティーに、サトシが近付く。そして、その写真の一枚を見てサトシも驚く。

 

「これ……目を閉じてる!?」

 

「間違いなく、これが原因だね」

 

 その写真には、アクアジェットを発動しているミジュマルが目を閉じているところが写っていた。

 サトシはミジュマルを後ろから見ていたのと、高速で移動していた故に気付けなかったのだ。

 

「これじゃあ、制御出来る訳がない」

 

 目を閉じながら進んでいるのだ。真っ直ぐ行くわけが無い。

 

「にしても、水タイプのポケモンが水の中で目を閉じてるのはどうかと思うよ」

 

「ミジュマル~……」

 

「ミジュ~……」

 

 今の話で自覚したのか、ミジュマルは申し訳なさそうな表情をしていた。

 

「何はともあれ、これで原因は分かった。多分、水の中に慣れてないとかかな。プールで訓練すれば行けると思うよ」

 

「分かった。ありがとうな、シューティー」

 

「礼を言われる程じゃない。だけど、そうだね――一つ聞かせてくれないかい?」

 

「何だ?」

 

「リベンジに、今までの手持ちを出す気はないのかい?」

 

「ミジュ……」

 

 今までのポケモン達なら、サトシのトレーナー能力に合うはず。ツタージャ以外の今の手持ちで戦うよりも手間は掛からないし、遥かに楽だろう。ミジュマルもそう思っていた。

 

「俺はコイツらなら勝てると思ってる。それに、前にも言ったけどさ、俺は新しい地方の旅はピカチュウ以外を預ける様にしてるから」

 

「……大変だろう? それに負けるのが悔しくないのかい?」

 

「悔しい。だけど、俺はコイツらと強くなって勝ちたい。だから、負けることは恥ずかしい事じゃないって思ってる」

 

 恥ずかしいのは、敗けを認められない事。敗北ではない。

 

「幾つものリーグに出て、優勝までしても、かい?」

 

「あぁ。それに、俺は新しい仲間との旅がしたい。頑張りたい。強くなりたい。だから、やるんだよ」

 

「ミジュ……!」

 

「成績には拘らないと思いきや……欲張りだね」

 

 ミジュマルが嬉しさで目を輝かせる一方、成績に拘らないと思いきや、かなり欲張りだった自分の先輩に、シューティーは苦笑いする。

 だが、その成績を気にせず、真っ直ぐに多くを求める姿勢こそが今の彼を作っているのかもしれない。

 

「質問は良いか?」

 

「あぁ、時間を取らせて悪かったね」

 

「じゃあミジュマル、早速プールで目を開ける訓練しようぜ。俺も付き合うから」

 

「ミジュ!」

 

 サトシはマメパトとポカブにそれぞれの部屋でのトレーニングの再開する事を話し、ミジュマルとプールの部屋に向かう。

 

「よし。ミジュマル、水中で目を開ける訓練を始めるぞ。これさえ出来れば、アクアジェットを自由自在に操れるようになる。頑張ろうぜ」

 

「ミジュ!」

 

 サトシは部屋にある水着に着替え、プールに入る。ミジュマルも続いた。

 

「ミジュマル、GO!」

 

「ミジュ! ミジュミジュ……!」

 

 泳ぎ出すミジュマル。しかし、その目は閉じていた。

 

「ミジュマル、目が閉じてるぞ!」

 

「ミ、ミジュ……!」

 

 指摘され、目を見開くミジュマルだが、直ぐに閉じてしまう。

 

「うーん、どうするかなー? ――うわっ!?」

 

「――ミジュ!?」

 

 これは見る目に優れたデントに頼み、アドバイスの一つでも貰うべきかもしれない。

 と思ったその時だった。プールの水流の動きが急激に速まり、サトシとミジュマルは流れに巻き込まれてしまう。

 

「な、何だこれ!?」

 

「ミジュジューーーッ!?」

 

 スピードは確かに速くなれるが、これは明らかに異常だ。状況を把握しようと周りを見る、もしくは出ようとしても流れが速すぎて出来ない。

 

「く、くそっ! このっ!」

 

「ミジュ……! ミジュジュ……!」

 

 サトシとミジュマルは必死に高速の水流に逆らって泳ぐ。しかし、突然の事もあって体力を消耗していく。

 

「――うっ!?」

 

「ミジュ!?」

 

 ビキッとサトシの片足が張る。トレーニングや急激な流れで足がつってしまったのだ。そうなれば当然、まともに泳げずに流れに飲まれてしまう。

 

「うわぁああぁーーーっ!」

 

「ミジューーーッ!」

 

 ミジュマルは勢いに流されてしまうサトシに手を伸ばすも、あっという間に遠ざかる。流れに逆らうのを止め、追い掛けるも距離は縮まらない。

 

(このままじゃ……!)

 

 サトシが間違いなく溺れる。しかし、そもそも追い付いたところでどうやってサトシをプールから出すかと言う問題があった。

 

(いや、待てよ……!)

 

 一つだけ方法がある。アクアジェットだ。この水流で加速状態なら簡単に追い付けるし、かなり手荒いが突撃でサトシをプールから出せる。

 しかし、制御ができない。そんな状態で突撃したら、最悪壁や床にぶつかって完全に溺れてしまう。

 

(なら、やるしかないだろ!)

 

 目を開け、アクアジェットを完全にコントロールして正確に突撃する。これ以外にサトシを助ける方法はない。

 まだ自分とサトシはそんなに長い付き合いではない。だけど、彼は自分を仲間にしてくれた。困ったポケモンや人を助けて行った。

 そんな優しく、強い彼が、こんな所で終わって良い訳が無い。何としても助ける。助けないと行けない。

 だから、ミジュマルは自分に全力で言い聞かせた。目を開けろ、そして、サトシを助けに行けと。

 何度も何度も強くそう思ったミジュマルの目は――開いた。強い意思が宿ったその瞳で、ミジュマルはアクアジェットを発動。

 激流を利用してスピードアップし、周りやタイミングを見計らってサトシに斜め下からぶつかる。

 

「んぐっ!? ――ぶはっ!」

 

 狙い通り、サトシはプールから飛び出す。その際に痛みながらゴロゴロと転がるが仕方ないだろう。

 

「痛た……。今のは?」

 

「――ミジュ!」

 

 つった足の痛みに耐えながらサトシが周りを見ると、ミジュマルが目の前に着地する。

 

「お前が助けてくれたのか?」

 

「ミジュ。――ミジュマ!」

 

 自慢気に頷くと、ミジュマルはアクアジェットをまた発動。今度も色々と動き回るが、最後はサトシの前に正確に立つ。

 

「目を開けれるようになったのか!?」

 

 自分の目の前に正確に着地した。それは、アクアジェットをコントロール出来るようにならなければ不可能だ。

 

「ミジュ!」

 

 ミジュマルは、ドヤ顔でそうだと頷く。

 

「そうか、それで俺にぶつかって出したのか。ありがとな、ミジュマル。それと――アクアジェット、完全にマスターだな!」

 

「ミジュマ!」

 

 アクアジェットの完全習得に、サトシとミジュマルは満面の笑みを浮かべる。サトシは痛みはあるが、そんな気にしなかった。

 

「ところで、そもそも何でプールの流れが速くなったんだ?」

 

「……ミジュ?」

 

 サトシとミジュマルは一緒に腕を組み、首を傾げる。誰かが操作するか、故障しない限りはああならないはずだ。

 

「――サトシ、大丈夫!?」

 

「怪我はないかい?」

 

「アイリス?」

 

 疑問中のサトシとミジュマルに、焦ったアイリスと、デントとジョージが駆け寄る。

 

「ごめん! キバゴが機材に弄くっちゃったの!」

 

「キバ……」

 

「あー、それで……」

 

 まだ子供のキバゴには、コントロールパネルは興味深い代物だったため、アイリスが目を離した隙に好奇心で弄くってしまい、その結果、プールの流れがああなってしまったのだ。

 

「ほら、キバゴ! ちゃんと謝りなさい!」

 

「キババ……」

 

 キバゴは心底申し訳なさそうに、頭を下げる。

 

「良いよ。どうなるか分かってやったんじゃないだろ?」

 

「……キバキ」

 

 怒らないサトシに、キバゴはもう一度頭を下げる。

 

「怪我は?」

 

「足がつっちゃった」

 

「ほ、本当にごめん、サトシ……」

 

 足がつってしまい、特訓に影響が出たことにアイリスはまた謝る。

 

「良いって良いって。悪いことだけじゃないしな。――ミジュマル、アクアジェット!」

 

「ミジュ! マァ!」

 

 ミジュマルに指示し、アイリスとデントに制御可能になったアクアジェットを見せる。

 

「コントロール出来たの!?」

 

「あぁ、ミジュマルは水の中じゃ目を閉じてて、それが原因でコントロール出来なかったんだけど、さっきの事故で俺を助けようと頑張って開けれる様になったんだ」

 

「ミージュ」

 

「なるほど、君への想いで。う~ん、ハプニングを糧に君達の絆のフレイバーの強さが増したのを、感じるよ!」

 

「どうも。ミジュマル、心配も一つ消えたんだ。特訓頑張ろうぜ!」

 

「ミジュ!」

 

 アクアジェットは完全にマスターした。後は自身の能力や技を鍛えるだけだ。

 

「それだがな、サトシ君。申し訳ないが、今日はこの部屋は使えん。さっきのでシステムが一時止まってしまった。違う部屋にしてくれるかね?」

 

「えっ、そうですか……」

 

「……何度もごめん」

 

 溺れかけるわ、足をつるわ、仕舞いには部屋が一時使用不可能と、アイリスもキバゴも小さくなっていた。

 

「なら、ミジュマル。ランニングルームで走り込みをしようぜ」

 

「ミジュ!」

 

 待ってる時間が勿体無い。使えなかったのなら、他のトレーニングをするまで。

 

「それは良いが、サトシ君は先ずその足の処置だ。あと、少し傷もある。薬を塗って置こう」

 

「はい」

 

「ミジュ……」

 

 転がった際に細かな傷が付いていた。これは間違いなく、自分のアクアジェットのせいだ。その事にミジュマルは申し訳ない顔になる。

 

「気にすんな、ミジュマル。頑張ってくれ」

 

「ミジュミジュ!」

 

 ミジュマルはブンブンと顔を振る。手当を見届けるまでは一緒にいる気だ。

 

「思われてるね。では、こっちだ。あと、今日はゆっくりしなさい」

 

「そうします」

 

「ミジュ」

 

 サトシとミジュマルはジョージと一緒に治療ルームに入る。そこでサトシはベッドに腰掛けると、ジョージは先に足の応急手当を済ませ、次に傷に薬を塗っていく。

 

「うっ、ちょっと染みますね……」

 

「傷に塗っている訳だからな。仕方あるまい」

 

「ミジュ~……」

 

「だから、気にすんなって」

 

 塗り薬で少し痛むのを見て。ミジュマルが不安な様子を見せるも、サトシは笑顔を浮かべる。

 

「まぁ、傷に塗るわけだからな。どうしても痛み、染みてしまう」

 

「ミジュ~」

 

 ふ~んと、ミジュマルは軽く唸る。アララギ研究所で怪我した時、傷に薬を塗られて痛かったのを思い出した。

 

「ちょっと我慢してもらいたい」

 

「へっちゃらです!」

 

 その後、サトシの手当も終わり、ミジュマルの特訓の時間は再開された。

 

 

 

 

 

「頑張ってるね、皆」

 

「Nさん」

 

 Nが特訓ルームに来たのは、昼食が終わった時間帯だった。

 

「あれ? サトシくん、その足は?」

 

「つっちゃいました。けど、一日あれば治りますよ」

 

「無理はしない様にね」

 

「サトシが無理をしたと言うよりは、彼女のキバゴが滅茶苦茶をした結果ですが」

 

「……」

 

「キバ……」

 

 ジト目のシューティーに言われ、アイリスとキバゴは気まずい表情だった。

 

「ま、まあまあ。それよりもNさん、ジム戦は?」

 

 Nがポケットから出したバッジケースには、二つ目のバッジが納まっていた。

 

「勝利したんですか!」

 

「うん。でも手強かった。ポカブも倒されちゃったしね」

 

「カブ……」

 

 自分が倒された事に、ポカブは不満げである。

 

「何にしても、これでNさんが一歩リードしたという事ですね」

 

 先を越された事に、シューティーは対抗心を抱いていた。

 

「キミ達なら、リベンジできるよ」

 

「それは、余裕からですか?」

 

 

「いや、そう思って言ってる」

 

 挑発的なシューティーの台詞だが、Nは表情を一切変えずに本心だと語る。

 サトシは勿論、シューティーも一生懸命頑張っている。二人ならリベンジを果たせるだろうと思っていた。

 

「あぁ、それとアロエさんから聞いた事だけど、例のロケット団の騒ぎで盗まれた物は無いらしい」

 

「そうなんですか?」

 

 それは意外だと思ったサトシ。あの連中は抜けてると言うか、憎みきれない所はあるが、やるときはやる連中でもある。

 それだけに、この結果には驚きを隠せないものの、何も無かったと言う事でもある。サトシは良かったと一安心する。

 

「話は変えますけど、Nさんはまだここにいるんですか?」

 

 バッジゲットしたが、まだここに留まるのかとサトシは尋ねた。

 

「そうだね。キミ達を見てみたいから」

 

 サトシ達とポケモンの触れ合い方。それを間近で見れるのだ。鍛錬も出来るし、まだ留まる価値はある。

 

「ただ、キミ達が嫌だと言うのなら止めるけどね」

 

「俺は構いませんよ。シューティーは?」

 

「そうですね――僕と勝負してもらえるのなら、構いません」

 

 シューティーは明日、再度のジム戦を挑むつもりのため、ここらで調整にバトルをしたかった。相手がNなのは、一度戦って見たかったからだ。

 

「見物料代わり、と言う訳だね。まぁ、キミがそう言うなら仕方ないかな。受けるよ」

 

 バトルは好まないが、シューティーという少年や、彼とポケモン達が関係なのかを知れる機会。Nはその条件を受けた。

 

「シューティーとNさんのバトルか。興味あるなー」

 

 とはいえ、今は自分の手持ち達の様子を見る方が優先と、サトシは我慢した。

 

「形式は?」

 

「一対一で。僕はジャノビーを」

 

 一番の自信があるポケモンでNとのバトルに挑みたい、また特訓も続けたいため、一対一にした。

 

「なら、ボクはゾロアにしよう」

 

「ゾロ」

 

 ゾロアはポカブよりもダメージを受けておらず、体力に充分な余裕があった。

 

「カブカブ?」

 

「キミはトレーニングの再開。頑張って」

 

「カブ!」

 

 ポカブにそう伝えると、Nとシューティーはバトルフィールドに向かう。

 

「――では、始め!」

 

 ジョージ以外の職員に審判を頼み、Nとシューティーの初バトルが始まる。

 

「ジャノビー、エナジーボール!」

 

「ゾロア、シャドーボール」

 

「ジャノ!」

 

「ゾロ!」

 

 草と影の力の球が同時に発射、中央で衝突する。結果はシャドーボールが勝利し、ジャノビーに向かう。

 

「ジャノビー、かわしてグラスミキサー!」

 

「ジャノ! ジャノ……ビーーーッ!」

 

「走って」

 

「ゾロ」

 

 草の渦が放たれるも、ゾロアはそのスピードで軽々とかわす。

 

「シャドーボール。そこからハイパーボイス」

 

「ジャノビー、回避に専念しろ!」

 

「ゾロー……アーーーッ!」

 

「ジャノジャノ――ビィ!」

 

 サトシとのバトルで見せた、複数のシャドーボールをハイパーボイスで加速させて打ち出す合わせ技だ。

 高速のシャドーボールをジャノビーはかわそうとするも、あまりの速さに一つか二つ避けたところで命中してしまう。

 

「反撃だ、ジャノビー! いあいぎり!」

 

「――だましうち」

 

 ボソッとNが呟く。体勢を立て直し、ゾロアに迫って力を込めた手刀で斬りかかるジャノビー。

 

「ゾロ?」

 

「ジャノ? ジャノッ!」

 

 しかし、ゾロアの視線の動きに釣られた瞬間、身体に体当たりされる。

 

「だましうち……! 厄介な……!」

 

 接近された状態で放たれれば、よほど注意しない限りは食らってしまう。

 かといって、中距離はハイパーボイス。遠距離はシャドーボールがある。距離を取っても打開出来ない。

 

「残念だけど――読みやすい」

 

「……!」

 

 どうすればと、シューティーが悩んでいると、Nにそう言われて息を飲む。

 

「キミは基本である、相性、戦略を重視してる。だけど、それ故に単純になってる」

 

「……今のままではダメだと?」

 

 基本を重視している今のままでは、この先はない。シューティーはそう思うも。

 

「逆かな。キミには――基本が足りないように思う」

 

「た、足りない?」

 

 基本を大切にしている故に、シューティーは抜けた声を出してしまう。

 

「そう。幾つかの基本に囚われ、ポケモンの技や力を使いこなす。戦況に合わせた適した判断をし続ける。敵の隙を突き、裏をかく能力。それらの基本が足りないと思う。今のキミは言うならば、戦況を面でなく、点としてしか見れてない」

 

「……なるほど」

 

 Nに言われ、シューティーは呟く。確かにNもサトシも技を広く使い、全体を見ていた。一方で、自分はそれが出来てない。

 育成、相性、戦略が有れば勝てる。それは間違っていない。今までの勝利はそうやって得たのだから。

 しかし、それは基本中の基本、初歩中の初歩に過ぎない。自分はまだ新人トレーナーの領域を基本を超えていないのだ。

 

「まぁ、急にやる必要はない。調子を崩す可能性もあるからね」

 

「かもしれませんね」

 

 多くの基本を学び、完全に身に付けなくてはならないのだ。大変なのは火を見るより明らか。

 

「でも、やりますよ。僕は」

 

「ジャノ!」

 

 現状のままでは、サトシとNに勝つのは愚か、目の前のバッジすら出来ない。進むしかないのだ。チャンピオンを目指す為にも。

 何よりも、サトシも欲張りだ。自分もそれぐらい欲を求めねば、追い付けないだろう。目指す場所が高いのだから。

 

「良い目だ。向上心が強い」

 

 ジャノビーも、シューティーと同じ目をしている。短いながらも良い信頼を築いている証だ。

 

「バトルはどうするかな?」

 

「ここまでにします。基本を学ばないと行けませんから」

 

 シューティーは明日に再度のジム戦を挑む予定はキャンセル。基本を学び直す事にした。

 

「頑張って」

 

「言われずとも。あと――僕に塩を送ったこと、何時か後悔しますよ?」

 

「楽しみにしてる」

 

 また挑発的なシューティーの台詞。しかし、やはりNは平然としていた。

 シューティーはその後、ジャノビーを回復させようとポケモンセンターに向かった。

 

「さて。ゾロア、ボクたちはトレーニングの再開と行こうか」

 

「ゾロゾロ」

 

 そして、Nとゾロアは特訓の再開にトレーニングルームに向かう。トレーナー、ポケモン達が汗を流す中、また一日が過ぎていった。

 

 

 

 

 

「今日で三日目だね」

 

「あぁ」

 

 特訓開始してから三日目の朝。つった足が治り、ランニングマシンでの走り込みをサトシは再開していた。隣にはデントがヤナップやイシズマイの状態を見ている。

 

「彼等も頑張ってるね。今日で三日目なのに」

 

 モニターには、初日や二日目同様、厳しいトレーニングを励んでいるサトシのポケモン達が写っていた。

 

「ポカ! ポカポカ!」

 

 ドシュドシュと、音が鳴る。発射口からポカブに向かってボールが射出されていた。

 これも特訓の仕掛けの一つであり、走りながら自分に向かって放たれる球をかわす事で判断能力、体感バランスを鍛えているのだ。

 

「ポカポカ……!」

 

 もっと。もっともっとと、ポカブは感情を燃やし、己を追い込む。

 

(自分が弱いから、サトシを負けさせてしまった)

 

 ニトロチャージを利用されたアロエのあの策。あれは自分がハーデリアの速さに追い付けなかったのが原因だ。

 もし、互角かそれ以上ならば、速さをコピーされても簡単に負けはしなかったはずなのだ。

 何よりも、捨てられていた弱い自分を助けてくれた、仲間にしてくれた。そんな彼を負けさせてしまった。

 だから、今度は勝つ。敗北の悔しさ、勝利への渇望を糧に、ポカブは高速で動くコンベアをボールをかわしながらひたすら走る。速さを、徹底的に鍛えていた。

 

「ポカポカポカーーーーーッ!!」

 

「カブー」

 

 そんなポカブの頑張り振りを、Nのポカブは感心した様子で見つめる。これほどの熱意。自分も参考にせねばと、その足を速く動かす。

 

「クル……ポーーーーーッ!!」

 

 鳥ポケモンや、浮くタイプの訓練ルーム。今は強い逆風が発生しているこの部屋では、マメパトが逆風に向かって一生懸命飛んでいた。

 

(――きっと、勝てなかった)

 

 ポカブとミジュマルが負けた。つまり、それは自分が代わりに出てもおそらく、勝つことは出来なかったと言う事だ。

 出れなかった事実も悔しいが、そう思っている自分の弱さにもマメパトは悔しさを抱いていた。

 

(勝たせたい。そして、勝ちたい)

 

 こう思うマメパトだが、彼女はミジュマルやポカブと違い、バトルでサトシにゲットされたポケモン。本来はここまで彼を思う事は難しい。

 しかし、ロケット団に捕らえられた仲間や自分、野生のポケモンや困った者達を必死に助ける優しさや、見事な指示で勝たせてきた強さがある。

 だからこそ、マメパトはサトシを深く信頼していた。だからこそ、負けさせたくない。

 その意思を翼に、小鳩ポケモンは小さくも強く逞しく羽ばたいていく。先の強さを求めて。

 

「ボー……」

 

 そんなマメパトの様を見ていたシューティーのハトーボーは、凄いと思った。

 進化前ながらも、自分を負かした相手だからだろう。彼もまた、逆風に向けて飛んでいった。

 

「なぁ、デント」

 

「なんだい、サトシ?」

 

「俺ってさ、どこかで調子乗ってたのかもな」

 

 ランニングマシンで走りながら、サトシがデントに調子に乗っていた、何処かに傲りがあった事を話す。

 

「どうしてそう思うんだい?」

 

「俺、このイッシュ地方に来てから勝ち続けてた」

 

 オノノクス戦では完敗だったが、向こうが中止したため、実質負けなしと言えた。

 

「勿論、ポケモン達の頑張りもあるけど――俺はあいつらの力を引き出せてる事を、心の中で当然だと、勝ち続けてたのも当たり前だと思ってたのかもしれない。だから、ジム戦の前でツタージャじゃなくても、問題なく勝てると思ってたのかもしれない」

 

「気持ちよりも、確実な勝利を優先すべきだった。そう思ってるのかい?」

 

「それが分かんないから悩んでてさ」

 

 シューティーの前ではああ言ったものの、よく考えるとこれで良いのかとサトシは少し迷っていた。

 

「なるほどね」

 

 ポケモンの事を深く思うからこそ、サトシはこうして悩んでいるのだろう。

 気持ちを優先すれば、負けさせてしまうかもしれない。かといって、強さを優先すれば傷付けてしまうかもしれない。その二つの板挟みになっているのだろう。

 

「サトシ、僕が言えるのは一つだけ。君のやり方で、強くなって行けば良い」

 

「俺のやり方で、か」

 

「うん。君のやり方でも彼等は強くなってる。敗北したって、それを糧に強くなろうとしてる。色々と考え、変化を加えるのは大切だけど、だからと言って根本を変えては君じゃなくなる。まだそんなに長い付き合いじゃないけど、強さだけを求めるサトシって正直、想像出来ないしね」

 

「あはは、その俺ってシンジみたいだな」

 

「シンジ?」

 

 聞いた事のない人物の名前に、デントは少し気になった様だ。

 

「シンオウで会った、俺のライバルだよ。すっごく強くてさ、リーグ戦以外はほとんど敗けっぱなし」

 

「……君が?」

 

 サトシを負け越しにさせる程のトレーナー。デントは当然ながら驚き、興味を抱いた。

 

「あぁ、俺とは正反対な考えや性格のトレーナーでさ。合理的主義で強さをひたすら磨いてた。ただ、強さでポケモンを選んだり、弱かったら手放したり、最初の頃は使えないなとか、ぬるいなとか言ってた。他にも無茶な事もしてたなー」

 

「す、凄いトレーナーだね……」

 

 正にサトシとは対極のトレーナーだ。思わず、とんでもないとデントは心の中で呟いてしまった。

 

「だろ? そんなんだから、最初の頃から反発ばっかしてた」

 

「だろうね」

 

 寧ろ、それで全くぶつかり合わない方が不思議だ。

 

「だけど、戦う内に、アイツなりにポケモンと真剣に接してる事を知った。常に勝つために鍛錬と調査は怠らない。役割や戦術をしっかりと決める。必要なら、俺のやり方も採り入れてた。そう言う、どこまでも強さを求め、上を目指すアイツの姿は凄いって思った。的を得た事も言ってたし」

 

「なるほど」

 

 さっきまでは、あまり良い印象を抱かなかったデントだが、次のサトシの台詞でその印象を変える。

 非情さはあれど、それをしっかりと強さに結び付け、彼なりにポケモンと向き合っている。サトシのやり方を採り入れる柔軟さもある。

 少なくとも、ポカブをただ捨てたトレーナーよりは遥かにマシだろう。

 

「何よりも、俺はアイツとのバトルの中で強くなれた。だから、感謝してるんだ」

 

「切磋琢磨し、互いに強くなっていったマリアージュ。なるほど、君にとっては彼は最強のライバルと言える存在か。ふふ、そのテイストを是非ともこの目で直接見たいね」

 

「けど、アイツ多分、他の地方で旅してるだろうしなー。会うのは難しいかも」

 

「うーん、それは残念……」

 

「でも、何時かは会えるさ」

 

「その時に楽しみにしてるよ。――さて、話を戻そうか。結構逸れてる」

 

「……あっ、本当だ」

 

 いつの間にか、話の内容が自分ではなくシンジのものへと変わってしまっていた。

 

「ごめん、デント」

 

「いや、良いよ。興味深い話だったからね。話は戻すけど、サトシはサトシだ。やりたい事を決めるのは僕でも、彼や他の人達でもない。彼や他の人達から学んだ事を採り入れながらも、君が思うやり方で強くなれば良い。勝利も敗北も糧に、ね」

 

「――ありがと、デント」

 

 久々の敗北が、堪えたのだろう。所詮、自分はまだ一人のトレーナーでしかないと言うのに、何と馬鹿らしい事か。

 勝ちも負けも受け入れ、ポケモン達と歩む。それが自分の選んだ道のはずだ。なら、迷うことなど何も無い。ピカチュウ達と一緒に進み、強くなるだけだ。

 

「うぉおおぉおぉぉーーーっ!!」

 

「おぉ、激しい情熱のフレイバー。凄まじいね」

 

 サトシは自分らしさを取り戻し、全力でランニングマシンを走る。己を鍛え直すために。

 

「……最強のライバル、か」

 

 その部屋の扉の影、シューティーが複雑な心境でそう呟いていた。

 話を盗み聞きする気は無かったが、ポケモン達の様子を見る中で偶々聴こえ、また気になる話だったため、ついこうしてしまった。

 

(……サトシにとって、僕はどんなライバルなのだろうか)

 

 いや、きっと今はおそらくライバルにもなれていないに違いない。例え、サトシがそう言ったとしても。

 自分は新人、あっちは幾つものリーグの経験者。これで対等なライバルになれる訳がない。

 少なくとも、Nの方が自分よりもずっと彼のライバルと言えるだろう。その事実につい、壁に付いた手に力が込もる。

 

(――それが、今の僕)

 

 ライバルとも言えない新人。今はその程度でしかない。だが、チャンピオンに勝つためにも、何時かは対等なライバルになり、サトシやシンジを倒し、最後はチャンピオンを超える。

 その為には、今の自分にはない多くの基本を学び、己の物にする。悔しがってる間など時間の無駄だ。

 シューティーはこのまま、二人に気付かれない様に離れ、ポケモン達の様子を見に行こうとする。

 

「何してるの、シューティー?」

 

「うわっ!?」

 

 そこをアイリスに呼ばれ、驚きからシューティーは思わず声を出す。

 

「あれ、シューティー?」

 

「今日はジム戦だったんじゃないのかい?」

 

 サトシとデントにも見付かり、シューティーはとりあえず出て、落ち着かせるべく、軽く深呼吸してから二人の疑問に答える。

 

「もう一日だけ増やそうと思って」

 

「そっか。一緒に走る?」

 

「いや、僕は違う部屋に行くよ。それよりも、予定を変えたから先に挑むのなら早くしないと――」

 

「良いよ良いよ。俺ももう少し特訓したかったし」

 

 再挑戦に時間が掛かる。そう言おうとしたシューティーだが、サトシは別に気にしない。その分、自分を鍛え直したり、ポケモンを鍛えれる時間を得れるからだ。

 

「分かった。なら、明日僕が再度挑ましてもらうよ」

 

「頑張れよ」

 

「勿論」

 

 改めて、シューティーは部屋を離れる。会うつもりは無かったが、順番を決めれたため、これはこれで良かった。

 

「――さぁ、頑張るか」

 

 再挑戦の明日までには時間が無い。基本を学び直してから、という手もなくはないが、リーグ開催までの時間は有限。待ってくれはしないのだ。

 新たな一歩を物にするべく、少年は向かった。

 

 

 

 

 

「マメパト、かぜおこし! ミジュマル、みずてっぽう! ポカブ、ひのこ!」

 

「ポー!」

 

「ミジュー!」

 

「ポカー!」

 

 昼。三つの技が、三つのサンドバックに激突し、縦から横一直線になるぐらい大きく飛ばす。

 

「うん、最初の時よりも技の威力が上がってるぞ」

 

 初日は今のより、一段階軽いサンドバックをそれなりに揺らすのが限界だった。技の威力が順調に上がってる証拠だ。

 

「ポー……」

 

「ミジュ……」

 

「カブ……」

 

「どうしたんだ?」

 

 しかし、三匹の顔は浮かなかった。感じているのだ。これだけでは足りない。もっと力がいる。

 

(やっぱり、新しい技がいる)

 

 三匹は同時に、同じ事を考えていた。今のままでは、アロエ達に勝てない。新しい強さだけでなく、技もいる。

 サトシに追い付く為に。いや、それだけではない。今まではサトシに背を預ければ勝てると思っていた。

 しかし、今回の敗北とそれではダメだと理解した。サトシに背を預けるのではない。サトシに前を預けれる自分になろうとも決めていたのだ。

 それらの意志を込め、考えてからか、そのままぶつけるかなどの差違はあるも、三匹は全力の技を何度も何度も放っていく。疲労が溜まり、技のキレが鈍ろうとも続ける。

 

「皆……」

 

「キミに応えようとしてるんだ」

 

「Nさん……」

 

「今の自分達では、ダメだ。もっと頑張らないと行けないとね。――キミはどうする?」

 

「――決まってます」

 

 ポケモン達が頑張っている。ならば、トレーナーに出来る事はただ一つだ。

 

「――行け、皆! もっと力を引き出すんだ! 身体の奥から引き出す様に!」

 

 頑張っている、彼等を応援する。それだけだった。三匹はその声援を受け、昂った気持ち、残った力の全てを叩き込むように技を放つ。

 

「クルー……ポーーーーーッ!!」

 

「ミジュー……マーーーーーッ!!」

 

「カー……ブーーーーーッ!!」

 

 直後、凄い音が部屋に響いた。

 

「これは……!」

 

 それは新しい力の顕現。身心を限界まで追い込み、トレーナーに応えようとした結果、実現した証。

 

「マメパト、ミジュマル、ポカブ……」

 

「ポ、ポー……」

 

「ミ、ミジュジュ……」

 

「カブカブ……」

 

 疲労困憊ながらも、三匹はサトシに微笑み掛ける。これで、少しはサトシに追い付けた、と。しかし、そこで疲労から気を失ってしまう。

 

「ありがとな」

 

「手伝うよ」

 

「助かります」

 

 サトシとNは三匹を丁寧に担ぐと、休憩ルームに向かう。

 

「……」

 

「キバ?」

 

「どんどん進んでる――ってところかな?」

 

「き、きゃっ!? デント!?」

 

 サトシ達の後ろ姿を、複雑な表情を見るアイリスはデントが声を掛けられ、ビクッと身体を震わせる。

 

「違うかい?」

 

「な、何の事?」

 

「言わなくても、分かるよね?」

 

「……」

 

 アイリスは黙りとしてしまう。デントの言う通り、どんどん進んでいる――つまり、サトシ達が進歩している事に、差を感じているのだ。

 自分はまだ、キバゴのりゅうのいかりを完成させていない。ドリュウズとの仲も改善させてない。

 一方で、サトシ達は確かに成果を出している。アイリスが差を感じても仕方ないだろう。

 

「……デント、あたしはどうしたらサトシみたいに出来るの? 結果を出せるの?」

 

「頑張るしかないよ。敗北も勝利も、あらゆる物を受け止めて、糧にしてね」

 

「……あたしに、出来ると思う?」

 

「君次第だね。やろうとしなければ、何も出来ない。前に歩もうとしなければ、前には進めない。それは何時だって変わらないよ。だからこそ、サトシは凄いんだけどね」

 

 今回の様に迷い、悩んでも、進む事は忘れない。前を目指し続ける。それがサトシの強さの一つ。

 

「……そうね。キバゴ、やるわよ!」

 

「キバキバ!」

 

 アイリスは自分を奮い立たせる。自分は今、オババ様から授かったこのキバゴを立派に育て、オノノクスにまでするのが目標だ。

 その為にも先ずはりゅうのいかりの完成を目指す。一歩ずつ小さくとも確かに進む。

 

「発射!」

 

「キバー!」

 

 出力が上がったりゅうのいかり。しかし、暴発せずにサンドバックを揺らす。

 

「うん。成功! これで四割まで行ったわね!」

 

「キバキバ!」

 

 キバゴもこの三日間、サトシやシューティーのポケモン達と同様に、かつ子供なので無理をしない範囲の特訓をしていた。

 そのおかげで身体が多少鍛えられ、りゅうのいかりの完成が多少早まりそうなのだ。

 

「ふふふ、君は凄いね。サトシ」

 

 アイリスとキバゴの頑張りを見て、デントは休憩ルームに向かったサトシに呼び掛ける。その姿勢だけで、刺激を与えた。

 

「まぁ、僕もその内の一人なんだけどね」

 

「ヤナヤナ」

 

「マーイ……」

 

 確かにと頷くヤナップに、それがサトシかと理解していくイシズマイ。

 

「さて、僕達も頑張りますか」

 

「ヤナ」

 

「マイ!」

 

 自分達の為にも、ジムを任せたポッドやコーンの為にも、一回りも二回りも頑張らなければならない。デント達もまた、特訓に精を出していく。

 

 

 

 

 

「よっと」

 

 休憩ルームに着いた二人と途中で合流したジョージは、三匹を部屋にあるベッドに乗せ、布団を掛ける。

 

「頑張らないとな」

 

 今日と明日がある。その二日間、自分も己を鍛えねばならないとと、サトシは意志を固める。

 

「サトシくん。君達は凄いね」

 

「えっ?」

 

「キミは敗北をしても、彼等のせいにはしないで当たらず、悔しさを分かち合える。そして、こうして再戦に向けて頑張れる」

 

「うむ、実に立派である」

 

 何気無い事かも知れないが、だからこそ難しい。故に、Nはそれを自然に出来るサトシや彼等、その繋がりを凄いと思えたのだ。ジョージも感心していた。

 

「俺はコイツらと頑張りたいですから」

 

「その気持ちは大事だよ」

 

 そして、世の中がサトシの様なトレーナーばかりなら、自分はきっと、この道を選んでいないだろう。

 

(だけど)

 

 自分はもう決めた。何よりも、幾つかの真実を知ってもNはまだ、この道が最善だと思っている。だから、突き進む。

 

「サトシ君、この三匹は私が見よう。君は彼等の努力に応えるべく、頑張りたまえ」

 

「はい!」

 

 ジョージに言われ、サトシは今は同じ部屋にいたピカチュウとツタージャに頑張りの事を話し、走り込みに戻った。

 

「ピカ……」

 

「……」

 

 三匹の頑張りに、ピカチュウやツタージャもまた、意識を高めていた。負けたくない、同時に彼等同様に頑張らなければと。

 

「ピカピ……」

 

「タジャ?」

 

 ピカチュウがため息を溢す。ツタージャが聞くと、口を開いた。

 

『今、まともに電気が使えなくてさ』

 

『あぁ、なるほど』

 

 頑張りたくても、頑張れない。それがピカチュウには辛いのだと、ツタージャは理解した。

 

『なら、今は休みなさい。厳しい時は無理しないのが一番よ』

 

『だけどさ……』

 

『怖いの?』

 

『えっ?』

 

『追い付かれるのが怖いのか、って聞いてるの』

 

『いや、そんな訳ないじゃん。強くなったって、サトシはサトシだよ』

 

 マメパト、ミジュマル、ポカブがもし自分より強くなろうが、サトシは今まで通りに自分達に接するだろう。

 

『なら、それで良いじゃない。彼は強い。だけど、あたし達に優しく仲良く接して、困った者を見捨てれないお人好しのお馬鹿さん。それが彼でしょう?』

 

『……誉めてるの? それ?』

 

『当たり前でしょう?』

 

 そんな人だからこそ、ツタージャは選んだのだから。とはいえ、内心では少し壁があるのが少し後ろめたいのだが。

 

『まぁでも、確かにそうだね』

 

 ツタージャの言う通り、それがサトシだ。自分の相棒なのだ。

 

『けど、一番は外せないからね。無理しない程度で頑張りますか』

 

『あら、欲張りね。だったら、一つ助言して上げるわ。――イメージしなさい』

 

『イメージ?』

 

『そう。得たい技が有るのなら、どんな技かを決めてからやりなさい。出来る時間が少ない今には最適よ』

 

『なるほど』

 

 言われて見れば、ボルテッカーの時もイメージをしていた。今回もそうした方が技を編み出しやすいだろう。

 

(となると、後はどんなイメージをするか)

 

 ピカチュウは今まで使って来た技を思い出す。高威力の10まんボルトやかみなり、突撃系のでんこうせっかやボルテッカー、尻尾を使うたたきつけるやアイアンテール。

 

(あっ、そう言えば……)

 

 あるタイプの技は習得してない。それにその系統の技は、今の自分には最適とも言える。

 問題はそんな技があるかどうかだが、やって見なければ分からない。何事もチャレンジである。

 

『良い目になったじゃない』

 

『当然』

 

(あたしも頑張らないとね)

 

 ツタージャも実はある技の練習をしており、もう少しで出来そうなのだ。

 

『じゃあ、特訓再開と行こうか』

 

『えぇ』

 

 そのやり取りを最後に、電気鼠と草蛇は再開する。新たな技か、その切欠を得るために。

 様々な者達が努力に励み、三日目の特訓が終わりを迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

「ここだな」

 

 真夜中。ロケット団がフリントに指定された場所へと到着していた。その一分後、ロケット団の飛行挺が着陸し、フリントが出て来る。

 

「どうやら、この前のような馬鹿な失態は仕出かさなかった様だな」

 

 出てきて早々、フリントは辛辣な言葉を投げ掛けるも、前の件を考えれば無理も無いだろう。

 

「何時まで根に持ってんのよ……」

 

「しつこい奴にゃ」

 

「……サカキ様に報告でもするか」

 

「いやー、フリント様! ご立派で御座いますね~!」

 

「えぇ! 問題がこれ以上起こらないよう、アタシ達にしっかりと釘を刺す!」

 

「その細かな気配り、感服しましたにゃ!」

 

「さっきと言ってる事と明らかに違うが?」

 

 小声でサカキに前の件で報告するとフリントに言われた瞬間、ロケット団は急に態度をコロッと変え、更に手で胡麻を擦っていた。

 

「そんな訳無いじゃないですか~」

 

「そうそう、アタシ達はフリント様を尊敬してますので!」

 

「これはにゃー達の本心ですにゃ~」

 

「……もう良い」

 

 この変人共と一々付き合ってられないと、フリントは割り切った。

 

「入れ」

 

 ロケット団が入ると、飛行艇は空へと飛び立つ。

 

「お前さん達が、例の連中か」

 

「貴方は?」

 

「ゼーゲル。この飛行艇は儂の為の研究施設でもある。さて、説明はこんな所で良いじゃろう。メテオナイトをここに」

 

 コジロウが博物館から盗んだ隕石をテーブルの上に置く。ゼーゲルがパネルを操作し、ある光を当てていく。

 

「うむ、間違いない。これはこの星には存在しない物質で出来ておる」

 

「本物と?」

 

「そう見ても良いじゃろう」

 

 データからは、この隕石は間違いなくメテオナイトだと証明されていた。

 

「儂はこれからこのメテオナイトの調査に取り掛かる。お前さん達は各々の仕事をせい」

 

「了解した。では、次の任務を伝える」

 

「何をするのよ?」

 

「リゾートデザートに向かう」

 

「もう、本命のメテオナイトを手に行くのか?」

 

 先手必勝、兵は神速を尊ぶという言葉はあるように、素早く済ませるのは大切だが、それにしてもこれは早すぎる気がする。

 

「いや、確保はあのメテオナイトをある程度調べてから。今回は下見が目的だ」

 

「メテオナイトは素早く手に入れる為にゃ?」

 

「それもあるが、ある場所も調べろと言われている」

 

「どこだ?」

 

 リゾートデザートについては、隕石がある場所と言う事しかまだ知らない。他については知らなかった。

 

「古代の城。かつて、この地方がある王国だった時の名残だ」

 

「そこには何かが有るわけ?」

 

「それを知るために調べて来いとの事だ。おそらく、伝説や幻に纏わる情報を期待しているのだろう」

 

「面白そうな話にゃ」

 

 確かに昔の王国の城なら、この地方の伝説に関する情報があってもおかしくはない。狩人のような目をするロケット団。

 

「では、向かうぞ」

 

「了解」

 

 リゾートデザート、そして古代の城に向け、ロケット団の飛行艇は出発し始めた。

 

「飛行艇、か。厄介だな」

 

「下っぱは馬鹿でも、上は一流と言うことか」

 

「だが、どうする? これでは奴等の動きは追えんぞ?」

 

 特殊な双眼鏡で、ロケット団が飛行艇に入り込み、飛び去ったのを離れた場所で三人組は確認していた。

 

「追跡は無理だな。だが、推測は出来る」

 

「リゾートデザート、古代の城」

 

「それにもう一ヶ所あるな」

 

 空に移動してしまった以上、地上からの追跡は困難になった。しかし、事前に推測することは可能だ。

 

「よし、あの方に報告の後、動くぞ」

 

 一人が主に連絡をした後、三人組は新たな任務に向けて動き出す。

 少しずつ。また少しずつ、『始まりの時』は迫っていた。

 

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