ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ   作:ぐーたら提督

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 久々に二日続けての連続投稿。そして、これで漸くシッポウシティの話は終わりです。全部で六話も掛かった……。


シッポウジム再戦、サトシ編

「はい。タマゴの検査は終わりましたよ」

 

「ありがとうございます」

 

 再チャレンジの日の早朝。サトシはこの日もタマゴの検査をしてもらっていた。

 

「結果は良好です。それと断定は出来ませんが、もうすぐ産まれるかもしれませんよ」

 

「本当ですか!?」

 

 誕生までもう少しと聞き、サトシは喜びの声を上げる。

 

「この子の方もそうだった。案外、一緒に産まれるかもしれないね」

 

 サトシの前に検査してもらったNが持つタマゴも、もうすぐで孵化するとの報告だった。

 

「その可能性はあり得ますね。まぁ、あくまで予想ですが」

 

 タマゴに関しては謎も多く、さっきの話に関しても可能性は高いが、あくまで可能性の範囲である。

 

「でも、一緒に産まれたら良いわよね~」

 

「うん、とても素敵だと思う」

 

 一緒にあった育て屋のタマゴが、同時に孵化する。とても素敵な話だ。

 

「お前の為にも、バッジゲットしないとな」

 

 リベンジを果たし、胸を張って、もうすぐ産まれるだろう新しい仲間と会いたい。

 

「頑張らないとね」

 

「はい」

 

 勝つ理由が一つ増え、サトシはシッポウジムへと向かった。

 

 

 

 

 

「来たね、サトシ」

 

「はい。来ました!」

 

 シッポウジム。四日振りに訪れるサトシ達。目的は勿論、バッジだ。

 

「Nも、シューティーもあたしに勝った。後はアンタだけだね」

 

「えぇ、今度こそ俺達が勝ちます」

 

「良い気迫だよ。――来な」

 

 アロエの案内に従い、Nを除くサトシ達は四日振りのシッポウジムのバトルフィールドに着く。

 サトシとアロエは互いの位置に着く。すると、またアロエが手持ちを公開する。

 

「ハーデリア、ミルホッグ」

 

「ハー!」

 

「ミル!」

 

 出したのは、ハーデリアとミルホッグだった。

 

「やっぱり、その二匹ですか」

 

「あぁ、この二匹で戦うよ。但し、今回はハーデリアからじゃない。――ミルホッグ」

 

「ホッグ!」

 

 今回はハーデリアではなく、ミルホッグが先発のようだ。

 

「今日はミルホッグから……」

 

「変化を付けてきたね」

 

 これでサトシの出方を見抜こうとしているのだろう。大体把握してそうだが。

 

「どっちからでも構いませんよ」

 

「良い気迫だ。さぁ、始めようか!」

 

「では、これよりジムリーダー、アロエとチャレンジャー、サトシの再戦を始めます。――始め!」

 

「ミルホッグ!」

 

「ホッグゥ!」

 

「ミジュマル、君に決めた!」

 

「ミジュ!」

 

 サトシが繰り出したのは、ミルホッグに倒されたミジュマルだった。

 

「おやおや、本当に倒した相手にリベンジしに来るとはね」

 

 単純なサトシの性格から、一度負けたポケモン達でリベンジをするのではないかとアロエは推測していたが、見事に的中していた。

 とはいえ、油断は出来ない。サトシは単純故に、常識に囚われない戦法をして来る。気を引き締めねば。

 

「ミルホッグ、10まんボルト!」

 

「ミジュマル、シェルブレード!」

 

「ミルホッグーーーッ!」

 

「ミジュー……マァ!」

 

 ミルホッグから雷撃が放たれる。ジグザグに軌道を描きながらも進むそれを、ミジュマルは水の刃で一閃。両断した。

 

「ほう、10まんボルトを斬るとはね! 前のホタチのガードと言い、面白いよ」

 

「面白くなるのは、ここからです!」

 

「良いね! もっとあたし達を楽しませてもらうよ! ミルホッグ、再び10まんボルト!」

 

「ミルホッグーーーッ!」

 

「ミルホッグ、アクアジェット! かわしながら進め!」

 

「ミジュー……マァアアァ!」

 

 再びの雷撃。ミジュマルは完全制御出来るようになり、速さと動きのキレを高めたアクアジェットで渦巻く様に回避。そのまま、ミルホッグにぶつかる。

 

「ホッグ!」

 

「よし!」

 

「ミジュ!」

 

「そこだよ! ――リベンジ!」

 

 ギンとミルホッグが鋭い眼差しを更に鋭くし、突撃してきたミジュマルに拳や蹴りを叩き込んで吹き飛ばす。

 

「ミジュウッ!」

 

「ミルホッグ、かみなりパンチ!」

 

「シェルブレードで受け止めろ!」

 

「ホッグ!」

 

「ミジュマ!」

 

 雷の拳と水の刃が激突。その際の衝撃を利用し、ミジュマルは後退する。

 

「うーん、追撃は決まらなかったね。残念」

 

「簡単には決めさせませんよ」

 

「ミジュ!」

 

「良いねぇ。シューティー同様、アンタ達も逞しくなってる」

 

 敗北を糧に、サトシもミジュマルも前よりも一回りも二回りも良い目になっていた。

 

「ねぇ、さっきのリベンジって技、凄い威力じゃなかった?」

 

「リベンジは、攻撃を受けてから発動した場合、威力が倍になる技なんだ」

 

「10まんボルトで接近を誘導し、リベンジを食らわせる。やはり見事だ……」

 

 かみなりパンチではないのは、発動するまでに回避される恐れがある。またはリベンジから繋げるためだろう。

 相性が良い技があるからと言って、それだけに頼らないのもアロエの力量の高さを示していた。

 

「アクアジェットは厳しいな……」

 

 折角完成させ、磨いたアクアジェットだが、迂闊に使うとリベンジでこちらが大きなダメージを受けてしまう。

 

「となると、早速あの技の出番だな、ミジュマル!」

 

「ミジュマ!」

 

(何か来るねえ……)

 

 おそらくは新しい技。ミルホッグに警戒するように伝え、何時でも対応出来る様に待ち構える。

 

「ミジュマル、もう一度アクアジェット!」

 

「ち、ちょっと! またリベンジを食らっちゃうわよ!」

 

「ミルホッグ、待機!」

 

 さっきのリベンジを受けながらも、またアクアジェット。アロエは何かあると判断し、こっちからは動かない。

 

「そこで解除! ホタチを投げろ!」

 

「ミジュ、マッ!」

 

「ホッグッ!」

 

 ミジュマルはアクアジェットを解除し、次にホタチを投げてミルホッグの態勢を崩す。

 

「たいあたり!」

 

「ミジュミジュ――マァ!」

 

「ホッグ!」

 

 特訓で鍛えたスピードで素早く距離を詰め、ミジュマルは強く体当たり。ミルホッグの体勢を完全に崩す。

 

「今だ! ――しおみず!」

 

「ミジュー……マーーーッ!」

 

 ミジュマルは大きく息を吸い込み、次に口から大量の水を吐き出す。それは見事、態勢の崩れたミルホッグに命中する。

 

「ホッグ……ッ!」

 

「ほう、しおみず。それがミジュマルの新しい技」

 

「はい!」

 

「ミジュ!」

 

 しおみず。水を浴びせる点では、みずてっぽうと大差はない。多少威力があるだけだ。

 しかし、この技にはある特徴が存在する。それは、傷がある状態で受けるとダメージが増すのだ。それも、傷があればあるほどに。まるで傷口に塩を刷り込むように。

 ミジュマルがこの技を身に付けたのは、サトシの手当て時に薬が傷に染み込んで痛いのを思い出し、こんな技があれば使えると思ってイメージした結果である。

 

「上手く使えば大きな威力を発揮する技。だけど、今のミルホッグじゃあ、それなり程度だね」

 

「ホッグ!」

 

 それなりに響いたが、その程度。致命的なダメージとは言えない。

 

「えぇ、それに威力も少し低いですし」

 

 しおみずは二日前に完成したばかりの新技。おまけに塩を混ぜるのは中々に難しいらしく、威力もみずてっぽうよりも僅かに低い。つまり、まだまだ完成とは言い難い。

 

「ですけど、今のしおみずでもダメージは受けてます。次はもっと痛くなりますよ」

 

 それでも、ダメージを受けた状態ならみずてっぽうよりもダメージが期待出来るのは確かだ。

 

「長期戦は不利と。ならこうしようかね。――ふるいたてる!」

 

「ホッグー……!」

 

 ミルホッグは前のハーデリアと同じく、自分を高揚させて力を高める。

 

「ミルホッグもふるいたてるを!」

 

「パワーを高めて、短期決戦に持ち込む気か……!」

 

 こうなると、トレーナーの判断がこの勝負の行く末を一気に決めるだろう。

 

「ミルホッグ、10まんボルト!」

 

「ミジュマル、アクアジェット! 同時にホタチも回収しろ!」

 

 規模が増した電撃が放たれる。水の突撃で回避しつつ、さっき投げたホタチを回収する。

 

「もう一度10まんボルト!」

 

「適度な距離を維持したまま避けろ!」

 

 続けて10まんボルトが来る。一定の距離を保たせ、回避に専念しながらサトシは考える。

 正面からはリベンジがある。しおみずで連続攻撃は、前のバトルの様に利用されかねない。長期戦はふるいたてるがあるため危険。となると、残る手は一つ。

 

「ミジュマル、シェルブレード!」

 

「ミジュマ!」

 

「また近付いて攻撃!」

 

「だけど、さっきのアクアジェットと見せかけてのしおみずはもう把握されてる」

 

「それ以外でどう攻めるのかな?」

 

 ミジュマルは水の刃を構えた状態で、ミルホッグに接近していく。

 アロエとミルホッグはしおみずを警戒しながらも、リベンジによる反撃の姿勢を見せていた。

 

「行け、ミジュマル!」

 

「ミジュマァ!」

 

「ミルホッグ、リベンジ!」

 

「ミル……ッ! ――ホッグゥ!」

 

 ミルホッグはミジュマルに水刃で斬られるも、耐えてリベンジを発動。ふるいたてるで力が高まり、更に倍加した一撃を叩き込もうとする。

 

「――そこだ! ミジュマル、シェルブレードでガード!」

 

「ミジュウ!」

 

「ホッグ!?」

 

「シェルブレードでガードした!?」

 

 迫る一撃を、ミジュマルは刃を消したホタチでガードする。避けられないのなら、防御すれば良い。

 しかし、水刃を展開したホタチ越しに伝わるその威力は凄まじく、ミジュマルは大きく吹き飛ぶ。

 

「そこさ、10まんボルト!」

 

「ミルホ……ッグーーーッ!」

 

「もう一度シェルブレードでガード!」

 

「ミジュ! ――マァ!」

 

「ミジュマル!」

 

 その隙をアロエは当然見逃さない。ミルホッグは追撃の10まんボルトを放つ。

 ミジュマルはまたシェルブレードで防ごうとするも、空中やリベンジの衝撃で腕が痺れたのもあり、対処仕切れずに一部を食らう。

 

「効果抜群!」

 

「直撃じゃないけど……」

 

「ふるいたてるで力を高まっているのを考慮すると、ダメージは小さくは無い」

 

 実際、食らって地面に落ちたミジュマルは辛そうな表情をしている。

 

「ミジュマル、まだ行けるか!?」

 

「――ミジュウ!」

 

 サトシの声に、ミジュマルは自分を奮い立たせる。キツくはあるが、戦闘不能ではない。まだやれるとサトシを視線を送る。

 

「ふふ、アンタ達の気迫が高まってるのがびしびし伝わって来るよ。こっちもそれに応えないとね。――ふるいたてる!」

 

「また力を上げた!」

 

「ミジュマルのダメージを考えると、次の一撃でアウトと考えるべき……」

 

「だけど、ミジュマルはげきりゅうを発動していない。この状態で一気に倒すまでに持ち込むのは厳しいね……」

 

 特性、げきりゅうが発動していれば、シェルブレードで一気に撃破もあり得た。しかし、それは使えない。

 ただ、ミルホッグはかなりのダメージを受けている。しおみずの倍加ダメージを期待出来るのがサトシとミジュマルと有利な点だが、それを活かせるかどうか。

 

「ミジュマル。――やるぞ」

 

「ミジュ」

 

 『あれ』をやるのだと、ミジュマルは理解した。タイミングを考えても今がベストだろう。

 

「ミジュマル、フルパワーでしおみず!」

 

「ミジュマーーーッ!」

 

「かわしな、ミルホッグ。そこから10まんボルト!」

 

「ホッグーーーッ!」

 

「かわせ、ミジュマル!」

 

「ミジュ!」

 

 ミジュマルは全力でしおみずを放つ。僅かに下に向けて。ミルホッグは回避すると反撃の10まんボルトを発射するも、それもミジュマルは避ける。

 

「アクアジェット!」

 

「ミジュマ!」

 

 次にアクアジェット。そのまま来るのかと思いきや、ミジュマルは山なりにある場所にまで移動していく。

 

「シェルブレード!」

 

「ミジュ!」

 

(なんだい? 今……)

 

 ある場所まで移動したミジュマルは、アクアジェットを解除するとシェルブレードを素早く展開した。それは良い。

 アロエが気になったのは、ミジュマルがシェルブレードを展開した時。その動作が気になるのだ。良くは見えなかったが、まるで何かを掬い上げるような――

 

「決めるぞ!」

 

「ミジュ!」

 

「……ミルホッグ、かみなりパンチ!」

 

 さっきの行動が気になるも、水の刃を構えたミジュマルがミルホッグに迫っている。アロエはトレーナーとして迎撃の指示を出す。

 二匹が雄叫びを上げながら距離を縮める。互いに攻撃をしようとしたその時。

 

「ミジュマル、下がれ!」

 

「ミジュマ!」

 

 攻撃する――と見せ掛け、ミジュマルが後退。かみなりパンチが空振りに終わり、隙を見せる。

 

「シェルブレード!」

 

「耐えな、ミルホッグ! リベンジ!」

 

「ミジュ……マァ!」

 

「ホッグ……!」

 

 水の刃で斬られたミルホッグ。一度受けているため、防御低下でかなりのダメージだ。しかし、まだ戦闘不能になる程ではない。

 踏ん張り、リベンジで決めるとミルホッグがそう思った瞬間だった。

 

「ホ、ホッグ……!? ホググ……!?」

 

「ミルホッグ!? どうしたんだい!?」

 

「ね、ねえ、何かミルホッグの様子が……」

 

「うん……明らかにおかしい」

 

「……」

 

 ミルホッグが突然、ガクガクと身体を震わせたのだ。何かに悶え苦しむかのように。しかし、それは間違いなく致命的な隙だった。

 

「決めろ、ミジュマル! しおみず!」

 

「ミージュ……マーーーーーッ!!」

 

「ホッグーーーッ!!」

 

「ミルホッグ!」

 

「ホ、ホグ……。ホッ、グ……」

 

 その隙を狙い、サトシとミジュマルはミルホッグに大量のしおみずを浴びせる。

 倍加したダメージは容赦なくミルホッグの残りの体力を奪い取り、ミルホッグは戦闘不能となった。

 

「ミルホッグ、戦闘不能! ミジュマルの勝ち!」

 

「よし!」

 

「ミジュマ!」

 

 先ずはミルホッグへのリベンジを果たし、サトシとミジュマルは喜ぶ。

 

「戻りな、ミルホッグ。ご苦労さん」

 

 アロエはミルホッグを労いながら、モンスターボールに戻した。

 

「見事にやられたよ。ただ、一つ聞きたいね。どうして、さっきのシェルブレードでミルホッグがあんな風になったのかを」

 

 しかし、さっきのあれが解せない。シェルブレードでダメージを受けたにしても、あんな風にはならない筈だ。

 

「しおみずですよ」

 

「ミジュ」

 

「……しおみず?」

 

「さっきかわされたしおみず。あれにシェルブレードを触れさせて、性質をある程度加えたんです」

 

 先程、ミジュマルはアクアジェットで移動したのは、しおみずで濡れている場所。そこでシェルブレードに濡らしていた。

 つまり、さっきのシェルブレードは食らえばしおみずの効果もある程度発揮する様になっていたのだ。

 それにより、ダメージが増したためにミルホッグは悶え苦しんだのである。

 そして、これはこの場で思い付いたのではない。特訓時に、威力が低く、未完成のしおみずをどう活かすかと考えた時、思い付いたのだ。

 

「……ははっ、これは完全に一本取られたね」

 

 まさか、技に技を加えるとは。予想外、されど理に叶った方法。先の行動の謎も解け、アロエは苦笑いだ。

 

「大したもんだよ。サトシ、ミジュマル」

 

「どういたしまして!」

 

「ミジュ!」

 

「だが、まだ一体。あと一体、この子が残ってるよ。ハーデリア、行きな!」

 

「――ハーデ!」

 

「出たな、ハーデリア」

 

 残りの一体、ハーデリアを見てサトシはミジュマルを戻そうとする。

 

「よし。ミジュマル、戻――」

 

「ミージュ」

 

「ミジュマル?」

 

 ミジュマルは自分でサトシの元まで歩くと、ポカブのモンスターボールを指差す。

 

「そういう事か。出てこい、ポカブ!」

 

「ポカ!」

 

 ミジュマルの意図を理解したサトシは、ポカブを出す。

 

「やっぱり、ポカブだったね」

 

 ミジュマルだけでなく、ポカブのリベンジもさせたい。ここまで予想が当たるとは思わなかった。とはいえ、ミルホッグは倒されている訳だが。

 

「ミジュジュ」

 

「ポカ?」

 

「ミジュミジュ」

 

 疑問符を浮かべるポカブに、ミジュマルは後はお前の番。勝ってこいと彼なりに応援する。

 

「――カブ!」

 

 ミジュマルの言葉にポカブは強く頷き、戦意を燃え上がらせてバトルフィールドに立つ。

 その視線の先には、前のバトルで自分を倒したハーデリアがいる。今度は勝つと、強く見据えた。

 

「カブー……!」

 

「ハーデ……!」

 

「ふふ、お互いにやる気満々だね」

 

「ですね」

 

 ポカブはリベンジに、ハーデリアはミルホッグの分まで戦わねばと燃えていた。

 

「じゃあ、行こうか。ハーデリア、シャドーボール!」

 

「ハー……デッ!」

 

「かわしながら近付け!」

 

「カブ!」

 

 複数の黒球を、ポカブは特訓で鍛えた見事なフットワークで軽々回避し、ハーデリアに迫る。

 

「たいあたり!」

 

「カブ!」

 

「かわしな!」

 

「ハー!」

 

 助走してからのたいあたり。前よりも速いが、それでもハーデリアは回避する。

 

「ミジュマルもだけど、ポカブも前よりも速くなってるね」

 

 これだけでも、サトシ達がどれだけ特訓に励んできたのかが分かる。今のポカブとハーデリアはほぼ五分五分の速さと見て良い。

 

「さぁ、次はどう来る?」

 

「こう来ます! ポカブ――ねっぷう!」

 

「ポーカー……ブーーーッ!」

 

 ポカブは内部で大量の熱を練り上げ、同時に回りながらその熱を鼻から全て放出。広い範囲に熱の風が吹き荒れる。

 

「ハーデリア、かわし――」

 

「デリッ!」

 

 思わぬ範囲攻撃に、ハーデリアも回避が間に合わなかった。熱風を食らい、その場に止められる。

 

「今だ、ひのこ!」

 

「カーブーーーッ!」

 

「デリアッ!」

 

 その隙を狙い、ポカブのひのこが炸裂。追加のダメージを与える。

 

「ねっぷう。それがポカブの新しい技かい」

 

「はい!」

 

「カブ!」

 

 熱を発生させ、ぶつける技、ねっぷう。ポカブの燃え上がる闘志が形となって発現した技だ。

 

「だけど、威力が控え目だね。それに溜めがある」

 

 そう、この技もしおみず同様に未完成。しかも、今のポカブでは広範囲に打つには溜めが必要になる欠点があった。

 

「まぁ、アンタの事だから上手く使うんだろうね。――シャドーボール!」

 

「ハー……デ!」

 

 再度シャドーボール。先程よりも多少小さいが、その分数が多い。質よりも量で攻めるようだ。

 

「ポカブ、またかわしながら近付け!」

 

「カブ!」

 

 だが、かわしきれない程ではない。また先程と同じ様に接近していくポカブ。

 

「ハーデリア、後退。――打ちな!」

 

「ハー! ――デッ!」

 

 ハーデリアが自分の身体二つ分後ろにジャンプ。すると、シャドーボールの一つが現れた。

 これは先程展開し、一つだけ発射しなかったものだ。ハーデリアがそれを身体を回して蹴って打ち出す。

 

「なに!?」

 

「ポカ!? ――カブーーーッ!」

 

 加速状態での不意打ちに、ポカブは対応仕切れずにシャドーボールを受けて吹き飛ぶ。

 

「かみくだく!」

 

「ハーデ!」

 

 そこにアロエとハーデリアの追撃が迫る。向こうは既にトップスピード。対してこちらは体勢が崩れている。これでは対応出来ない。

 

「ポカブ、僅かで良い! ねっぷう!」

 

「カー、ブーッ!」

 

 ポカブは熱をある程度まで溜め、それを鼻から全力で吐き出す。熱波は威力こそ低いが、ハーデリアの速さを僅かに鈍らせた。

 

「かわせ!」

 

「カブ!」

 

 その鈍らせて出来た時間を使い、ポカブはギリギリでハーデリアのかみくだくを回避する。

 

「かみつく!」

 

「ポカァ!」

 

「デリッ!」

 

 更にギリギリにいて、技を放った直後のハーデリアに反撃のかみつくを食らわせる。

 

「ひのこ!」

 

「カブ!」

 

 そこに多用する、かみつくからのひのこの連続攻撃もハーデリアに叩き込む。

 

「ポカブ、離れろ!」

 

「カブ!」

 

 その後は距離を取り、様子を見る。すると、ハーデリアから微かな炎が漂い出した。

 

「あれって……」

 

「やけどだね。ほのおタイプの技を食らった時に発生する事がある状態異常の一つ」

 

「体力を減らし続ける上に、攻撃力を下げる効果もある」

 

「つまり、サトシとポカブがグッと有利になった!」

 

「キババ~!」

 

 これはサトシ達にとって、明らかに有利な点だ。このまま行けるとアイリスとキバゴは喜ぶ。

 

(……このまま上手く行けば良いんだけどな)

 

 実は、サトシはやけど自体はある程度狙っていた。堅い体毛でダメージを軽減するハーデリアにはこれが有効だと考えてだ。運があるので、任せてはいないが。

 なので、これは願ったり叶ったりの理想的な展開――なのだが、どうにも嫌な予感がする。

 

「たいあたり、かみつく、ひのこ、ねっぷう。ニトロチャージは使わないのかい?」

 

「今回は使いません。対策されてそうですし」

 

「まあね」

 

 その読み通り、アロエはサトシがニトロチャージを使って来た場合、他の技で対応していた。

 

「さて、火傷もしてて長期戦は不利だからね。雑談はここまで素早く決めさせてもらうよ。ふるいたてる!」

 

「ハー!」

 

「ハーデリアもふるいたてるか」

 

「だけど、攻撃力が下がってるからあまり意味はないんじゃ?」

 

「影響のないシャドーボールの威力を高める、下げた攻撃力を補う。もしくは、他の狙いか……」

 

 ここでハーデリアはふるいたてるを使い、力を高めるもその間もやけどによるダメージを少しずつ受ける。

 

「距離を詰めな!」

 

「ハー!」

 

「迎え撃つぞ!」

 

「カブ!」

 

 やけどによる消耗で勝つ作戦もある。いや、寧ろ最善とも言えるかもしれない。しかし、消極的な戦法よりも、サトシとポカブは攻めて勝つことを選んだ。だからこそ、迎え撃つ。

 

「シャドーボール!」

 

「ハーデ!」

 

「かわして、たいあたり!」

 

「カブ!」

 

「受け止めな!」

 

「デリッ!」

 

 シャドーボールを打った隙を狙い、ポカブはたいあたり。ハーデリアは踏ん張りながらその体当たりを、体毛で受け止める。

 

(――ヤバい!)

 

 猛烈に嫌な予感がする。それは、的中した。

 

「今だよ、からげんき!」

 

「ハー……デーーーーーッ!!」

 

 ハーデリアが凄まじい勢いで突撃してくる。距離や技を使った直後の反動もあり、かわしきれない。

 

「ポカブ――ねっぷう!」

 

「カブー! ――ポカァーーーッ!!」

 

 ポカブが熱風を放つ。しかし、ハーデリアは物ともせずに突破し、ポカブに痛烈な一撃を叩き込む。

 

「ポカブ!」

 

「カー――ブッ!」

 

 大ダメージのポカブだが、サトシの声に応えるように体勢を立て直して踏ん張る。

 

「残念。今ので決まると思ったんだけどね」

 

 どうやら、先程のねっぷうで勢いと威力を軽減されたようだ。他にも前よりも能力が上がっているのもあって、決着の一撃にはならなかった。

 だが、ダメージは大きい。先程までの速さは出せないだろう。

 

「ねぇ、あのからげんきって技、なんであんな威力が……?」

 

「からげんきは状態異常の時に使うと、威力が増すんだ。また、この技はやけどの影響を受けない」

 

「それであんな威力に……!」

 

「前はじこあんじ。今回はリベンジとからげんき。相手の攻撃を利用するのも上手いね……」

 

 やはり、アロエは並々ならぬ実力の持ち主だ。前はミジュマルやポカブの実力不足があったとは言え、サトシに勝ったのも頷ける。

 

「――ポカブ、まだ行けるよな?」

 

「カブ……! ――カー……ブーーーーーッ!!」

 

「もうか、かい」

 

 傷だらけのポカブの身体から、炎のオーラが漂い出した。特性、もうかの発動だ。

 

「ポカブ、一気に決めるぞ」

 

「カブ!」

 

 ここで自分がやられれば、ミジュマルまで倒されてサトシをまた負けさせてしまうかもしれない。そんなのは嫌だ。

 何よりも、今までの自分を超えるためにも、ハーデリアは自分が倒さねばならない。ミジュマルが出来たのだ。自分にも出来ない訳がない。

 

「ポカブ、ひのこ!」

 

「カー……ブーーーッ!」

 

「ハーデリア、シャドーボール!」

 

「ハー……デッ!」

 

 もうかにより火球と化したひのこと、力を一つにして威力を高めたシャドーボールが激突。結果はひのこがシャドーボールを突破する。

 

「かわしな! そこからかみくだく!」

 

「ハーデッ!」

 

「来るぞ! かわして、たいあたり!」

 

 ハーデリアは口を開け、牙を向けながらポカブに迫る。ポカブは軽々とかわすと、また先程と同じ様にたいあたりを仕掛ける。

 

「ねぇ、これって……!」

 

「さっきの繰り返しだね……!」

 

「どうする気だい、サトシくん?」

 

 先程、からげんきを叩き込まれた時とほぼ同じだった。このままでは、また食らって今度こそやられてしまう。

 

「たいあたり!」

 

「ハーデリア、体毛で受け止めな!」

 

「カブ!」

 

「ハーデ!」

 

 先程と同じく、体当たりするポカブと体毛で防御するハーデリア。しかし、ここからは違った。

 

「ポカブ、地面にひのこ!」

 

「やはり仕掛けて来たね! ハーデリア、からげんき! 地面に打ちな!」

 

 ポカブはひのこを地面に放ち、その爆発で目眩ましを兼ねた跳躍をする。

 しかし、ハーデリアも高威力と化した、からげんきを地面に叩き込む。その破壊力で大小様々な砂や土の塊が浮き上がり、ポカブを襲う。

 

「カブブ!」

 

「今度は地面を……!」

 

「さっきと全く同じ攻撃するなんてこと、あたしがやると思ったかい?」

 

「――俺もそう思ってました」

 

 サトシのその言葉に、アロエは素早く反応。見ると、少年は不敵な笑みを浮かべていた。嫌な予感がした。

 

「ハーデリア、直ぐにそこから離――」

 

「ポカブ、ねっぷう!」

 

「カー……ブーーーッ!!」

 

 熱が放たれる。しかし、もうかで強化されたそれは範囲と威力が増し、吹き荒れる嵐の様にハーデリアに迫り、熱によるダメージを全身に与えながら吹き飛ばす。

 

「決めるぞ、軽くねっぷう! そこから――ひのこ!」

 

「カブーーーッ! ――ポーカー……ブーーーーーッ!!」

 

「ハーデリア、避けな!」

 

「ハー――デリアーーーッ!!」

 

 ポカブは先に熱風を軽く放ち、そこから炎を最大まで高め、全力で放つ。

 ハーデリアは何とかかわそうとするも、火の球が途中で熱風の影響を受けて加速。直撃して大きな爆発の煙を発生させた。

 

「ハー、デ……」

 

「ハーデリア!」

 

 煙が晴れた後には、目を回したハーデリアが写った。

 

「ハーデリア、戦闘不能! ポカブの勝ち! よって、チャレンジャーの勝利!」

 

「よーーーしっ!」

 

「カブーーーッ!」

 

「ミジュマーーーッ!」

 

 見事、リベンジを果たしたサトシ、ポカブ、ミジュマルは大きく叫んだ。

 

「ねっぷうで攻撃だけでなく、妨害や補助までするとはね。見事にリベンジされたよ。あたしの敗けさ」

 

「アロエさん」

 

「ほら、受け取りな。ベーシックバッジだよ」

 

「はい! ベーシックバッジ……ゲットだぜ!」

 

「ポカー!」

 

「ミジュー!」

 

 アロエから受け取ったベーシックバッジを受け取ると、サトシは構えを取り、ポカブとミジュマルは喜びの声を上げる。

 

「これで二つ目……」

 

「次の一番近いジムは、ここからだとヒウンシティのヒウンジムかな」

 

 バトルも終わり、サトシに近付いたデントが次のジムの場所について話す。

 

「ヒウンシティ……」

 

「イッシュ一の都会さ。ジムに行く前に一度街を回るのも良いね」

 

「イッシュ一の都会……」

 

「一度行って見たかったのよね~」

 

「キバキバ」

 

 Nに、アイリスとキバゴも興味深げに呟く。目的はジムだが、この地方で一番の都会となるとサトシも流石に少しは気になる様だ。

 

「とりあえず、ポケモンセンターだな」

 

 その後、サトシ達はポケモンセンターに向かい、ポカブとミジュマルを元気にしてもらうと、ポケモンセンターの扉前に立つ。

 

「じゃあ、ここで」

 

「Nさんはもう少しここにいるんですよね?」

 

「その予定だよ」

 

 目的はある程度達成したが、もう少しだけ――具体的には夜までこの町にいる予定だ。それが最善なのである。

 

「じゃあ、ここで」

 

「うん。まぁ、また直ぐに会うかもしれないけど」

 

 サトシ達とは何度も会っている為、また直ぐに再会しそうな気がしていた。

 

「それなら楽しいですね」

 

「そうだね」

 

 彼等は全員笑うと、その後に別れる。

 

「さーて、次のジムがある街、ヒウンシティ目指して出発だ!」

 

「えぇ!」

 

「だね」

 

 サトシ達は次の街を目指し、旅を続けるのであった。

 

 

 

 

「カーブカーブ」

 

「ゾロゾロ……」

 

「気になる?」

 

「カブ」

 

「ゾロ」

 

 夜。ポケモンセンターのロビーでポカブとゾロアはもうすぐ孵化が近いタマゴを見ていた。新しい仲間と早く会いたい様だ。かく言うNもである。

 

(産まれる時は、落ち着いた時にしたいし……。早く来ないかな)

 

 それだけに、見つかる前に早くこの街を出たいとNは思っていた。そんな時だ。ポケモンセンターに一人の男性が入って来たのは。

 

「――N様」

 

「来たね、ヴィオ」

 

「遅くなって申し訳ありません」

 

「構わない。それよりも本題を」

 

「はっ」

 

 ヴィオだった。彼はNがいる席に座ると、Nに地図を手渡して手早く話す。

 

「今から十分後に地図に書いてあるルートをお進みください。他に見付かる事なく街を出れます」

 

「助かる。ちなみに、一緒に来ているのは誰だい?」

 

「ジャロです」

 

「彼か……。ヴィオ――」

 

「御気持ちは察しますが、ここは静かに動きましょう」

 

「……分かった」

 

 Nはジャロに協力の提案を持ち掛けようとしたが、ヴィオに止められる。

 上手く行けば確かに味方を得れるも、絶対の保証が無い。仕方無く遭遇したのならともかく、それ以外なら出来る限りはリスクを抑えたい。

 

「では、ここで。また、最近動きがあります。近い内に本格的に動く可能性が有るかと……」

 

「――分かった。その時は戻ると、ロットやアスラに」

 

「はい」

 

 報告を終えると、ヴィオは周りを確かめながら静かにポケモンセンターを後にした。

 

「……こうして、自由に旅が出来るのももう少しかな」

 

「カブ……」

 

「ゾロ……」

 

「気にしないで」

 

 悲しそうに呟くNに、ポカブとゾロアは不安がるも、彼の言葉にコクンと頷く。

 

「――行こうか」

 

「カブ」

 

「ゾロ」

 

 数分後、時間になったのでヴィオから貰った地図に記されたルートを歩き、街の外に出る。

 

「確か、近いのはヒウンシティだったね」

 

 まだ行ったことのない街かつ、イッシュ地方一の都会。Nは少しだけ気になっていた。

 またこの旅の最後に訪れる街になるかもしれない。残る時間を少しでも味わう様に、Nは夜の中歩いて行った。

 

 

 

 

 

 場所は代わり、リゾートデザート。そこにある古代の城のおそらく廊下を、フリントが相棒のミネズミと共に進んでいた。

 

「かなり広いな……」

 

「ミネ……」

 

 フリントはミネズミのサポートを受け、手に持つタブレットで構造を記録しつつ奥へと進んでいた。しかし、もうすぐで一日立つにもかかわらず、まだ全貌が掴めない。

 

「古代の城……思った以上だな」

 

 ある程度大きな場所だとは推測していたが、これは想像以上だ。

 

「この先はまだか。行くぞ、ミネズミ」

 

「ミネ! ――ミネミネ」

 

「あぁ、水分補給か。済まんな」

 

 ミネズミは手をビシッと構え、敬礼のポーズを取るが、直後にフリントの腰にある水筒を取り、手渡す。

 少し咽が乾いた所なので、フリントは水を飲んで潤していく。

 

「お前も飲め」

 

「ミネ」

 

 ミネズミはコクンと頷き、水を飲んでいく。ある程度飲むと、フーと一息付いた様だ。

 

「では、調査を続ける」

 

「ミネ」

 

 遺跡の中にいる野生のポケモンを刺激しないよう、フリントとミネズミは静かにまた歩き出す。

 

「そう言えば、あの連中はどうしているか……」

 

 ふと、フリントはロケット団の三人組――ポケモンが一匹混じっているが――を思い出す。あの連中はちゃんと上手く行っているだろうかと。

 

「にしても、あっちもこっちも似た場所ねー」

 

「そう言う構造の城なのかもしれないな」

 

「記してないと、迷いそうなのにゃ」

 

 似た部屋や道ばかりで迷いそうなのだ。自分達も持っているタブレットが無ければ、本当に迷っているかもしれない。

 

「おまけに広いし、砂も多いし……どこまであんのよ」

 

「それだけの城ってことだろうな」

 

「にゃら、それ相応のお宝もあっても不思議じゃないにゃ」

 

 城の大きさにうんざりするムサシだが、ニャースのこれだけの大きさだからこそ、とんでもないお宝があると発言に笑顔を見せる。

 

「だったら、さっさと見付けてフリントをギャフンと言わせるわよ~!」

 

 先を行くムサシに同調し、コジロウとニャースはまた探索を再開。しばらくすると、下に続く階段を見付けた。

 この辺りは調べ尽くしたため、下に降りて探索していく。ここは砂が多い。最近行ける様になったらしい。砂に苦戦しながら今までとは少し違う大きな扉が見えた。

 

「おっ、何か有りそうじゃない?」

 

「確かに、今までの扉とは少し違うな」

 

「なら、入って見るにゃ。もしかすると、この中には……」

 

「お宝が!」

 

 彼等は一緒に言うと、扉を開ける。瞬間、砂が少し流れてきた。

 

「うわっ、砂まみれじゃない!」

 

「かなりの砂があるな」

 

「この辺りには砂が多いから、仕方ないかもしれないにゃ」

 

 また大量の砂に苦労しながら中を調べていくと、奥の像が先に見えた。

 

「これは……人の像?」

 

「もしかして、教会の部屋か?」

 

 コジロウがそう予想し、周りを見ると砂に埋まっている横長椅子が見えた。どうやら、推測は当たっているらしい。

 

「待つにゃ、あれは何にゃ?」

 

 そこでニャースがある場所を示す。おそらく講壇だろう。その台には、ある物が置いてあった。

 

「白い球? いや、石か?」

 

 コジロウが確認したのは、白色の球体だった。大きさは大人の掌よりも二回り以上ある。また、太いVの微かに違う白色がある。

 

「もしかして、お宝じゃない!?」

 

 念願のお宝を発見したと思い、ムサシが取りに行こうとする。

 

「待てムサシ! ……何かおかしくないか?」

 

「はぁ? 何が?」

 

「あれだけ、砂が全く積もってない。それに傷も見えない。……あれは後からこの部屋に持ち込まれた物じゃないか?」

 

 ムサシを止めるコジロウは、彼女を諫めながら妙な点を説明する。部屋に比べてあれだけ綺麗過ぎるのだ。

 

「それに……なんか、あれからはとびっきりにヤバイ感じがするのにゃ……!」

 

 ポケモンだからだろうか。ニャースは感じていた。それから漂うただならぬ雰囲気に。

 

「……危険な物ってこと?」

 

「少なくとも、何かがあるのは間違い無さそうだな……」

 

 しばらくその場に止まり、白い球と向き合うロケット団。それから数秒経つと、ムサシが一歩前に出る。

 

「さっさと持って行くわよ。コジロウ、ニャース。アタシ達は天下のロケット団! 恐れるものなんて無いわ!」

 

 物怖じしないムサシの度胸の強さに、コジロウとニャースは笑みを浮かべる。

 

「確かにムサシの言う通りにゃ」

 

「そうだな。確保!」

 

 謎の球を回収しようと進むロケット団だが、途中でピシッと妙な音がする。それは加速度的に増していた。

 

「ヤバイ! ここは崩れるぞ!」

 

 砂のせいで見えなかったが、ロケット団が今いる辺りは長い年月や砂の重味で亀裂が走っていた。

 そこに更に彼等の重さが加わったため、限界を迎えて崩落したのだ。ロケット団はまた下の階へと落ちていく。

 

「あー、もう! あとちょっとでお宝ゲットだったのにー!」

 

「付いてないな……」

 

「……とりあえず、離れて欲しいにゃ」

 

 ムサシとコジロウは自分の下にいるニャースから離れ、さっきの部屋を見上げる。

 

「さっさと戻ってゲットするわよ」

 

「あぁ。と言っても、ここから戻るのはちょっと難しいな……」

 

「他に出口は――」

 

「――……ース」

 

 白い球を確保するため、さっきの部屋に戻ろうとしたロケット団だが、その時何かが聴こえた。

 

「――スッ……。デ……マ……」

 

 微かな声だった。それが何処からか聞こえて来る。

 

「ね、ねぇ、何か聞こえない?」

 

「ま、まさか、幽霊……!?」

 

「そんな怖いこと言わないで欲しいにゃ!」

 

 悪の組織の一員なのに、幽霊を怖がるのはいかがなものだろうか。それはともかく、彼等は怯えながらも注意深く耳を澄ませて位置を探り、そこに向かうと。

 

「ポケモン?」

 

「マス……?」

 

「あっ、コイツ……!」

 

「博物館で遭遇したやつにゃ!」

 

 そこにいたのは、ムサシとニャースがシッポウ博物館で遭遇した魂ポケモン、デスマスだった。但し、デスマスはロケットを初めて会った様子で見ている。

 

「デ……ス?」

 

「なに言ってるの、コイツ?」

 

「お前達は誰と言ってるにゃ」

 

「ってことは、別のやつか」

 

 このデスマスは、博物館で遭遇し、妨害したのとは違う個体だった。

 

「デース……」

 

 ぐーと、デスマスから音が鳴る。どうやら、お腹が空いて動けないらしい。

 

「お腹空いてるのか。だったら食え」

 

 コジロウはコートの中から保存食を取り出すと、デスマスに差し出す。デスマスはゆっくりと食べ始めた。

 

「えー? 助けるの?」

 

 一度、デスマスのせいで――とはいえ、自分で余計な事をしたのが原因だが――散々な目に遭ったため、ムサシは良い顔をしなかった。

 

「だって、こいつはお前達と会ったのとは違うやつなんだろ? だったら、無関係じゃないか」

 

「まぁ、確かにそうにゃ」

 

 別のデスマスにやられたからと言って、このデスマスに辛く当たる通りはない。ニャースも頷き、ムサシも渋々だが同意見だった。

 

「――マース」

 

「お腹膨れたか?」

 

「デスデース」

 

「良かった」

 

 ある程度食べ、お腹が膨れたデスマスはコジロウにありがとうと頭を下げていた。

 

「さてと、早く戻らないと――」

 

「何をしている」

 

「この声……フリント?」

 

 自分達が落ちてきた場所から、フリントの声がした。見上げると、フリントとミネズミが見えた。

 

「悪い。拾ってくれるか?」

 

「直ぐに準備する。さっさと上がれ」

 

 フリントは手早く縄を下ろし、ロケット団はその縄を登って教会の間に戻る。

 

「助かったにゃ」

 

「さーて、戻って来れたし、今度こそお宝ゲットよ!」

 

「お宝? 何だそれは?」

 

「そこの台にある白い球――って、ない!?」

 

 聞いて来たフリントに講壇の上に置いてあった白い球を説明するも、ロケット団が再度見ると講壇の上には何も無かった。周りにも見えない。

 

「……何も無いが?」

 

「そ、そんなはずないわよ! アタシ達はさっきちゃんとそのお宝を目の当たりにしたわ!」

 

「……見間違いか、幻でも見たのではないか?」

 

「い、いや、俺達全員、それを見てた」

 

「幻や見間違いなんかじゃないにゃ!」

 

「……ふむ」

 

 フリントは考える。この連中は変人だが、ここまで必死に言っている以上はそのお宝とやらはあったのだろう。

 問題は、何故消えたのか。まさか、勝手に動いた――はあり得ないだろう。

 

「……ん?」

 

 考えるフリントの視界に、あるものが写る。

 

「どうした、フリント?」

 

「もしかして、お宝が――」

 

「いや、それではない。……そいつは何だ?」

 

「そいつ?」

 

「――デスマース」

 

「わっ!?」

 

 声に振り向くと、さっきのデスマスがコジロウの周りをふよふよと漂っていた。

 

「お前、さっきのデスマス」

 

「デスデース」

 

「随分となつかれてるな」

 

「さっき、お腹空いてるところを助けたからじゃない?」

 

「……何故、悪の組織のお前達が人助け――ポケモン助けか? まぁ、どちらでも良い。それをするのだ?」

 

「いや、困ってたしな」

 

 コジロウの言葉に何とも言えない様子のフリント。ムサシやニャースも変とは思ってないその様子に、変な連中だと再認識する。

 

「まぁ、そんなになつかれてるのなら、ゲットして戦力にしたらどうだ?」

 

「うーん……俺と来るか?」

 

「デスデス」

 

 デスマスはコジロウの勧誘に快く頷いた。コジロウは空のモンスターボールを軽く当てる。

 モンスターボールがパカッと開いて赤い光がデスマスを包み込み、中に入れる。数度揺れるとパチンッと鳴って止まった。

 

「デスマス、ゲット!」

 

「戦力が増えたわね~」

 

「もうすぐの事を考えると、良い傾向だにゃ」

 

 コロモリ以外の戦力が増え、ロケット団は喜ぶ。

 

「では、探索を続けようか。タブレットを出せ、情報を共有する」

 

「分かった」

 

 フリントとコジロウはタブレットに記録した構造データを共有し、古代の城の中をより詳しく知る。

 

「ふむ、このデータから見ると、これ以上の探索は厳しいな」

 

 崩落や砂があり、これ以上は困難と言わざるを得ない。大量の人材や道具がいる。

 

「じゃあ、どうすんのよ」

 

「ここで切り上げ、違う場所に向かう」

 

「どこだにゃ?」

 

「――ヒウンシティ。我々ロケット団が一大作戦を行なう、イッシュ一の都会だ」

 

 こうして、彼等もヒウンシティへと向かい出す。

 

 

 

 

 

 ロケット団がいなくなった教会の間。その講壇に、ゆっくりとあるものが乗る。

 それは、ロケット団が探していた白い石だった。どういう原理か、石が独りでに動いていたのだ。他のポケモンや人影は一切ない。

 白き石は、静寂を取り戻したこの部屋の講壇で、何かを待つかのように佇んでいた。

 

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