ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ 作:ぐーたら提督
「これで二つ目、か」
ちょっとした丘の上でサトシはバッジを見ていた。新たにゲットしたバッジ、自分達の努力の証明であり、シッポウジムに勝利した証、ベーシックバッジ。
バッジケースに納めたそれを、サトシは誇らしげに見つめた。数秒後、バッジケースを閉じると向こうを見る。そこには、五匹のポケモン達が鍛錬に励んでいた。
「ピカピカピカピカ……!」
「ミジュミジュミジュ……!」
「ポーポーポーポー……!」
「カブカブカブカブ……!」
「……」
「前より、強い気迫の香りが漂っているよ。シッポウジム戦は色々な意味で彼等を強くしてる」
肉体的な強さは勿論、精神的な強さも上がっている。
「シューティー、それにデントのおかげもあるさ」
「どういたしまして」
シューティーやデントの厳しくも的を得たあの台詞が無ければ、きっとシッポウジム戦は勝てなかった。
勝てても、自分が一歩進むことは無かった。だからこそ、サトシはデントとこの場にいないシューティーに感謝していた。
ちなみに、シューティーには今度会ったら、礼を言うつもりである。
「たださ……」
「アイリス、だね?」
「うん」
一方でアイリスは、キバゴの鍛錬こそは順調なものの、ドリュウズとの話し合いは進展の様子を見せない。その事がサトシは勿論、デントも心配だった。
「はぁ~……」
「アイリス」
向こうからアイリスが出てきた。しかし、その表情は重い。キバゴが近寄ると何でもないと言いたげに作り笑いを見せるが。
「――ん?」
持っているポケモンのタマゴが揺れ出した。そして、光を放ち始める。
「これは……!」
「タマゴが光ってる!」
「キバー……!」
「となると、もうすぐ生まれるよ!」
「皆、特訓は一旦中止! こっちに来てくれ! 新しい仲間が生まれるぞ!」
五匹はもうすぐ孵るポケモンのタマゴに集まる。サトシ達はタマゴをケースから出すと布を敷いてその上に置く。
「キバキバ……!」
「そう言えば、キバゴはタマゴから生まれるのを初めて見るのよね」
「皆は?」
この皆とは、ピカチュウを除いた四匹の事である。尋ねると、あると言いたげに縦に頷く。研究所にいる前、野生の生活で見ていたのだ。
「デントは?」
「過去に何度か見せて貰った事があるよ」
「あたしも!」
ただ、見せてもらっただけで、自分の手で孵化させた事はない。
「サトシは?」
「俺もあるよ。で、その内三……いや二回自分で預かって孵した」
言い直したのは、その一匹が色々あって自分ではなく、仲間の手持ちになったからである。
「へぇ、二回も! なら、これで三度目だね」
「うん。けど、やっぱり緊張するなー」
二度経験あるとは言え、それでも誕生の時は緊張やわくわくで一杯だった。
「キバー……!」
「ふふ、キバゴ、もう少しでお兄さんになるね!」
「キバ!」
兄になると、キバゴははしゃいでいた。
「お前達も、新しい仲間の良いお兄さんやお姉さんになってくれよ」
「ミジュ!」
「ポー!」
「カブ!」
「……タジャ」
それぞれ声を上げて頷く四匹。兄や姉になると聞いて、張り切っている様子だ。クールなツタージャも、少し意識している。
「キバキバー。――キバッ!?」
「えっ?」
「あっ?」
「いっ!?」
それだけに、はしゃぐキバゴが足を滑らせ、タマゴを転がしてしまった事に反応が遅れてしまう。
「不味い!」
「待て~!」
「た、タマゴ~!」
サトシ達とポケモン達は慌ててタマゴを追い掛けるも、タマゴは坂道で加速しながら転がっていく。
「――ゾロッ!」
そんなタマゴが小さな岩に当たり、大きく跳ね上がろうとした瞬間、一つの影が横切る。
「えっ!?」
「あれは……!」
「ゾロ」
影が動いた方を見ると、そこにはタマゴを背中に器用に乗せたゾロアがいた。
「ゾロア! って事は……」
「Nさんが近くにいるのか?」
「ゾロ」
頷いたゾロアはサトシに近付くと、タマゴを返した。
「……ゾロゾロ」
そして、少し考えると、ゾロアはサトシ達にこっちに来いと言って走る。
「案内してるのかしら?」
「どうする?」
「お礼も言いたいし、行こう」
ゾロアの後を追うと、直ぐに森にある小さな広場に着いた。そこには、Nとポカブとゾロア。それにサトシのタマゴと同じく光輝くタマゴがあった。
「サトシくん?」
「Nさんも、生まれる寸前なんですか?」
「うん。ゾロア、これは……」
「ゾロゾロ、ゾロア」
「あぁ、なるほど」
Nは自分が持つタマゴが孵化寸前のため、ゾロアとポカブに周りの安全を確かめて貰っていたのだ。
その最中、ゾロアはタマゴが転がっていたのを見て助け、サトシ達を案内したと言う訳である。
「もっと気を付けようね」
「すみません……」
「いえ、そもそもあたしとキバゴが原因なんです。サトシごめんね」
「無事だったんだから良いさ」
故意にやった事ではないのは分かっている。タマゴは無事なため、サトシは特に怒らなかった。
「にしても、まさかNさんのタマゴも孵化寸前だなんて……」
ジョーイは同時に孵化するかもしれないと言っていたが、本当にそうなるとは思わなかった。
「ボクも驚いた。折角だ。一緒に見よう」
「勿論です!」
Nを加え、サトシ達は光輝く二つのタマゴを見つめる。タマゴは強弱の光を放っていくと、軽やかに殻が弾けた。
「――ルック?」
「――ブイ?」
サトシのタマゴから生まれたのは、頭に赤いアホ毛みたいものがあり、黄色いトカゲのような身体に下半身はブカブカのズボンを穿いたようになっているポケモン。
Nのタマゴからは、茶色のベースにした身体、長い耳と首の周りを覆う襟巻きのような毛が特徴な可愛らしいポケモン。しかも、サトシが見たことあるポケモンだ。
「これは……」
「片方はズルッグだね……」
『ズルッグ、脱皮ポケモン。ゴムの様な弾力の皮を腰穿きにしている。視線を合わせた相手に、いきなり頭突きで攻撃を仕掛ける』
「ルック」
ズルッグの情報を得たサトシは、N達と共にもう一匹のポケモンに注目する。
「ブイ?」
「ね、ねぇ、この子、一体……? あたし、全く見たこと無いんだけど……」
「このポケモン、まさか……?」
「知ってるのかい、デントくん?」
Nやアイリスは初めてのポケモンに戸惑っていたが、デントは本で見たことがあった。
「知ってます。ただ、サトシの方が知ってるかと……」
「サトシ、知ってるの?」
「……うん、これはイーブイだ」
『イーブイ、進化ポケモン。遺伝子が不規則な為、様々な進化の可能性を秘めた、特殊なポケモン』
「イーブイ、か」
自分が持っていたタマゴから生まれたイーブイを、Nは不思議そうに見つめる。まさか、そんな珍しいポケモンとは思わなかった。
「様々な進化って……」
「僕も本でしか知らないけど……確か、五つ以上あるとか」
「そんなに!?」
「その中には、前に図鑑で出したブラッキーもいるんだ」
「へ~、ブラッキーにもなるんだ……」
五つ以上も別の進化を持つ事に、アイリスは驚愕する。
「――だから、ああ言ってた、か」
「Nさん?」
「いや、何でもないよ」
意味ありげな台詞が出るも、小さいためにサトシ達には聞こえなかった。
「よろしく、イーブイ」
「ブイ」
「よろしくな、ズルッグ!」
「ルッグ!」
何はともあれ、新たな仲間の加入に二人は笑顔を向ける。
「ピカピカ」
「ルグ? ルーグ……!」
「ピカ!?」
「ズルッグ?」
新しい仲間に、ピカチュウも近付いてよろしくと呼び掛ける。しかし、ズルッグはピカチュウを見た瞬間、凄い形相で睨み出し、ピカチュウは思わず怯む。
「これは……にらみつける?」
相手を睨む事で、防御力を低下させる技だ。それをズルッグは何故か、仲間のピカチュウにしていた。
「ズルー……ッグ!」
「ピカッ!」
ズルッグは更に頭を後ろに傾けると、勢いを利用して前に振る。ずつきだ。
それはピカチュウが咄嗟に避けたので空振りに終わり、勢いでズルッグは地面を軽く滑る。
「今度はずつき?」
「なんなんだ?」
今までタマゴから孵ったポケモンは何匹も見たが、こんな好戦的な性格のポケモンは初めてだった。
「何なのかしら?」
「キバキ……」
自分の弟分になるかもしれないポケモンが、こんなに暴れん坊だと知り、キバゴは微妙そうだ。
「大丈夫かい?」
「……ルグ」
「ブイッ!?」
ズルッグは立ち上がると、Nの近くにいたイーブイを見る。
イーブイはズルッグと違い、特に暴れてないが、それだけにズルッグに少し怯えたのか、Nの後ろに隠れてしまう。
「ルッグルッグ?」
「……ブイ? ブイブイ?」
「ルッグ!」
「……ブイ!」
何度かやり取りをする二匹。すると、イーブイは怖さが消えたのか、ズルッグに近付いて笑顔を見せる。ズルッグも笑顔だった。
「笑ってる」
「同じ場所にあった、タマゴから生まれたポケモン同士だからかな?」
「うん。ズルッグが似た匂いがすると言って、イーブイもそれを感じたみたいだ」
「ルグルッグ~」
「ブイブ~イ」
それで親近感を得たのか、二匹は早速仲良くなっていた。
「キバ……」
そんな微笑ましい光景にサトシ達は笑みを浮かべるも、唯一キバゴだけは複雑な表情にだった。
「なぁ、ズルッグ。お前、バトルしたいのか?」
「ルッグ!」
さっきのピカチュウに技を仕掛けた件から、ズルッグはバトルをしたいのではとサトシは考えたが、頷いた点から見事に的中していた様だ。
「じゃあ、軽くバトルするか。相手は――」
「ルグルッグ!」
「えっ、ピカチュウが良いのか?」
「ルッグ!」
「うーん……分かった、しようか」
ピカチュウとズルッグでは差が有りすぎるも、そこは手加減すれば大丈夫だろうとサトシは考えた。ズルッグがどこまで出来るか知りたいし、許可を出した。
「そうだ。荷物持って来ないと」
そこで、荷物が向こうに置きっぱなしだったのを思い出すサトシ。今までタマゴの件があったので無理もないが。
「あっ、すっかり忘れてた」
「じゃあ、僕が取りに行くよ」
「助かるよ、デント」
荷物はデントに任せ、サトシはピカチュウとズルッグの試合を始める。
「さてと、試合を始める前にズルッグの技を、と」
図鑑でズルッグが今使える技を調べるサトシ。使えるのは、にらみつけるとずつきだけだ。
「二つだけね」
「アイリスのキバゴもそうだろ?」
「そうだった」
お茶目にそう言うアイリス。キバゴもひっかくとりゅうのいかりしか使えず、片方は未完成だ。
「そうだ、Nさん。折角ですからイーブイが今使える技を調べましょうか?」
「……そうだね。お願いするよ」
一瞬間があったのは、ポケモン図鑑の機能に頼ると言う点が引っ掛かったからだが、今はいない。
自分が使っているわけでもなく、厚意でしてもらっていることなので、受ける事にした。
「えーっと、今のイーブイが使えるのは……たいあたりとしっぽをふるだけですね」
図鑑で見ると、ズルッグ同様に二つしか使える技は無かった。
「そっか。調べてくれてありがとう」
「いえ、これぐらい。――じゃあ、始めるか、ズルッグ、ピカチュウ!」
「ルッグ!」
「ピカ!」
確認も終わり、二匹の試合をスタートさせる。
「ズルッグ、にらみつける!」
「ズルッグー……ルッグ!」
「ピカッ! ……ピカ?」
凄い形相で睨まれたピカチュウだが、特に変化はない。
「あれ? 効いてない?」
「生まれたで、レベルが低いからかもしれない」
つまり、効果自体が発揮されてないと言う事だ。
「だったら、ずつき!」
「ズルッグー!」
にらみつけるがダメなら、ずつきで。サトシはそう判断し、ズルッグがずつきを放つ。
「ルッグー……」
「ピカ?」
「これも効いてない……」
ピカチュウは態と食らったが、全くダメージがない。
「なら、ピカチュウ。でんきショック! ――かなーり、弱めで」
前のアイリスとデントの事を参考にし、でんきショック、それもかなり手加減したのを指示。
近付いたピカチュウは指示通り、静電気レベルの電気をズルッグにぶつける。普通なら、これではほとんどダメージはないが。
「ズルッグー!」
今のズルッグには十分過ぎる様で、かなりのダメージになっていた。
「うわ、かなり効いてる……」
「それほど低いという事だね」
「……ルッグルッグー!」
しかし、やる気だけはしっかりあるようで、ダメージを受けた悔しさから地面を荒々しく踏んでいた。
「まだまだやる気あるんだな。バトルに向いてるな」
「うん、悪くはないよ」
「……そうかな? 厄介な弟が出来ちゃったね、キバゴ」
「キバ……」
生まれついての好戦的なズルッグを見て、サトシとNは今はまだまだでも将来性はしっかりとあると感じていた。
一方で、アイリスとキバゴは何とも言えない様子である。
「バトルは一旦中止。皆、弟分に挨拶してくれ」
ピカチュウを除く四匹がズルッグに近付く。真っ先にマメパトが挨拶するも。
「ルッグ!」
「ポー!? ……ポー」
いきなりずつき。痛くは無かった様だが、嫌われたのかとマメパトは落ち込んでしまう。
「いきなりずつき……」
「あはは……」
これには、サトシもNも苦笑いである。
「ミジュミジュ」
落ち込むマメパトに、ここは自分に任せろと自信満々にズルッグに近付くミジュマル。
「ズルッグ! ――ルグ!?」
「ミージュ」
またずつき。しかし、さっきマメパトがやられたのを見て予想していたミジュマルは軽々と避ける。
「……ルッグルッグ!」
「ミジュミージュ」
ぶんぶんと何度もずつきをするズルッグだが、ミジュマルはふーんふーんと鼻歌をしながら全てかわす。
「……ズルッグ!」
「ミジュ!? ――ミジュマ!」
「にらみつけるからのずつき!」
ズルッグはにらみつけるの顔付きで一瞬怯ませると、ずつきを素早く放つ。ミジュマルは油断していた事もあって、受けてしまう。
「今のは中々の組み合わせだね」
咄嗟にしては、中々良い技のコンビネーションだ。内にある才能を感じさせる。
「……ミジュ!」
「あっこら、ミジュマル!」
思わぬ一撃に受け、怒ったミジュマルはたいあたりを仕掛ける。ズルッグはその一撃を皮を引っ張って受け止める。衝撃で押されはしたが、ダメージは少ない様だ。
「へぇー、あんな風に防御するんだ」
「言ってる場合じゃないでしょ!」
ズルッグの防御に感心しているサトシだが、アイリスはそれどころではない。キバゴ同様、ハラハラとしていた。
「ルッグー……! ルグ?」
「カブ?」
「ルグ!」
ミジュマルに敵意の視線を向けるズルッグだったが、動かされた場所がポカブの近くのため、狙いをポカブに変更してずつきを放つ。
「ズルッグは誰でも向かって行くな……」
今のところ、タマゴを持っていた自分や同じ匂いを感じたイーブイ以外の全員に突っかかっていた。
「けど、やっぱり効いてない。それどころか、ずつきのやり過ぎでふらついてる」
「おいおい……」
「面白いの」
「キババ」
やり過ぎでフラフラのズルッグに、アイリスとキバゴは微笑む。
「ルッグ……。ルグ!」
「わわっ、今度はツタージャにか!」
ふらつきから回復したズルッグは、次に岩の上に立っていたツタージャにずつきを放つ。
「タージャ」
ツタージャは蔓を伸ばし、ずつきを止める。かわすのは簡単だが、岩に当たるのは避けたいのでこうしたのだ。
「ルグルグー! ルグ!」
蔓に止められようとお構い無しなズルッグだが、途中でずっこけてしまう。
「おーい、ズルッグ。もうその辺に――」
「ルッグ!」
「痛っ! たたっ……」
ここらで止めようとしたサトシだが、ズルッグが立ち上がった際に顔がぶつかってしまい倒れる。
一方のズルッグは、サトシの向こうにいたアイリスのキバゴに目を付けるも、キバゴが咄嗟に隠れた事で興味を失った様だ。
「やれやれ、手間が掛かりそうだな」
暴れん坊なズルッグにサトシは苦笑いしていた。
夕暮れ。荷物を持ってきたデント、Nを交え夕食を取る一同。
「ズルッグ、一緒に食べないのか?」
「……ルッグ」
誘うサトシだが、ズルッグはブンブンと顔を振って断りの意志を示す。
「あの子、何を考えてるのか分からないわね……」
「多分、サトシのポケモンに負けたのが悔しいんだと思うよ」
「ボクもそう思う」
ズルッグはまだ突っかかってばかりのため、Nも奥にある意図を読めないが、デントと同意見だった。
「ふーん、そっか。負けず嫌いだな。そう言うの好きだぜ、ズルッグ」
「ルッグ……」
自分がいたタマゴの持っていたサトシに誉められたからか、ズルッグは少し嬉しそうだ。
「キバ……」
そんなズルッグに、キバゴはやはり気になっていた。
「だけどさ、腹が減って練習も出来ないだろ? だから、ご飯は食べようぜ」
「ズル……」
サトシの言っている事は尤もなのだが、生まれたての子供故、仲間でも自分を負かした相手とはご飯を食べれなかった。
「ブイブイ!」
そこに、イーブイが寄ってくる。口に加えていたポケモンフーズを、ズルッグにどうぞと差し出す。
「ブーイブイ」
「ほら、イーブイも食べてって言ってるんだ。皆とがまだ嫌なら、ここでも良いからさ」
「……ルッグ」
少し考えた後、ズルッグはイーブイに貰ったポケモンフーズをつまむ。マイルドな味わいで食べやすい。
「もっと食べるか?」
「……ルグ」
「分かった。デント、俺はこっちでズルッグと食べるよ」
「じゃあ、ボクもご一緒して良いかい? まだ生まれたてのその子からは目が離せないからね」
サトシは信頼しているが、やはりまだイーブイは生まれたばかり。近くで見ておきたい。
「ダメか、ズルッグ?」
「ブイー……」
「……ズル」
イーブイのダメと言う悲しそうな目に、ズルッグは許可を出した。同じ場所にいたポケモンの頼みには弱いらしい。
「ありがとう、ズルッグ」
Nに礼を言われるが、ズルッグはプイッと顔を反らす。イーブイのトレーナーだからと言って、直ぐに信頼する訳ではないようだ。
「じゃあ、食べよう」
サトシの言葉を切欠に、二人のトレーナーとポケモンは夕食を始める。
「キバキバ……」
そんな光景に、キバゴはムスッと膨れていた。
「サトシ、Nさん。そろそろ、寝ませんか?」
夜になり、かなり暗くなるとデントが就寝しないかと告げる。アイリスも寝袋を敷いていた。
「ズルッグ、もう寝るか?」
「ズルズル!」
「まだ起きたいって。初めての日だから、もう少し味わいたいんだと思う」
「ブイブイ!」
それは同じとイーブイが喋る。二匹は孵ったばかり。外をもっと味わいたいのだろう。
「んー、じゃあ、少し辺りを回って見るか?」
「ルッグ!」
「君もそうするかい?」
「ブイ!」
「デント、俺はNさんと少し歩くから、先に寝ててくれー」
「分かった。サトシもだけど、Nさんも夜風には気を付けてください」
「うん。ありがとう」
こうして、サトシとNはズルッグとイーブイに初めての夜をもう少し味わって貰おうと夜の野道を歩く。
「そう言えばNさん。タマゴはどういう経緯で持つことに? やっぱり、お礼で?」
「いや、その後に話をしたのが切欠だよ」
サトシ達が育て屋の幼稚園から離れた十数分後、Nは客室でキクヨとの話し合いを始めていた。
「ではキクヨさん、お願いします」
「わたしゃの様な老人で良ければ、幾らでも話すさ。で、何が聞きたいんだい?」
「主に、キクヨさんやユリさんがどの様な姿勢でポケモン達やタマゴと接しているのかを」
「そうじゃの~、やはりしっかりと心を通わせて接するのを心掛けておる。その為には、多くの知識や経験は必須じゃな。昔を思い出すの」
「昔と言うと……」
「育て屋の研修生だった頃じゃよ。わたしゃらとて、いきなり育て屋になれる訳ではない。多くの試験や体験を重ねて初めてなれる。多少の例外はあるかもしれんが」
若かりし頃、育て屋になるべく時には失敗をしながら、一生懸命勉強したり、多くのポケモン達と触れ合っていたことを思い出すキクヨ。
大変な日々だったが、それがあるからこそ今こうして育て屋を開き、営業が出来ている。
「ユリさんもですか?」
「まあの。しかし、あれはまだなったばかり。それに副業として幼稚園の先生も兼ねておるのもあって、まだまだ未熟じゃがな」
だが、ヤブクロンとの一件でユリは先生としても育て屋としても、大切な経験を得れた。これから立派になるだろう。
「では、育て屋の主の役割についてお聞きしたいです」
「大体はトレーナーや他の人からポケモンを預かり、傷付いた野生のポケモンの世話をするのが主じゃな。タマゴが出来れば、その世話も」
それが育て屋のするべきことだと、キクヨは思っている。
「一つお聞きします。トレーナーから預かるとは言いましたが、そもそもそれを憤りに感じた事はありませんか?」
「……どういう事じゃ?」
「ポケモンを預かる。つまり、捕まえたにもかかわらず、自分で育てないと言うことです。なのに、他人に預けるのは彼等に失礼ではないでしょうか」
「……」
「持てる数は六までだからと言うのなら、逆に六までに止め、一緒にいれば良いはずです」
「なるほどのう……」
Nの話にキクヨは思わず唸る。彼の言うことは育て屋の意義が揺らぐような発言だが、尤もでもある。
確かに捕まえて置きながら自分ではなく、他人に預けて世話させるのはポケモンに失礼と言える。
「確かにその通りじゃ。しかし、望んでそのトレーナーの手持ちとなり、その結果の場合はどうじゃろう?」
「その場合は……仕方がないですね」
ポケモン側からゲットされに行ったり、他の結果、規定である六を超えて預けざるを得なくなる。その場合は仕方がないだろう。
「しかし、それならもっと一緒にいれるポケモンの数を増やす等は出来ないのでしょうか?」
「ふーむ……出来なくは無いが、難しくはなるじゃろう。例えば、これは極端な話じゃが、百匹の手持ち全てに平等な愛情を注ぎ、しっかりと育成出来るかの?」
「……無理ですね」
一人だけでそれをするのは明らかに不可能だ。しかも、そこに更に食事や健康状態の把握もしなければならない。無茶にも程がある。
「今の六と言う数は、過去の様々な試行錯誤の末に決まったもの。簡単に変えるのは難しいじゃろう」
「確かに……」
となると、どうしてもポケモンを預けると言う事を避けるのは難しい。
「すみません、話が少し外れた様です」
「いやいや、そう言う当たり前だからこそ、気にならなくなった疑問を認識して置くのは良いことじゃ」
「ありがとうございます。次にここは素晴らしい育て屋だと思います。しかし、利益を優先してポケモン達の事を思わない育て屋もあったりはするのでは?」
「無い、とは言い切れんのう」
キクヨ個人としては、そんな育て屋が存在しないと思いたい所だが、断言出来ないのが人と言うものだ。
「とはいえ、利益を大事にするのもある程度重要な事ではあるの。利益を度外視した結果、環境や設備が劣悪になるのは避けるべきじゃ」
確かにとNは思う。環境や設備が悪い場所では、ポケモン達を安全に預かる事は出来ない。ポケモンを大切にするのは当然だが、利益も大切だ。
「では最後の質問ですが、どの様な基準を元にポケモンのタマゴを渡しているのですか?」
「それは自分で感じた性格を元に以外に無いのう」
「しかし、託した人が生まれる彼等の力を悪用する可能性も有り得ます。それは考慮するべきでは?」
もっと慎重に渡す相手は選ぶべき。Nはそう提案していた。
「Nくん」
「はい」
「わたしゃらも可能性な限りはそうしておる」
例えば、危険な前科が無いか、とかを調べる等だ。
「しかしの――わたしゃらには、遥か先の未来など見えん」
「……?」
「例えば、今は善人だった人が何かを切欠に悪人になる可能性など十分ある。わたしゃも、ユリも、あの子達も、お前さんやサトシ君達も」
「いや、そんなことは――」
「無い。と何故言い切れるのじゃ?」
Nは言葉に詰まった。確かに可能性だけで言えば、有り得るのだ。
「だから、わたしゃらに出来るのはただ一つのみ。それぞれの役目での最善、すべきだと思うことをする。それだけじゃ」
未来は分からない。だから、未来の為に自分にとっての最善と思う行動をするしかないのだ。良くも、悪くも。
「……その通りですね」
アララギも同じ様ことを言っていたのを思い出すN。悪くなる可能性があるかもしれないからと言って、何もしないのであれば、良くなる可能性も無くなる。
それが正しい事だと思っていても、本当に正しいかなど分かりはしないのだ。
「わたしゃに言えるのは、これぐらいじゃの。どうじゃ?」
「参考になりました」
育て屋の事をよく理解出来たし、自分の道を改めて強く再認識した。
「では、これで――」
「少し待ちなさい。お前さんに一つ授けたいのがある」
キクヨは席を立つと、部屋を出た。数分後戻って来たが、その腕には一つのケースが入ったタマゴ。イーブイが生まれるタマゴがあった。
「受け取りなさい、Nくん」
「良いの、ですか?」
「うむ。今の話の中でこうすべきだと思った。お前さんなら、この子を色眼鏡を掛けることなく、ゾロアやポカブと同じ様にしっかりと育ててくれるとの」
イーブイはイッシュ地方ではほとんど存在しないポケモンのため、簡単に渡せる相手がいなかった。
実はと言うと、サトシは渡せる相手の候補だったのだが、立派でもまだ少年だった点から除外。
一方、Nは青年。また先のやり取りから珍しいポケモンであろうが、平等に接してくれるとキクヨは考え、渡そうとしていた。
「それに、純粋なお前さんがこの子をどう導くかも気になるしの」
様々な進化を持つゆえ、トレーナーによって先が大きく異なるイーブイ。Nがどの様にこの子をどう進化させるか、或いはしないのかも含めてキクヨは気にしていた。
「はぁ……」
Nはこの時、キクヨの二つの台詞のどちらもどういう意味か分からなかったが、生まれるポケモンについて知ってるだけは理解出来た。
「ダメかのう?」
「――大切にします」
しばらく考えた後、受け取る事を決意したNはそのタマゴ――イーブイのタマゴを受け取り、幼稚園から旅立ったのだ。
そして現在。月夜の下、Nは自分と同じく、キクヨからタマゴを授かったサトシ、受け取ったタマゴから生まれたイーブイとズルッグと同じ景色を見ていた。
つい、Nはクスッと微笑んでしまう。自分は何れサトシと戦うだろうに、今のこの状況を見ているととてもだが思えなかった。
「サトシくん」
「何ですか?」
「空、綺麗だね」
「ですね」
「ルッグー……」
「ブーイ……」
二人と二匹が夜空を見上げる。写るのは、満天の星空。
まるで、今日生まれたズルッグとイーブイを祝福しているかのようで、二匹はその星空の美しさに魅了されていた。
「キバ……」
そんな二匹に、幼い竜は何とも言えない表情をしていた。
「――出ておいで」
「キバッ……!?」
「いるんだろう? キバゴ」
「キバゴ?」
「ズル?」
「ブイ?」
Nに呼び掛けられ、キバゴは恐る恐ると言った様子で岩影から出てくる。
「一緒に見ないかい?」
「そうだな。空も綺麗だし」
「キ、キバ……」
キバゴとしては、気になるズルッグと見るのは良い。しかし、イーブイの存在がどうにも引っ掛かった。
いや、キバゴは気付いていないが、嫉妬していたのだ。だからこそ、迷っていた。
「キバゴ」
「キバ?」
「この子も、今日生まれた、言わば君の妹分。そうは見れないかい?」
「……!」
Nの言葉に、キバゴはハッとする。彼の言う通り、イーブイもズルッグ同様、今日生まれた。言わば、妹のようなものだ。
「ブイ……?」
「イーブイ。キバゴは君よりも先に生まれた子。言わば、君のお兄さんだ」
「……ブイ!」
Nの言ってる事が少し分からなかったイーブイだが、次の説明で納得し、キバゴに近寄る。
「ブイブイ♪」
「キババ」
「……ルッグ」
Nの言葉に嫉妬を消したキバゴとイーブイが仲良くするも、今度はズルッグが不満のようだ。
「ブイブイ!」
「……ルッグ!」
イーブイはズルッグにもお兄さんだよと言うが、ズルッグからすれば、キバゴは単に先に生まれただけの他者。それだけ。
自分が生まれるまでタマゴを持っていたサトシ。タマゴの状態だが、同じ場所で数日前までいたイーブイとは決定的に違う。なのに兄と認める訳が無かった。
苛立ちからプイッと顔を反らすと、ズルッグはそのまま走ってしまう。
「あっ、ズルッグ! 待てよ!」
走るズルッグを、サトシは追い掛けた。
「……上手く行かないものだね」
「ブイ……」
「キバ……」
イーブイとキバゴの仲は良くなったが、代わりにズルッグとキバゴの仲が悪くなってしまった。関係というのはやはり難しい。
「……どうしようかな」
Nは少し考える。ズルッグはキバゴの件で苛立っている。となると、キバゴを連れるとまたズルッグが怒る可能性が高い。だが、ここでキバゴだけを返すのも良くないだろう。
しかし、今ここにいるのは自分とイーブイとキバゴだけ。差は有れど、二匹は産まれたばかり。放って置くのは不味い。Nがどうしたものかと悩んでいると。
「――ゾロ」
「――カブ」
「ゾロア、ポカブ」
「ゾロゾロ」
「カブブ」
ピョンと自分の目の前に、頼りになる仲間達が降り立つ。どうやら、自分達を心配して付けていたらしい。
「助かったよ。サトシくんとズルッグを追いたいから、周りを頼むね」
「カブ」
「ゾロ」
強く頷いた二匹と共に、N達もズルッグを追う。
「――ッグ! ルッ……!」
「この声……こっちかな?」
微かな声と何かがぶつかる様な音。それらを頼りに向かうと、離れた場所にある大木とサトシとズルッグが見えた。
彼等に気付かれぬよう、距離を取って状況を確認すると、ズルッグが大木の根の近くに何度も頭突きをしていたのが見えた。特訓だろうか。Nは耳を澄まし、彼等の声を聞く。
「ルッグ! ルッグ!」
「負けず嫌いの上に頑張り屋、か。好きだぜ、そういうの」
「……ルッグ!」
サトシの言葉に、ズルッグは少し嬉しそうな表情をするも、直後にずつきの練習に戻ろうとする。
「待った、ズルッグ」
「ルグ?」
「もっと身体に力を溜めてからやって放つんだ。こんな、風に!」
サトシが見本を見せる。身体を後ろに傾けて止め、そこでお腹に力を溜めてから一気に解放するように身体と頭を振る。ブンと、勢いのある音が鳴った。
「どうだ?」
「……ルッグ!」
今のを見本にし、ズルッグも身体を少し傾けてから力を溜め、一気に放つ。ガンと、今までよりも良い音が響いた。
「やるじゃないか! その調子その調子」
「ルッグ」
えっへんと、ズルッグは上機嫌になる。
「ふふ、やるね。サトシくん」
威力が向上している。身体の使い方を理解し始めた様だ。このまま行けば、実戦でも使える技になるだろう。
サトシのトレーナー能力にNが笑みを浮かべていると、突如樹の間がある部分が二つ光った。まるで、目のように。
「サトシくん! そこから離れるんだ!」
「Nさん? ――うわっ!?」
「ルッグ!?」
「チュラーーーッ!」
樹から出てきたのは、黄色い蜘蛛のような身体に、青い瞳のポケモン。
「こいつは……!」
『デンチュラ。電気蜘蛛ポケモン。敵に襲われると電気を帯びた糸を沢山吐き出し、痺れさせて攻撃にも使える電気のバリアを作る』
「この樹はデンチュラの縄張りだったのか!」
その樹にズルッグが何度もずつきをしたため、音が五月蝿くて怒ったのだろう。デンチュラの自分達を見る目が険しい。
「デンチュラ、済まない。キミを怒らせるつもりは無かったんだ。ボク達は直ぐに離れるから、どうかここは――」
「ルッグーーーッ!」
「こ、こら、ズルッグ!」
Nが説得しようとしたものの、その途中でズルッグがデンチュラに向かってしまう。
「デン……チュラーーーッ!」
「ルッグーーーッ!」
「ズルッグ!」
「ブイイ!」
「キバ!」
デンチュラは身体の中から大量の電気を広く放出する。ほうでんだ。電撃は容赦なくズルッグに命中し、大きなダメージを与える。
「ズルッグ!」
「ルグ……!」
バチバチと、ズルッグの身体から静電気が溢れる。今のほうでんでまひになってしまった様だ。しかし、ズルッグはまだ立ち上がろうとしていた。
「とりあえず、ここは任せて! サトシくんはズルッグの手当を! イーブイとキバゴ、サトシくんと戻って! ポカブ、一緒に!」
Nは残ったゾロアとデンチュラの対応に当たる様だ。
「ブ、ブイ!」
「キ、キバ!」
「カブ!」
「助かります!」
Nとゾロアがデンチュラを惹き付けてる間にサトシはズルッグを抱え、ポカブ、イーブイ、キバゴと一緒にアイリス達の元に戻る。
「この声、キバゴ……? ――って、どうしたの、サトシ!?」
抱えるズルッグを見て、アイリスは大声を出し、デントも目覚めて様子を見る。
「これは……まひだね。どういうことだい?」
「いや、実は――」
サトシはこうなるまでの経緯を話していく。
「で、デンチュラのほうでんを受けてまひになったんだ」
「なるほど……」
「じゃあ、Nさんは今――」
「ここにいるよ」
話している間に、Nは戻って来ていた。
「Nさん、無事ですか!?」
「うん、ゾロアが守ってくれたし、デンチュラも多少は納得してくれたからね」
「良かったです。すみません、俺のせいで……」
自分がしっかりと止めていれば、ズルッグはまひにならなかったし、Nにも苦労を掛けずに済んだのだ。トレーナー失格だと、サトシは頭を下げる。
「運が悪かっただけさ」
ズルッグは産まれたばかり。問題が起きても仕方ない。
「それよりも、ズルッグの手当が先だよ」
「ですね。だけど、ここからだとポケモンセンターは遠い……」
「だったら任せて。まひに効く薬を作るわ」
近くにポケモンセンターはない。となれば、ここは薬草の知識を持つアイリスの出番だ。
近くの森からまひに効く薬の材料になる薬草を見付け、薬を素早く作る。
「できたわ。はい、ちょっと苦いけど……飲んで、ズルッグ」
「ルグ……。ルッ、グ……!」
薬を飲んだ際に苦味が響くも、ズルッグは耐える。
「偉いぞ、ズルッグ」
「ルグ……! ル、ッグ……」
薬を飲んだズルッグは、スヤスヤと寝始めた。
「ボク達も寝ようか」
「はい」
Nの提案に従い、サトシ達はしっかりと寝ることにした。
「――ルグ?」
「あっ、起きたか? ズルッグ」
「ルッグ」
翌朝。目が覚めたズルッグは挨拶してきたサトシに返事する。
「元気になったね。ズルッグ」
「薬が効いた様だ」
「何よりだよ」
N達がそう言うも、ズルッグは聞いていない。昨日どうなったのかを知ろうと記憶を辿り――デンチュラにやられた事を思い出した。怒りで表情を歪ませる。
「――ルッグ!」
「あっ、こら! 今度はダメだぞ!」
「ルグルグ!」
ズルッグがデンチュラに再び挑むべく、走ろうとする。
だが、今度はトレーナーとしてポケモンの無茶を止めるため、サトシはズルッグを掴んで阻止。ズルッグは離せ離せと暴れる。
「ズルッグ。倒された悔しさは分かるけど、昨日の件はそもそもこちらが原因なんだよ」
「そうだぜ、ズルッグ。悪いのは俺達だ」
サトシとNに言われ、渋々だが確かにとは思うズルッグだが、生まれたばかりの子供故に納得仕切れなかった。
「ブイブイ」
「キバキバ……」
キバゴとイーブイにもまぁまぁと言われるが、ズルッグは耳を貸さず、キバゴをギンと睨む。
「怖いもの知らずとも言えるかな」
「うん、それにキバゴには何か態度が悪いし……」
ズルッグにどうしたものかと悩む一同だが、そこでNが少し考えた様な表情になる。
「ズルッグ。キミはデンチュラにまた挑みたいんだね?」
「ルッグ!」
「分かった。サトシくん。少し待っててくれないかい?」
「分かりました」
何か考えがあるのだろう。サトシ達は待つことにした。しばらくすると、Nが戻って来た。
「Nさん」
「話、付けて来たよ」
「話?」
「デンチュラに事情を話して、勝負を受けてほしいと頼んだんだ。これなら、問題なく済むだろう?」
昨日の様な衝突ではなく、試合に近い勝負形式なら問題は少ない。良い判断と言えるだろう。
「すみません、わざわざそんなことを……」
「これぐらい大したことじゃないよ。ただ、ズルッグだけで挑むのかい?」
「ルッグ!」
「うーん……」
ズルッグはやる気満々だが、サトシは悩んでいた。と言うのも、昨日生まれたばかりのズルッグがデンチュラに勝つのは無理が有りすぎる。
「……出来れば、ちょっと助けが欲しいです」
「ルッグルッグ!」
ズルッグはいらないと頭を振っているが、サトシはやはり味方が欲しい。
「だよね……」
しかし、ズルッグの性格や、ポケモン達との関係を考えると、助けは難しい。
「ブイッ!」
「イーブイ?」
そんな時、イーブイが声を上げる。自分がズルッグの助けになると言っていた。
「ブイブブイ?」
「ル、ルッグ!」
良いでしょ?と言うイーブイだが、ズルッグは申し出は嬉しいが断った。これは自分の勝負。それに、その勝負でイーブイに傷付いては欲しくなかった。
「ブイ~?」
「ルグルグ!」
え~と不満たっぷりにイーブイは言うが、ズルッグはダメダメとしっかり断った。
「キバキバ!」
直後、キバゴが手を上げる。イーブイがダメなら、自分が手助けすると言いたげに。
「ルッグ!」
しかし、ズルッグは必要ないとイーブイよりもキツイ態度で拒んだ。強情なズルッグにサトシ達は溜め息を吐く。
「とりあえず、ズルッグだけで挑もうと思います」
「それしか無さそうだね。まぁ、一応少しの時間を貰ったから、特訓出来るよ」
「何から何までありがとうございます……」
勝負の予定だけでなく、特訓の時間まで用意してもらい、サトシは思わず頭を下げる。
「よし、ズルッグ。短いけど、特訓をやるぞ!」
付け焼き刃だろうが、しないよりはずっとマシだろう。
「ルッグ!」
「ブイブーイ!」
「キババ!」
頑張ってと言うイーブイとキバゴ。ズルッグはイーブイにはコクンと頷いて返すも、キバゴには無かった。
「皆、出てこい!」
「ポー!」
「ミジュ!」
「カブ!」
「タジャ」
特訓のサポートとして、サトシは残りの手持ちを出す。
「ズルッグ、皆と特訓してデンチュラに挑むぞ」
「ズル……」
サトシがいれば十分。他は別に良いのにと、ズルッグは不満そうな表情を浮かべる。
「ズルッグ、皆は仲間だ。それに、練習にはポケモン同士でやるのが一番良い」
「……ルグ」
まだ納得仕切れてはいないが、やるつもりの様だ。
「じゃあ、特訓開始だ!」
こうして、デンチュラとの勝負に向け、ズルッグの特訓が始まったのであった。