ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ   作:ぐーたら提督

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少女と幼竜と小鳥と

「おっ、何だ?」

 

「ピカピ?」

 

 走っている途中、サトシとピカチュウは茂った草が揺れるのを見た。木の実がある草から何かが出ている。早速、アララギから受け取った図鑑で見ると。

 

『キバゴ。きばポケモン。牙で樹木に傷を付けて縄張りを主張する。牙は抜けても、生え変わる』

 

「キバゴ。だけど、明らかに違うよな?」

 

「ピカ」

 

 図鑑に表示されているキバゴは黄緑をベースにした体色をしているが、今自分達に写っているのは紫色だし、色違いにしても形や大きさが明らかに異なっている。図鑑の故障だろうか。

 とりあえず、確認の為にサトシは警戒しながらゆっくりと近付く。

 

「――ぷはぁ!」

 

「うわぁ!?」

 

「ピカァ!?」

 

 突然何かが出てきた。それは、明らかにキバゴではない――というか、ポケモンもですらなく、少女だった。褐色に紫色の特徴的かつ、長くて広い髪型をしている。

 何かがいるのは分かっていたとは言え、流石にこれは予想外にも程があり、サトシは腰から倒れてしまった。ピカチュウも驚愕から地面に落ちて転がってしまう。

 

「ん? 君だれ?」

 

「こっちの台詞だよ! とりあえず、出てきてくれ!」

 

「そうするわ」

 

 少女はサトシと目を合わせ、誰かと尋ねるも、サトシに言い返しつつ出るように促されたので、よっとと草から出た。背はサトシよりも低いようだ。

 

「あたし、アイリス。君は?」

 

 少女――アイリスの名を聞くと、サトシは立ち上がって自己紹介する。

 

「俺、カントーから来たマサラタウンのサトシ」

 

「カントー? 随分と遠くから来たのね」

 

「まあな。それよりもさ。君に図鑑を向けたら何故かキバゴの情報が出たんだけど……」

 

「あぁ~。それ? それはこういう事。――出てきて」

 

「――キバ!」

 

 サトシの疑問に答えるべく、アイリスが語り掛けると、何とキバゴが髪から顔と身体の一部を出した。

 

「そんなところに!?」

 

 道理で、キバゴの姿が見えないはずである。髪に隠れているとはこれまたビックリだ。

 

「大抵の人は驚くのよね~。これ」

 

「そりゃそうだろ……」

 

 何せ、人の髪にポケモンが入っているのだから。

 

「ピカ~」

 

 そこに、やり取りを見て納得した様子のピカチュウがサトシの足元に近寄って来た。

 

「えっ、ピカチュウ!?」

 

 シューティー同様、イッシュ地方にいないピカチュウに、今度はアイリスは驚愕。また思わず抱き抱える。

 

「本物!? あたし初めて見た! うわ~、頬っぺたプニプニ~!」

 

 間近で喜びに満ちた眼差しで見詰め、次にピカチュウの頬っぺたをプニプニするアイリス。

 

「けど、どうして!? 何で、ピカチュウがこのイッシュにいるの!? 教えて~!」

 

 喜びの余り、カントーのサトシが連れてきた相棒だという判断に辿り着けず、ピカチュウを強く抱き締めながらサトシに尋ねる。

 

「さっきも行ったけど、俺カントーから来たからさ」

 

「そっか! 君のポケモンだった訳ね! 納得!」

 

「ピ……カ……!」

 

 なるほどと言いたげに何度も頷くアイリスだが、抱き締めが強いせいでピカチュウの顔色がどんどん青くなっていく。

 

「あのさ、そろそろ離さないと不味――」

 

「ピカアァアアァ!」

 

 離そうとしたサトシだったが、一方遅かった。苦しさからピカチュウが電撃を放ち、アイリスとキバゴに諸に伝わってしまう。

 

「ふみゃ~! し、痺れるぅ~……」

 

「キバ~……」

 

「ピカ!」

 

「あはは……。あっ、体調はどうだ? ピカチュウ?」

 

「ピカピカ」

 

 ピカチュウが膨れっ面になりながらもサトシの元に戻る。苦笑いしてしまうサトシだったが、ピカチュウが電撃を放ち、身体に問題ないかを聞いた。

 今日は体調が良いことや、薬の効果も有って幸い何ともないようだ。

 

「良かった。とりあえず……」

 

 アイリスとキバゴが回復するまで、サトシは待つことにした。ただ、その時間は数分にも満たなかったが。

 

「いや~、ごめんね~。思わず抱き締めちゃった」

 

「ピカ」

 

 つーんとするピカチュウにアイリスはもう一度謝り、サトシの今を尋ねた。

 

「サトシはさ、何でこのイッシュ地方に?」

 

「最初は知人と一緒に旅行に来たんだ」

 

「旅行……。じゃあさ、雷雲に付いては知ってる?」

 

「……雷雲」

 

「そうそう。昨日、カノコタウンと港辺りで凄い雷雲が有ったでしょ? サトシは知らない?」

 

 旅行に来たのとここから一番近い港の存在から、アイリスは昨日の雷雲に関してサトシが何か知っているのではと予想していた。

 

「知ってる。二度も遭遇した。雷雲の中にいた――ゼクロムと」

 

「ゼクロム!? イッシュ地方の伝説のドラゴンポケモンと二度も!?」

 

「まぁ、実際に対面したのは二度目だけど……」

 

「それでも凄いわ! サトシって運が良いのね!」

 

「……運が良いかぁ」

 

「……あれ? あたし、変なこと言った?」

 

 普通なら、伝説の存在と二度も遭遇したのだ。喜ぶべきのはず。なのに、サトシとピカチュウも複雑な表情をしていた。

 

「実はさ――」

 

「ピカピカ!」

 

「ん?」

 

 サトシがゼクロムとの一件を話そうとしたその時、ピカチュウが指を指して叫ぶ。そこには昨日見た鹿みたいなポケモンがいた。

 

「昨日の! よし、行こうぜピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

「えっ? ち、ちょっと、待ちなさいよ~!」

 

「キバ~!」

 

 走るサトシとピカチュウを、アイリスは追い掛ける。

 

 

 

 

 

『無事、着いた様だな』

 

「はっ」

 

 何処かの洞穴で、ロケット団のムサシ、コジロウ、ニャースが膝を着きながらバック型のディスプレイの向こうにいる人物に礼儀正しく答える。

 

「予定通り、イッシュ地方に着きました。サカキ様」

 

 画面に写る人物は、ロケット団のボス、サカキ。二人と一匹にイッシュ地方に出向くようにと指示したのも彼だ。

 

「速やかに任務を果たし、イッシュ地方の制圧をしてみせますにゃ」

 

「また、例の少年のピカチュウ及び、イッシュ地方の伝説のポケモンを確保し、本部へと御送りします」

 

『ふむ、伝説と呼ばれし存在をか……』

 

「はい。その為にも、本部に預けた私達の手持ちを転送して欲しいのですが――」

 

『その必要はございません』

 

 戦力確保の為にも、コジロウは今までのポケモンの転送をボスに頼むが、隣に立った秘書の女性、マトリに却下される。

 

『イッシュ地方は独自のポケモンが多い地方。他地方のポケモンを使えば、非常に目立つます。秘密保持の為にも、必要な戦力は現地で集めてください』

 

「分かりました」

 

 彼女の言うことは尤もだ。秘密裏に動くのなら、他の地方で入手したポケモンは目立ってしまう。ムサシとコジロウは納得したものの。

 

(あれ? ニャーは大丈夫なのかにゃ?)

 

 自分は良いのだろうかと、疑問が過るニャース。しかし、その事は最初から無かったかのようにサカキは二人と一匹に期待していると告げ、電撃を切った。

 

「聞いたか? ボスのあの御言葉!」

 

「あれほどの期待を裏切る訳には行かないにゃ!」

 

「良い? 我等、栄光あるロケット団の歴史にあたし達の名を刻むのよ!」

 

 おぉと、やる気に満ちた声が洞穴内に響いた。

 

「彼等、上手く出来るでしょうか?」

 

「さあな」

 

 一方で、ロケット団の本部ではコーヒーを用意したマトリの問いに、サカキがコップを持ちながらどちらでも良いと言いたげに返す。

 彼等の前でこそ発破を掛けたが、サカキは実際はあまり期待していない。彼の目的は別にある。

 

「だが、あれらが動けば、イッシュ地方で活動する謎の一団は何らかの反応を示すだろう」

 

 見えない敵ほど怖いものは無い。その存在の炙り出しこそ、サカキの狙いだった。

 

「さて、どうなるかな。ふふふ……」

 

 不敵な笑みを浮かべ、サカキはコーヒーを味わう。

 場所は戻って、先の洞穴ではニャース達が支給された食料や道具などを確認していた。

 

「これで全部にゃ」

 

「流石ボス。必要な物は一通り有るな」

 

 最低限の働きはしてもらわねばならないので、当然なのだが。

 

「これでポケモンをゲット出来るわ。強いの来てくれないかしら」

 

 道具を確認していると、洞穴の向こうから何かの音が聞こえ、ロケット団が反応する。

 奥から翼とハート型の鼻を持つポケモンの一群が彼等に迫ったのは、その数秒後だった。

 

 

 

 

 

 場面はサトシの方に戻り、彼は先程見たポケモンを追い、今は草に身を隠していた。隣にはアイリスもいる。サトシは一群の中の一匹に図鑑を向ける。

 

『シキジカ。季節ポケモン。気温や湿度によって色が変わる体毛を持っているため、季節によって姿が変わる』

 

「シキジカって言うのか。ピカチュウ、行けるか?」

 

「ピカピ~……ピカ!」

 

 絶好調ではないが、体調に異常はない事をピカチュウは相棒に伝える。

 

「よし行くぞ、ピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

 勢い良く飛び出したサトシとピカチュウ。捕獲には体力をある程度削る必要がある。早速、バトル――と思いきや。

 

「シキキ!」

 

 一匹のシキジカが素早く反応すると、仲間に危険を伝え、シキジカの群れはその場から走り去ってしまう。

 

「えぇ!? そんなぁ……」

 

「ピカ~……」

 

 シキジカ達の逃走に、サトシとピカチュウはショックを諸に出してしまう。

 

「ミネミネ!」

 

「へっ?」

 

「ピカ?」

 

 そこに彼等の横から大量の鳴き声が聞こえた。向くと、昨日のねずみの様なポケモンの群れが此方に向かって走って来ていたのだ。

 サトシとピカチュウは回避が間に合わず、群れに巻き込まれてその場で猛回転。目を回して倒れてしまった。

 

「い、今の、確かの昨日の~……?」

 

「ピカピ~……」

 

「ミネズミっていうの。さっきと言い今と言い、運が無いわね~」

 

「キババ~」

 

 その後、サトシ達は残念ながらポケモンとは遭遇せず、夕暮れになったので夕食を取ろうと木から木の実を一つ採る。

 

「ん? うわぁあぁ!?」

 

「ピカカァ!?」

 

 突然木から大量の実が落下し、サトシとピカチュウは下敷きになってしまった。直後、アイリスが着地する。どうやら、彼女の仕業らしい。

 

「ご飯ゲ~ット! あれ? サトシとピカチュウ……?」

 

「ここ~……」

 

「ピカ~……」

 

「あっ、ごめん……」

 

 とりあえず、その実を夕食にし、平らげていく。同時にサトシはゼクロムが原因で、ピカチュウが不調である事を話した。

 

「という訳なんだ」

 

「……そっか。ごめん。そうだとも知らずにあたし……」

 

「気にするなよ。何時かは治るし、ゼクロムに悪気が有ったわけでも無いしな」

 

 寧ろ、あの時の落雷はピカチュウをロケット団から守るための物ではないかと、サトシは思っていた。

 

「ありがと。にしても、あのゼクロムが二度もかあ。君やピカチュウにはゼクロムを引き寄せる『何か』が有るのかもね」

 

 理想の英雄の前にしか姿を現さないとされる、存在だ。それが二度も彼等の前に出来てきた。

 サトシとピカチュウは、特別なものを持っているのではないかとアイリスが考えても仕方ない。

 

「単なる偶然じゃないかな。それかゼクロムが良いやつだからだよ」

 

「ふーん。まっ、そうかもね」

 

 確かにこうして見る限り、サトシとピカチュウはただの他地方のトレーナーとポケモンにしか見えない。

 それだけでゼクロムが気に掛けるとは考えにくく、単なる偶然の可能性もある。

 

「にしても、あたしも会いたいな~ゼクロムと! ね、キバゴ!」

 

「キバキバ!」

 

 両手を上げ、少女と幼竜は待ちきれないと言わんばかりに叫ぶ。

 

「なぁ、このイッシュ地方には他にもいるんだよな? ゼクロム以外にも、伝説のポケモンが。どんなのが――って、あれ?」

 

 他の伝説のポケモンについて聞こうとしたサトシだが、どうやら、アイリスとキバゴは途中で寝てしまったようだ。

 

「寝ちゃった。寝るの早いなあ」

 

「ピカピカ」

 

 サトシもねとピカチュウは言い、サトシは苦笑い。

 

「始めて見る星ばっかりだ」

 

 空を見上げる。今までの場所とは違う夜空の輝きが、サトシとピカチュウを魅了していた。不意に、一筋の光が流れる。

 

「流れ星! 良いことありそうだな!」

 

「ピカ!」

 

 彼等は暫し、笑い合う。どんなことが起きるのだろうと。心の底から楽し気に。

 

「ミジュ~?」

 

 そんな彼等を、一つの存在が草から顔を出して不思議そうに見つめていた。

 

「さて寝る前に……。ほら、ピカチュウ。薬」

 

「ピーカ」

 

 サトシがリュックから取り出したのはオーキドとアララギが調合した薬だ。寝る前に飲むようにと言われている。

 

「ピカァ~……」

 

 口に含むピカチュウだが、かなり苦い。思わず表情に出るほどだ。

 

「ちょっと苦いけど、我慢我慢」

 

 ピカチュウはうんと頷き、薬を飲み干す。

 

「じゃあ、寝ようか」

 

「ピカ」

 

 こうして、彼等のイッシュ地方の旅の初日は幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 翌朝。サトシとピカチュウは昨日採った身の残りを朝食にして食べる。

 

「今日の体調はどうだ?」

 

「ピ~、ピカ……」

 

 どうやら、今一の様だった。図鑑で見ても、不調気味だと出ている。とはいえ、無理をしなければピカチュウは問題ないと、サトシは旅を再開する。

 

「にしても、アイリスとキバゴ何処行ったんだろな?」

 

「ピカ」

 

「まっ、とりあえず今日も頑張るか!」

 

 朝を起きると、アイリスとキバゴの姿は無かった。気にはなるものの、サンヨウシティを目指して歩くサトシとピカチュウ。

 

「ルポ、ルポ!」

 

 そんな彼等の上から、羽ばたき音と鳴き声が聞こえる。これまた昨日見たハート型の胸が特徴の鳥ポケモンだ。

 

「あれは……」

 

『マメパト。小鳩ポケモン。集団で群れているので、鳴き声が非常にうるさい。キラキラ光る物が好きではない』

 

「マメパト。けど――」

 

「ピカピカ!」

 

 ――ゲットしたいんでしょ! さっさとやる!

 ピカチュウの体調が今一なため、止めて置こうかと考えたサトシだが、相棒の言葉に分かったと頷く。

 走るとサトシとピカチュウはマメパトの群れに遭遇。その一匹が彼等を見ると、応戦するように向き合う。

 

「よし、バトルだ! ピカチュウ、でんこうせっか!」

 

「ピカ!」

 

 ピカチュウは一気に加速。不調な為、普段よりも速さは無いが、それでもマメパトはかわしきれずに諸に喰らうも、速さが特徴の攻撃のために踏ん張った。

 

「アイアンテール!」

 

 そこに硬質化したピカチュウの尾が叩き込まれる。連続で受け、マメパトは目を回して後退するも、それで他のマメパト達が異変に気付いた。

 

「良し! 今だ、モンスター――って!?」

 

 捕獲しようとしたサトシだったが、仲間をやられて怒った他のマメパト達が攻撃を仕掛けてきた。

 こちらは一体の上に不調で、あちらは何体もいる。サトシとピカチュウはたちまち不利となり、攻撃をかわすのに必死だった。

 しかも、その間にピカチュウと戦っていたマメパトは意識を取り戻し、仲間と共に空へと去ってしまった。

 

「はぁ……はぁ……また逃げられた……。ピカチュウ、大丈夫か……?」

 

「ピ~カ……」

 

 サトシ同様、少し疲れてはいるが、ダメージは無かった。

 

「まぁ、そう簡単には行かないよな。けど、諦めないぞ! 次行こう――」

 

 また失敗。しかし、めげずに次に行こうとしたサトシにマメパトの一匹が写る。

 他よりものんびりしているのか、さっきの群れとは違うマメパトなのか。何にせよ、機会はまだ残っている様だ。

 

「今度こそゲットだ!」

 

 そのマメパトもサトシ達に気付き、来るなら来いと言わんばかりに向き合う。

 

「でんこうせっか!」

 

 ピカチュウがでんこうせっかを放つ。同時に、マメパトも同じ技を繰り出した。

 二人の線が正面からぶつかり合い、マメパトが悲鳴を上げながら吹き飛ぶも途中で堪えた。

 サトシは昨日同様に追撃のアイアンテールを命じ、ピカチュウは飛んでかわそうとするマメパトに見事に的中する。

 

「行け、モンスターボール!」

 

 赤と白、二色が使われたボールを全力で投げ、マメパトに当てる。光がマメパトを包み込み、ボールの中へと入れるが。

 

「ポー!」

 

「――惜しい!」

 

 あともうちょっとでゲットだったが、まだマメパトには余力が残っていたようで失敗に終わり、ボールから出てしまった。

 

「クル……ポー!」

 

「かぜおこし!」

 

 両翼を羽ばたかせ、風を発生させてピカチュウに浴びせる。それなりの勢いと体調が今一な事もあり、ピカチュウはその場にしがみつくのが精一杯だ。

 その隙を、マメパトは見逃さない。素早くでんこうせっかを繰り出し、ピカチュウにそれなりでも確かなダメージを与える。

 更に攻撃しながらも距離を取ったマメパトは両翼を交差。ブーメラン型の空気の刃を発射する。

 

「エアカッター! ピカチュウ、かわせ!」

 

「ピカ! ――チャア!?」

 

 急いでその場を蹴り、ピカチュウは空気の刃をぎりぎりで回避する。しかし、そこにマメパトのかぜおこしが放たれて体勢が崩れる。その一瞬にマメパトはでんこうせっか。

 体勢が崩れつつも、ピカチュウは動くも腕にマメパトの一撃が命中する。

 

「やるな、あいつ……!」

 

 かぜおこしを見事なタイミングで放つ力量から、どうやらあのマメパトは中々の強さを持っている様だ。油断は出来ない。況してや不調状態なら尚更。

 

「さて、どうするか……」

 

 サトシはマメパトの動きを警戒しつつ、周りを見渡す。近くの木に視線が注目した。

 

「あれ、使えそうだな。ピカチュウ、回避に専念!」

 

 サトシの指示に従い、ピカチュウはマメパトの攻撃を回避していく。

 

「クルー……!」

 

 それが十回程続くと、マメパトは徐々に苛立ちを募らせる。怒りから、一気に決めようと全力ででんこうせっかを行なう。

 

「今だ、地面に向かってアイアンテール!」

 

 ピカチュウが鋼化した尾を大地にぶつける。土が捲られ、煙が発生してマメパトの視界を塞いだ。

 

「ポッ!?」

 

 視界が覆われ、マメパトは困惑するも、でんこうせっかの勢いは止まらない。そして、突っ切った先に有るのは――木だ。ごつんと頭からぶつかり、地面に落下する。

 

「でんこうせっか!」

 

 そこに、ピカチュウのでんこうせっかが炸裂。衝突と合わせて大きなダメージを負う。

 

「今度こそ……! モンスターボール!」

 

 頭の帽子を回し、モンスターボールを構えて勢い良く投げる。モンスターボールはマメパトに衝突し、数度左右に細かく揺れると、パチンと音を立てて静止した。

 

「やった! マメパト……ゲットだぜ!」

 

 マメパトが入ったモンスターボールを空に向かって真っ直ぐに掲げ、ゲット時の決め台詞を高らかに告げる。ピカチュウも歓迎するように鳴く。

 

「やったやった! よっほー!」

 

「あーら、マメパトをゲットしたぐらいでそんなに喜ぶなんて……子供ねえ」

 

「キバー」

 

 喜びの余り、サトシはピカチュウと一緒にはしゃいでいると、木の実をかじっているアイリスがやれやれと言いたげに近付く。

 キバゴはひょっこりと出ると、ピカチュウと一緒に少し距離を取り、木の実を半分にして渡していた。

 

「だって、イッシュ地方での最初の仲間なんだぜ? 喜ぶべきだろ!」

 

「まっ、お似合いかもね。サトシとこの森のマメパトは」

 

 サトシとアイリスがそんなやり取りをしていると、次の瞬間、木の実を味わっていたピカチュウとキバゴを機械の手が掴み取り、遠くに放されてしまう。

 

「これは……またお前達か!」

 

 こんなことを仕出かすのは、あの連中のみ。そちらを向くと、やはりその通りの者達がいた。

 

「またお前達かと言われたら」

 

「答えてあげよう。明日のため」

 

 お決まりかつ、新しい口上を彼等は述べ出す。

 

「フューチャー。白い未来は悪の色!」

 

「ユニバース。黒い世界に正義の鉄槌!」

 

「我等この地にその名を記す」

 

「情熱の破壊者、ムサシ!」

 

「暗黒の純情、コジロウ!」

 

「無限の知性、ニャース!」

 

「さぁ集え! ロケット団の名の元に!」

 

 最後に構えを取り、彼等は自分達の所属を答える。しかし、秘密裏に動く立場としてはそれで良いのだろうかと突っ込むのは、おそらく野暮なのだろう。

 

「ロケット団? 何それ?」

 

 カントーに存在する組織のため、詳細を知らないアイリスは疑問符を浮かべる。

 

「人のポケモンを狙う、悪党だよ!」

 

「正解。人のポケモンを奪って悪の限りを尽くし、世界を手に入れる。それがロケット団よ!」

 

「そんなことどうでも良いわよ! それより、キバゴはアタシのポケモンよ! 返して!」

 

「キバゴ? なるほど、こいつはキバゴって言うのか」

 

「イッシュ地方の制圧の手始めに、こいつも頂くことにするにゃ!」

 

「ねぇ、君ニャースよね? て言うか、何で人間の言葉で喋れるの!?」

 

 ピカチュウ以外の他地方のポケモンの上に、人間の言葉で喋るニャースにアイリスは困惑気味だ。

 

「ニャーは他のとは一味も二味も違う特別なニャースなのにゃ」

 

「そ、そうなの?」

 

 それで片付けて良いのだろうかと気になるアイリスだが、今はキバゴやピカチュウを優先。見ると、二匹は透明なケースに入れられていた。

 

「観念するんだな」

 

「そうは行くか! マメパト、君に決めた!」

 

 ロケット団はそのまま連れ去ろうとするも、サトシがそんなことを許すわけも無く、さっきゲットにしたばかりの新しい仲間を出す。

 

「あいつも、この地方のポケモンを!」

 

「出番よ、ニャース! カントーのポケモンの実力を見せ付けるのよ!」

 

「みだれひっかきにゃ!」

 

「エアカッター!」

 

 空にいるマメパト目掛け、跳躍して連続の引っ掻きを喰らわせようとするニャースだが、空中でまともな身動きが出来ないところにエアカッターを叩き込まれ、呆気なく墜落する。

 

「でんこうせっか!」

 

 更に追撃のでんこうせっかが決まり、ニャースは大きく転がる。

 

「じゃ、ジャリボーイのやつ、容赦がないのにゃ!」

 

「……情けないわよ、アンタ」

 

 見たところ進化前の、それもおそらくは最近ゲットされたばかりのポケモンに押されるニャースに、ムサシが冷たい眼差しを向ける。

 

「まぁ、ジャリボーイも相当なトレーナーだしなあ……。ニャースじゃ荷が重いか」

 

「しゃあないわね。行け、アタシのポケモン!」

 

 ムサシのモンスターボールから、ハート型の鼻と小さな翼を持つポケモンが出現する。

 

「何だ、あのポケモン!?」

 

「あれはコロモリよ!」

 

「にゃるほど、アイツはコロモリって言うのにゃ」

 

「中々良い名前じゃない。――コロモリ、エアスラッシュ!」

 

 新しくゲットしたポケモンの名を知ると、ムサシは早速命令。コロモリの翼から、空気の丸鋸が数発発射される。

 

「かわして、でんこうせっか!」

 

「こっちもかわして、かぜおこし!」

 

 マメパトは迫る空気の丸鋸にも怯まず、果敢に進みながら避けて突撃するも、コロモリも回避し、その隙に風をぶつける。

 

「マメパト! その風に逆らうな! 逆に利用して加速! 高く飛べ!」

 

 横からの風に姿勢を崩され、地面に激突と思いきや、サトシの言う通りにかぜに乗って加速。地面すれすれを滑るように飛翔し、次に一気に高く飛ぶ。

 

「落下の勢いを加えろ! でんこうせっか!」

 

「コロモリ、かぜおこしで速度を軽減しなさい!」

 

 風と落下。二つの勢いを利用した高速のでんこうせっかが迫る。

 エアスラッシュではかわされる。回避は無理と判断したムサシはかぜおこしを命じるも、発動が間に合わなかった。

 また今のマメパトの速度は安易な勢いでは止めきれず、風を破ってコロモリに一撃を与える。

 

「かぜおこし!」

 

 ムサシは吹き飛ばされたコロモリに指示を出そうとしたが、サトシとマメパトの方が早かった。

 マメパトの翼から風が発生し、でんこうせっかで体勢が崩れたこともあり、地面に落下してしまう。

 

「連続でエアカッター!」

 

「直ぐに飛んで回避しなさい!」

 

 今度は指示通りに避けるコロモリだが、羽ばたきに一瞬の時間を取られ、空気の刃が一つだけ命中する。しかし、一撃にもかかわらずコロモリはかなりのダメージを受けた。

 マメパトの特性、きょううんとエアカッターの急所に当たりやすい性質により、コロモリに痛烈な一撃を与えたのだ。

 

「くっ、コロモリも弱くはないのに……!」

 

「ジャリボーイの能力が、あのマメパトってポケモンの力を引き出しているんだ!」

 

 単純な能力なら、コロモリの方が上回るだろう。しかし、サトシの今までバトルで積み重ねたトレーナーの経験がマメパトの力を本来以上に発揮させていたのだ。

 

「す、凄い……」

 

 サトシのトレーナーとしての力量に、アイリスは思わず感嘆の呟きを漏らす。的確な判断に、相手の力を利用する柔軟さ。

 とてもだが、マメパトをゲットしてはしゃいでいた少年と同一人物とは思えなかった。

 

「……このままじゃ不味いな。ニャース、ちょっと耳を貸せ」

 

「にゃ?」

 

 ムサシの劣勢を悟ったコジロウが、ニャースに耳打ちする。

 

「一気に決めるぞ! 連続でエアカッター!」

 

「ポー!」

 

「とにかく回避よ!」

 

「コロロ!」

 

 風刃の連弾を、コロモリはとにかく回避していく。しかし、先の一撃のダメージから動きが鈍くなっており、掠りだしていた。

 

「このままはヤバイわね……!」

 

 このままでは負けるとムサシも理解していたが、打開策が浮かばない。

 

「ムサシ!」

 

 自分を呼ぶ声が聞こえた。振り向くと、コジロウが視線を動かし、ムサシも釣られて動かす。そこでコジロウの狙いを悟った。

 

「コロモリ、地面すれすれを飛びなさい!」

 

「マメパト、もう一度急降下しながら、でんこうせっか!」

 

「ポー!」

 

 ただ下がるだけと、落下の勢いを加えたでんこうせっか。どちらが速いかは一目瞭然で、マメパトはコロモリに猛スピードで迫る。

 

「決まった!」

 

 勝ったと、サトシもアイリスも確信していた。二人のその思いは間違っていない。寧ろ、正しい。

 

「――みだれひっかきにゃ!」

 

 但し、それは――『一対一の勝負』であった場合。

 いつの間にか潜んでいたニャースがマメパトを横から奇襲。みだれひっかきで連続のダメージを喰らわせ、吹き飛ばす。

 

「今よ、コロモリ! めざめるパワー!」

 

 すかさず、コロモリが追撃を仕掛ける。周囲に黄緑の光球が複数展開され、一斉にマメパトに襲いかかった。

 ニャースのみだれひっかきで体勢を崩されたマメパトには回避する余裕も無く、全て命中。無情にもマメパトは戦闘不能になってしまった。

 

「マメパト!」

 

「流石ジャリボーイね。危うく負けるところだったわ」

 

 コジロウの指示でニャースが加勢しなければ、冗談抜きでコロモリは敗北していただろう。

 

「卑怯者! 二対一で攻めるなんてずるいわよ!」

 

「賢いって言って欲しいな。それに、持っている力を駆使して何が悪い」

 

「その通りにゃ。ムサシ、コジロウ。向こうが回復する前にさっさと離れるにゃ」

 

「そうしましょう」

 

「同意見だ」

 

 さっきの不意打ちは、一度きりの策だ。次からはもう通用しないだろう。素早く逃げる必要があった。

 気球を素早く用意し、ピカチュウとキバゴが入ったケースを中に置くと、空へと逃走を開始する。

 

「さらば!」

 

「待ちなさい!」

 

 上空へと飛んでいくロケット団に、木を登ってアイリスが追い掛けるも、気球が昇る速度が速く、追い付かない。そこに、気球に向かって影が飛んでいく。サトシだった。

 

「ピカチュウ! キバゴ!」

 

「嘘ぉ!?」

 

 サトシは木の天辺を踏み台にし、高くジャンプ。アイリスはその跳躍力に驚愕する。

 

「く、くそ、届かな……!」

 

 しかし、後一歩の所で気球には届かずにサトシの手は空振り、サトシはそのまま木の枝や葉を捲き込みながら落下。心配からアイリスが駆け寄る。

 

「サトシ、大丈夫!?」

 

「くそ……!」

 

 このまま、相棒やキバゴが連れ去れるのを黙って見つめるしかないのか。そう思われたその時。

 

「ミジュミジュ!」

 

「えっ? ミジュマル!?」

 

 アララギ博士の研究所で見たラッコポケモン、ミジュマルが駆け出し、お腹にあるホタテの様な物――ミジュマルの武器であるホタチを全力で投げる。

 ホタチを気球の風船に穴を空け、気球を落下させていくと、そのままクルクルとブーメランのようにミジュマルの手元に戻り、ミジュマルはそれを腹に付ける。

 

「よくもやってくれたわね!」

 

「だが、まだピカチュウもキバゴもこっちの手の中にある!」

 

「お前達の不利は変わらないにゃ!」

 

 気球は落下こそしたが、ピカチュウとキバゴを捕らえたケースはまだ壊れていない。

 その上、マメパトは戦闘不能状態。サトシ達が不利な状況は変わっていなかった。

 

「コロモリ、ジャリボーイを痛め付けなさい! エアスラ――」

 

「ミジュマーー!」

 

 コロモリが技を放とうとしたその直前に、ミジュマルは口を膨らせて中からみずでっぽうを発射。コロモリと、ロケット団を吹き飛ばす。

 

「ミジュ~マッ!」

 

 隙が出来た。ミジュマルは素早く接近し、ホタチで一閃する。鈍い音と共に、有るものが切り裂かれた。

 

「ピカー!」

 

「キバー!」

 

「しまったわ! ケースが!」

 

「くそっ、やられた!」

 

「ミジュジュ~」

 

 そう、ピカチュウとキバゴを閉じ込めていたケースだ。自由の身となり、二匹はそれぞれのトレーナーの元に戻る。その様子にミジュマルはどうだと胸を張る。

 

「ここまでかにゃ……。退くにゃ!」

 

「おう!」

 

 数が二対一から三対二になった。コロモリも少なからずのダメージが有り、ニャースは戦いが得意ではない。

 引き際と判断し、ムサシとコジロウは煙玉でサトシ達の視界を塞ぐと、そのまま姿を眩ました。

 

「逃げたか……!」

 

「とりあえず、無事で良かったわ。ミジュマルのおかげね」

 

「そういや、そうだな。ありがとな、ミジュマル」

 

「ミジュ~」

 

 どういたしまして~、と言いたげにミジュマルは表情を緩めた。

 

「あとサトシ、マメパトの治療をしないと!」

 

 ピカチュウもキバゴもミジュマルも無事だが、マメパトだけはニャースとコロモリにやられて戦闘不能状態のままだった。

 

「そうだった! じゃあな、ミジュマル! 本当に助かったよ!」

 

「ミジュ?」

 

 自分に礼を言い、走り去っていくサトシの姿を、ミジュマルを少し呆然としながら見つめていた。

 

 

 

 

 

「おまちどおさま。お預かりしたマメパトは治りましたよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 夕暮れ。木造の建物、ポケモンの傷を癒す施設であるポケモンセンター。薄紅色の看護士の様な服を着た女性、ジョーイがマメパトの治療が完了したことを伝える。

 マメパトは元気満々と言いたげにサトシの隣で羽ばたく。

 

「元気になって良かったよ」

 

「ポー!」

 

「にしても、珍しいわね。ピカチュウを連れてるなんて」

 

 ジョーイもシューティーやアイリス同様、イッシュにいないピカチュウに、興味津々の様子だ。

 

「俺達、カントーのマサラタウンから来たんです。イッシュ地方のポケモンセンターはここが初めてで」

 

「そうだったの。ポケモン達の体力を回復、怪我を治したい場合はカントー同様、ここに立ち寄ってくださいね」

 

「はい」

 

 マメパトがしばらく羽ばたくと、サトシの手に乗って優雅な仕草を取る。それを皆で笑っていた。

 

「これから宜しくな。マメパト」

 

「ポー!」

 

 お任せあれ、とマメパトは執事の様にお辞儀。また全員が微笑む。

 

「……あのさ、サトシ」

 

「何だ?」

 

「キバゴを助けようと頑張ってくれて、ありがと」

 

「そんなこと気にすんなよ。当然だろ? それに一番頑張ったのはミジュマルなんだし」

 

 とそこで、サトシは呟いた。

 

「そういや、あのミジュマル……。何で、俺達を助けたんだろ?」

 

 それに、どうにも見覚えが有る様な気がしてならない。何処かで会ったことがあるような。

 

「……まさか、な」

 

 一つの可能性が思い浮かぶも、単なる偶然だろうとサトシはそれを流した。

 

「ミジュ~……」

 

 しかし、それが偶然ではないことを、サトシはこの翌日に知ることになるのであった。

 

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