ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ 作:ぐーたら提督
「皆、今日も頑張れよー」
今日もまた、サトシのポケモン達がトレーニングに走り込みをしている。
「ルグルグ……!」
その中には、一昨日に加わった新しい仲間、ズルッグもいた。
まだ産まれて間もないために五匹よりも遅く、息も乱れているが、漂うやる気だけは前にいる彼等にも負けない。いや、それ以上かもしれない。
「カブブ……」
「ポー……」
そんなズルッグを、ポカブとマメパトが一瞬だけチラッと見る。大丈夫かなと言いたげだ。
「タジャ、タジャジャ」
「ミジュミージュ」
そんな二匹に、ツタージャが心配いらないわと告げ、ミジュマルが賛同する。
ズルッグは子供で、怖いもの知らずな所はあるが、強さへの意思は本物。きっと強くなるだろうと、ツタージャもミジュマルも思っていた。
「ピカピ」
そうそう、あの子は強いよと、ピカチュウも同意する。あの意思の強さは生まれ持った才能とも言える。
今は身体も技術も未熟だが、しばらくすれば立派に戦える様になるだろう。
「ピカカ、ピカピカ」
だから、僕達が先輩として前を立派な姿を見せないと。そうピカチュウは語る。
その言葉に、ツタージャはえぇと、ミジュマルはだなと、マメパト、ポカブはうんと強く頷いた。
「ポーポーポー!」
「カブカブカブー!」
すると、ズルッグの為にと全速力で走り、飛んで二匹は先頭に立つ。
「……ミジュジュ?」
「タジャタージャ」
「ピカピカ」
ミジュマルがあれ大丈夫か?と言い、ツタージャは多分、途中でへとへとになるわねと冷静に告げ、ピカチュウはサトシが止めるだろうと語る。
実際、その後に苦笑いしたサトシに張り切り過ぎと言われ、二匹は何時もペースに戻した。
「ズルッグ、そこまで。もう終わり!」
「ルッグ!?」
しばらく走っていたズルッグだが、サトシに止められた。近付いて来るサトシにまだ走ると強気に告げるも。
「気持ちは分かるけど、ダメだ。この後にも練習があるんだぞ?」
ズルッグはまだ生まれたばかり。当然、体力はピカチュウ達に比べれば劣る。長期の走り込みは無理だ。
「ルグ……」
「そう落ち込むなよ。今も走ってるあいつらだって、最初からそうだった訳じゃない。技が未完成のやつもいる」
「ルッグ……」
マメパト、ミジュマル、ポカブは初日はへとへとになっていた。ピカチュウやツタージャも最初から強かったのではない。それを聞いて、ズルッグは五匹を見ていた。
「お前なら絶対、強くなる。あいつらに追い付ける。だから、今は少しずつこなして行こうぜ」
「……ルッグ!」
サトシに言われ、ズルッグは強く頷く。
「それでよし! じゃあ、キバゴとの試合をしようか」
「ルッグ!」
試合と聞き、また前は引き分けに終わったため、今度こそは勝つとズルッグは意気込んでいた。
その後、キバゴとの試合やピカチュウとのトレーニングをこなしていった。
ちなみに、試合の結果は今回もりゅうのいかりが暴発したため、引き分けである。
「大きな森だな」
「ピカピカ……」
朝のトレーニングや、朝食が終わり、ある程度歩いた場所の岩山から見下ろせる広大な森を見て、サトシとピカチュウは思わず呆気に取られる。
「結構、というかなり深いわね……」
「キバキバ……」
「ここはヤグルマの森だよ」
「ヤグルマの森? この森はそう呼ぶのか?」
「うん。ヤグルマの森は真っ直ぐにあっという間、脇道に行けば、自然の迷路と呼ばれる場所なんだよ。それに……」
「それに?」
「いや、ちょっとね」
思わず出した言葉をサトシに追求されるも、デントは誤魔化す。
(まぁ、会える可能性なんて、皆無に等しいしね)
『そのポケモン』は、デントにとっての憧れのポケモンだが、人に強い警戒心を抱いている。先ず、出てこようとはしないだろう。それに危ない。
(それに会えるとしたら――)
あの人物の方だろう。その事を考え、デントは苦笑いする。
「デント、さっきから何を隠してるんだよ?」
「秘密。迷路に迷うかもしれないしね」
「それは不味いな」
気になるサトシだが、どうやらデントの隠し事は森に迷う可能性があるものらしい。なら危ないので、引くことにした。
「こんな森、迷うわけないじゃない。あたしに任せないよ」
「結構自信あるんだな」
「まぁね~」
自信満々のアイリスに、大丈夫そうだとサトシは思った。
「じゃあ、ヒウンシティに向かう為にも入ろうか。直ぐに抜けれるか、はたまた迷うか、分からないけどね」
「行けば、分かることさ」
「ピカピカ」
サトシらしいその言葉に、アイリスとデントは笑ったあと、彼等はヤグルマの森へと踏み入れた。
「やっぱり、森の中って落ち着くな~」
「キバキバ~」
「これだけの森だけあって空気も新鮮、辺りには優しい光に満ち溢れてる。良いポケモンに育ちそうな環境だよ」
「新しいポケモンに出会えないかなー」
「ピカチュー」
そんな事を言っていると早速、サトシの言う出会いが向こうからやって来た。
「――クルミーーールッ!」
「ピカッ!?」
「なんだ!?」
突然現れた、草を纏った様な姿に、頭の丸いコブと六つの丸い足をし、口からは糸を出しているポケモンがピカチュウを蹴ったのだ。
「ピーカ、チューーーッ!」
「ミル!」
「うわわっ!?」
吹っ飛ばされたピカチュウは直ぐに態勢を立て直し、でんきショックを放つ。しかし、そのポケモンは糸を使って回避。電気はサトシに命中する。
「ピカ!?」
「クール……ミルーーーッ!」
技がサトシに当たってしまい、ピカチュウがしまったと思ったそのタイミングに、謎のポケモンが頭にある草から無数の鋭い葉を放つ。はっぱカッターだ。
「ピカピカ……!」
「ミル!」
「ピカッ!?」
ピカチュウははっぱカッターを軽やかなステップで避ける。
しかし、謎のポケモンは一瞬の間を狙って糸を発射し、ピカチュウの額に付けると弾力を利用して素早く接近しながらぶつかる。
「痛て……んっ?」
「クール……ルルルルッ!」
「ピカピカピカーーーッ!?」
サトシの目に写ったのは、ピカチュウにかじる謎のポケモンと、ダメージを受けるピカチュウの姿だった。
「さっきははっぱカッター、今度はむしくいか!」
「ピカチュウ、振り払え!」
「ピッ……カァ!」
「ミル!」
サトシの指示に、ピカチュウは謎のポケモンの身体を掴まえると、力強くでぶん投げる。謎のポケモンは地面にぶつかるも、直ぐに態勢を立て直した。
「ピカチュウ、大丈夫か!?」
「ピカ!」
「よし! にしても、なんだあいつ……?」
相棒の無事を確認したサトシは、ポケモン図鑑で謎のポケモンの情報を調べる。
『クルミル、裁縫ポケモン。葉っぱのフードで天敵から身を隠す。また、葉っぱの服は餌が減った時の非常食にもなると言われている』
「クルミルっていうのか」
「クルミルは、葉っぱを服にしている事から、ファッションデザイナー達のマスコットとしても人気があるポケモンなんだよ」
「だから、あんなに可愛いのね!」
デントの説明に、アイリスは納得した様だ。
「面白いな、お前! けど、なんでいきなり攻撃して来たんだ?」
「多分、進路途中にいたから、邪魔になって退けようと攻撃したのかな?」
「ミルミル」
正解と、クルミルは頷いた。特にピカチュウに敵意があるからとかではない。
「だったら、言ってくれたら退いたのに」
「クルミール」
そんな間無かったしと、クルミルは答えた。第一、知らない相手にわざわざ退く必要もない。バトルになろうが、倒せば良い。そうクルミルは考えていた。かなり気が強い性格だ。
「気の強いな。気に入ったよ、お前。ゲットしたくなったぜ」
不意打ちに隙があったとはいえ、ピカチュウにダメージを与えた。そこから見ても、このクルミルは中々の実力の持ち主だと分かる。それにこの気の強さ。
サトシは気に入った様で、ゲットしようとモンスターボールを取り出す。
「クルミーーールッ!」
「うわわっ!?」
「いとをはくだね」
その瞬間、クルミルが糸を吐き、サトシをぐるぐる巻きにして雪だるまならぬ、糸だるまに状態にする。
「やるな、クルミル! ますます気に入ったよ!」
「クルミル?」
やる気?と問い掛けるクルミル。相手がその気なら、こちらも応戦するまで。
「ピカ!」
「ありがと、ピカチュウ」
アイアンテールで糸を破ってもらい、自由を取り戻すとバトルに入る。
「ピカチュウ、でんこうせっか!」
「ピッカァ!」
「クル! ――ミル!?」
初撃はかわしたものの、素早さ故に次の突撃はかわしきれず、クルミルは吹き飛ぶ。
「ミルー……!」
以外とやるなとクルミルはサトシとピカチュウを睨む。しかし、自分には探し人がいる。何時まで構っている余裕は無い。クルミルは背を向けると糸を使い、サトシ達から離れていく。
「待て――あれ?」
「ピカ?」
「サトシ?」
「どうしたんだい?」
クルミルを追おうとしたサトシだが、ふとその足が止まる。
「なんだろう……。見られてる?」
「えっ、見られてる?」
「うん……」
何と無くだが、『誰か』に見られている気がしてならないのだ。
「辺りには、誰もいないようだけど……」
辺りを見渡すも、姿や気配は全くない。
「……うーん、気のせいかな?」
「きっとそうよ。それよりも、クルミルはどうするの?」
「探すとなると、奥深くに移動することになるよ」
「だよなあ……」
サトシとしてはクルミルを追いたいが、その為にデントやアイリスに迷惑を掛けるのは避けたい。
「……とりあえず、道まで戻るよ」
渋々、クルミルの追跡は諦め、森を出るための道に戻ることにした。アイリスやデントも続く。
「……」
しかし、サトシの感じた視線は気のせいではなかった。彼等がさっきいた場所からかなり離れた所に、一匹のポケモンがいた。
四足歩行のポケモンで、爽やかな草原の様な綺麗な緑色の細くしなやかな身体を持ち、凛とした佇まいをしている。
並々ならぬ迫力を感じるも、同時に、ヤグルマの森に同化しているのではないかと思える程に、そのポケモンは静かに佇んでいた。
「……」
そのポケモンは少しした後、微かに吹いた風と共に、静かにその場を後にした。
「すごく大きな木だなー」
「うん、樹齢百年は超えてるかも……」
目の前に見える大樹に、サトシ達は思わず圧倒される。
アイリスの判断、と言うか勘や森の声を元にヤグルマの森を進んでいた。
しかし、中々に出れずにいるどころか、崖に着いたりしていたので、大きな木の上から捜索すると言う事でこの木のある場所に来たのだ。
「ちょっと行ってくるね」
「俺達も」
「ピカ」
「気を付けてね」
一足先にアイリス。その次にサトシとピカチュウが大樹を登る。ある程度の高さまで出ると、周りを確かめるが、出口は見えない。
「もっと上から見た方が良いかも」
「じゃあ、そうし――うわっ!?」
「な、なにあれ!?」
サトシとアイリスが見上げると、明らかに葉や蔓とは違う緑の塊があった。
「サトシ、アイリス! どうしたんだい?」
「いや、なにか変な物がぶら下がってて……」
「……変な物?」
まさか、とデントが思った瞬間、緑の塊――マントで身体を覆っていた人物が降りてきた。
その人物は、緑色の瞳に癖のある茶髪が特徴で、蝶の形をしたバックルや首に巻いた赤いスカーフ、赤と緑の縞ズボンの格好をした青年だ。
「しー、静かに。森にいるポケモンが驚いちゃうじゃないか」
謎の人物に注意され、サトシとアイリスは出そうになった声を抑える。また、今の声でデントは確信を抱いた。
「この声……やはり、アーティさん!」
「ん? この声はデント君?」
「デント? この人と知り合いなの?」
「知り合いもなにも、その人はヒウンシティにあるヒウンジムのジムリーダー、アーティさんだよ」
「……えぇ!? この人がヒウンジムのジムリーダー!?」
「こら、静かにと言ったよ?」
目の前の人物が次のジムのジムリーダーと知り、また思わず大声を出してしまうサトシ。アーティにまた注意され、済みませんと頭を下げる。
「とりあえず、ここじゃなくて降りて話そう」
「あっ、はい」
アーティの言葉に従い、サトシ達は大樹から降りた。
「じゃあ、もう知られてるけど自己紹介と行こうか。ヒウンジムの芸術的な虫使いジムリーダーにして、天才アーティストのアーティだよん」
自己紹介するアーティだが、何故かポーズを取っていた。
「自分で芸術的とか、天才って言っちゃうんだ……」
「あはは……相変わらずですね、アーティさん」
自分で天才や、芸術的と言う事に微妙そうな表情のアイリスと、全く変わらないアーティに苦笑いのデント。
とはいえ、自己紹介された以上はこちらもするのが礼儀。サトシとアイリスは簡単に自己紹介を済ませた。
「サトシ君とアイリス君か。しかし、デント君。君がどうしてここに?」
「僕は今、自分を見つめ直そうと一人のトレーナーとして彼等と旅をしているんです」
「ほう、三人で旅を。良いね、今しかない少年少女達の熱き日々の旅……。良い! これぞ、正しく純情ハート!」
気持ちが昂ったのか手を広げ、サトシ達の事を誉めるアーティ。
「おぉ、この感じ。今なら良い作品が書けるかもしれない!」
「と、ところでアーティさんはどうして森に?」
アーティが背中のスケッチブックや筆記具を取り出し、書こうとするも、彼のペースのままでは話が長くなると感じたアイリスの疑問に、意気消沈した様になる。
「その様子……。おそらく、また創作に行き詰まった、とかですか?」
「正解だよ、デント君……。最近、インスピレーションが全く出ず、純情ハートが曇ってしまったんだ……」
「純情ハート? そう言えば、さっきも言ってましたけど、なんですかそれ?」
デントが問い掛けると、見事に的中していた。一方、サトシはさっきも言っていた、純情ハートなる言葉が気になっているようだ。
「上手く表現出来ないけど、僕の感性みたいなものだよん」
「へー……」
「にしても、天才でも行き詰まるんだ」
「そりゃあ、天才の僕でも時にはそんな事はあるさ。だから、このヤグルマの森のポケモン達の様に、自然の中で身を置けばインスピレーションが得れると思って、ここ数日ほどいるんだよん」
「それが、純情ハート、って事ですか?」
「ピカピカ?」
「その通り! 芸術には穢れなき純粋の想いが必要なんだよん」
それがアーティの持論の様だ。一々構えを取るのは不明だが。
「あの、そもそも森で生活がどうしてインスピレーションに……?」
「まぁ、それは人によりけりだけどね。森の中での自然な生活が、感性を刺激するというか、この大自然の凄さ素晴らしさを改めて理解出来るというか、森と一体化出来るというか、とにかく多くの事が新鮮に映るようになるんだよん」
「へー……」
変わった感じではあるものの、言っている事の深さは理解出来たのか、アーティの言葉に三人は深く感心した様子だった。
「なんか、分かる気がします!」
「キバキバ!」
「俺もなんとなく――」
「クルミールーーーッ!」
「どわぁああっ!?」
分かるとサトシが言おうとしたその時、何かに蹴られた。
「クルル」
「このクルミル、さっきの!?」
「ピカ!」
「えっ!?」
サトシが見る。この気の強さが伝わる表情と言い、さっきの蹴りと言い、確かにさっきのクルミルだった。
「おや、知ってるのかい?」
「俺達、さっき入口で出会ったんです」
「クル!」
「うわっ!?」
クルミルはジャンプし、サトシの頭を踏み台にして更にジャンプしてアーティの肩に乗ると、そのまま近くでぶら下がる枝にある葉を食べ始めた。
「クルクル……」
「そうだったのか。こいつは気の強い性格だけど、可愛いやつなんだよ」
「もしかして、アーティさんのポケモンですか?」
近くにご飯があるとはいえ、気の強いクルミルがアーティの肩の上で笑顔で食べている。
それだけでかなりの仲だと分かるし、彼の手持ちだと考えても不思議ではない。
「いや、こいつは野生さ。だからこそ、一緒にいることで色々な事が見えてくるんだけどね」
言っていることは変わっているが、良い人なのだろう。アーティの言動からそれが分かる。
「森のポケモンの生活……面白そうだなー」
「ゲットする前に、そのポケモンを詳しく知るのは重要な事だ。君達もこいつのこと、知ってみたくないかい?」
「お願いします!」
「あたしも!」
「ピカ!」
「キバ!」
アーティの言う通り、ゲットする前にそのポケモンを把握して置くことは、出来るか出来ないかは別として確かに大切だ。良い経験にもなる。
サトシ自身、クルミルをもっと知りたいため、その提案を受けた。アイリス達は純粋な好奇心からだ。
「じゃあ、今日はここでキャンプだね。僕は食事の準備をするよ」
という訳で、早速デントは料理の準備を始め、サトシ達もクルミルを知る為の行動を始めようとするも、その前にアーティが告げる。
「さて、今から僕達はクルミルと一緒に行動するわけだけど、その前に挨拶だ」
「挨拶?」
「誰と?」
「勿論、クルミルにさ」
アーティはそう言うと、しゃがみこんでおでこを向ける。クルミルは彼のおでこに、笑顔で二つのコブを軽く当てる。
「クルル」
「クルミルのこのコブは、感覚器官とも呼ばれていてね。触れる事で識別するんだ。だから、こうして触れ合うのが仲間への挨拶という訳さ」
サトシとアイリスが感心しながら聞いていると、ピカチュウが前に出て、おでことコブを触れさせる。次にキバゴ、アイリスもだ。
「最後は俺! クルミル、よろしくな!」
「――ミル!」
「どわぁ!?」
最後の自分と、帽子を外しておでことコブを合わせようとしたサトシだが、クルミルに強烈な頭突きを叩き込まれてしまう。
「うふふふ、さっきゲットしようとしたからよ」
「クルミルー……」
「まぁ、頭突きも挨拶と言えば挨拶だよ」
「そうですか。とにかくよろしくな、クルミル」
「ミル」
サトシによろしくと言われるが、クルミルはそっぽを向く。
「気が強いなあ。あはは、もっと気に入ったよ」
「……ミル」
一瞬間があったが、その後クルミルは歩き出し、サトシ達もそれに続く。
途中、止まるクルミルにアイリスが森の声を聞いていると思ったが、実際は好みの方の葉を選んでいただけだったなどや、葉を食べて丘で寝たクルミルと同じく寝て空やその先の宇宙の広大さを感じながら、サトシ達はまた歩くクルミルに続く。
「クルクルクル……」
「沢山木の実がある」
次にクルミルが行った先は、木の実が沢山ある場所だった。
「食べて寝て、また食べるって訳ね」
「それが生きているって事の基本さ。人間の赤ちゃんだってそうだろう?」
確かにと思っていると、ガサっと茂みが音を揺れ、中からポケモンが出てきた。ロケット団のムサシが手持ちにしてるポケモン、コロモリだ。
「あれはコロモリ!」
「コロモリも食事中だったのか!」
「モリモリ!」
「近付くなって威嚇してる!」
「木の実の奪い合いになる!」
コロモリは食事を邪魔され、気が立っていた。
「モリモリモリ!」
「かげぶんしん!」
「クルーーーッ!」
無数の分身を作るコロモリ。対して、クルミルは口から吐いた糸で薙ぎ払うように分身を瞬く間に消し、実体にも当てて動きを封じようとしたが、それは避けられた。
「クルー!」
「――モリッ!」
「クル!?」
「もう一体のコロモリ!」
気の強いクルミルはコロモリに攻撃を仕掛けようとしたが、その時クルミルの背後の茂みからもコロモリが出てきた。
「モーリーーーッ!」
気を取られた隙を狙い、二体のコロモリが同時にエアスラッシュを放つ。
「クルミル!」
「クルッ!?」
「ピカッ!?」
驚きから動きが遅れ、食らい掛けたその時。サトシがクルミルを庇い、エアスラッシュを受ける。
「痛……!」
「クール……!」
「ピーカ……!」
「ま、待った! クルミル、ピカチュウ!」
「……クル?」
「ピカ……?」
コロモリに攻撃を仕掛けようとしたクルミルとピカチュウだが、サトシに止められた。
サトシは痛む身体に鞭を打って、木の実を採るとコロモリ達に差し出す。彼等も食事をしていただけ。攻撃されたとはいえ、力強くで追い払いたくはない。
「ほら。驚かせて悪かったな」
「……モリ」
二匹のコロモリはサトシから木の実を受け取り、さっさと食べると立ち去って行った。
「痛……」
「ピカ!」
「サトシ!」
「大丈夫か?」
「これぐらい、平気です」
「――クルル」
心配してサトシに駆け寄るピカチュウ達と、庇ってくれたお礼だろうか、クルミルが木の実を贈る。
「くれるのか?」
「クル」
聞いてきたサトシにクルミルは、貸しを作ったままが嫌なだけ、勘違いするなと言わんばかりにそっぽを向く。
「ありがとうな、クルミル」
クルミルからの渡された木の実をかじる。程よい甘味と酸味が合わさって、美味しかった。
「上手いぜ、クルミル」
「……クール」
お礼は言われるが、まだそっぽを向いたままのクルミルだった。
夕食にデントが作ったパスタとスープ、木の実のサラダや木の実を食べ、夜。
サトシ達は大樹の一ヶ所で寝袋を敷き、もうすぐ寝ようとしていた。
「良い眺め……ナイステイストですね」
「木の上で寝るの、初めてだ」
「ピカー」
今まで色々な地方で旅をしたが、木の上で寝ることになるのは今日が初めてだった。
「君達は、旅に出てからどれだけの発見をした?」
「発見、ですか?」
「うん。僕はねえ、幼い頃に虫ポケモンの凄さ、美しさに純情ハートを奪われて、絵を描いたり、バトルをしたり、その日々を今まで繰り返してきたんだけど、いまだに新しい発見があるんだ。本当、ポケモンの世界は不思議に満ちているよね」
「俺もそう思います」
旅をして、ポケモンに会う度に彼等について色々と体験したりはしたが、それでもポケモンについて半分も知ってるかどうか。そう思えるほどに、この世界は広く、奥深い。
「――あっ、流れ星」
ふと夜空に、光が現れて消えた。その幻想的な光景に、各々感動する。
「じゃあ、そろそろ寝ようか」
「はい。あっ、その前に……ほら、ピカチュウ」
「ピカー……」
サトシがポケットからと小さな箱から錠剤を取り出し、ピカチュウに渡す。ピカチュウはうーと苦い表情をし、苦味に耐えながら飲み込む。
「ん? 何かの薬かい?」
「はい。ちょっと不調気味で。それを良くするための」
「不調なのに、一緒にいてくれる。君達の強い絆を感じるよ。正に純情ハート!」
サトシとピカチュウの絆に刺激されるアーティだが、今日はもう遅いからか自重した。
「クルミル、お前も一緒に寝るか?」
「クル」
薬も飲ませ、サトシはピカチュウと一緒に寝ようとしたが、その前にクルミルを誘う。しかし、またクルミルはそっぽを向く。
「そっか。お休み」
嫌なら仕方ない。サトシはピカチュウと一緒に寝ようとしたが、その時クルミルが降りてくると、自分の寝袋に入る。
「へぇ、クルミルがそんなことをするなんて珍しいな」
「クルル」
「寝ようぜ。ピカチュウ、クルミル」
「クルクル」
「ピカー」
ピカチュウとクルミル。二匹の体温を味わいながら、木の上での初めての就寝を味わっていった。
「ピカピー!」
「うわっ! な、なんだ!?」
翌朝。サトシ達は爽やかな目覚めをする――かと思われたが、ピカチュウの声で突然目覚めた。
「ピカチュウ、どうした?」
「ピカピカ、ピカピー!」
「あっ!」
ピカチュウが指を指したので、下を見ると、クルミルがミネズミに連れて行かれていた。
「どうしたの?」
「クルミルがミネズミに! 助けてくる!」
理由は不明だが、連れて行かれたのだ。助けねばとサトシは寝服のまま木から降りてミネズミを追う。
「ミル? ――クル!」
途中、クルミルは揺れで目覚めたのか、起きると状況を確認。ミネズミに連れて行かれている事に気付き、糸で素早く離れる。
「ミネッ!?」
クルミルが離れてしまい、ミネズミは再度捕まえようとしたが、自分を追うサトシ達の姿を見て、自分の住処である洞窟に入る。
「洞窟の中に!」
しかし、その際サトシ達は離れたクルミルが風の影響で吹き飛び、偶々近くにいたシキジカに纏わりついた事には、距離や洞窟に入った事から気が付かなかった。
「ミネー!」
「クルミルはどこだ!?」
「ミー……ネッ!」
「ミネズミがもう一体?」
「それに体調が悪そうだ……」
洞窟に入るサトシ達だが、さっきのミネズミともう一匹、葉の上で横に寝かされたミネズミを発見する。
ミネズミはもう一匹のミネズミを守るように威嚇し、前に立っていた。
「そうか、ミネズミはお腹を壊した時、クルミルの着ている葉を食べて治す習慣があるんだ」
「じゃあ、クルミルを連れて行ったのは、仲間の為に……」
一刻も早く治したかったために、強引に連れ去ってしまったのだろう。
「ミネズミ、僕はその子を治せる薬を持っている。助けさせてはくれないだろうか?」
「ミネ……」
ミネズミは仲間をチラッと見てから少し考える。そして、敵意の無さから危害を加えるつもりは無いだろうと判断し、アーティに頼んだ。
「ありがとう。ミネズミ、薬だよ。少し苦いが直ぐに良くなるよ」
「……ミネ」
ミネズミはアーティから差し出された薬を苦味に耐えながら飲み干す。
「ズミー?」
「ミネー」
薬を飲み、少しずつ良くなったらしく、ミネズミ達は笑顔になる。
「良かったな、ミネズミ」
「ミネー!」
「ズミ」
二匹のミネズミは感謝の気持ちを込め、ありがとうと告げる。
「ところでミネズミ。クルミルはどこだ?」
クルミルを助けるためにミネズミを追ったのだが、この洞窟にはいないのが妙だ。
「ミ、ミネー……」
「もしかして、途中で自力で脱出したのかな?」
「ミネ」
気まずそうなミネズミに、アーティは自力で脱出したと推測。ミネズミがコクンと頷く。
「じゃあ外か。探そう」
「はい。ミネズミ、元気でな!」
「ミネー!」
ミネズミの見送りを受けながら、サトシ達は洞窟を出る。
「さて、クルミルはどこに――」
「シキーーーッ!」
「ミルーーーッ!」
「シキジカ!?」
「それに、あれは……!」
「クルミルよ!」
外に出たサトシ達の目に入ったのは、糸が首に絡まって暴れるシキジカと、引っ掛かったせいでぶんぶんと振り回されるクルミルだった。
「シキキーーーッ!」
「ミルミルーーーッ!」
「クルミル!」
苦しさから、シキジカは暴走。クルミルを連れたまま全力で走ってしまう。サトシ達も追いかける。
「……?」
その際、この騒ぎを昨日サトシ達を見ていたあるポケモンが聞き付け、走る彼等を視認する。
(あれは昨日の……?)
それに、この森で度々見掛ける人間もいた。彼等は焦った様子で走っている。
「……」
そのポケモンはサトシ達に気取られぬよう、静かにかつ風の様に素早く走り出す。
「クルミル!」
「ミル?」
サトシの声を聞き、クルミルは幾分か冷静さを取り戻す。
「シキジカ、糸を外すから大人しくしてくれ!」
「シキジーーーッ!」
「ダメだ! パニックになってて聴こえていない!」
サトシは制止を呼び掛けるも、シキジカは苦しさからパニックになっているせいで届いていない。そのまま走る。
「不味い! あれは……!」
「断崖絶壁!」
このままでは、クルミルやシキジカが落ちてしまう。
「クルミル! 俺の腕にいとをはくだ!」
「クル!? ――ミルーーーッ!」
サトシの言葉にクルミルは反応、糸を吐く。サトシはその糸を自分の腕に付けさせ、クルクルと二重程に巻き付けた。
「こっちに来い、クルミル!」
「ミルーーーッ!」
シキジカは崖の向こうに着地し、クルミルはサトシの方に引き寄せられて無事に保護――と思いきや、またも風が吹いて糸を千切ってしまい、クルミルは崖に落下してしまう。
「クルミルーーーッ!」
崖に放り出されたクルミルに、サトシも崖に飛び込む。
「追い掛けよう!」
「はい!」
サトシとクルミルを追うアーティ達。一方、サトシ。下には川が流れていたので怪我はない。
「クルル……!」
「クルミル、今助ける! ――ッ!?」
あたふたとするクルミルに近付こうと泳ぐサトシ。すると、その先が見えた。
「滝!?」
そう、川の先は滝になっていたのだ。このままでは、自分もクルミルも落ちて滝壺で溺れてしまう。
「関係あるか! クルミル!」
だが、サトシは迷わず泳ぎ、クルミルをキャッチする。しかし、同時に滝から落ちてしまう。
「――ハハコモリ、いとをはくだ!」
「ハハ~ン」
そこに、アーティがモンスターボールからあるポケモンを出す。スマートな身体に、二本の触覚。一枚の葉を半分にしたような手に、クルミルのように葉っぱを纏った様な姿をしたポケモンだ。
「ハハ~ン!」
そのポケモン、ハハコモリはクルミルと同じ様に口から糸を吐き出してサトシの身体に巻き付ける。
「ハッハ~ン!」
そして、手と身体を使ってサトシ達を引っ張り、滝からの落下を阻止して岩場まで連れ戻した。かなりの力の持ち主であり、糸もクルミルのより強靭だ。
「やった!」
「無事で何よりだよ……」
「ピカピ!」
「ありがとう」
サトシとクルミルは無事救出され、サトシの身体から糸が外れる。相棒の無事に、ピカチュウが駆け寄る。
「クルミル、無事か?」
「クルル」
「良かった。けど、服がぼろぼろになっちゃったな……」
シキジカに振り回されたのが原因か、クルミルの着ている服がぼろぼろになっていた。
「それなら、僕達に任せてくれ」
「ハハ~ン」
「そのポケモンは……」
『ハハコモリ、子育てポケモン。クルミルの最終進化系。口から出す粘液性の糸を両手の先に付けて葉っぱを縫い合わせ、服を作る』
「へー……」
「クルル」
アーティの隣にいるハハコモリの情報を得て、サトシは興味深そうに呟き、クルミルは笑顔を向けていた。
「さて、服になる葉を探さないとね。着いて来てくれ」
「はい。……あれ?」
皆とクルミルの新しい服の材料を探しに行こうとしたサトシだが、『それ』を感じてその足が止まる。昨日と同じ様に。
「ピカ?」
「どうしたんだい?」
「この感じ……まただ……」
「また?」
辺りをキョロキョロしながら気になる事を行ったサトシに、アーティは尋ねた。
「あっ、その……昨日もこんな感じがあったんです。誰かに見られてるような……」
「サトシ、昨日と同じ?」
「うん……」
サトシ以外の全員が辺りを伺うも、影は愚か、気配すら全くない。
「やっぱり、気のせいじゃないの?」
「だけど、同じ事が二日続けて起きるのも変だよ」
「確かにね。うーん、気にはなるけど……今はクルミルの服を作ろう」
「そうですね」
もしかしたら、アイリスの言う通り勘違いかもしれない。それに、今はクルミルの方が大事。サトシは皆と服の材料を探しに歩く。
「……」
そんな彼等を、突然現れたそのポケモンが岩場から見下ろしていた。そして、そのポケモンは直ぐに姿を消した。
「うん、この葉っぱが良い。ハハコモリ、これでクルミルの新しい服を作ってくれ」
「ハハ~ン」
森の中で手頃な葉っぱを見つけると、ハハコモリは手でカットしてから図鑑の通り、口から出した糸を手に付けて葉っぱを縫い合わせていく。
「ハハ~ン、ハハハ~ン」
完成した新しい服を、ハハコモリはクルミルに着せた。
「クルル~」
「ばっちりだな、クルミル!」
新しい服は、クルミルの身体に見事にフィットしており、クルミルは上機嫌に回っていた。
「んー、それにしても、危険を省みずにクルミルを助けに行った君の純情ハートには、思わず心が打たれたよ」
「いや、そんなー」
アーティにそう言われ、サトシは照れ臭そうだ。
「サトシ、その想いはクルミルも同じ様だよ」
「えっ?」
「――クル! クルルル~」
クルミルはピカチュウが乗ってない方のサトシの肩に乗ると、頬にスリスリしていた。
「なぁ、クルミル。俺と一緒に来るか?」
「クル!」
サトシの勧誘を、クルミルは快く引き受けた。彼なら良いと、認めたのだ。
「よし、モンスターボール!」
「クル!」
クルミルに軽くモンスターボールを当てる。モンスターボールはクルミルを中に入れると、数度揺れてパチンッと鳴って止まった。
「クルミル……ゲットだぜ!」
「ピッピカチュウ!」
こうしてまた一匹、サトシの仲間が増えたのだった。
「サトシ、それで七体目じゃないかい?」
「えっ? えーと、ピカチュウ、マメパト、ミジュマル、ポカブ、ツタージャ、ズルッグ……。あっ、本当だ」
クルミルをゲットしたことにより、手持ちが七体になっていた。
「七体になった以上、預けないとね」
「このままってのは……ダメ?」
「まぁ、無理じゃないとは思うけど……」
このままが良いと言うサトシに、デントは苦笑い。ただ、極稀にだが七体以上ポケモンを持つトレーナーも存在する。
勿論、一度のバトルに出せるのは六匹までだし、世話も大変になるが。
「まぁ、それは後で決めたらどうだい? 幸い、この先にはポケモンセンターがある」
「そうします」
ポケモンセンターでアララギと話し、どうするかを決めれば良い。アーティのアドバイスを頷いたサトシはクルミルを出す。
「クル!」
「これからよろしくな、クルミル」
「クルル!」
クルミルと笑顔で笑っていると――不意に、サトシはまた『それ』を感じた。
「また……!」
「また視線を?」
「うん、それに……」
前の二回よりも、視線を強く感じるのだ。大体ではあるが、方向が分かる。
「あっちからだ!」
「ピカ!?」
「クル!?」
「サトシ!?」
「後を追おう!」
「はい!」
走り出すサトシの後をクルミル達が追う。森の中を全力で走るサトシだが、途中で止まる。
「今度はこっちか!」
途中で感じる視線の向きが変わったのだ。サトシはこの瞬間、自分か自分達を見る『何か』がいる事を確信する。また走り、何度も動く視線の向こうを追う。
「ち、ちょっと! そんなに走り回ったら迷うわよ!」
「いや、この方向は出口からはそんなに離れていない」
「そう誘導されているって事ですか?」
「多分ね。にしても……」
一体、何者がサトシを見つめているのだろうか。そして、その目的は何なのだろうか。それが一番引っ掛かる。
「誰なんだ……!?」
まだ見ぬその存在に、困惑と――期待を抱きながらサトシは走り続ける。すると、途中で視線が動かなくなった。
その十数秒後、サトシはある場所に着く。それはある程度の大きさの広場だった。同時に、目に写った存在を見て、サトシの足が止まる。
「ミル~。……クル?」
「サトシ。もうなんなのよ?」
「……サトシ? どうしたんだい?」
クルミル、次に着いたアイリスが話し掛けても、サトシは何も言わない。デントが聞いてもだ。
「なにかいるの、かい……!?」
広場に着いた、全員の目が見開く。彼等の視線の先には、段差から彼等を静かに見下ろす一匹のポケモンがいた。
「な、なにあのポケモン……!?」
初めて見るポケモンに、アイリスは唖然とする。いや、それだけではない。そのポケモンが発するただならぬ迫力に、圧されていたのだ。それは彼女以外の全員も同様だ。
「こ、この……この、ポケモンは……!」
「まさか、出会してしまうなんてね……!」
「デント、アーティさん、このポケモンを知っているんですか……?」
二人の驚愕振りに、サトシは尋ねた。このポケモンについてを。
「知ってるよ。僕が知らない訳がない……! だって、このポケモンは僕の憧れなんだから……!」
「デントの……憧れのポケモン?」
「……サトシ、このイッシュ地方には、ある異名を持つ三匹のポケモンがいるんだ。そして、目の前のこのポケモンはその内の一体……! 聖剣士と呼ばれし、伝説のポケモンの一体――草原ポケモン、ビリジオン!」
「で、伝説のポケモン!?」
「ビリジオン……!」
伝説の聖剣士、その一体が今、彼等の前に姿を現した。