ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ   作:ぐーたら提督

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Cクラスのソムリエール

「皆、新しい仲間のクルミルだ。仲良くしてくれよな」

 

「クルル」

 

 ヤグルマの森でクルミルをゲットしてから一日。サトシはピカチュウを含めた手持ちのポケモン達にクルミルを紹介。クルミルもよろしくと言う。

 

「ポーポー」

 

「ミジュミジュ」

 

「ポカポカ」

 

「タジャ」

 

 その内、マメパト、ミジュマル、ポカブ、ツタージャはこちらこそよろしくと返す。

 

「……ルッグ」

 

 しかし、ズルッグは間を置きながらよろしくとは言ったものの、プイッと顔を反らす。

 

「クル?」

 

「あー、クルミル。ズルッグは最近生まれたばかりなのと、ちょっと強情なんだ」

 

「クル~」

 

 なんかしたかなと思ったクルミルだが、サトシの理由に納得すると、ズルッグに近付く。

 

「……ル、ルグ?」

 

「クル」

 

「ルッグ!?」

 

 クルミルは頭のコブを、ズルッグのおでこにくっ付ける。

 

「ズルッグ、クルミルは頭のコブを相手のおでこに当てるのが挨拶なんだ。仲良くしようって言ってるんだよ」

 

「クルル!」

 

 その通りと、クルミルは笑顔で告げる。

 

「ル、ルッグ。……ルグ」

 

 一方、ズルッグは困った様子。しかし、挨拶はされたので、しばらく迷った後に考えとくとだけ返した。

 クルミルは分かったと言うと、他のポケモン達にもコブをおでこに付けて挨拶していく。

 

「クル~」

 

「ポー」

 

「ミージュ」

 

「カブ!」

 

「タジャ」

 

 改めて挨拶され、四匹はどうもと返す。

 

「じゃあ、これで紹介は終わり。次に毎日の練習。頑張ってくれ」

 

 六匹は声を上げて頷くと、走り込みを始めた。

 

「クルル?」

 

「日々の練習。体力は必要だからな」

 

「クルル~」

 

 疑問を抱いたクルミルに、サトシは説明。クルミルはなるほど~と納得した。

 

「クル、クルル」

 

 じゃあ、やるかと、クルミルもピカチュウ達の後を追うべく、走り出した。

 

「頑張れよー」

 

 七匹のポケモン達の走り込みを、サトシは遠くから応援。更に他を見ながらクルミルも観察する。

 

「クルクルクル……!」

 

「結構な速さだね」

 

「俺もそう思う」

 

 クルミルは悔しく思うズルッグを軽く追い越し、マメパト、ミジュマル、ポカブとの距離をほんの僅かずつだが縮めていた。

 

「――終了! 皆、戻ってくれ」

 

 サトシの終了の合図を聞き、ポケモン達は先に休めていたズルッグと一緒にサトシの元に戻って来る。

 

「どうだ、クルミル? 疲れたか?」

 

「クルル!」

 

 まだやれると、クルミルは小さな胸を張る。

 

「やるなあ。じゃあ、技の練習もするか?」

 

「クル!」

 

 クルミルが強く頷いたので、サトシは続いて技の練習にも入る。

 

「確か、使えるのはいとをはく、むしくい、ぱっぱカッターと……」

 

 とその前に、前に使った技を思い出しながら、サトシは図鑑でクルミルの他の技を調べる。

 

「たいあたり。これで全部か。えーと、的は……」

 

 使える技を把握し、サトシは技の練習の為の的を探す。使えそうな木の棒が幾つも転がっていた。それを広う。

 

「よし、クルミル。先ずはたいあたり!」

 

「クールッ!」

 

 サトシが木の棒を投げ、クルミルがたいあたり。木の棒は木っ端微塵に砕け散る。

 

「良い威力だ! じゃあ、次はむしくい!」

 

「クルルルッ!」

 

 木の棒を素早くかじり、バラバラにする。

 

「はっぱカッター!」

 

「クルル!」

 

 

 草の葉が、木の棒を細切れにする。

 

「いとをはく!」

 

「クルーーーッ!」

 

 放り投げた木の棒に、吐いた糸で見事にぐるぐる巻きにする。

 

「うん、良いぞクルミル!」

 

「クル!」

 

 えっへんと、胸を張るクルミルに、むーと対抗心を剥き出しにするマメパト、ミジュマル、ポカブ、ズルッグ。四匹は負けてられるかと、技の練習に励む。

 

「皆も頑張れよ! ズルッグは鍛えるのは勿論、特にミジュマルとポカブはしおみずとねっぷうを完成させないとな」

 

「ズルッグ!」

 

「ミジュ!」

 

「カブ!」

 

 シッポウシティのバトルクラブでミジュマルとポカブが得た新技は、まだ未完成。しっかりと仕上げればならない。

 

「――ポーーーッ!」

 

「おっ、良い威力。この分だと、マメパトが一番速く仕上げそうだな」

 

 一方で、同じ日に取得したマメパトの新技だが、こちらはミジュマルやポカブよりも進んでいた。その技が持っている技の威力の高い版に近いからだろう。

 

「ミジューーーッ!」

 

「カブーーーッ!」

 

 マメパトに遅れは取らないと、技の鍛錬をしていくミジュマルとポカブ。ズルッグも精を出していた。

 

「クル~ル」

 

「気に入ったか?」

 

「クル」

 

 うんと頷くクルミル。良い仲間になれそうだと感じていた。

 

「じゃあ、クルミルも頑張ろうぜ」

 

「クル!」

 

「それと皆、今日から別の練習もするからよく見ておいてくれ!」

 

 この練習とは、カウンターシールドの事だ。そろそろしても問題ないと判断したのだ。

 サトシの声に、六つの声が返す。そして、新たに増えた一匹と共に、ポケモン達はトレーニングに励んでいった。

 

 

 

 

 

「なんだ、あれ?」

 

 朝の鍛錬も終わり、ヒウンシティに向かっていたサトシ達だが、その途中に大きな建物が写る。

 

「これはフレンドリィショップだね。それも、新規オープンしたばかりの様だね」

 

「開店セールやってる!」

 

「入ってみようか!」

 

 色々と買えるフレンドリィショップの開店セール。時間は掛かるが、それだけの価値は有りそうだ。サトシ達は店内に足を踏み入れた。

 

「うわー」

 

「へー」

 

「すっげぇ!」

 

 フレンドリィショップの中は広く、それだけで多種多様の品があると分かる。

 

「目移りしちゃう~」

 

 アイリスは早足で奥に向かい、サトシとデントは周りをしっかりと見ながら歩く。

 

「タイプ別のポケモンフーズに薬、他にも色々あるなあ」

 

「うん、フレンドリィショップは大体の物が揃っているのが特徴だけど、それにしてもここは広いよ」

 

 これほどの規模のフレンドリィショップは、デントも珍しい様だ。

 

「あぁ~……! 綺麗~……!」

 

「キバ~……」

 

 アイリスは女の子だけあって、宝石類やアクセサリーのコーナーに行っていた。

 

「色んなアクセサリーがある……!」

 

「あら、可愛いキバゴちゃん」

 

「えっ?」

 

 色々と見るアイリスとキバゴに、女性の店員が声を掛ける。

 

「そのキバゴちゃんにはこれが似合いそう」

 

 店員が小さな箱から取り出したのは、綺麗な宝石だった。

 

「このドラゴンジュエルを持たせれば、一つのバトルに一度だけドラゴンタイプの技の力を高める事が出来るのよ」

 

「へぇ……」

 

「キバ……」

 

 ドラゴンタイプの技を威力を高める道具を前に、アイリスとキバゴは興味深そうだ。

 

「でも良いや」

 

「キババ」

 

 しかし、アイリスとキバゴは断った。今覚えているドラゴンタイプの技はりゅうのいかりのみでそれも未完成。そんな状態でドラゴンジュエルを持たせても危ないと判断したのだ。

 

「そう残念。他にも良い品があるから、ゆっくり見ていってね。――あら?」

 

 邪魔や苛立ちにならないよう、アイリスから離れようとした女性店員だが、その時にサトシとピカチュウが目に入る。

 

「そこのお客様」

 

「ん? ……俺?」

 

 呼ばれたので、サトシは女性店員に近付いた。デントもだ。

 

「はい。そのポケモン……ピカチュウですよね?」

 

「はい。そうです」

 

「やっぱり! こんな所でお目にかかれるなんて」

 

 イッシュ地方にはいないピカチュウに、女性店員はテンションを上げていた。

 

「あっ、それはともかく……そのピカチュウちゃんに、でんきジュエルはいかがですか? 一回のバトルに一度だけ、でんきタイプの技の威力を引き上げる事が出来ますよ」

 

 女性店員はさっきと違う、黄色の宝石をサトシに見せる。

 

「へー、そんな道具が……でんきタイプだけですか?」

 

 様々なタイプのジュエルがあるなら、それも是非とも見てみたい。

 

「勿論、ございますよ。全タイプ、十七種のジュエルです」

 

「うわあー……!」

 

 女性店員がケースを開く。ノーマル、ほのお、みず、でんき、くさ、こおり、かくとう、どく、じめん、ひこう、エスパー、むし、いわ、ゴースト、ドラゴン、あく、はがね。全部で十七の異なる色のジュエルが並んでいた。

 

「これは圧巻だね……」

 

「すっごく綺麗!」

 

「ちなみに、全十七種類購入セットが存在します。開店セールと割引の重ねがけのお買得ですよ?」

 

「へー、値段は――いいっ!?」

 

 全タイプのジュエルセットの値段を見て、サトシは驚く。そこにはとんでもない数の値が表示されていた。

 

「こ、これでお買得……!?」

 

「まぁ、全種類でジュエルも一級品の様だから、妥当……いや、この値段は寧ろ良心的とも言えるけど……」

 

「それでも無理よ! こんな値段!」

 

「一つだけなら、この値段ですが」

 

 全タイプは無理だと理解した女性店員が、一つだけの値段を話すも、それでも高い。

 

「すみません、諦めます……」

 

 買えなくはないが、食料や薬が買えなくなる。諦めるしかなかった。

 

「残念です。機会があれば購入してください」

 

 はいと引きながら言うと、サトシはその店から離れて他の場所を見ていく。すると、人だかりが見えた。

 

「なんの行列だろう?」

 

「ピカ?」

 

「あれはソムリエショップ。ポケモンソムリエが、豊富な知識や経験でポケモンとトレーナーの相性診断、より良い仲になるようにアドバイスをしてるんだよ」

 

「デント以外にもいたんだ」

 

「そりゃそうさ。ポケモンソムリエにはランクがあって、ポケモンソムリエの試験に合格すると先ずは公認のCクラス。そこから経験や実績を積むことで、B、A、そして、その上で最高のSクラスがあるんだ。勿論、上に行けば行くほど数は少ない。あの店のように相性診断などをするにはAクラスが最低条件だよ」

 

 出鱈目な相性診断をして、無茶苦茶な結果をなるのを防ぐためだろう。上位の人だけと言うのも納得出来る。

 

「ちなみに、僕はAクラスだよ」

 

「デントならそれぐらいだと思ったよ」

 

 サンヨウジム戦では、自分とポケモン達がまだ始まったばかりと見抜き、その後でも色々と的確な評価を出していたデント。最低でもAだろうとサトシは確信していた。

 

「嬉しいね」

 

 サトシに誉められ、デントは笑みを浮かべる。その時、ソムリエショップの入口が開き、その店をやっているポケモンソムリエが出てきた。なんと、女性だ。

 

「女の人もいるんだ」

 

「男性だけの職業じゃないからね。当然女性もいるよ。そして、女性のソムリエはソムリエールと呼ぶんだ。それとサトシ、折角だからこの店でも相性診断やアドバイスをしてもらったらどうだい? 他のソムリエの意見も参考になると思うよ」

 

「だったら……。クルミルが良いかな」

 

 クルミルはまだゲットしたばかり。より良い仲になる為にも、助言は参考になるかもしれない。

 

「うん、良い判断だと思うよ。その間、僕はポケモンフーズやご飯の材料を買ってくるよ」

 

「分かった」

 

 という訳で、サトシは行列の一番後ろに並ぶ。

 

「結構多いな……」

 

「ピカ……」

 

 しかし、かなり人がいるため、時間が掛かりそうだった。

 

「――お客さん、お客さん」

 

「ん?」

 

「ピカ?」

 

 そんな時、奥の小さなスペースのカーテンから手が出て、自分を呼ぶ声がする。

 

「こっちにも良いソムリエールがいるよ。しかも直ぐに相性診断可能!」

 

「えっ、直ぐに見てもらえるんですか?」

 

 端から見るとかなり怪しいが、直ぐにの言葉や、純粋なのもあってサトシはそちらに反応する。

 

「ささっ、中へとどうぞ」

 

 サトシが近付くと、中から出てきたソムリエールが急かすように彼を入れ、椅子に座らせる。

 

「俺、ポケモントレーナーのサトシです。こっちは相棒のピカチュウです」

 

「ピカピ」

 

 サトシ達が自己紹介すると、目の前の紫色の髪と瞳をしたソムリエールも自己紹介する。

 

「私はカベルネ。こう見えても、ポケモンソムリエ協会公認の優秀なソムリエールなんだから」

 

 自信満々のカベルネに、最低でもAクラスなのだろうとサトシとピカチュウは思っていた。

 

「他にも、ポケモンフーズの調整やバトルの戦略、アクセサリーの選択。なーんでも聞いてちょうだい」

 

 椅子に座り、足を組ながらそう説明するカベルネに、サトシは早速話をする。

 

「俺、ポケモンマスターを目指して旅してるんです。だから、俺とポケモン達の相性を調べて欲しいんですけど」

 

「ピカチュウとのね! イッシュ地方にはいないポケモン。うーん、香りも珍しい」

 

「いや、こいつとじゃないです。既に最高だって分かってますし」

 

 顔を近付け、ピカチュウを確認するカベルネに、サトシは違うと説明した。それを聞き、カベルネはふーんと言いながら下がる。

 

「見て欲しいのはこいつです。出てこい、クルミル!」

 

「クルル!」

 

「分かったわ。早速調べて上げるわね。ボンジュール! テイスティングタイーム、シルブプレ!」

 

 カベルネはそう言うと、道具や目でクルミルやサトシを見ていった。

 

「あの、どうですか?」

 

「あなたとそのクルミルのマリアージュは……最悪よー!」

 

「えぇー!?」

 

「クル!?」

 

 頬っぺたに指を押し付けられながら最悪と言われ、サトシは思わず声を出す。クルミルもである。

 

「このクルミルの特性は『むしのしらせ』」

 

 もうか、げきりゅう、しんりょくと同じく、体力がある程度まで減った時に発動し、虫タイプの技の威力を高める特性だ。

 

「けど、あなたには『ようりょくそ』を持つクルミルの方が相性が良いんだから」

 

 ちなみに、ようりょくそは日差しが強い時にスピードが高まる特性だ。

 

「どうしてですか?」

 

「えっ、それは……」

 

 サトシとしては当然理由が知りたい。なので尋ねたが、カベルネは言い淀む。

 

「な、なによ! ポケモンソムリエ協会公認ソムリエールの言葉を疑うの!? 第一、虫ポケモンなんてそこらに幾らでもいるでしょ。さっさと私の言う通り、ようりょくそのクルミルをゲットすれば良いのよ!」

 

「そんな……」

 

「クルーーーッ!」

 

「どわっ! きゃあっ!?」

 

 このクルミルでなくてはならないのに。そう言おうとしたサトシだが、その前に酷評されて怒ったクルミルがいとをはくでカベルネの糸巻き状態にし、更にジャンプから蹴りを叩き込む。

 

「わわっ、戻れクルミル!」

 

 慌ててクルミルを戻すサトシ。同時にカベルネが糸を千切った。

 

「はぁ、はぁ……。所詮虫は虫ね! この調子じゃあ、他の手持ちはろくなものじゃないでしょ! 見てあげるわ!」

 

「いや、もう良いです」

 

 なんか怪しいと感じたのか、サトシは出ようしたが、その前にカベルネに止められる。

 

「ちょっと、あなた! ポケモンマスターになりたいじゃないの!? ポケモンとの相性を調べなきゃ、そんなの無理よ!」

 

「じゃあ……」

 

 気迫に押され、サトシは他の手持ちを出していく。しかし、どれも酷評ばかりであり、ポケモン達はクルミル同様、カベルネに攻撃していた。

 カベルネはサトシのポケモンはどれもタンニンが強すぎると評し、終いにはピカチュウにも写真で見るよりは可愛くないと言って、最後に電撃を食らった。

 

「ひっどーーーい! あなたのポケモン、全員酷すぎ! これはもう、ポケモン総入れ替えが必要ね!」

 

「そんなの納得出来るか!」

 

「ピカピカ!」

 

 大切仲間、全員総入れ替えと言われ、流石のサトシも遂に怒る。

 

「あなたはそれで良いの!?」

 

「はぁ!?」

 

「今のままじゃあ、ポケモンマスターは勿論、バッジを集めるのも無理無理無理!」

 

「――ふざけるな! こいつらを入れ替えなきゃなれないポケモンマスターなんて、こっちから願い下げだ!」

 

「えっ……」

 

 サトシの言葉に、カベルネは思わず呆然とする。

 サトシは今いるポケモン達と一緒に、ポケモンマスターになりたい。バッジもゲットしたいのだ。それなのに入れ替えては何の意味が無い。

 

「大体、こいつらのおかげでバッジもゲット出来たんだぞ! それなのにめちゃくちゃなことばかり言いやがって! もういい! 行くぞ、ピカチュウ!」

 

「ピカピカ!」

 

 時間のムダだと悟り、サトシとピカチュウは出ようとした。

 

「サトシ、どうしたのよ?」

 

「さっきから大声ばかり……」

 

 その時、カーテンが開き、アイリスとデントが見えた。

 

「聞いてくれよ、デント! 実は――」

 

「あー! あなたは!」

 

「あれ、君は……?」

 

 デントに無茶苦茶な事ばかり言うカベルネについて話そうとしたサトシだが、その前にカベルネがデントに指差した。デントもカベルネを見て、思い出していた。

 しかし、同時にカベルネの目にソムリエショップをやっているソムリエールの姿が見えた。騒ぎを聞いたらしい。

 

「そ、外に行くわよ!」

 

「えっ、ちょっと……?」

 

 慌てて外に行ったカベルネを見て、とりあえず自分達も外に行くことにした。

 

「で、デント……。カベルネと知り合いなのか?」

 

「以前、サンヨウジムに来たトレーナーだよ。結果は僕の勝ち」

 

「デント! ここで会ったが百年目! リベンジよ!」

 

「リベンジって言われても……」

 

 今の自分は一人のポケモントレーナーだ。ジム戦は出来ない。

 

「ただ負けたでも悔しいのに、尤もらしい言葉を並べて批評したでしょ!」

 

「いや、そこまで批評した覚えはないけど……」

 

「いいや、したわ! あなた、わたしのポケモンに『お前のポケモンは余程酷い環境で育ったんだな。不味い、不味すぎる! 顔を洗って出直してくるんだな、ハッハッハ!』って!」

 

「えー……?」

 

「それ、本当にデント……?」

 

 デントが言ったとは思えない悪役満載の台詞に、サトシもアイリスも何とも言えない表情だ。

 

「ちなみに、その時デントはなんて……?」

 

「確か、『君のミジュマルからは内に秘めたる奥深さは感じるものの、君を含め、まだまだ経験が足りない。もっとバトルをこなしてから再挑戦した方が良いよ。待ってるから』。だったはず」

 

「全然違うじゃない!」

 

 さっきのカベルネが言った事とは、全く当たってもいない。精々、再挑戦が顔を洗って出直しくるとちょっと似ているだけである。

 

「だから、わたしは悔しさからポケモンソムリエになって、テイスティングでめった切りにしようと決めたのよ!」

 

「話聞いてないし……」

 

 どうやら、思い込みが激しい上に、話を聞かない性格の様だ。

 

「で、先ずは資格を得るために試験を受けて、見事、ポケモンソムリエ協会公認のソムリエールになったのよ! なのに、サンヨウジムにリベンジしに行ったら、デントは旅に出ていないって言われたのよ! わたしがリベンジすることを知って逃げたんでしょ!」

 

「いや、違うよ……」

 

 自分が旅に出たのは、サトシのバトルやNとの話の中で今のままではいけないと判断したからである。

 

「それに、ここはジムじゃないからバッジを賭けたバトルは出来ないよ?」

 

「バッジなら、ゲットしてるわよ! ポッドを倒してね!」

 

 意外とやるんだなと思うサトシ。但し、カベルネがゲットしたのは再戦であり、初戦はにほんばれとからの炎技強化に水技弱体化、ソーラービームの即時発射で完膚無きまでに倒されていたが。おまけにコーンにもやられている。

 

「だから、今のわたしの目標はあなたを倒して一流のソムリエールになること。そして、有名になって、自分のソムリエショップを持つことよ~」

 

「……あれ? さっき相性診断をやったあそこって、カベルネの店じゃないのか?」

 

「……あっ」

 

 とそこで、おかしな点に気付いたサトシの指摘に、カベルネは表情を固めた。

 

「君の今のクラスは?」

 

「……Cクラス」

 

「おかしいな……。Cクラスはまだ新人。Aクラスのアシスタントしか認められてないはずだよ? もしかして、君はさっきの店のアシスタントなんじゃないか?」

 

 ギクッと、カベルネは反応する。実はその通りであり、フレンドリィショップから出たのはソムリエールに勝手な事をしたのは悟られない為だ。

 

「何れにしても相性診断なんて以ての他だ」

 

 デントの説明を聞き、サトシは騙されていた事と、あんな無茶苦茶なテイスティングばかりだった事を理解する。

 

「だから、あんな無茶苦茶な事を言ったり、総入れ替えなんて言ったんだな!」

 

 サトシの言葉に、デントは眉を潜めた。

 

「……総入れ替え? それまたおかしいね。ポケモンソムリエにはそんな権限、ないよ?」

 

「えっ、で、でも、ポケモンソムリエはトレーナーとポケモンの相性を判断してポケモンを決めるって――」

 

「それはポケモンがいない人の場合。既に持っている人の手持ちを勝手に決めたりなんかしたら、大問題になるじゃないか。第一、僕達の仕事は主は、ポケモンとトレーナーの関係を良くするためのもの。悪かったとしても、入れ替えなんて決して言わないよ」

 

 良ければ、更に良い関係になるための、悪ければ、どうしたら良い関係になるかのアドバイスをするのが、仕事なのだ。

 デントとのバトルの時の指摘も、あくまで良い関係にするためのもの。入れ替えなど、言語道断である。

 

「……おい、なんか言うことあるよな?」

 

「な、なによ! 他のポケモンソムリエが見ても、あなたとポケモンの関係は最悪だってそう言うわよ!」

 

「あ~、だからサトシ怒ってたのね」

 

 その上に総入れ替えしろなんて言われれば、そりゃ怒る訳だと、アイリスもデントも納得していた。

 

「……やれやれ、君はサトシと彼等の関係の素晴らしさをまるで理解していないね。真っ直ぐだからこそ周りを惹き付ける情熱と、個性あるポケモン達のハーモニー。これを見抜けないようじゃあ、Cクラス以上になるなんて到底不可能だよ」

 

「な、なんですって!? わたしの限界がここだと言うつもり!?」

 

「あぁ、基本すら物にしてなく、自分勝手なテイスティングしか出来ない君じゃあ、この先に進むなんて絶対に出来ないね」

 

 カベルネにこの先はない。デントははっきりそう断言した。

 

「……だったらバトルよ! 今のわたしの実力があなた以上だって証明してあげるわ!」

 

「……ふむ」

 

 バトルと言われ、デントは少し考える仕草を取る。

 

「なに? 怖じ気付いたの?」

 

「いや。バトルは受ける。但し――サトシも参加させてほしい」

 

「俺も?」

 

「そう。僕とのバトルの後に、サトシともバトルしてもらう。この条件を飲むなら構わないよ。あぁ、勿論サトシが嫌ならこれはなしにしよう」

 

 自分も参加と言われ、少し戸惑ったサトシだが、直ぐにデントの思惑を理解した。

 バトルの中で、自分とポケモン達との関係を見せる機会をくれたのだと。

 

「俺は良いぜ」

 

「わたしも構わないわ。あなたにもデントにも勝って、わたしのテイスティングが正しいって証明してあげる!」

 

「無理だね。君じゃあ、サトシには勝てない。勿論、僕にも」

 

 確信を持って、デントはそう断言した。

 

「……それがあなたの思い込みだってこと、直ぐに証明するわ!」

 

「そう。あと、君の手持ちの数は?」

 

「四体よ」

 

「なら、ルールは二対二のバトルを二度行おう」

 

 これなら、自分もサトシも同じ数でバトルが出来る。

 

「分かったわ」

 

 カベルネも受け、先ずはデント対カベルネのバトルになる。

 

「ポケモンソムリエ同士のバトルか。どんなバトルになるんだろ?」

 

「面倒くさそうな気はするけどね」

 

 カベルネの怒りは一先ず置き、ポケモンソムリエ同士の勝負を気にするサトシ。その隣では、アイリスが微妙な表情で面倒くさそうと告げる。

 

「行けー、フタチマル!」

 

「タチ!」

 

 カベルネが繰り出したのは、ミジュマルの進化系、フタチマルだ。

 

「あの時のミジュマルが進化したんだね」

 

「水タイプには草タイプが有利よね」

 

「タイプ相性で考えれば、草タイプのヤナップだよな」

 

「――行け、僕のポケモン!」

 

「イママイ!」

 

 しかし、アイリスとサトシの予想に反し、デントが繰り出したのは相性の悪いイシズマイだった。

 

「ふん。ボンジュール、シルブプレ! あーら、水タイプのフタチマルに石と虫タイプのイシズマイをぶつけるなんて、あなたの腕もコルクの栓を抜く前に腐っちゃったのかしら?」

 

「――イッツテイスティング! そういう言葉は、僕とイシズマイの強さを見てから言ってもらおう。それに、君とそのフタチマルをホストテイスティングさせてもらうよ」

 

「言って置くけど、わたしのポケモンの味わいは軽くないわ。熟成されたポケモンの強さ、見せて上げるわ。フタチマル、みずてっぽう!」

 

「チマーーーッ!」

 

「イシズマイ、まもる」

 

「マイ!」

 

 迫る水流を、イシズマイは緑色のオーラで防ぐ。

 

「れんぞくぎり!」

 

「イシズマイ、からにこもる」

 

 フタチマルが両手のホタチで連続で斬りかかるも、防御を固めたイシズマイのガードに効果がない。

 

「防御を固めてばかりね それしか出来ないのかしら?」

 

「だったら、先ずはこの防御を突破してほしいね」

 

「ふん、防御を上げるなら下げるまで! フタチマル、シェルブレード!」

 

「フター……!」

 

「イシズマイ、からにこもる。そして――その状態で回転!」

 

「――イマイ!」

 

 シェルブレードが振り下ろされると同時に、殻に込もったイシズマイがその状態で横に回転。防御力と回転で水の刃を弾き返し、フタチマルに隙を作らせる。

 

「シザークロス!」

 

「マイ! イママイーーーッ!」

 

 防御を解除し、素早く殻から出たイシズマイは両手の前足の爪を交差させ突撃。フタチマルにダメージを与える。

 

「フタチマル! 大丈夫!?」

 

「チマ……!」

 

 ダメージは受けたが、まだ戦える様だ。

 

「くっ、なんなのさっきの防御……!?」

 

「ねぇ、サトシ。さっきのあれって……」

 

「あぁ、似てる……」

 

 自分がビリジオンの戦いで使った、攻撃と防御を同時に行なうカウンターシールド。あれによく似ていた。違うのは攻撃がない点だ。

 

「防御力に更に回転を加える事で、防御を高める。言うならば、ハイシールドって所かな?」

 

「ハイシールド……!?」

 

「やっぱり、カウンターシールドの……」

 

「うん、間違いない」

 

 あれは間違いなく、デントがカウンターシールドを参考にし、そこから手を加えた技だ。

 

「まもる、からにこもる、ハイシールド。この三重の守りをどうような味わいで突破するのか。見せてくれないかい?」

 

「くっ……!」

 

 歯軋りするカベルネ。まだ一つ使ってない技があるが、まもるで間違いなく防がれてしまう。みずてっぽうも同様だ。

 かといって、近付いてもからにこもるやハイシールドで弾かれ、反撃される。打つ手が無いのだ。

 

「おや? 何も出来ないのかい? なら、今度はイシズマイの隠し味を見てもらおう。――からをやぶる!」

 

「イママイーーーッ!」

 

「からをやぶるですって!?」

 

 殻から出たイシズマイの身体に無数の亀裂が走ると、赤く輝く。防御を捨てて攻撃に特化したのだ。

 

「シザークロス!」

 

「シェルブレード!」

 

「イママイーーーッ!」

 

「チマーーーッ!」

 

 シザークロスとシェルブレードが激突。直後に、フタチマルが弾き飛ばされて転がる。

 

「止めだ、シザークロス!」

 

「イー……マイーーーッ!!」

 

「チマーーーッ!」

 

「フタチマル!」

 

 その隙をデントは当然見逃さない。追撃を指示し、イシズマイは三度目のシザークロスをフタチマルに叩き込む。

 

「チマ~……」

 

「フタチマル、戦闘不能。イシズマイの勝ちだね」

 

「イマイ」

 

「くっ、戻って……」

 

 カベルネは戦闘不能になったフタチマルをモンスターボールに戻した。

 

「分かったかい? 相性だけで勝てるほど、ポケモンバトルは単純じゃない。ポケモンの個性を見抜き、味を引き出す事が重要なのさ」

 

 この分だと、ポッドかコーンのバトルで理解しても、勝利に浮かれて忘れていたに違いないとデントは推測していた。

 

「そして、それはテイスティングも同じ。ポケモンソムリエは否定するんじゃない。受け入れ、活かす事が大切なんだ」

 

「それを教えるために、敢えて苦手なイシズマイを繰り出したって事……?」

 

「君はまだまだ本質に辿り着けていない。ポケモンバトルも、ポケモンソムリエもね」

 

「……まだよ! まだ勝負は終わっていないわ! 行け、メブキジカ!」

 

「メブ!」

 

 カベルネの二体目は、茶色の体毛に赤い花弁がある二本の細い角と胸の毛が分厚い鹿みたいなポケモンだ。

 

「あれは……?」

 

『メブキジカ、季節ポケモン。シキジカの進化系。季節によって、角に生える草花が変わる。人々はメブキジカの花で季節の移り変わりを感じる』

 

 このイッシュ地方で何度も見た、シキジカの進化系のようだ。

 

「メブキジカこそ、マイビンテージ! さぁ、今度はどんなテイスティングをさせてくれるのかしら?」

 

 どうやら、このメブキジカはカベルネの一番のポケモンらしい。

 

「イシズマイ、ご苦労様。休んでくれ」

 

 デントはイシズマイを戻し、もう一つのモンスターボールを取り出す。

 

「マイビンテージ……ヤナップ!」

 

「ナップ!」

 

 カベルネが一番のポケモンを出したように、デントも一番のポケモン、ヤナップを繰り出す。

 

「カベルネ、君の内には素朴で良き土の香りと、力強さを感じる。だけど、まだまだ自身で引き出せてるとは言い難い」

 

「もー! そのテイスティングが腹立つのよ! メブキジカ、ウッドホーン!」

 

「ウッドホーン?」

 

「攻撃する共に回復もする技よ」

 

「ジカーーーッ!」

 

 メブキジカは角が琥珀色に輝くと、ヤナップに向かっていく。

 

「ヤナップ、あなをほる」

 

「ナップ!」

 

 しかし、その前にヤナップが穴を掘って地中に潜ってしまう。

 

「メブキジカ、止まって! ……爽やかな味わいに隠された秘密の香り。デントは何を……?」

 

「カベルネ。先ずは僕が君に味わわせてあげるよ。ポケモンバトルの奥深さの一端を」

 

「――ヤナー……!」

 

「メブキジカ、にどげり!」

 

「もう一度あなをほる」

 

 穴から出たヤナップに蹴りを叩き込もうとするメブキジカだが、その前にまた潜られてしまう。

 

「タネマシンガン!」

 

「ナププププ!」

 

「ジカカ……!」

 

 また穴から出てきたヤナップは口から無数の種を吐き出す。種は全弾命中し、効果は今一つとはいえ、メブキジカに確かなダメージを与える。

 

「なるほど、タネマシンガンが効いた事から、君のメブキジカの特性は草タイプの技を無効にし、力を高める『そうしょく』ではないね。ようりょくそか」

 

「……!」

 

「へー、そんな特性が」

 

「デントはそれを確かめるために、タネマシンガンを使ったのね」

 

 一番威力が低いが、当てやすいタネマシンガンで牽制と確認を同時に行なう。やはり、デントの実力は高い。

 

「では、遠慮なく攻撃を続けるとしよう。あなをほる、タネマシンガン!」

 

「ヤナ! ナププププ!」

 

 穴を掘って様々な場所に移動し、そこから当てやすいタネマシンガンを放って潜るヒットアンドアウェイ。ポケモンの技を活かした戦法で、着実にダメージを重ねていく。

 

「この、すばしっこい!」

 

「ありとあらゆる方向から、複雑な香りで敵を翻弄する。これもポケモンバトルの味わい」

 

「……! そこよ、メガホーン!」

 

 カベルネは惑わされながらも、土が盛り上がる所に注目し、攻撃を指示する。直後、読み通りにそこにヤナップが出てきた。

 

「がんせきふうじ」

 

「ププゥ!」

 

「メブブ……!」

 

「しまっ……!」

 

 しかし、出てきたヤナップが放つがんせきふうじの岩によって止められる。

 

「そして、ここぞという時に有無を言わさぬ味わいで決める。かわらわり!」

 

「ヤナー……プーーーッ!」

 

 ヤナップは力を込めた手刀を振り下ろし、メブキジカの脳天に叩き込む。

 

「――ナプ!」

 

「メ……ブ……」

 

「僕の勝ちだよ」

 

「メブキジカ!」

 

 ヤナップはクルンと空中で回転しながら、体勢を立て直して着地。同時にメブキジカが倒れた。

 

「メブ……」

 

「お疲れさま。休んで」

 

 カベルネは倒れたメブキジカの側に駆け寄り、頑張りを労うとモンスターボールに戻す。

 

「次はサトシとのバトルだけど……どうする?」

 

「……やるわ!」

 

 既に負けてはいる。しかし、だからと言って引きたくない。それはカベルネの意地であり、彼女の強さと言えた。

 

「サトシ」

 

「あぁ」

 

 サトシとデントは、入れ替わる形で互いが先程いた場所に移動する。

 

「数はデントと同じく二対二。良いか?」

 

「えぇ!」

 

「クルミル、君に決めた!」

 

「――クルル!」

 

 サトシが繰り出したのは、クルミルだった。

 

「サトシはクルミルね」

 

「初陣だね。さぁ、どんな風に持ち味を引き出すのかな」

 

 これがクルミルの初勝負。デントはサトシがクルミルの力をどう活かすかが気になっている。

 

「クルミルね。だったらわたしは――ダルマッカ!」

 

「――マッカ!」

 

 カベルネが出したのは、ダルマッカだった。

 

「カベルネはダルマッカ!? 相性最悪じゃない!」

 

 クルミルは草と虫タイプ。ダルマッカは炎タイプ。相性は先程のイシズマイとフタチマル以上に悪い。

 

「アイリス、落ち着いて。相性が悪いぐらいでサトシが負けると思うかい?」

 

 アイリスが不安な一方、デントは全くそんな様子を見せない。寧ろ、勝つのを確信している様子だ。

 

「……デントはサトシが勝つって思ってるの?」

 

「勿論」

 

 その言葉には、サトシが勝つと確信に満ちていた。一欠片も心配した様子は無い。

 

「相手はダルマッカか。行けるな、クルミル?」

 

「クル!」

 

 相手が苦手な炎タイプだろうが関係ないと、クルミルは意気込む。気の強さが全面的に出ていた。

 

「良いのかしら? ダルマッカは炎タイプ。クルミルは虫と草タイプ。最悪のマリアージュよ?」

 

「そんなもの、ひっくり返してやるさ!」

 

「クルル!」

 

「ふん、だったら容赦はしないわ。ダルマッカ、やきつくす!」

 

「クルミル、かわしてはっぱカッター!」

 

「マッカーーーッ!」

 

「クルル……クルーーーッ!」

 

 ダルマッカは先手に火球を連発。クルミルはそれを軽やかに避けると無数の葉の刃を放つも、ダルマッカはかわす。

 

「ダルマッカ、ほのおのパンチ!」

 

「マッカ!」

 

「クルミル、いとをはく! 頭に付けろ!」

 

「クルーーーッ!」

 

 接近して来たダルマッカに、クルミルは糸を吐いておでこにくっ付ける。

 

「マカ!?」

 

「今だ、反動を活かしてたいあたり!」

 

「クルー……ミルーーーッ!」

 

「マッカーーーッ!」

 

 クルミルは反動で一気に近付くと、その勢いを利用したたいあたりを叩き込む。その威力にダルマッカは吹き飛ぶ。

 

「はっぱカッター!」

 

「クルルル!」

 

「かわして、糸に気を付けながらずつき!」

 

「マッカ! マカーーーッ!」

 

 追撃のはっぱカッターを何とかかわすと、ダルマッカは頭を前屈みにしながらまた接近していく。

 

「はっぱカッター!」

 

「効果は今一つよ! 耐えてずつきを――」

 

「カウンターシールド!」

 

「えっ!?」

 

「クルルーーーッ!」

 

「マッカーーーッ!?」

 

 クルミルが背を付けた状態で回転し、葉っぱを放つ。葉はクルミルの周囲を渦巻く様に展開され、ダルマッカは葉の渦の連撃を自ら飛び込む形で食らい、予想外のダメージを受けて吹き飛ぶ。

 

「よし!」

 

 まだ練度は低いが、決まっているのでこの場では問題ない。

 

「むしくい!」

 

「クルルルルルッ!」

 

「マカマカマカーーーッ!?」

 

 クルミルは近くにいるダルマッカに素早く接近し、高速で噛んでダメージを与えていく。

 

「ダルマッカ、むしくいも効果今一つよ! 耐えてやきつくすを――」

 

「クルミル、離れていとをはく! 全身に巻き付けろ!」

 

「クルーーーッ!」

 

「マッカ!?」

 

 反撃をしようとしたカベルネ達だが、サトシとクルミルの方が速い。クルミルは糸を吐き、ダルマッカの全身をぐるぐる巻きにする。

 

「はっぱカッター!」

 

「クルルル!」

 

「マッカーーーッ!」

 

 動きを封じたところに、クルミルははっぱカッターを叩き込み、拘束の糸は斬るがダメージを重ねていく。

 

「とどめだ、たいあたり!」

 

「ダルマッカ、ほのおのパンチ――」

 

「クルー……ミルーーーッ!」

 

「マッカーーーッ!」

 

 迎撃しようとしたダルマッカだが、蓄積したダメージにより鈍り、たいあたりを食らう。転がると、目を回す。

 

「マッカ~……」

 

「ダルマッカ!」

 

「クルミルの勝ちだな」

 

「クルル!」

 

 サトシの仲間になってからの初勝利に、クルミルはえっへんと自信満々に胸を張った。

 

「か、完勝……」

 

「苦手な相手だろうが果敢に挑むクルミルの気の強さ。そして、それを十二分に引き出す、サトシの純粋だからこそ熱くも深い攻撃的な指示。うん、見事なマリアージュだよ」

 

 自分の予想通り、彼等は見事に勝利し、デントは彼等の連携にうんうんと頷いていた。

 

「そんな、相性最悪なのに……!」

 

「ちなみに、そのクルミルは昨日仲間になったばかりで、これがサトシと一緒に戦う初めてのバトルだよ」

 

「う、嘘!?」

 

 相手最悪の相手に勝っただけでなく、仲間になったばかりとは思えない一体感のある戦い振り。その事実にカベルネは二重の衝撃を受ける。

 

「これでも、俺とクルミルの相性は最悪、入れ替えろって言うのか?」

 

「クルル?」

 

「そ、それは……」

 

 どうなんだ?と見てくるクルミルとサトシに、カベルネは言葉に詰まる。どこからどう見ても最悪には見えないし、入れ替える必要など皆無としか言い様が無い。

 

「クルミル、ご苦労さま。戻ってくれ」

 

「クル」

 

 サトシはクルミルを戻すと、違うモンスターボールを取り出す。

 

「マメパト、君に決めた!」

 

「ポーーーッ!」

 

「サトシのもう一体はマメパトね」

 

「最近、戦いたがってたからね。あの技の実戦運用も兼ねて選んだんだろう」

 

 その言葉通り、マメパトは戦意に満ちた様子の目を相手のカベルネに向けていた。

 

「……ヨーテリー、行きなさい!」

 

「ヨーーーッ!」

 

「カベルネのもう一体はヨーテリーね」

 

「ノーマルと飛行タイプとノーマルタイプ。相性差は無い」

 

 この場合、トレーナーとポケモンの純粋な実力が勝敗を握るだろう。

 

「今度はこっちから行くぜ。でんこうせっか!」

 

「ポーーーッ!」

 

「ヨーテリー、かわしてめざめるパワー!」

 

「ヨーーーッ!」

 

「マメパト、かわしながら近付け!」

 

 マメパトは初撃のでんこうせっかを仕掛ける。ヨーテリーはかわすとめざめるパワーを放つも、マメパトの空を自由に動き回るような回避で全て外れた。しかも、距離が縮まっている。

 

「かぜおこし!」

 

「ポーッ!」

 

「踏ん張って! こおりのきば!」

 

「ヨー……テリーッ!」

 

 マメパトは体勢を崩す牽制目的の軽い風を翼で起こす。ヨーテリーは体勢を崩しかけたが、踏ん張ると牙に冷気を込めて進む。

 

「上に飛んでかわせ! そして、つばめがえし!」

 

「ポー! クルー……ポーーーッ!」

 

「テリーーーッ!」

 

 接近するヨーテリーの技を上昇でかわすと、つばめがえしを一気に降下。放った後のヨーテリーに叩き込む。

 

「ヨーテリー、10まんボルトよ!」

 

「テリッ! ヨー……!」

 

「マメパト、かまいたち!」

 

「クルー……ポーーーッ!」

 

「テリーーッ!」

 

 ヨーテリーからは電撃。マメパトから鋭い空気の刃が放たれる。二つの技が激突し、結果は空気の刃が電撃を切り裂いて威力を落としながらヨーテリーにも直撃する。

 

「良いかまいたちだ、マメパト!」

 

「ポーーーッ!」

 

 かまいたち。それがシッポウシティのバトルクラブでマメパトが特訓の末に会得した技だった。

 急所に当たりやすい性質がある上、威力も上回るなどエアカッターの上位版とも言える技だが、あちらと違って一発しか放てず、弱点も付けないので一長一短である。

 

「追い込むぞ! でんこうせっか!」

 

「ポー!」

 

「ヨーテリー、もう一度10まんボルト! 背を付けて回転しながら放ちなさい!」

 

「……ヨーーーッ!」

 

 迫るマメパトに、カベルネはさっきのクルミルの様な回転しながらの攻撃を指示。ヨーテリーは戸惑いながらも放つ。

 

「まさか、カベルネもカウンターシールドを!?」

 

「いや」

 

 ヨーテリーも回転しながら10まんボルト。しかし、めったやたらに放たれるだけで、ピカチュウがビリジオン戦で見せたカウンターシールドには程遠い。

 

「えっ、どうして!?」

 

「マメパトにもう一度上に!」

 

 カベルネはカウンターシールドにならない事に戸惑い、サトシはマメパトを空に移動させてかわさせる。

 

「カベルネ、君はサトシと同じ様にすれば出来ると思ったんだろうけど、甘いよ」

 

 第一、仮に出来たとしても威力はかなり低いし、サトシに簡単に見抜かれただろう。

 何より、カウンターシールドはあくまで戦術の一つ。適度なタイミングで使ってこそ意味がある。適当に使っても派手なだけで意味は薄い。

 

「再開するぜ! マメパト、でんこうせっか!」

 

「ポーーーッ!」

 

「え、えと、ヨーテリー、10まん――」

 

「テリーーーッ!」

 

 カウンターシールドが出来ない動揺からカベルネは判断が鈍り、その間にマメパトのでんこうせっかがヨーテリーに命中する。

 

「ヨーテリー、たいあたり!」

 

「マメパト、全力のかぜおこし! 吹き飛ばせ!」

 

「ポーーッ!」

 

「テリッ!」

 

 体当たりをしに来たヨーテリーに、マメパトはフルパワーの風をぶつけて体勢を崩させる。

 

「決めるぞ、かまいたち!」

 

「クル……ポーーーッ!!」

 

「ヨーーーッ!」

 

 マメパトは力を溜め、翼から真空の刃を射出。刃は勢いよく進み、体勢が崩れたヨーテリーに直撃した。

 

「ヨー……」

 

「ヨーテリー、戦闘不能。サトシの勝ちだね」

 

 今のかまいたちが決め手になり、ヨーテリーは戦闘不能になった。

 

「……ヨーテリー、戻って。お疲れさま」

 

「良くやった、マメパト」

 

「ポー!」

 

 新技が問題なく実戦で使えた事や、少し戦いたかったところでのバトル、しかも自分を酷評したカベルネ相手に勝ち、マメパトは上機嫌だ。

 

「休んでくれ」

 

「ポー」

 

 サトシは頑張ったマメパトをモンスターボールに戻す。

 

「さて、これで君のテイスティングは見当違いだと証明されたね。何か反論は?」

 

「……ないわ」

 

 ここまで完膚無きまで敗北した以上、負けず嫌いのカベルネでも認めざるを得なかった。

 

「カベルネ。君の頑張り振りは見事だ。ポケモンソムリエはCクラスになるのだって大変だからね。況してや、前に戦った時から考えると相当な努力をしたんだと分かるよ」

 

 そうなんだと思うサトシ。と言う事は、言動に問題はあれど、カベルネは相当な努力家になる。

 

「だけどね、僕達ポケモンソムリエはトレーナーとポケモンの為にある存在。言わば、脇役なんだ。決して、主役になっては行けない。公平に行なうテイスティングに個人の主観が入るなんて最もしてはならない」

 

 その言葉一つ一つに、デントのポケモンソムリエとしての誇りが込もっているのを、サトシは感じていた。

 

「だからカベルネ。これから多くの人とポケモンをしっかりと見て回ると良い。そうすればポケモントレーナーとしてもポケモンソムリエとしても成長出来る」

 

 負けず嫌いが良い方向に活かされれば、カベルネは必ず立派になるデントは確信していた。

 

「……よく覚えて置くわ。――だけど、デント! 何れはあなたに勝つわ! それにサトシ、あなたにもね!」

 

 自分がポケモンソムリエとして未熟だとは理解した。しかし、だからと言ってデントやサトシに負けたままは嫌なのだ。

 

「待ってるよ」

 

「バトルならいつでも歓迎するぜ」

 

 笑みを浮かべる二人に、カベルネは心底負けた気がした。

 

「……覚悟してなさい!」

 

 二人にというより、まるで自分に言い聞かせるようにカベルネは告げると、旅支度やソムリエールに事情を話すべく、フレンドリィショップに向かった。

 

「じゃあ、僕達も旅を続けようか」

 

「そうだな」

 

「そうしましょ」

 

 一件落着もしたことだし、サトシ達はヒウンシティに向けての旅を再開した。

 

 

 

 

 

「――よっと!」

 

「時間はどうなの?」

 

「良い時間だにゃ」

 

 夜。ヒウンシティを素早くも静かに走り、ある場所に着く三人組。ロケット団だ。

 

「フリント、どうだ?」

 

「良いデータだ。充分参考になる」

 

 集合場所にいたフリントが、今のシミュレーションで得た情報をタブレットで見て満足そうな表情になる。

 

「これなら当日も問題ないだろう。そろそろ、報告もするか。――サカキ様に」

 

 自分達のボスの名前に、三人組が思わず固くなる。その三人を他所に、フリントがタブレットを使い、サカキに連絡を繋げる。

 

『フリントか。どうした?』

 

「こちらの準備がほぼ済みました。後はメテオナイトの発見、テスト。そちら側の準備が終われば、何時でも実行出来ます」

 

『準備は最近の報告から、こちらもある程度済ませている。三人組もいるか?』

 

「ここに!」

 

 自分達を呼ばれ、三人組はサカキの前で膝を付く。

 

『最近の活躍。大したものだ』

 

「有り難きお言葉!」

 

「身に余る光栄ですにゃ」

 

「……まぁ、余計な事もしましたが」

 

「アンタは黙ってなさいよ!」

 

 ボス直直の労いの言葉に、喜ぶ三人組。しかし、直後にフリントにシッポウ博物館の失敗をボソッと言われ、ムサシが小声で止める。

 

『後は、メテオナイトを発見し、待つだけ。最後の仕上げ頼むぞ』

 

「はっ!」

 

 そう言うと、サカキは通信を切った。

 

「よーし、サカキ様の期待に応える為にも、必ず作戦を成功させるわよー!」

 

「あぁ、ロケット団の栄光の為にも!」

 

「にゃー達の出世の為にもにゃ!」

 

「まぁ、私も上の地位は欲しいからな。頑張らせてもらおう」

 

 もうすぐの時に向けて、三人組とフリントは士気を高めていた。

 

 

 

 

 

「ここがリゾートデザート」

 

「うむ、この先にあるはず」

 

 同時間帯。リゾートデザート。砂が吹き荒れるこの場所に、ロットとアスラの二人がPとZが合わさった独特のエンブレムが刻まれた白いフードを被る物達と共に足を踏み入れていた。

 

「では、これより古代の城に向かう」

 

「二組に別れて中を探し、目的の物を発見します」

 

 二人の言葉にはっと白いフードの人物達が頷くと、古代の城に向かう。

 

「ロケット団と遭遇はしないか?」

 

「問題はないとあの方は言っていました。大丈夫でしょう」

 

 実際、メテオナイトと彼等が探す物はかなり離れている。可能性は低い。

 

「手に入れた後はどうする?」

 

「問題はそこですな……」

 

 狙いの物が見付けるまでは良い。問題なのは、その後だ。

 

「何にせよ、今は見付けるのが先」

 

「うむ、早く見てみたいものですな」

 

「ライトストーン、イッシュの真実――レシラムを」

 

 このイッシュの真実に会うべく、彼等は古代の城へと向かう。

 

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