ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ 作:ぐーたら提督
「やっとヒウンシティに着いた! いよいよジム戦だ!」
「ピカチュ!」
三つ目のバッジゲットに向け、サトシとピカチュウは張り切っていた。
「やっぱり、ヒウンシティって大きいわね~」
「うん、とても大きいよ」
この街には初めて来たため、Nは辺りをキョロキョロと見渡していた。
「ちなみに、ヒウンシティには名物のヒウンアイスがあるんだけど食べてみないかい?」
「良いわね! ジム戦の前に――」
「ダメダメ! ジム戦の方が先だ!」
「ピカ!」
寄り道なんかしてる暇はない。この昂る気迫のまま、ジム戦に挑みたかった。
「ふふ、気迫満々だね」
「じゃあ、セントラルエリアを抜けて行こう。ジムはその先にあるからね」
「張り切ってるけど、ジム戦の準備は出来てるの?」
「あぁ、メンバーも大体決まってる」
二つのモンスターボールを取り出すサトシ。それはマメパトとポカブが入ったモンスターボール。
虫タイプ使いのアーティには、炎タイプのポカブや飛行タイプのマメパトが良い。特にマメパトはシッポウジムで戦えなかった分、戦わせたい。
「うーん……」
「あれ? この声……」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはヤグルマの森で出会ったこの町のジムリーダー、アーティがいた。彼は真剣な様子で木を見上げていた。
「アーティさん?」
「おや、サトシくん?」
呼ばれてアーティは気付き、サトシ達はアーティに近付く。
「この街に来たんだね、サトシくん。ところで、そちらの彼は?」
「初めまして、Nです」
「中々変わった名前だね。僕はアーティ。この街のジムリーダーだよ」
互いに初見なので、簡単に自己紹介を済ませる二人。
「……ゾロ」
「カブカブ」
「ブイブーイ」
「ゾロアにポカブ。おや、イーブイだね? 君の手持ちかい?」
「はい。タマゴから孵って、そのまま仲間に」
なるほどと納得すると、アーティはサトシと向き合う。
「さて、サトシくんはジム戦をしたいよね?」
「はい!」
「分かった。勿論受けよう――と言いたいんだけど、少し待って来れないかい?」
「何かあったんですか?」
「昨晩から何かを感じたのか、虫ポケモンが騒がしいんだ」
なので、気になったアーティは調査をしていたのだ。
「そう言えば、大きな災いが起きる前には虫ポケモンが騒ぐって聞いた事が……」
「あぁ、虫ポケモンには人間には見えない電磁波が見えると科学的にも証明されてる」
「そう言われると、あたしも感じる……! こっちよ!」
アイリスが何かを感じたらしく、その方向に指を指す。サトシ達はそちらに向かうと。
「……あれ?」
そこは、ヒウンアイスを販売する店だった。但し、閉まっている。
「ヒウンアイスの店に出たね。それも閉まってる……」
「あはは、外れたのかな?」
「それか、アイスが食べたかっただけだろ……」
「ち、違うわよ! こっちから感じたのよ!」
デントやNは苦笑いし、サトシはジト目で見る。アイリスが反論してると、ピカチュウが何かを感じたのか、サトシの肩から降りてマンホールを見る。
「どうした、ピカチュウ?」
「ピカピカ、ピカピ」
マンホールを指差すピカチュウ。どうやら、この下から何かを感じた様だ。
「アーティさん、この下には?」
「この先に荒野の川に続く地下水道があるんだ。……待てよ? そう言えば、前に荒野で生活するポケモンがこの地下水道を使って移動した事があったはず」
頻繁に有るわけではないが、時たまにそう言うことがあったのをアーティは思い出した。
「じゃあ、もしかしてこの下に?」
「行ってみましょう」
サトシ達はマンホールから地下水道に入り、移動していく。途中、管で動く何かを発見する。
「あれは……?」
『フシデ、百足ポケモン。頭と尻尾にある触角で空気の振動を感知し、周りの様子を探る』
どうやら、フシデというポケモンの様だ。
「凄い触角を持ってるんだな」
「でも、何をしてるんだろ?」
「頭を突っ込んだら抜けなくなったんじゃないかな?」
「そう見るのが妥当だね」
問題は、何故フシデがこの管に突っ込んだかだ。
「とりあえず、助けよう!」
「待つんだ! フシデの特性はむしのしらせや、どくのトゲ」
前者はクルミルが持つ、もうか、げきりゅう、しんりょくの虫タイプ版。後者は触れた相手を毒にしてしまう特性だ。
「下手に触ると毒にやられてしまう」
「でも、こいつ大分弱ってます。早く出してやらないと……」
さっきまでは必死にもがくように尾を動かしていたが、疲れてきたのか鈍くなっている。
「だったら、サトシくん。クルミルのいとをはくで掴む部分を覆ったらどうだい?」
「なるほど、それは良い考えだ」
直接触れるのがダメなら、間接的にすれば良い。そうすれば毒は受けない。
「分かりました。出てこい、クルミル!」
「クルル! クル」
「やぁ、クルミル」
出てきたクルミルは、アーティを見てあっと呟く。
「クルミル、フシデの尾の部分を軽く糸で覆ってくれないか?」
「クル。クルーーーッ!」
「フシ!? フシフシ……!」
「落ち着け、今助けるから……よっと! うわっ!」
糸で覆ったフシデの尾を掴んで力一杯引く。すると、スポッと何かが抜けた音がしてサトシは尻餅を付き、フシデも管から出た。
「フシ。フシ?」
「ピカ、ピカピ」
「フシ。……フシーーーッ!」
「いやなおとか!」
「僕達を警戒してるんだ!」
「や、止めてくれ、フシデ!」
ピカチュウから距離を取ったフシデは強烈な音を起こす。サトシ達は思わず耳を塞ぐも、直後に止んだ。
警戒を解いた、のではなく、身体にある傷の傷みからフシデが倒れて止まったのだ。
「お前、怪我してるじゃないか。早く手当しないと……」
「フシー……!」
心配して近付くサトシだが、フシデは警戒心から威嚇をする。
「危ない! 攻撃するかもしれない!」
「サトシ、止めて!」
「サトシくん……!」
皆が心配する中、サトシは優しく語り掛ける。
「フシデ、俺達は何もしないよ。安心してくれ」
「……フシ!」
まだ警戒心が消えないフシデが、体当たりをする。N達が声を上げた。
「――なっ? 何もしないだろ?」
サトシはフシデを受け止め、自分や仲間が危害を加えるつもりがないことを身を持って証明する。
「俺はお前を助けたいだけなんだよ」
「ピカピカ、ピーカチュ」
「クルル、クルルル」
ピカチュウやクルミルも説得に入り、フシデはサトシや他の者達が敵ではない理解した。
「フー……」
「分かってくれたのか?」
「フーシ」
「ありがとう。アーティさん、フシデの治療、お願いしま、す……」
「サトシ!」
ドサッと倒れるサトシ。その顔色は悪く、毒を受けたのは明白だ。
「体当たりか触れた時に……!」
「直ぐに手当を!」
「毒消しがあるわ!」
「フシデは僕が見るよ」
急いでサトシとフシデの治療を始めるN達。毒消しを食べやすいようにし、サトシに近付ける。
「あむ……ごくん」
「どうだい?」
「楽になって来た……」
「良かった」
素早く対処にしたため、重症化する事無く、サトシの体調は回復し出した。
「こっちも終わったぞ」
「フー」
傷にきずぐすりを吹き掛け、絆創膏を付けて治療完了だ。
「ありがとうございます」
「いやいや、それよりも君の身を挺してフシデを説得する行動は……僕の純情ハートに響いたよん!」
(……純情ハートって何だろう?)
謎の単語にNは聞きたい所だが、余裕も無いので多分純情な心なんだろうと判断した。
「はい。オレンの実。これを食べたら体力回復するわ」
「フー!」
差し出されたオレンの身を食べ、フシデは体力と体調を回復した。
「良かった、元気になって」
「フーフー!」
「にしても、なんであんなところに……?」
「それならボクに任せてください。フシデと話してみます」
「話す?」
「Nさんはポケモンの声が分かるんです」
「なんと、それは凄い!」
ならば、フシデがここにいた理由もわかるはず。Nはフシデと会話していくが。
「……ん? 何か音が……?」
その途中、後ろから音が響いてきた。デント達が振り向くと――大量のフシデが動いていた。
「フシデの群れ!?」
「なんであんなに沢山!?」
「フシデはヒウンシティの北にある荒野に生息しているんだ。なのにどうして……!?」
「フシーーーッ!」
「またいやなおと!」
フシデの大群に驚くサトシ達に、二匹のフシデがいやなおとを放つ。
「この様子、何かに対して怒ってるんだ!」
「何に!?」
「このフシデによると、突然何かの大きな力を感じて、それで慌ててここに来たと言ってる!」
「力!? それが怒ってる原因ですか!?」
「おそらく!」
怒った理由は分かったが、その原因が判明していない。これでは対応しようがない。
「フシフシーーーッ!」
「ヘドロばくだん!」
サトシ達は二匹のフシデのヘドロばくだんをかわす。しかし、その背後にいる大量のムシデがサトシ達に迫る。
「他にも来る! ここから脱出するんだ!」
「だけど、このフシデ……!」
「そのフシデはおそらく、彼等の仲間だ! 危害を加える事はないはず!」
「今は逃げるべきだ!」
「……元気でな!」
「フー!」
手当されたフシデの、心配そうな声を聞きながらサトシ達はマンホールからヒウンシティに戻る。
「な、何これ!?」
しかし、ヒウンシティには大量のフシデ達が暴れていた。街には人々の悲鳴やフシデ達の雄叫び、攻撃の音が鳴り響く。驚くサトシ達に、バイクに駆るジュンサーと一緒にいるハーデリアが前に立つ。
「ジュンサーさん!」
「ここは危険です! 直ぐに避難を!」
「一体、何が!?」
「ヒウンシティに大量のフシデ達が現れたんです! その原因解明の為、アララギ博士が調査してます!」
「アララギ博士が!?」
アララギ博士の名前に、サトシが声を上げる。彼女の研究所は今、ハッキングのせいで調子が悪い筈。大丈夫なのだろうか。
「――爆発!?」
突如爆音が鳴り響き、爆発の煙が上がる。
「あの方向は、確かポケモンセンターがあるはず……!」
「行ってみよう!」
何が起きたのかを確かめようと、サトシ達は急いでポケモンセンターに向かった。
「これは……!」
サトシ達の目に写ったのは、ポケモンセンターの前に立つ炎タイプのポケモンとトレーナー達がいた。
「シューティー!?」
「サトシ……」
そのトレーナー達の中には、シューティーがいた。彼はヒトモシを出している。
「……皆、一斉に攻撃だ。かえんほうしゃ!」
「かえんほうしゃ!」
シューティーは先導して指示。炎タイプのポケモン達はかえんほうしゃを放ち、フシデ達を薙ぎ払っていく。
「フシーーーッ!」
仲間を攻撃されたフシデ達は、反撃にヘドロばくだんを放つ。
「怯むな! かえんほうしゃを――」
「止めるんだ、シューティー!」
「シューティーくん、彼等を刺激するべきじゃない!」
サトシとNは、再度攻撃しようとするシューティー達の前に立って止める。
「サトシ、Nさん退いてください。まぁ、何が言いたいのかは分かりますが」
但し、Nについて大して知らないので、サトシが前に出たことから分かったのだが。
「だったら、今すぐ止めるんだ!」
「お互いに被害が出てしまう!」
「だけどサトシ、Nさん。フシデ達は人を襲っています。勿論、何らかの理由のせいだとは分かってますが、だからと言って、人々が襲われるのを放って置くのが良いと思いますか? 下手すれば死者が出る可能性だってあります」
「それは……」
「……」
そう言われると、サトシとNも言葉に詰まる。今アララギが原因を調べているとはいえ、その間に暴走したフシデのせいで人が亡くなる可能性もあった。
「但し――他に良い方法があるのなら、話は別ですが」
「……本当か?」
「僕はフシデ達に憎しみや怒りを抱いているわけじゃありません。フシデ達が暴れているから対応している。それだけです」
ならば、鎮圧以外の良い手段があるのならそれを採用する事に躊躇いはない。
「しかし、フシデ達が暴れている原因が不明の今は排除しかありません」
「確かに素早い対応は必須だ」
「市長……」
シューティーの言葉に、ヒウンシティの市長は頷く。
「このままでは、ヒウンシティの都市機能は停止してしまう。それに、フシデの毒は危険だ。安全を考えれば強制排除もやむを得ない」
「待ってください! 強制排除をすれば、フシデ達は当然反撃します! そうなったら本格的な戦闘となり、双方に甚大な被害を受けますよ!」
こちらが武力行使となれば、フシデも反撃して戦闘になる。街も人もポケモンも相当な被害を受けるだろう。
「しかし、他に方法があるかのね?」
「フシデ達を一旦、セントラルエリアの公園に集めて保護、大量出現の原因を解明し、解決すればフシデ達は元いた場所に戻るはずです」
市長の言葉に、アーティはセントラルエリアにフシデ達を集めて保護する事を提案する。
「市長、現在アララギ博士が原因を調べています」
「市長、お願いします!」
考える市長に、サトシ達は必死に頼み込む。
「しかし、どうやってフシデ達をセントラルエリアに集めるのだね?」
だが、市長も簡単には頷かない。安全の為にも、ある程度の確証が欲しいのだ。
「フシデ達のリーダーを見付け、先導すれば他のフシデ達も付いてくるはずです」
リーダーの動きを見れば、群れのフシデ達はそれに釣られるはず。そうして集めるのだ。
「なるほど……。分かった、その案に乗ってみよう」
「やった!」
「但し、その案が上手く行かなかった場合、強制排除に踏み切る。良いね?」
ある程度上手く行く可能性があると考えたのか、市長はアーティの案に採り入れるも、同時に失敗した場合は強制排除すると断言した。
「分かりました! デントくん、ジョーイさんを呼んでくれないか? タブンネの力が必要になる。サトシくん達は、僕と一緒にリーダーの捜索を」
「はい」
サトシ達はフシデ達の誘導のため、動き出す。
「お、俺達はどうするんだ?」
「しばらく待機。但し、攻撃した場合は迎撃をする。それ以外は刺激しない為にも、手を出すな」
トレーナー達に、シューティーはそう指示した。
「そ、それで良いのか?」
「さっき聞いただろう。本格的に戦闘になった場合、お互いに大きな被害が出る。ここは最低限に留めるべきだ」
それほどの被害を出してまで、シューティーはフシデを倒そうとは思わない。
「だ、だけど、リーダーのフシデを倒せば排除しやすくなるんじゃ……」
「寧ろ、バラバラになって暴走する可能性もある」
統率が取れない。つまり、それは暴徒となる可能性が高いという事だ。
「で、でも……」
「余計な事して、この街の被害の責任を背負えるのなら、勝手にしたらどうだい? 僕はごめんだね」
うっと言葉に詰まるトレーナー達。ヒウンシティ程の大きな街での被害の責任となると、相当な物になる。それを受けてまで強行しようとは思わなかった。
(後は頑張るんだね)
自分に出来るのはトレーナー達の抑制まで。後はサトシ達次第。声には出さず、心の中でシューティーはサトシ達にそう告げた。
「アーティさん、どうやってリーダーを探すんですか?」
「野生のポケモンは常に危険と隣り合わせだ。だからこそ、その危険にいち早く反応出来る能力を持つ者がリーダーの素質を持つ」
「群れを監視……」
「もしかして、あのフシデとか!?」
「あっ、あのフシデ、他のよりも身体が大きい!」
アイリスが指差す方向には、他の個体よりも一回り大きい一体のフシデがいた。
「それもリーダーの素質の一つだね。そして、もしあのフシデがリーダーであれば、性格にもよるが、近付く相手に勝負を仕掛けるはずだ」
「……フシ!」
ボスのフシデはサトシ達に気付くと、降りてきて威嚇を始めた。
「お前が群れのリーダーだな。ここにいては群れのフシデ達が危ない。さぁ、僕達と一緒に――」
「フシ!」
アーティの呼び掛けを無視し、警戒心からフシデはヘドロばくだんを放つ。かなり興奮している様だ。
「待て、落ち着くんだ」
「――フシーーーッ!」
「不味い!」
ボスのフシデの呼び声に反応し、周りのフシデ達がサトシ達に敵意の眼差しで睨む。
「こ、これ、どうするんですか!?」
周りは囲まれている。一斉に攻撃されては、対処仕切れない。
「下手に動かない方が良い。余計に刺激して、その瞬間に襲われる」
「同意見だ。ここで静かに説得を続けよう。フシデ、僕達は君達を助けたいだけなんだ。危害を加えるつもりは全くない」
「フー、フシー!」
「Nさん、何て……?」
「言葉じゃない。興奮して叫んでる」
「相当興奮してるのね……!」
これだけの群れの動く事になったのだ。リーダーであっても、フシデの興奮度は相当な物だろう。
「フシーーーーッ!」
「やば……!」
「――フー!」
リーダーのフシデが再度ヘドロばくだんを放つ。周りのフシデ達にもある程度注意を向けていたために反応が遅れ、サトシ達に命中しようとその一撃は――横からの別のヘドロばくだんにより、相殺された。
「今のヘドロばくだん……?」
今のは横から放たれたヘドロばくだんは、攻撃ではなく、明らかに自分達を守るためのものだ。
しかし、敵意を向けているフシデ達がしたとは思えない。一体誰がと思ったサトシ達に、一匹のフシデがサトシ達を守るように前に出る。
「フーフシ!」
「お前は……!」
そのフシデは、地下水道でサトシ達が助け、手当をしたあのフシデだった。
「フー! フーフー!」
フシデは仲間やリーダーに、この人間達は敵ではないと声を上げて説得。群れの仲間と、自分を助けたサトシ達が争うのは見たくなかった。だからこそ、仲間に攻撃されるのを覚悟で前に出たのだ。
「……フシフシ!」
仲間の言葉に、群れのフシデとボスのフシデは警戒心を緩め、ボスのフシデは群れの仲間にしばらく待機と告げる。仲間の言葉を信じ、様子見をする事にしたのだ。
「ありがとう、フシデ」
「フーフー」
自分達を助けてくれたフシデにサトシ達は礼を告げる。フシデも笑顔で返す。
「アーティさん! ジョーイさんとタブンネを連れてきました!」
「……!」
そこにジョーイとタブンネを連れてきたデントが合流。リーダーのフシデは警戒を強める。
「ジョーイさん、タブンネのいやしのはどうで興奮状態のフシデ達を落ち着かせてください」
「分かりました。タブンネ、いやしのはどう!」
「タ~ブンネ~!」
タブンネが暖かな波動を周囲に放つ。それを受けたフシデ達は、興奮が薄れて落ち着いてきた。
「Nくん」
「任せてください。フシデ、双方の被害を出さない為にも、今からキミ達を安全な場所に案内する。着いて来てくれないか?」
「……フシ」
サトシ達が攻撃してこなかった、仲間のフシデが彼等を庇った、またこちらも被害を出したくないなどから、ボスのフシデはその説得を信じる。
「じゃあ、フシデ。僕達に着いて来てくれ」
説得が通じ、アーティは取り出した笛を鳴らす。軽快な音が響き渡る。
「笛……?」
「あれは虫笛だよ」
「フシ」
虫笛の音にボスのフシデが動き出し、それに釣られて群れのフシデ達も動く。
「僕はフシデ達をこのままセントラルエリアに案内する。サトシ達ははぐれているフシデ達を群れに戻してくれ」
「はい!」
サトシ達ははぐれたフシデを群れに戻すべく、ヒウンシティ中を動き回る。
「見っけ! マメパト、君に決めた!」
「ポーーーッ!」
裏路地に繋がる横道に、フシデ達を発見。サトシはマメパトを出す。
「軽めのかぜおこし!」
「ポーッ!」
ダメージを最低限にしつつ、風を発生させてフシデ達を群れに戻す。
「次だ!」
「ポー!」
「ここにもいた! キバゴ、りゅうのいかり! 空に向けて!」
アイリス達も、ビルの屋上ではぐれたフシデを発見。キバゴに出力が半分程のりゅうのいかりを使わせ、それで驚かせてフシデ達を群れに戻す。
「ヤナップ、タネマシンガン。ソフトにね」
「ナプナプ~」
デントとヤナップは口から種を吐き出し、地面に転がせてフシデ達を滑らせる事で驚かして戻す。
「タブンネ、いやしのはどう!」
「タブンネ~」
ジョーイとタブンネは喧嘩していたフシデ達にいやしのはどうを浴びせ、落ち着かせて群れに戻す。
「キミ達、仲間が動いているよ。ほら」
「ブイブーイ」
イーブイといるNは攻撃や威嚇するフシデ達を捌きながら、群れが動いている所を見せて戻す。
「ゾロゾロ」
「カブーーーッ!」
ゾロアとポカブはNの指示で、違う場所で動く。ゾロアはイリュージョンで他のポケモンや人に変身し、ポカブは毒タイプ故に効果の薄いスモッグで驚かせて戻していく。
「よし、今度はあそこだ。マメパト、かぜおこし――」
「フシーーーッ!」
「ポッ!?」
「マメパト!」
またかぜおこしで戻そうとしたサトシとマメパトだが、その前にフシデに攻撃を放つ。不意を突かれ、あわや直撃――と思いきや。
「ハトーボー、エアカッター!」
「ハトーボーーーッ!」
そのヘドロばくだんを、空気の刃が相殺。吹き飛んだマメパトを受け止めながら、放たれた方向を見ると、シューティーと彼が出したハトーボーがいた。
「シューティー! どうしてここに?」
「フシデ達の群れが動いたのが見えたからね。君達の案が上手く行ったのかを確かめに来たのさ。この分だと、成功したと考えて良いのかい?」
「あぁ。フシデ達がセントラルエリアに向かって動き出した」
「分かった。じゃあ、僕はポケモンセンターにいるトレーナー達に協力を話してくる。ただその前に――ここらを片付けるとしよう」
行くなら、ここらのはぐれたフシデ達をさっさと戻してから。シューティーはその方が効率が良いと判断した。
「じゃあ、やるか! マメパト、もういっちょかぜおこし!」
「ハトーボー、かげぶんしんで驚かせろ!」
「ポーーーッ!」
「ボーーーッ!」
マメパトは風で、ハトーボーは分身ではぐれたフシデ達を群れに戻していく。
「ポー! ――ポッ!?」
「この光……!」
「進化か!」
「ボー……!」
フシデ達を戻して喜ぶマメパトの身体から光が溢れ出し、大きくなっていく。
「――ボーーーーッ!」
「ハトーボー……!」
光が晴れると、進化により新たな姿を得たハトーボーが姿を表す。
「よし、ハトーボー! かぜおこしで戻していくぞ!」
「ボーーーッ!」
シューティーのハトーボーよりも高い鳴き声を上げ、返事するハトーボー。
また、二匹のハトーボーは互いを見て頷く。バトルクラブで戦った二匹が、今は協力して困難に対応しようとしていた。
「行くぞ、シューティー!」
「言われるまでもないよ!」
「ハトーボー――」
「かぜおこし!」
「エアカッター!」
二匹のハトーボーが、協力してフシデ達を群れに戻す。そのさまに、サトシとシューティーは互いを見て、差はあれど微笑んだ。
「群れ全てのフシデ達を、セントラルエリアに誘導出来ました」
夜になり、フシデ達はサトシ達の尽力によって全てセントラルエリアに誘導する事が出来た。門前は念のため、ハーデリアが見張っている。
「良かったな、皆無事にここに案内出来て」
「フーフー!」
「ピカピカ」
本格的な戦闘になることなく、最低限に済んだ事にサトシ達もフシデも喜ぶ。
「これで一先ず安心だ。アーティ君、よくやってくれた」
一旦とはいえ、事態が落ち着いた事に市長は一安心する。
「いえ、この子達が頑張ってくれたからです」
「俺達はアーティさんの指示に従っただけです」
「それに当然のことをしただけですよ」
「そうそう」
「えぇ、ポケモンと人々の為に尽力を尽くしただけです」
「僕も放って置く事は出来ませんでしたから」
「ありがとう。本当にありがとう」
頑張ったサトシ達に、市長は深く感謝した。
「……」
「あっ、シューティー。どこに行くんだ?」
「ポケモンセンター。今日はもう遅いし、休んでから次の街に向かうよ」
「ジム戦は?」
「昨日の内にアーティさんに勝ってゲットした。……苦戦はしたけどね」
その証明に、シューティーはバッジケースを開いて三つ目のバッジを見せた。
「もうゲットしていたのか?」
「あぁ。彼は昨日僕に勝ってバッジを手に入れたよ」
「だから、僕がこれ以上留まる理由は――まぁ、君が勝負を了承してくれるのなら、もう少しいても良いかもね」
サトシとのバトルは、シューティーにとって価値がある。今の自分がどれだけ通用するかを知る良い機会だ。
「考えて置くよ」
「じゃあ、もう少し――」
「皆さん、アララギ博士がもうすぐ到着します」
いようかと言い、その後にポケモンセンターに向かおうとしたシューティーだが、アララギの到着にサトシ達同様に反応する。
「分かった、直ぐに行こう」
「俺達も良いですか?」
「構わないよ」
「僕も構いませんか?」
サトシ達がアーティや市長に同行を求めるが、シューティーも求めた。
「シューティーも来るのか?」
「アララギ博士は新人の僕にポケモン図鑑やジャノビーを用意してくれたんだ。会えるのなら、会って一言だけでも声を掛けるのは基本だろう」
用意の言葉に不快な気分になるも、顔には出さないNを除いたサトシ達はシューティーの理由になるほどと納得した。
「では、全員で行こう」
この場にいる全員で、アララギが来るヘリポートへと向かう。その数分後、ヘリが到着し、タブレットを持ったアララギが出てきた。
「アララギ博士!」
「久しぶりです」
「元気で何よりです」
「あらら、サトシくん。シューティーくん。Nくんも」
自分の研究所のポケモンを受け取った、三人が一同いる事にアララギも驚く。とはいえ、今は自分が知った情報を話す方が先決だ。
「事情は既に聞いているわ。早速、フシデ達が大量移動した原因について話しましょう」
「原因は一体?」
「このデータを見て。これは観測衛星から得たものよ」
タブレットを取り出し、そのデータをサトシ達に見せる。
「観測衛星?」
「えぇ、フシデは普段、地中に巣を作って生活する。だから、私はフシデの大量移動の原因は地中にあると推測し、観測衛星で調べたの。その結果、ヒウンシティの北にある広野の下に、あるエネルギーの流れを発見したの」
「あるエネルギー?」
「それについてはごめんなさい。言えないの」
「言えない? 何故ですか?」
あるエネルギーについて言おうとしないアララギに、サトシ達は疑問を抱く。
「事情があるのよ。申し訳ないけど、それで納得してくれないかしら?」
「分かりました」
複雑な事情があると理解し、サトシ達は頷いた。
「話を戻すわね。そのエネルギーはリゾートデザートから発生してるの」
「Nくんの翻訳と合わせると……フシデ達はそのエネルギーを恐れて巣から逃げたという事になりますね」
「しかし、そのエネルギーは何故突然発生したのかね?」
「幾つか考えられるのですが……」
その中で最悪なのは、『あれ』について知らない者がエネルギー目当てに手に入れようとする事だ。
「なので、今から何が原因で起きたのかを現地に赴いて調べようと思います」
「私も同行します」
「アララギ博士! 俺も連れていってください!」
「あらら……」
サトシの同行の求めに、流石のアララギも驚く。
「サトシ君。今リゾートデザートでは何が起きてる全く分からないわ。危険よ?」
「俺、友達になったフシデがいるんです。だから、あいつや仲間のフシデ達を元いた場所に戻してやりたいんです。お願いします!」
「あたしも行きます!」
「えぇ、ジムリーダーとしてこの事態は見逃せません。僕も同行します!」
サトシだけでなく、アイリスやデントも同行を求めた。彼等もこの事態を何とかしたいのだ。
「……分かったわ。但し、ジュンサーさんの指示には従うこと」
熱意に負けて許可を出すアララギ。勿論、ジュンサーの指示に従うという条件付きだ。はいとサトシ達は頷く。
「僕も同行したい所ですが……フシデ達が心配なので待って置くよ」
「ボクもアーティさんとヒウンシティに残るよ。暴れた時の説得のために」
「頼みます」
サトシ達はリゾートデザート。Nとアーティはヒウンシティ。後はシューティー。彼はどうするのかとサトシが見ると。
「僕はアーティさんやNさんと一緒にフシデ達を見ておきます。いざというときの為に」
いざというときとは戦闘の事だ。勿論、それは最終手段だが、その事を判断出来る人間がいるのといないとでは違うだろう。
「後――さっさと片付けて来るんだね」
「分かってるさ」
早くこの件を終わらせ、自分と戦ってもらう。シューティーはそう言ってるのだ。
「じゃあ行くわよ、皆!」
「はい!」
「頼んだよ、皆!」
ヘリは朝にサトシ達とアララギ博士、ジュンサーを乗せて飛び立ち、Nやシューティー、アーティやフシデの見送りを受けながらリゾートデザートに向かった。
「着きましたね」
「そうですね~」
その一時間後、大量のバスがヒウンシティに到着。中からぞろぞろと人が出てきた。
「――様、少し街の様子がおかしくありませんか?」
「言われてみると……」
「戦闘の痕跡がありますね。それに人々も何かピリピリしてますし」
「まさか、先を超されたのでしょうか?」
「情報収集を。先ずはそれからです」
白衣の青年と、独特のマントとモノクルを付けた男性以外が住民から話を聞いていく。
「分かりました。昨日、この街では大量のフシデ達が暴れたようです」
「原因は不明、またフシデ達はセントラルエリアに預けられただけで、まだ問題は解決していないので気を張ってるのかと思われます」
「なるほど」
「あれの影響、ですかね?」
「おそらく」
タイミングを考えると、フシデ達が暴れる理由は間違いなくメテオナイトだ。
「それと一つ、気になる情報が……」
「気になる情報とは?」
「実は……」
大事にならないよう、その団員は男性に近付き小声で話す。
「……その情報は確かですか?」
「写真はないので、確証はありませんが……特徴が酷似している他、手持ちの中にゾロアがいたと」
「……なるほど、分かりました。下がりなさい」
その情報に、男性は考える仕草を取る。
「どうしました?」
男性は白衣の青年を手招きすると、その情報について話す。
「王がこの街に訪れ、保護に力を尽くしていた様です」
それを聞き、白衣の青年は驚きを浮かべる。
「ほう。今もいるのでしょうか?」
「分かりません。ですが、これは機会です」
何しろ、探していた相手がこの近くにいたのだから。上手く行けば、最善になる。
「――三人共」
『はっ』
「速やかにこの街を隈無く調べ、王についての行方を探るのです」
『承知』
「では我々は、決めている館に向かいますよ」
目立たないよう、王については彼等に任せ、自分達は直ぐに予約した館に行き、その時を待つだけだ。
その男性の指示を聞き、一団は目的地に向けて歩き出す。ヒウンシティという舞台に、役者が集まって来ていた。