ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ 作:ぐーたら提督
「――ワルビ! ビルビル……!」
「……」
スカイアローブリッジ。ヒウンシティ側の出口の付近で、二匹のポケモンが身体を振っていた。
一体はメグロコの頃からサトシとピカチュウに勝つために追い掛け、今は進化しているワルビル。
もう一体は、サトシと戦い、実質的に勝利した牙が片方ない色違いのオノノクスだ。
『あ~、キツかった』
『それはそうだろう』
二匹は人の目に付かないよう、スカイアローブリッジ経由ではなく、下の河を泳いでここまできたのだ。
ドラゴンタイプのオノノクスはともかく、水に相性が悪い地面タイプを持つワルビルからすればかなりキツい道のりだった。
なので、今は泳ぎで身体中に付いた水を払おうと身体を犬みたいに振っているのである。
『さ~て、サトシとピカチュウはこっちで合ってるかな~?』
『……合って無ければ、無駄足だがな』
わざわざ、泳いでまでこっちに来たのは良いが、こちらにサトシがいなければ労力の無駄遣いである。
『多分、いるとは思うぜ? 今までのあいつの進む方向を考えると、こっちが自然だし』
それなりに根拠はあったのかと、オノノクスはちょっとだけ感心した様子だ。
『だが、もう夜だ。泳ぎで体力もそれなりに消耗している。今日はこの近くの身を隠しやすい場所で寝るべきだろう』
『だな~』
自分達は野生だ。下手に動いて見付かり、望んでもいない相手にゲットされるのは避けたい。
近くには人が大勢いそうな街、ヒウンシティもある。手頃な場所で寝るべきだ。
ただ、ワルビルは自分はともかく、オノノクスが簡単に捕まるとは思っていないが。
『早くまた戦いたいぜ~』
『なら、鍛錬で一撃でも当ててから言うのだな』
『無茶言うな! あんた、強すぎるんだよ!』
ワルビルは再会してからオノノクスに師事してもらっているのだが、実力差が有りすぎて何時もやられていた。おまけに一度も攻撃を当てれてない。
『加減はしないと言ったはずだが』
『ちょっとぐらいしろ! この鬼!』
『却下だ』
やるからには徹底的にやる。それがオノノクスのモットーだ。
『さっさと手頃な場所で寝るぞ』
『へいへーい』
ぶつくさと文句を良いながらも、ワルビルは師匠と一緒に寝床を探しに行くのであった。
「わ~、ポケモン達が沢山~! ピカチュウ、プニプニ~!」
「イーブイもふもふしてる~!」
「ヤナップ良い匂~い!」
「キバゴ可愛い~!」
「ジャノビー、格好いい~!」
「ヤーブ! ヤーブ!」
子供達がいる部屋に来たサトシ達。子供達とヤブクロンが、楽しそうにサトシ達が出したポケモン達と触れ合っていた。但し、ドリュウズは微妙な空気になりかねないのでいない。
「こ、子供って、なんであんなに元気なのよ……」
「わたし、もうくたくた……」
「……疲れた」
タマゴ見たさにいるシューティー、カベルネ、そこに更に面白さからも来たベル、子供達のパワフルさに圧倒されていた。
「大丈夫か、皆?」
「こんなので疲れるなんて、体力が足りないわね~」
「そう言う問題じゃないと思うけど……」
「うん、キミ達の体力が凄いだけだよ」
実際、デントも少し疲れている。Nは青年だけあって身体が大きく、自然の中で生きてきたので体力には多少自信があった。
「あはは、楽しそうで付き合わなきゃ良かったかも……」
「……私、もう帰って良い?」
「……」
シューティーは何も言わない。というか、言うだけの力が無く、ぐったりしていた。
タマゴ見たさに同行したが、疲労感から来なかった方が良かったと思ってしまう。
「まぁ、あの子達もポケモン達と触れ合えて楽しそうだし、ポケモン達も悪い気分じゃなさそうだし、もう少しだけね」
「……みたいね」
ポケモン達は沢山触られているが、好意的な言葉ばかりなので困ってはいるものの、払おうとはしなかった。
「でも何か、良いよなあ。こう言うの」
「うん、微笑ましい感じだね」
元気にはしゃぐ子供達。子供は元気が一番だと言うが正にその通りだ。
「サトシ兄ちゃんのポカブもプニプニ~!」
「N兄ちゃんのポカブもだよ~!」
「カ、カブブ……」
「ポカ~……」
二匹のポカブは、身体中を触られて何とも言えない様子だ。
「ミジュ、ミ~ジュ」
「ミジュマル、何か面白い~!」
「ツタージャ、クールでカッコいい!」
「……タジャ」
ポンポンと胸を張り、ホタチを構えるミジュマルや、クールなツタージャにも子供達には好評だった。
「ルッグ」
「おりゃ」
ズルッグが皮を引っ張る。すると、子供の一人もズボンを引っ張った。しばらく見つめ合うと、何かが合ったのか彼等は握手した。
「クール」
「クルミル、さっきのやって~」
女の子の頼みに頷くと、クルミルは頭のコブを女の子の頭に合わせた。女の子とクルミルは笑い合う。
「ハトーボー、ふかふか~」
「こっちもふかふか~」
「メブキジカも~」
「チラーミィも良いな~」
「ハトー……」
「ボー……」
「メ、メブ……」
「チラ~……」
二匹のハトーボーとメブキジカ、チラーミィは何とも言えない表情でその体毛をまさぐられていた。心地よいらしく、子供達は何度も何度も触る。
「ゾロ、ゾロロ、ゾロゾロ」
「ゾロア、すごーい! もってやって~!」
「ゾ、ゾロ……」
ゾロアは特性、イリュージョンの力で色々なポケモンや人に化けていたが、結構やり続けてるのでちょっと疲れている。
子供達は他にも達磨状態になったダルマッカを押したりしたり、バニプッチの冷たさを感じたり、他にも様々なポケモン達に善良で触れ合っていた。
「皆ー、戻ったわー」
「サトシ君達に迷惑は――掛けとるようじゃのー……」
そこに話し合いが終わり、ケースに入った一つのタマゴを持っていたユリとキクヨが戻って来る。
しかし、ぐったりしている三人や少し疲れてるNやデント、ポケモン達に構う子供達に苦笑いしていた。
「すまんのう、ここまで付き合ってもらって」
「いえいえ、俺は楽しかったです」
「あたしも~」
Nやデント、ベルも肯定し、シューティーやカベルネも悪くはなかったですと答えていた。
「それが、例の他の地方のポケモンのタマゴですか?」
「えぇ、そうよ」
ユリが持っているケースの中の茶色い模様があるタマゴに、他地方のポケモンを知っているサトシを含め、全員が注目する。
「あの、一枚撮っても構わないですか? 旅の記録にしたいんです」
「勿論良いぞ」
「ありがとうございます」
何時ものカメラを使い、シューティーは他の地方のタマゴの写真を撮る。疲れはしたが、見て撮ると言う目的は果たせた。
「どんなポケモンのタマゴなんだろ~」
「確か――ナックラーって言う名前のポケモンだったわ」
「ナックラーが!?」
「ナックラー……」
シューティーがいち早く、ポケモン図鑑でその情報を調べる。
『ナックラー、アリジゴクポケモン。砂漠に作った巣でじっくりと待機して、獲物が掛かるのを狙う』
図鑑に表示されたのは、オレンジ色の身体に大きな頭と小さな手足が特徴のポケモンだ。
「これがナックラー」
「初めて見るポケモンだ」
「なんか、可愛い~」
「でも、動きが鈍そうな身体をしてるわね」
「……苦しいんですが」
シューティーの図鑑に写るナックラーを見ようとN達が近寄ったため、シューティーは周りから押されていた。
「ちなみに、このナックラーは進化するとドラゴンタイプを得るそうなのじゃ。サトシ君の方が知っとるかもしれんの」
これはサトシがピカチュウといるからだ。他地方の彼ならナックラーについて知っている可能性が高いと予想していた。
「サトシ君知ってる?」
「あぁ、ナックラーは進化するとビブラーバ、更に進化するとフライゴンってポケモンになるんだ。え~と、ビブラーバがこれ」
『ビブラーバ、振動ポケモン。ナックラーの進化系。二枚の羽を激しく振動させ、強烈な頭痛を引き起こす超音波を発生させる』
図鑑には、ナックラーの頃とは二本の小さな角に全く違う黄色い身体に尾、緑色の羽を持つビブラーバが映し出される。
「うわ~、全然違う~!」
「でもドラゴンと言うよりは、虫に見えるわね」
「言われてみると……」
カベルネの言う通り、ビブラーバは外見からはドラゴンよりも虫ポケモンに近い。
「んで、これが――」
『フライゴン、精霊ポケモン。ビブラーバの進化系。砂漠の精霊と呼ばれるポケモン。羽の強烈な羽ばたきで起こした砂嵐の中に身を隠している』
次に図鑑に出たフライゴンは、しっかりとした手足や長い尾を持つポケモンで、ドラゴンポケモンだと思える風貌になっている。
ただ、目を覆う赤いゴーグルみたいのや、触角の様な角があるため、虫ポケモンの印象が残っていた。
「これがフライゴン。ドラゴンポケモンらしさが出てるけど、虫タイプらしさも合わせた様な姿だね」
「ただ、タイプには虫は無く、地面、ドラゴンの二つ。不思議です」
「それがポケモンだよ。不思議と謎に満ちた生物」
Nの言葉にですよね~とサトシやデントは頷き、残りは確かにと納得した様子だ。
「さて、わたしゃらの話も終わって、タマゴも受け取って夜にもなった。皆、お休みの時間じゃ」
「え~、もっとサトシ兄ちゃん達やポケモン達と遊びた~い!」
「遊びた~い!」
「ヤブブ!」
「わがままはダーメ! サトシ君達にも都合があるでしょ!」
そろそろ就寝の時間。しかし、子供達はもう少し遊びたいまた駄々を捏ねるも、ユリに即座に却下される。
「俺はもうちょっといても――」
「サトシ、それ以上は子供達の我が侭に繋がってしまう。ここはユリさんやキクヨさんに任せるべきだ」
「うん、その方が良い。それに、サトシくんは明日ジム戦かもしれないし、疲労は残さないようにするべきだ」
「……そうする」
子供達の為にももう少し構わないと言おうとしたサトシだが、デントとNの言葉に頷く事にした。
確かに我が侭になって子供達の為にならない可能性があるし、ヘトヘトになると明日あるかもしれないジム戦に支障を来してしまう。
子供達もこれ以上はサトシ達の迷惑になると分かったのか、渋々だが聞くことにした。
「じゃあ皆、遊んでくれた彼等にお礼を言いましょうね」
「ありがと~!」
「ヤブ~!」
子供達とヤブクロンは同時に礼を述べ、サトシ達はどういたしましてと微笑みながら返す。
「じゃあ、失礼します。皆、また会えたら会おうぜ!」
「うん!」
再会の言葉をかわすと、サトシ達はお別れの挨拶を告げ、子供達やユリとキクヨの見送りを受けながら彼等が借りるホテルを出た。
「あー、楽しかった」
「私達は疲れたわよ」
夜のヒウンシティの道を歩くサトシ達。カベルネの文句に、苦笑いのベルや微妙な表情のシューティーが頷く。
「にしては、文句を言わなかったわよね?」
「流石にあんな子供には言わないわよ」
最終的に自分の意志で同意したのだ。言うにしても、自分やシューティーに同行を呼び掛けたベルにだろう。
それに、ヤブクロンや子供達の仲が良い関係だったのを強く実感出来たので、ポケモンソムリエとしては良い経験にもなった。
「こんな日もたまには良いと思うよ。それに楽しかったのは事実だろう?」
「……まぁ、そうですね」
「うん、楽しかった~」
子供達は自分達の話を聞き、その度に凄いと言ってくれるので楽しかったのは事実だ。
「にしても、今日はゆっくり眠れそうだな~」
「いつも爆睡してる癖に」
疲れのおかげでよく寝れそうというサトシに、アイリスは何時もの事だと語る。
「あんなに元気な子供達と全力で触れ合ったら疲れて当然だろうし、じっくりと休むべきだよ」
「でも、サトシの場合、疲れてても、ポケモンの事になったら無茶しそうだけどね」
「ピカピカ」
Nはしっかりと休むようとの発言の後のデントの言葉に、うんうんと頷くピカチュウ。サトシは昔からそういう所がある。
「あはは、まあな~……」
思い返すと、かなり有ったのでデントの言葉を否定出来ないサトシだった。
そうこう話していると、サトシ達はポケモンセンターの前に到着する。
「……」
「Nさん? どうしました?」
すると、Nが一ヶ所を鋭く眼差しで見ていた。
「いや、何でもない。ボクは少し夜風に当たりたいから、先に寝てほしい」
「分かりました」
何かありそうだが、本人がこう言うのなら追求は出来ない。サトシ達は先にポケモンセンターに入る。
「人は離した。出てくると良い」
「……」
そして、Nは三匹と一緒に裏道に移動してから呼び掛ける。すると、二人の人物がゆっくりと現れた。
「キミ達か、スムラ、リョクシ」
出てきたのは、スムラとリョクシの二人だ。
「お迎えに参りました、N様」
「あの方や、団員達も心の底からお待ちしております。さぁ、我等と共に――」
「明日向かうよ。今日はまだダメだ」
「……何故でしょうか? もしや、連れ添いのあの連中と――」
「彼等は関係ない」
連れ添い――サトシ達の影響かとリョクシが言おうとしたが、Nの強い意志が込もった台詞に止められる。
「ボクは明日にはそちらは向かう。それは約束する」
「……本当ですか?」
「うん。だから、今日ぐらいは自由にしても良いだろう?」
「……では、そのように報告します」
無理に連れ出すのは、Nの実力や夜とは言え、大都市のヒウンシティは人が多い事を考えると、得策ではない。Nの言葉を信じ、二人は引き下がる事にした。
「N様、最後に一つ宜しいですか?」
「なんだい?」
「今日共にいた、少年少女達について――どう思っていますか?」
「何れ、倒すべき相手だと思っている」
これは紛れもない本心だ。サトシ達といるのは多くを学べるし楽しい。しかし、自分の理想の為には彼等を倒さねばならない。それも事実だった。
「分かりました、失礼致します」
その言葉に安心したのか、リョクシとスムラはホッとした様子で去って行った。
「さて、ゆっくり寝ようか」
「カブカブ」
「ブイイ~」
「……ゾロ」
一人の人間のNとしての最後の夜を。彼は口には出さないが、一番付き合いの長いゾロアだけは理解していた。
そんなゾロアを含め、三匹はNと共にポケモンセンターに向かった。
「じゃあ、今日はバイバイ。楽しかったよ~」
「凄く疲れたけどね」
「うん。今日はぐっすり眠れそうね~」
「直ぐ起きたいところだよ」
一方、サトシ達は良い時間帯や疲労から直ぐに寝ようとしていた。
「サトシ、明日に備えてしっかりと寝るんだよ」
「あぁ。じゃあ皆、お休み」
「お休み」
サトシ達はそれぞれ使わせてもらった部屋に入ると、準備をしたり、或いは直ぐにベッドに身体を預け、寝ようとする。サトシとピカチュウも同様だ。
「ほらピカチュウ、薬」
「ピカ」
但し、サトシは寝る前にピカチュウに、体調を改善するための薬を飲ませていた。
「ピーカ……」
「やっぱり、苦いか」
「ピカピ」
何度も飲んで、多少は慣れたとは言え、やはり苦いものは苦い。
「もうしばらくの我慢。それなりによくなって来てるしな」
「ピカ」
最近は良い日が少しずつ増えている。図鑑も、最初の日に比べてかなり改善されているとのデータを示していた。
「明日はジム戦! しっかりと寝るぞー!」
「ピカー!」
「じゃあお休み、ピカチュウ」
『お休み、サトシ』
互いに声をかわすと、彼等はすやすやと眠り始めた。明日に備えて。
だが、彼等は――いや、彼等だけではない。この夜がまだ終わらず、寧ろ、今からこそが本番であり、長い夜が直ぐそこにまで迫っていることを一部を除き、ヒウンにいるほとんどの者達は知らない。
「いよいよだな……!」
「えぇ、我等ロケット団のイッシュ地方制圧」
「その本格的な始動の第一歩がもうすぐ始まるのにゃ……!」
ヒウンシティの下水道。メテオナイトを見事手に入れたロケット団は、実験を済ませたあともうすぐ迫るその時に備え、待機していた。
「気は抜くなよ」
そこには、この作戦の準備に当たって派遣されたエージェント、フリントもいた。
「当たり前よ。というか、ここまで来れば、アタシ達が油断しようが計画は失敗しないわ」
「そうそう、例の連中の姿も一切ない。仲間ももうすぐ向こうから来る」
「どんなへまをしようとも、成功は全く揺るがないにゃ」
「確かにそうだがな」
フリントも作戦の成功は確信していた。しかし、引っ掛かる。自分達はどうも『何か』を見落としているように思えてならないのだ。それも致命的な何かを。
(……しかし、何を?)
だとしても、自分達は何を見落としているのだろうか。それが全く分からない。
(……そもそも、例の連中は何故大人しいのだ?)
遭遇時の会話から考えても、謎の一団は活動しようとするこのイッシュで動く自分達を見逃すつもりはない事は明確だ。なのに、何故奴等はここまで動きが見せないのか。
「――報告が有ったぞ」
フリントが必死に頭を働かせる途中、コジロウが本部からの報告が来たと自分達に話す。
「後三十分でとのことだ。遮断も開始している」
「もう間近にゃ」
「じゃあ、動きましょう」
「……あぁ」
彼等には、ロケット団の制圧を速やかに行うべく、電源を切るためヒウンの発電所に向かう命令が出ていた。三人と一匹は、地下水道を駆けていく。
「――ふん、愚か者共が」
その後ろにある角から、目を隠すマスクと黒い服をした三人の男が現れる。ロケット団を尾行していた三人だ。
「精々、頑張るが良い」
「我等の引き立てるための――最悪の悪役として、な」
嘲笑を浮かべる三人だが、そのやり取りの後、互いを見て頷くと気を引き締める。
「作戦を再確認する。内容は分かってるな?」
「我々はこれから、奴等を捕らえる」
「それも速やかに、だろう?」
「うむ。では行くぞ」
彼等は下水道を音を立てずに、静かに走っていった。
「あれ、おかしいな?」
「どうした?」
「電話が通じないんだ」
「電波も途絶えてるな」
同時刻、とある会社のオフィスで社員が家族に電話で遅くなると伝えようとしたのだが、繋がらないのだ。
「通信過多で通りが悪くなってるんじゃないのか?」
「深夜なのにか?」
「最近あるらしいぞ。何でも、夜間出勤の会社が増えて、連絡が鈍くなる事が」
「ふーん。じゃあ、時間を置いてからにしとくか」
大して騒ぐことでもないと、社員達は特に疑問にも思わなかった。
しかし、それは通信過多が原因ではない。ヒウンシティ上空で行われている、ある組織による電波妨害が原因だった。
通信会社ではそれを理解しており、社員が対応に追われている。
「何だ、この電波……!?」
「発信場所は!?」
「探査に当たっていますが、出本が分かりません!」
「くそっ、どこから出ているんだ……!? それに、誰がこんなことを……!?」
発信場所もそうだが、誰が何の目的で妨害電波を出しているのかが分からない。それもあって、社員達の対応は全く進んでいなかった。
「外への連絡は」
「無理です! 妨害電波はヒウンシティ全域に広がっているため、繋がりません!」
通信で他の街に助けを求めるのは不可能。となると、それ以外の方法で外部にこの事態を報告するしかない。
「一度、市長やアーティさんに報告しては?」
「後、今この街にはアララギ博士もいます。博士にもしてはどうでしょう?」
一人の社員の提案に、この場のリーダーが考える。他の街との連絡が出来ない以上、先ずは市長やジムリーダーのアーティに報告するのは最善だと言えるだろう。アララギにもした方が良い。
「よし、誰か彼等に報告を。他は引き続き出本の捜索や、対処を頼む!」
「了解!」
三人の職員が向かう中、アララギとマコモ、ショウロがいる預かりシステムの場所では。
「これは……妨害電波よ!」
「何処からか分かる!?」
「分かりません! だけど、範囲を考えるとヒウンシティの中か、離れてもそう遠くないと思います!」
彼女達も妨害電波を感知し、その発生源を探していた。しかし、通信会社同様に特定は出来ない。
「……ショウロちゃん! ここから街中に声を届ける事は出来る!?」
「無理です! このジャミングのせいか、音声機能も阻害されてます! それにここは転送システムに特化した設備ですし……」
仮にジャミングが無くとも、街中には届ける事は出来なかった。
「アララギ、これは……!」
「おそらく、ロケット団の仕業だわ。こんなに早く動くなんて……!」
メテオナイトを入手した以上、その内動くとは確信していたが、まさか今日中に仕掛けてくるとは思わなかった。動きが早すぎる。
この早さ、おそらくロケット団はしばらく前から準備を行なっていたのだろう。
「警察に話してくるわ!」
間に合うか分からない。しかし、やるしかない。アララギは全速力で警察に向かう。
「もうすぐですね、サカキ様」
「うむ」
ロケット団本部。椅子に身体を預け、肘掛けに腕を載せた体勢のサカキが、秘書のマトリに用意してもらってコーヒーを味わっていた。
「イッシュ地方最大かつ、他地方と経済、交流に必須の大都市、ヒウンシティ。ここを制圧すれば、今後の作戦はスムーズに行える」
「はい」
「あの連中に尖兵としての任を任せて正解だったな」
あの連中とは勿論、ニャース、ムサシ、コジロウの事である。
「彼等はどうしますか?」
「このミッションが終わり次第、昇格させても良いだろう」
イッシュ完全制圧に向けての、隊長にする予定だ。勿論、成果を出せば更なる昇進をさせる予定である。もしかすると、幹部かそれ以上もあり得た。
「長い目で見た甲斐があったというものだ」
「その御言葉を直接お伝えすれば、彼等はさぞかし喜ぶことでしょう」
「そうしよう」
コーヒーを、香りを楽しみながら一口味わう。カップを置くも、その表情は少し険しい。
「しかし、気になるな」
「謎の組織についてですか?」
「そうだ」
自分達はここまで来たのに、向こうの動きは最初の遭遇以来、全く不明。サカキも不気味だと思うほどだ。
「しかし、もう気になる必要はないかと。ここまで進んだのです。向こうがどう動こうが、手遅れかと」
「――そうだな」
マトリの言葉も尤もだ。自分達の計画はもう充分過ぎる所まで来ている。今から動こうが、手遅れだ。所詮、その程度の組織だったということだろう。
「後、少しちょっとか」
「はい。既にヒウンシティ上空、海域で待機しております」
高性能ステルスを搭載した大量のロケット団の飛行機や潜水艦が、ヒウンシティの空や海で作戦の時を今か今かと待っていた。
ちなみに、この大量の飛行機や潜水艦はこの日までの交渉、制圧後の利益を約束して得たイッシュのスポンサーの手引きにより、イッシュには知られてない。
流石に大組織のロケット団とはいえ、拠点はカントー。イッシュで完璧に隠匿するのは彼等だけでは無理があるので、スポンサーを増やす目的を兼ねて現地に協力を求めたのだ。
作戦はこう。先ずは既に行なっている、メテオナイトの膨大なエネルギーを使った特製の機材で周りの街との電波を遮断し、ヒウンシティを孤立。
ニャース、ムサシ、コジロウ、フリントが発電所を襲い、ヒウンシティを停電させれば、その時を切欠に待機している五千の団員やポケモン達が一斉にヒウンシティに上陸。速やか町を制圧するという訳だ。
『――サカキ様』
モニターの画面が切り替わる。ニャース達だった。
『発電所に到着しました』
『職員は既に眠らせ、別室に預けています』
『後は、ご命令を待つばかりです』
「ご苦労。直ぐに命令する。もう少し待て」
『はっ!』
「サカキ様、どうぞ」
「うむ」
サカキがパソコンのスイッチを押す。すると、音声を届ける状態となった。
「聞け、我が輝かしいロケット団の者達よ。諸君等は今から、イッシュ地方全域を支配する第一歩を刻むだろう。諸君等の活躍に期待する!」
ははっと、モニターから待機中の団員達の声が上がる。後はサカキの一言で作戦が始まるはずだ。
『――宜しいですかの、サカキ様?』
「ん? ゼーゲルか? どうした?」
その時、モニターがまた切り替わる。そこに映し出されたのは、ゼーゲル博士だった。
『いえ、実は……先程から、メテオナイトが妙な反応を示していまして』
「妙な反応だと?」
『えぇ、入手したデータの中にも存在しなかった物で、少し気になって報告を……』
ロケット団が回収した特大のメテオナイトは、ヒウンシティの中心の上空にある、飛行機の中でも最大級の物の中に搭載されていた。
ここから町全体にジャミングを仕掛け、効率よく他の街との連絡手段や転送手段を絶っているのである。
その為の膨大なエネルギーを機材に送ろうと、動かした直後だった。メテオナイトが調査中にも無かった妙な反応を起こしたのは。
「異常が発生しているわけでは無いのだな?」
『はい。少し熱が――』
直後、けたたましい音が、この部屋やゼーゲル博士がいる飛行機の部屋、それを聴く者達の耳に強く響いた。
『何が起きた!?』
『ゼーゲル博士、大変です! メテオナイトから大量の熱が発生! しかも、加速度的に上昇し続けています!』
『更にその高熱に伴い、膨大過ぎるエネルギーが発生! このままでは、そのエネルギーが暴走してしまいます!』
『馬鹿な! そんな情報は全く無かったぞ!?』
ムサシ、コジロウ、ニャースが入手したメテオナイトの研究データには、そんな現象は全く無かった。
サカキとゼーゲル博士、その助手達や秘書のマトリも突然の事態に、呆然としていた。
「ゼーゲル! メテオナイトを今すぐ何とかしろ! この際、破壊しても構わん!」
このままでは不味い。ロケット団のボスとして今まで数々の危機を乗り越えてきた経験が、サカキにそう訴えていた。しかし、既に手遅れだった。
その数秒後、モニターの画面は真っ白に輝き――ブツンと途切れた。
「何が起きている……!?」
予想だにしない事態に、サカキですらも、そう言うしか出来なかった。
「――例のデータが感知されましたねー」
「とうとうやってしまいましたか。それに随分と早い」
眼鏡を掛け、金髪に青い癖毛、白衣を纏う男の報告に、独特のモノクルを付け、マントを纏う男がやれやれと顔を振る。
「しっかし、本当に愚かですねー。少し考えれば、分かりそうな事なのに」
メテオナイトは膨大なエネルギーを宿す隕石。そんな代物の中でも最大級の物が、どうして今まで回収されなかったのか。
理由は簡単だ。危険過ぎるのである。メテオナイトは膨大なエネルギーを生む反面、その代償として高熱による二重のエネルギーを生み出す性質を宿していた。
一見、凄いと思われがちなこの性質だが、実際はとんでもなく危険なのだ。
何しろ、それはある地点まではないと起きない上に、あるレベルまで発生すると際限なく溢れ出し、爆発してしまう。しかも、厄介な性質がまだ一つあるのだ。
また厄介な事に、これらは初期段階では起きない。何度かエネルギーを放出する事で、始めて起きる性質なのだ。これゆえ、彼等はメテオナイトを使うことを禁じていた。
即ちメテオナイトとは、人の手に負えない、禁断の代物だったのである。
そして、ゼーゲル博士達が知らなかったのは、先ずはニャース達が入手したデータが半分でしか無かったから。
実は、アンチモニー研究所にはもう半分のデータが存在していた。そう、メテオナイトの危険性についてのデータだ。
研究所がそれを公表しないのには理由がある。メテオナイトを自爆装置として悪用されるのを恐れたのだ。
何しろ、使い方次第ではとんでもない兵器と化しかねない。公表出来ず、厳重に仕舞われるのは当然。
知ることが出来るのも、アンチモニー研究所の者以外はアララギのような高名な人物だけだった。
しかし、だとすれば何故この事態になる前にメテオナイトを回収しなかったのか、また、ロケット団が手に入れたメテオナイトは暴走しなかったのかと言う疑問が出る。
先ずは回収しなかった理由だが、それは何が起きるか分からなかったからだ。以前ある程度の大きさのメテオナイトを発掘した際、エネルギーが暴走し、少なくない被害を出した。
その事もあり、迂闊には発掘出来なかったのだ。最大級のメテオナイトを回収したその時、前とは比べ物にならない被害が起きない様に。
ただ、アンチモニー研究所やアララギは知らなかったが、実はリゾートデザートの最大級のメテオナイトは隕石の中心部に存在するためか、暴走の危険性は控え目だった。
とはいえ、それでもフシデ達が暴れる程の影響を与え、結局は暴走したのだから、正確には大きさの割には控え目と言うべきだが。
話は戻し、ロケット団がリゾートデザートで手に入れたメテオナイトの暴走の可能性が控え目なのは、同じくメテオナイトの研究をしていたこの二人や、仲間しか知らない。
また、ロケット団が手に入れたすり替えられたメテオナイトは、彼等が手を加えた物で、膨大なエネルギーを暴走のリスク無しにしつつ、暴走を利点を変える目的で造られた物。
ただ結果は著しくなく、完成したのはエネルギーの大幅低下と引き換えに暴走が無くなった劣化版だけだった。だからこそ、ロケット団は調べても暴走の危険性に気付けなかった。
「まぁ、後はゆっくりしてください。ヒウンシティに大混乱を招いた――最悪のテロリストとして、ね」
彼等はこれを狙っていたのだ。だからこそ、ロケット団の行動を誘導しつつ、見逃したのである。全ては、ロケット団を自滅させるために。
そして、それを切欠に自分達が出るために。
「さぁ、始まりますよ。ワタクシ達の台頭が」
彼は楽しそうに告げた。
深夜、ポケモンセンター。明日に備えての深い眠りに付いていたサトシの耳に、突如としてそれは聞こえた。何かが爆発するような轟音が。
「な、何だ今の!?」
「ピカ!?」
そのとんでもない音に、サトシとピカチュウは目覚め、思わず部屋を出る。
「アイリス、デント!」
廊下は真っ暗だが、夜に目が慣れたおかげか、その状態でも二人を視認することは出来た。
「い、今の聞こえた!?」
「キバキバ!」
「うん、何かが爆発するような音だった……!」
アイリスやデントも、その音を聴いていた。つまり、それは聞き間違え等ではないと言うことだ。
「サトシ!」
「サトシくん!」
そこにシューティーやNが合流する。
「シューティー、Nさん! 二人も今の……!」
「聴いた……! けど、一体何の音なんだ……?」
「僕達もさっぱりで……」
何しろ、さっき目覚めたばかりだ。ここにいる全員は何が起きたのか、予測すら出来てなかった。
「とりあえず、ジョーイさんに会って確認して見よう」
「そうですね。その方が良いかと」
廊を走り、ジョーイに会いに行こうとした五人だが、途中で自分達と同じ様に轟音で目覚め、戸惑う人達のせいで中々前に進めない。
「皆!」
「ベル! カベルネも!」
「何が起きるてるのよ、これ!?」
「分からない! 俺達も確かめようとしてる途中で……!」
ロビーでベルやカベルネとも合流するが、二人も混乱していた。
「ジョーイさんは!?」
「今あそこ!」
ベルが指差す先には、大量の人々に対応していたジョーイの姿があった。
「あ~、これじゃあジョーイさんに話が聞けないじゃない!」
「かといって、力強くで押し退けても混乱が広がるだけだよ」
「それに、ジョーイさんも戸惑っているようですし……」
「じゃあ、外に出て確かめるのは?」
「外がどうなったか不明なこの現状で、出るのは危険だけど……」
「じゃあ、行きましょう!」
状況を理解する事は出来る。ならばと、サトシは外に出ようとする。
「待った! 僕も出るよ!」
「あたしも!」
「ボクも」
「僕も出ます」
サトシを一人で外に出すのは不安だと思ったのか、N、シューティー、アイリス、デントの四人が一緒に行くと告げる。
「じゃ、じゃあわたし達は……何とかジョーイさんに話を聞く!」
「あんた達、無茶はするんじゃないわよ……!」
分かったとサトシ達は頷くと、外に出る。彼等の前に写ったのは――
「な、なんだよ、これ……!?」
「ヒウンシティが……!」
「燃えている……!」
至るところに炎が溢れ、建物が傷付いたヒウンシティの姿だった。