ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ   作:ぐーたら提督

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始まるその時

 深い夜の空、暗さに染まった雲と天を、一つの存在が高速で突き進む。その軌道にはジグザグの光の残滓を残す。

 存在の目的は、メテオナイト。正確には、その力の波動。並々ならぬそれを感じ、昼に一度リゾートデザートに赴いていた。

 しかし、姿を隠す一環のあるエネルギーのせいで外の様子が分かりづらくなっていたため、今を含めて遅れていた。

 そして、先程その波動を感じてその場所――ヒウンシティへと全速力で向かっていたのだ。

 

「――連絡は取れないの?」

 

「はい。どういう訳か、通信が全く繋がらないのです」

 

「やっぱり、何かあったのね……」

 

 同時間帯。ある場所で、髪は短めの黄色のぱっつんに、衣装は全体的に黄色と黒の配色。背中や腹部の肌の露出が多いノースリーブ。

 また、赤と青の長く垂れるコード付きのヘッドホンが印象的の美女が苦い表情を浮かべていた。

 彼女は二時間程前でヒウンシティで感知された、謎の音と衝撃の報告に急いで周りを起こし、どう動くかを話していた。

 

「なら、仕方ないわね。ヘリを直ぐに用意しなさい。直接向かうわ」

 

「危険です! 現場がどうなっているのか全く分からないのですよ!?」

 

「だから何? どう考えても非常事態なのに、全く動かないジムリーダーがどこにいるの? まさか、他の町の騒動だから見過ごせとでも?」

 

 女性はジムリーダーだ。但し、シッポウジムのアロエではない。別の町のジムリーダーだ。

 

「お気持ちは分かります! しかし、この事態から今後がどうなるのか全く不明なのです! 下手すれば、この町にも同様の事態になる場合も有り得るのですよ!」

 

「だからと言って、そんな消極的な判断では手遅れになる可能性もあるでしょう」

 

「そうかもしれませんが……!」

 

「ただ、私一人で行くつもりはないわ。――他の街との連絡を繋げなさい」

 

「それは……もしや……!」

 

「えぇ、イッシュ中のジムリーダー全員に呼び掛けます」

 

 イッシュ一発展した、ヒウンシティから全く返答が無い。もしやの場合も十分に有り得た。大規模な騒動の場合、他の町の助力は必須だ。

 

「指示は以上よ。早く準備しなさい。今は一秒だって惜しいのよ」

 

「……はっ!」

 

 女性の指示を受け、男性は準備を素早く始まる。

 

「……大丈夫かしら」

 

 ヒウンシティにいる同じジムリーダー、アーティの心配をしながら、ヒウンシティの方向の夜空を見上げる女性。その時、あるものが見えた。

 

「光……? いや、違う……」

 

 夜空に光る線が現れたのだ。但し、形がジグザグだった。光ではなく稲妻だが、今は雲が無いにもかかわらず出ていた。

 

「電気ポケモン……?」

 

 稲妻が瞬く間に現れ、消えた点から、凄まじい速度で飛翔している事が分かる。

 

(あのポケモンじゃない)

 

 一つのポケモンの姿が脳裏に浮かぶも、雲が全く見えなかった点からそのポケモンではない。

 となると、残りはもう一匹だけ。自分の憧れの、あるポケモン。このイッシュに広く伝わる存在。

 

(それが、ヒウンシティに向かっている……!)

 

 この事態とは、無関係ではない。直感的にそう悟った女性は一刻も早くヒウンシティに向かおうと、自分から準備を始めた。

 

 

 

 

 

「一匹を集中して狙え! ミネズミ、ハイパーボイス!」

 

「命令するんじゃないわよ! コロモリ、エアスラッシュ!」

 

「ここは聞くのが最善だろ! デスマス、シャドーボール!」

 

 ロケット団と三人組のバトル。フリントの指示により、ミネズミからは音の衝撃、コロモリからは空気の刃、デスマスからは漆黒の球が放たれる。

 

「パルシェン、まもる」

 

「シェーーーン!」

 

 しかし、パルシェンが前に出ると、緑色のオーラで三つの技から仲間を守る。

 

「ラフレシア、しびれごな」

 

「レシア!」

 

 そこに技の後の硬直を狙い、ラフレシアが麻痺の性質を含む粉を放つ。それを吸い、三匹は麻痺状態になる。

 

「キュウコン、わるだくみ。そこからのはじけるほのお」

 

「クーー……オォーーーンッ!!」

 

 更にキュウコンが麻痺で戸惑う間に力を高め、強化された炎を放ち、三匹やロケット団に大ダメージを与える。

 

「つ、強い……!」

 

「こいつら、無茶苦茶強いわ……!」

 

「パルシェンの防御力で三匹の技を受け止め、その隙にラフレシアの花粉で動きを止め、そこに力を高めた一撃……! 何という、コンビネーション……!」

 

 三位一体の非常に高度な戦術を前に、ロケット団は悟る。今の自分達ではこの三人組には勝てないと。

 

「逃げられる等と思うな」

 

「貴様等はここで終わる」

 

「それは確定した未来だ」

 

「はっ、そんなの知ったことじゃないわよ!」

 

「ここでやられてたまるかよ!」

 

 ムサシとコジロウが勢いよく叫ぶも、三人組の告げるのが事実になる時が迫っていた。フリントが一番それを理解している。

 

(だが、どうする……!?)

 

 この三人組の実力は、自分達を上回っている。この現状では援軍も期待出来ない。このままでは、間違いなくやられる。

 

「時間が迫っている」

 

「ては、そろそろ決めるとしようか」

 

「この一撃で眠るが良い」

 

「ラフレシア」

 

「キュウコン」

 

「パルシェン」

 

 やれ、三人組が止めの一撃を指示しようとしたその時、機械音が鳴り響く。

 この場の全員がその音の発生源に振り向くと、大型のトラックがこちらへ走って来ていた。

 トラックはロケット団と三人組の間に割り込むと急停止。ドアが開く。

 

「――乗れい!」

 

「ゼーゲル博士!?」

 

 トラックに乗っていたのは、墜落した飛行機にいたはずのゼーゲル博士だった。

 生きていたことに驚きを隠せないロケット団だが、これは絶好の機会だ。

 

「逃がすか! ラフレシア、マジカルリーフ!」

 

「キュウコン、はじけるほのお!」

 

「パルシェン、つららばり!」

 

 トラックに乗って逃げようとするロケット団だが、三人組がそれを許すわけもなく、三つの攻撃が迫る。

 

「ポチッとな!」

 

 ゼーゲルはある機械を取り出し、スイッチを押す。すると、エネルギーのバリアが展開され、三つの技が防がれる。

 

「耳を防げ! ミネズミ、いやなおと!」

 

「ミネーーーッ!!」

 

 黒板を引っ掻いたような、つんざくような不快な音が強く響く。突然の音に、三人組は耳を抑え、ポケモン達は動きが止まる。

 

「デスマス、くろいきりだ!」

 

「コロモリ、めざめるパワーよ!」

 

 次に、大量の黒い霧が三人組とポケモン達の視界が塞ぎ、めざめるパワーが足止め。

 その隙にロケット団はトラックに乗り込み、それを確認したゼーゲルがアクセルを踏んでトラックを動かす。

 トラックはみるみる加速していき、その場から離れていった。

 

「くっ、逃がしたか……」

 

「だが、仕方あるまい」

 

「これ以上は無駄だな。時間も迫っている。隠れるぞ」

 

 もう追い付けないと三人組は判断し、姿を隠すべく下水道へと身を移した。

 

 

 

 

 

「お二人共、ご無事ですか?」

 

「は、はい。ありがとうございます」

 

「……」

 

 突如として現れた謎の一団――プラズマ団。男性も女性も黒い服の上に白と鼠色、胸元にPとZが合わさったようなエンブレムが刻まれたフードを被る独特の格好をしていた。

 その中から一歩出てきた人物に、サトシはお礼を言うが、Nは無言だった。

 

「……Nさん?」

 

 男性が心配の声を掛けているにもかかわらず、Nが全く何も言わないことにサトシは違和感を抱く。見ると、Nは男性を何とも言えない表情で見つめていた。

 

「久しぶりですね。N」

 

「えっ? Nさん、この人と知り合いなんですか?」

 

「……まあね。久しぶり――父さん」

 

「父さん!?」

 

「ピカ!?」

 

「ポカ!?」

 

 まさかのNの父親に、サトシとピカチュウ、Nのポカブも大きく驚愕。Nと男性を交互に見る。

 

「えぇ、久しぶりです。N。――とはいえ、それは後回し。今はこの騒動を収めましょう。微力ながら協力します。我々――プラズマ団が」

 

「プラズマ団……」

 

 男性がさっきも口に出してた名。やはり初めて聞く一団の名前だ。

 

「ある目的を持って行動している我々の名称です。ワタクシはゲーチスと申します」

 

「あっ、俺はサトシです」

 

「ご丁寧にありがとうございます」

 

 ゲーチスは深々と頭を下げ、サトシに自己紹介する。

 

「――今はこれだけで良いでしょう。先ずはこの騒動の方を」

 

「あっ、そうですね」

 

 目的は不明だが、今はこの事態を解決する方が優先だ。

 

「――サザンドラ」

 

「――ザーン」

 

「そのポケモンは……?」

 

 男性、ゲーチスの後ろから、六つの翼と両手にも顔があるポケモンが出てくる。

 

「彼はワタクシの相棒である、サザンドラです」

 

 サザンドラの雰囲気に、強い、相当鍛えられているとサトシは感じた。

 

「フーフー」

 

「あっ、お前は……」

 

 フシデ達から、一匹のフシデがサトシに近付く。騒動の件で手当した絆創膏を付けたあのフシデだ。

 

「助けてくれてありがとな。だけど、どうしてここに……?」

 

 セントラルエリアで保護されていたはずのフシデ達が、どうしてここにいるのだろうか。

 

「フー、フフフーフシ」

 

「……なるほど」

 

「Nさん、どういう事ですか?」

「このフシデが言うには――」

 

 フシデ達は最初、爆発や炎、無数の見たことないポケモン達に驚き、危うくパニックに陥りかけていた。

 しかし、警官達が自分達を必死に守りながら戦うその姿や、フシデの言葉にリーダーは冷静に状況に見定め、その結果、無数の見たことないポケモン達が過剰に暴れていることを理解した。

 つまり、対処すべきは見たことがないポケモン達の方だと判断。自分達の安全の為にも、サトシ達に協力する事し、こうして彼等の元に駆け寄ったのだ。

 

「そっか。それで来てくれたんだな」

 

「フー」

 

 うんと笑顔で頷くフシデ。サトシも笑顔で返す。

 

「なるほど。つまり、これでフシデ達も共に戦ってくれるという事ですね」

 

 少し予定は崩れたが、支障を来す程はない。ゲーチスはそう判断した。

 

「サトシ君、貴方方はこれからどうする予定ですか?」

 

「まだ避難が終わってない人達の誘導や救助を」

 

 フシデ達の確認は、彼等が共に戦う味方になってくれたため、もう必要ない。となれば、自分達がすべきは誘導や救助になる。

 

「分かりました。我々もそのようにしましょう」

 

「ただ、ポケモンセンター、ポケモンジム、バトルクラブの防衛にも回せるなら回した方が良いかと」

 

「それについて安心を。この事態から推測し、既に回しています。今頃到着し、協力しているかと」

 

「そうですか!」

 

 他の場所にもプラズマ団が来ていたのは、ゲーチスの指示からだった。

 

「さて、救助に向かいましょう」

 

「はい!」

 

「――えぇ」

 

 フシデ達やプラズマ団という援軍を得て、向かうサトシ達だが、Nは走りながら少し険しい表情になっていた。しかし、それは後回しと言いたげに顔を振り、救助に向かう。

 

 

 

 

 

「まさか、こんな事態になるなんてね」

 

 警察署。救援要請の為、アララギは他の街との通信をしようと壊れた機材から無事だったパーツを集め、間に合わせの通信機を作っていた。

 ただ、フシデ達、そして謎の一団、プラズマ団の増援により、少し方針を変更。スピーカーの部品を集めると、アララギは声を出す。

 

「ヒウンシティの皆さん! ただ今、トレーナー達や警官、プラズマ団と呼ばれる人々が救助に当たっています! また、フシデ達も皆さんを守ろうと動いています! ですので、彼等の案内に従って避難してください! 繰り返します――」

 

 自分達はフシデ達が他地方のポケモン達を攻撃しているのを知っているが、まだ避難出来てない人々がフシデ達を見れば、また暴れているとパニックを起こす可能性が高い。先ずはそれを抑えるのが最優先だ。

 それに、フシデ達が助けに来たと分かれば、人々もスムーズに避難出来る。その為にも、アララギはスピーカーで街中に向けて事態を何度も伝える。

 

「ありがとうございます、アララギ博士。後は我々が状況をお伝えしますので」

 

「えぇ、私は他の街との通信の方を」

 

 一分程繰り返すと、アララギは警官と交代。間に合わせの通信機の用意に取り掛かる。

 親友や子供達が頑張っているように、彼女もまた己に出来る勤めを果たすべく、奮闘する。

 サトシ達と違い、戦う術も無い自分に出来るのは、機械に関する事のみ。ならば、それを全力でこなすだけだ。

 

 

 

 

 

「フー! フーフーフー!」

 

「プス……!」

 

「スタ……!」

 

 大量のフシデ達によるヘドロばくだんの雨が、カブトプスやオムスターを含めたポケモン達を襲う。

 

「ジャノビー、グラスミキサー! ドッコラー、ばくれつパンチ!」

 

「ヤナップ、かわらわり! イシズマイ、シザークロス!」

 

「ジャノジャノ……ビーーーッ!」

 

「ドッコーーーッ!」

 

「ナプウッ!」

 

「イマイーーーッ!」

 

 怯む隙に、シューティーやデント、他のトレーナーや警官達が一斉に攻撃。

 

「全員、攻撃せよ!」

 

 更にこの場所にも来ていた、リョクシ率いるプラズマ団の面々も加わり、カブトプスやオムスター達は倒された。

 

「よし、今までよりもグッと楽になった!」

 

「えぇ、フシデ達は勿論、あの人達も加わってくれましたからね」

 

 ただプラズマ団について、二人は少し気になっていた。一体、何者なのだろうかと。

 

「向かいましょう」

 

「フー!」

 

 手伝うぞと言うと、フシデ達がシューティーやデント達の横を規律正しく並び進む。

 

「……前は済まなかった」

 

 フシデ達に、シューティーは謝る。これは前の件でだ。あの時はアーティが提案するまでは力強く以外で対応する方法が無かったので仕方ない面はあるのだが、それでも助けられた以上は謝って置きたかった。

 

「フー」

 

 気にするなと、フシデは返す。あの時は暴れた自分達にも非があると分かっているからだ。それよりも、今はこの事態の収拾が先。

 二つの援軍により、大幅に戦力が増したシューティー、デント達は今までよりも遥かに速いペースで救助、保護、移動を進めていく。

 

「着いた! ここのはず!」

 

「行きましょう!」

 

 そして、遂に保育園の子供達、ユリやキクヨが外泊に使っていた建物に到着する。シューティーとデントはこの中に人がいることを話してから素早く階段を駆け上がる。

 

「ユリさん、キクヨさん!」

 

 ユリとキクヨがいる部屋に入る。中は子供達の言う通り燃えており、煙も発生していた。

 

「デント君に……シューティー君!?」

 

「救助に来ました」

 

「こんな事態だと言うのに……済まんのう」

 

「困った時は助け合うのが当然ですよ。ただ、タマゴは……?」

 

「隣の部屋に……! ただ、扉が開かないの……!」

 

 タマゴは別室に預けていたが、扉が開かないため、二人は避難出来なかったのだ。

 

「一度、凄い衝撃がしたのじゃ。おそらくは――」

 

「その時の衝撃で歪んで……!」

 

 シューティーとデントが試しに扉を開けようとしたが、ビクともしまない。

 

「僕達だけじゃ無理か……!」

 

「だったら……ドッコラー!」

 

「ヤナップ!」

 

「ドッコ!」

 

「ヤナ!」

 

 自分達だけは不可能。そう判断し、助けに二人はポケモン達を出す。二匹の力を借り、扉を動かしていく。

 

「――よし、開いた!」

 

「タマゴを!」

 

「えぇ!」

 

「急ぐのじゃ!」

 

 二匹の助けもあり、扉が開いた。だが、この部屋も燃えている。直ぐに運ぶ必要があった。

 いち早くタマゴを運ぶため、シューティーとデントは手持ちを繰り出し、ユリとキクヨが手頃な箱に置く。

 

「後一つ……!」

 

 次々と運び、残る一つとなった。彼女達がヒウンシティに来る理由である、ナックラーのタマゴだ。

 

「――えっ?」

 

 ケースに仕舞われたタマゴの近くにパラッと、欠片が落ちた。シューティーが思わずその上を見ると――天井に無数の亀裂があった。

 そして、ピシピシとまた新たな亀裂が走る。直後――天井の一部が崩れ、タマゴに向かって落下した。

 

「くっ! ――うあっ!」

 

 咄嗟にシューティーが動いた。タマゴを間一髪で庇うも、その肩に瓦礫が激突し、強い痛みが走る。

 

「シューティー! 大丈夫かい!?」

 

「大丈夫です……!」

 

 痛みに耐えながら、シューティーはナックラーのタマゴを見る。傷一つ無く、ホッと安心した。

 その時、微かにタマゴが揺れていたのを、キクヨだけが見ていた。

 最後のタマゴも無事保護し、四人はポケモン達の手助けを受けながら建物を後にした。

 

「ユリさん、キクヨさん、後は子供達もいるヒウンジムで避難してください」

 

 

「えぇ。それとシューティーくん、さっきは本当にありがとう」

 

「わたしゃからも礼を言わせておくれ、本当にありがとう」

 

「……いえ」

 

 さっきはシューティーがいなければ、ナックラーのタマゴは被害を受けていただろう。最悪の事態も有り得た。

 それを止めてくれた事に二人は深く感謝する。ただ、シューティーは少し照れ臭そうだ。

 

「――柄にも合わない事をしたな。って所かな?」

 

「デ、デントさん!?」

 

「違うかい?」

 

「いや、まぁ、合ってますが」

 

 身を挺して庇う。命が懸かっている場面なので、咄嗟に動くのも無理はないが、正直自分らしくなく、どちらかと言うと、サトシの様だとシューティーは思っていた。デントもである。

 

「――さて、シューティー。君は一旦、ヒウンジムで休んだ方が良い」

 

「……まだ動けますが」

 

「怪我の影響が全く無いとは限らない。フシデ達やプラズマ団の人々がいるとは言え、この事態が片付くにはまだまだかかりそうだしね」

 

 二つの大きな援軍を得たからと言って、この事態が直ぐに収拾されるかと言えば、答えは否だ。

 理由は単純な二つ。ロケット団のポケモン達の数が多い。ヒウンシティは大都市だけあって、避難する人々やポケモン達も多い。

 撃破、防衛、救助を一度にこなさなければならないのだ。時間が掛からない方がおかしい。

 さっきまでは何をするにも非常に苦労したが、援軍が来てやっと充分な行動を取れる。それが現状。最後までやるには、休憩は必須だ。

 

「だったら、デントさんも休んだ方が良いと思いますよ」

 

 休憩はしているとはいえ、多少のみ。デントも自分と同じく最初から戦い続けている。疲労の蓄積はあるはずだ。

 

「今は一人のトレーナーとはいえ、僕はジムリーダーでもあった。責任は果たさないとね」

 

「だったら、尚更しっかりとした休憩は必要と思いますが」

 

 自分には責任がある。それを果たさなければならないとデントは告げるが、シューティーはだからこそ休むべきだと語る。

 

「私も同意見です。お知り合いも怪我なされてる様ですし、休憩なされては?」

 

 そこにリョクシもシューティーに賛同するように、休憩を提案する。

 

「それに、他の場所の救助や避難誘導も必要ですからね」

 

「確かに……」

 

 リョクシの言っている様に、対応すべき場所がまだまだある。人手や戦力が大幅に増えた現状なら、手を回す事は可能だ。

 

「ここはまだ余裕のある私や他の人達が。貴方方は少し休んでからの方が良いかと」

 

「そうします」

 

 デントはリョクシの忠告を聞き入れ、シューティーや疲弊したトレーナー、警官、ユリやキクヨ達と共にヒウンジムに向かう。

 

 

 

 

 

「――オノ!」

 

「フシシーーーッ!」

 

 オノノクスのその言葉、指示に従い、フシデ達はヘドロばくだんを発射。無数のポケモン達にダメージを与える。

 

「――ノクス!」

 

「チャオブー、ヒートスタンプ!」

 

「フタチマル、シェルブレード!」

 

「ハーデリア、かいりき!」

 

「チャオーーーッ!」

 

「チマーーーッ!」

 

「デリーーーッ!」

 

「フシフシーーーッ!」

 

 次にオノノクスはベルやカベルネ、他のトレーナーやジュンサー、フシデ達やプラズマ団員に指示。

 それに従い、ヘドロばくだんで怯んだポケモン達に追撃。炎の突撃、水の刃、怪力、転がり、他にも様々な攻撃でダメージを与えた。

 

「オノォオオォーーーッ!」

 

 更にオノノクスもドラゴンクロー、いわなだれで一匹一匹確実に倒していく。

 

「アーーーッ!」

 

「ユレーーーッ!」

 

「――オノ」

 

 その内の二匹。オムスターやカブトプスと同じ、太古のポケモン、太い爪や尾を持ち、薄い藍色の硬い甲殻に身を包んだ様な甲冑ポケモン、アーマルド。

 薄緑の身体に大きな頭、首から伸びた八つの触手が目立ついわつぼポケモン、ユレイドル。

 二匹はそれぞれの武器の爪と触手でオノノクスに迫る。オノノクスがアーマルドの攻撃を受け止めると、そこにユレイドルが触手を伸ばして身体に絡ませた。

 

「ユレイッ!」

 

「アルッ!」

 

 身動きを封じたと表情を歪ませるユレイドル。ユレイドルはそのままギガドレインを、アーマルドがシザークロスを放とうとする。

 

「――ノクス」

 

「ユレ!?」

 

「ルド!?」

 

 だが、オノノクスは身動きを封じられてもそれがどうしたと言いたげに全身の膂力でユレイドルを振り回し、アーマルドに当てる。

 

「――オノ」

 

「アーーーッ!?」

 

「ユレーーーッ!?」

 

 オノノクスは二匹に迫ると牙に力を込め、その状態でギロチンの様に命中させて一撃必殺にした。

 撃破した事を確認すると、オノノクスは指示に適した場所に移動。ふぅと軽く溜め息を吐く。

 

「うわ~、オノノクス本当に強い~!」

 

「頼もしい限りね……」

 

 桁外れの実力で、次々と倒すオノノクス。これほど頼りになる存在もそういないだろう。こんな事態なら尚更。

 

(そして、フシデ達やプラズマ団の人々も救援に来てくれた。手当が終われば、半分程を救助に回せれるわね)

 

 事態を好転し出している事にジュンサーは少し安堵するも、直ぐに払った。

 安堵するのは、この事態が片付いてからだ。それまでは集中せねばならない。

 

「確か、スムラさんでしたか?」

 

「はい、その通りです」

 

「この後ですが――」

 

 ジュンサーはここに来たプラズマ団員を率いるスムラと、この後の行動に着いて簡単に話し合う。

 

「でしたら、周りを知らない我々がここを守り、貴女方が救援に向かうのが最善かと思われます」

 

「そうですね。ただ、全員は避けたいので、あなた方から連れても良いですか?」

 

「構いません。好きな様にお連れしてください」

 

 スムラからの許可を得ると、ジュンサーは気になる事をベルやカベルネに聞いた。

 

「にしても、このオノノクスはあなた達のどちらかの手持ち?」

 

「違います違います! 確か、野生の筈です! 誰かが捕まえてなかったらですけど……」

 

「こんなの、誰が捕まれるのよ」

 

 このオノノクスの実力は、明らかに並の野生を遥かに上回っている。はっきり言って、自分では瞬殺だとカベルネは確信していた。

 

(……にしても、気になるわね)

 

 実力の高さはそうだが、自分達が来てからは指示する様になったが、それも上手い。

 指揮能力も高い証拠だが、そんな野生が早々いるだろうか。

 

(……何処かのリーダー?)

 

 しかし、だとしたらどうしてそんなポケモンがこんな所にいるのだろうか。何らかの理由で追い出されたか、若しくは自分から出たか。

 

「……オノ」

 

「次が来るわ!」

 

 オノノクスが向く。また次のポケモン達が迫っていた。

 

「やるぞ~!」

 

「来るなら来なさい!」

 

 ベルやカベルネ、他の者達のしっかりとした意志が込められたその言葉に、オノノクスは微笑む。やはり、戦う意志は必要だ。それが無ければ何も成せないのだから。

 

「オノォオオォーーーッ!」

 

 戦刃の黒竜。かつてその異名で呼ばれ、恐れられた色違いのオノノクスは雄叫びを上げながら戦場でその力を振るう。

 

 

 

 

 

「ポリーーーーッ!」

 

「トライアタック! かわすんだ、ハハコモリ!」

 

「ハハーーーン!」

 

 フシデ達やプラズマ団員達の攻撃の中、炎、雷、氷。三つの力を一つにして放つ技、トライアタックをそのポケモンは発射するも、ハハコモリは避ける。

 

「ハハコモリ、むしのさざめき! ホイーガ、どくばり! イシズマイ、うちおとす!」

 

「ハッハーーン!」

 

「ホイイッ!」

 

「ズマイッ!」

 

「リゴーーーッ!」

 

 音、針、岩。三つの技を叩き込まれ、そのポケモンは倒された。

 

「これで一段落と」

 

「ほ~、これがポリゴンですか。この目で見るのは初めてですが、面白いですね」

 

 メガネを付け、白衣を着た科学者風の男性がアーティに倒された人工ポケモン、ポリゴンに近付くと興味津々な様子で見る。

 

「迂闊に近付くのは良くないですよ、アクロマさん」

 

「心配ありがとうございます。ですが、私にはこのギギギアルがいますから」

 

 アクロマ。それが男性の名前だった。その隣には、彼の手持ちである歯車を繋げた様な歯車ポケモン、ギギギアルが浮かんでいる。

 

「ただ、万一と言うのもありますからね。素直に聞きましょう」

 

 本心を言えば、もっとポリゴンを眺めたいが、今は自分の興味よりも優先すべき事があるので止めた。

 

「にしてもお強いですね、アーティさん。流石はジムリーダーです」

 

 手持ちのポケモン達は、良く鍛えられているのが見るだけで分かる。

 

「いやいや、僕もまだまだですよ。純情ハートを常に維持出来ているとは限らないので」

 

「純情ハート?」

 

「僕は芸術にも携わってますが、それには穢れなき純粋な想いが必要だと思ってます。勿論、ポケモン達との接し方にも」

 

「なるほどなるほど! それは良く分かります! 私は科学に携わる者ですが、科学には純粋な気持ちで向き合いたいと思っていますから!」

 

「そうですか! いやぁ、貴方とは気が合いそうだ!」

 

「えぇ、私も今そう思いました!」

 

 どうやら、互いに噛み合ったのか、アーティとアクロマは意気投合した様だ。

 

「良ければ、この事態が終わった後――」

 

「アーティさ~ん、後アクロマさんでしたか~? 話し合いに熱中しないでくださ~い」

 

「今はまだまだ来るポケモン達への対応が大切ですよ?」

 

「あぁ済まない。アクロマくん、今は」

 

「えぇ、分かっています。済みませんね、気が合う人と会えてはしゃいでしまいました」

 

 二人はショウロとマコモの言葉にハッとすると、気を引き締めた。

 

「にしても、変人って何処にでもいるもんだね~。アーティさんとあんなに気が合う人、あたし初めて見たよ」

 

 今までアーティに純情ハートの事を説明されても、はぁと何とも言えない様子で頷くだけだ。こんなに意気投合する人間は初めてである。

 

「こらっ、ショウロ」

 

「ははっ、お気になさらず。私は自分が変人だと理解してますから。――さぁ、来ましたよ」

 

 アクロマの視線に釣られ、アーティ達はそちらを見る。次の戦いが迫っている証拠だ。

 

「さぁ次を倒すよ、ハハコモリ、ホイーガ、イシズマイ」

 

「やるよ~、ムンナ!」

 

「もう少し頑張りましょう、ムシャーナ」

 

「行きますよ、ギギギアル」

 

 声で返すポケモン達と共に、彼等は立ち向かう。

 

 

 

 

 

「タンーーーッ!」

 

「かわせピカチュウ! ――エレキボール!」

 

「ゾロア、ハイパーボイス」

 

「サザンドラ、あくのはどうです」

 

「ピー……カッ!」

 

「ゾローーーッ!」

 

「サー……ザンッ!」

 

 迫る炎、かえんほうしゃ。ピカチュウに向かって放たれた一撃を跳躍し、反撃に電気の球を発射。更に音波と悪の波動も放たれる。

 

「スカーーーッ!」

 

 三つの攻撃により、紫と白の体毛に尻尾が頭のリーゼントみたいになっているスカンクポケモン、スカタンクは倒れた。

 

「皆さん、こっちに!」

 

「慌てず、ゆっくりと動いてください」

 

「我々が御守りします」

 

 スカタンクや他のポケモン達を倒すと、サトシ達はまだ避難出来ていない人々への誘導を素早く始める。

 さっきのアララギからの報告や、フシデ達やプラズマ団員の協力もあって今までよりも遥かに上手く進んでいた。

 

「あ、あの!」

 

「何ですか?」

 

「実は……!」

 

 誘導する途中、一人が出て事情を話す。彼はとある会社の社員で話によると、建物の一ヶ所が崩れて閉じ込められた同僚達がいるとのこと。

 

「ですので、助けてください! お願いします!」

 

「分かりました!」

 

 男性の案内に従い、サトシ達はその会社に駆け込む。

 炎や煙が発生している中、瓦礫のせいで開かない扉の前に辿り着くとポケモン達の力で開き、中に閉じ込められた人々を救助する。

 

「これで全員――」

 

「いえ、一人いません! どこに行った!?」

 

「わ、分からない! ここには来てなかったんだ!」

 

 しかし、全員ではなく、一人いなかった。どこにと話していると、ワルビルが辺りを見渡し出す。

 

「どうした、ワルビル?」

 

「……ルビ!」

 

 ワルビルが一ヶ所を指差す。小さな瓦礫の山だ。サトシとNが瓦礫を退けると、中から人が出てきた。どうやら、崩れた瓦礫に埋まっていたらしい。

 

「うぅ……!」

 

「大丈夫ですか!?」

 

 瓦礫が当たったのか、頭から軽く血を流していたが命には別状は無かった。

 

「これで全員発見しました。彼は出た後に直ぐに手当を」

 

 サトシ達はゲーチスの指示に従い、社員全員を連れながら会社を後にする。

 

「ありがとうございます……! 本当に助かりました……!」

 

「いえ、当然の事をしただけです。後、この後はバトルクラブに避難を」

 

 社員達は頷くと、トレーナー、警官、プラズマ団員に守られながらバトルクラブに向かう。

 

「ありがとな、ワルビル」

 

「ワルビ」

 

「にしても、何で場所が分かったんだ?」

 

 さっき、ワルビルは瓦礫に埋まって見えない人の居場所を確かに把握していた。それが引っ掛かる。

 

 

「ワルビルは、目が特殊な膜に覆われてます。その膜は物体の熱を感知出来るのですよ」

 

「それで……」

 

「ワール」

 

 その特殊な膜が、瓦礫の下にいた見えない人を発見した。ゲーチスの説明になるほどとサトシは納得する。

 

「じゃあ、ワルビルを中心に捜索をすれば……!」

 

「うん、救助はスムーズに進むよ」

 

「先程の案件もまだまだあるでしょう。それが最適ですね」

 

「ワルビル、良いか?」

 

「ワルビ」

 

 ワルビルは頷く。それが最善なら、そうするべきである。

 

「それと、消防署はどうなのでしょうか?」

 

「それが、消防車が落下した飛行艇に激突して、全部燃えて使えないんです」

 

 と言うか、使えるのならとっくに一つでも出している。

 

「となると、我々でやるしかありませんか……」

 

 一通り片付いた後、可能なポケモンで一気にやるのが最善だろう。

 

「方針も決まりました。行きましょう」

 

 その後、ワルビルの感知能力をふんだんに使い、人々の救助活動を進めていく。

 途中、一つのビルの最上階に取り残された人々に救助にサトシ達は向かっていた。炎や瓦礫をポケモン達で対応し、最上階に到達する。

 

「助けに来ました! 脱出を!」

 

「――アメーーーッ!」

 

 ありがとうございますと礼を言う人々に近付き、彼等と共にビルを出ようとしたその直後だ。

 一匹のポケモンが現れた。水色の身体に角と目の模様の翼の様な触覚、四つの羽の目玉ポケモン、アメモースだ。

 

「モーーースッ!」

 

 不意を突かれたサトシ達に、アメモースはエアスラッシュを連発する。しかし、直撃はしなかった。

 

「ピカチュウ、10まんボルト!」

 

「ゾロア、ナイトバースト」

 

「サザンドラ、あくのはどうです」

 

「ピーカ……チューーーッ!」

 

「ゾロ……アーーーッ!」

 

「サザン……ドラーーーッ!」

 

「アメーーーッ!」

 

 ピカチュウ、ゾロア、サザンドラ、フシデの同時攻撃を受け、戦闘不能になったアメモースは墜落していく。

 撃退に一安心したサトシ達だが、その直後だった。ピシッと亀裂が走る音がしたのは。

 

「――皆さん、ここから離れて!」

 

 音がした場所を見ると、亀裂が走っていた。先程のアメモースのエアスラッシュが原因だった。

 全員本能的に走るが、サトシが間に合わず、壊れた場所と一緒に落下していく。Nが咄嗟に手を伸ばすも、無情にも後一歩が届かなかった。

 

「うわぁああぁーーーっ!!」

 

「サトシくん!!」

 

「ピカピ!!」

 

 悲鳴と声。その二つが響いたその時だった。ヒウンシティの上空から光るジグザグが、突如サトシの方へと軌道を変えた。

 そして――巨大な『黒』が轟音と共にヒウンシティへ横一直線に走る。

 一瞬後、そこにはさっきまでの景色だけが写り、サトシの姿は無かった。まるで、黒が連れ去ったかのように。

 

「消え、た……?」

 

「ピカ!? ピカピ!?」

 

「ワル!? ワルワル!?」

 

「フシシ!?」

 

 消えたサトシに、一同は困惑。ピカチュウやワルビル、フシデが慌てて見渡すも、やはりどこにもいない。

 

「さっきの、黒は……?」

 

 Nは閃光が去って行った方向を見る。何かが起きる――そんな確信に近い予感がしていた。

 

 

 

 

 

 時間をちょっとだけ戻す。場所はヒウンジム前。

 

「ドリルライナー!」

 

「ドリュ……ウズーーーッ!」

 

「ゼルーーーッ!」

 

「メターーーッ!」

 

 ゴチルゼルとドリュウズが相手のドリュウズ、いや正確にはドリュウズになったポケモンにドリルライナーとサイケこうせんを命中させる。

 戦闘不能になったそのポケモンは、ドリュウズから本来の姿に戻る。ピンク色の軟体の身体をした変身ポケモン、メタモンだ。

 

「元に戻った……。こんなポケモンもいるのね」

 

「……リュズ」

 

 このメタモン、戦っている最中に突然現れ、ドリュウズへと形を変えたのである。

 しかも、能力もほぼ同じなため、思わぬ苦戦を強いられていた。バンギラスよりは楽だし、ゴチルゼルのサポートもあったので倒せたが。

 ちなみに、ドリュウズは自分に変身し、同じ技を使って来るメタモンに苛立っていたので、倒せてスッキリしている。

 

「ふ~、大分楽になったわね」

 

「……」

 

「ゼルゼル」

 

 周りを見るアイリス。周りには少し前までいなかったフシデ達やプラズマ団員。

 人々の尽力や彼等の力もあって防衛ラインは立ち直り、負担も大幅に減っていた。これなら、長期間戦うことは充分に可能だ。

 

「――アイリス!」

 

「デント! それにシューティーに、ユリさんやキクヨさん!」

 

 声の方向に振り向くと、ユリやキクヨ、タマゴを連れたシューティーやデントがこっちに来ていた。

 

「どうしてここに?」

 

「次の場所に向かう休憩の為、ユリさんやキクヨさんの案内を兼ねて来たんだ。シューティーもちょっと怪我してるしね」

 

「だ、大丈夫なの?」

 

「大した怪我じゃない」

 

「それでも、手当は受けた方が良いわ」

 

「うむ、安全の為にもそうしなさい」

 

 年上の人にそう言われては、シューティーは少し迷う。どの道、休憩はするのだから手当しても大差は無いだろう。シューティーは受ける事にした。

 

「ユリせんせ~! キクヨせんせ~!」

 

「ヤブブ~!」

 

「皆!」

 

「無事で何よりじゃ」

 

「先生こそ~!」

 

 ユリやキクヨを見て、ヒロタ達とヤブクロンは駆け寄る。彼女達は互いの無事を喜んでいた。

 

「あなた達がこの子達の保護者ですか?」

 

 そこにサリィも近寄る。子供達の事情を確認しに来たのだ。ユリやキクヨ、サリィは互いに簡単に自己紹介し、頭を下げた。

 

「先生、ヤブクロンすっごく頑張ったんだよ!」

 

「うん! あたし達を守るために皆と一緒にとっても強いポケモンと必死に戦ったの!」

 

「ボロボロになってまで!」

 

「えぇ、勇敢に立ち向かっていました」

 

「そうなの……。皆を守ってくれてありがとうね、ヤブクロン」

 

「立派じゃったな」

 

「ヤブブ……」

 

 皆に誉められ、ヤブクロンは照れ臭そうに頭を掻く。

 

「後は、安全の為にも中でゆっくり話してください。タマゴも」

 

 分かりましたと、ユリが頷くと、保育園の皆はヒウンジムに入ろうとした。その時だ。

 

「――うわっ!」

 

「この声……。サトシ?」

 

「でも、サトシはアーティさんやNさんとバトルクラブの方に向かったはず……?」

 

「サトシ、どうしてここに?」

 

 サトシの声がし、全員が辺りを見渡すがどこにも見えない。

 

「いや、それが……ビルから落ちて……その後が分からないんだ」

 

「落ちた!?」

 

「だ、大丈夫なのかい!?」

 

「も、もしかしてゆうれ~い!?」

 

「う、上から聞こえるからそうかも……!」

 

「こら、そんなわけないでしょ!」

 

「まぁ、冷静に考えれば上からと聞こえたのなら、上にいることになりますね」

 

「サトシくんや、そこから見下ろし、て……」

 

 当然の判断から、全員が見上げる。そして――固まった。

 

「あっ、皆! 無事だったか!」

 

 一方、サトシはキクヨの言葉に従い、そこから見下ろす。シューティー、アイリス、デント、ヒロタ達やユリにキクヨ、サリィの姿が見えたが――全員が何故か驚いていた。

 

「なんで皆驚いて……?」

 

「サ、サトシ、それ……!」

 

「……それ?」

 

「だ、だから! 『それ』!」

 

 指を指すアイリスの言葉に、サトシは疑問符が一杯だったが、その後に気付いた。

 今、自分は『誰』に支えられている? ビルから落ちたはずの自分がこうして無事と言う事は、『誰か』が落ちていく自分を助けた以外に他ならない。問題は、それが何者なのかだ。

 その『誰か』を見ようと、サトシは顔をゆっくり後ろに向ける。

 

「お、お前は……!」

 

 その存在を見て――サトシは目を瞠った。その存在、迫力を前に、忘れたり間違えたりするわけがない。

 何故なら、このイッシュ地方で最初に出会った新しい存在であり――伝説なのだから。

 その巨躯は分厚い黒雲の様な色をしており、赤い瞳は稲妻の様な鋭さを感じさせる。そして、タービンの様な尾。

 

「――ゼクロム!」

 

 少年の目に写るのは、イッシュの理想を司る伝説の黒き雷竜――ゼクロムだった。

 燃えるヒウンシティを舞台に――その時である、理想の伝説の序幕が今、始まる。

 

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