ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ 作:ぐーたら提督
「――戻った」
ヒウンシティから離れた荒野の手頃な洞窟。そこにフリントが入る。
「で、どうだった?」
フリントの言葉にコジロウが答えた。ここには必死に逃げ込んだロケット団がいた。
「状況は最悪と言っていい。我々は完全にテロリスト扱いだ」
「何でこうなったのよ……!」
犯罪組織にいる以上、自分達が犯罪者である認識は持っている。しかし、正義の悪と言うポリシーの三人組にとってテロリスト扱いは最大の屈辱だった。
「おそらく、例の組織はこの事態を狙っておったのじゃな」
この中で唯一老人であるゼーゲル博士は、調子の悪い機材で本部とのコンタクトを取りながら、この事態こそが例の組織――プラズマ団の目的だと理解する。
「……にゃー達が自滅するのを待ってたって訳にゃ?」
「それ以外に今まで奴等が動かなかった理由が考えられん」
「……つまり、俺達は奴等の手の平の上で踊らされてたって事か」
その事実に、全員が強い屈辱に駆られる。
「行くわよ、コジロウ、ニャース、フリント、ゼーゲル博士!」
「何をする気だ?」
「決まってんでしょ! やり返してやるのよ!」
ここまでコケにされて黙ってられる訳がない。ムサシはプラズマ団に報復する気満々だ。
「止めろ。そんなことをしても奴等の評判が上がるだけだ」
サトシとゼクロムの影に隠れてこそいるが、プラズマ団は今回の件で人々の為に尽力した正義の組織として認識されていた。
「けど、この事態はあいつらの思惑通りなんでしょ! だったら、それを話して――」
「そんな証拠がどこにある」
「寧ろ、儂等が奴等を貶めるために責任を擦り付けようとしているとしか捉えられんじゃろうな」
この事態がプラズマ団の狙い。それが限り無く正解に等しい事実だとしても、そうだと示す証拠が全くないのだ。
問い質そうが、ヒウンシティにいた理由については最初の活動の為にイッシュ地方一の都会を選んだと言われればそこまで。
原因であるメテオナイトについても、危険性から秘匿するしかなかったと言えばそれで終わり。そもそも、データを消して知らないと説明する事も出来る。つまり、隙が無いのだ。
こんな状態で下手に言ったところで、何をバカな事を相手にされないのは目に見えている。いや、自分達が言えば、逆に事態は酷くなる一方だ。
「じゃあ、どうすんのよ!」
「その為に話し合っているのだろう。ゼーゲル博士、どうですか?」
「そろそろじゃな。――繋がったぞ」
機材の画面に、ロケット団のボス、サカキと秘書のマトリが写る。
『無事だったか』
「はい。ただ……状況は最悪です」
『経緯を聞かせよ』
彼等ははっと頷くと、一連の経緯、収拾後の現在について話す。
「以上、です」
『そうか……。我々は奴等、プラズマ団にまんまとしてやられたと言うことか……』
サカキすらも、この事態に苦悶の表情を浮かべていた。
「サカキ様、メテオナイトについてですが――」
『まだ情報は入っていないが、あれは制御出来る代物ではなかったのだろう。……完全に私のミスだ。済まなかった』
メテオナイトの本質についての情報さえ得れば、この事態は避けれた。エネルギーに目が眩んだ自分の責任だとサカキは謝罪する。
「今後はどうなされるつもりでしょうか?」
『――撤退する。お前達はイッシュから離れよ』
撤退と言われ、フリントやゼーゲルはそう来るだろうと判断したが、三人組は納得しなかった。
「サカキ様! このままおめおめと引き下がるのですか!」
「そうです! このまま撤退するなんて、ロケット団の名折れ!」
「必ずやにゃー達は、奴等に此度の報復しますにゃ! ですから機会を――」
『……残念ながら現状、それは非常に困難と言わざるをえない』
「な、何故!」
『今回の件で、飛行艇や潜水艦の残骸からカントーにある我々の本拠地に警察の捜査のメスが入る事は確実でしょう。直ぐに対応をしなければ、ロケット団は間違いなく致命的なダメージを受けます』
『そんな状況では、イッシュ地方に派遣した団員や、ポケモン達の回収の余裕はない。多数の団員は確実に逮捕されるだろう。釈放しようにも、遠く離れたイッシュ地方では出来ん。……繋がりも消えてしまった現状、尚更な』
イッシュで新たに得たスポンサー達は今回の惨事の損失により、離れてしまった。これでは団員達を釈放出来ない。
いや、出来たとしても、あれだけの被害を出したロケット団員が釈放されるなど、間違いなく批評を買う。どんなに干渉しようが断るだろう。
それに、そこから新たにロケット団のダメージに繋がる恐れもあった。
『更に、例の組織や警察もイッシュにいる団員やポケモン達の逮捕や捕獲に必死になるだろう』
つまり、最早イッシュにはロケット団が付け入る隙が無くなってしまったのだ。
更にこちらはこちらでカントーの警察等に対応もしなければならない。こんな状態でプラズマ団とまともにやり合うなど出来るわけがない。自滅しろと言っている様な物だ。
『お前達の気持ちは嬉しい。しかし、今は建て直す方が先決なのだ。少しでも損失を抑える為にも、帰還を命ずる。分かったな』
これだけ言われれば、三人組も納得するだろう。彼等以外の全員がそう思った。
「サカキ様。その命令はやはり聞けません」
『……何?』
『貴方達、何を言って――』
「ここでみすみす退いたら、例の組織はこのイッシュ地方を確実に支配します」
「そうなれば、ロケット団の大きな脅威になることは確実ですにゃ」
マトリの声を遮り、三人組はここで退けばプラズマ団は確実にロケット団を脅かす存在になると告げる。
『……確かにそうなるだろう。だが、今の我等ではもう手が打てん』
「はい。ですから、我々だけで奴等と戦います」
『……お前達だけでだと?』
その言葉に、サカキも意表を突かれたのか目を見開く。
『何を馬鹿な事を。貴方達だけで相手出来る存在だと思っているのですか?』
『その通りだ。あまりにも差が有りすぎる』
「それぐらい承知の上です」
「それに、今回の件は少なからず私達にも責任があります」
「その汚名返上、そしてロケット団の名誉挽回のチャンスをどうかにゃー達に!」
『……』
三人の言葉に、サカキはしばらく考えに浸る。
『……分かった。お前達に新たな任務を与える。プラズマ団に此度の件の礼をしてやれ』
「――有り難きお言葉!」
サカキは彼等に新たな任務を与え、三人組は深々と頭を下げた。
『但し、お前達が逮捕されて私は何もしない。また、援助も無い』
例え逮捕されても、自分達とは関係ない。そう言う事だ。
「覚悟の上です」
これは自分達だけの戦い。三人組は既にそう覚悟していた。
『フリント、ゼーゲル。お前達はどうする気だ?』
「彼等と一緒に行動しようかと考えます」
「ワシも同じ意見ですじゃ」
『分かった。では、何も出来ないが――いや』
お前達の活躍を期待する。それを最後に通信を切ろうとしたサカキだが、その直前にあることを思い出す。
『ふむ……。この際、構わんか。マトリ』
『何でしょう?』
サカキから耳打ちである指示を聞くと、マトリは分かりましたと頭を下げた後、一旦モニターから外れた。部屋を出たのだ。
「サカキ様? 一体何を……」
『少し待て』
疑問符で一杯の三人組だが、ボスにそう言われては待つしかない。暫し待つとマトリがまた写り、サカキに耳打ちする。
『それぐらいか。お前達、二日後にこのポイントに来い。そこであるものを渡す。――いや、正確には「返す」と言うべきか』
「返す?」
サカキの言葉にまた疑問符を浮かべる三人組だが、フリントは気付いた様だ。
『何れにせよ、ここに来い。私からの唯一の援助を送る』
サカキからの援助と聞き、ロケット団ははっと恭しく頭を下げた。
『お前達の活躍、期待して置く。さらばだ』
サカキの先に止めた言葉を最後に、通信は途絶えた。
「あれで良かったのですか?」
「言っても聞かなさそうだったからな」
「期待はしているのですか?」
「いや」
彼等にはああ言ったものの、実際に期待しているかと言えば答えは否。成功すれば棚ぼた程度にしか考えていない。
「まぁ、奴等にはギンガ団を潰した実績がある。ほんの少しだけ期待してやろう」
ギンガ団とは、シンオウ地方で暗躍していた組織だ。色々あって壊滅はしたが、三人組が潰した訳ではない。
「さて、こっちはこっちでやらねばならんことが多々ある。忙しくなるぞ」
「分かっております」
これからに備え、彼等は対応を始める。
「サカキ様からの援助!」
「期待されてるって事だよな!」
「絶対に応えて見せるのにゃー!」
一方の三人組。自分達だけでと思いきや、サカキからの援助にテンションが上がっていた。
「……お目出度い奴等だ」
「暗くなるよりはマシじゃろうて」
フリントは呆れた様子だが、ゼーゲルはこの方が良いだろうと肯定的だ。
「そうそう、フリント。アンタ、何で残るわけ?」
そんなに親しい訳ではないが、ある程度フリントの性格については分かっているつもりだ。その性格を考えると、てっきり戻るかと思っていたのだが。
「今回の件は私の失態でもある。このまま戻っても私の評価は落ちるだけだろう。なら、その埋め合わせか、それを超えるだけの成果を出すべきだと考えただけだ」
「儂も似たようなものじゃな。このままおめおめ帰れん」
このまま帰っても、しばらくロケット団は活動を自粛するしかない。なら、こちらで何らかの成果を出した方が良い。二人はそう判断したのだ。また、二人もプラズマ団への逆襲は狙っていた。
「じゃあ、またこの五人で頑張る訳だな!」
「一匹ポケモンがいるが」
「にゃーの事かにゃ?」
「お主以外おらんじゃろう」
この中にポケモンはニャースしかいない。
「細かい事気にすんじゃないわよ。何にしても、ええとプラズマ団だっけ? 絶対にやっつけてやるわよ!」
「おー!」
「……ふん」
ムサシの言葉に、コジロウとニャース、あと何故かゼーゲルも一緒に掛け声を上げる。フリントは仏頂面で佇むだけだった。
こうして、大敗を喫したロケット団だが、ここから彼等の逆襲が始まるのであった。
「集まりましたか」
最低限の灯りだけが灯るこの場所で、ゲーチスが周りを見渡す。そこには七人の男がいた。
先ずは同行していたアクロマ、リョクシ、スムラの三人。
「そちらはそちらで苦労なされた様で」
「色々と大変でしたな」
古代の城でライトストーン確保に動いていたが、ウルガモスやメテオナイトの影響で失敗した二人、アスラとロット。
「いやはや、全員集合は久しぶりですなあ」
「此度の集合は、今後の件についてでしょうか?」
シッポウシティで、メテオナイトの監視をしていたヴィオとジャロ。全員が集合していた。アクロマを除いた彼等は『七賢人』。プラズマ団の幹部と言える者達だ。
「はい。その通りです。先ずは今回の経緯について話しましょう」
ゲーチスが今回の件について話した。ヒウンシティの騒動、Nの帰還、そして、ゼクロムとサトシについてを。
「なんと、王が……?」
「戻っておられたのですか……?」
「にしては、姿がお見えにならない」
「ゲーチス様、王は?」
ある時以外、一度も会っていないジャロを除き、三人の男性はさも驚いた様な態度を取る。
「王は別室におられます。今回の疲れを休め、そこから旅をします」
「そうでしたか」
それを聞き、ジャロは安心する。アスラやロット、ヴィオも表面上はそう見せる。
「しかし、理想の英雄とは……」
「一体、どの様な人物なのですか?」
「アクロマ」
「はいはーい」
アクロマがパネルを操作し、モニターにその人物を写し出す。
「この少年が、ゼクロムに見出だされた人物、サトシです」
「おや、この少年……」
「ジャロ、知っているのですか?」
「シッポウシティで見たことがありますぞ。ヴィオもですな」
シューティーがアロエと再戦した夜の事だ。イッシュ地方にはいないピカチュウといたため、ジャロもヴィオもそれなりの印象を抱いていた。
「えぇ、ただ少し会って話しただけなので、知っているとは言えません。詳細については?」
「アクロマ、得た情報を」
「はーい。彼はカントー地方のマサラタウンのサトシと呼ばれる少年です。そして、この少年結構凄いですよ。経歴を調べましたが、初出場のセキエイリーグではベスト16。続くオレンジリーグは優勝。ジョウトリーグやホウエンリーグではベスト8。最近のシンオウリーグはベスト4。ただ最後のはまだ調査段階で断言は出来ませんが、実質準優勝レベルですね」
ゲーチスに命じられ、アクロマはサトシの情報を調べていた。
「実質とは?」
「えーと……あっ、これこれ。この大会の優勝者何ですけど、このトレーナー、幻のポケモンや伝説のポケモンを複数所持していて、彼は対戦者の中で唯一手持ちを二体も倒したそうなのです」
「……突っ込みたい所があるのですが、まぁ良いでしょう」
それに唯一伝説や幻を二体も倒した。その事からも彼の強さが分かる。
「以上が彼の情報です」
「人は見掛けに依らぬものですなあ」
あの時会った少年がそれほどの人物と聞き、ジャロは勿論、ヴィオも表情には出さないが驚いている。
「彼についての話は終わりです。今後我々が取るべきは三つ。一つ、様々な街で我々の思想を演説する。まぁ、これは当たり前ですね」
人々に聞いてもらわなければ意味が無いので、当然の行動である。
「二つ。イッシュ地方に残るロケット団の逮捕及び、そのポケモン達の『保護』。但し、優先順位はポケモン達の方です」
「それは何故ですかな?」
「我々で捕らえる事も充分可能ですが、『裏』を使わないとなりません。彼等も保護に回したいのですよ。少しでも多くのポケモン達を救うために」
「なるほど。では、団員達は警察に任せると?」
「えぇ、この事態です。彼等だけでも充分逮捕出来るでしょう」
あくまで自分達はポケモンの保護を優先する。そう言う事だ。
「三つ。王が英雄になるため、ライトストーンの確保すること。ただ、これはしばらく時間が掛かるそうですね?」
「はい」
古代の城が一部崩落し、ライトストーンがそこに取り残されてしまったため、再確保までには相当な時間が有した。
「しかし、しっかりと確保していれば、今頃王も英雄に成り得たものの」
「失態ですね。アスラ、ロット」
スムラ、リョクシがアスラとロットを批判する。二人も自分の失態だと理解しているため、何も言わなかった。
「そこまで。では――」
「ゲーチス様、一つ」
ゲーチスが話を終わらせようとしたが、ジャロが挙手する。
「何ですか、ジャロ?」
「この少年、サトシを我々の同志として勧誘はしないのですかの?」
「勧誘、ですか?」
「えぇ。もしこの少年が我々プラズマ団に入れば、我々は理想と真実、その両方を得ることになります。更に彼はポケモンバトルの象徴であるリーグの経験者。彼の言葉が有れば、人々に我々の思想により共感しやすくなるでしょう。是非すべきでは?」
ジャロのその提案に、ゲーチスは考える仕草を取る。これははっきり言って予想外だった。しかし、確かに価値はある。
「……しかし、ポケモンリーグを幾度も経験するほどの少年が、そう簡単に入るでしょうか? それに、英雄が二人と言うのは良くありません。王と彼とでの派閥が出来る恐れもあります」
「勿論、簡単ではないでしょう。しかし、やるだけの価値はあるかと。それに派閥については、あくまでが王がプラズマ団のトップである事を彼に意識してもらえば良いかと」
「……一考はしましょう。では、各々に動き、役目を果たしてください。以上です」
はっと頷くと、六人の男性は部屋から退室していく。
「――出てきなさい、お前達」
その言葉と共に、三人の男が音もなく姿を現す。ロケット団の追跡をしていた三人組だ。
彼等はダークトリニティと呼ばれる、ゲーチス直々の部下だ。
「お前達には、回収と共にもう一つのある任務を与えます。この少年、サトシを始末しなさい」
(この少年は……)
何処かで見覚えのある姿に、三人組は思い出した。メテオナイトを偽物とすり替える時に博物館で見たのだ。
「我等が始末に向かう理由はやはり――」
「えぇ、彼が理想に見出だされた少年だからです。ロケット団を排除した今、今後の我々の最大の障害になるのは間違いなくこの少年です」
ロケット団にはもう、このイッシュを制圧する余裕はない。残党が何かしようが、それを利用して自分達の立場を上げるだけだ。
要するに、最早ロケット団は自分達の敵とは成り得ない。となれば、真実に対抗する理想に選ばれたサトシをターゲットにするのは当然の事だ。
「しかし、先程彼を引き入れる話もありました。それはどうなされるのですか?」
「それはそれで行います」
つまり、勧誘はするが、始末もする。そう言う事だ。
「ただ、直ぐにではありません」
「それは何故でしょうか?」
「先ず、今のお前達の戦力でこれだけの能力を持つ彼を始末するのは難しい。次に、彼の危機にゼクロムが現れる可能性があります」
今回の件から、ゲーチスはゼクロムがサトシの危機に応じて来る可能性を考えていた。
勿論、そうではないと可能性もあるが、否定出来ない以上は考慮すべきである。
「つまり、この少年を始末するなら短期間で出来るだけの戦力を得るか、ゼクロムを撃破するか。この二つの内のどちらかになると」
「その通り。また、直接始末する場合、その機会は一度と考えなさい」
これは、何度もしてそこから自分達が怪しまれるのを避ける為だ。どの道、今彼とやり合うのは良くない。先ずは戦力補強が必須だ。それも、向こうが強くなる前に。
「その為にも、お前達には新しい手持ちを渡します。既存の手持ちを鍛えながら、手懐けなさい」
「はっ」
任務を与えられたダークトリニティは出た時と同じく、音もなく姿を消した。
「しかし、ゼクロムの登場だけは予想外でしたね」
「えぇ、おかげで当初の予定が狂ってたんですよね?」
「はい。まぁ、大した事ではありませんがね」
何しろ、当初の目的の大半は達成している。先ず、ロケット団の自滅からの弱体化、イッシュへの干渉を禁止。
次に、これからではあるが、ロケット団の戦力を取り込み、プラズマ団の戦力を増強。
最後は、今回の件で功労者になることでプラズマ団の知名度を引き上げ、今後の活動をスムーズに進める。
ゼクロムの登場でサトシが理想の英雄となり、知名度こそは彼に持って行かれたが、立役者としてある程度名と実績を上げる事には成功している。
「寧ろ、今後の最大の敵を向こうから教えてくれたのですから、こちらとしては大助かりですよ」
探す手間が省け、今から幾らでも対策出来る分、こちらとしてはとても楽である。
「ですよねー」
「……何をしているのですか?」
「彼とアーティくんが今日したジム戦の映像データですよ。いやぁ、良いですねぇ、これ」
互いのポケモンの強さの引き出し方に、『ポケモンの力を最大限に引き出す』を研究テーマにするアクロマは大いに刺激を受けていた。
「彼やジムリーダーのデータは今後も欲しいですねぇ。何とかして手に入りません?」
「……検討しましょう。但し、やることはやってください」
「はいはい。あっ、ハッキングはどうします?」
「もう切り上げてください。これ以上は疑われますし、当面はイッシュを最優先です」
大打撃を受けたロケット団が、まだハッキングするなど普通に考えると疑わしいにも程がある。入手も出来なかったし、ここらで引き上げるべきだ。
「『風』、『雷』、『大地』。『勝利』に『歌姫』。そして――」
「理想、真実に続く。いや、正確にはそれらの元である第三の存在――『虚無』。我々に必要な物は多いですからね」
これはイッシュの伝説と幻の事だ。『聖剣』も欲しいが、歴史を考えると難しい。
「そうそう、例の研究――太古の狩人はどうですか?」
「進んでいます。完成にはまだまだ掛かりそうですが」
簡単に進むプロジェクトではないので、当然と言えば当然。しかし、成功すれば自分達は大きな戦力を手にするので進めていた。
「順調に進んでいますねぇ。でも、視察や報告は大丈夫なのですか?」
「問題ありませんよ。表しかさせませんから」
「いやー、腹黒い」
報告もするし、視察も受ける。但し、それは表の部分だけであり、裏の部分には一切出さない。
仮に裏の活動が露見しようが、ロケット団の残党が行なった事にすれば良い。
どれだけの団員が来たか、その正確な数について分かる訳がない。情報以上がいても、先に来ていた連中などと誘導すれば良い。なので、その件に関しては心配してない。
ダークトリニティの手持ちをカントーのポケモン、それもあの三匹にしたのは、もし発見されてもロケット団の仕業や、いざこざに見せ掛ける、進化が石によるものなので、進化の影響の差が小さく出来ると言う理由からだ。
「ただ――」
「王様の事ですか?」
「……そうですね」
唯一の引っ掛かりは、Nの事だ。やっと戻せたが、あの時とは雰囲気が随分と違う。
(……それについては、ゆっくりと確かめるしかありませんね)
雰囲気が異なるだけか、中も異なっているか。前者ならともかく、後者となるとこちらとしては困る。
(……ワタクシ以外の七賢人についても、行動を調べて置く必要がありますね)
プラズマ団は、解放を信条に強固な一枚岩の組織にしたつもりだが、現在のNが切欠にもしかするとこれから変化する恐れがある。
いや、もしかすると既に何らかの変化があるかもしれない。だとすると、これからは内とも戦わねばならなくなるだろう。
(となると、最優先で目を向けるべきは……)
穏健派のロットやアスラ、ジャロ辺りだろう。『裏』であるヴィオ、スムラとリョクシは自分と近い考えのため、おそらく問題はない。確認はしておくが。
「何にせよ、これからも忙しくなりますよ」
「休む暇がありませんね~。やりますけど」
片方は望み、片方は欲のため、彼等も本格的に動き出す。
「N様、お久しゅう御座います」
「久しぶり、ジャロ。それにヴィオ、アスラ、ロットも」
Nがいる部屋で、ジャロとヴィオ、アスラとロットが彼と会っていた。
「貴方達も元気だったかな?」
「えぇ、それにN様が戻られたと知り、このジャロ感慨の念で一杯ですぞ」
「我々もです」
「ありがとう」
「にしても、トモダチが増えましたな」
「ポカ?」
「ブイ?」
ジャロはポカブとイーブイ。三人はイーブイを見ていた。
「色々あってね」
「そうですか。話をお聞きしたい所ですが、今回は大きな一件があった昨日の今日。お疲れでしょう。自分はここで」
「貴方達もね。これからは忙しくなるから」
「そうさせてもらいます」
四人は膝を付いて頭を下げると、部屋を後にした。
「――ヴィオ」
『はい、N様』
四人が去ってしばらくした後、Nはペンダントを少し触ってから向かって話し掛ける。ペンダントから、ヴィオの声が響いた。これは通信機なのだ。
「父さん達としていた会話の内容について頼む」
『勿論です』
Nはヴィオから、先程の会議について聞き出す。
「なるほどね。よく考えてる」
『私もそう思います』
「となると、サトシくんに関しては何らかの護衛を付けたい所か」
理想に選ばれたサトシを、ゲーチスが見逃す訳がない。四六時中とは言わないまでも、危機に関しては対応してくれる人物を付けたい。
『彼を助けるのですか? 彼は今後に置ける最大の壁になりますが』
「だからこそだよ。彼を乗り越えたその時こそ、ボクは真の英雄になれる。それに、ボク個人としても親しくなった彼が傷付くのは見たくない」
『親しいのですか?』
「うん、彼は良い人だからね」
その台詞から、ヴィオがNがサトシに好印象を抱いているのを理解する。彼にそう言わせるのだ。本当に良い人物なのだろう。
『話は戻し、護衛の件ですが――我々から出すとなると、ほぼ察されます』
「そこが難点か……」
対策を打ちたいが、それを自分達でやると不味い。十中八九感付かれる。
「なら、他から協力者を募れないかな?」
『確かに、それが出来れば露見の心配はありませんが……問題は誰に頼むかになります』
適当には選べない。条件としては最低限の実力は勿論、出来れば怪しまれないよう、プラズマ団に敵意を持ち、更にサトシと親密な人物が最適だ。しかし、そんな都合が良い人材がそうそういるだろうか。
『人材は私が任務を行いながら探します。アスラやロットでは目立つと思われるので』
「頼むよ」
会話も終わり、Nは通信を切った。
「……ふぅ」
Nは思わず溜め息を漏らす。板挟みになっているのだ。個人としての自分と、プラズマ団の王としての自分に。
「……やれやれ、本当に苦しいな」
だが、この痛みは本当の意味で理想を叶える為には避けて通れないだろう。真実を多くを知った今だからこそ、Nは理解出来た。
何も知らないまま王に担がれていれば、痛みに気付かずに取り返しの付かない事態になっていただろうと。
「父さん、貴方の思い通りにするつもりはない。ボクは、ボクの理想を目指し、実現させる。その為に――付いて来て欲しい」
「ゾロゾロ」
「カブブ!」
「ブ~イ」
昔からいたゾロアを除いたポカブとイーブイは、Nが何を言っているか、その全てを理解は出来ないだろう。
それでも、彼が彼なりに自分達を考えて道を進んでいる事は分かった。ならば、一緒に歩もうと決意した。
「ありがとう」
これからも共に歩んでくれる三匹に、Nは心の底から感謝の告げた。
(ここからだ)
これまでもだが、これからも多くの真実を知らねばならない。真実――レシラムに相応しい英雄となり、ポケモンの為の理想を叶えるために。
これまでは、一人の人間として。これからはプラズマ団の王としても、彼は先の道を突き進む。