ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ   作:ぐーたら提督

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 この話での過去話はオリジナルです。


マイペースのルーツ

「チルタリス。わたしね、小さい頃から親はいたけど一人だったんだ」

 

「……?」

 

「パパ、わたしを立派にするためにって、毎日色んな習い事をさせたんだ。なんだけど、わたしにはそれがイヤでイヤで仕方なかったな」

 

 立派になるためとは言え、習い事や父親が過保護なせいで、ベルは他の子供達とはほとんど遊ぶ事が出来なかったのだ。

 遊びたいと言っても、父親はこれはお前の為なんだと聞かず、子供のベルは嫌々ながらやるしかなかった。

 

「だから、チェレンが友達になった時は嬉しかったな~」

 

 ベルの唯一の友達のチェレン。彼との出会いは、数年前のある日、習い事が終わって何時もの様に一人で帰る最中だった。突然話し掛けられたのだ。

 

「ねぇ」

 

「……なに?」

 

「一緒に遊ぼうよ」

 

「……すぐに帰らないと、パパが怒るからダメ」

 

 ベルはチェレン以外の子供にも何度も誘われたが、当時のベルが暗かった、一度誘った子供達が父親に怒ったこともあり、断ると子供達は諦めて去って行くのだ。

 この日もベルは誘いを断り、このまま帰る。そのはずだった。

 

「じゃあ、ちょっとだけならいいよね? ほら、行こう」

 

「えっ、えっ?」

 

 予想外の返しにポカンとするベルの手を引き、チェレンは近くの公園に向かった。

 

「ほら、遊ぼう」

 

「う、うん……」

 

 ベルは半ば強引にではあったが、チェレンと一緒に公園にある遊具や遊び場で久々に遊んだ。年頃の子供のように汗を掻き、砂や土でちょっと汚れたりもした。

 

「楽しい?」

 

「……うん。すっごく」

 

 こんな風に遊んだのいつ以来だろう。クタクタだが、ベルの顔には笑みが浮かんでいた。

 

「良かった」

 

「……ねぇ、どうしてわたしを誘ったの?」

 

「さみしそうだったから。いつも」

 

「……見てたの?」

 

「うん」

 

 チェレンはある日ベルを見たのだが、その日や以降も暗い顔で断り、離れていく子供達を悲しそうに見送る彼女をとても気にしていたのだ。

 

「だから、今日一緒にあそぼうと誘ったんだ。イヤだった?」

 

 ブンブンとベルは顔を左右に振る。こんな楽しいのにイヤなわけがない。

 

「――ベル! どこだーい!」

 

 もっと楽しい時間を送りたい。そう思うベルだが、その声にハッとする。それは父親の声だった。

 

「ベル! どうしてこんなところに……。どうして直ぐに帰らないんだ!」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「ぼくが無理に誘ったんです。悪いのはぼくです」

 

 父親に怒られ、ビクッと怯えるベルだが、チェレンが悪いのは自分だと告げる。

 

「君のせいか! 全く、ベルが怪我したらどうする気だったんだ! そうでなくても、汚れてるじゃないか!」

 

「ごめんなさい」

 

「こんな事をして! もう二度とベルに近付くじゃないぞ!」

 

「そんな……」

 

 チェレンは折角楽しく遊んでくれた相手なのに、もう会えなくなるのだろうか。そんなのはイヤだが、当時のベルはそう言えなかった。

 

「分かりました。もうこんなことはしません。だから、また会ってもいいですか?」

 

「な、なに?」

 

「もうこういう遊びはしません。だったらいいですよね?」

 

「む、むぅ……」

 

 言葉に詰まるベルの父親。過保護な彼にとっての一番の懸念は、遊びなどでベルが傷付くこと。それを避けれるなら、会うことを禁止する理由はない。

 

「……それが出来るのなら良いだろう」

 

「ありがとうございます」

 

 頭を下げると、チェレンはベルに笑いかける。

 

「ベル、今日は遅い。もう帰るぞ」

 

「は、はい……」

 

 父親に手を引かれ、ベルは家に向かおうとした。

 

「ベル」

 

「……?」

 

「明日、また会おうね」

 

「……うん! えっと――」

 

 名前を呼ぼうとしたベルだが、そこで気付いた。自分はまだチェレンの仲間を知らないのだ。

 

「チェレン。ぼくの名前はチェレンだよ」

 

「チェレン……。チェレン! また会おうね!」

 

「うん」

 

 手を振るチェレンに、ベルは返す。これが二人の出会いの日だった。

 それから、約束通りチェレンは会いに来て、二人は派手な遊びこそはなく、本で読むやテレビを見るなどだったが、楽しい日々を送っていた。

 彼との触れ合いはしたくもない習い事ばかりでイヤだった日々の中でも、唯一楽しかった時間だったのだ。

 

「まぁ、ずっとは遊べなかったんだけどね」

 

「……チル?」

 

「一年少し前のことなんだけど――」

 

 それはどうしてと聞いてきたチルタリスに、ベルはその時の話をする。

 

 

 

 

 

「……」

 

「チェレン?」

 

 一年少し前のある日。何時ものように本やテレビなどで楽しんでいると、チェレンが羨望の眼差しでテレビを見ていた事にベルは気付いた。

 内容はトレーナーに関してで、あるトレーナーが旅での経験について語っていた。

 

「……旅したいの?」

 

「え? ……いや、そんなこと無いよ」

 

 そう言うチェレンだが、ベルには分かっていた。彼はトレーナーになって旅がしたいのだと。だけど、自分の為を思ってしようとしないとも。

 

「チェレン」

 

「なに、ベル?」

 

「旅に行って」

 

「いや、でも……」

 

「わたしはもう大丈夫だから」

 

 だが、ベルとしてはチェレンに遠慮して欲しくなかった。彼は今まで自分を何度も助けてくれたのだから。

 だから、この楽しい時間が終わってまた一人になろうとも、チェレンには自分の道を歩んで欲しかった。

 

「イヤなら、わたし怒るよ? 絶交もしちゃうかも」

 

 だから、ベルは何としてもチェレンを行かせようとする。

 

「……はぁ、ぼくを行かせるためにそう言うなんて、出会った頃の面影はもうないね。すっかりマイペースになった。やりたいことはしっかりしようとする」

 

「今でもチェレンといる時以外、毎日窮屈だもん。自分がやりたいことぐらいは自分で決めたいの」

 

 最初はチェレンがどうするかを決めていたが、しばらくすると抑制されてきた日々の反動が出てきたようで、この頃ではもう逆にベルの方が何するかを決めるようになったのだ。

 それは日常の方でも影響しており、ベルは父親に前にこう言い出していた。

 習い事はするが、なにをするかは自分で決める。それが嫌なら、習い事自体をしないと。

 父親もそう言うようになったベルに難色を示したが、チェレンを遠ざけることは出来なかった。

 何しろ、そんなことしたら家出か、一生口を聞かないとベルにはっきり言われたからだ。チェレンの素行にも問題は全く、容認しかなかった。

 

「こんなわたし、嫌い?」

 

「いや、きみに振り回される日々も楽しいからね」

 

 最初は大人しかったベルを見ていた事や、子供にしては面倒見が良い点から、チェレンはどう振り回されるかを楽しみにしていたほどだ。

 

「良かった。でも、こんなわたしになったのはチェレンのおかげだよ」

 

「どういたしまして」

 

 チェレンと出会わないままなら、今頃自分は大人しく、従順な性格になっていたかもしれない。

 そうでなくなり、今の自分になったその切欠であるチェレンにベルはえへへと笑い、チェレンも軽く笑う。

 

「だから、そんなチェレンにも自分の思った通りにして欲しいの」

 

「本当に、大丈夫?」

 

「もう大丈夫。今のわたしは少なくともチェレンと出会ったあの時より、強くなったから」

 

 迷いなくそう告げるベルの瞳、彼女の想い、そして旅への憧れもあり、チェレンは旅を始めた。

 チェレンは旅を順調に進め、バッジは難なく集め、今ではジムリーダー候補にまでなった。これらをベルは喜んだものだ。

 

「まぁ、それを聞いてる内にわたしも旅したくなっちゃったんだけどね」

 

 楽あり苦あり、他にも様々あるチェレンの旅の話を聞いていく内にベルもまた、旅への憧れを抱くようになったのだ。

 

「だから、旅をしたいってパパに頼んだだけど、断られちゃった」

 

 危険が沢山ある旅を容認する事は、過保護なベルの父親には出来なかったのだ。

 

「幾ら説得しても全く聞いてくれないし。で、最終手段。家出からの旅をすることにしました~」

 

 そのせいで、ベルの父親は本気で連れ戻すことになり、ベルも全力で動き回る旅になったが。

 

「そして、今に至ります」

 

「……チルル」

 

 思った以上に行動的があるベルに、チルタリスは苦笑いする。同時に彼女が自分を庇う理由についても分かって来た。

 

「そんなこんなあったからかな。見逃せなかったの」

 

 過去に一人だったからこそ、一人になったチルタリスをベルは見逃せなかった。

 チェレンが自分を助けたように、今度は自分がチルタリスを助けようと思ったのだ。

 

「迷惑、かな?」

 

「……チルル」

 

 フルフルとチルタリスは首を左右に振る。ベルは自分を助けてくれたのだ。その恩や気持ちを無下にする事は出来なかった。

 

「そっか。良かった~。」

 

 えへへとベルは、明るい笑顔になる。

 

「あっ、そうだ。わたしが話したんだし、今度はこっちが聞いても良い?」

 

「……チル」

 

 まぁとチルタリスは了承する。自分が聞いたのに断るのは不公平だ。

 

「じゃあ。チルタリスはロケット団に戻りたい?」

 

「チルチル」

 

 いやと、チルタリスは首を横に振る。戦って負けてゲットされたのは仕方ないとして、悪事への加担は気が進まない。

 自分を預かっていた団員も悪くはないが、特に大した魅力は感じなかった。まだ来ないのも合わせ、今ではもう何も感じない。

 そもそもロケット団にいたのは、チルタリスが敗者は勝者に従うべきと言う自然の摂理を持つことや、訓練の中で親しくなった他のポケモン達がいたからだ。

 しかし、一緒にいた仲間達はここでバラバラになった。こんな現状になれば、もうロケット団にいたいと思う理由がない。

 

「ならさ、ロケット団辞めて、野生に戻って元いた場所に帰ったら?」

 

「……」

 

 チルタリスは悩む。それも一つの選択肢だろう。ただ、そうなるのはしばらく後になりそうだが。

 

「それか、新しいトレーナーのポケモンになるとか?」

 

「……チルチル」

 

 無理無理と翼を振るうチルタリス。ジムリーダーとかでもないのに、犯罪組織にいた自分の新しいトレーナーになりたいと思う者が早々いる訳がない。それを手振り身振りで伝える。

 

「そっか~。……あっ、じゃあさ、わたしがなろっか?」

 

「……チル?」

 

「だって、わたしは昔一人ぼっち。チルタリスは今一人ぼっち。そんなわたし達が一緒に旅したら面白そうじゃない?」

 

「……」

 

 呆けるも、その後に少し考えるチルタリス。このマイペースな少女と一緒に旅する。色々と引っ掻き回されて面白そうだと感じ、くくっと笑みを溢す。

 

「……チルル」

 

「……ダメか~、残念」

 

 だが、その提案をチルタリスは拒んだ。彼女といればきっと色んな楽しさが待っているだろう。しかし、それはダメだなのだ。自分は彼女とは行けない。

 何より、これ以上一緒にいてはこの少女を危険に巻き込んでしまう。いや、彼女以外の自分を助けてくれた三人もだ。

 

「――~♪ ~~♪ ~♪」

 

「ふわ……? なんか、眠い……?」

 

 だから、チルタリスはこうすることにした。自分と彼女達はそもそも敵。一緒にいるべきではない。

 今はいないサトシ達の分も含め、助けてくれた感謝の気持ちを込めて、ハミングポケモンは軽やかに歌を奏でる。

 うたう。心地よい歌声で相手を眠らせる技だ。これでチルタリスはベルをゆっくりかつ、安らかな眠りへと誘っていった。

 

「すぅ……すぅ……」

 

「……チル」

 

 眠ったベルに、チルタリスは雲の翼で一度だけ優しく撫でると、茂みで彼女を隠してからそこから飛び、コアルヒー達にわざと見付かる。

 

「コア!」

 

「コアア!」

 

「スワ……!」

 

「……チル」

 

 コアルヒー達が自分に向かって集まり出し、奥からはスワンナも迫っていた。

 チルタリスはよしと呟た。このままスワンナ達を惹き付け、ベル達から遠ざけていくのだ。

 

「まだ合流出来ないな……」

 

「ピカピ」

 

 森をとにかく北方向に進んでいくサトシだが、アイリス達とはまだ合流出来ずにいた。

 

「……!」

 

 右からガサッと茂みが揺れる音がした。サトシとピカチュウが素早く反応すると、クルミルが出てきた。

 

「クルル」

 

「クルミル。皆は――」

 

「クル」

 

「サトシ!」

 

「無事そうだね」

 

「アイリス、デント」

 

 クルミルがそこと顔を向けると、アイリスとデントも出てきた。

 

「これで後はベルとチルタリスだけか」

 

「どこにいるんだろ……」

 

「その事なんだけど……一つ引っ掛かる事があるんだ」

 

「引っ掛かること?」

 

「さっき、コアルヒー達が通り過ぎたんだけど、その直後に誰かに呼ばれた様に動いたんだ」

 

 急に動きを変えたため、デントは違和感を感じたのだ。

 

「それってもしかして……」

 

「チルタリスを見付けたのかもしれない」

 

「じゃあ、ベルもそこに!?」

 

「可能性はある」

 

「行こう! デント、コアルヒー達はどっちに?」

 

「あっちだ」

 

 さっき通り過ぎたコアルヒー達の方向に向かって、サトシ達は走る。

 

「――タジャ」

 

「ツタージャ?」

 

 途中、クルミル同様に見回りに出したツタージャの声がし、サトシ達は一旦そちらに変更。声の場所に向かうと、ツタージャと茂みに隠されて寝ているベルがいた。

 

「ベル!」

 

「ふぇ……? サトシくん……?」

 

 サトシに呼ばれ、ベルは欠伸しながら目覚めた。

 

「もうなに寝てるのよ、こんなときに。子供ね~」

 

「ごめん……。けど、なんかチルタリスが歌ったら急に眠たくなって……」

 

「チルタリスといたのか?」

 

「うん、一緒に。……あれ? チルタリスは?」

 

 チルタリスがいない事に漸く気付いたらしく、ベルは辺りをキョロキョロしていた。

 

「……そうか。そういう事か」

 

 今までの情報から、デントは現状に至るまでを推測した。

 

「えっ、どういうこと?」

 

「ベル、君はチルタリスにうたうで眠らされたんだ。おそらく、これ以上この騒動を巻き込まないために」

 

「そう言えば、ベル隠されてたもんな」

 

「じゃ、じゃあ、今チルタリスは……!」

 

「一匹だけで、コアルヒー達やスワンナと戦ってるに違いない。直ぐに探そう!」

 

 今彼等が戦っている場所は、コアルヒー達が向かった件からある程度推測出来る。サトシ達は急いでそこに向かう。

 

 

 

 

 

「チルーーーッ!」

 

「スワワ!」

 

「コアー!」

 

 チルタリスが放つりゅうのいぶきを、スワンナの指示の下、コアルヒー達はかわす。

 

「スー……ワーーーッ!」

 

「チル……!」

 

 そして、攻撃を放った後を狙い、スワンナは冷気の風、こごえるかぜを口から吐き出す。

 こごえるかぜは的確に命中し、効果抜群のダメージを与えた上に、追加効果でチルタリスの速さを下げる。

 

「スワ!」

 

「コア!」

 

「コアア!」

 

「コアーーーッ!」

 

「チル……!」

 

 追撃のあわがコアルヒー達から放たれる。素早さが下がった状態ながらチルタリスはかわそうとする。

 

「チル、チル……! チルル……!」

 

 しかし、泡の数が多すぎてとても避けきれない。一つを食らうとそれを皮切りに、チルタリスは無数の泡を浴びせられてしまう。しかも、あわの効果で素早さが低下していく。

 

「スワー……ナーーーッ!」

 

「――チルッ!」

 

 素早さが大きく下がった所に、スワンナがつばめがえしを放つ。しかし、チルタリスもただやられるつもりはない。はがねのつばさで迎え撃つ。

 二つの技がぶつかり合う。結果はスワンナが押し負け、軽くだが吹き飛んだ。

 

「――スワ!」

 

「コアアアッ!」

 

「チルッ!」

 

 実力はダメージ有りでも、チルタリスの方が上。それを悔しみつつも理解したスワンナが部下のコアルヒー達に指示。周囲から泡が発射され、ダメージを受けて怯む。

 

「スワーーーッ!」

 

「チルルーーーッ!」

 

 怯んだその間を狙い、スワンナが再度つばめがえし。今度は対応も出来ずにチルタリスは受け、地面に落下する。

 

「チル……!」

 

「……スワ、スワワ?」

 

 追い込まれたチルタリスに、スワンナが問い質す。一緒にいた仲間の少年少女達はどうしたのかと。

 

「……チル、チルル」

 

 スワンナの問いに、チルタリスは鼻で笑ってからこう返す。あれは仲間じゃない。傷付いた自分を助けた赤の他人のお人好し達だと。

 

「チルル」

 

 チルタリスは話を続ける。ちょっと傷付いたフリをしただけで手当したり守ったりするのだから、全くバカな連中だ。笑いながらそう語る。

 

「……スワ、スワワ」

 

 それを聞いて、スワンナにさっきまでの住処を荒らされたのとは別の怒りを抱く。

 騙しただけでなく、自分を助けてくれた彼等をバカにした。余計に生かして置けないと冷たい眼差しで見下ろす。

 

「……チル」

 

 怒りを浮かべたスワンナに、チルタリスは微笑みながらこれで良いと微かに呟く。これでもう、スワンナ達はベルやサトシ達を敵とは思わない。

 後は自分がスワンナ達の技を受けて倒されればそれでは終わり。彼女達には危害は及ばない。その為に、スワンナにそう言ったのだから。

 

「――スワ!」

 

 やれと、コアルヒー達に止めを指示。大量の泡と共に、スワンナもこごえるかぜを吐き出す。

 

「チル……」

 

 迫る技の嵐。覚悟はしていた。望んでロケット団にいた訳ではないが、身を預けている間に悪の組織の一員だと自覚するようになった。何時かこんな風に終わるだろうと。

 だから、これからをチルタリスは大人しく受け入れていた。だけど何故だろう。自分を助けた彼等、それも特にベルの顔を一番強く思い浮かべてしまった。

 こんな短時間の間に、自分はベルに惹かれたのだろうか。もし、ロケット団よりも先に彼女と出会っていたら。

 

(……やれやれ)

 

 呆れてしまった。そこまで考えるとは、どうやら予想以上に自分はベルに惹かれていたらしい。

 しかし、自分はここで終わる。ベルが共にいる未来はない。また有ってもならない。自分は悪の組織の一員で、彼女はただの少女なのだから。

 だけど、せめて最後に祈ろう。彼女のこれからが良きものであるようにと。

 

「――チャオブー、かえんほうしゃ! チラーミィ、ハイパーボイス!」

 

「チャオ、ブーーーッ!」

 

「チラ……ミーーーッ!」

 

 覚悟を決めたハミングに迫る冷風と泡を、炎と音波が寸前で割り込み、直撃を阻止。

 技の激突で爆風が発生し、チルタリス、スワンナとコアルヒー達の視界を塞ぐ。

 

「……!」

 

 煙が徐々に晴れ、チルタリスの前に少女が写る。ベルだった。左右にはサトシ達もいる。

 

「間一髪! 間に合って良かった! チルタリス、身体は大丈夫?」

 

「……チルッ! チル、チルル!」

 

「えっ? なんか、チルタリス怒ってない?」

 

 ベルは間一髪で間に合った事を喜ぶも、チルタリスは彼女やサトシ達がここに来たことに怒る。彼女達の為にしたのに、完全に台無しになってしまった。

 

「怒りたいのは、わたしの方だよ! わたし達を遠ざけるなんて!」

 

「チ、チル……!」

 

 しかし、チルタリスは逆にベルに怒られて詰まる。ベルからすれば、助けたいと思った相手が無茶した挙句、もう少し命を落として掛けたのだ。当然の反応とも言える。

 

「チ、チル! チルチル!」

 

「何言ってもわたしは退かないからね! 絶対に助けるんだから!」

 

 チルタリスは、自分はベル達の敵。だからもう良い、ここから離れろと叫ぶも、ベルは一歩も退かない。

 

「ち、ちょっと! こんな事態なのに喧嘩しないでよ!」

 

「うーん、これはかなり危険なテイスト……!」

 

 スワンナとコアルヒー達がいるこの状態で、喧嘩など危なすぎる。サトシ達はどうしたらと困惑する。

 

「……」

 

 しかし、スワンナとコアルヒー達は何もしない。というか、ベルとチルタリスの言い合いにポカンと呆けていたのだ。ただ、スワンナは話の内容を聞いていた。

 そこから、ベル達とチルタリスは敵である事、ベル達はそんなことお構い無しに助けようとし、チルタリスもまた彼女達を助けるべく、遠ざけようとしている事、さっきのバカ呼ばわりも彼女達を自分達から遠ざけるためだと理解した。

 

「――スワ」

 

「……なんだ?」

 

「スワ、スワワ」

 

 少し考えてからスワンナが翼を前後に振るう。まるで、ここから離れろと言わんばかりに。

 

「……様子を見ながら少しずつ離れよう」

 

「分かった」

 

 サトシ達は少しずつスワンナ、コアルヒー達から離れていく。だが、スワンナは何もしない。コアルヒー達もスワンナに言われ、戸惑いながらも動かずにいた。

 

「この様子……どうやら、スワンナ達は僕達を見逃してくれるみたいだ」

 

「さっきまであんなに攻撃してきたのに、なんで?」

 

「その理由までは分からないけど……気が変わらない内に立ち去ろう」

 

「それが一番ね」

 

 また戦うのを避けるべく、サトシ達は急いでその場を離れていく。

 

「コア!」

 

「コアア!」

 

「スワ」

 

 コアルヒー達が追撃を進言するも、スワンナは放って置けと一蹴。さっさと帰るぞと命令する。ボスにそう指示されては部下のコアルヒー達は従うしかない。

 

「……スワワ」

 

 やれやれ、甘いかと呟くスワンナ。ただ、ベルとチルタリスの敵同士ながらも助け合う姿を見て、どうにもあれ以上の敵意を抱く事が出来なかった。

 最終的にスワンナは、戦いで傷付くのを避けると言う名目で自分やコアルヒー達を納得させ、全員で住処へと帰還し出した。

 

 

 

 

 

「ふー……、ここまで来たら大丈夫か?」

 

「姿形無し。向こうは退いてくれたと考えて良さそうだね」

 

「助かった~。チルタリス、ケガはどう?」

 

「……チル」

 

 何とかとチルタリスは呟き頷く。ダメージは大きいが、致命傷はなかった。頷いたチルタリスにベルは良かったと笑顔になる。

 

「にしても、なんで退いたんだろ?」

 

「分かんないわよ。とにかく、無事なんだからそれでよしね」

 

 アイリスの台詞に同意するサトシ達。スワンナやコアルヒー達の件はもう大丈夫だろう。

 

「……チルル」

 

「ん? なんだ、チルタリス?」

 

「……チル、チルル」

 

 チルタリスが何かを言いながらベル達に、次にサトシ個人にも頭を下げていた。

 

「助けてくれたお礼をしたり、攻撃したことについて謝ってくれたんじゃないかな?」

 

「チル」

 

「そう言うことか。俺の事は気にするなよ、チルタリス」

 

「……チルル」

 

 許してくれたサトシに、チルタリスは再度頭を下げた。

 

「助けるのも当然だよ。危ない時は助け合わないと。……さっきのは許さないけど」

 

「……チル」

 

 ジト目のベルに、チルタリスは気まずそうに顔を背ける。しかし、何時までもこうする訳にも行かないので素直に謝った。

 

「それで良いの」

 

「……チルル」

 

「なんか、ベルとチルタリス、不思議な感じだよな」

 

「確かにね」

 

 離れた時まではない、繋がりのようなものを彼女達から感じるのだ。

 

「とにかく……。チルタリス、お前を保護させてもらうな」

 

「でも、その前にまた手当しようよ」

 

 一段落し、今度こそチルタリスの保護。とその前に、ベルの提案でサトシ達は再度の手当を素早く済ませる。

 

「じゃあ、チルタリス。お前を――」

 

「チル」

 

 サトシが空のモンスターボールを取り戻そうとするも、チルタリスがベルを見つめる。

 

「なに、チルタリス?」

 

「……チル?」

 

「これ? 中は空だけど――」

 

 チルタリスがモンスターボールに翼を向ける。取り出したベルがこれは空だと言うと、チルタリスは嘴でそのモンスターボールのスイッチを押した。

 赤い光がチルタリスを包み込み、中に入れる。数度揺れると、パチンと閉じた。

 

「……えっ? 入った!?」

 

「いや、今のはまるで、チルタリスの方から入った様な……」

 

「それって、もしかして……チルタリスがベルを選んだってこと?」

 

 

 さっきの流れからは、そうとしか思えない。

 

「……どうするんだ、ベル?」

 

「ち、ちょっとパニック中……嬉しいけど」

 

「……とりあえず、ポケモンセンターに向かおう。チルタリスを回復してもらって、そこから他の人に相談すべきだ」

 

「だよね……」

 

 デントの意見にベル達は頷き、近くのポケモンセンターへと向かった。

 

 

 

 

 

 夕暮れのポケモンセンター。ベルがチルタリスの入ったモンスターボールを恐る恐ると言った様子で出す。

 

「あの、ジョーイさん」

 

「はい、何ですか?」

 

「その……。このポケモンをお願いします。チルタリスって言うポケモンで――」

 

「もしかして、ロケット団のポケモン?」

 

「えっ、知ってるんですか?」

 

「だって、ニュースになってるもの。――ほら」

 

 ジョーイが近くにあるリモコンでテレビを点ける。すると、あるニュースが流れていた。

 

『続けてニュースをお送りします。ヒウンシティは現在この有り様でありますが、市民の人々は復興を始めています』

 

 それはヒウンシティのあの事件についてで、アナウンサーが現状について報道していた。

 

『この惨事を引き起こしたのは、ロケット団と呼ばれる組織であり、また彼等のポケモン達がイッシュ地方に散らばっていることが公表されています。トレーナーの方々は、イッシュにいないポケモン達を捕獲した場合、ポケモンセンター及び、ジムに預けて頂けるようにお願いします』

 

「と言うことよ」

 

 まだ二日しか経っていないが、既にあちらこちらで報道されているようだ。

 

「あと――」

 

『そして、この事件を解決したのはかのゼクロムと、そのゼクロムに選ばれたこの少年とのことです。現在判明しているのはこの少年の名前がサトシと呼ばれ、ピカチュウを連れているとの――』

 

「あなたのことも、大々的に報道されるみたい」

 

 なので、ジョーイはサトシのことを入って来たときから気付いていたりする。

 

「うわ~、これイッシュ中にサトシの名前が知られてるわよ、絶対に」

 

「一躍、時の人だね……」

 

「あ、あはは……」

 

 この事態に、サトシは苦笑いするしかなかったりする。

 

「まぁ、そう言う訳でこのポケモンセンターでは既に十匹のロケット団のポケモンが預かったの」

 

「そんなに……」

 

 ただ、ロケット団のポケモンは数千。それが考えると少ない方だろう。

 

「預けられたポケモン達はどうなるんですか?」

 

「ここから、タイプに合わせて転送されるわ。ただ、一日に二度までだけど……」

 

 メインサーバーが使えないため、サブサーバー経由で送られるが、サブサーバーは復興をメインに使われているので、一日二度までになっていた。

 

「このチルタリス、だったわね? この子も回復したあと、私達が――」

 

「あの、このままわたしの手持ちとして連れていったらダメですか?」

 

「あなたの手持ちに? うーん……それは私では決められないわね」

 

 自分はジョーイだ。預かり送るならともかく、それに関しては管轄外である。

 

「なら、アララギ博士に連絡して見ようぜ」

 

「そうだね。それが良い」

 

 時間は掛かるかもしれないが、これは自分達では決めれない。ポケモン博士の彼女に聞くべきだ。

 

「じゃあ、回復はしますね。モンスターボール預かります」

 

 チルタリスが入ったモンスターボールをジョーイに預け、ベル達は通信機でアララギと連絡を取る。

 

『あら、サトシ君に皆も。元気?』

 

「はい。そっちは映りが良いみたいですけど」

 

 前はハッキングのせいで映りが悪かったが、今は鮮明に見えている。

 

『帰ったらすっかり調子が良くなったの。あの事件でロケット団にはする余裕が無くなったんでしょうね』

 

「それで」

 

 安心したサトシ達だが、アララギの推測が間違っていることには気付かない。無理もないが。

 

『それで何の用かしら?』

 

「はい。実は――」

 

 サトシ達はチルタリスの件について話す。

 

「――と言う訳なんです」

 

『なるほど……。ロケット団のポケモンのチルタリスをベルちゃんが預かりたいと』

 

「……やっぱり、不味いでしょうか?」

 

『うーん、私個人としてはオススメ出来ないわね。ただ――ベルちゃんはチルタリスと旅をしたいのよね?』

 

「はい。チルタリスといる内に、一緒に旅がしたいって思うようになったんです」

 

 そして、その気持ちはチルタリスが自分のモンスターボールに入った事で更に強くなった。

 

『だけど、チルタリスといることで苦悩する事も出てくると思うわ。それでもいたい?』

 

「それでも――いたいです」

 

 きっと、時には苦しめる事になるだろう。だけど、その時は今回と同じ様に一緒に解決したいと、ベルは決めていた。

 

『――そう。そこまでの気持ちがあるなら私も応援するわ。頑張って向き合いなさい』

 

「は、はい! ありがとうございます!」

 

『ただ、チルタリスには可能な限りボランティアをしてもらうわ。例えば、貴女が行った先で慈善事業があれば参加する。と言った具合に。でないと、不満は抑えられないしね』

 

 ジムリーダー達もそう言っていたことを、サトシ達は思い出す。

 

『あと、チルタリスを見せる時はポケモン図鑑を見せて。身分証明書になるから、ロケット団と間違われる事は無いわ。何か問題があった際も私が口利きするから』

 

「分かりました」

 

 確かにイッシュにいないポケモンを連れていると、ロケット団に間違われる可能性がある。身分証明は大事だろう。

 

(にしても、ロケット団のポケモンがこんなに早く一般トレーナーの手持ちになったのは予想外ね……)

 

 これは思った以上に早急な対応や措置が必要になるだろう。また忙しくなりそうだとアララギは苦笑いする。

 

『じゃあ私はこれで。ベストウイッシュ、良き旅を』

 

 チルタリスに関してのやり取りも終わり、通信は切れた。それから少し待つとチルタリスの回復が完了し、ベルがジョーイに近付く。

 

「はーい、お預かりしたポケモンは元気になりましたよー」

 

「ありがとうございます~」

 

「それで、この子は……」

 

「わたしの手持ちにします!」

 

「そう。じゃあ、どうぞ。それと頑張ってね」

 

「はい! 出てきて、チルタリス!」

 

「――チル」

 

 返されたチルタリスが入ったモンスターボールのスイッチを押し、チルタリスを出す。

 

「チ~ルタリス~! これから一緒に旅しようね~!」

 

「チ、チル?」

 

 抱き着かれた上、一緒に旅と言われ、チルタリスは戸惑う。

 

「……あれ? イヤ?」

 

「……もしかして、一緒に旅するとは思ってなかった?」

 

「けど、チルタリスはベルのモンスターボールに入ったわよ?」

 

「もしかすると……保護されて離れるからせめてベルのモンスターボールに入りたかった。とかかな?」

 

「……チルル」

 

 デントの言葉に頷くチルタリス。保護されて離れると思っていたからこそ、思い出にベルのモンスターボールに入ろうとしたのだ。

 

「そうだったんだ。けどチルタリス、預かっても良いって許可出たんだ。だから、一緒に旅しよ?」

 

「チル……」

 

「……イヤ?」

 

「……チルル」

 

 ベルとは旅がしてみたい。だが、許可が出ても自分は犯罪組織のポケモン。後ろめたいのだ。

 

「チルタリス、君が思ってる事は大体分かるよ。ロケット団にいた自分が彼女といて良いかに悩んでいるんだろう?」

 

「……チル」

 

「チルタリス。わたしさっきも言ったけど、一緒に旅がしたいの。だから――行こう」

 

 差し出された手に、チルタリスは大いに悩む。

 

「チルタリス、お前はロケット団に戻る気あるのか?」

 

「……チルル」

 

 ないと、先程ベルに言ったように顔を左右に振る。

 

「だったら、一緒に旅をしても良いんじゃない?」

 

「そうだよ。チルタリス、自分の気持ちに従うべきだ」

 

「……」

 

 サトシ達の言葉を聞いた後、チルタリスはベルの方に向く。しばらく悩みに悩み――彼女の手を翼で触れた。

 ベルの気持ちに応え、また助けてくれた恩に報いるためにも、チルタリスは彼女との新たな道を歩む事を決断した。

 

「これから宜しくね、チルタリス!」

 

「チル」

 

 新しい仲間に、ベルは笑顔を浮かべる。

 

「良かったな、ベル。新しい仲間が出来て」

 

「うん!」

 

「羨ましいけどね~」

 

 ある夢を目指すアイリスからすれば、ドラゴンタイプのチルタリスを仲間にしたベルが羨ましかったりする。

 しかし、先にベルがチルタリスと心を通わせたのだ。もう自分が入る間はない。潔くアイリスは退いた。

 

「だけど、ベルが偏見もなくチルタリスと接して、向き合ったからこそのテイストだよ。彼女のマイペースが良い方向に働いたって事さ」

 

 普通のトレーナーは、犯罪組織にいたポケモンをゲットしたいとは思わないだろう。

 だが、ベルはそれを気にせずに本心で触れ合ったからこそ、チルタリスは仲間になることを選んだのだ。

 

「って事は、エモンガの時もマイペース振りが良い方向に働いてたら、もしかしたらゲットしてかもしれないこと?」

 

「かもね」

 

 エモンガの時はマイペースが明らかに悪い方向に発揮されていた。もし、良い方向ならばエモンガをゲットしていたのはベルだったかもしれない。

 

「う~ん、けどわたし、やりたいこと抑えるの苦手なんだよね~。可愛いポケモンはゲットしたいし――このモフモフは味わいたい!」

 

 むぎゅ~と、ベルはチルタリスに抱き着き、雲の様な羽毛を堪能する。実は図鑑と柔らかいと聞いた時から触って見たかったのである。

 

「うわ~、柔らか~い。すっごく気持ち良~い」

 

「チルチル……」

 

 笑顔で抱き着くベルにうーんと苦笑いのチルタリス。やはり、振り回される日々になりそうだ。そんな彼女達に、あははとサトシ達は笑う。

 

「――満足! チルタリス、次はわたしを乗せて飛んでみて。一度、体験して見たかったんだ~」

 

「チルル」

 

「え~? なんで~?」

 

 チルタリスは今はダメと翼を交差。ベルはぶ~ぶ~と膨れっ面になる。

 

「ベル。この辺りの野生のポケモン達は殺気立ってる。やるとすれば夜だけど、それも危ない」

 

「チルチル」

 

「あっ、そうですね。チルタリス、ありがとう」

 

 デントの指摘にベルは納得。また、自分の身を案じて言ってくれたチルタリスにお礼も言う。

 

「それと皆。わたしここで別れるね」

 

「どうしてだ?」

 

「何となく! それに、何かも起きたし」

 

 マイペースな発言に何とも言えないサトシ達だが、本当は違う理由があることは知らない。

 

「チルタリス、戻って。じゃあね、皆。バイバ~イ!」

 

 別れに手を振り、ベルは走る。その手にはチルタリスが入ったモンスターボールがある。

 

「ふふふ」

 

 新しい仲間、それもサトシ達と同じ様に心を通わせてゲットしたポケモン。嬉しさから笑みが浮かぶ。

 

「わたしや皆と一緒に旅を楽しもうね、チルタリス」

 

 ハミングポケモンにそう告げると、マイペースな少女は旅を再開する。これからを楽しみにしながら。

 

「じゃあ、俺達も行こうぜ」

 

「うん。にしても、長い一日だったわね~」

 

「確かにね」

 

 朝と昼はエモンガ、昼からチルタリスで色々あった一日だった。

 

「だけど、もしかすると、これから先も多くのロケット団のポケモン達に会うかも知れないね」

 

 何しろ、二日でこれほどの影響だ。数を考えると、会わない可能性の方が低い。

 

「その度にこんな目に遭ったら身体が持たないわよ」

 

「まぁ、その時は頑張ろうぜ。見逃す訳には行かないんだし」

 

 野生のポケモンは勿論、ロケット団のポケモンの為にも、遭遇すれば保護するべきだ。

 

「とにかく、ライモンシティに向かって再開だ!」

 

 これからも大変な旅になりそうだと思いつつも、サトシ達はライモンシティに向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

「そろそろよね?」

 

「あぁ、もうすぐ時間だ」

 

 真夜中。ヒウンシティの北の荒野の隅。海に近いその場所で、ロケット団達がサカキから支援を受けるべく待っていた。

 

「誰か来るぞ」

 

 フリントの声に、そちらを向くとトランクを持った男性がロケット団に近付いていた。

 

「綺麗な空だな。南十字星が輝いてる」

 

「違う場所なら北十字星も輝いていそうにゃ」

 

 その言葉に、男性は頷く。これが合言葉だ。

 

「これがサカキ様からの贈り物だ」

 

 男性はトランクを開かないまま、ロケット団に渡す。

 

「では、私は失礼する」

 

「何かは知らないのか?」

 

「聞かされてない。その方が良いと指示された」

 

 それだけ言うと、ロケット団の男性はニャース達から離れていった。

 

「なんなんだろ?」

 

「サカキ様からの贈り物よ。悪い物のわけないでしょ」

 

「さっさと開けるにゃ」

 

 コジロウがトランクを開いた。中には――七つのモンスターボール、僅かばかりの資金になりそうな一つの金塊。

 それと身分証明書になりそうな髪型が異なる四人のパスポートもあるが、これは偽物だろうと彼等は直ぐに分かった。

 

「このモンスターボール、何が入って――」

 

「――ソーーーナンスッ!」

 

 いるんだとコジロウが言おうとしたその時、一つのモンスターボールから敬礼みたいなポーズをしながらポケモンが出てきた。

 

「アンタ……ソーナンス!?」

 

「ソーーーーナンス!」

 

 水色の身体に、目が付いた黒い尾、丸い四つの足が特徴の我慢ポケモン、ソーナンスだ。

 とある出来事で手持ちになり、シンオウまでは一緒にいたが、イッシュでは目立つと言う理由で本部に預けられていたはず。

 

「ち、ちょっと待てよ……。って事は、まさかこれ……!」

 

 コジロウが残り六つの内の、一つのモンスターボールのスイッチを押す。

 

「――キッパ!」

 

「おわぁああぁ! この感じ、お前かマスキッパ!」

 

 出てきてのは、大きな頭と口、葉の形をした長い手、身体から伸びる触手の虫取ポケモン、マスキッパ。

 ソーナンス同様、ロケット団本部に預けていた一匹。コジロウに噛み付いているが、これは愛情表現である。再会出来た分、気持ちを込めているのだろう。

 

「……大丈夫か、あれは?」

 

「大丈夫大丈夫、死にはしないから」

 

「面白いのう」

 

 マスキッパの愛情表現にフリントは冷や汗を流し、ゼーゲルは笑っている。

 

「ソーナンスにマスキッパ。って事は……」

 

 ムサシが、また一つのモンスターボールのスイッチを押した。

 

「ハーーーブ!」

 

「こっちはアンタね、ハブネーク」

 

 黒く長い身体に、黄色の模様、刃の様な尾の牙蛇ポケモン、ハブネーク。ムサシがホウエンでゲットしたポケモンだ。ちなみに、素手である。

 

「こっちがマスキッパ。って事は……」

 

「――マネネ!」

 

「やっぱりお前か、マネネ!」

 

 コジロウが残り四つの内の一つを押す。すると、また違うポケモンが出てきた。

 ピンク色の身体、赤く丸い鼻、紫色のとぐろを巻いた頭をしたマイムポケモン、マネネだ。

 

「今までのを考えると……これね。出てきなさい、メガヤンマ!」

 

「――ヤンヤン!」

 

 ムサシは三つとなったモンスターボールの一つを取り、放り投げる。

 中からは、濃緑の身体に薄い赤い目元や模様、合わせて六枚の羽や足、四つの鶏冠があるオニトンボポケモン、メガヤンマが現れる。

 

「サカキ様の贈り物ってこれだったのね~」

 

「久しぶりに会えて嬉しいにゃ!」

 

「ソーーナンス!」

 

「キッパキッパ!」

 

「ハブハーブ!」

 

「マネマーネ!」

 

「ヤンヤヤン!」

 

 三人組は勿論、五体も再会出来て喜びを分かち合っていた。

 

「けど、なんでサカキ様はコイツらを送って来たんだ? 確か、目立つって理由で預けられたはずだろ?」

 

「儂等が大々的に知られた以上、もう関係ないと言うことじゃろう」

 

「あっ、なるほどね」

 

「この偽造パスポートも、我々がこれらのポケモンを持っても疑われん為のだろう」

 

 確かにこうなった以上、かつてのポケモン達を戻しても大した問題にはならないだろう。四地方で集めたロケット団のポケモン達が散らばっているのだのだから。

 

「じゃあ、残りの二つは?」

 

「にゃー達といたのは、全員いるにゃ」

 

 自分達といたのはこの五体。しかし、トランクにあるモンスターボールは七つ。まだ二つ余るのだ。

 

「この二つは私の手持ちだ」

 

 残りの二つのモンスターボール。それは、フリントのだった。

 

「アンタのモンスターボールだったの」

 

「何が入ってるんだ?」

 

「出てこい」

 

「――ズバッ」

 

「――エナ!」

 

 二つのモンスターボールから、ポケモンを出した。

 出てきたのは水色の身体と紫色の翼に、目がない蝙蝠ポケモン、ズバットと灰色の身体に両前足が黒い噛み付きポケモン、ポチエナだ。

 

「ズバットとポチエナかにゃ」

 

「そうだ。――ミネズミ」

 

「――ミネ!」

 

「ズバット、ポチエナ。こいつはお前達の新たな仲間、ミネズミだ。しっかりと連携するぞ」

 

「ズバ」

 

「チナ」

 

 ミネズミと顔合わせし、二体は頷く。

 

「こっちもしようぜ。デスマス!」

 

「そうね。コロモリ!」

 

「デース!」

 

「コーロ!」

 

「マネネ、マスキッパ。コイツが新しい仲間のデスマスだ」

 

「コロモリよ。仲良くしないよ、ソーナンス、ハブネーク、メガヤンマ」

 

 五体は新しい仲間である、コロモリとデスマスと自己紹介し合う。第一印象は悪くなさそうだ。

 

「よーし、仲間も増えたわ!」

 

「プラズマ団にリベンジしてやろうぜ!」

 

「止めろ」

 

 一気に戦力が増え、プラズマ団に雪辱戦を仕掛けようとムサシとコジロウだが、フリントに止められる。

 

「何で止めるにゃ」

 

「戦力が多少増えただけで、どれだけの規模かも分かっていない敵とやり合う気か」

 

「じゃのう。無謀にも程があろうて」

 

 何しろ、分かっているのはプラズマ団と言う名前だけ。規模はどれだけあるか、また何を以て活動しているのか自分達は分かっていない。

 

「我々が戦力を増やした様に、我々と戦った三人組やプラズマ団も戦力を増やす事は充分有り得る。先ずは、情報収集だ。表舞台に立った以上、奴等も情報を出さずにはいられん。必ず情報を得れる」

 

「それは分かったけど……。この地方のポケモンをサカキ様に献上するのはしないのか?」

 

「そんな余裕がどこに――」

 

「一応、出来なくはないぞ」

 

 使っていた拠点である、飛行艇は完全に壊れている。そうでなくとも、ヒウンシティに墜落している。回収出来るわけもない。

 こんな状態でゲットしても、無理があるのでフリントは却下したが、ゼーゲルが口を出す。

 

「イッシュで本格的な制圧の時に備え、発見した拠点があっての。そこから預けれる。まぁ、大半は飛行艇や潜水艦のデータから判明している可能性があるが……この幾つかなら大丈夫じゃな。ただ、こっちも詳細は分かっておらんが」

 

 ゼーゲルがタブレットで出したデータを三人組とフリントを見せる。一つは近い。

 

「じゃが、捕らえたポケモンは直ぐに送らんと色々と手間と費用が掛かる。献上するなら、計画的にやることじゃな。また、拠点はあっても活動の為の資金はほとんどない。大きな動きは出来んの」

 

 捕らえたポケモンは放置するわけにも行かないので、食料等を用意しなければならないが、それにもお金がいる。

 今有る資金は、金塊一つ。これではちょっとした作戦数回が限度だろう。

 

「だったら、アルバイトで稼ぐだけだ!」

 

「そうにゃ! アルバイトで稼いで、活動資金を得るにゃ!」

 

 次いでに、増えた仲間の分も稼ぐ必要がある。

 

「……アルバイトする悪の組織など、聞いた事がないぞ」

 

「けど、そうしないと得れないでしょ」

 

「確かにそうだが……」

 

 しかし、どうにも納得が行かないフリントだった。

 

「まぁ良い、好きにしろ。但し、私は調査の為にしばらく別行動を取る」

 

「一緒にアルバイトしないのかにゃ?」

 

「やりながらでは効率が悪い。どう動くかを知るためにも、私だけで情報収集する」

 

「資金は渡せないぞ?」

 

「構わん。無くとも問題なく動けるよう、サバイバル訓練はしっかりこなしている。まぁ、ミネズミが少し不安だが……」

 

「ミネ!」

 

 フリントの三匹の中で、ミネズミは一番最後に、それも最近ゲットしたポケモン。少し不安があるも、ミネズミは問題なくやると敬礼した。

 

「それに、お前達も出来るだけバラバラになって置け。纏まって捕まるリスクは分散させた方が良い。万一、仲間が捕まった時、脱獄させる為にも。後、変装はしっかりするようにな。――さらばだ」

 

 三匹をモンスターボールに戻し、フリントは去っていった。

 

「では、儂も離れるとするかのう」

 

「ゼーゲル博士もか?」

 

「お主等といると面白そうじゃが、余計な騒動に巻き込まれそうでもあるからの。――ではの」

 

 ゼーゲルとしてはロケット団といると色々ありそうで興味深いが、リスクを考え、彼もまた一人で行動することにした。

 

「にゃー達はどうするにゃ?」

 

「決まってんでしょ。アタシ達は一緒に行動するわよ」

 

「まっ、それが俺達だしな」

 

 リスクを考えた上で、三人組は今まで通りに行動する事にした。勿論、変装はするが。

 

「絶対に倒すわよ!」

 

「おう、ロケット団の為に!」

 

「打倒プラズマ団にゃー!」

 

 かつての仲間を加え、ロケット団はプラズマ団打倒に向けて動き出した。

 

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