ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ 作:ぐーたら提督
「良い朝だね」
「ゾロゾロ」
「カブカーブ」
「ブブブ~イ」
ある町の先の森林の街道を進む一人の人物と、三匹のポケモン。Nとゾロア、ポカブ、イーブイ。
先の街でプラズマ団の会議も終わり、Nは旅を再開している。ちなみに、二日掛かったのは団員達やマスコミの対応時で間を食った為だ。
ただ、マスコミはともかく、団員達とのやり取りはしておいて良かったとNは思っている。
彼等がポケモン達について、どう考えているのかを客観的に知ることが出来、何時かの方針を決めれた。
「……ん?」
しばらく歩く途中、Nは微かなその気配に気付いた。どうしたのと聞く三匹にちょっとねと返すと、Nは森の中に入っていく。
「……!」
「……おや」
一本の木に、あるポケモンが凭れ掛かっていた。全く見たことがないポケモンであることや、傷からNはそのポケモンについて気付く。
「キミ、ロケット団のポケモンだね?」
「……」
コクリと頷くそのポケモンに、三匹が前に出て威嚇するも、Nが止める。
「ボクはね。キミ達トモダチ――ポケモンの声を聞くことが出来る」
「……!」
Nの発言にそのポケモンは驚く。本当がどうか確かめるべく、質問していくとNはその全てに的確に答えた。彼の発言は真実だとそのポケモンは理解した。
「名前は?」
「……」
そのポケモンは、自分の種族の名前を語る。やはり、Nは初めて聞く名前だ。
「それがキミの名前か。――、ボクはキミの敵対する立場にある」
「……!」
「だけど、ボクはキミと戦う気はない。少し話がしたいんだ。ダメかな?」
「……」
そのポケモンは少し考える。彼は敵だが、戦う気が無いと言う発言に嘘はなさそうだと思っていた。
実際、自分を倒すのなら話し掛けたりさずに攻撃すれば、傷付いた自分を倒せるのだから。ダメージもあるので、とりあえず彼と話をすることにした。
「ありがとう。隣良いかい?」
「……」
構わないとそのポケモンが返事し、Nと三匹は隣に座る。
「キミはこれからどうしたい?」
「……」
分からない。そのポケモンはNにそう返す。今までロケット団の為に頑張って来た。ヒウンシティでもあんな予想外の事態にもかかわらず、必死に務めを果たそうとした。
なのに、自分を預かる団員は迎えに来ず、自分は野生のポケモン達と戦って傷付いていくばかり。身心共にかなり疲れていた。
「――、キミはそもそも、どうしてロケット団にいたんだい?」
「……」
入った時から、今に至るまでをそのポケモンは語り出す。野生で暮らしていたある日突然捕獲され、それ以降、厳しい訓練をこなしてきた。
その日々の中で、自分は何時しかロケット団への忠誠心を抱くようになっていた。
強者に揉まれて上下関係を叩き込まれた、訓練には親身になる、任務を果たせばしっかりと労う、それらが原因かもしれない。
だが、現状に至る経緯や、団員が誰も来ない事から、今はその忠誠心は微かではあるが揺らぎ出していた。
「そうか。頑張って来たんだね。それをボク達が台無しにしてしまった、か。済まない」
「……」
言われてそのポケモンは気付く。確かにそうだ。あぁなった経緯は分からないが、ロケット団があんな失敗を犯すとは思えない。
この少年や彼が所属している組織のせいで、自分は今こうなっていると考えるのが自然だ。
怒りが込み上げ出し、Nを睨むも、彼を守るようにゾロア、ポカブ、イーブイが間に入る。
「皆、落ち着いて。――、キミの怒りは尤もだ。だけど、そもそもそれは正しい怒りなのかな?」
「……?」
「キミ達、ロケット団は何の為に活動しているんだい?」
「……」
そのポケモンは、ロケット団の行動理論を思い出す。確か、珍しいか強いかポケモンを集めて最強の軍団を作り、世界を征服をするだったはず。その為には、多くのポケモンを強奪し、洗脳し、訓練する。
「なるほど、それがロケット団の目的か。――、キミから見て、それは正しいと思うかい?」
「……」
それはそうだと、そのポケモンは何も疑わずに頷く。寧ろ、そんな質問を出したNに首を傾げたぐらいだ。
「では、それはどう正しいんだい? 世界征服自体はロケット団なりの正義を果たすための手段だと判断しよう」
人の正義はそれぞれだろう。その事に関してはNは否定する気はない。ただ、やり方は別だ。
「だけど、ポケモンを無理矢理強奪、洗脳、調教。はっきり言って悪事ばかりだよね? 正しさの欠片も感じない」
「……」
次の指摘に、そのポケモンは言葉に詰まる。冷静に考えると、確かに悪事ばかりだ。
「そんな組織に、キミが尽くす義理はあるのかい?」
「……」
改めて認識し、そのポケモンは無言になる。忠誠心も大きく揺れていた。
「――。先に謝らせてくれ」
「……?」
「ボクはキミを保護する義務がある。キミと野生で暮らす彼等、その両方を守るためにね」
「……」
「だから、はっきり言ってキミには自由がないんだ。……済まない」
「……」
顔を左右に振るそのポケモン。事態を考慮すれば、仕方がない事だろう。
「その上で、キミに言いたい。――、ボクと来ないかい?」
「……!?」
Nの誘いに、そのポケモンは驚愕する。敵である自分を勧誘すると言うのか。
「ボクはね。人とポケモンが対等な世界を作りたい。同じ立場で協力し合い、共に繁栄していく。……まぁ、言うだけなら簡単だけどね」
何しろ、そうするには今の世界のあり方を変えねばならない。また、どう変えるかもしっかりと考えていく必要もある。まだまだ学ばねばならない事は多い。
「……」
世界の変革とも言えるその理想に、そのポケモンは口が開く。途方もなく、また壮大だった。
「ボクはまだまだ未熟だ。敵も壁も多い。だけど、この理想を果たすため、ボクと一緒に歩んでほしい。どうかな?」
「……」
腕を差し出されながらそう告げるNから、そのポケモンは他者を惹き付ける魅力を感じた。カリスマとも言えるかもしれない。それは彼が本心で語るからだろう。
「……」
ただ、その手を掴む後一歩が踏み出せない。刷り込まれた忠誠心からの迷いだった。
「直ぐに決めなくて良いよ。何しろ、キミの今後を決める大きな選択肢だし、それにボクも自分が正義かと言われると、はっきりと断言は出来ないからね。だから、しっかりと考えて答えを出してほしい」
本人が自分で決めた上で、仲間になって欲しいのだ。
「でも、ここにいると少し不味いね。何処かで姿を隠した方が良い」
「……」
イッシュにはいないポケモン。非常に目立つだけでなく、野生のポケモンと戦う恐れもある。その二つを避けるためにも、その方が良いだろう。
「今日は一緒にいても良いかな? 君の事を知りたい」
「……」
一緒にいることを、そのポケモンは受け入れた。この話し合いで彼に興味を抱いていたからだ。
「さぁ、行こう」
Nは自分の仲間である三匹とそのポケモンを連れ、手頃な場所に移動し出した。
「うっひゃー。参ったな」
「ピカピ」
「さっきまでは猛暑と思いきや、今は大雨。今日は変わりやすい天気だ。にしても、アイリスの読みは当たったね」
「ふふ~ん。凄いでしょ」
「キババ」
さっきまではバテてしまうほどの猛暑とは思えない大雨の中、サトシ達は雨宿りに良さそうな屋敷の玄関前に着く。
ちなみにこの大雨、アイリスは予想していたが、二人は疑問に思っており、サトシに至っては雨が降ったら逆立ちしてやるとまで言ってたりする。
「とにかく、この大雨じゃあ先に進めない。止むまでここで雨宿りさせてもらおう」
「だな。すみませーん」
「どなたかいませんか~?」
何度も扉を叩き、呼び掛けるも返事はない。だが、少しすると扉が開き、サトシ達は話し掛けながら中に踏み入れる。やはり、返事はない。
『誰もいないのかな……?』
「アンタ達が来るまでは、ね」
「ソーー……ナンス……」
「アンタは黙ってなさい」
とある部屋で、モニター越しにある人物がそう返す。ロケット団のムサシだ。
隣にはコジロウやニャース、昨日合流したソーナンスもいる。但し、彼等は何故か少し窶れていた。
「にしても、良さそうなアジトだと思ったのに、これで台無しだな……」
建物を改造し始め、カメラを設置した頃にサトシ達が来たのだ。
「ジャリボーイのやつら、何時も何時もジャマするにゃ……」
「だったら、ピカチュウをゲットして、あいつらを追い出すわよ」
「なら、早速こいつらの出番か?」
「それも悪くにゃいにゃ。けど、あいつらにも協力させた方がもっと良いにゃ」
コジロウがモンスターボールを持つ。ソーーナンス同様、合流したポケモンが入ってる。
ニャースは賛成するも、そこに更に協力者を加えようとする。
それはデスマスと一緒にいる四匹のヒトモシ達で、この屋敷に住み着いていたポケモン達だった。
「あいつら、デスマスの言うことなら聞くみたいにゃ」
同じゴーストタイプのポケモンだからかは不明だが、ヒトモシ達はデスマスの言うことは聞いていた。
「おーい、デスマスー」
「デース」
「ピカチュウを捕まえて、他の奴等を追い出す様に伝えてくれ」
「デスデス。デスマース」
「モシモシ!」
ヒトモシ達はデスマスの指示を従い、一緒に動き出した。
「誰かいませんかー?」
「やっぱり、誰もいないのかしら?」
「とにかく、ここで雨宿りさせてもらおう。誰かいた場合は事情を話せば良いと思うよ」
「そうするか」
とにかく、サトシ達は雨宿りすることにし、リビングで雨が過ぎるのを待つことにした。
「それにしても、凄い雨だな」
「ねっ、あたしの言った通りでしょ?」
「キッバー」
見事雨が降るのを的中させ、アイリスとキバゴが胸を張る。
「流石、野生の勘とも言うべきフレイバー」
「俺の負けだ。だな、ピカチュウ」
「ピカピ」
「約束は守るぜ。――よっと!」
「ピカ!」
先程、雨が降ったら逆立ちすると言ったため、サトシとピカチュウは逆立ちする。
「いや、別にそうしてほしい訳じゃないんだけど……。子供ね~」
アイリスが久々に言った気がすると思い、サトシとピカチュウが逆立ちから崩れた後、窓が開いて雨が屋敷に入って来た。
「風が強くなって来たみたいだ。これで大丈――うわっ!?」
鍵を掛けて窓を閉じるデントだが、どういう訳か閉じた窓が開いた。
「なんだ……? ――うわっ!?」
「きゃあっ!?」
その次は、花瓶が置いてある台がサトシとアイリス目掛けて迫る。二人は慌てて避ける事に成功、傷はなかった。
「大丈夫かい!?」
「どうなってるんだ……?」
鍵を掛けた窓は勝手に開く。家具は勝手に動く。明らかに普通ではない。
「この屋敷、変な感じがする……!」
「変な感じ……?」
「誰かに見られてる様な……」
「だ、誰に?」
「それは分かんないけど……」
「――モシモシ」
困惑するサトシ達を二階から二つの影が見下ろし、互いを見て頷く。
「い、今のは風が吹き込んだんじゃないかな?」
「風程度で家具があんなに動くの!?」
「キーバキーバ!」
今のは無理があると理解していたのか、デントは言葉に詰まる。
「お、おい……」
「ピ、カ……」
「ん? いい……!?」
サトシとピカチュウが顔を青ざめ、続いてデントもそれに気付いて顔が青くなる。
「どうしたの? アメパトが水鉄砲食らった顔して……」
「う、後ろ……」
「後ろがどうかした、って……!」
アイリスが振り向くと、二階に続く階段から様々な道具がくっついた不気味な石像があった。
「うわ~~~っ!」
石像は傘を振り回しながら、サトシ達に向かって襲いかかる。
「とにかく、外に出よう!」
「あぁ!」
異常事態に屋敷を出ようとしたサトシ達だが、唯一の出口である扉がタンスで防がれてしまう。
「別の場所から――」
扉が塞がれ、違う場所を探そうとしたサトシ達に石像が迫る。咄嗟にかわすと、石像は家具に当たって自滅する形で破損した。
「ふう……。うわぁああぁ!?」
「デント!」
目の前に転がる破損した石像の顔を見て、パニックを起こしたデントは走り出してしまう。サトシとアイリスが追いかける。
「落ち着いたか、デント?」
「す、すまない。目の前に壊れた石像が出たとは言え、みっともない姿を見せてしまった」
デントはしばらく走り回った後、皿やフォーク、ナイフが並んでいる食堂と思われる部屋に、追い掛けてきたサトシとアイリスと一緒に来ていた。
「にしても、この屋敷なんなのよ?」
扉は勝手に閉まる。家具は勝手に動く。明らかに普通ではない。
「……なんか、前にも似たような事があったよな? ほら、確か――」
「シッポウ博物館の時! あの時は確か、デスマスの仕業だったわ!」
「となると、今回もゴーストタイプかエスパータイプのポケモンの仕業と考えるべき――」
前のデスマスの件を思い出し、今回も同様だとサトシ達は気付いた。その瞬間に呼び鈴が鳴り出し、彼等が座っていた椅子や食器が宙に浮き出す。少しすると、サトシ達は違う部屋に放り出された。
「これはサイコキネシスか!」
「家具を動かしたり、窓を開けたのもこれで……!」
「ん? 今度は――服が動いてる!」
「来るわよ!」
放り出されたサトシ達の前に、洋服が迫る。種が分かって無ければかなり怖い。
「ピカチュウ、10まんボルト!」
「ピーカ……チューーーッ!」
電撃が服に命中。操っていた力と相殺し、動いていた服と並んでいた服が倒れた。
「モシモシ……!」
「そこに何かいる! しかも、複数!」
「モシモシ! モシ!」
声の方向と倒れた服が動いたから、アイリスがそこに何かいると判断。気付かれたと逃げる彼等だが、一匹が足が縺れて転ぶ。
「つ~か~ま~え~た~! お前は――ヒトモシか?」
「モシ?」
シューティーが手持ちにしていたため、サトシはそのポケモンがヒトモシだと直ぐに気付いた。
「ここに住み着いてるポケモンかしら?」
「まぁ、このポケモンがさっきまでの騒ぎの原因なのは確かだね」
少なくとも、それだけは確かな事実である。
「なぁ、お前は誰かのポケモンなのか?」
「モシモシ?」
「それとも、この屋敷に住み着いてる野生のポケモンなのかい?」
「モシモシシ?」
「も~、どっちなのよ~?」
「モシモシモシ?」
サトシ達が色々質問するも、ヒトモシは分からない様に呟くだけだった。
「ヒトモシ、俺達は何か悪いことをしようって訳じゃないんだ」
「泥棒とかじゃないのよ」
「ただ、雨が止むまで休ませてほしいんだ」
「モシモシ?」
「あー、分からない……。Nさんがいてくれたらなあ」
ポケモンの声が分かるNなら、ヒトモシと簡単に会話が出来る。彼がいてくればと思うサトシ達だが、いないので仕方ない。
「とにかく、この屋敷を調べよう。でないと、どうすれば良いかすら分からない」
「だよな」
と言う訳で、サトシ達は屋敷を調べに回る。その間、ヒトモシはデントの腕にいた。
「ヒトモシ。さっきいたお前の仲間はどこにいるんだ?」
「モシモシ?」
「通じてるのかな? ――うわっ!?」
「ピカッ!?」
色々と質問するサトシ達だが、ヒトモシからモシモシかそれがちょっと変化したのが返ってくるだけだった。今回もそう返され、悩むサトシの前にある物体が浮かんでいた。
「このマスク……デスマスの!」
「デス!?」
「デスマス!」
「……マース!」
「おみゃーら、さっさとジャリボーイ達を追い出すのにゃ」
サトシ達を見て、デスマスは慌てて姿を消す。その直後にニャースとヒトモシが角から出てきた。
「ロケット団のニャースじゃない!」
「にゃ!? しまったにゃ!」
「お前ら、ここでなにしてるんだ!」
「逃げるにゃー!」
見つかってしまい、ニャースは残る三匹のヒトモシと一緒に逃げ出した。
「待て!」
追い掛けるも、角ばかりがある通路だったため、ニャースやヒトモシ達を見失ってしまう。
「こんなところにロケット団がいるなんて」
「ヒウンシティであんな騒ぎを起こしたのにまだいるの、あいつら?」
「……なにか企んでるのかもしれない。皆、調べて見ようぜ」
「あぁ」
また何かしようと言うなら、ヒウンシティの二の舞を避けるためにも、企みを叩くべきだ。サトシ達はロケット団を探そうとする。
「……の前に、少し休まないか? ちょっと疲れた感じがする」
「ピカピ」
「そう言われるとあたしも……」
「キバキーバ」
「僕もだ。さっきまで色々あったからかな?」
サトシ達は心なしか、少し疲れた感覚があった。少し休むことにする。
「――モシモシ」
その時、デントの腕にいるヒトモシがそう呟く。まるでサトシ達に向かって笑うかのように。
また、ヒトモシの灯はどういう訳か先程よりも大きさは増していた。
「ジャリボーイ達に見付かったの!?」
「面目ないにゃ……」
「何やってるんだ……」
サトシ達から逃げ切り、ムサシとコジロウがいる一応の拠点部屋に戻ったニャースはサトシ達に見つかった事を話す。当初の作戦が失敗し、ニャースは申し訳なさそうだ。
「……ん? ニャース、お前なんか窶れてないか?」
「よく見れば、コジロウもだにゃ」
「えっ? ……本当だ」
コジロウは顔を確かめ、今漸く気付いた。
「どうしたのよ、二人共。そんなにげっそりしてて」
「そう言うムサシもにゃ」
「えっ、アタシも?」
「ソーー……ナンス……」
ムサシも顔に触れて、自分が窶れていることに気付いた。それを肯定するように呟くソーナンスもだ。
「まぁ、昨日から徹夜で作業してたからにゃー」
「かもね。それよりもさっさとピカチュウをゲットして、ジャリボーイ達を追い出すわよ」
「使えそうな拠点は出来る限り残して置きたいしな」
大半の拠点は、警察に知られている。自分達の活動を上手く進めるためにも、残り少ない内の一つであるここは確保して置きたい。
「絶対に奴等にリベンジする為にも頑張るぞ!」
「全ては、ロケット団とサカキ様の為にゃ!」
「おー!」
「ソーーナンス!」
「あ~……」
打倒プラズマ団を声に出すも、直後に疲労感から座り込んでしまう。
「モシ、モシモシ」
「……あれ? ヒトモシの炎、さっきよりも大きくなってないか?」
そんなロケット団達にヒトモシ達が近付くも、コジロウがヒトモシの灯が大きくなっている事に気付いた。
「……そう? 気のせいじゃない?」
「……そうかな?」
「ソーーナンス」
ムサシやソーナンスはそう言うも、さっきはデスマスのマスク程度だったが、今は一回りほど大きさが増している様にしか見えない。
「そうそう、気のせいなのにゃ」
「そうかー……?」
「そんなことよりデスマス、ヒトモシにあいつらを追い出すように言って」
「勿論、ピカチュウを除いてにゃ」
「デスマ」
窶れていることや、灯火の大きさは後回し。デスマスは再度ヒトモシ達にピカチュウ以外を追い出すようにと伝える。
「モシモシ。モシシ」
「ん? なんて?」
「『黄色い鼠のやつが手強いから、助けが欲しい』と言ってるにゃ」
「ピカチュウ、強いしねー。しゃあないわ。出てきなさい、メガヤンマ」
「――ヤンヤン!」
「お前も出てこい、マスキ――ッパアアァッ!?」
「キッパー!」
ヒトモシの頼みを聞き、メガヤンマとマスキッパを出すムサシとコジロウ。しかし、出した瞬間、コジロウはマスキッパに噛み付かれてしまった。
「また噛まれてるにゃ」
「よ、よっと……。マスキッパ、ヒトモシの手伝いをしてくれ」
「キッパ」
「メガヤンマ、アンタもよ」
「ヤンヤン」
「――シモシモ」
協力を得たヒトモシ達だが、ニヤリと何かを企むような笑みをしていた。
「モシモシ?」
「シモシモ」
また、一匹が『あれ』の事を聞くと、一匹はもうそろそろ終わると返し、ヒトモシ達はまた笑みを浮かべる。
「プラー……」
「……」
屋敷のとある部屋に二匹のポケモンがいた。一匹は、ランプに顔や長い手があるポケモン。
もう一匹は、一つ目にくなった。頭部には黄色い部分と、腹部に同じく黄色の目や口のような部分があり、手はあるが腕や足がないポケモンだ。
「ラーン……。――プラ!」
「……!」
ランプの様なポケモンの目が怪しく光る。同時に、もう一匹の瞳から光が消えた。
「――ラン。プララ」
「……ヨノ」
これで良しとランプの様なポケモンは呟き、指示を伝える。もう片方のポケモンはコクリと頷くと、ランプの様なポケモンと共に動き出す。
「おい、ロケット団! どこにいるんだ!」
「ピカピカ!」
「どこに隠れているんだ!」
「悪いことをしようと思ってもダメよ!」
「――キバ!?」
サトシ達がどこにいるか分からないロケット団に向けて叫んでいると、家具がまた勝手に動き出した。
「あれ、仲間のヒトモシよ!」
「シモシ!」
「うわっ! や、止めてくれ、ヒトモシ! 俺達はお前達の敵じゃないんだ!」
「シモシモ!」
家具に放り投げてくるヒトモシを説得するサトシだが、ヒトモシは無視して次はシャンデリアを落下させていく。
「ダメだ! ここは逃げよう!」
「キバキバ! キババ!」
「――モシ!」
ヒトモシから逃げるサトシ達だが、その際一番後ろにいたキバゴの背後からヒトモシが現れ、その目が青く光った。
「はぁ、はぁ……。とりあえず、助かったか?」
「ピーカチュ」
「かな。にしても、どうしてヒトモシは僕達を狙うんだろう?」
「……あれ、キバゴは?」
逃げ切ったサトシ達だが、アイリスがキバゴがいないことに気付く。
「さっき、ピカチュウの後ろを走ってたと思うけど……」
「ピカピカ」
「キバゴ~!」
「そう言えば、デントと一緒にいたヒトモシもいない」
「どこに……!」
「さっきまでの部屋に戻ろう」
いる可能性が一番高いのは、さっきの部屋だ。サトシ達は直ぐに戻って行く。
「……あれ? デスマスは?」
一方、ロケット団の方もさっきまでいたデスマスがいない事にコジロウがいち早く気付く。
「デスマス?」
「ヒトモシ達の働きを見張ってるんじゃないの?」
「だと良いんだけど……」
ヒトモシ達はデスマスの言うことだけは聞いていた。なので、デスマスが見張りの為にいると言うのは納得出来るのだが、どうもコジロウは胸騒ぎがしていた。
「モシモシ」
「ヤンヤン、ヤヤン」
「キッパキッパ! キパパ!」
二匹のヒトモシと一緒に廊下を歩くメガヤンマとマスキッパ。二匹共、久々にムサシやコジロウ、ニャースと一緒の行動なので張り切っている。
「ヤヤン、ヤンヤン?」
「キッパ、キッパパ」
そんな二匹だが、メガヤンマがさっきから何か疲れない?と尋ねる。マスキッパは言われて見ればと、疲労感を感じていた。
「――モシモシ」
「――シモシモ」
メガヤンマとマスキッパの様子を見て、二匹のヒトモシはそろそろ頃合いだなと自分達だけに聴こえるように呟く。
「……」
「……ヤン?」
「キッパ?」
突然、二匹のヒトモシが足を止める。メガヤンマとマスキッパが訝しみ――二匹の背後から一匹のランプのポケモンが姿を現す。
「ヤン!? ヤヤンーーーッ!?」
「キ、キッパーーーッ!?」
鳴り響いた二匹の悲鳴は、廊下へと消えていった。
キバゴとヒトモシは先程の部屋にはおらず、捜索しているサトシ達だが、未だに見付からない。
「キバゴ~。どこに行ったの~?」
「おーい、キバゴー」
「キバゴー、どこだー?」
「ピカピー?」
「――モシモシ?」
「……ピカ?」
自分だけに微かに聞こえた声に、ピカチュウが反応。その場で振り返るも、ヒトモシの姿は見えない。
「ピカ……? ――ピカッ!?」
進んでいるサトシ達がピカチュウから遠ざかったその瞬間を狙うように、背後からヒトモシが出てきた。
「……あれ? ピカチュウは?」
「えっ、一緒に歩いていたんじゃ……」
数秒後、ピカチュウがいない事にサトシが気付く。
「まさか、ピカチュウまではぐれちゃたの!?」
「どこに……ピカチュウー!」
「もしかして、ロケット団に……!?」
「そんな……!?」
その頃、ムサシとコジロウはゼーゲルとの連絡をしていた。
「ゼーゲル博士」
『お前さん等か。窶れている様にも見えるが……。まぁ良い。何のようかの?』
たった一日にしては窶れて過ぎていると疑問を抱いたゼーゲルだが、今は本題を聞くことにした。
「例の拠点に到着し、多少作業も終わったからその報告に」
『おぉ、その場所に着いたか。それで、どんな場所なのじゃ?』
「それが、かなり大きな屋敷で生活に必要な物は一通り揃ってて、エレベーターやウォークインクローゼットまであるんだ」
「あと、ヒトモシの軍団もいるわ」
『……ヒトモシの軍団? それに、お前さん等のその窶れ様……! ――今すぐにそこを離れるんじゃ!』
「ど、どうしたのよ、ゼーゲル博士?」
「ソーナンス?」
事態を把握したゼーゲルに離れろと言われるも、ムサシとコジロウ、ソーナンスからすれば意味不明だった。
「ヒトモシ達はとても素直で――」
『お主等、よく聞け。最近知った事だが、ヒトモシは人やポケモンの生命エネルギーを吸い取る能力があるじゃ!』
「生命エネルギーを……」
「吸い、取る……!?」
「ソ、ソーナンス……!?」
『その窶れ様、既にかなり吸い取られておる! 至急――』
「ゼーゲル博士!? ゼーゲル……」
脱出せよと言おうとしたゼーゲルだが、モニターの画面が突然切れてしまった。
「ち、ちょっと……! って事は……!」
「俺達、ヒトモシに生命エネルギーを吸い取られて……!」
「ソ、ソーナンス……!」
ムサシが手鏡を取り出し、自分の顔を見る。先程よりも窶れさは増していた。
「それで、皆窶れていたんだ……」
「なんか、息苦しいわ……」
さっきまでは少し疲れる程度だったのが、今では疲労困憊レベルにまでなっていた。
「今もあいつらにどんどん吸い取られてるんだ……。早くここから脱出しないと……! あれ、ニャースは……?」
「ヒトモシ達の様子を……まさか!?」
「それに確か、メガヤンマやマスキッパも……!」
「ソ、ソーーナンスゥ!?」
ニャースはヒトモシ達の様子を確めに、メガヤンマやマスキッパは協力の為に行ったはず。彼等は急いで探そうとしたが、手遅れだった。廊下の何処かから、ニャースが悲鳴が響き消えていった。
「ピカチュウー!」
「キバゴ~、どこなの~!? 一体、どこに……」
「それに、さっきからだけど、何か疲れが……」
リビングに戻っていたサトシ達だが、疲れは先程よりも増していた。
「なんなの、この疲れ……。まるで、奪われてるか吸い取られてるみたい……」
「……吸い取られてる?」
その言葉に、サトシが反応する。前にどこかで聞いた覚えがあるのだ。あれは確か。
「そうだ。確か、ヒトモシの……!」
「サトシ?」
カレントタウンでのシューティーとバトルした時。それを思い出したサトシは、ポケモン図鑑でヒトモシの情報を検索する。
『ヒトモシ、蝋燭ポケモン。真っ暗な場所に現れて明かりを灯し、足元を明るくして道案内をしてくれる様に振る舞うが、実は霊界へ誘おうとしている』
「――えぇ!?」
『人やポケモンの生命エネルギーを吸い取り、頭の炎を燃やしている』
ヒトモシのとんでもない情報に、サトシ達は驚愕する。
「つ、つまり、あたし達の命が危ないってこと!?」
「そうか……! ヒトモシ達は最初から僕達を霊界に誘おうとしていたから、この屋敷から出そうしなかったんだ……!」
「俺達のこの疲れも、ヒトモシが生命エネルギーを吸い取ってたからか……!」
「じゃあ、キバゴやピカチュウがいなくなったのは……!」
「ロケット団の仕業じゃない。ヒトモシ達だ!」
「直ぐに探そう! ピカチュウ、キバゴ!」
全ての謎が解け、サトシ達は連れ去られたピカチュウとキバゴを探す。
「――あそこだ!」
サトシ達は疲労に耐えながら廊下をとにかく走り回ると、下に続く道を向かう二匹のヒトモシを発見する。
「キバゴやピカチュウはどこ!?」
「――モシモシ」
問い質されてもヒトモシ達は無視し、そのまま下っていく。サトシ達は直ぐに後を追い、先にある部屋に到着。扉を開けると、連れ去られたピカチュウ達がいた。
「ピカチュウ!」
「キバゴ!」
「ピ、カ……」
「キバ……」
かなり疲れているが、命には別状は無いようだ。
「後は、ニャースとデスマス……それに、メガヤンマやマスキッパ?」
「サトシ、知ってるの?」
「あぁ、どっちも他の地方のポケモンだよ」
「じゃあ、この二匹もヒウンシティから……?」
「いや、多分だけど、この二匹は――」
続きを言おうとしたサトシだが、この部屋の扉が突然閉まる。デントが開こうとすると、一部が割れて青黒い波動が放出。次に人の顔が出てきた。それはムサシのだ。
「見つけたー……」
「な、なんだ?」
「――とう……!」
「な、なんだと聞かれたら……」
「答えてあげよう、明日のため……」
「フューチャー……。白い未来は悪の色……」
「ユニバース……。黒い世界に正義の鉄槌……」
「我ら、この地にその名を記す……」
「じょ、情熱の、破壊者、ムサシ……」
「あ、暗黒の純情、コジロウ……」
「む、無限の知性、ニャース……」
「さぁ集え……。ロケット団の名の下に……」
「ソーー……ナンス……」
何時もの口上をするロケット団だが、生命エネルギーを相当吸い取られているため、かなり辛そうだ。
「また見たことないポケモンが……」
「っていうか、かなり吸い取られてるじゃない!」
ソーナンスに驚くデントと、自分達よりも遥かに窶れたロケット団にアイリスは寒気を感じた。
「メ、メガヤンマ、ここにいたのね……」
「マスキッパ、デスマス、大丈夫か……」
「ヤ、ヤンヤン……」
「キ、キッパ……」
「デスマ~……」
ムサシとコジロウはお互いの手持ちの安全を確め、ホッと一安心する。
「そ、そうよ、ニャース。さっさとこの屋敷から出るのよ……」
「な、なんでにゃー……? ピカチュウゲットのチャンスなのにゃ……」
「大変なんだ。ヒトモシは人やポケモンの生命エネルギーを……」
「――ヒ!」
「――ト!」
「――モシ!」
「――シモ!」
ニャースに事情を話すムサシとコジロウ。そこに、五つの炎が灯る。
「ラーン」
「モシモシ!」
ヒトモシ達と、他にも一体のポケモンがサトシ達とロケット団の前に表れた。
「ほ、炎が更に大きく……!」
「ア、アタシ達の生命エネルギーを更に吸い取ったから……!」
「ヒトモシ以外にもいる!」
「あれは……!」
『ランプラー、ランプポケモン。ヒトモシの進化系。稀に、ヒトモシと共に人やポケモンの生命エネルギーを吸い取り、霊界に道案内すると言われている』
「ランプラーも~~~!?」
ヒトモシの時と大差がない情報や、ヒトモシ達と一緒にいる点から、サトシ達は更なる危機感を抱く。
「ピカピカ、ピカピ……!」
「ど、どうした、ピカチュウ?」
「『こいつらだけじゃない。もう一体いる』と言っているにゃ……!」
ピカチュウはヒトモシだけでなく、そのポケモンにも不意打ちされ、捕まってしまったのだ。
「ど、どこに!?」
「――ヨノォ……」
ヒトモシ達やランプラーのでもない鳴き声が響く。直後、ランプラー達の上に虚ろな瞳のその一体が現れた。
「あれは……ヨノワールだ!」
「ヨ、ヨノワール?」
「えぇっと……これだ!」
『ヨノワール、手掴みポケモン。サマヨールの進化系。この世とあの世を常に行き渡る。さ迷う魂を弾力ある身体に取り込み、人やポケモンを霊界へと連れて行く』
「最悪じゃない!」
ヨノワールまで霊界へ連れていくポケモンと知り、アイリスとデントは全身に悪寒を感じる。
「あれも他の地方の、ロケット団のポケモンかい!?」
「多分! だけど……」
前の件では、ロケット団のポケモンと野生のポケモンは敵対していた。しかし、今回は協力している。
「ち、ちょっと、ヨノワール……! アンタ、アタシ達の仲間でしょ……!」
「だったら、ランプラーやヒトモシ達を――」
「ラーン……プラーーーーッ!」
「モシシーーーッ!」
「ヨノワーーーッ!」
「ヒトモシとランプラーはれんごく! ヨノワールはおにび! 避けるんだ!」
ヨノワールに助力を頼むロケット団だが、ヨノワールは無視してランプラーやヒトモシ達と共に攻撃。サトシ達とロケット団は咄嗟に避ける。
「な、なんで攻撃して来たんだ!?」
「ま、待って! それよりもあれ!」
ロケット団のポケモンがロケット団に攻撃して来る。明らかにおかしいが、それよりも気にする点がある。今の攻撃で壁が壊れており、そこから不気味な光景が見えていた。しかも、そこに向かって強い吸い込みが発生している。
「あれは……!?」
「まさか、ポケモン図鑑が言ってた……!」
「霊界の入り口か……!?」
「って事はあそこに吸い込まれたら……!」
「そのままこの世とおさらばなのにゃ……!」
「背筋も凍るバッドテイスト……! いや、デッドテイスト!?」
中は不明だが、入れば間違いなく、この世から消えてしまうのは確かだろう。
「ラーーーンッ!」
「ヒトー……モシ!」
「また来るぞ! 皆、かわ――」
「ヨノ!」
「ぐっ!? これはじゅうりょく!」
またれんごくやシャドーボールが迫り、サトシ達はかわそうとする。しかし、ヨノワールの目が光ると、身体に押し付けられたように何かがのし掛かってきた。念の力で重力を増加させる技だ。
それにより、サトシ達は上手くかわすことが出来ず、攻撃が命中してしまう。
「うわあぁ!」
「きゃああっ!」
「サトシ、アイリス!」
「ムサシ、ニャース!」
攻撃を受けたのはサトシ、アイリス、ムサシ、ニャース。余波を受けた彼等に連れて行こうとするかのように吸い込みが働く。
しかも、ランプラーのれんごくが壁を破壊すると、そこから床を除く周囲の壁が取り除かれ、辺りは白い靄に煉瓦が浮く不気味な光景に変化する。
「どうやら、ランプラーやヒトモシ、ヨノワールを倒さない限りここから出れない様だ……!」
サトシとアイリスを端から戻しつつ、デントはそう推測。隣でコジロウがムサシとニャースを引っ張って戻していた。
「メガヤンマ、行ける……?」
「ヤンヤン……」
「マスキッパ、お前もどうだ……?」
「キッパ……」
ヒトモシに生命エネルギーをかなり吸い取られたせいか、二匹だけでなく、ニャースにキバゴ、ピカチュウ、デスマスも相当消耗しており、まともに戦える状態では無かった。
「だったら……行きなさい、ハブネーク……!」
「ハーーーブ!」
「マネネ、お前もだ……!」
「マネネ~~~ッ!」
また知らないポケモンに驚くアイリスとデントだが、そんな余裕は無い。サトシを含め、ポケモンを繰り出す。
「ミジュマル、君に決めた!」
「エモンガ、行って!」
「ヤナップ、頼む!」
「ミジュ!」
「エモ!」
「ヤナップ!」
サトシ達はミジュマル、エモンガ、イシズマイを繰り出す。ちなみに、エモンガはこの事態にえぇっ!?と驚いていたりする。
「ハブネーク、ポイズンテール……!」
「マネネ、サイケこうせん……!」
「ハーーーブッ!」
「マネ~~~ッ!」
「ヒト!」
「モシ!」
毒の尾と、新しい技の念の光線を仕掛けるハブネークとマネネだが、両方ヒトモシのまもるで防がれてしまう。
「ミジュマル、みずてっぽう!」
「エモンガ、めざめるパワー!」
「ヤナップ、がんせきふうじ!」
「ミジュマーーーッ!」
「エ~……モッ!」
「ヤナナーーーッ!」
「ラン!」
「シモ!」
次にミジュマル、エモンガ、ヤナップが攻撃を仕掛けるも、今度はランプラーとさっき防いだ以外のヒトモシがまもるで遮り、弾く。
「また防がれた!」
「全員がまもるを使えるから、タイミングをずらして攻撃しても防がれてしまうんだ!」
「じゃあ、どうすれば良いのよ!?」
「まもるでも防げないレベルの強力な攻撃、使う間を与えない程の連続攻撃、或いは向こうが攻撃した後を狙うぐらいしか……!」
しかし、そのどれもが困難と言わざるを得ない。
「――ラン!」
「――モシ!」
「……なんだ?」
どうすればと悩んでいると、ヒトモシとランプラーが炎を敵であるサトシ達ではなく、仲間である自分達に放つ。
「な、仲間に攻撃した……?」
「な、なんでよ……?」
「……まさか!?」
全員が戸惑っていると、デントが気付いた。しかし、もう手遅れ。
「ラーン……」
「モシーーーッ!」
次の瞬間、ランプラーとヒトモシ達の炎が強烈に輝き、強い熱を放つ。
「な、なに、この熱さ……!」
「まさか、これって……!」
「もらいび! ランプラーやヒトモシ達は自分達に炎を放って、力を高めたんだ!」
「じゃ、じゃあ、更にヤバイ状況になったってこと……!?」
「ど、どうすんだよ、これ……!」
「ヨノノ!」
「これ……にほんばれ!?」
更に追い討ちを掛けるように、ヨノワールがにほんばれを発動。強烈な光と熱がこの不気味な戦場に降り注ぐ。
「更ににほんばれで強化!?」
「ラーン……プラーーーーーッ!!」
「ヒトー……モシーーーーーッ!!」
もらいびとにほんばれにより、先程よりも大幅に威力が増したれんごくが発射。しかも五つの炎は一つとなり、強大な炎の塊へと化してサトシ達に迫る。
「あれを食らったら不味い! 絶対に避け――」
「ヨノノ!」
これは絶対に回避しようとしたサトシ達だが、再度ヨノワールがじゅうりょくを発動。また動きを封じられ、直撃はしないが受けてしまう。
「あっ……、やば……」
「コジロウ!」
それにより、コジロウが吹き飛ばされ、霊界に吸い込まれそうになる。
「よし……!」
「ジャリボーイ……」
あわや霊界に入り込もうとしていたコジロウを、サトシが腕を掴んで阻止していた。
「ララーーーンッ!」
「モシモシーーーッ!」
「ヨノーーーッ!」
「しまった!」
サトシが助けて意識が逸れたその一瞬を狙い、ランプラー達がシャドーボールで攻撃。
「う、うそ……!」
「アイリス!」
シャドーボールにより、今度はアイリスが吹き込んだ。デントが助けようとする間一髪で手が空を切る。
「間一髪……!」
「ロケット団……!?」
そのアイリスを助けたのは、ムサシだった。サトシと一緒にありったけの力を込めてアイリスとコジロウを助ける。
「ジャリボーイ……ここは一時休戦するわよ……」
「あぁ、そうだな」
「ここは力を合わせて奴等を倒すんだ……」
「イッツ、ブレンドタイム!」
共通の敵を前に、サトシ達とロケット団は一旦敵対関係を忘れ、協力し合う。
「だけど、どうやってランプラー達を倒すの?」
ただ攻撃しても、連続のまもるで防がれるのは目に見えている。
「それに、ランプラーやヒトモシの炎が更に大きくなってるにゃ……!」
「今も俺達から生命エネルギーを吸い取ってるのか……!」
ロケット団だけでなく、サトシ達も大きな疲労感を感じ出していた。少し前に繰り出された五匹も疲労感が出ている。
このまま長引けば、動くなるだろう。つまり、短時間で決めるしかない。
「全員の一点攻撃で突破するか……?」
「いや、その場合は分散されてかわされる可能性が高い。それにあれほど超高威力のれんごくを突破出来るかどうか……」
一点攻撃しようにも、あれほどの超高威力のれんごくに力で真正面から対抗するのは無理がある。
「――俺に考えがある。皆、俺の指示に従ってくれないか?」
「分かったわ……。アタシ達を上手く使いなさいよ……」
「やけに素直ね」
「ジャリボーイの実力は俺達がよーく知ってる……。バトルに関しては、任せれるさ……」
幾度も幾度も戦い、実力を知っているからこそ、ムサシとコジロウはサトシの作戦に従う事が出来たのだ。
「ラーン……!」
「モシー……!」
「れんごく……! これで決める気か……!」
下手な小細工よりも、力で押し切るつもりなのだろう。
「ジャリボーイ、どうすんの……!?」
「遠距離攻撃出来るポケモン達で、可能な限りれんごくの威力を削ってくれ!」
「分かった……!」
先ずそうしなければ、勝機が見出だせない。サトシとムサシがモンスターボールを投げる。
「行け、ハトーボー、ポカブ、ツタージャ、クルミル!」
「ハトー!」
「ポカッ!」
「タジャ」
「クルル!」
「コロモリ……!」
「コロロ!」
「来るわよ!」
サトシとムサシはポケモン達を繰り出すと同時に、ランプラーとヒトモシが攻撃を放つ。
「プラーーーーーッ!!」
「モシーーーーーッ!!」
「ピカチュウ、エレキボール! ミジュマル、みずてっぽう! ハトーボー、かまいたち! ポカブ、ねっぷう! ツタージャ、たつまき! クルミル、はっぱカッター!」
「ピー……カッ!」
「ミジュー……マーーーッ!」
「ハトー……ボーーーーッ!」
「ポカ、ブーーーッ!」
「ター……ジャ!」
「クルルルーーーッ!」
「キバゴ、りゅうのいかり! エモンガ、めざめるパワー!」
「ヤナップ、ソーラービーム!」
「キバー……ゴッ!」
「エ~……モッ!」
「ヤナー……プーーーッ!」
「ハブネーク、ヘドロばくだん……! メガヤンマ、げんしのちから……! コロモリ、エアスラッシュ……!」
「ハブーーーッ!」
「ヤンヤン……ヤンッ!」
「コロローーーッ!」
「マネネ、サイケこうせん……! マスキッパ、タネマシンガン……! デスマス、シャドーボール……!」
「マネ~~~!」
「キパパパ……!」
「デース……マッ!」
超高威力のれんごくに様々な属性の技で対抗するも、その全てが突破される。
「突破されたわ!」
「かなり威力は削れたけど……!」
しかし、まだかなりの威力がある。受ければ大きなダメージは避けられない。
「ロケット団! ソーナンスだ!」
「なるほど、そういうことね……! ソーナンス、やっちゃいなさい……!」
「ソーーナンス……!」
ソーナンスがサトシ達の前に出て、複数の色の壁を展開。れんごくを受け止める。
「これはミラーコート……! そうか、れんごくを倍返しにして反射しようと!」
「えっ、ちょっと待って! そんなことしたらランプラー達は吸収しちゃうんじゃ……!?」
「いや、ミラーコートはエスパーの力で反射する技! つまり、エスパータイプの技と扱われるため、悪タイプ以外では無効に出来ない! 問題は……!」
あれほどのれんごくを、反射出来るかどうかだ。
「ソ、ソーナンス……!」
使用者であるソーナンスは、ヒトモシ達のせいでかなり消耗している。そのせいもあり、れんごくに押されていた。
「押されてる……!」
「ジャリボーイ、このままじゃ、押し切られるにゃ……!」
「分かってる! ロケット団、マネネだ!」
「マネネ……? ――そう言うことか……!」
この場面でマネネ。一瞬戸惑うコジロウだが、使える技を思い出してサトシの作戦を理解した。
「マネネ、ものまねだ……!」
「マネ!」
マネネがものまねを発動。するとマネネもまた、ソーナンスと同じ複数の色の壁――即ち、ミラーコートを展開する。
「そうか! ものまねでミラーコートを使うことで、倍にしたのか!」
二匹が使えば、耐久度も反射力も倍になる。これなら、かなり威力を削ったあのれんごくの反射は十分可能になる。
「跳ね返せ、マネネ、ソーナンス……!」
「マ~……ネ~~~ッ!!」
「ソーー……ナンスーーーッ!!」
「ラン!?」
「モシ!?」
「――ヨノ!」
そして、マネネとソーナンスは見事れんごくを反射。反射されたれんごくは結構威力が削られていたが、倍返しによってその威力はかなり戻っていた。
ヨノワールがヒトモシやランプラーの前でシャドーボールを放つも、それだけ相殺仕切れる訳もなく、炎はランプラーとヒトモシ達、ヨノワールに直撃。
「ラーーーン!」
「モシーーーッ!」
「ヨノーーーッ!」
ランプラーとヒトモシ達は自ら放った炎により吹き飛び、またヨノワールを巻き込んで霊界へと吸い込まれていった。
すると、外れていった壁が元に戻って行き、部屋は元通りになった。
「ヒトモシ達は……」
「霊界に行っちゃったみたいにゃ」
「って事は……! 元に戻っている!」
顔を触ると、窶れが無くなっていた。吸い取られた生命エネルギーが戻ったのだ。
「だったら、こんな屋敷からおさらばするわよ!」
「僕達も出よう」
「あぁ……」
全員急いで屋敷から出ようとしたが、サトシだけは壁を腑に落ちない様子で見ていた。
「どうしたの、サトシ?」
「いや、なんでヨノワールはヒトモシやランプラーに協力してたんだろうって思ってさ」
「助けられた……はちょっとあり得ないか」
あんなとんでもない事をするヒトモシやランプラーが他者を助けるとは考えにくい。だとしたら、どうしてヨノワールは彼等といたのか。
「もしかして、操られていたとか」
「……有り得なくはないね」
あのヒトモシやランプラーなら平気でやりかねない。況してや、ヨノワールは自分達と同じ霊界に関するポケモンだ。
今後の活動のため、操っていたと考えれば辻褄が合う。しかし、だとしたらヨノワールも被害者だったのだろう。
「……助けられなかったな」
「仕方ないよ、余裕が無かったし……」
加減する余裕など、全く無かった。していたらこちらが死んでいただろう。デントの言う通り、仕方はない。
「けど、ヨノワールってこの世とあの世を行き来するポケモンなんでしょ? だったら、自力で戻って来れるんじゃない? ランプラーやヒトモシも倒されたから、解放されてると思うし」
「……だと良いな」
そして、この世に戻って来た時は良い人に保護されて欲しかった。
「とにかく、出よう」
「……あぁ、そうだな」
壁をもう一度だけ見て、ヨノワールの無事を祈ってから、サトシ達は屋敷から出る。
「おい、これ……!」
「ピカピカ……」
外に出たサトシ達が屋敷を見ると、入った時とは違うぼろぼろの屋敷があった。
「多分、ヒトモシやランプラーが立派な屋敷に見せ掛けてたんだろうね……」
そして、人を誘い出し、生命エネルギーを吸い取る。それがランプラーやヒトモシの企みだったのだろう。
「入った時から、変な感じはしてたのよね……」
「――ジャリボーイ!」
感覚の鋭いアイリスがそう溢すと、コジロウのサトシの名を呼ぶ声がする。サトシ達が見上げると、ロケット団が屋敷の屋根に乗っていた。
「次に会った時はこうは行かないわよ!」
「ピカチュウは必ず頂く!」
「必ずにゃ!」
「ソーーナンス!」
「――さらば!」
ロケット団はそれだけを言い残すと、屋敷から降りて早足で去っていった。
「僕達も行こうか」
「あぁ」
「――あっ、また湿った空気。また来るわ」
「また!?」
アイリスの予想は再び的中し、また雨が降ってきた。サトシ達は急いで手頃な木の下で雨宿りする。
「にしても、今日はヒトモシやランプラーのせいでとんでもない目に遭ったわね……」
アイリスの言葉や、さっきの思い出しでサトシはあることを懸念していた。
「……なぁ、そう言えばシューティーって、ヒトモシ持ってたよな? ……大丈夫、だよな?」
「だ、大丈夫じゃないかな? ……多分」
サトシ達は、シューティーが無事であるように祈るしかなかった。
「――ハクション!」
「ジャノ?」
「モシ?」
「いや、突然くしゃみが……なんだろう?」
そして、サトシ達から心配していたシューティーは彼等から遠く離れた場所でくしゃみをしていた。
ジャノビーやヒトモシでバトルした後、いきなり鼻がムズき、くしゃみが出たのだ。噂をすればと言うやつかもしれない。
「まぁ良い。それよりも……」
シューティーはケースに入ってるナックラーのタマゴを見る。彼は毎日様子を見ており、ポケモンセンターでの検診もしていた。
「問題なさそうだ。早く産まれてほしいね」
「ジャノノ」
「モシモシー」
新しい仲間に早く会いたいと、ジャノビーとヒトモシはナックラーのタマゴを見つめる。
「さぁ、行くか」
シューティーはジャノビーとヒトモシを戻し、タマゴをしっかりと抱えて歩き出した。
「……にしても、さっきのくしゃみはなんだったんだろう?」
サトシ達が自分を心配した結果、だとはシューティーは夢にも思わなかった。
「ヨ、ノ……」
深夜。どこかも分からない場所でヨノワールが現れる。ミラーコートで倍返しで反射された一撃でランプラーから解放され、霊界から現世に戻って来たのだ。
しかし、不意を突かれてあやしいひかりを掛けられたため、今を含めてここ二三日の記憶が曖昧だった。
「……ヨノ」
木に凭れ、はぁとため息をこぼすヨノワール。孤立やあやしいひかりの件もあり、色々と疲れていた。
「おや? 何かいますね」
「――!?」
ヨノワールに話し掛けたのは、紫のおかっぱ髪と髪と同じ紫色の服、黒の襟巻や手袋、タイツを身に付けており、眼鏡をかけ、本を持っている女性だ。
その背後には身体に絆創膏に付け、青と水色の大きな硬質な身体のロボットみたいなポケモンがいる。
ちなみに、この姿形では一見鋼タイプにも見えなくないが、実際はゴーストと地面の複合タイプのポケモンだ。
「あら、見たことないポケモンですね。もしかして、巷で噂のロケット団のポケモンですか?」
「ヨノ……!」
気付かれたと身構えるヨノワールだが、ダメージで痛む。
「駄目ですよ、無理をしては。大人しくしてください」
女性はヨノワールに近付き、ポケットから傷薬や木の実を用意。簡単な手当を行なう。
「完了です。さて、貴方には悪いのですが、保護しますね。ロケット団に返すわけには行きませんから。ちなみに、アタシは出来れば穏便に済ませたいので――暴れないでくれますか?」
一瞬だけ見せた、女性と後ろのポケモンの冷たい眼差しにヨノワールはゾクッと、背筋が冷えた。
この女性には、万全の状態で戦っても勝てない。それを理解し、ヨノワールは大人しく降伏した。
「ありがとうございます。――では」
女性がモンスターボールを投げ、ヨノワールを保護する。
「保護もしましたし、行きましょうか」
「ルーグ」
女性がロボットみたいなポケモンの背中に乗ると、そのポケモンは手足を中に収納。そこから力を噴射して飛び出し、夜空を進む。
「何時見ても星空は美しいですね。まるで、数多の星で構成された、輝きの大海。……うーん、もう一捻り欲しいです。いえ、ここは敢えてシンプルさを混ぜたこの表現の方が良いかも……」
「ルーグ……」
ぶつぶつと呟く自分のトレーナーに、ロボットみたいなポケモンは溜め息を溢す。毎度毎度の事だ。
「呆れないでください。時間は命にとって限りがある流れなんですから。無駄には出来ません。あっ、今のは良いかも。メモメモ」
「……ゴルー」
また溜め息を溢すロボットみたいなポケモン。しかし、間違っていないのが何とも言えない。
そんな心境のロボットみたいなポケモンの背に乗りながら、女性は朝になるまで色々と考えつつ目的地へと向かって行った。