ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ 作:ぐーたら提督
「うわー、今日雨が降ってきたなあ」
二日前。朝から猛暑と思いきや、大雨が降って雨宿りしたいたその時だった。
「――ット……!」
「ん? なんだ?」
雨音のせいでかなり聞こえにくいが、近くで何かの鳴き声がし、気になったケニヤンが雨に濡れながらそっちに向かう。
「バットーーーッ!」
「コローーーッ!」
「ココローーーッ!」
「……なんだ、あのポケモン?」
そこに、ゴルバットがいたのだ。身体はヒウンシティでやここまで来るのに行なって来た野生のポケモン達との戦いで傷付いており、疲労も濃かったが、それでも迫る二匹のコロモリに勝ち、撃退した。
「見たことないな……」
イッシュには存在しない種でもあるため、かなり気になるケニヤン。
「バ、ット……!」
少し見ていると、ゴルバットがダメージや傷で苦しみ、地面で悶える。
「お、おい、大丈夫か!?」
「バット……!?」
ケニヤンに話し掛けられ、警戒するゴルバットだが、痛みでまた表情が歪む。
「おいおい、ムチャはすんなよ。ほら、手当してやるからさ」
「……バット!」
ケニヤンに手当と言われ、ゴルバットは戸惑うも、余計なお世話だと飛び去って行く。
「むちゃすんなよー! ……大丈夫か?」
ゴルバットは全身に傷を負っていた。あんな状態で動いたらその内倒れてしまうだろう。
「追い掛けるか」
心配になり、ケニヤンは雨に打たれながらもゴルバットを追うことにした。
「バット、バット……!」
羽ばたく度に身体のあちこちが痛むが、だからと言ってあの場所にいたままでは野生のポケモン達に見付かってしまう。
幸い、今は雨。簡単には発見出来ない。今の内に手頃な隠れ場所を探し、身を隠すべきだ。
徹底的に警戒した状態で移動しつつ、辺りを必死に見渡していくゴルバット。
すると、手頃な洞穴を発見。そこに入り、中に誰もいないと分かると一息付いた。
「おっ、いた」
「――バット!?」
声に素早く反応したゴルバットに、さっきの人間、ケニヤンが目に映る。
「バット……!」
「お、おいおい、何もしねえよ。だから、落ち着いてくれ」
「……」
怪訝に思いつつ、ダメージがあるのでこちらからは手を出さないゴルバット。ただ、警戒はしているが。
「……なんで、こんなに警戒してるんだ?」
そんなゴルバットにケニヤンは疑問を抱く。見たことないポケモンなのは勿論、怪我や警戒心の強さも引っかかる。
「まっ良っか。なぁ、お前さ――」
「バット!」
「わわっ、だから落ち着けって。さっきも言ったけど、危害を加えたりはしねえよ。けど、お前怪我してるよな? 手当してやるよ」
「……バット」
善意で言うケニヤンだが、ゴルバットは断る。企みを警戒してだった。
「おいおい、お前怪我してるだろ。手当した方が良いって」
「……バットト」
両手を上げて危害を加えないとアピールしてから、手当した方が良いと再度言うが、ゴルバットはまた断った。
「頑固だなー」
そんなゴルバットにケニヤンは溜め息を付く。しかし、断ったからと言って傷付いたポケモンを放って置く訳にも行かない。
どうすれば良いかと考え、ピンと閃くとケニヤンは洞穴から出た。
「……バット」
ケニヤンが出て、ゴルバットは一安心。壁に凭れてゆっくり休む。
「――おーい」
しかし、しばらくするとまたケニヤンの声がした。身体を起こすと、彼が近付いてくるのが見えた。
腕組みしたその腕にはオレンの実がある。ケニヤンはこれを採りに行ったのだ。
「ほら、食えよ」
「……」
近くにオレンの実を置くケニヤンだが、ゴルバットは食べない。何かあると警戒してだった。
「何もないぞ? ほら」
オレンの実を見る様子からケニヤンは一つかじり、特に何もないことを証明するが、警戒からまだゴルバットは食べない。
「頑固だなあ。……どうしたもんか」
どうすればゴルバットにオレンの実を食べさせるか。ケニヤンは頭を振り絞る。
「よし、だったら勝負しようぜ」
「バット?」
ゴルバットが勝負の言葉に疑問を抱くと、ケニヤンはポケットからコインを取り出す。
「コインあるだろ? 表裏を決めて、俺が当たったら目の前で食べる。外れたら、俺は外に出るからそれ好きにしろよ」
「……バット」
ゴルバットは分かったと頷くと、ケニヤンは表と言ってからコインを投げる。手で受け止めるとコインは表だった。
「俺の勝ち。食べろ」
「……」
勝負に負けた以上、ゴルバットは素直に従う。ケニヤンを警戒しつつ、オレンの実を急いで食べて回復させていく。
「そうがっつくなっての。まったく」
苦笑いしつつ、ケニヤンはゴルバットの様子を見ていた。
「……バット」
全て食べ終わり、しばらくしても何もない事を確かめるとゴルバットは礼としてケニヤンに頭を下げた。
「体力も大分回復しただろ。次は手当だな。あっ、勝負に負けたんだから大人しく受けろよ」
「バット!?」
ちょっと待てとゴルバットは声を荒げる。さっきの勝負はオレンの実を彼がいても食べるかどうかに関してだけのはず。これは違うと返すも、ケニヤンはそのまま手当を続ける。
「終わり! ちょっと不恰好だけど、そこは我慢してくれよ」
「……バット」
ケニヤンはまだあまり慣れてないため、絆創膏はともかく、包帯は微妙だった。しかし、手当をしてくれた以上は無理矢理でも文句を言うつもりはゴルバットにはない。
「ところで、お前なんてポケモンだ? 見たことないポケモンだな」
「……」
ケニヤンが自分を知らないと分かり、ゴルバットはこれからどうするかを考える。
ロケット団に戻ろうにも、自分を預かる団員、他のメンバーもいない。おまけに、ここが何処なのかすら分からない。八方塞がりだった。
「まぁ、ポケモンの言葉は俺達には分からないしなあ。どうしたもんか」
一方、この日までロケット団を知らなかったケニヤンもまた、見たことないポケモン、ゴルバットについて色々と考えていた。
他の地方にはいるが、イッシュには全く存在しないポケモン。興味からトレーナーとしてはゲットしたいが、見たことがない点やダメージがケニヤンは気になる。
「よし。なぁ、お前はどこから――」
「……」
会話は出来ないが、やりとりなら別。どの方向から来たポケモンかを聞こうとしたケニヤンだが、その瞬間にゴルバットが移動。洞穴から出て、雨に打たれながら飛び立った。
「行っちまった……。どうすっかな」
去っていった方角を見つめ、ケニヤンはどうするかを考える。とはいえ、ここでゴルバットを放って置くのは中途半端だし、どうにも気になる。ケニヤンは追い掛けた。
「バット……」
雨での冷えに耐えながら、ゴルバットはここからどう動くかを思案していた。
来た時、飛行艇の中でモンスターボールに入っていたため、カントーの方角は不明。
つまり、方角からは戻るのは不可能に等しい。団員と接触しなければ、連れて行ってもらわない限りは無理だ。
かといって、探そうにも辺りには回復や休息のせいで殺気だった野生のポケモン達が多い。下手に動くのはリスクが高すぎる。
「コロロ!」
「――バット!?」
一匹のコロモリがゴルバットを発見し、バサッと高く飛ぶとそこでぐるぐると回る。雨で音が聞こえにくい為、動きで群れに伝えているのだ。
やばいと急いで動くも、コロモリの動きを見て他のコロモリ達が集まり出す。
「コロモ!」
「モリリ!」
「バットトォ!」
「コローーーッ!」
集まったコロモリ達が思念の波、サイコウェーブを放つ。ゴルバットは上手く避けると翼を振るい、空気の刃、エアスラッシュを放ってダメージを与える。
「バーーーットッ!」
「モリーーーッ!」
ゴルバットは更に口から特殊な音波を放つ。食らった相手を混乱にするちょうおんぱだ。
超音波は、雨に幾分か削られながらも聴いた数匹のコロモリ達を混乱。それにより、混乱したコロモリが仲間に攻撃する、同士討ちが起き出した。
「バット!」
同士討ちの間を狙い、ゴルバットは混乱してないコロモリ達にエアスラッシュを叩き込み、更に翼を直接当てる技、つばさでうつで先ずは二体のコロモリを撃破する。
「コロロッ!」
「モリー!」
「バットッ!」
しかし、コロモリ達もただやられるつもりはない。サイコウェーブを放ち、ゴルバットにダメージを与える。
コロモリ達の数は十数匹いる。その上に混乱したコロモリも回復。対してゴルバットは一匹。依然として、ゴルバットの不利は変わらない。
「バット……!」
「モリー……!」
「――見っけ! って、なんだこれ!?」
次の攻防に睨み合うゴルバットとコロモリ達だが、そこにケニヤンが入り込む。とはいえ、激突真っ只中の為に驚いたが。
「バット……!?」
「モリ!?」
「ケンカ、か?」
注目されているのが嫌でも分かる状態で、ケニヤンは可能な限り状況を把握しようとする。
一方、ゴルバットはケニヤンが来たことに若干苦い表情。コロモリ達は乱入者に強い警戒を抱く。
それぞれ迂闊には動けず、その場で留まり合う。そんな均衡がしばらく続くと、ケニヤンが声を掛けた。
「あ、あのさ、そもそもこれどうなってんだ?」
対立の事情も知らないため、ケニヤンは両方に聞こうとする。その様子にコロモリ達もこの人間は敵では無さそうだと判断した。
「コロロ!」
「モリリ!」
「コロ、モリ!」
「……」
「えーと……コイツが悪いのか?」
コロモリ達は、住処や縄張りを荒らした仲間の一匹であるゴルバットに対して大声を上げ、コイツが悪いとケニヤンに語り掛ける。ゴルバットは反論しなかった。
「やっぱり、コイツが悪いんだよな?」
「モリモリ!」
恐る恐るゴルバットを指差し、そう言うケニヤンにコロモリ達はそうだそうだと頷く。
「じゃあよ。お前、ちゃんと謝った方が良いんじゃねえか?」
「……」
「モリリ!」
ケニヤンの言葉にコロモリ達はまたそうだそうだと怒鳴る。それだけで済む問題でもないが、荒らした輩から謝罪の言葉の一つでも無ければ気が済まない。
「なっ、ちゃんと謝って置けって」
「……バット」
「モリ!」
「モリーーーッ!」
「いっ!?」
ケニヤンの提案を、ゴルバットは断った。悪の組織、ロケット団の一員である自分が何故謝罪しなければならないのだと。
そんなゴルバットに怒りを露にしたコロモリ達から批判の声が上がり、サイコウェーブの一斉攻撃が発射された。しかも、その一つがケニヤンにも迫っていた。
「――バット! バトッ!」
「お、お前……」
その一つをゴルバットはエアスラッシュで相殺するが、直後にサイコウェーブを食らってしまう。
「モリリー――」
「シママ、出てこい!」
「シマ!」
「フルパワーででんげきは! 上に撃て!」
「シー……マーーーッ!!」
追撃しようとしたコロモリ達だが、出てきたシママから強烈な電撃が放たれ、動きが止まる。
「ほら、悪かったって謝るんだ!」
「バ、バット……」
「良いから!」
「……バット」
その間にケニヤンはゴルバットの元に駆け寄り、謝るように強く訴える。
ゴルバットはするつもりはなかったが、ケニヤンの剣幕に圧されて渋々ながら済まないと言って頭を下げた。
「なぁ、コロモリ。こいつもこうやって頭を下げたんだし、ここで引いてくれないか? 頼む!」
コロモリ達は互いに仲間を見返した後、ケニヤンのおかげで一応ゴルバットが頭を下げた、彼が必死に頼んでる、自分達の弱点の電気技から納得は仕切れないが、ここで撤退する事にした。
「ふー……とりあえず、片付いたな」
「シママ」
「……バット」
一安心するケニヤンとシママに、ゴルバットは別に助けてくれなんて言ってないとそっぽを向く。
「頑固なやつだなー。とにかく、ここを離れようぜ」
「シマシマ」
「……」
「ほら、行くぞ」
ゴルバットは半ば強引にだが、ケニヤンと一緒にこの森を後にした。
「ポケモンセンターに着いたな」
「……」
「入るぞ」
「ポケモンセンターへようこそ。――あら、また見たことないポケモン」
しばらく歩くと森を抜け、ポケモンセンターに辿り着いたケニヤンとゴルバット。彼等が中に入ると、ジョーイがゴルバットに注目する。
「ジョーイさん、コイツについて知ってるんですか?」
「その様子……。もしかして、ニュースを見てない?」
「あんまり見なくて……」
「成る程。では、説明します」
「タブンネ~」
ジョーイはケニヤンにゴルバットとロケット団について説明を始める。ロケット団はカントーにある犯罪組織で、ゴルバットはそこに所属している他の地方のポケモンの一匹。
ヒウンシティの一件からイッシュ中に散らばっており、発見したら保護するように呼び掛けられてると。
また、この時にケニヤンはゴルバットの名前や、事件解決の最大の功労者であるサトシとゼクロム、尽力を尽くした謎の一団、プラズマ団を知る事になった。
ただ、ケニヤンはあまり深くは考えない正確のため、人物や組織についてはほとんど覚えていなかったが。
「お前、ゴルバットって言うのか。で、犯罪組織のポケモン……」
「……」
ゴルバットがそんなポケモンだとは知らず、ケニヤンは驚いた様子で見つめる。
「そのポケモンはこちらで預かり、他の場所に送りますね」
「って事らしいけど。大人しくそうして――」
「……」
「……くれなさそうだな」
「あらら……」
ゴルバットは険しい表情を浮かべており、素直に保護されるつもりはないようだ。
「だったら、また俺と勝負しようぜ。俺が勝ったら提案に従う。負けたらここから逃げて良い。どうだ?」
「バット」
その勝負の提案に良いだろうとゴルバットは頷いた。ジョーイも見届ける事にする。
戦力がない現状で迂闊に留めると、ポケモンセンターに被害が出てしまう。ケニヤンに任せるしかなかった。
「さぁ、バトルしようぜ!」
「バット」
「出てこいやぁ、シママ!」
「シママ!」
ケニヤンとゴルバットは近くの広場に移動。ケニヤンはシママを繰り出す。
「行くぜ、ゴルバット!」
「シママ!」
「バット!」
敵であるケニヤンとシママに、ゴルバットは来いと返す。
「シママ、でんげきは!」
「シー……マーーーッ!」
「バット! バットトーーーッ!」
「シマッ!」
ゴルバットは迫る電撃をかわし、その隙を狙ってエアスラッシュを発射。効果今一つだが、ダメージを与えた。
「シ、マ……!?」
「シママ!?」
エアスラッシュの効果、怯みが発生し、シママの動きが鈍る。
「バー……ットォ!」
「シマッ!」
その怯みを狙い、ゴルバットは猛毒が付着した牙をシママに食い込ませる。
「シママ、怯むな! そのままニトロチャージ!」
「シマシマシマ……シママーーーッ!」
「バットォ!」
どくどくのきばを受けた状態で、シママはニトロチャージを発動。巻き込んだまま近くの岩にぶつかり、ダメージをゴルバットに叩き込む。
「そこだ、シママ! でんげきは!」
「シー、マーーーッ!」
「バットーーーッ!」
シママは更にでんげきはを放ち、ゴルバットに効果抜群のダメージを与える。
「シママ、このまま一気に――」
「シ、マ……!」
「どうした、シママ!?」
苦しそうな声にケニヤンが相棒を見る。ゴポゴポッと、シママから紫色の気泡が出てくる。もうどくになったのだ。
「猛毒……。さっきの技はどくどくのきばだったのね」
「タブンネ~」
健康には詳しいだけあり、ジョーイはシママが毒ではなく、より厄介な猛毒になったと理解する。
猛毒は毒より体力を激しく削っていく。長期戦はケニヤンとシママが不利だろう。
「毒だろうが、関係ねえ! 倒れる前に倒すだけだ! ニトロチャージ!」
「シマシママーーーッ!」
「バットト!」
シママは自力で毒を回復できない。ならば、倒れる前に倒すしか勝機はない。
再度ニトロチャージを仕掛けるシママだが、ゴルバットはかわす。しかし、技の効果でスピードはまた上昇した。
「まだだ、ニトロチャージ!」
「シマーーーッ!」
「――バット! バー……」
「背後からの攻撃!」
三度目のニトロチャージ。ゴルバットは二度も加速した炎の突撃をぎりぎりでかわすと、背後からどくどくのきばを狙う。
「シママ、にどげり!」
「シマ、シマッ!」
「バットォ!?」
猛毒の牙を叩き込もうとした開いたゴルバットの大口に、シママの二度の蹴りが炸裂。
格闘タイプの技は毒と飛行タイプのゴルバットに効果はかなり薄いが、不意打ちもあり技を止めるには十分だ。
「シママ、とっしん!」
「シーマーーーッ!」
「バットーーーーーッ!」
「ちょうおんぱ!」
素早く振り返り、シママは全力で突進を仕掛ける。しかし、ゴルバットは口をまた開き、強烈な超音波は浴びせた。
「シ、マ……!?」
「今度は混乱か……!」
猛毒と混乱の二重異常。これは厄介極まりない。
「バット、バット!」
「シマ、シマ!」
混乱でまともな動きが出来ない上に、猛毒で体力を削られる中でつばさでうつで更に削る。
「くそっ、このままじゃやられる!」
かといって、混乱のせいで上手く戦えない。猛毒もあるので長期戦も不可能。一か八かこのまま戦うしかない。
「バットット!」
「とにかく、動き回れ!」
「シ、マ……! シマ、シマ!」
避けようにも混乱で出来ず、シママは諸に受ける。
「バー……ットーーーーーッ!!」
「どくどくのきば! やべぇ!」
今の体力で食らえば、ほぼ敗けだ。これだけは対処しなければならないが、混乱が邪魔してしまう。
「シママ、とっしん!」
「……シマ!」
「バット!?」
辛うじて聞こえたシママはとっしんを開始。混乱のせいでめったやたらに進むも、それ故の予想不可能な動きでどくどくのきばを避ける。
「シママ……!」
「バ、バット……!」
エアスラッシュを放とうとしたゴルバットだが、シママが前後左右に動く上、遅くなったり速くなったりまでするため、狙いが付けられない。
「シマ!?」
「バットォ!?」
「当たった!」
その内、ゴルバットの近くに来たシママ。避けるゴルバットだが、その瞬間にシママが突然反転しながら強引に突進。偶然にも命中し、ゴルバットは吹き飛んだ。
「バット……!」
「――シマ!?」
その直後、シママは混乱が解け、正気に戻る。
「目が覚めたか、シママ! 止めのフルパワーのでんげきは!」
「シーマー……マーーーーーッ!!」
「バ……バットーーーーーッ!!」
残り全ての力を込められたでんげきはが発射。吹き飛んだゴルバットに命中し、戦闘不能に陥った。
「勝ったぜ!」
「シマー! シマ……!」
「あっ、大丈夫か、シママ!」
幸運もあってだが、何はともあれ勝利。喜ぶケニヤンとシママだが、直後にシママがふらついた。
「瀕死寸前ね。タブンネ、先ずはいやしのすず!」
「タ~ブンネ~」
チリーンと、心地好い鈴の音色が辺り一帯に響く。すると、シママの身体から猛毒が消えた。
「タブンネ、次はいやしのはどう」
「タ~ブン~ネ~」
次に優しい波動が放たれ、それを浴びたシママは体力が戻るのを感じた。
「ありがとうございます、ジョーイさん。タブンネ」
「これは応急措置。中でしっかりと回復しますね」
「はい、お願いします。シママ、バトルの疲れをしっかり取れよ」
「シマシマ」
「タブンネ、ゴルバットも回復するから一緒に運ぶわよ」
「タブンネ~」
全員、ポケモンセンターの中に戻り、ジョーイとタブンネがシママとゴルバットの手当を行った。
「はい、お預かりしたポケモンは元気になりましたよ」
「シマー」
「ありがとうございました。ゴルバットはどうですか?」
「勿論、しっかりと回復しましたよ」
相手が誰だろうが、手当は平等に行なう。それがジョーイの努めだ。
「あちらに」
「……」
ジョーイが手を動かした先に、回復したゴルバットがいた。負けた悔しさからか、若干苛立っている様子だが。
「ゴルバット、約束通り、保護されてね」
「……バット」
負けた以上、ゴルバットは大人しく保護されるつもりだ。
「……」
そんなゴルバットをケニヤンはしばらく見つめた後、近付いて話し掛けた。
「なぁ、ゴルバット」
「……バット?」
「お前――俺と一緒に旅してみないか?」
ケニヤンの言葉に、ゴルバットは目を見開く。ジョーイもだ。
「……バット?」
何故誘うと、ゴルバットはケニヤンに訪ねる。一般のトレーナーが犯罪組織にいる自分を誘うなど、先ずあり得ないからだ。
「折角こうして出会ったんだし、そんな俺達が一緒に旅するって面白そうだろ?」
旅、それを聞いたゴルバットにある思いが浮かぶ。群れにいた頃、遥か向こうに写る景色や、見たことない場所をこの目で直接見て、その空気を味わいたい。
ロケット団にいた日々の中で薄れていったその想いを、ゴルバットは思い出していた。
「それによ、知らない相手の元に行くってお前、嫌だろ?」
「……バット」
確かにそれは嫌だ。負けたからとしてもだ。
「それに、お前そんなに悪いやつには見えないしな」
「……?」
「いや、だってお前、俺を助けてくれたじゃん」
サイコウェーブの一つが当たりそうになった時、ゴルバットはエアスラッシュで相殺していた。その事をケニヤンは言っていたのだ。
「……」
しかめっ面のゴルバット。手当、回復をしてくれた彼を傷付ける訳には行かないと咄嗟に動いたのだ。
「だから、誘ったんだ。どうだ? イヤなら止めておくけどよ」
「……」
提案し、手を差し出すケニヤンにしばらく考えるゴルバット。
条件を決めて負けた、まだ一切団員は来ない。これらから自分はロケット団には戻れないだろう。
となると、残る選択肢はどこの誰かも分からない相手に保護されるか、ケニヤンと共に旅に行くか。
「――バット」
考えに考え――ゴルバットはケニヤンの手を取った。つまり、彼と一緒に旅をすると言う事だ。
自分を助け、負かし、また昔の気持ちを呼び起こしてくれたケニヤンなら良いと、ゴルバットは認めたのだ。
「よろしくな、ゴルバット!」
「シママ!」
「バットト」
こうして、ゴルバットはケニヤンと共に新しい道を進むこととなった。
「あらあら、これは予想外の展開ね」
「タブンネ~」
「そういう訳で、ジョーイさん。こいつは俺が引き取りたいんですけど……」
「うーん。しばらく待ってくれるかしら?」
これは完全に想定外の事態の為、ジョーイは少し考えた後、受話器を取ってある人と連絡を取る。
「はい。実は――」
一通り伝えた後、向こうの相手からの言葉を聞くと、ジョーイは分かりましたと返事し、電話を切った。
「どうですか?」
「はい。ポケモン図鑑はありますか?」
「あっ、いえ」
ケニヤンは新人トレーナーだが、ポケモン図鑑は持って無かった。と言うか、あるならそれでゴルバットの情報を調べている。
「では、トレーナーカードは?」
「それなら」
身分証明の為、ケニヤンは暮らしていた街でトレーナーカードを発行していた。
「では、出してください」
「はい」
「お預かりします」
ケニヤンのトレーナーカードを預かると、ジョーイは機材に挿入。一通り操作した後、出てきたトレーナーカードを返した。
「そのポケモン、ゴルバットに関しての問題が起きた場合、このトレーナーカードをお見せてしてください。ロケット団ではないと証明出来ます」
「分かりました」
さっきのは、ケニヤンがロケット団ではないと証明するため、トレーナーカードを更新したのだ。
「後、ボランティアには可能な限り参加してもらうことになります。貢献する事でロケット団から足を洗った、もしくはヒウンシティの一件の責任を取った事の証明をしてもらいます」
ジョーイの説明に、ゴルバットは了解と頷いた。
「頑張ってください」
「はい。じゃあ行こうぜ、ゴルバット」
「シーマ」
「バット」
ケニヤンはモンスターボールを取り出し、ゴルバットに当てる。赤の光がゴルバットを包み込み、数度揺れると音を鳴らして止まった。
「ゴルバット、ゲット!」
「シママ!」
「出てこい、ゴルバット!」
「バット」
「一緒に楽しもうぜ!」
「シマシマ!」
「バット」
新しい仲間に、ケニヤンとシママ、ゴルバットは微かに笑い合った。
「そんなこんなあって、俺とゴルバットは一緒にいることになったんだよ」
「なるほどなー」
ケニヤンが出したゴルバットに、一旦バトルが中断。
ケニヤンからゴルバットとの出会い、今に至る一連の流れを聞き、サトシはうんうんと頷いていた。
「にしても、まさかこのゴルバットとまた会うとはね」
「……」
このゴルバットは、ヒウンシティで最初に出てきたゴルバットと同じ個体だった。だからこそ、サトシ達を見て驚いたのだ。
「けど、ケニヤンもよくゴルバットを預かったりしたわね」
「まぁ、俺もアイツが犯罪組織にいたポケモンと知って驚きはしたぜ。だけどよ、それも――スケット団だっけ?」
「ロケット団、ロケット団」
「なんか、人助けする団体みたいだね……」
「そうそう、ロケット団。悪い、よく覚えてないんだ」
一度も接触してない、またあの事件の時にはヒウンシティにはいないので、ケニヤンにとってはロケット団を覚える理由が無かった。
「話を戻すな。ゴルバットの悪事ってさ、全部ロケット団とやらにいたからだろ? だから、ロケット団が悪いんであって、ゴルバットが悪いとは俺は思えないんだよ。助けてくれたりもしたしな」
根っからの悪なら、自分を助けなかっただろう。だが、ゴルバットは自分を助けた。
この事から、ゴルバットはロケット団にいなければ悪事を仕出かなかった可能性はある。
「でもケニヤン。聞いているとは思うけど、ゴルバットもヒウンシティに被害を与えたポケモンの一体だ。その責任は果たさないとならない」
「……」
「分かってるよ、デント。だから、ボランティアとかには参加するさ。こいつの為にな」
「……バット」
ヒウンシティでした事を思い出し、黙るゴルバットだが、自分の為と言ってくれたケニヤンに照れ臭そうにありがとと感激する。
「ははっ、俺はお前のトレーナーなんだぜ? 当然だろ?」
「……バットト」
「なんか、相棒って感じだな」
「ベルとチルタリスとはまたちょっと違う関係よね~」
「誰だ、それ?」
「あぁ、俺の友達でさ、ケニヤンと同じ様にロケット団のポケモンを手持ちにしたんだ」
「日を考えると、彼女はケニヤンとゴルバットが出会う一日前にゲットしたことになるね」
ケニヤンとゴルバットは、自分達がヒトモシ屋敷が入った日に出会っている。ベルとチルタリスが出会い、仲間になったのはその先日だ。
「へー、俺達よりも先にそうなったトレーナーとポケモンがいたんだな。俺とゴルバットが最初じゃなくてちょっと残念だぜ」
とはいえ、ケニヤンにとってはゴルバットが自分の仲間になってくれた事の方が嬉しいので、一番最初でないのはぶっちゃけどうでもいい。
「俺とゴルバットに関してはこんな所だな。じゃあサトシ、試合を――あれ? サトシ?」
とそこで、ケニヤンは漸くサトシの名前に引っかかる。
「それにピカチュウ……。もしかして、理想の英雄?」
「あ、うん、そうなる、かな」
「ふーん……こうして見ても、あまりピンと来ないな」
また理想の英雄と呼ばれ、何とも言えないサトシだが、ケニヤンは特に態度を変えなかった。
「……そう、思うのか?」
「あぁ、どこにでもいる一人のトレーナーって感じだぜ」
その場面を見てないのもあるだろうが、ケニヤンの性格からサトシ本人を見ても、一人のトレーナーとしか見えなかった。
「……へへっ、ありがとな、ケニヤン」
理想の英雄ではなく、一人のトレーナー。そう言われ、サトシは嬉しくなる。
「またアクセント……。まっ、それはともかく、ぶっちゃけ英雄とか呼ばれるのって邪魔じゃないか?」
「邪魔、って言うか、イヤなんだよな。勝っても、皆は誉めないで俺だけしか誉めないし」
「あー、それイヤだな」
自分だけで、仲間は誉められない。それを想像し、ケニヤンもイヤな表情になる。
「分かるか、ケニヤン?」
「だから、アクセントが……。まぁ良いや。あぁ、俺も自分だけはイヤだ。誉められるなら、シママやゴルバットと一緒が良いな」
「気が合うな」
「俺もそう思うぜ」
同じ意見に、サトシとケニヤンは笑い合った。
「じゃあ、話も終わったし……。試合再開だ!」
「おう、ケニヤン!」
「あー、またアクセントが違うなー。良いけど……。それより、サトシはミジュマルのままで勝負か?」
「いや、コイツにする。ハトーボー!」
「ボー!」
「ミジュマルは休んでてくれ」
「ミージュ」
サトシはミジュマルのまま続けて戦わず、ハトーボーに交代する。
「飛行タイプには飛行タイプで勝負だ!」
「ボー!」
「ピカチュウで戦っても良いと思うけど……」
「まぁ、そこらへんはサトシの閃き次第だよ」
それに、飛行タイプ同士なら同じ土俵で戦える。決して悪い判断とは言えない。
「じゃあ行くぜ! ゴルバット、エアスラッシュ!」
「ハトーボー、かまいたち!」
「バットーーーッ!」
「ボーーーーッ!」
二つの空気の刃が発射され、ぶつかり合うと相殺されて爆発の煙が起きる。
「でんこうせっか!」
「ハトーーーーッ!」
「バットッ!」
「ゴルバット、耐えろ! ちょうおんぱだ!」
「バットーーーッ!」
「ハトッ!?」
素早い一撃を食らうゴルバットだが、しっかり耐えると直後を狙って音波を放ち、ハトーボーに命中させる。食らったハトーボーはフラフラとし出した。
「しまった!」
「ハトーボーが混乱になってる!」
「なるほど、ゴルバットはそう言う技を得意とするポケモン」
「ハトーボー、しっかりしろ!」
「ハ、ト……」
サトシが呼び掛けるも、ハトーボーには上手く届いていない。
「ゴルバット、どくどくのきば!」
「バー……ット!」
「ハトッ!」
混乱で上手く動けないハトーボーに、どくどくのきばを叩き込むゴルバット。すると、ハトーボーの顔に紫色の毒々しい線が現れ、線と同じ色の泡が出てきた。
「うわっ、猛毒!?」
「その上に混乱もある。二つの状態異常で苦しめるのがゴルバットの戦法か」
ヒウンシティの時は、暴走してまともな判断ができない、複数に攻撃されて為に直ぐに片付いていた。
しかし、今回は平常の上にトレーナーもいる。ゴルバット本来の実力が発揮されていた。
「手加減はしないぜ! ゴルバット、つばさでうつ!」
「ハトーボー、とにかくかわせ!」
「……ハトッ!」
混乱しながらも、サトシの指示に反応。最初の一撃は多少受けながらも動くハトーボー。
「ボー? ボー!」
「バット、バット……!」
「当たらない」
「というより、フラフラしてるから上手く当てれない、の方が正しいね」
混乱の為、めったやたらに動くハトーボーだが、不規則な為に読めず、結果としてゴルバットのつばさでうつが命中しなかった。
「――ハト? ハトッ……!」
その内に混乱が解け、正気に戻ったハトーボーだが、猛毒による苦しみで顔を歪ませる。
「混乱が解けた! ハトーボー、でんこうせっか!」
「ハトーーーッ!」
「バット!」
回復して直ぐのでんこうせっかには対応仕切れず、ゴルバットは吹き飛ぶ。
「ゴルバット、もう一度ちょうおんぱだ!」
「バットーーーッ!」
「またちょうおんぱ!」
「これは受けたらアウトだね」
ハトーボーは既に猛毒でかなり体力が削られている。ここで再度ちょうおんぱを受ければ、負け確定だろう。
「ハトーボー――かぜおこし!」
「ハー、トッ!」
勝負を決めるだろう超音波に、翼の羽ばたきで起こした風をぶつける。
すると風で音波が押し返され、使用者のゴルバットに逆に命中。混乱にする。
「バ、バット……!?」
「な、なにーっ!?」
「ちょうおんぱをかぜおこしで跳ね返した!」
「相変わらずの閃きだね」
これでハトーボーが一気に有利になった。そして、サトシがこのチャンスを見逃すわけがない。
「ハトーボー、かまいたち!」
「ハー、トーーーッ!」
「バットーーーッ!」
逆に混乱になり、動揺したその隙に空気の刃を発射。技の性質や特性、きょううんでゴルバットの急所に命中し、大ダメージを与えた。
「決めるぞ、ハトーボー! つばめがえし!」
「ハー……トーボーーーーーッ!!」
「バットーーーーーッ!!」
かまいたちで地面に転がるゴルバットに、ハトーボーは渾身のつばめがえしを叩き込む。
「バ、バ、ット……」
「ゴルバット、戦闘不能。ハトーボーの勝ち。よって、この勝負はサトシの勝ち」
「よっしゃあ!」
「ハトーーーッ!」
「あー、完敗かあ。ご苦労さん、ゴルバット」
ケニヤンは悔しがりつつも、ゴルバットを労うとモンスターボールに戻す。
「まだまだだなあ。もっと頑張らないとな」
自分は新人だ。だから負けても仕方はないが、だからと言って甘えては上には進めない。もっともっととケニヤンは心に決める。
「ケニヤンなら強くなれるさ」
「アクセント……。まっ、良っか。ありがとよ、サトシ。また勝負してくれるか?」
「あぁ、勿論」
自分を一人のトレーナーとして見てくれるケニヤンとのバトルなら、純粋に楽しめる。
サトシとしても断る理由が無く、再戦を約束するようにケニヤンと握手する。
「じゃあ、俺はもう行くぜ。またな、サトシ!」
「あぁ、ケニヤン!」
「……最後まで、アクセントが違ったままだったなー。良いけど」
苦笑いを浮かべつつも、手を振りながらケニヤンは去っていった。
「じゃあ、俺達も行こうか」
「ライモンシティを目指して」
「レッツゴー!」
ちょっとしたハプニングはありつつもそれを乗り越え、次のジムがあるライモンシティに向かってサトシは仲間との旅を再開した。