ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ   作:ぐーたら提督

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 二週間振りですみません。前半だけですが、投稿します。


甘えん坊な蟻地獄

「今回の料理の隠し味は若草を運ぶ緑のそよ風。そして、木漏れ日の輝き。君も芳しく感じるだろう、ヤナップ?」

 

「ヤナー」

 

「ピカー」

 

「キバ~」

 

「うん、確かに良いね」

 

 料理を作りながら語るデントの表現に、ヤナップ、ピカチュウ、キバゴの三匹はそれを味わうように息を吸い、Nは頷く。

 

「えぇ。正に、森のエッセンス溢れる――」

 

「イヤッホー!」

 

「いえ~い!」

 

「おやおや」

 

 テンションを上げながらデントは続きを言おうとしたが、それをターザンごっごしているサトシとアイリスの声が中断する。

 

「デントー、これ気持ち良いぜー」

 

「一緒にやってみな~い? Nさんも~!」

 

「あはは、サトシくんもアイリスくんも遊びに夢中になってるようだよ」

 

「……ですね」

 

「けど、そうやって遊ぶ分、お腹は減る。より、キミの料理を美味しく感じてくれるんじゃないかな?」

 

「なるほど――あっ!」

 

 微妙な表情のデントだったが、Nにそう言われて機嫌を直す。しかし、その直後にターザンごっごで舞った一枚の葉が鍋に入ろうとする。

 

「――ゾロ」

 

 それをゾロアが早速と払う。

 

「ありがとう、ゾロア。って!」

 

 しかし、葉は一枚だけでなく、次々と落ちてくる。その全てをゾロアは素早く払う。

 

「こ、こら、サトシ、アイリス!」

 

「キミ達のせいで、木の葉が料理に入りかけてる。直ぐに止めるべきだ」

 

「あっ、すみません」

 

「直ぐに止めます」

 

 二人は直ぐに止め、デントに謝った。

 

「分かってくれて何よりだよ。まぁ、そんなに元気ならもう少し料理を作ろうかな。それまで遊んだらどうだい?」

 

「分かった。ピカチュウ、行こうぜー」

 

「そうするわ。キバゴ~」

 

 完成まで時間を潰そうと、二人はピカチュウとキバゴを連れ、もう少し遊ぼうと離れる。

 

「元気だね、サトシくんもアイリスくんも」

 

「まぁ、それが二人の良いところなんですけど……」

 

「今回みたいに、迷惑になることもありそうだね」

 

 元気が有り余るサトシとアイリスにあははと、二人は苦笑する。

 

「あー、さっきはデントに迷惑掛けちゃったなー」

 

「やり過ぎよ~。子供ね~」

 

「アイリスだってはしゃいでいたじゃないか」

 

「それはそうだけど。でも、そもそもサトシが誘ったんじゃない」

 

「木登りや枝渡りはアイリスだけの得意技じゃないってこと」

 

「言ったわね~。だったら、勝負よ!」

 

「良いぜ!」

 

 勝負の内容は勿論、さっき騒動になりかけた枝渡りである。視力の良いアイリスが見つけたオレンの実がある木をゴールにし、二人は早速競争。

 しかし、サトシは途中で枝を掴み損ね、落下。しかも落ちた場所は運悪く坂であり、滑り落ちていく。

 

「もうすぐだよ」

 

「ジャノー……」

 

「ハトー……」

 

「プルル……」

 

「モシモー……」

 

「バニー……」

 

「コラー」

 

 六匹のポケモンと、一人の新人トレーナー、シューティーが少しずつ輝くタマゴを見ていた。

 ヒウンシティで育て屋の保育園から受け取ったこのタマゴが、もうすぐ孵ろうとしていたのだ。

 

「痛っ!」

 

「うわっ!? サ、サトシ?」

 

「この声……シューティー?」

 

 痛むお尻を抑えながら、サトシはキョロキョロするとシューティーを視認する。

 

「どうしてここに?」

 

「いやー、ちょっと勝負してて、その途中でそこから滑り落ちゃってさ」

 

「何してるんだ、君?」

 

 相変わらず無茶なサトシに、シューティーは冷や汗を流す。同時にサトシは光輝くタマゴを見た。

 

「シューティー、そのタマゴ……」

 

「あぁ、もうすぐ産まれそうなんだ」

 

「そっか。なぁ、一緒に見ても良いか?」

 

「まぁ、構わないけど」

 

 別にサトシを追い払う理由もない。シューティーは許可。二人はしばらくタマゴを見つめると――優しい光と共に殻が弾け、蟻地獄ポケモン、ナックラーが姿を表した。

 

「クラ~……」

 

「生まれた……」

 

「新しい仲間が出来て良かったな、シューティー」

 

「ありがとう」

 

 シューティーの六匹のポケモンが喜び、その中心で軽く欠伸するナックラーに、シューティーはカメラで写真を撮る。

 

「クラ?」

 

「あっ、眩しかったか」

 

 写真のフラッシュが眩しいのか、ナックラーは少し目を瞑る。シューティーは撮影はここまでにし、ナックラーに近寄って少し屈む。

 

「よろしく、ナックラー。僕が君のトレーナーだ」

 

「ナック」

 

 コクンと、ナックラーは大きな頭を下げた。

 

「サトシ、ここにいた~。って、シューティー?」

 

 そこでアイリスが坂から降り、サトシと合流。更にシューティーを視認した。

 

「何してるの?」

 

「ナックラーが生まれるのを見てたんだ」

 

「えっ、本当!?」

 

「あぁ、ほら」

 

「本当だ」

 

 ナックラーがいるのを見て、アイリスは生まれる瞬間を見れずにちょっと残念がる。

 

「――バニ」

 

「――って、バニプッチ!?」

 

「キ~バ~!」

 

 アイリスとキバゴはバニプッチを視認すると、思わず距離を取る。ちなみに、髪型も変化していた。

 

「ど、どうしたんだ、アイリス? それにキバゴも」

 

「あ、あたし、氷タイプが苦手で……」

 

「なんで?」

 

「ドラゴンタイプの弱点だから……」

 

「……いや、ドラゴンタイプは自身も弱点だろう? なのに、氷タイプだけそうなるのは変じゃないか?」

 

「ま、まぁ……」

 

 アイリスの言い分に、シューティーが指摘する。ドラゴンタイプは自身のタイプが弱点になる。つまり、キバゴにも苦手でないとおかしい。

 

「それに、過去に何かあったのならともかく、タイプだけで苦手を決めるのはポケモンに失礼だろう?」

 

「うぅ……」

 

 至極尤もな言葉に、アイリスは何も返せない。

 

「と言うか、そもそもアイリスはなんで氷タイプのポケモンが苦手なんだ?」

 

「……竜の里にいたからかなぁ?」

 

 ドラゴンタイプだらけの場所にいたため、知らず知らずの内に弱点の氷タイプが苦手と言う印象を抱いたのかもしれない。

 

「……竜の里? 君、そこの出身なのかい?」

 

「う、うん。そうだけど」

 

「あれ? 知ってるのか、シューティー?」

 

「聞いたことはある。会ったのは彼女が初めてだけど。それより、君強いのかい?」

 

「ど、どうかな~?」

 

「……ふーん」

 

 キバゴは赤子、ドリュウズとは仲直り出来てない、エモンガはバトル嫌い、それらから自信無さげのアイリス。

 そんな様子を見て、シューティーは期待出来なさそうだと判断する。

 

「シューティー、この後どうする?」

 

「君と会えた訳だしね。バトル――と行きたい所だけど、先ずはナックラーがどれだけ出来るかを見ておきたいね」

 

 これからしっかり育てる為にも、ナックラーの能力を把握したかった。どうやって把握しようかと考えていると、サトシのお腹からグーと鳴る。

 

「お腹空いた」

 

「そういや、まだ食べてなかったわね」

 

「シューティー、もうご飯食べた?」

 

「いや、タマゴを見てたからね。産まれたからご飯にしようかと思ってた」

 

「じゃあ、一緒に食べようぜ」

 

「……まぁ、良いかな」

 

 自分で用意する手間が省けそうだ。シューティーは食事に同席する事にした。

 

 

 

 

 

「さぁ、召し上がれ」

 

「いただきます」

 

 シューティーは頭を下げると、シチューを頂く。しっかりと煮込まれ、味わい深い。

 

「どうかな?」

 

「美味しいです」

 

「良かった。ナックラーはどうだい?」

 

「ナ~ク……」

 

 生まれたてのナックラーには、味が薄めで柔らかいポケモンフーズが用意されていた。しかし、大きな口に手足が短いせいか食べにくい様だ。

 

「おや、食べにくいか……。誰かに食べさせてもらう方が良いね」

 

「ナックラー」

 

「ナ~ク」

 

 トレーナーとして、シューティーはポケモンフーズを一つ摘まみ、ナックラーに差し出して食べさせる。

 

「どうかな?」

 

「ナ~ナ~」

 

「美味しいって、言ってる」

 

「ナクナク~」

 

 Nの発言、ナックラーの態度からシューティーはもしやと質問する。

 

「Nさん、ナックラーの言ってる事が分かるんですか?」

 

「彼だけじゃなく、ポケモンの声なら分かるよ」

 

「便利ですね……」

 

 ポケモンと話せるNに、シューティーは自分にも同じ様に話せればと思った。

 

「だけど、これは他の人達より彼等と少しやり取りがしやすいと言うだけさ。一番大切なのはしっかりと向き合い、心を通わせる事だよ。ね、皆」

 

 Nの言葉に、仲間である四匹が頷く。その内の一匹、ボスゴドラにシューティーは注目する。

 

「しかし、ロケット団のポケモンを仲間にするなんて……すごいですね」

 

 これは犯罪組織のポケモンを仲間にした度胸、説得出来た両方の意味を込めてだ。

 

「しっかりと話し合い、向き合ったからだよ」

 

「それにNさんだけじゃないしな」

 

「他にもいるのか?」

 

「知っているだけだと三人」

 

 この前出会ったケニヤンとベル、イモリ博士。三人は前のゴルバットとチルタリスをゲットし、イモリ博士はスターミーといる。

 

「なるほど」

 

 その内、ロケット団のポケモンを持っている人物と出会すのは差ほど不思議な事にはならないかもしれないと、シューティーは思った。

 

「あの、Nさん。そのボスゴドラって……ベルと戦ったポケモンじゃないですか?」

 

「ボスゴドラ、そうなのかい?」

 

 ベルの特徴を語ると、ボスゴドラはコクリと頷く。やはり、同個体だった。

 

「にしても、彼女がボスゴドラを倒したのかい?」

 

「……一人で、ですか?」

 

 このボスゴドラは、ヒウンシティで苦戦したフーディンと同じクラスの強さだとシューティーは感じている。

 自分はデントと二人がかりで漸く倒したのに、ベル一人。それが引っ掛かる。彼女が隠れた実力者だというなら分かるが。

 

「いえ、確かオノノクスがいたから倒せたって」

 

「オノノクス。もしかして、色違いで片刃の無い?」

 

「知ってるんですか?」

 

「うん。そうか、確かに彼がいるなら倒せるだろうね」

 

 そして、オノノクスと戦った事があると知り、Nはボスゴドラを撫でる。

 

「ボスゴドラ」

 

「ゴド?」

 

「何れ、ね」

 

 その言葉に、ボスゴドラは理解する。自分とカイリキーを負かしたあのオノノクスとまた戦えるのだと。今度は勝つと、ボスゴドラは戦意を高めた。

 

「……さっきから何の話を?」

 

 Nは納得したが、オノノクスに会ったことのないシューティーはさっぱりだ。

 

「あっ、シューティーは分からないか」

 

 なので、サトシは色違いの片刃のオノノクスについて簡単に話した。

 

 

「――と言うわけ」

 

「……なるほど」

 

 万全でないとは言え、サトシを実質的に負かした程の強さ。そんな実力者がいるのなら、勝てても不思議ではない。

 

(……それほどのポケモンをゲット出来れば――いや)

 

 目標に一気に近付くが、サトシに勝てない自分では先ず無理だろう。どこにいるのかも分からないし、シューティーはその考えを取り下げた。

 

「ルググー」

 

「ブ~イブイ」

 

「キババ~」

 

「ナ~ク~」

 

 視線を動かすと最近生まれたばかりである四匹――ナックラーにズルッグ、イーブイ、キバゴの三匹が寄り添っている――が、楽しそうに話し合っている。

 

「和気藹々としてるね。穏やかで和むテイストだよ」

 

「四匹共、タマゴから生まれたばかりだから、気が合うのかもね」

 

「キバゴが率先してますが」

 

「あの中だと、一番早く生まれたからかも」

 

 なので、キバゴなりに兄らしく振る舞おうとしている様だ。そんなキバゴにイーブイやナックラーは素直に嬉しい様だが、ズルッグは少し微妙そうだ。

 

「サトシ、Nさん、アイリス。ご飯が済み次第、ズルッグ、イーブイ、キバゴのどれかとナックラーの練習をさせてくれないかな?」

 

「俺は良いぜ」

 

「イーブイが良いなら構わないよ」

 

「あたしも」

 

「ありがとうございます。ズルッグ、イーブイ、キバゴ。ナックラーと軽く試合をしてほしいんだけど――」

 

「キバ!」

 

「ルッグ!」

 

「ブ~イ!」

 

 三人から許可を貰い、三匹に頼むシューティー。すると、キバゴとズルッグが手を挙げ、イーブイが鳴く。その中でキバゴがいち早く手を上げた。

 

「一番早かったのはキバゴだな」

 

「じゃあ、キバゴで良い?」

 

「あぁ、良いよ」

 

「ルッグー……」

 

「ブ~……」

 

 とにかく、能力を把握し、経験を積ませたい。相手はキバゴに決まり、ズルッグとイーブイは少し不満そうだが、サトシとNに宥められる。

 しばらくして食事も終わり、食器やテーブルを片付け、早速バトル――と思いきや。

 

「ナックラー、君の初めてのバトルだ。頑張――」

 

「ナ~~~ク」

 

「ナ、ナックラー?」

 

 ナックラーはゆっくりとシューティーの側まで駆け寄り、甘えるように足にもたれ掛かる。

 

「……ナックラー、バトル――」

 

「ナ~ク、ナク~~ク」

 

「な、なんだい?」

 

「『抱き締めて欲しい』って言ってる」

 

「甘えたいのね~」

 

「赤子だから当然とも言えるね」

 

「シューティー、抱き締めてやったらどうだ?」

 

「……そうしとくよ」

 

 ナックラーは抱き抱えられると、シューティーにすりすりと頭を擦る。

 

「ナ~ク」

 

「喜んでる」

 

「そんな感じよね~」

 

 嬉しそうな声をナックラーは出しており、喜んでいるのが分かる。

 

「……さぁ、ナックラー。そろそろ――」

 

「……」

 

「……ナックラー?」

 

「――zzzz……」

 

「あっ、寝てる」

 

 静かになったナックラーを見ると、寝息を立てていた。

 

「こ、こら! ナックラー、バトルだ!」

 

「zzzz……」

 

「完全に寝ちゃってるわね~」

 

 シューティーは焦りながら必死に気持ちを抑え、優しく揺り起こすも、ナックラーは全く起きない。

 

「寝させたらどうだい? 生まれたばかりだから、無茶は良くないだろうし」

 

「……分かりました」

 

 と言う訳で、ナックラーをゆっくり寝させる事に。

 

「zzzzz……」

 

「良く寝てるなー」

 

「可愛いわねー」

 

「正に赤子だね」

 

「寝る子は育つとも言う。しっかりと育ちそうだ」

 

 ナックラーの良い眠りっぷりに、サトシ達は何処と無く和む。

 

「……僕としては早く起きて欲しいですけどね」

 

「まぁ、ポケモンに合わせるのもトレーナーの役目だよ。待ったらどうだい?」

 

「……そうします」

 

 とは言え、こんな空気の中で無理矢理起こすのは躊躇いがあるので待つ事に。

 

「――ナ~~~ク……」

 

「あっ、起きた」

 

 良い眠りっぷりだが、浅かったのかナックラーは早く目覚めた。

 

「起きたね、ナックラー。さぁ、今度こそ――」

 

「ナ~ク」

 

 起きたナックラーはキョロキョロと辺りを見渡すと、突然風が吹き、それに気付いてシューティーから降り、その方向にトコトコと歩き出した。

 

「ナ、ナックラー! こら!」

 

「ナ~ク、ナ~~ク」

 

「あっちに何かあるのか?」

 

「ナク」

 

 抱き抱え、シューティーは動きを止めるも、ナックラーはジタバタと歩こうとしていた。その様子にサトシがそう聞くと、ナックラーは頷いた。

 

「あっちに行かせてみたらどうだ、シューティー?」

 

「……そうだね」

 

 また勝手に動かれて困った表情のシューティーだが、ナックラーはまだ赤子。怒るのも大人げないと、とりあえず好きにさせる。

 

「ナ~ク~」

 

 ナックラーがゆっくり歩き、シューティー達は後ろに続く。森の空気を味わいながら進み続けると、一つの木に到着する。

 

「これ、オレンの木」

 

 さっきアイリスが発見した、オレンの実が成る木だった。

 

「ナ~」

 

「……食べたいのか?」

 

「ナ~ナ~」

 

「……分かった。ジャノビー、軽くグラスミキサー」

 

「ジャノ。ビッ」

 

 ジャノビーは軽く回転。弱めのグラスミキサーを木に向かって放ち、オレンの実を数個落とす。

 

「ナク! ナ~~クッ」

 

 落ちたオレンの実に近付き、ガパッと大きな口を開けると丸飲みした。

 

「おぉ、実にワイルドな食べ方」

 

「口大きいもんね」

 

 身体は小さいが、頭と口は大きいので丸飲み出来たのだ。ナックラーは他のオレンの実も次々と丸飲み。

 残り四つになると、その内の一個を頭に乗せてシューティーに近寄る。

 

「ナ~ナ~ク」

 

「……くれるのかい?」

 

「ナ~」

 

「……じゃあ、貰うよ」

 

 ナックラーの頭にあるオレンの実を手に取り、一口かじる。微妙な味わいだが、差し出してくれたのを残すのも躊躇い、全て平らげた。

 

「ナ~ク?」

 

「……まぁ、お腹は膨れたよ」

 

 

「ナ~!」

 

 シューティーは味については言わなかったが、赤子故にナックラーは嬉しそうだ。

 

「ナ~ク~ナ~」

 

 次にナックラーは残る三つのオレンの実を、ズルッグ、イーブイ、キバゴにも渡す。

 

「ナ~ク」

 

「ルッグ」

 

「ブブ~イ!」

 

「キババ!」

 

 三匹はナックラーから貰ったオレンの実を平らげ、四匹で笑い合う。

 

「さて、ナックラー――」

 

「イーガッ!」

 

「……えっ?」

 

 シューティーがナックラーにバトルをするようにと言おうとしたその時、幾つもの鳴き声の後に落ちた音がする。その発生源はホイーガだった。

 

「ホ、ホイーガ……!」

 

「このオレンの木、ホイーガの縄張りだったの!?」

 

「か、かなり怒ってるね……」

 

「ここは……なんとか説得――」

 

「イーガーーーッ!」

 

「どくばり!」

 

 自分達の縄張りを荒らした侵入者に、ホイーガ達は毒針の雨を放つ。

 

「ボスゴドラ」

 

「ゴド!」

 

 ボスゴドラが両手を広げながら前に出て、毒針を全て受け止める。鋼タイプ故に効果は無い。

 

「ホイ!?」

 

 どくばりを全く通さないボスゴドラに、ホイーガ達は驚く。そのタイミングでNが説得を始める。

 

「ホイーガ。キミ達の縄張りを荒らして済まない。この子の為にオレンの実を落としたんだけど、ここが縄張りだとは思わなかったんだ。――申し訳ない」

 

「……済まなかった」

 

「ナ~ク……」

 

「ごめん!」

 

「……」

 

 Nやシューティーとナックラー、サトシ達の謝罪を聞き、ホイーガ達は背を向けると木に戻って行った。

 

「許してくれた様だ。今の内に離れよう」

 

「ですね」

 

 サトシ達は荒らさない様、静かに下がって行った。

 

「ここまでくれば大丈夫だろう」

 

「にしても、ナックラー。迷惑を掛けて!」

 

「ナ、ナク……」

 

 自分だけならともかく、サトシ達にまで迷惑を掛け、思わずシューティーはナックラーに怒る。

 

「ナク~……」

 

 

 ナックラーは怒られ、かなりショックだったのか深く落ち込むと、シューティーからとぼとぼと離れる。

 

「ルーグルーグ……」

 

「ブイ、ブブイ……」

 

「キ~バ~、キバ~……」

 

 落ち込んでいる所を三匹が慰めるも、ナックラーは中々元気にならない。

 

「シューティー、怒りすぎだって」

 

「そうそう、ナックラーはまだ生まれたばかりなんだから」

 

「オレンの実も君に食べて欲しかったんだろうし」

 

「それにさっきのも運悪くで、最終的にはキミが行動したからだ。あの子だけを怒るのは違うと思う」

 

「……た、確かに」

 

 サトシ達の言葉に、シューティーはむむむと軽く唸った後、冷静に考える。確かに彼等の言う通りだ。

 先の二つはナックラーの幼さ故だし、さっきのも自分が行動に移したからや、自分にも差し出したからだ。あの子だけを怒るのは不公平だろう。

 

「……ナックラー」

 

「……ナク?」

 

「……済まない。もう怒ってない。だから、ほら」

 

「ナ……ナク!」

 

「ルググ」

 

「ブ~!」

 

「キバ~」

 

 許してくれて嬉しくなったナックラーは、三匹に良かったと言われた後、歩幅が短いながらも全速力で片手を差し出したシューティーの元に戻って行く。

 そして、あと三メートル程になったその時――ナックラーは横から突然出てきたメブキジカに撥ね飛ばされてしまった。小柄と茂みのせいで見えなかったのだ。

 

「ナク~~~!?」

 

「……メブ?」

 

 ん、なんか当たったかとメブキジカはキョロキョロするも、近くには何もいないのでまた走り出した。

 

「……ナ、ナックラーーーーーッ!?」

 

 突然のハプニングに固まった数秒後、シューティーは叫びながら飛んでいってしまったナックラーを追い掛け、サトシ達も後に続く。

 

「ナ~ク~! ――ナク!?」

 

「――メブ!? メブブ!? メブーッ!!」

 

 飛ばされたナックラーはなんと、自分を撥ね飛ばしたメブキジカの背に着地。必死にしがみついた。

 一方、メブキジカは突然背に乗ったナックラーにパニックに陥る。背にいて見えないのも強めており、全速力で走り出す。

 

「い、いた! ナックラー!」

 

「メブキジカの背に乗ってる!」

 

「メブキジカ、止まるんだ!」

 

「お願い、止まってーっ!」

 

 必死に停止を呼び掛けるも、パニックになったメブキジカは止まらない。

 

「ジャノビー、エナジーボール! ナックラーに当てないよう、小さめにかつ、足を狙え!」

 

「ジャー……ノッ!」

 

「メブッ!」

 

 先ずは足を止めようと、ジャノビーがエナジーボールを発射。真っ直ぐに走るメブキジカの足に見事命中する。

 

「――メブブ!」

 

「……効いていない!?」

 

 しかし、メブキジカは全く効いてない所か、何やら力が増している様に感じた。

 

「そうしょくか!」

 

 草タイプの技を吸収し、自身の力を高めるメブキジカの二つある内のもう一つの特性だ。

 

「あー、止まらない!」

 

「何とかなりませんか!?」

 

「こっちに振り向かせてさえくれれば、ボスゴドラが止めてくれる」

 

「ゴド」

 

 高い防御力、それを更に底上げするてっぺきを持つボスゴドラがメブキジカの攻撃を受け止めれる。

 最適の判断だとサトシ達は思い、Nとボスゴドラに任せようとしたが、そこにシューティーが待ったを掛けた。

 

「シューティー?」

 

「ここは僕にさせてください」

 

「それはどうしてだい?」

 

「確かにNさんに任せるのが最適です。しかし、ナックラーは僕の手持ち。僕が助けるのが筋です」

 

 自分の手持ちが起こした問題を、他者に解決してもらうなど、トレーナーとして情けないにも程がある。自分がしなければならないのだ。

 

「……ただ、万が一失敗した場合は、情けないですが助力をお願いします」

 

 だが、力不足の場合はナックラーの安全の為にも悔しいがN達に頼む予定だ。

 

「そうするよ」

 

「頑張れよ、シューティー!」

 

「当然さ」

 

 これぐらいこなさねば、目標には到底辿り着けないのだから。

 

(さて、どうするか……)

 

 先ず、メブキジカの足を止める必要がある。しかし、迂闊な攻撃はナックラーがいるのでやりづらい。

 

「――ハトーボー!」

 

「ハト!」

 

「全速力でメブキジカを追い越せ!」

 

「ハトー!」

 

 ハトーボーは全力で羽ばたき、猛スピードでメブキジカとの距離を縮めていく。

 

「ナク~ナク~!」

 

「メブメブ!?」

 

「ハトハト……!」

 

 しばらく追い続け、ハトーボーはメブキジカを追い越した。

 

「今だ! ハトーボー、メブキジカの前に出ろ!」

 

「ハトッ!」

 

「メブッ!?」

 

 視界に入って来たハトーボーに、メブキジカはビクッと驚く。そして――何と、更にパニックになったせいか、シューティー達の方に向かって来た。

 

「なっ!?」

 

「ま、不味い!」

 

 突然の方向転換に、シューティー達は反応が鈍った。このままでは激突してしまう。

 

「――ナクゥ!」

 

「メブブ!?」

 

 その時、ナックラーがメブキジカの首にかみつく。その驚きや技の追加効果により、動きが止まる。

 

「ジャノビー、今だ! ナックラーを!」

 

「ジャノ!」

 

 ジャノビーは素早くメブキジカの背に移動し、ナックラーを抱き抱えるとシューティーの元に戻った。

 

「ジャノノ」

 

「ナックラー、無事か?」

 

「ナ~ク」

 

 シューティーの元に戻れて、ナックラーは上機嫌だ。

 

「――メブ―!」

 

 まだパニックしているメブキジカが、シューティー達目掛けて突進してくる。

 ナックラーに意識を向けていたため、シューティー達はまた反応が鈍った。

 

 

「――ゴドラ!」

 

「メブ!?」

 

 メブキジカの突進を、然り気無く前に出ていたボスゴドラが身体で受け止める。

 

「メブキジカ、落ち着いてくれ。キミ、さっき何かに当たらなかったかい?」

 

「……メブ」

 

「それはあの子だったんだ。茂みで見えなかったんだろうけど、キミはあの子を蹴飛ばしてしまったんだよ」

 

「メブブ!?」

 

 受け止められ、ある程度落ち着かされたメブキジカはNから話を聞き、自分はなんてことを!?と大きなショックを受ける。

 

「故意ではないことは分かってる。この騒動は幾つかの不運が重なったから。だから、お互いに謝ろう」

 

「メブメブ。――メブ」

 

 ボスゴドラが離れ、メブキジカはシューティー達に駆け寄ると頭を下げる。

 

「こっちも済まなかった」

 

「ナ~ク」

 

 互いに謝った後、メブキジカは何度も頭を下げながら離れて行った。

 

「すみません。助かりました……」

 

 シューティーはNにお礼を言う。自分一人で解決したかったが、結局力を借りてしまった。情けないとため息を吐く。

 

「構わないよ。一人で出来ない時は助け合うべきだろう?」

 

「……まぁ」

 

 確かにそうだが、シューティーとしてはやはり一人で解決したかったので、少し落ち込み気味だ。

 

「さて、ここから離れよう。追ってる間に結構森の奥へと進んだみたいだ」

 

 メブキジカとの追いかけっこの間に、森の奥に入ってしまった様だ。安全の為にも、サトシ達は街道に向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

「おっ、ここさっきの場所だな」

 

「そうだね」

 

 彼等が付いたのは、シューティーがいてナックラーが産まれた場所だ。

 

「はぁ、それにしても疲れた……」

 

「ナ~……」

 

 色々とあってか、心身共にシューティーは疲れており、ナックラーは申し訳なさそうに落ち込んでいる。

 

「ク~……」

 

「……ナックラー」

 

「ナ、ナク……?」

 

 降ろされたナックラーは、何度も迷惑を掛けた事で、怒られるとビクビク怯えていた。

 

「……そんなに脅えないでくれ。僕でも落ち込む」

 

 ナックラーに怯えられ、シューティーは少し苦い表情だ。

 

「――ナックラー」

 

「ナ?」

 

「僕は君のトレーナーだ。だから、しっかりと向き合って行くよ」

 

「ナ……ナ~~~!」

 

「こ、こら、落ち着くんだ」

 

 シューティーの言葉に嬉しくなり、ナックラーは足にすりすりと甘える。

 

「まぁ、ナックラー。これからよろしく」

 

「ナ~!」

 

 シューティーは空のモンスターボールを取り出し、ナックラーに当てる。ナックラーを入れたモンスターボールが数度揺れ、パチンと鳴ると出した。

 

「一件落着って感じ?」

 

「の様だね」

 

「同じタマゴから生まれたポケモンを持つトレーナー同士、頑張ろうぜ、シューティー」

 

「あぁ、勿論。にしても……」

 

「にしても?」

 

「一から育てるのは大変だ、と思ったよ」

 

 偶々が重なったとは言え、色々あった一日にシューティーは再度ため息を付く。苦笑いしながら。

 

「まぁ、一から育てる訳だからね。大変じゃない方が不思議だよ」

 

「そうですよね~……」

 

 赤子から育てるのだ。苦労する方が普通なのである。新人なら尚更だ。

 

「それも大変ですが――」

 

「他にもあるのか?」

 

「この子結構甘えん坊だから、しっかりと強く育てれるかなとも悩んでる」

 

 今までの手持ちは、向上心があるポケモン達ばかりだったが、このナックラーは甘えん坊だ。戦いには不向きにも思える。

 

(……そう考えると、僕って結構出会いに恵まれていたんだな)

 

 ゲットしたポケモン達が、戦いを嫌がらない性格だったのだから。

 

「そっか。でもさ、別に強くするだけがポケモンの育て方じゃないだろ?」

 

「……君が言うのかい?」

 

「あはは、確かにな。けど、事実だろ?」

 

「……そうだね。その通りだ」

 

 ポケモンリーグを目指すサトシにそう指摘され、シューティーは何とも言えない表情だが、確かに彼の言葉は正しい。強くするだけが育てるではないのだ。

 

「まぁ、頑張るよ。預かった以上、見捨てるなんてトレーナーとして最悪だからね」

 

「真面目だな」

 

「そんなの基本だろう?」

 

 育て屋の彼女達から託され、頷いたのに大変だから、合わないからと捨てる。

 そんなのトレーナー失格だ。預かった以上は何としても育てるとシューティーは決めていた。

 

「ナックラー」

 

「ナ~?」

 

「今回みたいな事があっても対処出来るよう、バトルの練習しておこう」

 

「ナ~!」

 

 強くするだけが育て方ではないが、旅をしている以上は最低限の強さがあった方が良いのも事実。

 なので、シューティーは色々あって延びていたバトルの練習を提案。ナックラーも頷いた。

 

「アイリス、良いかい?」

 

「あたしは勿論良いわ。キバゴも良いよね?」

 

「キバッ!」

 

 と言うわけで、漸くナックラーの練習が始まる。

 

「ナックラー、君のやりたいようにやると良い」

 

「ナ~ク!」

 

 シューティーはこの練習、ナックラーに指示を出すつもりはない。どこまで、どうやるかを見るためにも。

 

「じゃあ、そっちからで良いわよ。ナックラーは生まれたばかりだしね」

 

「キバ!」

 

「じゃあ、遠慮なく。ナックラー」

 

「ナ~」

 

 早速攻撃しようと動くナックラー。しかし。

 

「やっぱり、遅いな……」

 

「のったりして、緩やかなテイストだねー」

 

 ナックラーの動きは鈍い――と言うか、手足が短いので一歩一歩が小さく、中々キバゴの近くに到着しない。

 

「まぁ、仕方ないだろうね」

 

 手足が短く、頭が大きい点を考えればこの程度の速さでも無理はないだろう。況してや生まれたばかりなのだから。

 

「キバ~……」

 

「ちょっと近付いてあげましょ」

 

「キバ」

 

 早く攻撃させてあげようと、キバゴはナックラーに近付く。

 

「――ナクッ」

 

「――キバッ!?」

 

 近付いたキバゴの身体に、ナックラーはその口でガブリと噛み付く。次の瞬間、ナックラーはキバゴに噛み付いた状態でブンブンと上下に振り回す。

 

「ナクナクナクナクッ!」

 

「キバ~! キババ~!」

 

「キバゴ~!?」

 

「ナクッ!」

 

「――キバッ! キ~バ~……」

 

 ナックラーがポイッと離すと、転がったキバゴは振り回された結果、目を回してフラフラしていた。

 

「ナ~ク~……!」

 

 隙だらけのキバゴに、ナックラーは大きく口を開くと、光が集約し出す。

 

「……えっ?」

 

「う、嘘!?」

 

「あれは……!」

 

「まさか……」

 

「ラ~~~~~ッ!!」

 

「――はかいこうせん!?」

 

「キ~バ~~~~~ッ!!」

 

 それなりの轟音が響き、ナックラーの身体に似合わない光の帯、ノーマルタイプの技の中で最高クラスの技であるはかいこうせんが発射。キバゴに命中する。

 

「キ、キ……バ……」

 

「キバゴ~!?」

 

 はかいこうせんを受け、ボロボロになって倒れてキバゴはピクピクと痙攣していた。戦闘不能である。

 

「な、なんで、生まれたばかりなのに、はかいこうせんが使えるのよ~!?」

 

「し、知らないよ! と言うか僕も驚いているんだよ!」

 

「な、中々……いや、相当なポテンシャルを秘めてるね、あのナックラー……」

 

「すっげ~……」

 

「……あれ? そのナックラーは?」

 

 Nの言葉に全員が辺りを見渡す。すると、シューティーの後ろで仰向けになっているナックラーがいた。

 

「だ、大丈夫か、ナックラー?」

 

「ナ、ク……」

 

 シューティーが抱える。ナックラーは上手く動けない様子だ。

 

「この状態……はかいこうせんの反動で動けなくなってるみたいだね」

 

「もしかして、反動で吹っ飛んで後ろに?」

 

「そう考えるのが自然だろうね」

 

 生まれたばかりで身体が出来てないのに、最高クラスの技を放ったのだ。命中しただけでも上出来だろう。

 

「とにかく、ナックラーが使えるのはかみつくとはかいこうせん。この二つだね」

 

「すごいな……」

 

 生まれたばかりにもかかわらず、最高クラスの技を覚えている。ナックラーの潜在能力の高さが伺える。

 

「……ナックラー――」

 

「ナク?」

 

「――いや、なんでもない。よくやった」

 

「ナ~ク」

 

 甘えん坊だが、これほどの素質を持つナックラー。鍛えれば、間違いなく強くなる。

 沢山の経験を積ませようと思ったが、ナックラーはまだ赤子。無茶は行けない。ゆっくりと育てようと思い止まり、勝ったナックラーを誉めた。

 誉められたナックラーは反動でまだ動けないが、笑顔で鳴く。

 

「――さてと、サトシ」

 

「なんだ、シューティー?」

 

「ナックラーの練習は終わった。僕とバトルしてくれるかい?」

 

「――あぁ、勿論」

 

 ナックラーの能力は把握した。となれば、次にすべきはサトシとのバトルだ。

 シューティーは試合を申し込み、サトシは頷いた。

 

「ルールはどうする?」

 

「君の今の手持ちの数は?」

 

「七体」

 

「僕と同じか」

 

 シューティーもナックラーを加えた事で、手持ちの数は七体になっていた。しかし、ナックラーは生まれたばかりなので除外。

 可能な形式は六対六のフルバトルになるが、今日はかなり疲れている。別のルールが良いだろう。

 

「――よし。ルールは手頃な三対三にしよう」

 

「OK。じゃあ、始めようぜ!」

 

 サトシとシューティー。二人の、四度目となるバトルが始まる。

 

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