ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ 作:ぐーたら提督
「――ルビ!」
「……」
「ワルッ! ――ルビィ!」
早朝の森にて、二匹のポケモンがぶつかっていた。一匹はサトシとピカチュウを倒すべく、群れから離れて追うワルビル。
もう一匹は彼等に勝ち、今はワルビルの師でもある色違いのオノノクス。
師弟である二匹は、最近毎日行っている鍛錬をしていた。
ワルビルがかみつくをしようとしたが、オノノクスは軽々と避けむと尻尾を掴み、持ち上げて叩き付ける。
「ワルビッ!」
「オノ」
やばいと思ったワルビルは急いで距離を取る。弟子の行動にオノノクスはそれで良いと告げた。
「ワルビ!」
「ノクス」
ワルビルが足を上げ、地面に叩き付ける。それによる揺れ――じならしが発生し、オノノクスに迫る。
オノノクスは腕に竜の力を込めた爪、ドラゴンクローで地面を叩く。その際の衝撃がじならしを相殺した。
「ワルビ!?」
「――オノ」
じならしが打ち消され、そんなのあり!?とワルビルが驚くも、その隙にオノノクスが距離を詰め、ドラゴンクローを放つ。
ワルビルはガードしようとしたが間に合わず、ドラゴンクローの直撃を受けて大きく転がり、木にぶつかって止まった。
「オノノ」
「ワルビー……」
まだまだだなと語るオノノクスに、ワルビルはしかめっ面になって唸る。相当加減されているのに、全く歯が立たなかった。
「ノクス」
「ルービ」
休憩だと言われ、ワルビルははーいと返すと身体を休める。
「ワルビー」
「オノノ、ノクス」
全然勝てねえなーと溢すワルビルに、当たり前だ、練度や経験が違うと淡々とオノノクスは答えた。
ワルビルも群れにいたメグロコ時代にはかなり戦ってきたが、オノノクスのその数は文字通り桁が違う。それ故に高い実力を持っていた。
「ワールー、ワルビ?」
「ノクス」
にしても、最近知らないポケモンを結構見ない?とワルビルは話を変える。確かにとオノノクスは頷いた。
旅をしていく中で、二匹はロケット団のポケモンと何度か遭遇。交戦したこともある。
ヒウンシティでの一件を思い出すが、二匹はロケット団を知らないのでその理由までは分からなかった。
なので、オノノクスは放って置けと語る。敵になるのならば倒す、戦う気が無いのなら余計な戦いはしないので無視する、それだけだと。
それもそうだなと、ワルビルは頷く。オノノクスの言う通り、敵ならば戦い、逃げるのなら見逃せば良いだけなのだから。
「ワル、ワルビ?」
疑問について纏め、ワルビルはオノノクスに少し離れた場所に湖があったので、そこで休んでも良いかと提案する。
「ノクス」
好きにしろと、オノノクスはワルビルに任せる。
休憩時は自由にしているので、口は出さない。ただ、そこにいるポケモンに迷惑を掛けないようにと忠告。
ワルビルは師のオノノクスにはーいと陽気に返すと、湖に向かって歩き出した。
「わ~、綺麗な湖!」
「それに大きいね。休憩の場所には最適かな」
「一旦、ここで休むのは?」
「そうだな」
湖に着いたサトシ達は、そこで少し休憩する事にした。
「出てこい、皆!」
サトシ達は手持ちのポケモン全てを出す。出てきた彼等はクールなツタージャ、今はまだ無口なドリュウズ、比較的そう言うタイプではないボスゴドラを除き、元気に答えた。
「皆、遊ばない? ……ドリュウズもどう、かな?」
「……」
アイリスの提案に、ドリュウズは他の仲間達の視線を感じる中考える。やる気は無いが、こうまで見られると断るのも少し後ろめたい。
「……リュズ」
「じゃあ、行きましょ!」
「キミ達も行くと良い。楽しんでおいで」
「ゾロロ」
「カーブブ」
「……」
ゾロアとポカブは素直に遊びに行くも、ボスゴドラだけは動かなかった。
「キミは行かないのかい?」
「ゴド」
自分はN達を守るためにいる。だからボスゴドラは遊ぶ余裕などないのだと。
「――ボスゴドラ」
「……ゴド?」
「遊んでおいで。気分転換は大切だ」
「……ゴド」
Nの命令とあれば仕方ない。渋々ながらもボスゴドラは向かって行った。
「さて、俺も――」
「ルッグー……」
サトシも遊ぼうかとしたが、そこでズルッグが湖を眺めていたのを見た。また、キバゴとイーブイもだ。
「どうした、ズルッグ?」
「ルグルッグ。ルーグ」
「湖が綺麗だから見てたのか?」
「ルグ」
そう言えば、生まれてそんなに日が経っていないズルッグはまだこんな湖を見たことがない。
だから初めて見た綺麗で大きなこの湖に、夢中になっているのかもしれない。
「あっちじゃ、皆が遊んでるけど……この湖で遊ぶか?」
「ルッグ!」
「じゃあ、そうするか」
「ルッググ!」
今日は初めて湖を見たズルッグの気持ちを優先し、サトシは一緒に遊ぶ事にする。ズルッグもサトシがいてくれて嬉しそうだ。
「キババ?」
「ブイイ?」
「キバゴ、イーブイ?」
二匹はサトシとズルッグに近付くと、何するのと言いたげに首を傾げた。
「あぁ、ズルッグとここで遊ぼうと思ってさ」
「キバ~、キバキババ!」
「ブイイ、ブブイ!」
キバゴはなら自分もズルッグと遊ぶと言い、イーブイも同調する。
「一緒にか? アイリス、Nさん、キバゴとイーブイがズルッグといたがってるけど」
「良いわよ~、キバゴよろしくね~」
「キバ~」
「構わないよ。イーブイ、サトシくんには出来る限り迷惑は掛けないようにね」
「ブイ~」
「じゃあ、皆一緒に入ろうぜ」
二人から了承を得ると、サトシは服を脱いで水着になり、ズルッグ、キバゴ、イーブイと湖に入る。
「……ルッグ」
「ズルッグ、泳げるか?」
「ルッグ!」
生まれてから泳いだのを見たことがないので、サトシがそう尋ねるとズルッグはやや意地になった様に頷く。
「ルッグ! ……ルググー!」
「うわっ、ズルッグ!」
「キバッ!?」
「ブイッ!?」
ちょっと心配になりつつも様子を見ると、ズルッグはあたふたともがいた。サトシは慌ててキバゴ、イーブイと一緒にズルッグを引き上げる。
「泳げないんだな」
「ルッグー……!」
泳げない苛立ちから、ズルッグは湖を睨み付けていた。
「怒るなって。今日は泳ぎの練習でもするか」
「ルッグ!」
「キ~バ!」
「ブ~イ!」
ズルッグは直ぐに泳いでやると、やる気満々だ。キバゴとイーブイは手伝うと同じくやる気満々である。
「泳ぎは意外と良い練習にもなる。あの子達には良いトレーニングなるかもね」
デントからもそんな助言を頂き、サトシはズルッグの泳ぎの練習を開始する。
「先ずは浅いここでな」
「ルッグ」
「いいか、ズルッグ。泳ぎのコツは――」
先ずは浅い場所で練習を開始。イーブイとキバゴの協力しながらズルッグの手を持って息継ぎや泳ぎ方を伝え、覚えさせていく。
幸い、ズルッグはカナヅチではなく、やり方を知らないから溺れただけだった。基礎を覚えると、ズルッグは少しずつ泳ぎが上達させていった。
「おりゃ~!」
「ピカピ~!」
「ゾロッ!」
「カーブ!」
「ハトッ!」
「クルル!」
「キバ~!」
「ヤナ!」
サトシとズルッグが泳ぎの練習をしている一方、アイリスとピカチュウ達は球遊びをしていた。ポンポンと頭、手や足で弾き、繋いでいく。
「ボスゴドラ、行ったわよ~」
「ゴ、ゴド」
「ポカ!」
自分の所に来たボールを、おずおずと言った様子で腕で弾く。珠はポカブの方に向かい、また違うポケモンに飛ばしていく。
「……」
緩急や、高低を常に変化させる球を楽しそうに飛ばすピカチュウ達に、ボスゴドラは何とも言えない様子。同時にほんのりと暖かいものを感じていた。
「……」
「ゾロロ?」
「……ゴド」
そんなボスゴドラに、ゾロアが悪くないでしょと語り掛ける。少し間を置いて、ボスゴドラはあぁと頷いた。
ロケット団に身を置いた時期に忘れていた心の暖かさ。それを思い出し、微笑を浮かべる。
「ゾーロ」
「ゴド」
ゾロアが球が来たよと言い、ボスゴドラはさっきと同じ様に軽く叩いて返す。折角の時間。楽しむことにした。
「エモ! ――ンガ!」
「――タジャ!」
球は次にエモンガへ向かう。その瞬間、エモンガはある方向――ツタージャを睨むと彼女に向けて叩く。
叩かれた球はツタージャに向かって勢いよく進むも、彼女は鶴で弾き返す。
「イマイ!? イマッ!」
球は今度はイシズマイに向かう。思った以上の速さの球に、イシズマイは咄嗟に殻に籠り、からにこもるを発動。
すると球は弾かれ、ドリュウズの方へと猛スピードで迫る。
「――リュズ」
不意を突かれたドリュウズだが、直ぐに反応して鋼化した爪で強く弾く。球は更に加速し、あるポケモンの方へと向かう。
「ミジュ!? ミジュマーーーッ!」
それはミジュマルだった。高速の球は彼に命中し、大きく吹っ飛ばした。あっと、ポケモン達は冷や汗を流す。
「ミジュ!」
「タマ!」
「……ミジュ?」
吹っ飛ばされたミジュマルだが、何かにぶつかって止まる。
声がしたそれに振り向くと、モンスターボールみたいな模様の傘に柄に顔と手があるポケモンだ。
「タマ!」
「タマタマ?」
そのポケモンは一匹だけでなく、ミジュマルにぶつかった仲間の声に反応し、仲間達が集まる。
「タマ! タマタマ!」
「タママ! ゲーーーッ!」
そのポケモンはミジュマルに手を向けると、ぶつかったミジュマルへの報復に仲間達と同時に紫色の粉、どこのこなを吐き出す。
「ミジュ!?」
「ピカ!?」
「キバ!?」
「ヤナ!?」
「ゾロ!?」
どくのこなはミジュマルだけでなく、吹き飛んだ彼を心配して近付いたピカチュウ達を運悪く巻き込み、毒状態にしてしまう。
「――リュズ!」
「――ゴド!」
ピカチュウ達が毒になった中、鋼タイプ故に受け付けなかったドリュウズやボスゴドラがそのポケモン達に迫る。
「タマ!? ゲッ!」
「リュズ!? ド、リュ……!」
「ゴ、ド……!」
どくのこなが効かないドリュウズやボスゴドラに驚くそのポケモン達は、今度は違う性質の粉を吐き出す。それを受けた二匹の身体は強烈に痺れ出した。しびれごなだ。
「み、皆!?」
到着したアイリスだが、毒や麻痺になった皆に顔を青ざめた。
「よしよし、どんどん上手くなってるぞ、ズルッグ」
「ルッグ!」
「キバキバ」
「ブイブ~」
かなり上達したズルッグに、サトシもキバゴもイーブイも喜ぶ。
「サトシ、デント、Nさん!」
「どうした、アイリス!?」
「皆が……!」
焦った様子のアイリスに、サトシ達は急いで向かう。
「これは……!」
「毒に麻痺か……!」
「なんでこんな事に!?」
「あのタマゲタケ達にどくのこなやしびれごなを浴びせられちゃったの!」
「タマゲタケ?」
アイリスが指差した先にいるポケモンに、図鑑を向ける。
『タマゲタケ、茸ポケモン。何故か似ているモンスターボールの模様でポケモンを誘い、毒の粉で敵を撃退する』
「どうして、どくのこなを?」
「タマタマ、タマゲッ! ――タマッ!」
何かを言うと、タマゲタケ達はその場から離れる。
「さっき、なんて?」
「ミジュマルがぶつかってきたから反撃しただけ。と言ってた」
「遊んでる最中に、ミジュマルが吹っ飛んだの。多分、その時に……」
「運が悪いね……」
故意ではないとは言え、急に激突してきたのだ。タマゲタケ達が反撃するのは当然だろう。
「どうするんだ……?」
「モモン、クラボの実、どくけしやまひなおしはないし、ポケモンセンターもここからはかなり離れてる……」
手当する道具、場所がない。打つ手がなかったが、そこでアイリスがあることを思い出す。
「――待って。この辺りにシレット水草はない?」
「シレット水草?」
「毒や麻痺にもある程度効く薬草よ。水辺に生えてる事が多いから、もしかしてたらあるかも……」
「シレット水草……。あった! この湖にある!」
タブレットで情報を検索すると、シレット水草はこの湖にあることが分かった。
「じゃあ、それを採ってくれば――」
「でも、シレット水草は、正確には岩間の隙間に生えてるんだ。採るには、小柄な水タイプのポケモンの力が必要なんだけど……」
「水タイプのポケモン……。あっ!」
今いる水タイプのポケモンは、ミジュマルだけ。しかし、毒でまともに動けない。
「人の手じゃ無理か?」
「それは……いや、ワイヤーみたいな道具があれば或いは……」
「じゃあ、サトシくん達はそちらから。僕はこの湖か周りの森にいるポケモンの助力を得れるかやって見る」
「なら、あたしは皆の手当をするわ」
サトシ達は薬草を採る係、説得での助力、手当の役目を決める。
「ルッグルッグ!」
「キババ!」
「ブイイ!」
そこに無事だった三匹が名乗り上げる。仲間のピンチを救いたいのだ。
「ズルッグ達はどうする?」
「普通なら、採取、説得、手当にそれぞれ一匹分けるべきだけど……」
この三匹は強くなってはいるが、まだ子供。戦力としては、少し不安が残る。
「寧ろ、一つに集中させて速さや安定さを高めた方が良いかもね」
「だったら、どの役割に当てます?」
「採取か手当が良い。説得はボク一人でなんとか対応出来るから」
「けど、手当に回しても早く終わるわけじゃないし……」
「なら、採取に任せよう」
「分かった。直ぐに採って来るぜ」
話し合いの結果、三匹はサトシとデントの護衛になった。
「イーブイ、サトシくんやデントくんの言うことを素直に聞くように」
「ブイ!」
「キバゴ、サトシ達を守ってね」
「キバッ!」
「よし、行こう!」
一秒でも早く、仲間達を回復させるため、サトシ達は動き出す。
「この湖の何処かにあるんだよな?」
「うん。それは間違いない。ただ、これだけの湖だから、野生のポケモンがいる可能性は高い。出来る限り慎重に」
「分かった。デントは?」
「他にもシレット水草がないかどうか、調べてみるよ」
サトシ達が採取に向かう間、ただ待っているつもりはない。
「よし、ズルッグ、イーブイ、キバゴ。行くぞ!」
「ルッグ!」
「ブイ!」
「キバ!」
サトシは水着になり、ゴーグルや酸素ボンベを付け、縄を持ったまま三匹と共に湖に入って中を見ていく。
「皆、大丈夫か?」
「ルグルグ」
「ブイイ」
「キ~バ」
イーブイとキバゴ、練習の成果もあってズルッグも問題なく泳げていた。
「岩場岩場……。あっ、あっちにあるな。皆、あっちに向かうぞ」
「ルグ」
「ブイ」
「キバ」
「――ギョ」
しばらく捜索すると、岩がある場所を発見。そこに向かうサトシ達を、平たい身体のポケモンが見ると何処かに向かう。
「ギョ。マッギョギョ」
「ガマガ、ガマ」
平たい身体のポケモンが話し掛けるも、ふくよかだが短い手足、コブが特徴のポケモンはふーん、そうと返す。
「ガマ、ガマガマ」
じゃ、他と排除しといてと、コブの特徴のポケモンが平たいポケモンに言う。
「ギョ……。ギョギョマ」
コブのポケモンに、平たいポケモンがそこまでしなくてもいいんじゃと告げる。
向かう方向から、彼等の目的がシレット水草だと推測出来る。何もしないでそのまま素直に採らせ、手っ取り早く帰らせた方が互いに良い。
「ガマガ。ガマ」
互いにとって安全なその案を、コブのポケモンは却下する。縄張りに入った者は敵。排除が普通だと。
「……」
確かに正論だ。しかし、平たいポケモンは無言で睨んでいた。そんなことを言える資格があるのかと。
「ガママガ」
「……ギョ」
言いたい事があるなら言えと言うコブのポケモンに、平たいポケモンはいやと返し、指示通りに他のポケモン達や、最近加わったあのポケモンを連れて向かう。
「ふぅ、中々見付からないね……」
サトシ達がシレット水草を発見した一方、Nは森の中で状態異常を治せる技を持つポケモンを捜していたが、覚えていない、思っていたよりも警戒している、と言った理由から中々見付からなかった。
「どうしたものか――」
「……」
「……おや。こんなところで再会するなんてね」
その途中、Nは一匹のポケモンに出会す。色違いの片刃のオノノクスだった。
『久々だな。青年よ』
「うん。キミはどうしてここに?」
『連れを探しに来ただけだ。念のためにな』
自由行動は許したが、万一の事態に備えて来たようだ。
「誰かといるのかい?」
『そうだ。ちなみに――何かあったか?』
「どうして、そう思うんだい?」
『表情に少し焦りを感じた』
「大した洞察力だ。実は不運な事故で、仲間達のほとんどが毒や麻痺になってしまってね。治せる技を持つトモダチを探しているんだ。その中には、キミと戦ったサトシくんやピカチュウもいる」
『そうか。彼等もか……』
サトシ達がピンチと知り、オノノクスは少し考える様子を見せる。
「おかげでこちらは手一杯だ。オノノクス、ちょっと手伝ってくれないかな?」
『お守りをすれば良いのか?』
「うん。キミなら安心だからね」
オノノクスの強さなら、心配はいらない。最高の守護者だ。
『――良かろう』
直接助ける訳ではない。それに、弱っている相手を見捨てるのは嫌いだ。Nの頼みをオノノクスは受けた。
「ありがとう。でも、頼んでながらなんだけど、連れは良いのかい?」
『待ち合わせ場所は決めてある。問題はない。――場所は?』
「あっちだよ」
『分かった。それと、無茶はしない様にな』
「心配してくれるのかい?」
『何れ戦う相手。ここで消えてほしくないだけだ。まぁ、余計なお世話かも知れぬがな』
「面倒見が良いね」
『……かもな』
少し照れ臭そうにすると、オノノクスはゆっくりと歩いていった。
「さて。ボクも一刻も早く捜さないと」
アイリス達の所にいるポケモン達はもう心配ない。後は毒や麻痺を治せるポケモンの捜索。少し早足でNは歩き出す。
「皆、これを飲んで。毒や麻痺は治らないけど、少し楽にはなるわ」
アイリスはオレンの実を絞ったジュースを飲まし、ポケモン達を少しでも回復させる。
「う~、でも数が多いわね……」
合計、十三体のポケモンがいる。自分一人ではかなりキツイ。
「早く、サトシ達戻って来ないかな……。――あれ?」
サトシ達の早い帰還を望むアイリスの耳に、がさがさと茂みが揺れる音が鳴る。
「まさか、野生のポケモン……!?」
だとしたら不味い。守る戦力がいないのだから。しかし、だからと言って見捨てる訳には行かない。
いざとなれば、自分が戦うと思ったその時、そのポケモン――Nに頼まれて護衛に来たオノノクスが出てきた。
「……えっ、色違いのオノノクス!? あの時の!?」
「……ノクス」
「えっと、なんでここに……? もしかして、サトシと戦いたくて……?」
「……」
オノノクスは違うと首を左右に振ると、無言でその場に座る。
「……戦いに来たわけじゃなそうね」
もしかして、皆を守りにと考えるが、都合良すぎる気がする。
とは言え、このオノノクスとは一度しか会ってないが、弱った相手を痛め付ける様な性格ではない。放っても大丈夫だろうとアイリスは手当を続ける。
「……」
「な、なに?」
その途中、オノノクスが自分を見ている事に気付く。アイリスが恐る恐る聞くも、オノノクスは無言。
と思いきや、立ち上がるともう一つあった吸い飲みを手に取り、オレンの実を絞ったジュースを近くにいたポケモン、ドリュウズに飲ませる。
「リュ、ズ……」
「て、手伝ってくれるの?」
「……ノクス」
オノノクスは頷き、次のポケモンに飲ませようとする。その相手は――ボスゴドラだ。
「……」
「……」
ボスゴドラは勿論、オノノクスも相手がヒウンシティで戦った敵だと理解。少しの間、緊迫するも。
「ノクス」
「……ゴド」
今は療養の為にも、飲んで身体を休めろとオノノクスは告げる。
リベンジを果たしたい相手に看病される。ボスゴドラは少し悔しいが今は言う通りにし、大人しく手当を受けた。
「結構上手いわね……」
吸い飲みが壊れない様に力加減しつつ、きちんと先を口元に近付け、優しく飲ませてる。かなり器用である。
「その、オノノクス」
「……?」
「手伝ってくれて、ありがとう」
「オノ」
気にするなと、オノノクスは返す。思わぬ手伝いが増え、アイリスは一層手当に励んだ。
「ここだな。――よっと!」
サトシ達は岩場に到着。シレット水草に向かって縄を投げるも、水中なので上手く進まず、水草には絡まらない。
「一人じゃダメか……。皆、何とか入って縄を草に絡めて――」
「オタ!」
「マロ!」
「……なんだ?」
「ルッグ?」
「ブイ?」
「キバ?」
サトシ達は協力して採ろうとしたが、そこに大きなおたまじゃくしみたいポケモン達が沢山向かって来る。
「……まさか!」
「オタタ!」
「マロロ!」
嫌な予感がし、それは見事的中。おたまじゃくしみたいなポケモン達が、一斉にみずてっぽうを発射する。
「避けろ、皆!」
「ルッグ!」
「ブイイ!」
「キバ~!」
動きづらい水中だが、サトシ達は辛うじてみずてっぽうをかわす。
「ルー……グッ!」
「オッ!」
「タッ!」
「マローーーッ!」
「ルッグ!?」
「ズルッグ、危ない!」
ズルッグがきあいだまを放つも、軽々とかわされ、逆に他のポケモン達から反撃される。
サトシは咄嗟にズルッグの腕を引っ張り、みずてっぽうから助けた。
「くそっ、不利すぎる……!」
数は上、しかも水タイプのポケモンが得意とする水中。これでは圧倒的に不利だ。
「皆、湖から出るぞ! キバゴ、りゅうのいかり! 地面を打て!」
「キバッ! キ~バ~、ゴ~~~!」
発射された竜の力が、地面に命中。大量の泥を巻き上げ、おたまじゃくしみたいなポケモン達の視界を塞ぐ。その隙にサトシ達は湖から脱出する。
「はぁ、はぁ……!」
「サトシ、大丈夫かい!?」
先程のみずてっぽうで、何かが起きているのが分かっているデントが素早くサトシ達に駆け寄る。
「何が?」
「野生のポケモン達がいきなり攻撃してきたんだ。――来た!」
「オタッ!」
「マロッ!」
「あれは……オタマロだ!」
「オタマロ?」
潜った場所に置いたポケモン図鑑を手に取り、オタマロと呼ばれたポケモンに向ける。
『オタマロ、おたまポケモン。頬を振るわせ、人には聞こえない音波を出し、仲間に危険を知らせる』
「なぁ、オタマロ。俺達はシレット水草を採れればそれで良いんだ。だから――」
「オターーーッ!」
「マローーーッ!」
サトシが説得するも、オタマロ達は聞く耳を持たずに攻撃してきた。
「ダメか……!」
「倒すしかなさそうだね……!」
「ズルッグ、イーブイ、キバゴ! オタマロ達を倒――!」
「ヌー!」
戦闘態勢に入るサトシ達だが、同時にオタマロ達の背後から一匹のポケモンが出てきた。
水色の体色、背中には紫色のヒレ状の器官を持ち。のんびりそうな顔をしたポケモンだ。
「あのポケモンは……」
「ヌオーだ!」
『ヌオー、水魚ポケモン。ウパーの進化系。のんびりとした性格で、自由気儘に泳ぐ。川底で口を開け、エサが飛び込んでくるのを待つ』
「サトシ、あのヌオーってポケモン……」
「あぁ、間違いないと思う」
今まで遭遇した、ロケット団のポケモン。二人はそう確信する。ただ、オタマロ達を率いているような様子が気になる。
「とにかく、ヌオーは倒して保護しよう」
「だな」
ヌオーが逃走中にここを占拠し、オタマロ達のリーダーになったのかは不明だが、自然や彼等の為にも保護しなければならないのは確かだ。
「オターーーッ!」
「マローーーッ!」
「ヌーーーッ」
「みずてっぽうにねっとうか! 避けろ!」
オタマロ達はみずてっぽう。ヌオーはねっとうを発射。サトシ達はなんとかかわす。
「サトシ、何とかなるかい?」
「オタマロ達だけなら、何とかなるんだけど……!」
ヌオーが厄介だ。明らかにオタマロ達より強い。ズルッグ達三匹でやっと倒せるレベルだろう。
「ヌーオーーーッ」
「オーーーッ!」
「ターーーッ!」
「――次が来る!」
再び、ヌオーとオタマロ達の一斉攻撃。迫る攻撃の嵐を、横から放たれた無数の岩が相殺する。
「今のは……?」
「――ワルビ」
「ワルビル!」
岩を放ったのは、ワルビルだった。気付いた自分を見るサトシに、ワルビルはニヒルに笑う。
「ワル、ワルルビ」
ワルビルはサトシ達に近付くと、オタマロ達とヌオーにこいつは俺の獲物だ。手を出すんじゃねえと告げる。
「……ワル?」
あれとキョロキョロするワルビル。目標のサトシと、もう一つの目標であるピカチュウが見当たらない。
「ワルビル、ピカチュウ達が毒や麻痺に掛かってるんだ! 治すために力を貸してくれ!」
「――ルビ!」
納得したワルビルは自分の実力で倒すため、サトシ達に助力することに。
「よし、これで戦え――」
「――ガマ!」
「何かまた来た!」
ワルビルが協力し、これで十分戦えると思ったのも束の間、湖からまた違うポケモンが出てきた。
「あれはガマガルだ!」
『ガマガル、振動ポケモン。オタマロの進化系。水中と地上で生活。長くネバネバした舌で獲物を絡めて捕らえる』
「……ガママ?」
「ヌー」
「……なんだ?」
「……何かを探してる?」
ガマガルが辺りをキョロキョロし、ヌオーやオタマロ達に聞いていた。
「ガマガ。――ガママ!」
「ヌー」
「オー!」
「ター!」
はぁと溜め息を付くと、ガマガルが一声。その声に従う様に、ヌオーやオタマロ達が一斉攻撃。またサトシ達は避ける。
「あいつがリーダーか?」
「みたいだ。ヌオーはガマガルに従ってると考えるべきだね」
「にしても、また加わるなんて……!」
ガマガルが加わった事で、再度こちらが不利になってしまった。
「デント、こいつらは俺達とワルビルで何とか食い止める! その間にシレット水草を採って、ピカチュウ達を治してくれ!」
「……それしかなさそうだね」
戦力のない自分では、足手纏いにしかならない。サトシ達が足止めしてる最中にシレット水草を採るのが最善だろう。
「頼む!」
「ここは任せるよ!」
「――ガマガ!」
シレット水草を採りに行ったデントに、ガマガルが伸ばした舌から泥弾を発射。
「なっ……!」
「デント、危ない!」
「――ギョ!」
迫る泥の弾丸を、丸い塊の泥が相殺。更にまた湖から一匹のポケモンが現れ、デントの前に出る。
「あれは……」
『マッギョ。トラップポケモン。電気を流す時、前のめりになる。泥に埋まって、獲物が触った時、電気を出して痺れさせる』
「ギョ」
「ガマガ……!」
マッギョをガマガルに睨み、この裏切者がと呟く。しかし、マッギョは仲間だから、止めるだけだと返す。
「一緒に戦ってくれるかい?」
「マッギョ」
デントの言葉に、マッギョは頷く。力を貸すと言う事だ。
「……ガマガマ、ガママ、ガマガー!」
「ヌー!」
「オタ!」
「マロ!」
ガマガルの言葉に従い、ヌオーとオタマロ達が動く。ヌオーはデントとマッギョの所に。オタマロ達はワルビルの所に。
「ガマ、ガガガッ」
「デント、ヌオーは任せる! ワルビルはオタマロ達を!」
「あぁ!」
「ワルビ!」
「俺達は――ガマガルだ!」
「ルッグ!」
「ブイ!」
「キババ!」
デント&マッギョ対ヌオー。ワルビル対オタマロ達。サトシ達対ガマガルの三つのバトルが始まった。