ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ   作:ぐーたら提督

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 また二週ぶりですいません。投稿します。


ドラゴンバスターの少女

「な、なによ、そのポケモン!?」

 

「さっき言ったでしょ? このポケモンは――」

 

「そいつはユキメノコだ!」

 

『ユキメノコ、雪国ポケモン。マイナス50度の冷たい息で凍らせた獲物を、秘密の場所に飾っていると言われている。胴体に見える部分は実は空洞になっている』

 

 ラングレーの二匹目、ユキメノコにサトシ達全員が驚く。

 

「アンタ、知ってるんだ」

 

「他の地方で見たことがあるしな」

 

「それで。納得納得」

 

 サトシがユキメノコを知っている事に、ラングレーは納得した様子だ。

 

「あ、あんた、そのポケモンについて知ってるの!?」

 

「それはユキメノコの事? それとも、ロケット団の事?」

 

「その様子……知ってるのか」

 

「当たり前でしょ。ニュースで知ったわ」

 

 ラングレーはユキメノコがロケット団に所属していたポケモンである事も知っていたが、態度には一切怯えがない。

 

「君とユキメノコは何時会ったんだ?」

 

「え~と……、四日前ね。ボロボロで野生ポケモン達に襲われてた所に遭遇したの」

 

「詳しく聞いても?」

 

「……長話は好きじゃないけど、そうした方が良さそうね」

 

 追求されると踏んでか、ラングレーはユキメノコとの出会いを語り出した。

 

 

 

 

 

「さ~て、目的も近くの筈ね」

 

 ラングレーはニュースでアイリスの姿を目撃しており、ヒウンシティから来る彼女を前から会おうと向かっていた最中だった。

 

「なんか、騒がしいわね」

 

 面倒は苦手なので、さっさとここから去ろうとしたその時だった。

 

「――メノ!」

 

「バップバップ!」

 

「バオップと……なにあのポケモン?」

 

 遭遇したのは、逃げる負傷したユキメノコと、追うバオップの群れ。ラングレーは咄嗟にポケモン図鑑をユキメノコに向ける。

 

「ふ~ん。ユキメノコって言うんだ。それに氷とゴースト? 見たことないタイプの組み合わせね」

 

 この複合タイプは、ユキメノコにしか存在しない為、ラングレーは今日初めて知った。

 

「でも、なんであんな見たことないポケモン――」

 

 がいるのかと言おうとした所で、ラングレーは数日前のヒウンシティのニュースを思い出した。

 イッシュ地方にロケット団のポケモンが散らばっていて、見たことないポケモンをゲットしたら、ポケモンセンターに送り届けほしいと。

 

「なるほど。あのユキメノコはロケット団のポケモンって事ね」

 

 ユキメノコについては納得したものの、深くは考えないラングレーは何故野生のポケモンとこうなったかまでは分からなかった。

 

「でも、傷付いたポケモンを複数で追い込むってのは卑怯よね~。――ツンベアー!」

 

「ベンツーーーッ!」

 

「メノ!?」

 

「バップ!」

 

 ツンベアーの出現に、ユキメノコ達とバオップは彼とラングレーに注目する。

 

「ツンベアー、バオップ達につららおとし!」

 

「ベンツッ!」

 

「バップ!」

 

 落下する氷柱に、バオップは慌てて回避するも擦ったり、直撃したりした。

 

「さっさと失せなさい! れいとうビーム!」

 

「ベンーーーッ!」

 

「バププ!」

 

 れいとうビームもかわすと、バオップ達はラングレーとツンベアーを見て考える。

 後少しでユキメノコを倒せそうだったのに、思わぬ邪魔が入ってしまった。しかし、ツンベアーはかなり強い。

 ここにユキメノコが加われば、自分達が危ない。渋々だがバオップ達はユキメノコを諦め、森の中へと急いで去って行った。

 

「ふん、弱いわね。大丈夫、ユキメノコ?」

 

 自分の名前を知っている。ユキメノコはもしや、ロケット団の関係者ではラングレーを見た。

 

「残念だけど、あたしはロケット団じゃないわよ。このイッシュにいるドラゴンバスター」

 

「……メノ?」

 

「ドラゴンポケモンを倒す者って事よ。ちなみに、アンタを知ってるのは図鑑で調べたから」

 

 聞いたことない称号に、ユキメノコは疑問符を浮かべるも、ラングレーの説明で納得。同時に彼女がロケット団ではないと知り、落胆する。

 

「話をしたい所だけど……その前にアンタを回復させた方が良さそうね。この近くにポケモンセンターあったかしら?」

 

 記憶を掘り出すも、自分が歩いてきた方向には近いポケモンセンターは無かった。

 

「近くに、オレンかオボンの実の木ないかしら?」

 

 近くにポケモンセンターが無ければ、残るは体力回復の木の実か技。しかし、技はないので木の実しかない。

 

「少し探しに行くから、そこで待ってなさい。ツンベアー、ユキメノコを見守ってて」

 

「ベン」

 

 ツンベアーにユキメノコのお守りを任せ、ラングレーはもう一体がいるモンスターボールを手に、森の中へと入って行った。

 

「……メノ?」

 

「ベン?」

 

 ラングレーが木の実を採りに行く中、ユキメノコはツンベアーに彼女について聞いていた。

 

「ベン、ベンツ」

 

 ツンベアーはラングレーに小さい頃からの仲だと話す。

 親から託されて友達、仲間になり、特訓して強くなって竜の里で挑んだが、コテンパンにされたのでそこからドラゴンバスターとして、多くのドラゴンポケモンを倒し、旅や特訓をしてきた事を。

 

「……メノノ?」

 

「ベン」

 

 一緒にいて嬉しいかと言われ、ツンベアーは迷いなく頷く。

 ドラゴンバスターとして日々一生懸命努力してるし、負けても自分達に当たることは一切ない。欠点はあるが、決してダメなトレーナーではないのだ。

 

「……メノ、メノノ?」

 

 ユキメノコはもう一つ質問する。彼女は何故、関係ない自分を助けたのか気になったのだ。

 

「ベン、ベンツツ」

 

 まぁ、襲われているからだろと言うツンベアーだが、実は理由がもう一つあるだろうとも感付いていた。

 

「戻ったわよ~。どっちも無事?」

 

「ベンツ」

 

「メ、メノ」

 

「良かったわ。ほら、オレンの実。さっさと食べなさい」

 

「メノ……」

 

 ラングレーからおずおずとオレンの実を受け取り、ゆっくりかじって身体に取り込み、体力をある程度回復させていく。

 

「どう? 回復した?」

 

「……メノ」

 

 万全と比べると体力は半分にもなっていないが、それでもさっきよりも動ける様になった。

 

「じゃあ行くわよ、ツンベアー、ユキメノコ。ポケモンセンターに」

 

「ベンツ」

 

「メノ……」

 

 ほぼ成り行きだが、ユキメノコはラングレーと一緒にポケモンセンターを目指す事に。

 

「……」

 

 そんな彼女達を、一つの影が見つめる。その主は周りに準備をしろと伝え、自身も動く。

 

「ふ~ん。アンタ、そうな風に動くのね」

 

「メ、メノ」

 

 知らないポケモンの為、挙動にも興味を持っては理解した様だ。

 

「そう言えばさ、ユキメノコ。アンタはロケット団について今どう思ってるの? まだ帰りたいって思ってる?」

 

「……メノ」

 

「――アンタ、バカじゃないの?」

 

「メノ!?」

 

 ユキメノコはロケット団にはまだ戻りたい様で、問いに頷くが、ラングレーは即座に一蹴。怒りを露にする。

 

「だってそうでしょ? アンタを見捨てた組織にまだ戻りたいなんて、バカもバカ。大馬鹿者よ」

 

「……メ、メノ!」

 

「きっと迎えに来るとでも言いたいの? あたしがいなかったら危なかったのに?」

 

 その事実に、ユキメノコは喉が詰まる。ラングレーの言う通り、彼女がいなければ今頃自分はどうなっていたか。

 

 

「いい加減、気付きなさい。アンタはロケット団にとってはただの駒の一つに過ぎないのよ。仮に助けが来たとしても、それはアンタが大切だからじゃない。偶々遭遇したから以外の何でもないわ。そんな組織の為にまだ頑張ろうなんて、ホントバカね」

 

 ムサシやコジロウ、一部のロケット団員は手持ちを大切しているが、それはやはり一部でしかない。

 

「……」

 

 現実を突き付けられ、ユキメノコはガクリと項垂れた。

 

「ロケット団なんてさっさと忘れて、次の生き方を考えなさい。例えば――って、なにこの騒がしさ?」

 

「ベンツ?」

 

「……メノ?」

 

 気のせいか、がさがさと周りの草木が騒いでいた。ラングレー達は話や足を止め、周囲を見渡す。その直後に複数の影が出てきた。

 

「――バップーーーッ!」

 

「バオップ達!? まさか、さっきの!?」

 

 影の正体は、先程のバオップ達だった。バオップは出ると同時にひのこを吐き出す。

 

「メ、メノ!」

 

 大量の火の粉に、ユキメノコは反射的に霊力が込められた風を放つ。ひのこは軌道を逸らされ、ラングレー達の周りに着弾した。

 

「やってくれるじゃない! そっちがそう来るなら、ぶっ倒してやるわ! ツンベアー、つららおとし!」

 

「ベンツーーーッ!」

 

「バププ!」

 

 広範囲に氷柱を落とすも、バオップ達は避けたり防いで対処する。

 

「ユキメノコ、協力しなさい! でないとやられるわよ!」

 

「メ……メノッ!」

 

 自分はともかく、関係ないラングレー達までやられる訳にも行かない。バオップ達がつららおとしに対処する間に、ユキメノコは両手を空に掲げる。

 すると分厚い雲が現れ、霰が降り注ぐ。天候を一時的に変える技、あられだ。

 

「あられ」

 

「バップ……!」

 

 あられが降る中では、氷タイプ以外は微弱だが常にダメージを受け続ける。

 なので、氷タイプのツンベアーは何ともなく、炎タイプのバオップ達は霰で徐々に体力を削られていく。

 

「バップッ!」

 

「バッププッ!」

 

「バプププッ!」

 

「――メノ……」

 

 やられる前にやる。バオップ達はひのこを放つも、その攻撃は全てユキメノコの身体を通過した。

 

「バップ……!」

 

「――メノノ……」

 

「これって、特性『ゆきがくれ』?」

 

 霰が降っている時のみに発動し、身を隠して攻撃が避けやすくなる特性だ。

 

「へ~、ユキメノコの特性はこれなんだ。――アンタとは違うわね」

 

「ベンツ」

 

「とにかく。これが降っている間にバオップ達を倒すわよ。――きりさく!」

 

「ベンツッ!」

 

「バップ!」

 

 ゆきがくれで身を隠すユキメノコに、バオップ達は集中攻撃しようとしたが、そこにツンベアーが一匹にきりさくを叩き込む。

 

「バー……!」

 

「メー、ノッ!」

 

 仲間を攻撃され、ツンベアーに反撃しようとしたが、そこにユキメノコが両手の平に掲げられた凍り付いた球を投げて妨害する。

 

「ウェザーボール? あんな技も覚えてるんだ」

 

 通常時は球状のただの攻撃だが、天候が変化すると技の威力が増す上、タイプも変化する特殊な技だ。今は霰なので、タイプは氷になっている。

 

「良いじゃない良いじゃない!」

 

 特性だけでなく、他の技も活かすその実力に、ラングレーは益々ユキメノコを気に入る。自分の目に狂いは無かったと上機嫌だ。

 

「――さっさと退治しないとね! ツンベアー、つららおとし!」

 

「ベンツーーーッ!」

 

 早くこの事を言うためにも、ラングレーは速やかにバオップ達を追い払おうと指示。

 ツンベアーはまたつららおとしの為の冷気の息を吐く。すると息は水分だけでなく、霰にも氷結して通常時よりも大きな氷柱を作り出す。

 

「バオ!? バップーーーッ!」

 

 大きな氷柱はバオップ達に命中。効果今一つでも小さくないダメージを与え、追加効果で何匹かを怯ませる。

 

「れいとうビーム!」

 

「ベン、ツーーーッ!」

 

「メノーーーッ!」

 

「バププーーーッ!」

 

 れいとうビームとあやしいかぜを受け、バオップ達は吹き飛んだ。

 

「アンタ達に用はないのよ。さっきも言ったけど、さっさと失せない」

 

 ラングレーの上から目線の台詞に、バオップ達は悔しげに歯軋り。

 

「なに? まだやる気? だったら、こっちもやるわよ? まだ手持ちが一匹いるんだから」

 

 ラングレーは先程、森の中に入った時のモンスターボールを持ち出す。それを見て、バオップ達は動揺する。

 ツンベアーとユキメノコだけでも劣勢なのに、これ以上加わったら間違いなく勝てない。数秒後、バオップ達は悔しいと思いつつも撤退していった。

 

「やっといなくわね。全く」

 

「ベンツ」

 

「メ、メノ……」

 

 退散したバオップ達に、ラングレーとツンベアーは鬱陶しそうに、ユキメノコは申し訳なさそうな様子だ。

 

「ユキメノコ、アンタに提案があるんだけど」

 

「……メノ?」

 

「歩きながら話すわ。行くわよ」

 

「ベンツ」

 

「メノ……」

 

 その件について話し合いながら、彼女達はポケモンセンターに向かって歩を進めるのを再開した。

 

 

 

 

 

「着いたわ。入るわよ」

 

「ベンツ」

 

「メノ」

 

 夕暮れが近い時間帯に、ラングレー達はポケモンセンターに到着。ユキメノコの回復の為、早速入った。

 

「ジョーイさ~ん。この子、回復してほしいんだけど」

 

「構いませんよ。それにしても、またロケット団のポケモン。これで二十匹目ね」

 

 

「そんなに?」

 

 思った以上にいることに、ラングレーは少し驚く。

 

「とにかく、治療しますね」

 

「お願いします。後、終わったらその子連れてきてくれませんか?」

 

「分かりました。さぁ、こちらへ」

 

「メノ」

 

 ユキメノコは丁寧に頭を下げ、ジョーイと一緒に治療所に向かう。

 

「――はーい。元気になりましたよー」

 

「メノ」

 

「ありがとうございます」

 

 しばらくし、体調が万全になったユキメノコが出てきた。

 

「それで、この子には何の用ですか?」

 

 今まで連れてきたトレーナーは、犯罪組織のポケモンと知って預けて直ぐに去った人物ばかりなので、そうではないラングレーにジョーイは少し気になっていた。

 

「簡単です。――さぁ、戦うわよ。ユキメノコ」

 

「――メノ」

 

「……どういう事でしょうか?」

 

 ラングレーの戦う発言に、ジョーイは驚いていた。

 

「あたしはここに来る前に、ユキメノコと話してたんです」

 

 

 

 

 

「ユキメノコ。アンタ――あたしの手持ちになりなさい」

 

「――メノ!?」

 

 向かう途中。ラングレーにこう勧誘され、ユキメノコは思わず止まる。犯罪組織にいた自分を誘うと言うのか。

 

「ロケット団にいたかどうかなんてどうでも良いわ。ドラゴンバスターとして、あたしはアンタが欲しいの」

 

 氷、ゴーストと言う複合タイプ。さっきのバオップ達とのいざこざで見せた実力から、ラングレーはユキメノコを欲しくなったのだ。是非とも仲間にしたいと。

 

「あたしやツンベアー、この子と一緒に伝説を含めた数多くのドラゴンポケモン倒して、世界一のドラゴンバスターになる。面白そうでしょ?」

 

 ラングレーは空に指を指してそう語った。世界一。その壮大さにユキメノコは呆気に取られた。冗談の類いとかではないのは、彼女やツンベアーの目が物語っている。

 

「悪事なんて、下らなくて小さい事より、遥か上の高みを目指す方が、遥かに有意義で価値があると思わない?」

 

 ラングレーの強気な言葉に、ユキメノコの心が揺れ出す。

 

「それにあたしなら、アンタを見捨てたりなんかしない。絶対に」

 

 嘘など全く感じさせず、強気さに満ちたその言葉の数々に、ユキメノコは惹かれていく。

 

「だから、あたしと来なさい」

 

 ラングレーが差し出す手に、ユキメノコは一旦目を閉じてから――顔を左右に振る。

 

「……イヤって事ね」

 

「メノノ」

 

「違うの?」

 

 断られたと、流石に少しは落ち込むラングレー。しかし、ユキメノコはただ断ったのでは無かった。

 

「――メノ」

 

「もしかして……アンタに勝てって事?」

 

「メノ」

 

 彼女とのバトルで決めようとしたのだ。踏ん切りを着けるために。

 

「良いわ。勝って証明してあげる。ロケット団より、あたしの方が正しいってね」

 

「ベンツ!」

 

「メノ!」

 

 こうして、加入するか否かを決めるべく、ラングレーとユキメノコはバトルする事になったのだ。

 

 

 

 

 

「そうだったの。分かってると思うけど、この子は――」

 

「分かった上で、あたしはユキメノコと戦うんです」

 

 何の躊躇いもなく、ラングレーは堂々と言い切る。

 

「――分かりました」

 

 ラングレーもユキメノコも、決意を目に宿していた。自分に割り込む余地は無いと知り、その結末を彼女達に委ねる事にした。

 

「さぁ、バトルよ!」

 

「ベンツ」

 

「メノ!」

 

 ラングレーとツンベアー、ユキメノコは横にあったバトルフィールドに立ち、相手を見据える。

 

「行くわよ、ユキメノコ! ツンベアー、れいとうビーム!」

 

「ベンーーーッ!」

 

「メノ! メノォ!」

 

「あられ!」

 

 初撃のれいとうビームを回避し、ユキメノコは空に向かって両手を掲げる。先程同様、分厚い雲が現れ、霰が降り出した。

 

「やっぱり、またこの戦法ね」

 

 今回のバトルも自分の力を最大限発揮する、この戦法で来たようだ。

 

「メノ……メノノ……」

 

 風景に同化し、揺らぐユキメノコ。それは正にゴーストタイプの挙動だ。

 

「場所が分からないなら、広く撃てば良いだけよ! ツンベアー、つららおとし!」

 

「ベンツーーーッ!」

 

「――メノ」

 

 霰を氷結させながら、大きな氷柱が精製。広範囲に落下するも、ユキメノコには当たらずにすり抜ける。しかも、ユキメノコは消えた。

 

「消えた! どこに……!」

 

「――メノ!」

 

「ベンツ!」

 

 ユキメノコはツンベアーの目前に現れ、頭に繋がる手で強く叩く。

 

「めざましビンタ!」

 

 接近戦用だけでなく、氷タイプの弱点を突ける格闘タイプの技。また、ねむりの時にはダメージを倍加する効果もある。

 

「やるじゃない! ――踏ん張って、シャドークロー!」

 

「ベン、ツッ!」

 

「メノッ……!」

 

 弱点攻撃を受けながらも、ツンベアーは踏ん張ると影の力の引っ掻きを叩き込む。効果抜群のダメージとその力に、ユキメノコは大きく吹き飛ぶ。

 

「未完成の技だけど、それなりには効くでしょ?」

 

 さっきのシャドークローはまだ不完全ではあるが、それでもこのバトルに役立つと使用したのだ。

 

「れいとうビーム!」

 

「ベンツーーーッ!」

 

「――メノ!」

 

 追撃のれいとうビームを、ユキメノコはゆきがくれを活かして回避。更にまた風景に同化して姿を消す。

 

「ツンベアー、気を付けなさい! どこから来るか分からないわよ!」

 

「ベンツ!」

 

 ラングレーとツンベアーは辺りを見渡す。しかし、ユキメノコは見えない。

 

「――メノ!」

 

「――上!」

 

 上からの声。見上げると、ユキメノコが威力が増加したウェザーボールを発射する。

 

「いわくだき!」

 

「ベンツーーーッ!」

 

 氷結した天気の力の球を、ツンベアーはその重い一撃の拳で粉砕する。

 

「メーノ!」

 

「あやしいかぜ! ツンベアー、耐えながられいとうビーム!」

 

「ベン! ツーーーッ!」

 

「メノッ!」

 

 ウェザーボールを砕いた所を狙い、ユキメノコはあやしいかぜ。ツンベアーは受けながらもれいとうビームを当てる。

 

「簡単にはやられないわよ」

 

「ベンツ!」

 

「メノ……!」

 

 ユキメノコはどちらかと言うと、トリッキーさで攻めるタイプ。純粋な一撃の威力はツンベアーほどではない。

 

(なら)

 

 ゆきがくれで翻弄するユキメノコには、パワーで押し切る。それが一番だろう。

 

「――メノ」

 

「また消えたわね。警戒しなさい!」

 

「ベンツ!」

 

 ゆきがくれで、ユキメノコは見えない。しかし、それは常にではない。霰が無くなれば隠れられないし、攻撃時は姿が見えるからだ。狙うのはそこ。

 

「――メノ!」

 

「そこよ! フルパワーのれいとうビーム!」

 

「ベン、ツーーーッ!」

 

 ユキメノコが現れると同時に、威力が増したウェザーボールを発射。ラングレーは素早く反応して指示し、ツンベアーは渾身の力を込めたれいとうビームを発射。

 二つの氷技がぶつかり合うと、なんとれいとうビームがウェザーボールを更に氷結させながらユキメノコへと押し返した。

 

「メノ!? ――メノッ!」

 

 自分が放ったウェザーボールを、ユキメノコはカウンターで受けて吹き飛んだ。

 

「今よ! つららおとし!」

 

「ベンツーーーッ!」

 

 絶好の機会。ツンベアーは氷柱を精製し、ユキメノコに向かって落とす。

 

「メノメノ……! メノッ!」

 

 身体を起こし、必死にかわすユキメノコ。だが、その一つが命中し、追加効果で怯む。

 

「決めなさい、ツンベアー! シャドークロー!」

 

「ベンー……!!」

 

「メ、メノ……!」

 

 ツンベアーは走って距離を詰め、影の力の爪を振るう。同時にユキメノコは怯みから解放。ギリギリで動ける様になったが、回避は間に合わない。

 

「ツーーーーーッ!!」

 

「メノーーーーーッ!!」

 

 だから、渾身の力を込めて腕を振るう。シャドークローとめざましビンタが激突。

 

「ベンツーーーッ!」

 

「メノーーーッ!」

 

 しばらくぶつかり合い――パワーの差で、ツンベアーに大地に何度かバウンドしながら吹き飛ばされ、ユキメノコは最後にゴロンと倒れた。

 

「あたしとツンベアーの勝ちよ!」

 

「ベンツ!」

 

 見事勝利し、ラングレーとツンベアーは不敵な笑みを浮かべた。

 

「動ける、ユキメノコ?」

 

「メ、メノ……」

 

 戦闘不能だが、全く動けない程ではない。ユキメノコは身体を起こし、ラングレーと向き合う。

 

「約束通り、あたしの手持ちになりなさい」

 

「――メノ」

 

 ラングレーの言葉に頷くユキメノコ。ロケット団で培った自分の強さは敗れた。これからは、彼女の下で新たな強さを磨くと決心したのだ。

 

「じゃあ――ゲットよ」

 

 ラングレーは空のモンスターボールを取り出し、ユキメノコに当てる。赤い光が彼女を包み込み、中に入れると数度揺れてパチンと閉じた。

 

「ユキメノコ、ゲ~~~ット!」

 

「ベンツ!」

 

 新しい仲間、ユキメノコの加入にラングレーとツンベアーは喜ぶ。

 

「出てきなさい、ユキメノコ」

 

「メノ」

 

「アンタの加入で、世界一のドラゴンバスターに向けてまた一歩前進したわ。さ~て、アイリスや理想の英雄を探すわよ~」

 

「ベンツ」

 

「メノノ」

 

 ユキメノコを加え、戦力を増強させたラングレーはアイリスやサトシと戦うべく、捜索に向かう。

 

「その前に、アンタをまた回復させないとね。ツンベアーも」

 

「ベンツ」

 

「メノノ」

 

 折角ポケモンセンターがあるので、ラングレーはツンベアーとユキメノコの回復をする事に。

 

「ジョーイさ~ん。またこの子と、今回はツンベアーもお願いしま~す」

 

「はい。ちなみに――勝った様ですね」

 

「分かるんですか?」

 

「様子を見れば、ある程度は」

 

 ラングレーが落ち込んでいない。彼女とユキメノコの距離が近い。これらからジョーイはラングレーが勝ったと予想したのだ。

 

「では、あなたの手持ちのユキメノコとツンベアーをお預かりします」

 

 また手当してもらうので、ユキメノコは頭を下げ、ツンベアーと一緒に回復してもらった。

 

「終わりましたよー」

 

「タブンネ~」

 

「ベンツ」

 

「メノ」

 

「またありがとうございます。じゃあ、これで――」

 

「その前に、一つ」

 

 回復してもらい、出ようとしたがジョーイに止められる。

 

「何ですか?」

 

「そのユキメノコといることで、貴女がロケット団と間違われる恐れがあります」

 

「……そう言えば、そうですね」

 

 ユキメノコをゲットした事ばかりに頭が行っていたが、冷静に考えればその通りだ。

 

「なので、その際はポケモン図鑑を見せてください。身分証明書になりますから」

 

「分かりました」

 

「また、ボランティアとかにも参加してもらいます」

 

「……それはなんでですか?」

 

 ボランティアに、ラングレーは嫌な表情。はっきり言って面倒臭い。

 

「ロケット団から足を洗った事を、行動で証明してもらう必要があるんです。口だけでは納得は難しいですから」

 

「ゲットしたからにはトレーナーしてその責任を果たせ、事ですか」

 

「大正解です。分かりましたか?」

 

「――はい」

 

 ラングレーはしっかりと頷く。面倒臭いが、ユキメノコの為だと受け入れた。

 

「じゃあ、これで」

 

「お元気で」

 

 必要な話を一通り聞き、ラングレーはポケモンセンターを後にする。

 

「さぁ、行くわよ! ツンベアー! ユキメノコ!」

 

「ベンツ」

 

「メノ」

 

 新たな仲間と共に、ドラゴンバスターの少女は目的に向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

「で、その四日後にアンタ達と会った訳」

 

「なるほど」

 

 ユキメノコがラングレーの手持ちになった経緯を聞き、サトシ達は納得する。但し、バトルの内用は省略されているが。

 

「だから、ユキメノコはもうあたしの手持ちって事。――さっ、話も終わったわ。勝負再開よ!」

 

「また氷タイプだけど……やってやるわ! エモンガ、めざめるパワー!」

 

「エ~、モッ!」

 

「かわして、あられ!」

 

「メノ! ――メーノー!」

 

 エモンガが放つ黄緑色の光球を避け、ユキメノコは空に手を掲げる。早速、お得意の戦法を仕掛けた。

 

「エモエモ……!」

 

「あられで少しずつダメージを……!」

 

「それだけのセコい戦法だと思う? ――ウェザーボール!」

 

「メー、ノッ!」

 

「か、かわして、エモンガ!」

 

「エ、エモッ!」

 

 威力が増したウェザーボールに、エモンガは慌てて回避する。

 

「ウェザーボールって、確か天候によって威力が上がってタイプが変化する技だよな?」

 

「うん。あられの時は氷タイプに変化する」

 

「飛行タイプのエモンガが受ければ、大ダメージは避けられないね」

 

 その上、エモンガはあまり打たれ強くない。一撃でも命中するのは避けるべきだ。

 

「ユキメノコ、あやしいかぜ!」

 

「エモンガ、ほうでん!」

 

「メノーーーッ!」

 

「エ~、モ~~~!」

 

 霊力の風と放電が激突。結果は前者が削られながらも勝ち、エモンガを襲う。

 

「エモモ……!」

 

「エモンガ、その風を耐えずに乗って!」

 

「エモ!」

 

「アクロバット!」

 

「エモエモ!」

 

 あやしいかぜに対して堪えるのではなく、乗って飛翔。そこから昨日覚えたてのアクロバットを仕掛ける。

 

「エモ! ――エモ!?」

 

「メノ……」

 

 左右に移動しながら突撃するエモンガだが、ユキメノコの身体をすり抜けた。

 

「ざ~んね~ん。簡単には当たらないわよ」

 

「ゆきがくれか」

 

「厄介だよな。あれ」

 

 前に一度経験したこともあり、サトシはその厄介さを感じていた。

 

「ゆきがくれはあくまで、本体が見えなくなるだけのはず……! エモンガ、もう一度アクロバット! 広範囲に!」

 

「エモエモ! エモッ!」

 

「メノッ!」

 

 今度はユキメノコが見える場所にではなく、周囲にアクロバット。すると、途中で悲鳴が上がる。本体に当たったのだ。ついでに姿も見せた。

 

「どう?」

 

「エモ!」

 

「一撃当てた程度ではしゃがないでくれる? それに大したダメージでもないし」

 

 確かに攻撃は当たりはしたが、ダメージとしては控え目だ。

 

「それに、長引けばあられでダメージは増える。不利なのはそっちの方。小さなダメージで喜んでる場合かしら」

 

「エモエモ……!」

 

 ラングレーの言う通り、今もあられはエモンガの体力を少しずつ削っていく。

 

(なんとかして、大きなダメージを与えないと……!)

 

 だが、パワーでは負けている。力任せは無理だ。

 

「エモンガ、メロメロ!」

 

「メロメロ? アンタ――」

 

「エ~、モッ!」

 

 ならば、メロメロにするべく、エモンガがウインク。ハートマークが次々と現れ、ユキメノコに当たるも――変化はない。

 

「き、効いてない!?」

 

「エモ!?」

 

「そのエモンガって、♀?」

 

「そ、そうよ」

 

「だったら、効かないわよ。ユキメノコは♀しかいないらしいし」

 

「……えぇ!?」

 

 ♀のみのポケモンと知り、アイリスは驚く。

 

「サトシ、そうなのかい?」

 

「確かそうだった様な……」

 

 ♀のユキワラシがある進化の石によって、ユキメノコに進化する。故に♀しかいないのである。

 

「まっ、知らないポケモンだし、仕方ないわね」

 

 何しろ、アイリスは今日初めてユキメノコを知ったのだ。無理もなかった。

 

「けど、加減はしないわ。ウェザーボール!」

 

「メノッ!」

 

「か、かわして!」

 

「エモ!」

 

 ウェザーボールが放たれ、エモンガは慌てて離れて避けた。

 

「避けてばっかりは構わないけど、ゆっくりしてる暇はあるのかしらね」

 

「うぅ……!」

 

「エモモ……!」

 

 降り続ける霰が、エモンガを少しずつだが傷付ける。

 

(止むまで待つしか……! でも……!)

 

 今のあられが終わるまで待っても、また使用されれば時間と体力がムダになるだけ。つまり、この状態で戦うしかない。

 

「考えは終わった? ユキメノコ、あやしいかぜ!」

 

「メノッ!」

 

「エ、エモンガ、かわして!」

 

「エ、エモ!」

 

 霊気の風を、エモンガは跳躍してかわす。

 

「アクロバット!」

 

「エモ! エモエモ!」

 

「またそれね」

 

 左右の移動で惑わしつつ、エモンガはユキメノコに向かって行く。

 

「行っけぇ~!」

 

「エモ~!」

 

「そこよ、ユキメノコ! めざましビンタ!」

 

「メーノッ!」

 

「エモッ!」

 

 本命の攻撃が来たそのタイミングに、ユキメノコは手で叩いた。エモンガは効果今一つでもダメージに落下する。

 

「途中までは複雑に移動してて狙いづらくても、攻撃する瞬間は別よねぇ?」

 

 攻撃の瞬間、対象に向かわなければならない。つまり、そのタイミングに合わせればカウンターが出来るのだ。

 

「ユキメノコ、ウェザー――」

 

「メ、ノ……!」

 

 追撃にウェザーボールを指示。これが決まればエモンガは大ダメージだが、ユキメノコはそうしない所か、微かな呻き声を上げて止まる。

 

「これ、麻痺!?」

 

「エモンガのせいでんきか!」

 

 ユキメノコの身体から、バチバチと電気が弾けていた。せいでんきが発動したのだ。

 

「ちっ、運が良いわね……!」

 

 せいでんきは確率で発動する特性。なので、一度の接触で麻痺になることもあれば、数度してもならない事もある。今回は一回で発生したのだ。

 

「チャンスよ、エモンガ! ほうでん!」

 

「エモ~~~!」

 

「メノーーーッ!」

 

 麻痺で動けない隙に、エモンガはほうでんを叩き込む。ユキメノコは小さくないダメージを受ける。

 

「やったわ! エモンガ、更にめざめるパワー!」

 

「エ~、モッ!」

 

「舐めんじゃないわよ! ユキメノコ、ウェザーボール!」

 

「メー、ノッ!」

 

 エモンガの追撃の複数のめざめるパワーに対し、ユキメノコは反撃のウェザーボールを発射。

 結果はウェザーボールがめざめるパワーを全て撃ち破り、エモンガに命中する。

 

「エモ~~~ッ!」

 

「エモンガ!」

 

「ユキメノコ、あやしいかぜ!」

 

「メノーッ!」

 

「エモンガ、ジャンプ!」

 

「エ、モッ!」

 

 追撃のあやしいかぜを、大ダメージを受けつつもエモンガは辛うじて跳躍で避け、着地する。

 

「大丈夫、エモンガ!?」

 

「エモ……エモ……!」

 

「かなりのダメージね。あと一撃――いえ、その調子じゃあ、あられで勝手に倒れるかしら?」

 

 ウェザーボールによるダメージは大きく、エモンガの残り体力は少ない。一撃を受けなくても、あられで倒される恐れすらあった。

 その前に何とかするしかないが、ユキメノコからはまだそれなりの余力を感じる。この状態から撃破に持ち込むには、一気に叩き込むしかない。

 ただ、ユキメノコも麻痺のせいで上手く動けず、ゆきがくれが活かせないのでかなり弱体化しているが。

 

(パワーじゃ勝てないし、アクロバットも見切られ――あっ!)

 

 一つ閃くアイリス。上手く行くかは不明だが、これなら隙を突ける。

 

「エモンガ、アクロバット!」

 

「エモ!」

 

 エモンガは膜を広げ、左右に移動していく。

 

「また?」

 

 ならば、先程と同じ様に、攻撃の瞬間にカウンターで合わせるだけとラングレーは待つ。そして、そのタイミングが近付く。

 

「そこよ、エモンガ!」

 

「エモ!」

 

「ユキメノコ、めざましビンタ!」

 

「メノ――」

 

「避けて!」

 

「エ、モッ!」

 

「……えっ!?」

 

「メノ!?」

 

 カウンターで放たれためざましビンタを、エモンガは身体を捻り、ギリギリで避けながらユキメノコの後ろに移動する。

 

「今よ、エモンガ!」

 

「エモ~~~!」

 

「ユキメノコ! 直ぐに回避――いや、振り向――」

 

「メー――ノーーーッ!」

 

 ラングレーはゆきがくれを活かしての回避を考えたが、麻痺があるので直ぐに中止。

 振り向いてからのめざましビンタを叩き込もうとしたが、その前に急転回したエモンガのアクロバットをユキメノコが受ける。

 

「上手い! 攻撃から回避へと切り替えた!」

 

 アクロバットが見切られたのを、逆手に取ったのだ。

 

「まるで、コンテストみたいだ」

 

 先の動作に、サトシは何となくそう感じた。コーディネーターと比べると練度は低いが、今の動きは正にそれだ。

 

「まだよ、エモンガ! ほうでん!」

 

「エ~~~モッ!」

 

「メノノーーーッ!」

 

 アクロバットで生まれた隙に、エモンガはほうでんを浴びせる。

 

「後少し! エモンガ、めざめる――」

 

「ユキメノコ、ウェザーボール!」

 

「しまっ……!」

 

 めざめるパワーを放とうとするも、そこにウェザーボールでのカウンターを仕掛けて来る。さっき打ち合いに負けたことから、やられるとアイリスは咄嗟に感じた。

 

「メー――ノッ……!」

 

「麻痺!?」

 

 その瞬間、ユキメノコの動作が鈍る。麻痺の症状が出たのだ。このチャンスしか勝機はないと、アイリスは悟る。

 

「エモンガ、めざめるパワー!」

 

「エ~モモモッ!」

 

「メノノノッ!」

 

 光球が発射され、麻痺で鈍ったユキメノコに全弾命中する。ユキメノコは落ち出す。

 

「まだだわ! ユキメノコ、あやしいかぜ!」

 

「――メノーーーッ!」

 

「エモ!? ンガ~~~ッ!」

 

「エモンガ!」

 

 ユキメノコは残った力を振り絞り、霊力の風を起こす。最後の一撃はエモンガに命中して吹き飛ばした。

 

「エモ~……」

 

「メ、ノ……」

 

 倒れたエモンガ、落下したユキメノコは目を回しており、戦闘不能になった事を意味していた。また、あられの効力が消えて霰が止んでいく。

 

「エモンガ、ユキメノコ、戦闘不能。よって、この勝負は引き分け」

 

「引き分け……」

 

「ちっ……!」

 

 引き分けにアイリスは微妙な表情、ラングレーは悔しそうに舌打ちする。

 

「ご苦労さま、エモンガ。戻って」

 

「お疲れさま、ユキメノコ。戻りなさい」

 

 二人は奮闘した手持ちを労い、モンスターボールに戻す。

 

「力を引き出し切れてない。ってところかしら。まだまだね」

 

 まだ数日なので、無理もないのだが、ラングレーは言い訳せずに素直に自分の未熟さを認めた。

 

「この勝負は引き分け。つまり、アンタはもう勝てない訳ね」

 

 今の勝負で、ラングレーは二勝一敗一引き分け。アイリスが次の試合に勝っても引き分けにしかならない。

 

「まだ続ける気?」

 

「当たり前よ!」

 

 アイリスに、ここで止めるつもりは全くない。

 

「そう。まぁ、あたしも白黒はっきりしたいしね。続けてあげるわ」

 

 引き分けにする気など、ラングレーは全くない。この試合に勝ち、自分が上だとはっきり確かめる。

 

「あたしの三体目。出でよ、コマタナ!」

 

「タナ!」

 

「あれは……」

 

『コマタナ、刃物ポケモン。自分が傷付いても構わずに獲物にしがみつき、刃を食い込ませて攻撃する』

 

 ラングレーの三体目は、薄い赤と灰色の、刃物がある頭や胸、刃先の手のポケモン、コマタナだ。

 

「さぁ、最後のバトルよ。出しなさい、アンタの三体目――キバゴをね」

 

「キバゴ!」

 

「キバ!」

 

 アイリスの三体目は、残ったキバゴ。

 

「キバゴ対コマタナか……」

 

「アイリスくんの方が不利だね」

 

「なんでですか?」

 

「コマタナは悪と鋼の複合タイプ」

 

「キバゴの技では、どちらも効果今一つのダメージしか与えられないんだ」

 

 つまり、先程のバトル同様にアイリスが不利なのだ。最大の大技、げきりんでも効果は薄い。

 

「そのキバゴの実力は、昨日のバトルで把握してるわ。勝てると思う?」

 

「タナナ」

 

「バトルは最後までやって見ないと分からないわ!」

 

「キババ!」

 

 負けたままではいない、アイリスを負けさせはしないと、キバゴはやる気は満々。戦意も高めていた。

 

「そう。――コマタナ、あくのはどう!」

 

「キバゴ、りゅうのいかり!」

 

「ター、ナッ!」

 

「キ~バ~ゴ~~~!」

 

 悪と龍の力が激突。大爆発を起こし、相殺された。

 

「相殺出来た……!」

 

 つまり、あのコマタナはツンベアー程のパワーが無いことになる。ならば、何とかなるかもしれない。

 

「な~んて思ってないわよねぇ? コマタナ、メタルクロー!」

 

「キバゴ、ひっかく!」

 

「タナ!」

 

「キバ! ――ゴ~!」

 

 ひっかくとメタルクローの激突では、後者が勝った。

 

「さっきのでは互角だったけど、今の打ち合いではこっちの方が上」

 

 しかも、メタルクローには攻撃力が上がる効果もある。長期戦では更にパワーの差が広がるだろう。

 

「そして、キバゴの奥の手であるげきりんもコマタナには効果が薄い。打つ手なしね」

 

「くっ……!」

 

 あまりにも分が悪い。しかし、だからと言ってこのまま負けるつもりはなかった。

 

「キバゴ、りゅうのいかり!」

 

「コマタナ、あくのはどう!」

 

 先程の様に二つの技が激突し、爆発と煙が発生する。

 

「一気に決めさせてもらうわ。コマタナ、アイアンヘッド!」

 

「タナナッ!」

 

「もう一度りゅうのいかり!」

 

「キ~バ~ゴ~~~!」

 

 鋼の頭突きに、連続の龍のエネルギーで対抗。コマタナは少し間踏ん張るも、威力に押し負けて後退する。

 

「キバゴ、ひっかく!」

 

「キバ! キババ!」

 

「タナッ!」

 

 下がった隙にキバゴが両手で引っ掻く。コマタナは少し後退はしたが。

 

「よし、一撃!」

 

「キバ!」

 

「それで? 小さなダメージを与えただけじゃない。コマタナ、アイアンヘッド!」

 

「ターナッ!」

 

「キバ~!」

 

 コマタナは姿勢を整え、反撃の鋼の頭突き。キバゴは受けて吹き飛ぶ。

 

「ダメージってのは、こうやって与えるのよ」

 

 ふんと鼻で笑いつつ、ラングレーはキバゴの様子を確かめる。追加効果は出ていない。

 

「まぁ良いわ。これで決める。コマタナ、ハサミギロチン!」

 

「タナ!」

 

 コマタナは交差させた両手の刃を伸ばし、突撃する。

 

「ハサミギロチン!?」

 

 喰らえば、一撃必殺の大技だ。絶対に当たる訳には行かない。

 

「避けて、キバゴ!」

 

「キ、キバ! ――キバ!?」

 

「あぁ!」

 

 一撃必殺の技を、キバゴは慌ててかわす。しかし、焦ったせいか転がってしまう。

 

「そこよ! ハサミギロチン!」

 

「タナーーーッ!」

 

 その致命的な隙に、再度のハサミギロチン。回避の間は全くない。

 

「え~と……! キバゴ、両手を止めて!」

 

「キ、キ~バ!」

 

「タナ!?」

 

 ハサミギロチンの刃を、キバゴは両手で受け止める。一旦は。

 

「苦し紛れの足掻きね。そのまま決めてしまいなさい!」

 

「タナーーーッ!」

 

「キ、キバゴ!」

 

「キ、キババ……!」

 

 しかし、キバゴは力の差で負けており、コマタナに刃をそのまま押されて行く。迫る刃にキバゴは成す術もない。

 

「キ、バ……!」

 

 近付く刃にキバゴは思った。昨日も敗北し、今日もまたやられてアイリスも負けさせてしまうのか。

 そんなのイヤだ。負けたくない。キバゴのその意思が限界まで高まった時――力が爆発した。

 

「キ~……バアァアアァ!!」

 

「タ、タナ!?」

 

「う、ウソ!?」

 

「キバァ!」

 

「タナーーーッ!?」

 

 両手が弾かれ、無防備になった腹にキバゴの拳が突き刺さる。コマタナは強く吹き飛んだ。

 

「コマタナ、大丈夫!?」

 

「タ、タナ……!」

 

 予想外の強烈な一撃に、コマタナはかなりキツそうだ。

 

「な、なに、今の……?」

 

「キバ……! キバ……!」

 

 今の一撃にラングレー達だけでなく、アイリスも戸惑っている。ただ、キバゴは大きく疲労しており、肩で呼吸していた。

 

「さっきのって……」

 

「あれはばかぢからだ!」

 

 全身の力を限界以上に発揮させ、強烈な一撃を叩き込む技だ。ただ、その反動に攻防力が下がる欠点もある。

 

「このピンチに覚えたのかな?」

 

「おそらくは。キバゴは潜在能力が高いですし……」

 

 昨日の敗北による悔しさと、このピンチで闘志が限界以上に高まり、潜在能力が引き出され、ばかぢからが発現したのだ。

 

「ばかぢからは格闘タイプの大技。悪と鋼タイプのコマタナには大ダメージだろう」

 

「って事はもう一度決めれば……!」

 

「どうかな。ばかぢからは使う度に、攻撃と防御が下がってしまう」

 

 つまり、さっきは有効でも、次がそうとは限らないのだ。それに防御力も下がるため、やられやすくなる。今までのダメージを考えれば、他の一撃でも危ないだろう。

 

「つまり、直ぐに決めるしかないって事か……!」

 

「実力差があるからね」

 

 そもそも相性、実力差からキバゴがコマタナとここまで戦えたのが、大奮闘と言えるレベルなのだ。

 

「もう一度、ばかぢからを――」

 

「させると思う? メタルクロー!」

 

「タナ!」

 

「キ、キバゴ、回避!」

 

「キバ! キバ!」

 

 メタルクローを避けるキバゴだが、ダメージと疲労、実力差から直ぐに厳しくなる。

 

(ダメ……! 先ず当たるかどうか……!)

 

 さっきは、不意の一撃だったから命中しただけだ。ばかぢからは使用の度に能力が下がる。外せば無駄に落ちるだけだ。使うなら確実に決めねばならない。

 

(でも、それが出来る余裕なんて……!)

 

 現在、ほぼ無いに等しい。後一撃で戦闘不能になるかどうかだからだ。

 

(……もうこうなったら!)

 

 やるしかない。覚悟を決め、その指示を出す。

 

「キバゴ、げきりん!」

 

「……ここで!?」

 

「キバ~……。キバキバキバキバキバ~~~~~!」

 

「タナッ! タナナッ! タナーーーッ!」

 

 龍の本能を全開。反動で威力は下がっていても大技だけあり、コマタナを押していく。

 

「キバ~~~ッ!」

 

「タナッ!」

 

「ダメージはそんなにないわ! コマタナ、メタルクロー!」

 

「タナーーーッ!」

 

「キバ~……?」

 

 〆の一撃で退けぞるも、コマタナは直ぐに体勢を整え、メタルクローを放つ。それは混乱したキバゴに当たり、止めを刺す。

 

「キバゴ、ばかぢから!」

 

「……はっ? 混乱で当たるわけ――」

 

「……キバ!? ゴ~~~~~ッ!?」

 

「タナーーーーーッ!?」

 

「あ、当たった!?」

 

「や、やった!」

 

 かと思いきや、一か八かの再度の限界を超えた一撃が、混乱を狙って前に出たコマタナに炸裂。

 コマタナは何度かバウンドしながら吹き飛び、最後に転がる。その目は渦巻いていた。

 

「タ、ナ……」

 

「コマタナ!」

 

「コマタナ、戦闘不能。キバゴは……」

 

「キバ~……? キバ、バ~~……?」

 

「キバゴ、大丈夫~!?」

 

 キバゴは千鳥足の上、ぜえぜえと息を荒げていたが、戦闘不能ではない。

 

「混乱にかなり疲労してるけど、倒れてはないね。よって、この勝負はキバゴの勝利。最終的な結果は、二勝二敗一引き分けで――ドローだね」

 

「キバゴ、頑張ってくれてありがと~!」

 

「キ~? バ~~~?」

 

 アイリスが抱き着き、お礼を言うがキバゴはまだ混乱していた。

 

「……ドロー」

 

 引き分けに、コマタナをモンスターボールに戻したラングレーは、不満そうだ。

 

「……まぁ、良いわ。負けじゃないし。第一、運でやっと勝利や引き分けだなんて、実力の低さを証明してる様なもんだしね」

 

「うっ……」

 

 先程同様の発言ではあるが、やはり間違っていない。二戦目では、偶々の麻痺があってやっと引き分け。

 三戦目はキバゴがばかぢからを発現し、その上に一か八かで当てての勝利。はっきり言って、運の要素が大きすぎる。

 その事はアイリスも自覚してる為、言葉に詰まっていた。

 

「何にせよ、引き分けは引き分け。次ではっきり決めてあげるわ。あたしの方が上ってことをね」

 

 引き分けを何時までも引き摺らず、ラングレーは次こそは勝つと宣言した。

 

「じゃあ、あたしはもう行くから。あと、料理を作ったの誰?」

 

「僕だけど」

 

「アンタね。美味しかったから次の時も作ってちょうだい。それと、理想の英雄」

 

「……なんだ?」

 

「次までにはゼクロムを連れてなさいよ。バイバ~イ」

 

 デントには料理。サトシにはゼクロムを連れる様に言うと、ラングレーは去って行った。

 

「何というか、吹雪みたいな人だったね」

 

「確かに……」

 

 他者の都合など考えず、言いたいことややりたいことを済ませては直ぐに去った彼女は、何処と無く吹雪の様に思えた。

 

「けど、そのおかげでドリュウズは仲直り出来て、エモンガはバトルをやってくれる様になって、キバゴも成長した。三つも良いことあったな」

 

「まぁ、そうね」

 

「キババ」

 

 確かにラングレーとの出会い、バトルのおかげで成果を得れたのは事実である。その事は混乱から回復したキバゴも感じている。

 

「ただ、彼女も強くなるだろう。あの様子だと、また戦うことにもなるだろうね」

 

「その時は勝つわ! だから――」

 

 アイリスはモンスターボールのスイッチを押し、ドリュウズとエモンガを出す。

 

「これからも頑張ろ、皆!」

 

「キバキ!」

 

「リューズ」

 

「エ~モ」

 

 アイリスの言葉に、コクリと三匹は頷いた。

 ライバルとなったドラゴンバスター、ラングレーとの出会いを切欠に、アイリスはドラゴンマスターへまた一歩前へと進んだのだった。

 


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