ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ   作:ぐーたら提督

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 原作と違って、コーンからです。このバトルはそこまでガチガチではない、かも。


最初のジム戦。VSコーン

「ここがサンヨウシティかあ」

 

「ピカー」

 

 カラクサタウンから歩き、漸く見えた次の街に入って辺りを見渡すサトシとピカチュウ。

 情報が間違ってさえいなければ、ここが最初のジムの街、サンヨウシティのはずである。

 

「何にせよ、初めてのジム戦。頑張らないと。……行けないんだけどな~」

 

「ピカピ~……」

 

 ごめんねと言うピカチュウ。実はというと、またピカチュウの体調が悪いのである。それもここ最近で一番の不調。この状態でジム戦は正直避けたい。

 となると、今日はマメパト、ミジュマル、ポカブの中から選ぶ事になる。能力に大差は無いが、経験で言えばマメパトが最適かもしれない。

 それか、今日は止めて明日以降の体調の良い日にするか。

 

(けどなあ)

 

 そんな消極的な判断で、ジム戦に勝てるだろうか。何より、ピカチュウ無しでは勝てないと思っている。引いて言えば、他の手持ちでは駄目だと思っているようで、サトシは嫌だった。

 

「よし。このまま行こうか。ピカチュウ」

 

『うん、サトシなら行ける!』

 

 自分が不在でも、サトシの能力とマメパト、ミジュマル、ポカブの力が勝てるとピカチュウは応援する。

 

「じゃあ、後はサンヨウジムに向かうだけだけど――」

 

「教えて上げよっか?」

 

「うわ、アイリス!?」

 

 道行く人々にサンヨウジムの場所を聞こうとしたその時、サトシの背後からアイリスが話し掛ける。

 

「どうせ、場所も知らないんでしょ? 折角だし、あたしが――」

 

「良いよ。街の人に聞くから」

 

「ち、ちょっと――」

 

「へぇ、キバゴだね」

 

 他の人に聞こうとしたサトシに、アイリスが待ったしようとその時、一人の人物が近付いてきた。

 性別は男性。背は二人よりも一回りは高く、薄緑の色の葉っぱが出てるような髪に、緑色の蝶ネクタイを付けたウェイターの服装が特徴だ。手には、買ったばかりと思われるパンが籠に入っている。

 彼はサトシやアイリスではなく、キバゴの方に注目したようで、近付くと興味深く観察するように見つめる。

 

「若草の様なフレッシュな肌。新芽を思わせるその二つの牙が、爽やかさと限り無い未来を醸し出しているね。自然な雰囲気の君には、ピッタリのパートナーだと思うよ」

 

「そう、ありがとう!」

 

 謎の人物の詩のような表現に、アイリスは礼を伝えた。

 

「えーと……」

 

「ピカァ?」

 

「えっ、ピカチュウ? ピカチュウだよね!?」

 

 謎の人物は目を輝かせると、思わずピカチュウを両手で持つ。

 

「本物を見るのは初めてだよ! こんにちは」

 

「ピ、ピカー」

 

 にっこり微笑んで挨拶してきた謎の人物に、ピカチュウは苦笑いで返す。

 

「けど、どうしてピカチュウが?」

 

「俺達、カントーから来たんだ。俺はサトシ。ピカチュウは俺の大事な相棒だ」

 

「なるほどね。僕はデント。ポケモンソムリエをしているんだ」

 

 ピカチュウの存在に納得し、デントは胸に手を当てて礼儀正しく自己紹介する。

 

「ポケモンソムリエ? それって何なんだ?」

 

 初めて聞く職業に、サトシは疑問符を浮かべる。ピカチュウもだ。

 

「そんなことも知らないの? 子供ね~」

 

「いや、カントーから来たサトシが知らなくても無理はないよ。イッシュ地方以外ではまだまだ知られてない職業だしね」

 

 アイリスはサトシをからかうも、デントは逆にフォローする発言をした。

 

「ポケモンソムリエは、豊富な知識や経験を活かして、トレーナーとポケモンの相性を診断したり、もっと親密な仲になるためのアドバイスをする。まぁ、身も蓋もない言い方をすると、ポケモン関連のアドバイザー、助言者だね」

 

「イッシュにはそんな職業があるんだ。折角だから、してもらおうかな? まぁ、相性最高だと思うけどね」

 

「ピカピカ」

 

(へぇ……)

 

 互いに最高だと信じて疑わないその純粋な瞳。一瞬見ただけにも拘らず、彼等に強い繋がりがあるのを感じ取らせている。ポケモンソムリエとして、デントは非常に強い興味を抱いた。

 

「ちょっと、サトシには他の用件が有るんじゃなかったの?」

 

「あっ、そうだった。デント、サンヨウジムってどこにある? ジムに挑戦したいんだ」

 

「挑戦? ……ふふっ、なるほどね」

 

 サトシの目的を聞き、デントは一瞬だけ不敵な笑みを浮かべた。

 

「分かった。案内するよ」

 

 

 

 

 

「ここがサンヨウジムだよ」

 

「ここが……!」

 

 デントの案内で一つの建物に到着するサトシ達。周りと比べても雰囲気は異なり、またモンスターに三角が合わさった様なマークから見ても、ジムと判断して間違いなさそうだ。

 

「よし! たのもー!」

 

「ピカピカー!」

 

 扉の取っ手に手を掛け、勢いよく開ける。

 

「……あれ?」

 

「ここがサンヨウジム?」

 

 しかし、サトシ達の視界に入って来たのは、料理を食べているお客とデントの格好に腰掛けがあるウェイターの二人だけ。

 とてもだがジムには見えず、サトシとピカチュウ、アイリスも疑問符を浮かべた。

 

「は~い! ウェルカム!」

 

「いらっしゃいませ」

 

 戸惑うサトシに、赤髪の青髪の対照的な態度と印象を感じる二人のウェイターが、礼儀正しく告げながら然り気無く近付いていた。

 

「とにかく、中に入って」

 

「え? いや、でも……」

 

「良いから良いから」

 

 デントに押され、とりあえず中に入って端のテーブルに座るサトシ達。

 

「では、注文を聞かせてください」

 

「先ずはお飲み物はお持ちしましょうか? 冷たい飲み物でしたら、サイコソーダがお勧めですよ」

 

「その次は、お手頃価格のランチはいかがでしょう?」

 

「えと……じゃあ、とりあえずサイコソーダは貰うよ」

 

「分かりました」

 

 注文を受け、青髪のウェイターが素早くかつ丁寧に動き、サイコソーダを速やかに運んでくる。

 

「どうぞ」

 

「じゃあ。……あっ、美味しい!」

 

「ピカ!」

 

 軽く一口飲むが、程好い炭酸と甘味、仄かに漂う柑橘類の香りが絶妙なバランスで組み合わさっており、とてつもなく美味だ。前に買ったことのある市販のサイコソーダとは雲泥の差である。

 

「これ、すっごく美味しいです!」

 

「そう言って貰えて何よりです」

 

「このサイコソーダは当店オリジナルの物でして、色々と手を加えてあるんですよ」

 

「それでこんなに美味しいんだ……」

 

「ピカー……」

 

 ごくごくとこの店オリジナルのサイコソーダを、美味しそうにサトシとピカチュウは飲んでいく。

 少し作法は為ってなくもないが、その笑顔にウェイターは微笑んでいた。

 

「……ちょっと、あたしにも飲ませなさいよ」

 

「キバキバ!」

 

 その様子にアイリスとキバゴも興味を抱いたらしく、サイコソーダを求めてきた。

 

「これは俺のだよ。アイリスはアイリスで注文すれば良いだろ」

 

「ケチね~。あの、あたしとキバゴの分も――」

 

「直ぐにお持ちします」

 

 また青髪のウェイターが動いて、サイコソーダを持って来る。その頃には、サトシとピカチュウは飲み終えていた。

 

「では、最初のサイコソーダを味わって頂いた事ですし、次はランチを――」

 

「あの、ランチも興味は有りますけど……」

 

 サイコソーダの味から、ランチも凄く美味な事は想像に難しくない。それはそれで興味あるサトシだが、ここに来たのは食事が理由ではない。

 

「ここ、ジム……ですよね?」

 

「ジム? デント? このお客さんは――」

 

「そういう事」

 

「なるほど。分かりました」

 

「ジム戦!?」

 

「始まるわよ!」

 

「え、えぇ、何なんだ?」

 

 サトシとデントの言葉に二人のウェイターが納得したかと思いきや、次はお客が目をキラキラさせ始めた。

 更に急に部屋が暗くなる。今度は何だとサトシ達が戸惑うと、デントと二人のウェイターが腰に手を当てた姿勢で、一ヶ所に向けて一例に歩いた。

 

「さぁ、君のお望み通り、始めようか」

 

「あぁ! 灼熱のような燃えるバトルを!」

 

「いえ、ここは水のように静かにクールに応対すべきでしょう」

 

 女性達の黄色い声援とスポットライトの光を浴びながら、三人はサトシの要求を了承したかのような発言を取る。

 

「あぁ、今日も華麗かつ、素敵なバトルが観られるのね~」

 

「何て幸せなのかしら! その場に立ち会えるなんて!」

 

「勿論、あたしは見学します! 皆もそうよね!」

 

 当然と、アイリスを除いた全員のお客が賛同する。

 

「……ど、どういう事? どうなってるんだ?」

 

「つまり、ここはレストランでもあり――サンヨウジムでもあるんだよ」

 

「そして、僕達」

 

「三つ子の兄弟が」

 

「このジムのジムリーダーなんだよ」

 

 多少の差異は有れど、最後の台詞はタイミングピッタリ。仲の良い兄弟の様だ。

 

「兄弟がジムリーダー? 三人もいるの?」

 

 アイリスが疑問を抱いた一方、三人のネタばらしにサトシは漸く疑問が解けた。

 つまり、ここはかつて旅したカントーのハナダジムや、ホウエンの地方のトクサネジムの様に、兄弟達がジムリーダーなのだ。

 

「イッツ、ショータイム」

 

 三人が同じ台詞、されど違うポーズを取ると、彼等の後ろの壁が動き出た。その先に現れたのは。

 

「バトルフィールド……!」

 

 土に無数の大きな岩があちらこちらに点在するそれは、正しくバトルフィールドだった。

 観客席の一ヶ所ではお客達がチアの格好をしており、アイリスとキバゴは彼女達から離れた場所でサトシ達を見下ろす。

 

「さぁ、誰と戦うかを選んでもらいましょうか」

 

「選ぶ? ここは、全員と戦うジムじゃないんですか?」

 

「違うよ。ここは僕、ポッド、コーンの内誰かを指名し、勝てばバッチを手に入れれる。それがこのジムのルールさ。ちなみに赤髪の彼がポッドで、青髪の彼はコーンだよ」

 

 どうやら、トクサネジムと違って、戦うのは一人だけらしい。ハナダジムと同じ形式のようだ。

 

「先ず、俺様のパートナーを教えてやるよ!」

 

「コーンが使うのはこのポケモン。ご参考までに!」

 

「そして、この子が僕、デントの相棒さ!」

 

「――バップ!」

 

「――ヒヤプ!」

 

「――ナップ!」

 

 三人が出したのは、見た目こそは類似しているものの、頭の髪型、顔や耳、尾などの体色がトレーナーと同じポケモン達だ。

 

「このポケモン達は……!」

 

『バオップ。高温ポケモン。火山に近い洞穴に住む。頭のふさは怒ると温度が上がり、三百度以上になる』

 

『ヤナップ。草猿ポケモン。元気の無いポケモンに、頭の葉っぱを分け与える。疲れを取る効果がある』

 

『ヒヤップ。水掛ポケモン。大昔は森で暮らしていたが、水辺で暮らしやすい身体に変化した。頭のふさに水を溜める事が出来る』

 

「炎、草、水の三体か……!」

 

 新人トレーナーが最初に受け取るポケモン達と同じ三体。おそらく、新人が有利なポケモンと戦う経験を得る為のジムなのかもしれない。

 また、選ぶ相手によって、違うタイプのポケモンと戦うのは始めての上、中々に興味深い。

 

「相手にとって不足なし!」

 

「さぁ、サトシ。誰とバトルするかな? 僕?」

 

「この俺、ポッドだよな!」

 

「コーンを選ぶのなら、丁重におもてなししますよ」

 

 サトシは戦意に満ちた表情で三兄弟から少し離れると、そこで振り返って自分の選択を告げる。

 

「俺は――三人共です!」

 

「えぇ?」

 

「三人共って……全員と戦うってこと!?」

 

 サトシの要求に、三兄弟もアイリスとキバゴ、女性客達も驚いていた。

 

「このイッシュで、初めてのジム戦なんです! だから、色々なポケモンと戦いたんです! お願いします!」

 

 三人は互いを見合わせると、それぞれの笑みを浮かべた。

 

「まさか、僕達全員ととはね。そんな人、初めてだよ」

 

「面白いやつだな!」

 

「では、三つの試合を行い、その内二勝すればバッチを獲得する。これでどうかな?」

 

 コーンの案にサトシは勿論、デントとポッドも賛成する。

 

「じゃあ、誰から戦うかを決めてもらうよ。僕?」

 

「先ずは俺からか?」

 

「コーンからでも構いませんが」

 

 サトシは自分が持つ三つのモンスターボールを見つめ、少し考えると最初の相手を指名する。

 

「先ずは――コーンさんからお願いします!」

 

「承りました」

 

「ちぇ、コーンからかよ」

 

「まぁまぁ」

 

 コーンは何時も通りに振舞い、ポッドは少し不貞腐れ、デントが彼を宥める。

 何はともあれ、先ずは第一試合。サトシとコーンはバトルフィールドの端に、ヒヤップが試合場に立つ。

 

「さぁ、君のポケモンは? そのピカチュウ?」

 

「いえ、こいつです。マメパト、君に決めた!」

 

「ポー!」

 

 サトシが繰り出したのは、飛行タイプのマメパトだった。

 

「マメパト。どうして、ピカチュウではないのですか?」

 

 相性を考えれば、ピカチュウの方が有利のはず。なのに、何故マメパトなのか。コーンはとやかく言う気は無いものの、気にはなっていた。

 

「俺のピカチュウ、ちょっとした出来事が原因で不調なんです。だからマメパトに」

 

「それは失礼しました」

 

 事情が有ったと知り、コーンは頭を下げた。

 

「今日も体調悪いんだ。ピカチュウ」

 

「キバ……」

 

 であれば、サトシが先鋒としてマメパトを出したのも、分からなくはない。

 サトシの残りの手持ちはミジュマルとポカブ。炎タイプのバオップにミジュマル。草タイプのヤナップにポカブを当てれば、勝率はかなり高まる。

 ヤナップに関してはマメパトでも良さそうだが、有利でも不利でもないヒヤップにぶつけて勝てば、後が楽になると考えたのだろう。

 ピカチュウを除けば、サトシとのバトルの経験が一番あるのは、マメパト。他の二匹と比べても勝率は高い。悪くはない判断だ。上手く行けば、の話だが。

 

(あのピカチュウ、調子が悪かったのか……)

 

 アイリスが分析していた中、デントは不調にもかかわらず、一緒にいるサトシとピカチュウに益々興味を抱いていた。

 余程、二人の繋がりは強いのだろう。でなければ、不調のピカチュウが同行するわけがない。

 

(さぁ、どう戦うかな?)

 

 見たところ、あのマメパトのレベルは差ほど高くはなさそうだ。飛行と水では相性に有利不利もなく、ヒヤップとコーンの方が優勢だろう。

 ただ、迷いのないマメパトの瞳が気になる。どうなるか楽しみだ。

 

「バトル――始め!」

 

「先ずはこちらから! マメパト、でんこうせっか!」

 

「ポー!」

 

「ヒヤップ。――かげぶんしん」

 

「ヤプ!」

 

 先制攻撃を仕掛けるサトシとマメパト。凄まじい速度でマメパトが迫るも、コーンもヒヤップも全く動揺せず、冷静に対応。無数のヒヤップが現れる。

 その内の一つに突撃したマメパトだが、それは分身で手応えは一切無かった。

 

「だったら! マメパト、かぜおこし!」

 

 羽ばたきによる風がバトルフィールドに吹き荒れ、ヒヤップの影を散らして本体だけを残す。

 

「良い判断です。ヒヤップ、みずてっぽう」

 

「ヤプー!」

 

「マメパト、上昇!」

 

 本体のヒヤップからみずてっぽうが放たれる。それをマメパトは上昇して回避する。

 

「マメパト、エアカッター!」

 

「ポー!」

 

 両翼をクロスさせ、マメパトは空気の刃を発射。しかし、ヒヤップはその攻撃を軽々とかわす。

 

「連続でエアカッター!」

 

「ポーポー!」

 

「ヒヤップ。かわしなさい」

 

「ヤプヤプ」

 

 空気の刃を、ヒヤップは見事な体捌きで踊るようにかわしていく。

 

「空から遠距離攻撃を続けますか? 悪くはありませんが、そんな消極的な戦法でヒヤップを倒せるとは思わないでください」

 

 遠距離からの攻撃は安全という利点も有るも、その分かわされやすい。コーンの言う通り、この戦法ではヒヤップを倒すのは難しいだろう。

 

(それに、挑発もしてる)

 

 近付いてこいと。冷静沈着に見えるが、意外と好戦的なのかもしれない。

 

「マメパト、急降下しながらでんこうせっか!」

 

 ならば受けて立つまで。だが、向こうの策にそのまま乗る気もない。落下を活かした高速のでんこうせっかで何かをする前にダメージを与え、更に向こうの出方を把握する。

 

(落下で加速ですか)

 

 中々だと、コーンはサトシの判断を誉める。技が迫っているにもかかわらず、彼は欠片も焦っていない。

 

「ヒヤップ、――どろあそび」

 

 指を鳴らし、コーンはその指示を相棒に伝えた。ヒヤップが手に力を込めて地面に叩き付けると、周囲の土が泥へと変化していく。

 

「どろあそび?」

 

「確か、電気タイプの技を弱める技。だけど……」

 

 マメパトに電気タイプの技はない。これでは、使う意味がないはずだ。ジムリーダーがこんなミスをするだろうか。

 

「ふふ。何も、電気対策のために使う技だとは限りませんよ。――ヒヤップ、泥を掬いなさい!」

 

「ヤプ!」

 

「何!?」

 

「ポー!?」

 

 ヒヤップが足元の泥を掬い、マメパトにぶつける。泥はマメパトの目を塞ぎ、体勢を崩させて速度も落とした。

 

「アクロバット!」

 

「アクロバット!?」

 

 その隙をコーンは当然見逃さない。ヒヤップはジグザグに翻弄しながら動き、強烈な一撃をマメパトに叩き込む。

 

「更にみずてっぽう」

 

 吹き飛ばされ、悲鳴を上げて地面を滑るマメパトだが、ジムリーダーとして容赦はしない。コーンは追撃を命じ、みずてっぽうがヒヤップから再度放たれた。

 

「マメパト、今すぐ飛んで避けろ!」

 

「――ポーーーッ!」

 

 サトシの指示は出たが、泥のせいでマメパトの反応が遅れ、みずてっぽうが直撃。また吹き飛ぶ。

 

「――アクロバット」

 

「マメパト! とにかく、上昇してかわすんだ!」

 

 目は見えないが、マメパトはサトシの指示に従って飛翔。追撃のアクロバットをかわすことに成功した。

 

「おやおや、決まると思ったのですが……残念ですね」

 

(手強い……!)

 

 にっこりと微笑むコーンに、サトシは戦慄を感じる。電気技を封じる技であるどろあそびを、目を塞ぐ目的で使うとは完全に予想外だった。

 みずてっぽうは受けたが、最後のアクロバットをかわさなければ、間違いなく窮地に陥っていただろう。そのまま倒されていた可能性も高く、避けれたのは幸いだった。

 

「ちなみに、アクロバットは飛行タイプの技です。素早く動いて相手を翻弄し、強烈な一撃を叩き込む。ヒヤップに似合っているでしょう?」

 

 コーンが説明したのは、さっきのサトシの態度から彼がアクロバットについて知らないと感じた為だ。

 

「参考になりました」

 

 電気にはどろあそび。草にはアクロバット。苦手なタイプへの完璧な対策だ。

 

「あぁ、流れるような動きに、見事な一撃……。流石はコーン様だわ!」

 

「えぇ、あの子には万一の勝ち目も無いわね」

 

 アクロバットによるダメージに加え、泥でまだ視界を塞がれている。

 コーンの優勢は火を見るより明らかで、ファンの女性達は早くもコーンの勝利を確信していた。

 

「言われちゃってるわよ~。このまま負けるつもり?」

 

「キバ~」

 

 言われたい放題のサトシだが、そもそも聞こえていない。仮に耳に届いても全く気にしないだろうが。

 

「このまま一気に決めましょうか。みずてっぽう」

 

「ヤプゥ!」

 

「マメパト! 右! 次は左!」

 

 みずてっぽうは一発ではなく、連続で放たれていた。サトシは方向を次々に指示。マメパトはその通りに動いて何とかかわしていく。

 

「ほう」

 

 目が見えないのにもかかわらず、指示に迷いなく従うサトシとマメパトの関係に、コーンは少し感心した様子だ。

 

「では、これはかわせますか? ヒヤップ、アクロバットです」

 

「ヤプ!」

 

「来る……!」

 

 ヒヤップが前後左右に素早く動き、溜めをしながらマメパトに迫る。

 みずてっぽうは直線的な軌道だったからこそ指示だけで回避出来たが、アクロバットは攻撃するまで出方が分からない。マメパトが視界が見えないままで回避するのは難しい。

 しかし、もう一度か二度攻撃を食らえば負けてしまう。回避するか防ぐしか無い。だが、前者は困難だ。となると、残るは自ずと防御だけになる。

 

(だけど!)

 

 ただ防御しても、有利になるかと言えば否だ。今のコーン優勢の流れその物をひっくり返す必要がある。

 

「マメパト、周囲を覆うように風を全力で起こせ!」

 

「ポー!」

 

 マメパトがその場で回転。すると風が彼女を守るかの如く、球体状に展開される。

 

「風のバリア、と言った所ですか。中々面白い手では有りますが――それでヒヤップの攻撃を防げると思ったら大間違いです。みずてっぽうで勢いを削りなさい」

 

「ナプゥ!」

 

 ヒヤップにみずてっぽうをぶつけられ、衝撃からマメパトは姿勢を崩し、風のバリアの勢いが半分以上落ちた。

 

「これで〆です。アクロバット!」

 

「ヒヤー……プウゥ!」

 

 すかさずアクロバット。風のバリアを元に戻すことも、まともな回避も出来ず、これで決まったと誰もが思った。サトシを除いて。

 

「マメパト! 周囲にエアカッターだ!」

 

「――えっ?」

 

「クルー……ポー!」

 

 小鳥が両翼を払う様に振るう。二枚の空気の刃が出現し、風の残滓の影響を受けて高速でマメパトの周囲を移動し続ける。

 

「ヒヤップ! 今すぐに攻撃を――」

 

 このバトル、初めて焦りを見せたコーンが慌ててヒヤップに呼び掛けるも、一歩遅かった。

 ヒヤップは自分から飛び込む形で二枚のエアカッターを受け、吹き飛び落下して転がっていく。

 

「マメパト! 前方に向かって広範囲に全力でかぜおこし!」

 

 コーンが初めてを焦りを見せた様に、サトシにとっては初めてにして大きな機会。ここで手を緩めるつもりもなく、マメパトに広範囲のかぜおこしを指示。

 広い範囲の強風に、体勢が崩れていた事もあり、ヒヤップは呻き声を上げながらその場に留まれてしまう。

 

「マメパト! 今聞こえたヒヤップの声の場所目掛けて、連続でエアカッターだ!」

 

「ヒヤップ! 回避に専念を!」

 

 マメパトの風刃を、ヒヤップが必死にかわそうとする。しかし、元々体勢を崩していた、エアカッターがまだ残っていたかぜおこしを受けて加速した。

 この二つの要因が合わさり、一つだけ直撃ではないが確かに受けてしまう。

 

「ヒヤップ、みずてっぽう!」

 

 このままは不味い。流れを引き戻そうとしたコーンの命令で、ヒヤップはマメパトへとみずてっぽうを放った。

 

「それを待ってました! マメパト、前方に向けてかぜおこし!」

 

 みずてっぽうとかぜおこしが激突。水は途中までは勢いよく迫っていたが、マメパトの一メートル付近で風に押されて弾け、雨の様に小鳥に降り注いで顔に付着していた泥を洗い落とす。

 

「ポーーッ!」

 

 視界が回復し、マメパトは喜びの大声を上げた。

 

「ヒヤップのみずてっぽうを利用して、泥を落とした……!?」

 

「すげぇ! あいつ、あの窮地を潜り抜けたぜ、デント!」

 

「うん、これは見事なテイストだよ」

 

 困惑するコーンに対し、ポッドとデントはサトシの力量に賞賛を送っていた。

 さっきまでは間違いなく、コーンとヒヤップが優勢だった。しかし、ポケモンの力を引き出し、尚且つ相手の力を利用する事で戦況の流れを戻した。いや、寧ろ今はサトシの方に有るかもしれない。

 

「かぁー! 何で最初に戦えなかったんだ! すっげぇ燃えてるのによぉ!」

 

「まぁまぁ、落ち着いて、ポッド」

 

 要求なので仕方ないが、サトシと初戦で戦えないことにポッドは不満を抱き、デントがまた宥める。

 

(気持ちは分かるけどね)

 

 とは言え、ポッドの気持ちも分からなくはない。こんなバトルを見ていれば、トレーナーとして血が騒いで仕方ないだろう。かく言う自分も、サトシと今すぐ戦いたくなってきた。

 

「デント、この勝負、どっちが勝つと思う?」

 

「そうだね……。判断しにくい所だよ」

 

 能力はヒヤップの方が上。しかし、マメパトは能力を引き出すサトシの指示がある。ここに関しては五分と言った所。

 次にダメージだが、マメパトは強烈なアクロバットとみずてっぽうを一発ずつ、ヒヤップはエアカッターを三度。しかも、特性きょううんや技の性質で急所に当たったのがある。大差は無いだろう。

 後は流れ。今戦いの流れは、優勢をひっくり返したサトシとマメパトにある。四、六でサトシが有利かもしれない。

 

「どっちにせよ、終わりは見えてきたな」

 

「うん。時間は掛からないだろうね」

 

 決着まで、そう遠くはないとデントもポッドも確信していた。

 

「……」

 

「キバキバ?」

 

 二人のウェイターと同様に、アイリスも真剣に二人のバトルを見つめていた。キバゴの言葉にも反応しない。

 

「さっきまで不利だったのに……」

 

 それをマメパトの力を十二分に発揮し、一気に覆した。そのサトシのトレーナーの力量もそうだが、同時にマメパトの信頼感もアイリスは気にしていた。

 まだ一月も経ってないにも拘らず、マメパトはサトシに全幅の信頼を寄せている。それだけ、彼がトレーナーとしての力量がある証左だ。

 

「……」

 

「キバ……」

 

 アイリスは一つのモンスターボールを取り出す。空ではなく、中にはあるポケモンがいる。しかし、問題がある。

 

(あたしにも……)

 

 彼ほどの力量が有れば。そう思いながら、少女はそのモンスターボールを静かに見つめていた。

 

「ね、ねぇ……。コーン様負けたりしないわよね?」

 

「だ、大丈夫よ。さっきのあれも、行き当たりばったりかまぐれに決まってるわ」

 

「でも、あの子結構、というか、かなり出来るみたいだし……」

 

「正直、コーン様の方が少しだけ不利な気も……」

 

「な、何言ってるのよ! 貴女達どっちの味方なの!」

 

 アイリスから離れた場所の観客席。思わぬサトシの実力、底力、コーンが追い詰められてる点から女性客達が言い争っていた。

 とは言え、サトシもコーンも気にしていない。そんな余裕も無いのだ。互いと互いのポケモンしか写らず、気にしない。

 

「……ふふふ」

 

「何ですか?」

 

 不意に、コーンは微笑む。それはウェイター、ジムリーダーとしての顔ではなく、一人のトレーナーとしての笑みだった。

 

「いえ、こんなに楽しいと思えるバトルは何時以来かなと思いまして」

 

 冷静沈着をモットーとし、何時如何なる時も平常心を保って来た。

 しかし、サトシとのこの戦いは今まで迎え撃ってきたバトルにはない『熱さ』があった。コーンはその熱さに心を揺さぶられたのだ。

 

「お礼を言わせて貰います。そして――勝たせても貰います」

 

「そうは行きません。勝つのは――俺達だ!」

 

「ヒヤップ、アクロバット!」

 

「マメパト、でんこうせっかで翻弄しろ!」

 

「ヤプ!」

 

「ポー!」

 

 二匹のポケモンはそれぞれの技を使い、上下左右に前後も含め、バトルフィールドを高速で動き回る。

 二人のトレーナーは全神経を尖らせ、必殺のタイミングを測っていた。

 

「一瞬でも、判断を誤った方が負けるな」

 

「僕もそう思う」

 

 この高速戦、先に動けば隙が出て、そこを突かれて敗北するのは必須。しかし、どちらもこのままでは何時かは疲弊して動けなくなる。

 ここからどう打開するか。正にトレーナーの力量が試されている。

 

「――ヒヤップ、動きながらみずてっぽう!」

 

「ヤプ! ヤプ!」

 

 先に動いたのは、コーン。ヒヤップは移動の合間、一瞬だけみずてっぽうを発射する。一瞬のため威力は低い。

 しかし、食らえば体勢を崩し、必殺の一撃を叩き込むには十分。その為の水弾が次々とマメパトに迫る。

 

「マメパト! 左、右、前、後ろ!」

 

 サトシは極限まで高めた集中を維持し、マメパトに次々と指示。かわさせていく。

 

(ここまで来ても、的確な判断。実にお見事)

 

 しかし、勝つのは自分とヒヤップ。そのための策も出来ている。

 

「ヒヤップ、アクロバット!」

 

「マメパト、かわせ!」

 

 移動による溜めを込め続けた必殺の一撃を、ヒヤップは解放。高速かつ高威力のアクロバットを放つ。

 しかし、隙が出来てないマメパトには当たらず、空を切るだけ。ヒヤップはそのまま着地する。マメパトに背を向けると言う、致命的な隙を見せて。

 

「おいおい、コーンの奴、焦ったか?」

 

「いや、これはもしかして……」

 

 らしくないコーンの指示に、ポッドは判断ミスと受け取るも、デントは何かに気付いたようだ。

 

「今だマメパト! でんこうせっか!」

 

 背後を向けたヒヤップに、マメパトのでんこうせっかが迫る。これで決着かとそう思いきや――コーンが微かに笑った。

 

「――かげぶんしん!」

 

 ヒヤップの影が戦場に大量に現れた。マメパトのでんこうせっかはその内の一つを掻き消したに過ぎず、今度はマメパトが致命的な隙を出してしまう。

 

(しまった!)

 

 あのアクロバットは、罠だったのだ。隙が出来たと見せ掛け、こちらの隙を誘発するための。

 

「今度こそ決まりです。アクロバット!」

 

「ヒヤー……プウゥーーッ!」

 

 本体のヒヤップが動き、隙が出来たマメパトに、今度こそ本命のアクロバットが迫る。

 タイミングから見ても、回避は不可能。どうすればとサトシは考え――閃いた。

 

「マメパト、かぜおこし! 地面に向かって叩き付けろ!」

 

「ポーーッ!」

 

「なっ……!? いえ、ヒヤップ、強引に決めるのです!」

 

「ヤプゥ!」

 

 強風が放たれる。それは周囲の分身を吹き散らすが、コーンはヒヤップのアクロバットなら決まると判断し、続行を指示。

 その判断は正しく、風はヒヤップを押し込めるも、それは一瞬のみ。このまま突き破り、風の向こうにいるマメパトに命中する。はずだった。

 

「――いない!?」

 

「ヤプ!?」

 

 しかし、そこにはマメパトの姿が無い。何処にとコーンとヒヤップが捜し、いち早くコーンが気付いた。

 

「――上空!」

 

 コーンが見上げると、小さくも雄々しさに満ちたマメパトの飛行姿が有った。しかも、今までよりも遥かに速い。

 

(あのかぜおこしを、加速に使って!)

 

 そう。先のかぜおこしはアクロバットを一瞬止めると同時に、その風で加速して回避する目的と――速度で高まった一撃を叩き込む目的も有った。

 

「マメパト、これで決めるぞ! その速さに更に落下の速さを加えろ! でんこうせっか!」

 

「ポーーーッ!!」

 

 軌道後に烈風、マメパトの周囲には暴風が発生する程のスピードと共に、マメパトが超高速で突撃する。

 

「ヒヤップ、かげぶんしん――いえ、アクロバットを!」

 

 かげぶんしんもみずてっぽうも、回避も間に合わない。ならば、迎撃あるのみ。コーンも必殺の一撃を指示した。

 

「ヤプゥウウゥーーッ!!」

 

 でんこうせっかとアクロバットが激突。強い衝撃と共に二匹は吹き飛ばされ、地面に転がっていく。

 

「マメパト!」

 

「ヒヤップ!」

 

「ポー……!」

 

「ヤ、プ……!」

 

 二匹は残った力を引き絞り、フラフラながらも何とか立ち上がる。その直後。

 

「――ヒヤ、プ~……」

 

 ヒヤップが倒れた。その目はぐるぐると回っている。対して、マメパトはぎりぎりながらもまだ立っていた。

 

「ヒヤップ、戦闘不能! マメパトの勝利! よって、第一試合は……チャレンジャー、サトシの勝利!」

 

「よっしゃー!」

 

「ポーーーッ!」

 

 先ずは一勝。しかし、その勝利を心底喜び、サトシはガッツポーズを、マメパトは両翼を大きく広げた。

 観客席からは、女性客達のそんな~と悲鳴の声が上がる。

 

「……負けてしまいました」

 

 勝ちたい勝負に負けてしまい、心底残念そうなコーンだが、同時に勝利者であるサトシにも微笑んでもいた。

 

「コーンも、後一歩だったんだけどなあ」

 

「勝敗の決め手になったのは、技の威力だね」

 

 マメパトのでんこうせっかは、かぜおこしと落下でその威力が極限にまで高まっていた。

 対してヒヤップのアクロバットは、その場で放った故に力の溜めが足りず、威力が低かった。その差が勝敗を決めたのだ。

 

「にしても、初戦から勝つか。やっぱり面白えな、あいつ!」

 

「ポケモンの力を限界以上に引き出し、窮地になっても諦めない。ふふふ、興味が尽きないね」

 

 サトシが全員と戦うと言ってくれて良かった。興味が尽きない彼と戦える機会があるのだから。

 

「見事でした。サトシくん。君の勝利です」

 

「ありがとうございました」

 

 サトシとコーンは互いの健闘を祝い、二人同時に頭を下げた。

 

「マメパト、ご苦労さま。ゆっくり休んでてくれ」

 

「ポー」

 

 奮闘し、疲労困憊のマメパトを労うと、サトシはボールに戻した。

 

「ですが、まだ一勝です。後もう一勝しない限りはバッチは獲得出来ませんよ?」

 

「分かってます。何なら――」

 

 サトシは残る二人のジムリーダー、デントとポッドに顔を向ける。

 

「残り二人にも勝つつもりです」

 

「ほお~。つまり、俺やデントにも続けて勝つと?」

 

「そうです」

 

「ふふふ、はっきり言うね、君は。分かったよ。君が次の勝負に勝ったとしても、第三試合を行なおう」

 

「助かります!」

 

「まぁ勝てたら、の話だけどなあ」

 

 サトシからの大胆な宣戦布告に、デントもポッドも笑みを浮かべる。

 サンヨウジム戦。先ずは一勝したサトシ。残るは――デントとポッドの二人。

 

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