ポケットモンスター アナザーベストウイッシュ   作:ぐーたら提督

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 今回は一話だけです。……あと、デントの性格を上手く表現出来たかな? あれは濃すぎる……。


サンヨウジム決着

「これより、最終試合。チャレンジャー、サトシとデントのバトルを行います。――始め!」

 

「先手必勝! ミジュマル、みずてっぽう!」

 

「ミジューーッ!」

 

(……あれ?)

 

 勢いよく水が放たれたが、威力が何時もより低い。どうしてとサトシとミジュマルが考えると同時に、デントが指示を出す。

 

「ヤナップ、ソーラービーム」

 

「ソーラービーム? あれはチャージに時間が――」

 

「ヤナ~……プーーッ!」

 

「――てっ、嘘ぉ!?」

 

 技の源、太陽光のチャージに時間が必要なソーラービームを、ヤナップは即座に発射。太陽の光線は高速で水の柱を容易く貫通し、ミジュマルに迫る。

 

「ミジュマル、ホタチでガード!」

 

「――ミジュ!」

 

 迫るソーラービームを、ミジュマルはホタチでガード。強烈な衝撃が伝わるも、全身に力を込めて踏ん張る。

 

「ミジュジュ……!」

 

「へぇ、ホタチで防ぐかあ。なら、ヤナップ、がんせきふうじ」

 

「ヤプ!」

 

 しかし、この間をデントが見逃す訳もない。ヤナップが力を込めた両手を地面に叩き付けると、無数の瓦礫が跳ね上がり、ミジュマルへと襲いかかる。

 

「やばい……!」

 

 このままでは、ソーラービームかがんせきふうじのどちらかがミジュマルに直撃してしまう。

 

「――ミジュマル、みずてっぽうを地面に向かって放て!」

 

 そこでミジュマルに地面にみずてっぽうを放たせる。その勢いで真上に飛び、ソーラービームを回避する。

 

「ミジュマル、シェルブレードで岩を切り裂け!」

 

「ミジュ!」

 

 ホタチを構え、水の刃を展開。無数の瓦礫を切り裂き、ミジュマルは無傷に着地。エヘンと胸を張る。

 

「やるね。あの連撃を乗り切るなんて。コーンやポッドに勝っただけはあるよ」

 

「どういたしまして。それにしても、にほんばれの影響が残っている内にソーラービームだなんて……。抜け目が無いですね」

 

「オードブルを提供しただけさ。残念ながら、ご満足はしてもらっていない様だね」

 

「そっか、にほんばれ……」

 

 見上げると目に写る天井付近にある、強い日差しを放つ熱と光の塊。これの下では、ソーラービームのチャージが瞬時に終わる効果もある。デントはこれを利用したのだ。

 とは言え、今はもうかなり小さくなっており、数秒後消滅。

 熱や光が少しずつ和らいできた。もうソーラービームの即時発射は不可能だし、水の威力も取り戻した。それらはもう気にしなくて良い。

 

「では、メーンまでの料理を提供させてもらうよ。ヤナップ、タネマシンガン」

 

「ヤプヤプ!」

 

「ミジュマル、ホタチでガード!」

 

「ミジュ!」

 

「そうくるよね。――がんせきふうじ」

 

 ヤナップの口から、無数の種が発射される。ミジュマルはソーラービーム同様にホタチでガードするも、そこにまたがんせきふうじが迫る。

 だが、それらによって発生した瓦礫はミジュマルではなく、その周囲に落下して包囲する。

 

「……当てない?」

 

「ヤナップ、上空からタネマシンガン。――周りにね」

 

「ヤプププ!」

 

 ヤナップはミジュマルではなく、包囲する瓦礫に目掛けてタネマシンガンを乱射。無数の種は岩にぶつかって跳ね返り、周りからミジュマルを襲う。

 

「ミジュマル、みずてっぽうで薙ぎ払え!」

 

「ミジュマーーッ!」

 

 みずてっぽうで無数の種を落としていくも、数が多すぎた。幾つかがミジュマルに当たって体勢を崩し、ダメージを与えながらその場に留める。

 

「ミジュジュ……!」

 

「ヤナップ、かわらわり」

 

「ミジュマル、ホタチで――」

 

「ヤプーーッ!」

 

「ミジューーッ!」

 

「ミジュマル!」

 

 力を込めた手刀をヤナップは振り下ろす。ミジュマルはホタチでガードしようとしたが、間に合わずに諸に食らって吹き飛び、岩壁に衝突する。

 

「――如何かな?」

 

(強い……!)

 

 水のように流れるトリッキーさのコーン。炎のように燃え盛るパワーのポッド。

 その二人ともまた違う、自然の緑のような深く濃密なテクニカルさ。それをデントは持っていた。彼もまた強敵なのは疑いようがない。

 

「まさかとは思うけど、これで終わりじゃないよね?」

 

「勿論だ! ミジュマル、シェルブレードでがんせきふうじの岩ごとヤナップを切り裂け!」

 

「ミジュマーーッ!」

 

「ヤナップ、かわして」

 

「ナップ」

 

 一つの線が走る。直後にがんせきふうじの岩が全て横に両断された。しかし、回避しつつ距離を取っていたヤナップは無傷だ。

 

「良い一撃だ。だけど、当たらないと意味は無いよ」

 

「……ミジュマル、みずてっぽう!」

 

「ミジュ!」

 

「単調な攻撃だね。ヤナップ、回避」

 

「ヤプ」

 

 ヤナップはスッと動いて、みずてっぽうで軽々とかわす。

 

「連続でみずてっぽう!」

 

「ミジュミジューーッ!」

 

「なら、こっちも連続で回避」

 

「ヤプヤプ」

 

 軽く動き、連続のみずてっぽうをかわしていくヤナップ。

 

「どうしたのかな? 急に深みの無い攻撃になって。そんな攻め方で、僕とヤナップを勝てるとでも?」

 

「ミジュマル、みずてっぽうを続けろ!」

 

 先のコーン、ポッドとの戦いとは全く違いすぎる攻め方に、徐々にデントはつまらなさを抱いていく。

 

「どうしたんだ、サトシのやつ。攻め方がまるっきり雑になってるじゃねえか」

 

「確かに変ですね……」

 

 単調な攻撃が無かったとは言えないが、それにしてもこれはあまりにも雑すぎる。明らかに可笑しい。ポッドもコーンも疑問を抱いていた。

 

「なーに、あれ? お粗末にも程があるじゃない」

 

「本気じゃないのよ。でないとあんな戦い方しないわ」

 

「そもそも、水タイプで挑んでいるんだし……所詮はあの程度って事ね。先の戦いも偶々勝てたに違いないわ」

 

「何やってるのよ、サトシ……。あんな攻め方で勝てる訳無いじゃない」

 

「キバ……」

 

 女性客達は怒りの、アイリスは呆れの言葉を出していた。

 

「……こんな浅い攻撃ばかりするなんてね。どうやら、僕は君を過大評価していた様だ。ヤナップ、かわらわり!」

 

「ヤー……!」

 

 やれやれと、落胆したデントは手で頭を抑えると、ヤナップに指示を出す。

 

「今だ、ミジュマル! 手前の足場にみずてっぽう!」

 

「――えっ?」

 

「ミジューーッ!」

 

 ミジュマルが手前の足元に水を放つ。みずてっぽうは地面に大きな水溜まりを作り、そこを踏んだヤナップが足を滑らせて体勢を崩す。

 

「ヤプゥ!?」

 

「シェルブレード!」

 

「ミジュマァ!」

 

 水の刃がヤナップを斬る。効果は今一つとは言え、無傷ではいられない。確かなダメージを刻んだ。

 

「更にみずてっぽう!」

 

「がんせきふうじで防御!」

 

 ここで下手に動けば大きなダメージを受ける。体勢を整えるため、ヤナップは自分の手前にがんせきふうじで展開。みずてっぽうを防ぐ。

 

「シェルブレード! 岩ごとヤナップを切り裂け!」

 

「ヤナップ、後退!」

 

 ヤナップが下がった直後、がんせきふうじの岩がまた真横に両断される。

 

「ミジュマル、その岩に向かって全力でみずてっぽう! 押し出せ!」

 

「ヤナップ、かわらわりで岩を砕くんだ!」

 

 フルパワーのみずてっぽうにより、両断された岩の一つが高速で押され、ヤナップに迫る。

 力を込めた手刀で岩を粉砕するも、その背後には水の刃を構えたミジュマルが姿を表す。

 慌てて回避をしようとしたヤナップだが、その前にシェルブレードが直撃する。

 

「ヤナップ、大丈夫かい!?」

 

「――ヤプ!」

 

 吹き飛ばされたヤナップはそれを利用し、ミジュマルから距離を取る。

 

「どうだ!」

 

「ミジュ!」

 

 一度ではなく、二度もダメージを与え、二人は不敵な笑みやドヤ顔を浮かべる。

 

「やられたよ。さっきの単調な攻撃の数々は、僕の判断を鈍らせつつ、地面に放つことを悟られない為のブラフだったとはね」

 

 どうやら、甘く見ていたのは自分だった様だ。その事実をデントは素直に受け止めた。

 

「イッツ……テイスティングタイム!」

 

「……テイスティングタイム?」

 

「出たわ! デント様のテイスティングタイム!」

 

「今日も聞けるのね!」

 

「えっ、なになに? 何が起きるの?」

 

 何がなんだがと戸惑うサトシ達を他所に、女性客達の黄色い声援を浴びながらデントはポケモンソムリエとしての評を出す。

 

「君とミジュマル……個性は強いも、残念ながら、まだまだ一体感のある味わいではないと言わざるを得ないね」

 

「な、なんだと!?」

 

「君の意志はとても素晴らしく、熱い。ミジュマルからは君への強い信頼を感じる。一件、非の打ち所がないように見えるが……悲しいかな、ミジュマルが君に追い付いていないのさ。その証拠に……」

 

 デントは手を裏返した状態で、ピッと人差し指をミジュマルに向ける。肩で息をするほどに消耗しているミジュマルを。

 

「ミジュマルは既に相当な消耗をしている。君の力量に付いていけてない、何よりの証さ」

 

「ミジュマル……!」

 

「ミジュ! ――ミ、ミジュ……?」

 

 サトシの指示に、ミジュマルは必死に従っていたが、それゆえに体力を酷く消耗していた。

 特に連続のみずてっぽうは疲労されるのに充分。こうして今、何もないのにふらついてしまうほどに。

 

「それを見ても、君達がまだ最近始まったばかりの関係だと分かる。マメパトやポカブもね」

 

 前の二匹の消耗には、サトシの力量との差も影響していたのだ。二匹はそれが表面化する前に決着した為に感じなかっただけ。

 しかし、ミジュマルは苦手な属性で戦っており、その差を埋める戦術を用いたために影響が早く出始めたのだ。

 

「苦手な相性のヤナップにここまで奮闘したこと自体、実に見事だよ。先の二勝を見ても、君のトレーナーとしての能力の高さは疑いようがない。しかし、ポケモンは別なのさ」

 

 サトシのトレーナー能力は、ポケモンリーグに参加できるレベル。それと、初心者用のポケモン。差があって当然だった。

 

「……ミジュマル、まだ行けるか?」

 

「――ミジュ!」

 

 ここまで戦っているのに、負けたくない。自分の為にも、自分を勝たせようと必死に指示してくれるサトシの為にも。

 ミジュマルは疲れた身体に渇を入れ、しっかりと立つ。

 

「俺達はまだ、戦える!」

 

「ミジュジューーッ!」

 

「深緑を思わせる濃さ、猛火の如き熱さ、また真水の様な清らかさも感じさせる……。ふふふ、実に、実に味わい深いテイストだよ」

 

 これが短期間での作り上げたとは、とても思えない絆だ。

 

「コーンとヒヤップの流れを超える対応力、ポッドとバオップの熱さを上回る闘志……。サトシ、ミジュマル、君達はこのバトルで僕とヤナップの深さを凌ぐ力を発揮出来るかな?」

 

「超えて見せる! なぁ、ミジュマル!」

 

「ミジュ!」

 

「では、僕とヤナップは全力でその想いに応えよう! ヤナップ、タネマシンガン!」

 

「ヤプ!」

 

「ホタチでガード!」

 

「がんせきふうじ! 但し手前にかつ、大量に!」

 

 ミジュマルは種の乱弾をホタチでガード。ヤナップがその隙にがんせきふうじを発動するも、展開されたのはヤナップの手前、しかも壁の様に積み重ねていた。

 

「何で手前に……?」

 

「こういう事さ。ヤナップ、ソーラービーム!」

 

「ヤナ~……!」

 

「しまった! 時間稼ぎの為の!」

 

 発動までのチャージ時間を稼ぐために、がんせきふうじを展開して盾にしたのだ。このままでは不味い。

 

「ミジュマル、シェルブレードだ!」

 

「ミジュ!」

 

 発動を潰すべく、ミジュマルはホタチに纏わせた水刃を振り回し、瓦礫を次々と両断。ヤナップまでの道を切り開いた。

 

「貰った! シェルブレード!」

 

「ミジュマ!」

 

 チャージは完了していない。ここで決めると、ミジュマルは水の刃でヤナップを切り付けた。

 

「良し――」

 

「掛かったね」

 

「ナー……!」

 

 しかし、ヤナップは怯まない。太陽の光のチャージを続け――完了した。

 

(しまっ、た……!)

 

 デントは最初から、これを狙っていたのだ。ミジュマルを誘い出し、至近距離で確実にソーラービームを命中させる為に。

 

「これで終わりだよ。――ソーラービーム!」

 

「――プゥーーーッ!」

 

「ミジュマル! シェルブレード!」

 

「ミジューー……マーーッ!?」

 

 太陽のビームと水のソードが激突する。しかし、属性は不利、威力でも劣るシェルブレードは三つ数える時間の間に掻き消され、ソーラービームはミジュマルにまともに直撃。

 ミジュマルはホタチと共に、地面に何度もバウンドしながら大きく吹き飛ばされ、最後は地面に力無く倒れた。

 

「ミジュマルーーッ!」

 

「ち、直撃……!」

 

「キバー……!」

 

 キバゴは思わず目を塞ぎ、アイリスも女性客達はミジュマルの敗北を確信する。

 

「……こりゃ、決まったな」

 

「えぇ、あの近距離でまともに喰らえば……」

 

 草タイプの中でも、最高クラスの威力を持つソーラービームを、苦手な水タイプがまともに受けたのだ。

 コーンやポッド、サトシやピカチュウさえも敗北だと、そう思わざるを得なかった。

 

「残念だけど、僕たちには一歩及ばなかったね。だけど、恥じることは無いよ」

 

 苦手なタイプ、トレーナーとポケモンの力量差、まだ短い期間の繋がり。それらを考えれば、大健闘と言えるだろう。デントはサトシに見事と褒め称えた。

 

「審判、コールを」

 

「えぇ。ミジュマル、戦闘――」

 

「ミ……ジュ……!」

 

 コーンがデントの勝利を告げようとした、正にその時だった。瀕死だったはずのミジュマルが動いたのだ。

 

「ま、まさか……!? ソーラービームの直撃を受けてまだ……!?」

 

「ヤ、ヤナ……!?」

 

 デントとヤナップに信じられない物を見る眼差しを向けられる中、ミジュマルは満身創痍の身体をゆっくりと、辛うじて起こし、運良く近くにあったホタチを掴む。

 しかし、痛みと疲れでふらふら。今にも倒れそうだ。

 

「ミジュ……! ミジュ……!」

 

「ミジュマル……!」

 

「おいおい、マジかよ……」

 

「偶々、ではありませんね」

 

 おそらく、先程のシェルブレードがソーラービームの威力を削り、体力をぎりぎり残す要因になったのだ。あの判断が無ければ、ミジュマルは確実に倒れていただろう。

 

(けど……!)

 

 これは瀕死寸前だ。攻撃も、一度か二度が限界だろう。こんな状態でまだ戦わせるのか。サトシにはその迷いが有った。

 

「ミジューーー……マーーーッ!!」

 

「水……!? これは……!」

 

 ミジュマルの周囲から、天を貫き、また全てを飲み込み、流し尽くすような激しい水柱が立ち昇る。

 その力の余波に、サトシは皮膚がピリピリと震えるのを感じた。

 

「『げきりゅう』……!」

 

 ポカブと同じく体力が残り少ない時に発動する、言わばもうかの水タイプ版の特性、げきりゅう。それがこの極限状態で起きたのだ。

 

「……ミジュマル。最後まで戦いたいか?」

 

「ミジュ!」

 

 しかし、この特性が発揮されても尚、サトシには迷いが残っていた。だからこそ、ミジュマルに問い掛けた。

 そして、ミジュマルはその問いに頷いた。ここまで来たら最後の最後まで足掻きたいのだ。

 

「なら――行こう!」

 

「ミジュ!」

 

 ミジュマルはまだ、戦いを諦めていない。ならば、自分は彼のトレーナーとしてその意志を尊重し、また勝たせるように最後まで指示を考える。たったそれだけだ。

 

「最後の勝負という訳だね。良いだろう、ならば最強の一撃で倒すのがマナーというもの。ヤナップ、ソーラービーム!」

 

「ヤナ~……!」

 

 ここまで来て戦いを諦めない彼等を、小手先の技で倒すのは失礼極まりない。最大の一撃こそ相応しい。

 ヤナップは三度、ソーラービームのチャージを開始。太陽光を吸収していく。

 

「ミジュマル――シェルブレード」

 

「ミジュマーーーッ!!」

 

 みずてっぽうでは、げきりゅうが発動していてもソーラービームには勝てない。体当たりは無理がある。ならば残るは一つ。

 シェルブレードのみとサトシと水のように静かに決め、指示を伝える。

 ホタチから水の刃が展開される。しかし、その大きさは今までとは一回りも二回りも、いやそれをも優に凌駕していた。

 

「で、でけえ!」

 

「何て大きさ……!」

 

 それは正に全てを流し、切るかの如しの水刃。今持てる全てを注ぎ込んだ最大にして最後の一撃。

 

「ミジュマル、まだだ」

 

「ミジュ……?」

 

「お前の刃は、何時もそうだったか?」

 

「……」

 

 違う。何時も振るう刃はこれではない。

 

「その水を、力を極限まで圧縮して、最強の刃を作り上げろ。ミジュマル!」

 

「――ミジュゥ!」

 

 水の刃がミジュマルの意志に呼応し、渦巻き出す。大きさは徐々に縮むも、その力と威力は反比例して高まっているのを全員が察していた。

 

「ミジュー……!」

 

「ヤナー……!」

 

 水の圧縮、光の吸収が続く。それが終わったのは単なる偶然か、或いは必然か。同じタイミングだった。

 

「斬り裂け、ミジュマル!」

 

「ヤナップ、発射!」

 

「ミジュ~……マーーーッ!!」

 

「ヤナ~……プーーーッ!!」

 

 数秒も経たない内に、激流の水刃と太陽の光線がぶつかり合う。属性、本来の威力で考えれば、勝つのがどちらかかは一目瞭然。

 

「ミジュー……マァアァ!!」

 

 しかし、極限まで引き出され、圧縮された水刃は属性不利も威力差も超え、光線を真っ二つに両断する。

 

「ソーラービームを……切り裂いた!?」

 

「行っけぇ、ミジュマルーーッ!」

 

「ミジューーーッ!!」

 

「ヤナップ、かわらわり!」

 

「ヤナプゥーーーッ!!」

 

 雄叫びを上げる二匹と共に、水刃と手刀が交錯。その後、極限まで張り積めた空気で満たされたバトルフィールドは無音となる。

 ドクン、ドクンと、高鳴る心臓の鼓動音がサトシとデントの耳に嫌に響き、汗で服を濡らす。

 そんな時間が数秒か、数十秒か、数分か、どれだけ経ったか分からないその時、遂に結果が訪れる。

 

「ミ……ジュ……」

 

 ぐらついたのは――ミジュマルだった。身体が傾き、ホタチを落とす。

 負けた、そう思ったサトシだが、ミジュマルは最後の力を振り絞り、踏ん張ってヤナップを睨み付けた。

 

「ヤ……ナ……プ……」

 

 直後、ゆっくりとスローモーションの様に、ヤナップは体勢を崩し――地面に倒れ込んだ。目を回して。

 

「ヤナップ、戦闘不能! ミジュマルの勝ち! よって、最終試合――チャレンジャー、サトシの勝利!」

 

「……勝っ、た?」

 

 その事実を認識するのに、サトシは十数秒の時間を有した。

 

「勝った……。勝ったんだ! ――よっしゃーーーっ!!」

 

 完全勝利。それをしっかりと認識したサトシだが、真っ先にミジュマルの側まで駆け寄り、強く抱き締めた。

 

「ミジュマル、ありがとう!」

 

「ミ、ミジュ~……。――ミジュッ!」

 

「あっ、ごめん。大丈夫か?」

 

「ミージュジュ!」

 

 何のこれしきと、ミジュマルは笑顔を向ける。ただ、あちらこちらが痛いのか、直ぐに表情が歪む。

 

「あぁごめん、ミジュマル!」

 

 感激の余り、思わず抱き締めてしまったが、今はミジュマルにはキツイはずだ。サトシは謝りながらゆっくりと下ろす。

 ミジュマルは激戦の疲れを休めるように、地面に仰向けになった。

 

「見事だったよ。サトシ」

 

 激戦に敗北したデントだが、先の二人同様、清々しい表情を浮かべていた。

 

「デント」

 

「まさか、あの場面から逆転されるなんてね」

 

「だけど、決して運任せじゃねぇ」

 

「えぇ、ミジュマルの奮闘も勿論必須でしたが、君の戦術も有っての勝利でした」

 

「一度の効果は薄くとも、シェルブレードでヤナップの防御力を下げる。その戦術が無くては、勝てなかっただろうね」

 

「あはは……バレてた?」

 

「勿論」

 

 シェルブレードには、相手の防御力を下げる効果がある。サトシがこの技を多用した理由はここにあった。

 あの最大威力のシェルブレードでも、あれだけでは勝利は無かった。事前に防御を何度も下げたからこそ、必殺の一撃と化したのだ。

 

「ポケモンとトレーナーの、限界を超えた力を発揮する見事なテイスト。僕の――いや、僕達の完敗だよ」

 

「サトシくん。これがこのジムを攻略した証」

 

「また、俺達三人に見事勝利した証――トライバッジだ」

 

「君に是非とも、受け取って欲しい」

 

 デントに差し出された、青、赤、緑の三色の菱形が繋がったような形のバッジ、イッシュ地方最初のジムを攻略した証、トライバッジをサトシは受け取ると、高く掲げた。

 

「トライバッジ……ゲットだぜ!」

 

「ポー!」

 

「ポカポカ!」

 

「ミジュー!」

 

 サトシのポーズに、勝利に貢献した三匹は疲労困憊ながらも、彼に同調した喜びの声を上げる。

 

「ピカ~……」

 

 一方、体調不良で仕方ないとは言え、勝利に貢献出来なかったピカチュウは少し不満な様子。しかし、親友が勝ったのは素直に嬉しいので直ぐに引っ込めたが。

 

「あぁ……デント様まで敗北するなんてぇ……」

 

「気持ちは分かるけど……こうなった以上は、あの子の勝利を讃えるべきよ」

 

「そうそう、じゃないとあの子だけじゃなく、三兄弟様にも失礼だもの」

 

 ファンとしては、三兄弟の全敗北は確かに悔しい。しかし、だからと言ってその事実を認めないのはサトシの、引いては彼等の戦い振りを貶すと同意義。

 女性客達はパチパチと、サトシとポケモン達に勝利を讃える拍手を送った。

 

「ありがとうございます。――アイリス、勝ったぜ!」

 

 拍手に頭を下げたサトシは、アイリスにどうだと言わんばかりにバッジを構える。

 

「あのね~、そもそも一人に勝てば良いバトルだったのよ? それなのに、手間と負担の掛かる全員を選んだんだから、勝てなきゃ情けないわよ」

 

「キバキバ」

 

 そう告げるアイリスと、確かにと頷くキバゴだが、突如寒気がした。右を見ると、女性客達が自分達を睨んでいるのに気付いた。

 

「なによ、あの子。自分は戦っても無いくせに……」

 

「というか、勝ってなきゃ情けないって……何様のつもり?」

 

「三兄弟様が負けて当然って訳?」

 

「それって、三兄弟様やあの子の頑張りも馬鹿にしてるのと同じじゃない」

 

「じゃあ、自分が戦って勝ってから文句言いなさいよ」

 

「そうよ。終わった勝負にケチ付けるんじゃないわよ」

 

「あっ、いや……。そういうつもりじゃ……。――し、失礼します!」

 

 批判に満ちた眼差しを向けられ、アイリスは逃げる様にその場を離れた。

 

「あらら」

 

「む~……」

 

「とにかく、お疲れ様。ポケモンセンターでゆっくりしてほしい」

 

「そうだな。そうするよ」

 

 デントの言う通り、三匹を回復させようとサトシはポケモンセンターに向かう。

 

「……」

 

 少年の後ろ姿に、デントは何かを考えるように顎に手を置いていた。

 

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