ロウきゅーぶ! ~もう一人のコーチ~   作:アレイスター

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昨日に続いて二話目の投稿です!
連続投稿なんていつまで持つかわかりませんが、とりあえず浮かぶ間はどんどん書いていきたいと思います。


第一Q スカウト

ガンッ……!!!

掴んだリングから手を放して、地面へと衝撃を軽減するために少し膝を曲げつつ着地。

俺の与えた衝撃によっておこったリングの細かく震える振動音とバスケットボールが跳ねる音だけが赤く染まった公園に響いた。

肩で息をする程度には長時間動き回ったため、一度休憩しようと転がっていくボールを拾ったあと、自分の荷物を置いたベンチに腰を下ろして一息ついた。

もうアメリカの時ようにみんなとバスケをすることはできない。

それでもバスケだけは手放したくないとあがいてやっているのが学校帰りにこのシャックとの思いでの公園で一人でひたすら技を磨いておくことだった。

別に一人でやっているのがつまらないなんてことは全く思わない。練習は何時間していても飽きないし、NBAの動画を見れば練習したい技なんていくらでも見つかる。

ただ、上達すればするほど空しさはどんどん増していった。

今日はたまたま人が誰一人としていないが、いつもであればちらほらと子供の影があったり無かったりする。

この町のこどもの人口自体がそれほど多くないからいても2,3人程度だが。

だから、練習相手の居ない俺にとって個人練習をするのにこの公園はうってつけだった。

ベンチにかかっているタオルを近くの水道で水にぬらして目のあたりにかぶせる。

これがいつもの俺の休憩スタイルだ。

ただでさえ息が切れて音なんて聞こえるような余裕がないのに、タオルで視界を完全にシャットダウンしてしまったがために、俺は近づいてくる人の影に気付くことができなかった。

突然ほおにひんやりとしたものがあたった。

反射的にビクッとなると、ななめ45度あたりの方から愉快そうに笑う声が聞こえてきた。

まったく、子供みたいなことをする奴だ。

そんなことを考えながら俺はタオルを目からはずし、誰の仕業かを確認した。

犯人は、仕事帰りの中年のオッサンだった。

身長、体格ともに平均的より少し大き目といった感じで、茶色系のブレザーのようなものをボタンを開けてだらしなく着ているが、なんとなくそれは様になっていると言えなくもない。

右手にはビジネスバッグ、左手には俺のほおに当てたと思われるアクエリアスのカンが握られていた。

笑い声からはもっと老成した落ち着いた人のような感じがうかがえたが、目で確認すると、行動通りの子供っぽさが雰囲気に出ている。

たれ目だからだろうか、顔がずっと笑っているようにも見えて優しい雰囲気もどことなく感じるような人だった。

 

「いやぁ、突然すまないね。君があまりにかっこいいものだからつい……」

 

その言葉中年のオッサンよりもぜひ女の子から聞きたいものだ。

 

「あ、これあげるよ。となりいいかな?」

 

差し出されたアクエリアスを受け取ると、ありがとう、と言って男は隣に座った。

 

「いやぁ、それにしても君、バスケうまいねぇ。なんだかNBAの試合を見てるみたいだったよ。いくつくらいなんだい?」

 

誕生日はまだ迎えてないから俺は15ってことになるな。

 

「15です。今年から高1です」

 

誕生日の早い中学生と間違われないために一応付け足しておく。

 

「高校生かぃ!?いやぁ、私はてっきり大学生だとばかり思っていたよ。あ、別に君が老けてるって意味じゃないんだよ?ただ、あんまりにも動きがすごすぎてね。いやぁ最近の高校生っていうのは本当にすごいんだねぇ。」

 

関心関心、と首を縦に振る男の横からふと何か一枚の長方形の紙が落ちた。

それを俺はつい癖で反射的に落ちる直前にキャッチした。

落ちた紙は紙ではなく写真だった。

栗色のセミロングの髪をツインテールにしていて、ぱっちりと大きな目元。

真っ白なワンピ―スを着て八重歯を出してカメラに向かって天真爛漫に笑いかける小柄な少女が写っていた。

 

「凄い反射神経だね!いやぁ、ほんと君には驚かされっぱなしだよ。」

 

男はあっはっはと豪快に笑い飛ばして見せる。

俺的にはそんなことよりこの人がどうしてこんな写真を持ってるかのほうがよっぽど気になるんだが。

すると、俺の心を読んでか読まずか男はすぐに答えを教えてくれた。

 

「かわいいだろぅ?真帆というんだ。私の娘なんだよ。この写真はいつも私のお守りとしてもっているんだ。365日一度たりともこの写真を手放したことはないよ。この娘の笑顔を見るだけで私は生きていける!」

 

興奮していて声がだんだんと大きくなっていた。

男はどこまでも誇らしく、楽しそうに、娘の自慢話をした。

その後も続く写真の娘の自慢話を聞く中で俺は思っていた。

凄い親ばかだな。

でも、いい親だな。

なんとなく自分の父親のことを思い出した。

親父もこんなふうに俺のことを思ってたのかな?

こんなふうに周りにべらべらしゃべられるのは恥ずかしいけど。

しばらくしゃべったところでようやく我に返ったようで、再び口調が落ち着いた。

 

「おっと、少ししゃべりすぎてしまったね。それで、ここからが本題なんだが、実は私が君に近づいたのはこの娘がらみのことでね。真帆は最近学校のお友達とバスケをはじめたんだが、どうやら伸び悩んでいるようなんだが、私は何分忙しい身でね、娘がどんなことで困ってるかもわからないし、まったく相手をしてやれないんだよ。まったくどうしようもない父親だよ。」

 

男は本当に悔しそうだった。

俺はその後に言われそうなことに大体予想がついていた。

 

「で、どうだろうか?私の娘の専属コーチとしてうちに来ないか?」

 

俺は答えに迷っていた。

 

「俺じゃあ、正しい指導ができないかもしれませんよ?」

 

どんな指導が正しいのかイマイチ俺にもわからないが、少なくとも、俺は日本のバスケではなくアメリカのバスケに憧れて、それをずっと追いかけてきた。

だからこそ、生意気だと中学では孤立したし、未だに日本で誰かとバスケもできないでいる。

日本では、おそらく俺のバスケは間違っているのだろう。

そんな俺が伸び悩んでいるようなデリケートな女の子相手に、もしも間違ったことを言ってしまったら……

この人の大事な大事な娘に間違ったことを教えてしまったら……

その不安が拭い去れなかった。

だが、男は何かを含んだ笑みを俺に向けてからこう言った。

 

「細かい指導をする必要なんかないさ。男なら、背中で語り給え!」

 

そして俺を指差して高らかに言った。

 

 

「私は君のプレーに惚れたんだ!」

 

 

男の言ったその言葉はあまりに清々しくて、俺の不安はすべて吹き飛んで行った。

 

「……やれることをやってみようと思います。」

 

「あぁ、よろしく頼むよ」

 

俺は真帆のコーチを引き受けた。




いかがだったでしょうか。
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