この調子でどんどん更新していきたいですね!
真帆は目の前の出来事にすぐには声を上げることもできなかった。
全力で真のことを止めてやろう
そう思って構えていた手は一度も真に触れることはなく、ただ茫然と追いこしていく真の姿を目で追っていた。
どう攻めてくるか、という問題ではない。
純粋なドライブのスピードと真からでる迫力が真帆を圧倒していた。
例え真帆の予想が真が右側にロールで抜いてくるという予想だったとしても、真帆は同じ現状だったに違いなかった。
たった一瞬の出来事。
だが、その一瞬で真帆は改めてバスケのかっこよさは目の当たりにした。
かつて自分が憧れた湊 智花のプレーの記憶を上書きするように、真のプレーは真帆の頭に、鮮明に刻み込まれた。
声も出せなかった直後の状態から一転、いずれは自分の同じことができるようになるのかと思うと真帆の目はたちまち星のようにキラキラと輝き、マシンガンのごとくその思ったままの感想が口から飛び出した。
「すごいすごいすごーい!もう、すごすぎだよ!いっちー!今の何!?なんていう技!?ぜんっぜん動けなかった!あれってあたしでもできるようになる!?」
真帆は真のもとへと走っていき、逃がすまいと言わんばかりにジャージの服の部分をがっしりと掴んで真を見上げた。
どうやら真の技(と言える代物なのかどうかは置いといて)は真帆の心を射止めたようで、真はホッと胸をなでおろした。
真がしたのはロールターンという基礎技で、小学生でもコツさえつかめばできる簡単な技だ。
真がこの技しかできなかった、なんてことはもちろんない。
だが、あえて真はこれにした。
それは、真帆に印象付けたかったからだった。
―――基礎技というものを
かつての自分がシャックにしてもらったように。
「もちろん、出来るようになる。そのために俺はここにいる。」
本能的に安心させようと真は真帆の頭に手をのせて、ぐりぐりとなでた。
しっかりと手入れされたサラサラの髪の感覚が真の手に強く残った。
「いっちーに頭なでられるとなんか安心する。お兄ちゃんみたいだ!」
無骨で大きい手で荒々しく撫でられた。
それは兄弟の居ないそして温室育ちであった真帆にとっては新鮮なものだった。
だが、その荒々しさに一種の暖かさを真帆は感じていたのだった。
「さて、じゃあ練習始めるか!」
「うん!」
こうして今日の二人の練習は幕を開ける。
☆
時間は昼に差し掛かり、だんだん日差しも強くなり始めていた。
「さぁ、あと50回だ。だんだん腰が上がってきてるぞ。手首はもっと柔らかく、ボールの勢いを吸収するような感じで。」
俺が真帆に今日させたことと言えば、ひたすら低姿勢のドリブルだった。
とりあえず、ボールに慣れてもらう必要があるから、しっかりとした練習のドリブルばかりでなく、とりあえずついてればいい、という感じのものを500回ほどやってもらった。
ちょくちょく休憩はとっているが、普通の状態であってもドリブル500回はなかなかしんどい。
おまけに、今日はまだ春先だというのに夏を感じさせるほどに暑い。
きっと明日は足が棒になっていることだろう。
「うぅ、いっちーが厳しいよぅ。鬼コーチだぁ」
先ほどまでの笑顔はすっかりと消え去り、真帆の顔にはただただ疲労だけが残っていた。
まぁ、俺をののしれるくらいに元気があるなら大丈夫だな。
正直真帆にとっては厳しいかもしれないが、これから俺との特訓の時は毎回これをやってもらう予定だ。
まずはかたちが整わないと話にならないからな。
「3、2、1、0!終わった―……!!」
終わったと同時に真帆はボールを手放してそのまま地面に倒れこんだ。
息は思っていたほど上がっていないな。大したもんだ。
無防備に倒れこんでいる真帆を見て俺は少しいたずらをしてみたくなった。
そっと真帆に近づいていき
――手に持ったキンキンに冷えたアクエリアスのカンを真帆の頬に押し当てた。
「――ひゃう!!」
真帆はまるで尻尾を踏まれた猫のように、ビクッとした。
あぁ、アンタがこれをやりたくなった気持ちがよくわかったよ。
かつて俺が真帆の父にやられたことを思い出しながら強くそう思った。
「もう、いっちー!」
「ごめんごめん。ほら、これ、俺のおごりだ。」
そういって頬に押し当てたアクエリをそのまま真帆に差し出した。
すると真帆は水を得た魚のごとく元気になり、音速で俺からアクエリを奪い去り、ゴクゴクと腹に流し込んだ。
「っぷはー。うめぇー!」
このときの真帆が今までで一番の笑顔を見せた気がする。
なんだかセリフは親父臭いけど。
「さぁ、じゃあ元気が戻ったところで、これから真帆の朝の特訓の成果を見るテストをしよう。」
「えぇー、まだやるのー?」
明らかに不満そうな声が真帆の口から飛び出す。
まぁ、しんどいのもわかるんだが……
今日は初めの方はできなかったが、次からは最初と最後に1on1をするのを俺との特訓では習慣にしておきたい。
「これでラストだ。頑張れ!さぁ、真帆、俺と1on1だ。」
自分がどれだけ今日うまくなれたのか、俺を使って実感してほしい。
今日で真帆はどれだけボールを見ずにドリブルができるようになったのかを。
どれだけ、ドリブル中に周りに視野を広げられたのかを。
そして、どれだけ低姿勢で相手にとられにくいドリブルをできるようになったのかを。
真帆は思いのほか、1on1と聞いた瞬間乗り気に立ち上がった。
「よっしゃー!今度は、あたしが攻める番だな!ぜってー抜いてやる!」
俺を指差しながら真帆はそう宣言した。
「そりゃ楽しみだ。」
やる気を出すためにももう一つ、楽しみを増やしておくか。
その代り1on1のたびに俺はドキドキしなくちゃならないけど。
「もし、今後一回でも1on1で俺を抜けたら真帆の言うこと一つ何でも聞いてやるよ。」
その言葉を聞いた真帆はうれしそうににやりと口もとを釣り上げながら
「言ったな?」
そう言った。
「男に二言はない。まぁ、真帆が俺に命令できる日は永遠に来ないけどな」
俺と真帆の視線がぶつかり合い火花を散らす。
その時、俺も真帆も、闘志はむき出しにしていたが、笑っていた。
☆
二人が公園にある一つのゴールに対し、オフェンスとディフェンスの立ち位置に分かれた。
真帆が静かにゆっくりとボールをつき始める。
そして、真のしたようにゆっくりと真が腰を落として構えている場所まで歩いていく。
ただ、真の様子だけを見つめながら。
次の瞬間、真帆の到着を待つことなく真が先に動いた。
真帆相手に真の背丈はかなり大きい。腕の長さも明らかに真の方が長い。
真帆が上からのジャンプシュートするのは間合い的にも元々の真帆のシュート力的にも不可能。
真の腕が真帆の後方で上下運動を繰り返すボールへと忍び寄る。
だが、真帆はそれを体とあいている左手で遮り、持ちこたえる。
その小柄な体格で、だけどしっかりと腰を低く構えることで、真に隙を与えない。
1秒、2秒、3秒。
その時間の間に幾度となく真の手はボールへと忍び寄る。
だが、一度として触れさせない。
ボールはまるで真帆と一緒にいたいかのように真帆からぴったりと離れない。
「ボールをキープするだけじゃ、勝てないぞ……!」
迫りくる魔の手から必死にボールをキープしながら真帆は真の動きを思い出した。
体力は練習のこともあってほとんど限界に近い。
勝負はこの一瞬しかない。
そう本能で真帆は感じていた。
そう感じた矢先、真帆はバックステップを取って真と距離を取った。
そして、真が距離を詰めてこようとする前に
――左足を軸にして
――手を外側にしてボールを包み込むように
――回り込む!
抜いた!
真帆はそう確信した。
だが、次の瞬間、抜き去って斜め後ろにいるはずの真の姿は、目の前に存在し、無防備に前にさらされたボールを無情にもかっさらった。
真帆のモーションは唐突に急停止を余儀なくされた。
真は余裕の表情でボール回しをしながら
「今回は俺の勝ちだな」
そう言った。
だが、余裕そうに見えていたのは真帆にだけだった。
真は真帆のあまりのポテンシャルの高さに想像以上の力を使わされて驚いていて、心のどこにも余裕などなかった。
ドリブルでは、今日、仕込んだことを着実にこなしてかなりの粘りを見せ、見よう見まねで行ったロールターンは見事に決まっていた。
おそらく、あのロールターンをみせて、見よう見まねで初めてやりました、などと言ったところで誰も信じまい。
真帆は真を抜けなかったことを本気で悔しがっていた。
今も、んなーくっそー!と叫んでいる。
目の前にいる天才に真は自分の心臓の鼓動がどんどん激しくなっていくのを感じた。
日本に戻って以来、初めて心の底からバスケを楽しんでいる。
このとき真はそう実感していた。
どうだったでしょうか?
今回はすこし用語をそのまま入れてみましたw
感想などありましたらいつでもお待ちしてますんで、よろしくお願いします。