ごゆるりと楽しんでいただけると幸いです。
どうしてこうなった……
別にどんな経緯でこうなったかを知らないわけではない。
だが、今の現状は俺の予想していた展開からはあまりに斜め上方向にずれすぎていて、心の中でだけでもそう叫ばずにはいられなかった。
「ねぇ、いっちー!この服どう?似あってる?」
試着室のカーテンを全開にして、自分でコーディネートした服装を俺に披露する真帆の姿がそこにはあった。
さっきまでにもいくつか見せてもらったが、今回試着しているのは、ジーンズ生地のショートパンツに白色で筆記体(のような何か)で文字が書かれている真っ黒な半袖のシャツ。
そこはやはりブランドメーカーの服なんだな、と思わせる、その文字がまた見事にシャツのカッコよさを醸し出していた。
そして、その黒色の半袖の中には紫色のタンクトップを着ており、本来の真帆のイメージとはかなり違ったクールでかっこいい真帆がそこには誕生していた。
店員さんが言うにはこういうのはストリートファッションというらしい。
本当に服装ひとつでどこまでも印象っていうのは変わるもんなんだな。
「あぁ、さすが真帆だ。よく似合っているよ。」
「だろーっ!へへっ」
それでもやはり、性格が天真爛漫な女の子ということに変化はないようだ。
あくまで変わるのは第一印象だけ、だな。
真帆は店員さん顔負けなほどに見事なファッションセンスを身に着けており、あまりに似あいすぎていて宣伝広告として写真撮影をさせてほしい、とまでお願いされていた。
「お二人とも本当に美形で、うらやましい限りです。どうですか?お兄さんもよろしければぜひ妹さんと二人で並んでいただいて写真いかがですか……!」
なっ!?なぜ俺まで巻き込む!?
俺が美形って、目おかしいんじゃないですか!?
「おにーちゃん、ちょっとぐらい撮ってあげてもいいじゃん。撮ろうよ!」
さらにいつの間にか真帆まで俺の呼称をいっちーからおにーちゃんへとジョブチェンジさせている!
俺は真帆のお兄ちゃんにジョブチェンジした記憶はないんだが、店員さんが兄弟と勘違いしたのをいいことに俺をからかっているんだろう。
この際、兄弟と間違われていてもそんなことはどうでもいい!
なんとかしてこの写真撮影からは逃れなければ……!
「俺は、本当に服装とかそんなに得意じゃないと言いますか……」
「大丈夫です!私たちが責任を持ってお兄さんにバッチリ似あったコーディネートをさせていただきます!」
いつの間にか、服の全身一式を持った店員さんが何人か周りに集まっている。
それはもう、にこやかな笑顔で。
「もう、諦めなよ、おにーちゃん。にししっ!」
真帆め、完全にこの状況を楽しんでやがる……!
おかしい……
午後からも俺は真帆とバスケの練習をしているはずだったんだ。
今度は左のドリブルを真帆に今頃はさせている予定だったんだ。
だが、今、俺たちがいるのは、俺の家から徒歩20分くらいの位置にある大型のデパート。その中に含まれている何十店舗の一つの洋服屋だった。
☆
「とりあえず、午前の練習はいったんここで終了だ。それで、これからなんだが、真帆の家はここから遠いのか?」
父親が偶然にも会社の帰り道に通ってたりすることを考えると、おそらくそんなに遠い場所ではないだろう。
そんなことを安易に考えていたのだが、次の真帆の言葉でその予想は見事に裏切られることになった。
「んーっとね、車で30分くらい!」
おいおい、マジかよ……。
結構遠いじゃん。
「じゃあこれからどうするんだ?」
「いっちーの家に行く!」
俺の家!?
いや、別に俺の家に来るのは全然かまわない。
だが、どうも真帆のこの反応からして、このことはすでに決定していたみたいだ。
一体誰が、そんな勝手なことを真帆に言ったのか。
大体見当はついている。
だが、確証が欲しいので一応聞いておくことにした。
「誰がそれを真帆に言ったんだ?」
「おとーさん!」
やっぱりあのクソ野郎か!可愛い娘を送るだけ送って、あと全部丸投げか、畜生!
幸いにもアメリカに行っていた時にアメリカの料理があまりに自分の口にあわなくて、料理の経験がないわけじゃないが。
真帆は目をキラキラさせながらこちらをじっと見ている。
はぁ、もうあきらめるしかないか。
「じゃあ行くか。俺ん家」
「うん!」
帰りは真帆の体力のことも気遣って歩いて家まで戻ったため、時間は20分ほどかかった。
特に何の変哲もない一軒家。
とりわけ内装が凝っているわけでもなく、特別広いわけでもない。
しいて言うなら母親が趣味でやっている花壇が少し家の雰囲気を向上させているといったところだろうか。
それが、俺の住む家だった。
「うはーっ、これがいっちーの住んでいる家かー!」
家の中に上がると早々に真帆が声を上げる。
こんな何の面白味のない家であるのに、真帆は妙に喜んでくれているようなので、まぁ、これはこれで良しとしておくことにした。
「ねぇ、いっちー、まずシャワー借りてもいい?もう服もスパッツも汗でベトベトなんだよ。鬼コーチのせいで!」
真帆のその顔はあからさまにはむっとさせていたが本当に怒っている様子は微塵もなく、むしろ仕返しに少しからかっている、といった意味合いの方が強いように思える。
「……なぁ、真帆、次からの練習メニュー、楽しみだな。」
にやりと俺が口もとを釣り上げると真帆は大慌てで自分の吐いたセリフを訂正し始めた。
「あーっ!うそうそ!今のぜーんぶうそ!やだなー、いっちーが鬼コーチなわけないじゃん!ないよね!だから練習メニューはおんびんにして、ね?ね?」
身振り手振り小さな体をちょこちょこと動かして必死に弁解する真帆の姿は、ペットやマスコットのようなかわいらしさがあった。
そして、何より面白かった。
「大丈夫、冗談だ。シャワーを浴びるのはいいが、着替えなんて持ってるのか?」
「パンツは持ってきてるから大丈夫!服はいっちーの貸してね♪」
その後俺に有無を言わせることなく、じゃあ入ってくるーっ!と元気よく真帆は風呂場、ではなくトイレに向かって一直線に向かっていった。
まったく、逃げようとするからそうなるんだ。
「風呂場はそこじゃなくて、右の廊下に入ったところをまっすぐ行ったところだぞ。」
そういうと、真帆は指示通り進んでいき、廊下をまっすぐ進んで、風呂場に一直線、かと思いきや、廊下の壁から顔だけを出して
「いくらあたしがかわいいからって覗いちゃダメだからね!にししっ!」
にやにやとイタズラっぽく笑いながらそう言った。
「お前の体なんぞに興味ねーよ。」
「むーっ!それはそれでちょっと傷つく!」
どうやらこの話題は俺には不利そうだ。
「そういや、真帆、お前着替え……」
着替えどうするんだ、という言葉を最後まで聞くことなく、じゃあ、入ってくるねー!と俺の予想通り勢いよく風呂場の方へと姿を消した。
それにしても、うちに真帆に合うサイズの服なんてないし。
とりあえず、その場しのぎでサイズは少し大きいだろうが、母さんの服を着させておくか。
服装のセンスなんてものが微塵もない俺は、何を持っていけばいいのかわからず、母親のタンスの前で、母親の服を散々散らかし、小10分程度悩みぬいた挙句、何着か持っていけば真帆が自分で選ぶだろう、そう思って、手で持てるだけもって脱衣所へと向かった。
そして、脱衣所に入る前に一言入るぞ!そう一言声をかけてドアを開けた。
―――不幸な事故が起こったのはそのときだった。
俺が脱衣所に入るドアを開けるタイミングと真帆が風呂場から出てくるドアを開けるタイミングがこれでもかというくらいに重なった。
「「――――!!」」
両者、あまりの衝撃的な出来事に言葉を失う。
真帆の顔がみるみる赤く染まっていく。
すぐに真帆は風呂のドアの陰に隠れた。
俺は真帆が隠れる一瞬手前の段階で後ろを向いた。
本来ならばしばらく気まずくて口もきけないような状況。
そんな中で、その場という早い段階で真帆が口を開いてくれたのは、おそらく真帆のその裏表のない性格ゆえだろう。
イタズラっぽい笑みを浮かべながら言っているであろう姿が想像できるような口ぶりで
「なんだかんだ言って、いっちーもこのあたしのせくすぃな体にくぎ付けだったんだね。もう!いっちーのえっちー。」
そう言った。
無駄だとはわかっていた。
この言葉合戦は間違いなく俺の負けだと。
俺がしなければならないのはたった一つ謝って終わることなんだと。
だけど、それでも言い訳せずにはいられなかった。
「違うんだ!俺はお前の着替えの服を持ってきただけで、別にお前の体を見たかったわけじゃ……」
先ほど同じことを言ってこの現状になっているんだ。
それに真帆の返事を待たずに脱衣所に入った俺に明らかに非がある。
自分でもおどろくほど今の俺の言葉には説得力がなかった。
「いいよ、いいよ。あたしは大人だからゆるしてあ・げ・る。その代り、昼からはあたしの予定に付き合ってね♪」
自分の真帆への弁解の言葉がかすれて見えるほどに真帆の言葉には力があった。
これに従う以外の選択肢が俺には用意されてなかった。
だが、自分の罪の重さを考えれば、会話してもらえるだけ真帆の大人の対応には感謝しなければならない。
そう思った。
誰か、服装の描写をこの非リア充で、まったくファッションなんてものの知識がない私に分けてください。
全然、わからないです!今回一番の山場でした。
また、ぜひ感想などもありましたらよろしくお願いいたします。
(真帆に似あうと思う服装とかもありましたらゼヒゼヒ。もちろん、ほかの原作キャラも登場いたしますので、全キャラ似あう服装募集です!)