まぁ、長くなってしまったのは仕方ありません。
とりあえずは、真帆と真の一つの思い出だと思ってごゆるりと堪能していただけるよう頑張ります!
諦めたらそこで試合終了ですよ?
どこかの漫画で読んだことのあるセリフに対して俺はこう返えさせてもらう。
諦める前から試合が終わってる場合もあるんですよ、と。
「とてもお似合いですよ!」
店員さんはニコニコととてもうれしそうに微笑みかけている。
赤色の七分丈のズボンに、赤と黒のマークの入ったシャツの上から、デニムフード付きジャケットを羽織り、こじゃれたアクセサリーを首から下げた俺の姿がそこにはあった。
そこにあるのは、俺であってほしくなかった。
だが、他の店員さんたちが服を持ってきていた時点で俺に選択肢など用意されていなかったのだ。
おまけに真帆が乗り気だったために、余計に逃げ場はなく、真帆と一緒に撮影なんてことにまでなってしまった。
おそらく真帆にとってこれは風呂場での一件の復讐なんだろうなぁ。
ならば、俺も覚悟を決めなければならない。
幸い、洋服を専門に扱う人のセンスだ、ただちょっと着慣れていない現代風のイかしたファッションというので恥ずかしくはあるが決して似あってないわけではない、はず。
「さぁ、ではこちらへどうぞ。妹さんもお待ちですよ。」
そう言って裏方の写真撮影の場所へと案内される。
たどり着いた先には、本格的な撮影の時には必ずと言っていいほど目にするようなしっかりとした照明機材が備え付けられており、現在、元気よくポーズを決めている真帆を映し出しているカメラもかなり高級そうなものだった。
予想以上にマジな撮影だ。
「えーっと、ここで撮った写真って……」
「はい、店内に広告として貼らしていただく予定でございます。あ、もちろんただでとは申しません、現在お二人が着ていらっしゃる服はサービスとして提供させていただきますし、この店専用ではございますが金券もいくらか差し上げるつもりをしております。」
真帆、お前はここまで見越して俺をこの店に連れてきたと言うのか……!
いやいや、そんなわけはないにしろ、偶々にしては、これはなかなか手ひどい罰だ。
服を着るだけならまだしも、宣伝媒体として使われるなんて。
予想以上に心に来る。
正直、金券とかもらってもこの店には二度と足を踏み入れない気がする。
「おーい、おにーちゃーん!」
俺の姿に気付いた真帆が、撮影現場から大きく手を振って元気ハツラツと俺を呼ぶ。
「では、よろしくお願いいたしますね。」
空気を読んで、店員さんは深々と頭を下げてまた表の方へと姿を消した。
腹はもうくくっている。
ここで逃げるようなまねはしない。
おごる予定だった服代がただになったんだ、良しとしておこう。
「お待たせ」
俺は真帆の隣まで手を挙げて応答しながら歩いて行った。
だが、そこまで行く足取りはやはり重い。
「とっても似あってるよ、おにーちゃん!」
「ありがとう、とってもうれしいよ」
「むーっ!なんか言葉に心がこもってなーい!」
そりゃ本当は全くうれしくないからな。
「さぁ、じゃあ妹さんお待ちかねのツーショット行きましょうか!少し準備するので、横にずれてください」
4mほど離れた位置からカメラマンの人が手を右へとスライドさせて俺たちにどくように指示する。
よし、最後のあがきだ。
このカメラマンの人に真帆をメインに俺は飾り程度になるようにとるようにお願いしてみよう。
おそらく相手はプロなんだ、それくらいできるに違いない。
だが、俺の望みは見事に撃墜された。
「大丈夫、大丈夫!ほんと、似あってるよ!そんな、お兄さんにだけ焦点持っていかないなんてもったいない!」
そして、少し声を潜めて真帆をちらっと見ながら小声で
「それに、妹さんにもお願いされてるんだよ。絶対二人ともしっかり写ってなきゃいやだって。さっきの予備撮影の時も暇になるたびにずっとドアの方見てお兄さんのことまってたんだぜ。まったくこんなに愛されてるのに何を贅沢言ってるんでぃ!この!」
カメラマンの人はからかうようにして俺を肘でえぐってくる。
なんだか、妙に威力がこもっていると感じるのは俺だけなんだろうか。
とりあえず、カメラマンに対しては苦笑いで返しておくほかなかった。
俺にとっては罰ゲームにしか思えないこの仕打ち。
だけど、真帆にとっては少し違うのかもしれない。
仕返しをしてやろう。
そんなことは微塵も考えていなくて、ただ普通に二人でこの写真撮影を楽しみたいだけなんじゃないだろうか?
少しだけ、俺はそう思い始めていた。
「なに話してたの?」
真帆のもとへと戻ると笑顔でそう尋ねられた。
その笑顔にはまったくといっていいほど含みどころがなくて、このとき俺は自分が勘違いしていることを悟った。
「いや、何でもない。それより思いっきり二人でかっこいいポスター作ってやろうぜ!」
せっかく真帆が用意してくれた舞台だ。
変な考え事は抜きだ。
俺なりに、このステージを楽しもう。
このとき俺は本当の意味で腹をくくった。
あまりの俺の行動の変化に驚いたのか少し目を丸くしていたが、
その後、明らかに今までよりも大きくテンションを上げて
「そんなの、ったりめーじゃん!」
親指をグッと立て、チャームポイントの八重歯を見せて真帆をひまわりのごとく明るく笑った。
「準備できましたので、はいってくださーい!」
カメラマンの指示を受けて再び照明器具が用意されたステージへと二人で並び立つ。
思った以上に俺と真帆の息はあっていた。
背中合わせのポーズの時などは、清々しいほど俺と真帆の息があっていて一瞬カメラマンの動きが止まったほどだった。
もしかしたら、不慣れな俺に気を使って合わせてくれていたのかもしれないが。
さらに、ポーズを次々と決めていき、カメラマンがいいね!というものだから、ついつい調子に乗ってテンポがあがっていく。
30枚を超えたあたりでさすがにということで、撮影は終了となった。
真帆はもともと母のダボダボの服を着ていたので、そのまま店の商品を着たまま、俺はもともと来ていた地味目のシャツに着替えてから店を出ようとした。
その直前で例のカメラマンに俺は呼び止められた。
真帆には少し待っておくように頼んでから、俺はそのカメラマンのもとに向かった。
「これ、二枚ともアンタにやるよ。出来たてほやほやだ。ちっと安物のプリンターだけどな。」
そう言って渡されたのは二枚の写真。
一枚は真帆一人の時にとっていた練習の写真、そしてもう一枚はさっき二人で撮った俺が一番息がぴったりだと感じた背中合わせになっていた時の写真。
「全然表情が違うだろ?大事にしろよ!色男!」
そう言って俺の肩をまたもやものすごい威力でたたきつけてカメラマンは店の中へと姿を消した。
何が真帆をこんなにも変えたのかはわからない。
だけど、その二枚の写真はカメラマンに言われるまでもなく明白に真帆の表情が違ったのがよくわかった。
俺たち、こんなふうに写ってたのか。
思わず顔がほころんでしまった。
「何笑ってるのー?」
写真に目を取られている隙に、いつの間にか真帆が目の前まで迫っていた。
「ちょっとな。」
これを見せたら真帆は恥ずかしがるかもしれないな。
まぁ、俺としてはどっちでもいいんだが、なんとなく、真帆には内緒でこれは大事に持っておきたいと、そう思った。
真帆はこのことについてはそんなに追求する意志が無いようで、ふーん、と鼻を鳴らしてすました。
ゆっくりと赤く染まったコンクリートのビル街を歩き出す。
真帆は下を向きながら、少し恥ずかしそうに俺に聞いた。
「ねぇ、今日、いっちーは楽しかった?」
舞台をプロデュースした本人(真帆)としては、ゲスト(俺)の感想を聞きたいのだろう。
「ったりめーじゃん」
先ほど、真帆がしたように俺は親指を天に向けて突き出して、笑顔でそう答えた。
すると、間髪入れずに真帆は
「ほんと!?」
と聞いてきた。
あまりに早すぎてとっさに返すことができずワンテンポおいてから
「あぁ、本当だ」
と答えた。
それにしても、どうしてそんなにも俺が楽しんでるかどうかが重要なんだろうか?
そんな勢いよく聞き返すほどのことでもないだろうに。
俺のそんな些細な疑問はこれからまさに解決されようとしていた。
「……ごめん」
ゴメン?今、真帆は俺にごめんって言ったのか?
「実は、お風呂の時、外からのいっちーの声聞こえてた。それで、興味ねーって言われたからちょっといっちーにイタズラしてやろうって思って同時にドアを開けたんだ。冗談で済まそうと思ったんだけど、ちゃんとタオルもまいてたのに、いっちーに肌を見られたのが思ったよりも恥ずかしくて、つい隠れちゃって、雰囲気がびみょーになっちゃって……、だから、ごめん!」
予想外の告白。
俺は、午後からの真帆の行動を自然と思いだしていた。
午後から、真帆は俺なんかよりずっと相手(俺)の機嫌をとろう、雰囲気をよくしようと頑張っていたんだ。
出来るだけ、会話して、出来るだけ一緒にいて、仲良くなりたいと真帆は思っていてくれていたんだ。
―――ッ!
だから、あの時、俺が写真撮影で乗り気になったとき、あんなにもうれしそうだったのか。
頭の中ですべて、合点がいった。
いいなりなんかじゃそりゃ雰囲気も良くなるわけないよな。
はぁ、まったく年下の奴より気を遣えない自分が情けなくなる。
「ったく、参っちまうよなー。ほんと情けない。俺はお前が風呂の一件で傷ついてるんじゃないかって不安で、お前に対して何もしてやれなかったって言うのに。真帆はその逆でどんどん攻めてくるんだから、どっちが年上かわかりゃしねぇ。」
俺は真帆の目線までしゃがみこんだ。
「俺こそごめんな。今日は真帆のおかげで最っ高に楽しかった。」
―――ありがとう。
何か溜めていたものがあふれ出てくるように真帆の目からは雫がボロボロと流れ、それでも真帆は、うん!とそう俺に笑いかけてくれた。
感想などありましたらよろしくお願いします。