それと前回ミスがあったので修正してます。なんとか違和感が無くなってるといいなあ。
「己が名はカイデン!誇りを賭けて、いざ尋常に勝負!」
「私の名はアランブラ!弱き者共よ、偉大なる魔導師たる私にひれ伏せ!」
方や、剣を携えた虚無僧の如き出で立ち。方や、真紅の鎧を纏った邪悪な魔法使い。そのいかにも悪役然とした姿から、彼らが仮面ライダークロニクルの登場キャラだというのは初心者の士でもなんとなく理解出来る。だが、どうにも何処か様子がおかしい。
「ふんっ!」
赤の魔導師が杖を掲げると同時に、周囲から蒸せるような熱気が巻き起こる。次の瞬間には、公園の至る場所から爆炎が立ち昇った。
「きゃああああああああああ!!!!」
「うわああああ!!!!逃げろおおおおおお!!!!!!」
さっきまで興奮と歓喜に包まれていた観衆達の表情は、恐怖に丸ごと入れ替わっていた。誰もが我先にと逃げ始めている。
「何が起きて……」
「でりゃああああ!!!」
ディケイドには戸惑っている時間も与えられない。刀を振り上げた侍に似た姿の怪人が怒号を浴びせながらディケイドに迫る。
「おおっと!」
ガキンッ!
危うくディケイドは一太刀を浴びせられるところだったが、寸での所でドッガハンマーの柄で受け止める。
「ほう、我が太刀筋を見切るとはなかなかやる奴。このカイデンが全身全霊を持ってお相手いたそう。いざ、参る!」
「勝手に参るな!」
ディケイドは苛立ち混じりにドッガハンマーで薙ぎ払う。しかし、身軽さで勝るカイデンには届かず、暖簾に腕押しするが如くヒラリと避けられてしまった。
「くっ……なんだこいつら!何処から降ってわきやがった!?」
突然現れて周囲の被害を省みずに暴れまわるバグスター達が引き起こした混乱は甚大だ。悪の魔導師アランブラの放つ炎は平穏だったはずのゲームイベントを地獄へと変えてしまい、あちらこちらから阿鼻叫喚の悲鳴が飛び交っている。
「うわっ!ちょ……みんな落ち着いて!おーい!夏海ちゃーん!」
「ユウスケ!何処ですか!?ユウスケー!?」
ユウスケと夏海は人ごみに飲み込まれ、身動きが取れずにいる。これではバグスターを迎え撃てる戦力はディケイドとエグゼイドのみだ。
「ちっ!何が起きてる!」
あまりにも突然の事態に頭が追いつかないでいるディケイドだが、今はとにかく目の前の敵に集中するべきだろう。パワー重視のドッガフォームでは防戦一方になってしまう程に秀でたカイデンの剣さばきに対抗すべく、ディケイドは王の従者である蒼き人狼の力を解放する。
《フォームライド・キバ・ガルル!》
狼の咆哮とけたたましく鳴り響くホイッスルの音と共に、三日月を思わせる独特の複眼と胸部装甲、そして左腕が海の如き鮮やかな青色へと変化を遂げた。
仮面ライダーキバの更なる別形態、機動力重視のガルルフォームに変化したディケイドは同時に召喚された曲刀ガルルセイバーを携え、さっきまでとは反対に今度は自分からカイデンへと果敢に攻めていく。
「おいエグゼイド!こいつらはただのゲームの敵キャラじゃなかったのか!?」
刀を振りかざすカイデンバグスターの袈裟斬りを上手く避けつつ、その背中をガルルセイバーで斬りつけたディケイドは、後ろでアランブラバグスターを自慢のロボットアームで殴り飛ばしていていたエグゼイドを問い詰める。
だが、仮面ライダークロニクルをディケイドよりも遥かに熟知しているであろう彼でさえも、さっぱりわからないといった様子で首を横に振る。
「知らないよ!今までこんなイベントがあったなんて聞いたことないし、もちろん俺だって初めてだ!いきなりやって来たお兄さんのせいじゃないの!?」
「そんなわけあるか!熟練者のお前が知らないなら、初心者の俺はもっとわからんだろ!」
わけもわからないままバグスターを迎撃する2人の仮面ライダーだったが、こうしている間にも公園の混乱はますます酷くなるばかりだ。まだ逃げ遅れた人々がちらほら残っている。
「こうなったら……ステージセレクト!」
見かねたエグゼイドが腰のガシャットホルダーを押した。さっきまで緑豊かだった公園が、砂と岩に囲まれた何処かの採掘場へと移り変わっていた。
「これなら周囲を気にせず戦えるよ!」
「みたいだな。上出来だぜ」
吸血鬼の王から元の姿に戻ったディケイドは、ライドブッカーから一枚カードを抜き取った。
《アタックライド・ブラスト!》
再びライドブッカーでバグスター達を狙うディケイド。だが、その破壊力はこれまでの比ではなかった。
バババババッ!!
「「うおおおお!!!」
カードの恩恵を受けて威力を高められたエネルギー弾がガンモードのライドブッカーから高速連射された。多数の弾丸が唸りを上げて、カイデンとアランブラの両者を容赦無く撃ち貫く。そのあまりの破壊力に立ち昇った砂埃が収まった時には、バグスター達は地に伏してしまう程だ。
確かに攻撃力は申し分ないが周囲の岩山にボコボコと穴を開けてしまう辺り、もし観衆が残ったままの公園で使用していたら二次被害は甚大だったろう。
「なんだかよくわからねーが、お邪魔キャラはさっさと片付けておくとするか!」
産まれたての子鹿のように弱っている2体のバグスターに僅かの哀れみを見せることすらなく、ディケイドは新たなカードをディケイドライバーに装填した。
《ファイナルアタックライド・ディディディディケイド!》
ディケイドとカイデンの間に数多のカード型ポインターが並ぶと共に、ライドブッカーの銃口に多大なエネルギーが収束していく。その横では、エグゼイドも必殺技を発動していた。
《ガシャット!キメワザ!ゲキトツクリティカルストライク!》
肥大化した左腕に色彩豊かなエフェクトが煌めく。さきほどソルティを葬ったトドメの一撃と同じ、虹色の輝きだ。
「せ、せめて剣で決着を……」
「悪いな。俺のプレイングスタイルは効率重視だ」
ディケイドが引き金を引くと同時に銃口から飛び出した極太の赤いエネルギー弾が、カードを通過しながら直進。防具の構えをとる余裕すらないカイデンの肉体に遠慮なく風穴を開けた。
「うおおおおおおっ!!!無念だあああああ!!!」
粒子を撒き散らしながら、カイデンは爆散消滅した。
「か、カイデン!?まずい!ここはひとまず……」
「逃すか!」
仲間のカイデンの敗北を目の当たりにして慌てて逃げ出そうとするアランブラだったが、既にロボットアームを振りかざしたエグゼイドの拳がすぐそこまで迫っていた。
「そーれい!」
ドンッ!
「うほおっ!?」
背を向ける暇すらなく、アランブラの顔面に無骨なガントレットを纏った左腕による凶悪な左ストレートが叩き込まれる。魔法を使った遠距離攻撃を得意とする分、アランブラの防御力は決して高いものではない。
岩をも容易く砕く馬鹿力で思いっきり殴打され、金属バットで打たれた野球ボールの如く豪快に吹き飛んでいく。
「ぐあああああ!!!わ、私がこんなところで!!!!」
ボゴッ!
背後の岩山にのめり込む程の勢いで叩きつけられた後、カイデンの後を追うように消滅するのだった。
《ゲームクリア!》
どうやら今度こそ、このゲームは終局を迎えたようだ。荒れ果てた採掘場は元の公園へと戻り、周辺に散らばっていたエナジーアイテム類も塵のように霧散。2人の仮面ライダーが戦っていた間に観客達も全て逃げたのもあって、シンとした静けさが戦いの終わりを実感させる。
「なんだったんだ。あいつらは……」
どうにも釈然としない胸のつっかえを残したまま、ディケイドはディケイドライバーを外して変身を解除。その横ではエグゼイドがガッツポーズを決めていた。
「やりい!これで今日だけでも3000ポイントゲットだぜ!」
空中に映し出されていたスコアを満足気に眺めていたエグゼイドがご機嫌な様子でディケイドの方にくるりと振り向いた。そして士と同じく、蛍光色のベルトからガシャットを引き抜いて変身を解除する。エグゼイドの体が光に包まれながら、全身のマゼンタカラーの装甲とアンダースーツが消失していく。
「お疲れ様!お兄さん、すごく強いね!久々に楽しめたし、約束通りに聞きたいこと教えてあげる!あっ、せっかくだから俺の家まで招待するよ!ここの近くなんだ!」
「「こ、子ども?」」
騒動が収まってようやく士のところまで駆けつけたユウスケと夏海が、明らかになったエグゼイドの変身者を前に目を丸くした。彼らの視線は自分達の胸の部分まで下がっている。なにせ彼とはそこまで体格に差があったのだ。
女性である夏海以上に華奢で小柄な体躯と、林檎のような赤みの抜けていない頬を有した童顔。どう見ても小学校を卒業していないであろう、幼い少年であった。
少年はラメの入った青いキャップの位置を調整しながら、士達に一切物怖じせず得意気に笑う。
「やっぱりな。天才ゲーマーMの正体はガキだったのか」
唯一驚きを見せない士は憮然とした様子で腰を屈め、エグゼイドの正体である少年に視線を合わせた。
「あれ?お兄さんは俺が子どもなのに驚かないの?」
疑問符を浮かべている少年の額を士は指で突いた。
「お前みたいなガキンチョのライダーなら何人も知ってる。どうりで、あいつらと同じで生意気なクソガキオーラをにじませてたわけだ。戦っててビンビン肌で感じたぜ」
少年の頭頂部をガッシリと鷲掴みして、大人気無く威圧する士。そんな2人のやりとりを眺めていた夏海はムスッとした顔で、突如士に指を突き入れた。
「笑いのツボ!」
プシュッ!
「ハーハハハハ!!!!おい、夏ミカン!!!それはやめろって言ったろ!!!ハハハハハハハ!!!」
大笑いを始めた士をギロッと睨みつけた後、夏海は打って変わって少年に優しく微笑みかかける。
「ごめんね、このお兄さんは悪い人なんです。なるべく大目に見てあげてください。えーっと……」
「俺の名前?エムだよ!芸間エム!」
「へ?」
その名を聞いた夏海は狐につまれたように素っ頓狂な声を漏らしてしまった。さっきまで探していた人物のそれではないか。
「芸間エムってさっきの……」
ユウスケは目を見開いて未だ大笑いが止まらない士の方を向いた。むしろ酷くなる一方の士は電柱にしがみついて必死で笑いに耐えていた。
「ハッ!ハハハハ!!!丁度いいな!!!お目当のカルテの患者と、エグゼイドが一緒に見つかって!!!ハハハハハハハハ!!!!」
オフィス街の一角に存在する、この国最大のゲーム企業である幻夢コーポレーションの本社ビルでは、今日も多数の社員達が新たなゲーム開発に勤しんでいる。
言うなれば、ここでは世界が注目する究極のエンターテイメントが日夜生み出されていると表現しても過言ではない。そんなゲーマー達垂涎の夢の宝庫であるここの隣にあるビルの屋上にて、1人の青年が双眼鏡で密かに様子を伺っていた。
「幻夢コーポレーションか……面白い」
やがて、青年が構えていた双眼鏡をゆっくりと下ろした。端正な口元を愉快そうに吊り上げながら、幻夢コーポレーションのオフィスビルから背を向ける。
「全てのガシャットは僕が貰うよ」
不敵な笑みを浮かべた青年、海東大樹は去り際に指で作った銃口をビルのオフィスに向け、心の中で引き金を引いた。
「BANG!」
「うおー!すっごい豪邸だ!」
「め、メイドさんまでいます……」
仮面ライダーエグゼイドこと芸間エムに連れられて彼の家へとやってきた士達。その威容に3人は思わず圧倒されていた。
おまけには玄関ではメイド達がにこやかな笑みを浮かべて出迎えをしていた。いつも肝が座っている士はともかく、一般的な庶民のメンタルであるユウスケと夏海はテレビでしか見ないような光景を前に、緊張のあまりカチコチになってしまっていた。
「お帰りなさいませ、エムぼっちゃま。本日は特別に取り寄せた有名焼き菓子専門店の特製アップルタルトがございます」
「わかった。後で俺の部屋まで持って来てよ」
途中、室内で作業するメイド達の視線を受けてついソワソワしながらも、ひとまず3人はエムの自室に入った。途端に、彼らはその光景に思わず面食らった。
「うっひょー!もしかして、これ全部ガシャットか?」
「うん、そうだよ」
ユウスケが呆気にとられるのも当然であった。子どもが1人で使うにしてはあまりにも広すぎるその部屋の棚には、所狭しとガシャットが敷き詰めて並べられていたのだ。机とベット、それに巨大テレビとゲーム機を除けば、後はガシャットで占められていると言っても過言ではない。まるでガシャットの倉庫、物見市だ。
「それで?お兄さん達、俺に何の用?」
キャップとランドセルを机の上に放り投げたエムは贅沢そうな椅子ににゆっくりと腰掛けた。士は懐から件のカルテを引っ張り出す。
「俺にこのカルテが送られて来てな。エム、お前は一風変わった病気になっているんだそうだ」
「カルテ?別に俺は何の病気にも掛かってないけど?ここ最近病院に行った記憶だって無いし」
怪訝そうに首を傾げるエム。とても嘘をついてるようには見えない。おそらく本当に自分が病気などとは思っていないのだろう。
「自覚症状が無いだけでウイルスには感染してるかもしれないだろ。とにかく、俺はお前の主治医である以上、お前の治療が終わるまで面倒を見てやると決めた。いいか、わかったな?」
「えー?なにそれ。わけわかんないよ。病気も何かの間違いじゃない?」
「ごちゃごちゃうるさいな。ガキならガキらしく素直に俺の言うこと聞いとけ。どれ、まずは喉でも見せてみろ」
士のあまりにもの強引さに、さしもの天才ゲーマーも反応に困っているようだ。傍若無人で強引な士と、呑気でマイペースなエムの会話は完全に平行線を辿っている。
そんなとことん噛み合わないやりとりを2人が続ける中で、ユウスケはとりあえず話題を変えようと、この部屋の周囲をもう一度見渡した。
「最近、熱とか寒気とかしないのか?あるいは頭痛とか……」
「だーかーらー!俺は別に病気なんかじゃ……」
「なあ、エム。お前ってそんなにゲーム好きなのか?」
自身の症状について根掘り葉掘り聞いてくる士に若干うんざりしつつあったエムが、突如目をキラキラと輝かせながらクルリとユウスケの方に振り向いた。
「うん!大好き!もしかしてユウスケ兄ちゃんも!?」
大人相手にも平然とおちょくる言動が目立っていたエムが、極普通の子どもらしく無邪気に尋ねてくる。瞳を輝かせながら迫るエムの勢いに押されそうになるものの、ユウスケは笑って頷いた。
「まあな!俺だってガキの頃は夢中になって近所の友達と遊んでたからな〜」
「ほんと!?じゃあさ!俺と一緒にゲームしようよ!」
ユウスケはふと背後の士にちらりと視線を送った。一瞬不服そうにため息をしながらも、士は仕方ないとアイコンタクトを送って背中をドアに預けた。主治医からの了解を得たユウスケは意気揚々と肩をグルグル回し始める。
「よーし、じゃあなんかやるか!実は俺、ゲームなんてずいぶんと久しぶりだからすげえワクワクしてんだぜ!」
「あ、言っておくけど、俺はここにあるゲームはもう全部完璧に攻略しちゃってるんだよね。ユウスケ兄ちゃん、自分が俺より弱すぎてショック受けちゃうかもよ?」
生意気にもニヤニヤとほくそ笑むエムに対し、ユウスケは不服そうに唇を尖らせた。
「なんだとー!俺だってなー!4-2までは行けたんだぞー!ワープ使ってだけど!」」
「ははっ!それすげー昔のゲームじゃん。今じゃ攻略法が山ほど発見されてるんだぜ?俺だったら目を瞑ってもクリア出来るね」
ゲームの話題になった途端、急に水を得た魚のようにイキイキとしているエムの挑発に乗せられ、直情タイプのユウスケはあからさまに対抗心を燃やす。
「むむ……あ、これ面白そうだな!これやろうぜ!」
《ときめき!クライシス!》
ユウスケが棚から引っ張り出したのは、ピンク色の本体に可愛らしい女の子のイラストが添えられたガシャットだった。起動するとこれまた可愛らしい女の子がタイトルコールを始めた。
だが、エムは小馬鹿にした笑いを浮かべながら、やれやれとわざとらしく肩で盛大なため息を吐いた。
「それは『ときめきクライシス』って言って、難易度最高レベルの恋愛シミュレーションゲームだよ。ユウスケ兄ちゃんにはちょっと難しすぎるんじゃないの?なんだかユウスケ兄ちゃんって恋愛は不器用そうだし」
エムはヒョイッとユウスケからときめきクライシスのガシャットを奪うとすぐに棚へと戻した。
「よ、余計なお世話だ!じゃあ、これ!」
図星だったのか、やたらと挙動不審なまでに声を震わせているユウスケが別の場所からガシャットを選び取る。
「『ジェットコンバット』かあ……少し難しいけど、俺が攻略法を教えてあげるよ!」
エムはユウスケからサッとガシャットを取り上げると、巨大テレビと繋がっているゲーム機に突き刺した。電源を入れると同時に、戦闘機が大空を駆け巡るデモ映像が流れ始める。
《ジェット!ジェット!イン・ザ・スカイ!ジェット!ジェット!ジェットコンバット!》
「うほー!超面白そうじゃんか!」
ジェットコンバットは戦闘機を操って敵と戦う爽快感が売りのシューティング。スタート後に始まるかっこいい軍用機が出動するシーンは、見事ユウスケの心を鷲掴みにしたらしい。まるで少年のように目をキラキラと輝かせている。
正義と平和を守る戦いに日々身投じているとはいえ、ユウスケもあくまでまだ二十歳を過ぎたばかりの青年なのだ。娯楽の類にはまだまだ興味津々な年頃と言えるだろう。
「よーし!それ!いけー!」
ユウスケ操る戦闘機が基地から発進し、大空へと羽ばたいた。ウキウキ気分で操縦するユウスケだが、隣で見守っていたエムが慌てて指を差した。
「わわわわ!ユウスケ兄ちゃん!そっちじゃなくて!」
「ええっ!?こ、こうか!」
エムの指示に合わせて、慌ててコントローラのボタンをガチャガチャ連打する。
「そうそう!それそれ!そのまままっすぐ!」
「よっしゃー!なんかコツが掴めてきたぞー!いけいけー!」
「やっちゃえー!」
遠巻きに眺めていた士は、目的そっちのけでゲームに夢中になっているユウスケと、さっき出会ったばかりとは思えない距離感でユウスケに早くも懐いているエムのお気楽ぶりに苦笑いせざるを得ないようだ。
しかし……
「やれやれ。どうやらガキの相手は俺よりあいつの方がよっぽど向いてるらしい」
しかし、一見呆れているかのような口ぶりながら、士の口元が綻んでいることに気づいた夏海は、彼に見られないようにこっそりと顔を綻ばせるのだった。
「ねえねえ!士先生も一緒にやろうよ!」
「おいおい、俺が参加したらお前らヘコんじまうだろ。それでもいいのか?」
やたら自信満々な士がエムとユウスケの間にドスンと座った。目の前でゲームをしている2人を眺めていて気になっていたのかもしれない。割と乗り気な答えが士から返ってきた。
「よーし!じゃあ、この『ギリギリチャンバラ』で……」
「エムぼっちゃま」
4人は一斉にドアの方に振り向いた。ノックと共に部屋の中に入ってきたメイドは何やら大きな皿と小皿を一緒に抱えて持ってきていた。
「先程申し上げました、アップルタルトにございます」
「うおー!美味そー!」
子どもと熱心にゲームをしていたためか、すっかり童心に帰ったユウスケはメイドが持ってきたスイートにも心奪われていた。まるで子どものように、眼前のアップルタルトに大はしゃぎしている。
「難しいこと考えたり、くよくよ悩んでる時には、甘いお菓子を食べて脳に糖分を補給するのが一番だよ。昔、母さんがよく言ってた」
「昔?もしかして、エム君のお母さんは……」
「おい」
士に軽く睨まれて、夏海は慌てて自分の口を塞いだ。気づいた時には既に遅い。少年は沈んだ表情で俯いてしまっていた。
「……母さんは事故で死んでるんだ。丁度1年前に」
そもそも、これだけ巨大な豪邸でメイドを除いては住人はエムのみ。今思えば、よっぽどのワケありなのが窺えた。
突如として陰鬱な空気が部屋を支配し、誰も口を開かず、アップルタルトにも手をつけない。自分が原因だと悔いている夏美がどう取りなそうかと悩む中、突如、白い影が舞い降りた。ある意味夏美にとって救世主かもしれない。
「あら〜。あなた達、ずいぶん良い物食べてるじゃなーい?」
「「「キバーラ!」」」
窓から入ってきた手のひらサイズの白いコウモリの登場に、彼女を知らないエムを除いた3人は声が思わず裏返ってしまう。
「君、誰?」
「私はキバット族のキバーラよ。よろしくねえ坊や」
「おい、キバーラ。今まで何処行ってたんだ、お前」
「あれれ?士ったら、もしかして心配してくれてたの?」
一応は旅の仲間であるキバット族のキバーラはニヤニヤとほくそ笑むが、士は逆に不機嫌さ全開で目を逸らした。
「まさか、んなわけあるか。騒がしい奴がまた1人、いや、1匹か。いなくなったおかげでずいぶんと静かで良かったぜ。だが、また鳴滝と組んで余計な真似されたら迷惑千万だからな。俺が気にしてるのはそこだけだ」
「んもー。連れないわねー。まあ、私がどうしてたのかなんて別にどうでもいいでしょ。それより、このアップルタルトおいしそ〜羨ましいわ〜」
バターと焼きリンゴの芳醇な香りが心地よいアップルタルトを前にして、わざわざじゅるりと音を立てるキバーラ。そんな彼女を目にしたエムは首を傾げて尋ねる。
「キバーラも食べたいの?」
「あら?もしかして私も良いのかしら?」
「うん!どうせなら、みんなで食べた方が楽しそうだし!」
「まあ!何処かの誰かさんと違って優しい子なのね〜♪御礼にチューチューしてあげようかしら?」
その何処かの誰かさんからの睨みも気にせず、キバーラはアップルタルトの前に降り立った。キバーラのおかげですっかり機嫌を取り戻したエムはナイフを握りしめ、アップルタルトに切れ目を入れようと試みる。だが、いざ入刀となって急に手を止めてしまった。
「あー……でも、五等分となると難しそうだよね」
奇数分で分けるというのは中々に難易度が高いものだ。切ってる最中に手が狂って形がおかしくなってしまうのもよくあることだ。
「貸せ」
エムからナイフを奪った士は、なんの躊躇もなく、アップルタルトに切れ目を走らせていく。その迷いの感じられない捌きっぷりにユウスケ達は不安に駆られはしたが、全く杞憂であった。士の手によって、一切の狂いなく正確に均等に分けられた。
「おー、すごい!綺麗に五等分だ!士先生すごーい!」
感動のあまりにエムは目をキラキラと輝かせながらアップルタルトを小皿に乗せていく。おだてられて上機嫌の士は、手術に向かう外科医のように両手を掲げた。
「当然だ。俺に斬れない物は無い」
やたら得意気な士の隣でアップルタルトの切れ端をモグモグと咥えながら、キバーラは翼で口元を抑えている。
「上手く『きれない』のは、カメラのシャッターだけ……ってね!くすくす!」
ガンッ!
士による容赦のない無言の鉄拳制裁がキバーラを襲った。
「やんっ!痛ーい!ちょっとー!レディに対して暴力はいけないわよ!」
再び陰湿な喧嘩を始めた士とキバーラを他所に、ユウスケは改めてエムの部屋全体を見渡した。やはり何度見ても部屋中に並べられたガシャットの山は圧巻である。
「しっかし、すごい量のゲームだよなあ。これだけ集めるのなら大変だったろう?」
「そうでもないよ。だって俺の父さんは幻夢コーポレーションの社長だし」
「なに?」
初めて聞いた事実に士はアップルタルトの欠片を口に入れる寸前で手を止め、訝しげに眉根を寄せた。エムはガサゴソと自分の机の中を漁り始める。
「えっと……確かここに……あったあった!」
エムが引っ張り出したのは、一冊のゲーム情報誌だ。何ごとかと覗き込む士達に、エムは誇らしげに雑誌のとあるページを開いて見せた。そこには1人の青年の写真とコラムが掲載されていた。
『天才ゲームクリエイター芸間クロト、ゲーム産業の未来を語る!』
『幻夢コーポレーションCEO芸間クロトの軌跡!』
年齢はおそらく30代半ばといったところだろう。黒のスーツに身を包んだその青年には何処となく、エムの面影が感じられる。さらに芸間の苗字。どう考えてもエムの血縁者なのは間違いない。
「幻夢コーポレーションのトップ……てことは仮面ライダークロニクルを作ったのは……」
「もちろん父さん!仮面ライダークロニクルだけじゃない。マイティアクションXも、タドルクエストも、バンバンシューティングも、爆走バイクも、ここにあるガシャットは全部ぜーんぶ俺の父さんが作ったんだ!」
「エム君は、お父さんのことを心の底から尊敬してるんですね」
「うん!世界一のお父さん!」
父のことを語る時、年相応の少年らしい笑顔を見せていた。この笑顔は、例えユウスケでも引き出せないだろう。これが親子の絆の力なのだろうか。
「最近忙しくて全然会えてないけど、今度の授業参観には必ず来てくれるって約束してくれてるんだ!」
「へー!良かったじゃないか、エム!」
和気あいあいとした空気で部屋が満たされていた。だが、丁度飲み物を持ってきていたメイドは、突然わなわなと手を震わせ始めた。挙句、持っていたプレートを手放してしまい、床にジュースが散乱してしまう。
「もうしわけございません!エム坊っちゃま!」
メイドは客人の目があるのも構わず、突然土下座を始めた。あまりにも唐突すぎてか、謝罪の対象であるエムですらわけがわからず混乱している。
「わわ!どうしたの!?」
肩を震わせながら、メイドはゆっくりと顔を上げて口を開く。彼女の顔からはすっかり血の気が引いていた。
「実は、旦那様からは今度の授業参観にはお仕事で出られない旨を伝えるよう、言伝を承っておりまして……」
「え?」
エムは唖然とした表情で、足がジュースで汚れるのも意に介せずメイドへと詰め寄った。
「なにそれ!?父さんは来てくれないってこと!?」
「授業参観を楽しみに待っていらっしゃるエム坊っちゃまを見ていたら、私からはどうしても言い出せなくて!本当に……本当にもうしわけございません!!!」
半泣きのメイドはひたすら平謝りを繰り返す。そんな彼女の必死の謝罪など気にかけることなく、エムはお気に入りのキャップとランドセルを抱えて走り出す。
「おい、エム!」
ユウスケの制止も無視してエムは部屋を勢いよく飛び出していく。ドタドタと派手に鳴り響いていた足音もやがて遠くなる。
窓から開錠音が聞こえてきた。ユウスケが窓を覗き込んだ先で見たのは、目元を腕で拭きながら何処かへと走り去っていくエムの姿であった。
「エム……」
ユウスケは徐々に遠くなっていくエムの後ろ姿を悲しげに見つめるしかなかった。
「丁度いい。エムの親父と一つ話をつけてくるとするか」
白衣に付いた埃を軽く払いながら立ち上がった士は、窓から遠くをユウスケの肩越しに肩越しに眺めた。その視線の先には幻夢コーポレーションのロゴが存在感を放つ巨大ビルがそびえ立っていた。あの最上階ではエムの父、クロトが今日も業務をこなしているはずだ。
「幻夢コーポレーションの社長さんには聞きたいことがあるからな。なんせ俺はエムの主治医。だったら保護者であるあいつの親に会うのは当然だろ」