エムの所有するガシャットを巡る戦いの中に突如乱入を開始した黒いエグゼイド。その威容を目にした本物のエグゼイドは静かに呟く。
「仮面ライダーゲンム……てっきり都市伝説だとばかり」
「ゲンム?」
正体不明の乱入者を前にして些か混乱気味なディケイドのオウム返しに、エグゼイドは頷いた。
「仮面ライダークロニクルに登場する伝説のレアキャラだよ。圧倒的な強さのあまりに、戦ったプレイヤーは全て完膚なきまでに打ち負かされたって噂なんだ。俺も初めて見た……」
「なるほどな。今度はレアキャラ様のお出ましか。まったく……この世界もなかなか俺を退屈にさせてくれないな!」
ディケイドは苛立ち混じりの皮肉を言い放った。ただのレアキャラならともかく、いきなりこちらに向けて攻撃を放つような物騒な輩など迷惑極まりない。少なくとも、友好的で歓迎出来る相手ではないのは間違いなかった。
一方、レアアイテムを抱えたレアキャラの登場は、むしろお宝好きのディエンドを逆に奮い立たせているようだ。
「プロトガシャットの中で唯一手に入らなかったプロトマイティアクションX!そのガシャットも頂くとするよ!」
意気揚々とディエンドは新たなカードを引き出す。ディケイドが持っていたものと同じ、銃弾の破壊力を飛躍的に上昇させる効果を持ったカードである。
《アタックライド・ブラスト!》
破壊力と貫通力、そして連射性が格段に増したエネルギー弾が大量に放たれ、黒いエグゼイドに襲いかかる。着弾と同時に大爆発を引き起こす。ゲンムだけでなく、港の施設も巻き込まれて一緒に炎に包み込まれていく。
その余波も凄まじく、爆風が収まっても黒い巨大な煙で視界が阻まれてしまっているのだった。
「ふっ……」
「おいおい、お前……やりすぎだろ」
ゲンムの変身者どころか周囲の被害を一切考慮しない海東の遠慮の無さにディケイドは引き気味であった。目的のためなら手段を選ばないこの男は、相変わらずダークヒーローを超えてダークライダーに片足を突っ込んでいる。戦力として数えた場合、申し分ないのは間違いないのだが。
だが、この余裕が油断を産んでしまった。
『ふんっ!』
突然、自転車に乗ったゲンムが煙の中から飛び出して来た。そのまま猛スピードでこちらへと突っ込んでくる。
「何!?」
あれだけの威力のエネルギー弾の雨を受けて平然としているのもそうだが、仮面ライダーがよりにもよって自転車を漕いで攻め込んでくるという予想の斜め上の光景に衝撃を受けているせいで、標的にされたディエンドはとっさに動けない。
「ぐっ!」
急いで再び銃口をゲンムへと向けようとしたディエンドではあったが、正確に狙いを定める前にゲンムの自転車が直撃して跳ね飛ばされてしまう。無様に転がり回るディエンドに再び狙いを定め、続けざまにゲンムはもう一度突進を開始。フラフラと立ち上がるディエンドに有無を言わせず車輪を叩きつける。
「海東!」
背後の壁にのめり込む程の衝撃をぶつけられたディエンドへとディケイドが駆け寄る。いくらいけ好かない相手とはいえ、問答無用で痛めつけられる光景を黙って見ているわけにはいかない。
だが、彼がディエンドに手を差し伸べる前に、ゲンムは狙いをディケイドに変えてまたも突撃を始める。ディエンドが一方的に自転車に轢かれる姿を目の当たりにしてきたディケイドは、さすがに動きを読んで避けてみせた。
「くっ……この野郎!なかなかのドラテクじゃないか!良いぜ!レアキャラは逃げる前に確実に仕留めてやらないとな!」
《ケータッチ!》
ディケイドにはまだ切り札がある。とある世界で得た究極の戦士達を使役することが可能な最強形態『仮面ライダーディケイド・コンプリートフォーム』
あらゆる世界で巨大な敵を次々と討ち滅ぼしてきたこの力ならば、決して負けはしない。
しかし、それはあくまで使えればの話だ。
「なっ……コンプリートフォームに変身出来ない!?」
何故か、コンプリートフォームに変身する際に使用する強化装置ケータッチは全く反応を示さない。そんな思わぬ事態に直面したディケイドは、すぐ目の前に迫っているゲンムへの対応に遅れてしまう。
《ギュ・イーン!》
自転車型サポートメカ、スポーツゲーマを乗り捨てたゲンムは右腕に固定されたチェーンソーを振りかざして襲いかかる。ライドブッカーのソードモードで防御する間も無く、不快な金属音を唸らせる残虐な刃がディケイドを一方的に切り裂いた。バチバチと派手な火花が胸部装甲から飛び散る。
「ぐおっ!?」
「士先生!このっ!」
呆然としたまま眺めているしかなかったエグゼイドが仲間の危機を前に我に帰り、意を決してゲンムに飛びかかる。ガイを容易く切り裂いた剣が今度はゲンムに迫る。だが、振り下ろした刃はわずかに身を逸らされたことで虚しく宙を切った。
さらに、決して素早いとは言い難い重い一撃の隙を突いて、ゲンムの拳がエグゼイドの顔面に炸裂した。
「くはっ!」
地面を転がりながら強化形態ハンターゲーマーを強制解除させられたエグゼイドをディケイドは叱咤する。
「エム!気をつけろ!こいつは相当厄介なレアキャラ様だ!」
ゲンムが装備しているチェーンソーは見た目に違わぬ凄まじい威力を持つ武器のようだ。こんなものをまともに受け止めていたら命がいくつあっても足りない。そう判断したディケイドはライドブッカーをガンモードに変形させる。エグゼイドを殴り飛ばして隙が産まれたゲンムの背中目掛けて引き金を引いた。
しかし、直撃するはずだった赤いビーム弾は黒の戦士に届かず、ヒラリと身軽な動きで避けられてしまった。
「……っ!この動きは……!」
その舞のような華麗な動きを目にしたエグゼイドは肩を震わせながら唖然とする。ディケイドも確実に命中すると踏んでいた銃弾が避けれたせいで、ゲンムのカウンターを読み切れなかった。一瞬で距離を狭められ、首根っこを驚異的な力で鷲掴みにされた。
すぐに抵抗を試みるディケイドだったが、その意思すらも封じようとゲンムは今度はコンクリートの壁に容赦無く叩きつける。
「くっ……」
苦悶の声を漏らすディケイドの痛みなど御構い無しに、指の力を強めていくゲンム。ディケイドの手からライドブッカーが転げ落ちる。このままでは窒息してしまうだろう。
「こ、この動き……まさか……まさか!」
だが、エグゼイドは何故か助けに入ることを躊躇っているように見える。腰を抜かしたように地べたにへたり込んでしまう。
仮にも実力者のライダー3人をあっという間に無力化させたゲンムはディケイドの首をギリギリと締めながら、エグゼイドとの数少ない相違点である狂気を感じさせる意匠の瞳を近づけた。
『お前がディケイドだな?』
ゲンムは意識が朦朧とし始めたディケイドの耳元で囁いた。ボイスチェンジャーで加工されているために、性別も年齢も推測が出来ない。地獄から響いてくるような恐ろしい声音に思わず背筋に寒気が走る。
「何故俺のことを知っている!さては鳴滝の奴からでも……」
危機を前にしてもなお弱気な姿を見せずに啖呵を切るディケイドだが、ゲンムが指の力を強めたために語気は弱々しくなっていた。
「ぐはっ……!」
『お前の話は聞いている。世界の破壊者。早くこの世界から立ち去るがいい。これ以上、私の邪魔をするのなら決して容赦はしない』
溢れんばかりの敵対者への殺意がゲンムの瞳を通して伝わってくる。同時に喉への圧迫感はますます酷くなっていく。このままではこの世界を去る前に、ディケイドを弾みで殺害してしまうだろう。それだけの激情を仮面ライダーゲンムは滾らせているのだ。
まさにディケイドの命は風船の灯火。しかし、覚悟を決める前にゲンムからの殺意が何故か突然薄まった。
「おっと、観念するのは君の方じゃないかな?さあ、君のプロトマイティアクションXのガシャットも置いていきたまえ。それとついでに士を離してもらおうか」
ゲンムの後頭部に銃口を突きつけるディエンド。ディケイドに執着するあまりに、意識を取り戻した彼の接近に気づけなかったらしい。
沈黙を貫くゲンムがようやく首を絞める力を弱めると、ディケイドはズルズルと地面に倒れ込んだ。その様を降参と見なしたディエンドは勝利を確信して得意げに鼻を鳴らす。
しかし、振り向いたゲンムが握りしめている物を見て我が目を疑うかのように取り乱す。
「なっ!それは!」
黒をベースにした数本のガシャットだ。それを見せつけられた途端、ディエンドは自分の手を慌てて眺め始めた。
「僕のプロトガシャット!」
目の前に敵がいることも忘れて慌てふためくディエンド。その隙をゲンムは見逃さなかった。チェーンソー型の武器を変形させて、銃口を下に向けてその力を解き放つ。
《チュ・ドーン!》
小規模な爆発と共に、砂埃が舞って辺り一帯を砂煙が包み込む。煙が収まった時、既に黒いエグゼイド瓜二つの仮面ライダーの姿はなかった。ディエンドは変身を解きながら、がっくりと肩を落とす。
「あーあ……せっかく幻夢コーポレーションに潜入してまで手に入れたプロトガシャット、全部奪われちゃったか」
同じく変身を解いた士が咳を漏らしながら海東を睨む。ゲンムに痛めつけられた首根っこはまだ痛みが消えていないようだ。
「お前、そんなことしてたのか。つまり、あのゲンムとかいうライダーはお前が盗んだガシャットを取り戻しに来てたってわけだな。余計なことしやがって」
ようするに士は海東の手癖の悪さのとばっちりを受けてしまったわけである。そう思うと、海東の何を考えているかわからないこの爽やかフェイスがますます憎たらしく思えてくる。
「余計なこととは実に心外だね。ついでとはいえ、せっかく芸間クロトの野望を阻止してあげようと思ったのに」
「……やっぱり、あの仮面ライダークロニクルとかいうゲームには秘密があるんだな?」
問いただす士に対して、海東は待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑った。
「ああ、それもとびっきりに危険な奴がね。その鍵をあの親子が握っているのさ」
「…そういや、エムは何処だ?」
一方、この2人が静かに睨み合っていた時、ユウスケは港の周辺を必死に駆け回っていた。いつの間にかエグゼイドも姿を消していたのだ。
「おーい、エム!何処に行ったんだ……」
その後、日が暮れてもエムの姿が見つかることはなかった。