仮面ライダーディケイド エグゼイド編   作:藤川莉桜

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ついに佳境を迎えた物語。今回はオリジナルフォームが登場します。よろしくお願いします。


後編『トゥルー・エンディング』Bパート

 次の朝、士達は海東から渡された地図に示されていた場所へと向かった。進むにつれて住宅地から離れ、やがて自然が多く残る郊外に辿り着く。そこで彼らを待っていたのは、既に破棄されて久しいと思われる古い病院だった。

 外壁は塗装が剥げてしまい、金属部が剥き出しになっている。錆びだらけの外装に加え、雨雲のせいで薄暗いのもあって、午前中にも関わらず今にもお化けが出てきそうなホラースポットと化していた。

 昨夜から続く土砂降りで少し水分を含んでしまった地図を広げながら、士はふんっと鼻を鳴らす。

 

「まさか廃病院に隠れてるとはな。人の命を好きに操ろうって男が根城にするにはずいぶんとタチの悪いジョークだと思わないか。なあ、エム?」

 

 士がチラリと流し目で横を見ると、物陰に隠れていたエムがひょっこりと姿を現した。

 

「エム!」

 

「エム君!」

 

 夏海とユウスケが目を丸くする中で、士だけはこの展開はさも当然の流れだといった様子で見下しながらエムを睨んだ。

 

「よう、エム。奇遇だな、こんな所で会うなんて」

 

「……」

 

 無論本当は偶然などとは一切思っていない士から皮肉を飛ばされても、エムから反応は何も帰って来ない。俯いて一切口を開かず、雨で濡れるのも構わず、ゆっくりと士達に近づいていくだけだ。一歩ずつ進む度に、ピチャリピチャリと水たまりから雫が跳ねる。

 

「お前の親父の狙いは聞かせてもらったぞ。楽しいゲームにずいぶんとえげつない物を仕込みやがったな、あの野郎」

 

 この世界の住人が夢中になっている最新型のバーチャルリアリティゲーム、仮面ライダークロニクル。その正体はバグスターウイルスの特性を利用した狂気のエンターテイメント。プレイヤー達は知らない内に、消滅というリスクを体内に常に抱えた恐怖のゲームだったのだ。

 いわば、この国にいるプレイヤー達の全てがクロトの実験場。いや、いずれは世界進出を目指したことを考慮すれば、世界中の全ての人類を媒体とした壮大なフラスコを作ろうとしていたと言っても良いだろう。

 楽しいゲームにそんなおぞましい物が潜んでいるとはおそらく誰も気づいていない。気づくはずがない。そして、芸間クロトは彼らを生贄に死者を復活させようと企んでいるという。

 まさに倫理と常識を踏み外した狂気の沙汰である。

 

「海東から聞いたが、仮面ライダークロニクルを起動した時点でプレイヤー達はお前を含めて全員バグスターウイルスに感染している。このままクロトを放置していれば、プレイヤー達の命はこのゲームの運営者である奴に握られているも同然だ。なんせあの男は仮面ライダークロニクルのサーバーとしても機能するプロトガシャットを手に収めている。つまりバグスターウイルスを操って生かすも殺すも、奴次第ってことだな」

 

「……」

 

 やはりエムは何も答えようとしない。パーカーは雨を吸ってベチャベチャになっているというのに、変わらずひたすら黙り続けている。そもそも士の話に耳を傾けているかもわからない。

 

「大方、お前は何も知らされてなかったんだろう。お前も他のプレイヤー達も、クロトの奴に知らない内に利用されてたってわけだ。ったく、涼しい顔して、とんだタヌキ親父だぜ」

 

「……」

 

 お得意の皮肉でまだ幼い少年への挑発を幾度も繰り返すが、それでも返事はない。まるで人形にような無反応に、さすがの士も我慢の限界に近づいているようだ。

 

「おい、黙ってないでなんとか……」

 

「まあ、待てよ士」

 

 業を煮やして士が、初めて会った時のようにエムの頭を鷲掴みにしようとする。その光景を黙って見過ぎせなかったユウスケは慌てて2人の間に入っていった。

 しゃがんだユウスケはエムの目線に合わせて微笑む。

 

「なあ、エム。もう帰ろうぜ?メイドさん達、エムがいなくなってすげー心配してんだ。早く元気な顔見せてやろう。な?」

 

「そうですよ。ダメじゃないですか。みーんなエム君のことが心配で心配で仕方なかったんですからね」

 

 夏海も同じく、腰を下げて目線を合わせ、エムの頭をそっと優しく撫でる。2つの傘がずぶ濡れの少年を降り注ぐ雨から守っていた。

 

「それに心配だったのは私達もなんですよ?こんなところで傘もささずにいたら風邪引いちゃいます。早くお風呂に入って、体を温めて……」

 

《マイティアクションX!》

 

 エムが右手に握りしめたガシャットから高らかに音声ガイダンスが流れ、ゲームの起動を告げる。士は舌打ちして夏海の服を背中から握りしめた。

 

「下がれ夏海!ユウスケ!」

 

「きゃっ!」

 

 急に背後から引っ張られたために、夏海の手から離れた傘が宙を舞う。飛来する傘を片手で払う際、エムがキャップで隠れていた顔を見せる。その瞳は明確なまでの敵意でギラギラと照らされていた。

 

「……大変身」

 

 パーカーの下で既に装着していたゲーマドライバーにガシャットが装填され、すぐさまレベルアップを発動するためのレバーを引く。同時に、ピンク色のプレートがエムの背後に出現した。

 

《レベルアップ!マイティジャンプ!マイティキック!マイティマイティアクション!X!》

 

 プレートはエムの全身を通過し、そのまだ未成熟な肉体を大人顔負けに屈強な戦士ヘと変貌させていく。

 仮面ライダーエグゼイドに変身したエムは、ブレードモードに変形させたガシャコンブレイカーの刃を士達に向け、そして……

 

「うおおおおお!!!」

 

 躊躇いなく、生身の彼らに目掛けて振り下ろした。

 

「え、エム君!」

 

「あぶねえな!おい、夏海!もう少し離れてろ!」

 

 夏海の腕を握りしめた士とユウスケがそれぞれ左右に分かれたことでなんとか事なきを得る。代わりに廃病院の前に放置されていた背後の木材が真っ二つに叩き折られた。

 

「やめろエム!」

 

 傘を投げ捨てたユウスケの叫びに一瞬だけ動きが鈍るものの、エグゼイドは再びガシャコンブレイカーを振り上げ、今度は夏海を逃した士1人に狙いを定める。

 

「エム……」

 

「ちっ!上等だ!このクソガキ!」

 

 戦意の無いユウスケとは違って、売られた喧嘩は徹底的に買う主義の士はディケイドライバーに変身用のカードをすぐさま装填した。

 

「変身!」

 

《カメンライド・ディケイド!》

 

 ディケイドに変身完了と同時にライドブッカーをソードモードに変形。2人の仮面ライダーが握りしめる、2つに剣が激しくぶつかり合う。ディケイドとの鍔迫り合いが続く中で、俯きがちだったエグゼイドの瞳がディケイドをまっすぐ捉えた。

 

「……出来れば士先生達にはここに来て欲しくないと思ってた。まだ会ったばかりだけど、俺にとってはみんなはもう友達だと思ってたから」

 

「ほう。そうか」

 

「だから、先生が父さんの邪魔をしにこの世界までやって来ただなんて信じたくなかった!なのに……何でだよ!」

 

 エグゼイドの頬には降り注いた雨が張り付いて、そのまま地面へと滴り落ちていく。他のライダーとは違い、生物の瞳を模した特殊な形状の複眼も合間って、まるで本当に涙を流しているかのように見えていた。

 

「お前の親父はろくでもないことを企んでるらしいからな。だったら止めてやるのが俺達仮面ライダーの役目だ」

 

 そんな彼に対し、ディケイドは相変わらず憮然とした口調を保ったまま、腕押しされた暖簾のように軽やかな動きでガシャコンブレイカーの刃を振り払った。

 

「言っておくが、別にお前の親父を倒しにきたわけじゃない。俺が倒さないといけない奴が、お前の親父だっただけの話だ」

 

 士は、仮面ライダーディケイドは長い旅の中でそんな闘いを続けてきた。時に悲しい運命を迎えることになろうと、それでも士はその世界のライダーと共に巨悪に立ち向かい、打ち勝ってきた。おそらく今後もそんな闘いは続いていくことだろう。むろん、このエグゼイドの世界も例外ではない。

 自称自分の主治医が決して引くことはないのだと理解したエグゼイドは、声を掠れさせながらも剣の柄を握りしめる力をより一層込めていった。

 

「なら、やれるもんならやってみなよ。俺に……天才ゲーマーMに勝てるつもりならね!」

 

「はっ!面白い。そういや、昨日の決着がまだだったな。いっそここでケリをつけておくとするか!」

 

 初めて会った時の戦いのように、挑発の応酬を繰り返す2人。その間にも戦いの手は緩めない。

 ガンモードに変形したライドブッカーが火を噴いた。まっすぐエグゼイドの胴体を狙って銃口からエネルギー弾が数発飛び出す。これはエグゼイドがすぐさま頭を下げたために全弾が宙を抜けるだけに終わったが、代りに病院の壁に大穴が空いてしまった。

 確実に致命傷を狙った銃撃を目の当たりにしたエグゼイドは、いよいよ迷いをかなぐり捨ててディケイドへと斬りかかる。無論、ディケイドももはや容赦はせぬと、再びライドブッカーをソードモードに変えて迎え撃つ。再び、2つの刃が互いの眼前で止まった。

 命を削り合うような剣戟は降り注ぐ雨の如く、ますます激しさを増していった。

 

「士まで……おい!やめてくれ2人共!」

 

「悪いな!こいつには相当な荒療治が必要らしいぜ!」

 

 ディケイドとエグゼイドの戦闘能力は完全に互角。ユウスケの悲痛な叫びも虚しく、互いに剣を振るう度に刃がぶつかり合う金属音が鳴り響き、両者の装甲が著しく傷つき、盛大に火花が飛び散った。

 

「やめろエム!お前だって本当はこんなことしたくないはずだろ!」

 

「うるさい!これは父さんの笑顔を守るために必要な戦いなんだ!士先生を片付けたら、今度はユウスケ兄ちゃんを消してやる!」

 

 エグゼイドはユウスケの願いを全力で否定するため、渾身の一撃を振るった。常人を超越したパワーは燃え上がる感情を上乗せする事で、背後の廃棄車ごとディケイドを切り刻もうとする。

 鋭い斬撃が走る。エグゼイドの大振りの袈裟斬りは隙が大きく、寸前で避けられてしまう。車だけがガシャコンブレイカーの餌食になり、真っ二つにされて大きく形を変えてさせられてしまった。

 

「父さんが言ってた!父さんの研究が完成すれば、お母さんが生き返るんだって!そしたら俺達家族はまた元通りだ!また家族みんなが笑顔でいられる日々が戻ってくるんだ!だから俺は……」

 

 エグゼイドはガシャコンブレイカーのAボタンを押して、刃を収納した小槌型形態であるハンマーモードに変形させた。

 

《バ・コーン!》

 

 リーチは減少してしまうが、その分取り回しが向上した形態である。さらにBボタンを連打することでエネルギーが蓄積され、あらゆる物を粉砕する凶悪極まりない打撃武器と化した。

 

「父さんの邪魔をする士先生達を許さない!」

 

 跳躍してディケイドの背後に回り、痛烈な打撃を背中から叩き込む。その威力はチャージされた分だけ飛躍的に向上しており、ディケイドは凄まじい破壊力をその身をもって味わうこととなる。

 

「ぐはっ!」

 

 打撃時に発生した際の余波で一緒に雨を弾き飛ばしながら、ディケイドは大地を転がった。

 

「っつう……やれやれ。思った通り、生き返らせたいのはお前の母ちゃんだったか。しっかし、やっぱりお前ガキだな。まだまだママのミルクが恋しいお年頃ってわけか?」

 

「なんだと!」

 

 痛みを堪えて立ち上がり、精一杯の皮肉をぶつけるディケイド。少し足をフラつかせているが、まだまだ戦闘は続行可能だ。むしろ、一見優勢に見えるエグゼイドの方こそ、荒々しく呼吸を繰り返しながら肩を揺らしていた。

 

「うわああああああああああ!!!」

 

《ジャ・キーン!》

 

 再びガシャコンブレイカーから刃が飛び出す。魂の奥底からの叫びと共に得物を振りかざして斬りかかるエグゼイド。駆けながらチャージ機能であるBボタンを無数に連打することによって、尋常でない程のパワーがガシャコンブレイカーの刃へと蓄積されていく。もし、あれの直撃を受ければ、いくらディケイドと言えどもただでは済まないはず。

 とはいえ、その激情の赴くままの力任せな動きは、天才ゲーマーの異名をかなぐり捨てた粗末さ。強敵との激闘を経て歴戦の戦士となったディケイドに、そんなデタラメな戦い方が通用するはずもなかった。

 

《アタックライド・スラッシュ!》

 

 ソードモードの攻撃力を倍増させるカードの効果が付与され、ライドブッカーの刀身が鈍い輝きを放ち始める。そして、ディケイドに向かって一心不乱に突撃していくエグゼイドとは正反対に、静かに剣を構えた。

 

「てやあああああああああああああ!!!!!!!」

 

 待ち構えているディケイドの眼前までマゼンタカラーの刀身が迫る。あと僅かで袈裟斬りが届く。このままではディケイドは斬り裂かれてしまうだろう。観ているしかないユウスケと夏海からもそう思われた時、ディケイドがライドブッカーの柄に力を込めた。

 

「……はっ!」

 

 やはり感情的になったエグゼイドの隙はとてつもなく大きかった。ガシャコンブレイカーが届く前にディケイドによる神速の居合斬りが放たれ、エグゼイドの胴体が瞬間的に薙ぎ払われた。横一文字の煌めきが走り抜ける。

 

「ぐっ……うあああっ!!!」

 

 この痛恨のカウンターによって、予想に反して逆にエグゼイドの方が致命的なダメージを被ったらしい。右手からするりとガシャコンブレイカーが落ちていく。

 

「くう……」

 

 その場に膝をついて倒れたエグゼイドは、それ以上の変身を維持出来なかった。装甲は塵となって消滅し、成人男性と変わらない体格は元の幼い少年のそれに戻っていく。

 やがて力尽きて足元の水溜りに倒れ込んだエムを見かねたユウスケと夏海は慌てて駆け寄った。

 

「エム!」

 

「エム君!」

 

 遠慮なくエグゼイドに引導を渡したディケイドはため息を漏らしながらエム達から逸らす。

 

「安心しろ。手加減はしてやった。どんなにムカつくクソガキでも、俺の患者なのには変わりないからな」

 

 実際、エムの肉体には目立つような傷は見受けられない。強制的に変身解除するダメージを与えつつも、変身者本体にはフィードバックしないような絶妙な力加減で斬ってみせたのだ。

 

「もしかして、さっきから士君がエム君を挑発してたのは……」

 

「ったく、こいつはガキの癖になかなか腕が経つからな。冷静なままで戦われたら、手を抜く余裕なんてまず無い」

 

 エムをなるべく傷付けず、暴走する心の病だけを切り取る。ある意味、人体へのダメージを避けながら腫瘍のみを取り除く繊細さが要求される、本物の医者が行う手術に近い巧みな技である。

 

「言っただろ。俺に切れない物は無い」

 

「士……」

 

 だが、ユウスケ達が外傷が無いことに安堵したのもつかの間、新たな異変が発生した。

 

「うう……」

 

 突然、エムが胸を抑えて暴れ始めたのだ。

 

「う、うわああああああああああ!!!!」

 

 目を見開いて苦しみの絶叫をあげる。手足をジタバタさせてユウスケ達を振り払おうとしている。大事に抱えていたはずのマイティブラザーズXXガシャットが地面に転がり落ちた。

 

「そ、そんな馬鹿な!俺は確かに手加減して……」

 

「うわあああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

 さすがの士も思いもよらぬ事態に目を丸くし、ディケイドの仮面の下でボタボタと冷や汗を垂れ流していた。ユウスケ達に至っては完全に混乱に陥っていた。

 

「おい、エム!どうしたんだよ!?しっかりしろ!」

 

「エム君!?エム君!」

 

 ユウスケと夏海は必死に声をかけるが、エムからの返事は無い。ひたすら苦しみもがき、頭を抱えて苦痛を訴えている。だが、やはり彼には外傷が全く見られない。3人がどうしていいかわからず、事態に頭を抱えている時だった。エムの周囲からノイズのような物が突然走り始める。

 

「これは……」

 

「なるほど。こいつが海東が言ってた『ゲーム病』って奴か」

 

 他の2人が謎の症状に目を丸くする中で、士だけが仮面の内側で合点がいったと渋い顔をしていた。

 正式名称バグスターウイルス感染症。体内に潜伏しているバグスターウイルスが、感染者のストレスによって活性化する特徴を備えている。悪化すると同時に患者に激痛を与え続け、最終的に肉体ごと完全に消滅に至ってしまうという恐ろしい病気である。

 

「やはり、エムには無理だったか……」

 

 廃病院の扉を開いて、1人の男が姿を現した。男の姿を目にしたユウスケは、夏海とは違って素性を知っていたためにとっさに身構える。

 

「芸間クロト!?」

 

 エムの父親にして、この世界で起きている異変の黒幕。おそらくエムに士達と戦うように命じたのもこの男に違いない。ピリピリと張り詰めた空気が雨が降り注ぐ駐車場を満たしていく。

 

「ふんっ、今さらラスボス様のご登場か。息子のピンチにしてはずいぶん呑気なもんだ。社長さんだけに、こいつが本当の重役出勤て奴か?」

 

 未だ苦しみ続けるエムを介護する2人を守るかのように、ディケイドはクロトとの間に入っていった。その右手には、エムから取り上げたエグゼイドへの変身時に使用するライダーガシャット、マイティアクションXが握られている。

 

「これも海東が言っていたが、仮面ライダークロニクルを含めたライダーガシャットは全てバグスターウイルスを内蔵している。こいつを起動すれば、その時点でバグスターウイルスに感染してしまうらしい。その中でも、これみたいな特別製のガシャットは特に強烈みたいだぜ?」

 

 夏海は以前聞いた天才ゲーマーMの偉業を思い起こしていた。仮面ライダークロニクルでトップの地位を築いたエムは、その特典としてエグゼイドの力を幻夢コーポレーションから得たのだと。

 

「そういえば、確かエム君はゲーマードライバーとガシャットを幻夢コーポレーション……つまりお父さんから貰ったって……」

 

「現状、ゲーマドライバーの力を使うプレイヤーは今の所エムだけだ。んでもって、ライダーガシャットの危険性を知るあんたが何故か息子のエムに使わせていた。それが意味することは明白だろ」

 

 全員の視線がクロトに突き刺さる。皆、険しい表情で彼を見つめていた。

 

「あんた……まさかエムをバグスターウイルスの実験に使ったのか!?」

 

 唇を震わせながら問い詰めるユウスケに睨まれても、クロトは何も答えない。否定も肯定もせず、ただ目を伏せるだけだ。それは彼らにとって肯定も同然であった。

 

「酷い。酷いです!実のお父さんなのに……!」

 

「では、顔も知らない誰かをモルモットにすれば君達は満足だったのかね?」

 

 夏海から嗚咽交じりの糾弾を受けたクロトは、表情を一切変えないままようやく口を開いた。

 

「それにだ。これも仕方ないことだった。私の妻、すなわちエムの母親を再生可能な程のデータを構築するには、彼女に最も近い血縁者であるエムの遺伝子情報がどうしても必要不可欠でね。それだけは仮面ライダークロニクルのガシャットだけでは採取出来なかった」

 

 所詮は不特定多数の人間にコスト重視で粗製したバグスターウイルスを内包しただけの量産型ガシャットでしかない、仮面ライダークロニクルガシャットには限界がある。せいぜい人間の体を構成するパーツの共通部分を埋める程度のデータしか得られないだろう。

 しかし、より変身者とは高いレベルでの心身のシンクロを果たし、純度の高いバグスターウイルスを培養可能にするワンオフのライダーガシャットならその限りではない。

 

「そこで私は複製したゲーマドライバーと完成したばかりのマイティアクションXガシャットをエムに与えた。試作であるゲンムを雛形にした新型の仮面ライダーエグゼイド。その性能はライドプレイヤーの比ではない。もちろん、データの収集という意味でもね」

 

 クロトの狙い通り、エグゼイドの力を与えられたエムは他のプレイヤーでは手も足も出ない難関クエストを容易くクリアし続け、父が欲していた遺伝子情報を本人の預かり知らぬところで蓄積していたのである。

 父の気を引くために父の作ったゲームをひたすら攻略していたエムの努力が、彼の意図とは別の形で父を満足させていたとは皮肉な話だ。

 

「幸いにもエムはその時既に仮面ライダーライダークロニクルのトップランカー。特別扱いしても不審には思われなかったよ。途中、君達別世界からの来訪者の登場や、人間の感情を学びすぎて自我を持つに至った敵キャラバグスター達の暴走といった、突発的なアクシデントはいくつか発生してしまったがね。しかし、不幸中の幸いと言うべきかな。君達との出会いがエムを短い間で成長させ、まさか最後の壁だったドラゴナイトハンターZを使いこなすに至るとは。おかげで必要なデータはついに集め終えた」

 

 そこまで言って、クロトは俯きがちだった視線を想定外の存在である士達に向けた。彼らの顔は、軽蔑と怒りに染まっていた。

 

「どうしてそこまで……」

 

 夏海にはクロトのことが全く理解出来なかった。無関係な多くの人々だけでなく、血の繋がった実の息子を巻き込んでまで、己の野望を就実させようとするクロトの執念が。

 離れていても偉大な父親を慕うエムの姿を間近で見ていただけに、なおさらだ。息子の想いを利用してまで、自分の妻を……エムの母親を蘇生したいのか、と。

 

「大局のためには時には非情かつ理不尽な決断を迫れらる局面もあるということだよ。若く、経営者ではない君達には理解しがたいかもしれないがね」

 

「ふざけんな!」

 

 ユウスケは苦しみのあまりにとうとう気を失ってしまったエムを抱えて、ゆっくりと立ち上がった。そして、びしょ濡れになって崩れてしまった前髪越しにクロトを激しく睨みつける。

 

「あんた本当にエムの父親かよ……エムはこんなに苦しんでるんだぞ!エムは必死になってあんたのために戦おうとしてたよ!それなのに……それなのに!あんたはそんな涼しい顔をして!」

 

「君達は勘違いしているようだが、なにも枷を背負っているのはエムだけではない。私も彼女とは血の繋がりが無いとはいえ夫だ。よりリスクの大きいプロトマイティアクションXのガシャットで、私の中に残されていたなけなしのデータを絞り出した。私の寿命と引き換えにね」

 

 怒りをぶつけていたユウスケも唖然としていた。クロトの体にノイズが走る。彼もまたゲーム病に感染している。おそらく彼の発言に嘘偽りは無いだろう。自分の命すら秤にかけた彼をここまで駆り立てる動機とは一体何なのだろうか?

 

「話はここまでだ。他所者である君達にふさわしいエンディングはここで迎える」

 

 クロトは懐から一本のガシャットを取り出した。エムのマイティアクションXガシャットと同じく、人気ゲームキャラクターマイティのイラストが描かれているが、その色はモノクロに染められている。

 試作型ゆえに最大パワーで上回るプロトタイプのマイティアクションXガシャットだ。静かな佇まいながらもヒシヒシと伝わってくるクロトの尋常でない殺意に、士達は身を強張らせた。

 

「グレード2」

 

《マイティアクションX!》

 

 スーツの下で既に装着していたゲーマドライバーへと装填し、同時にレバーを引いてレベル2に移行。

 

「変身」

 

 ゲーマドライバーから紫色のプレートが飛び出す。プレートはクロトの肉体を通過すると、仮面ライダーとしての力を彼に与えていく。

 

《ガッチャーン!レベルアップ!マイティジャンプ!マイティキック!マイティーアクショーン!X!》

 

 黒いエグゼイド、またの名を仮面ライダーゲンムは右手に装備したガシャコンバグヴァイザーをチェーンソーモードへと変形させ、ディケイドに斬りかかった。

 

「ふんっ!」

 

 ディケイドは回避に専念したおかげでなんとか肩アーマーの擦り傷だけで済んだ。直撃すれば確実にディケイドを沈めるであろう正確で隙や無駄の無い剣技は、間違いなく以前ディケイドに辛酸を舐めさせたゲンムの動きそのものだ。

 煙が立ち昇る肩アーマーを手で抑えながら、ディケイドは若緑色の複眼越しにゲンムを睨む。

 

「やはり、あんたがゲンムだったか。なら、昨日の借りはたっぷり返させてもらうぞ!」

 

 ディケイドの挑発に応えることなく、ゲンムは再びチェーンソーを振りかざした。ガシャコンバグヴァイザーに設けられた凶悪極まりないチェーンソーが唸りを上げる。

 強気でああ言ったが、正直あのうごめく刃の破壊力は凄まじく、厄介この上ない。しかも、ゲンム本人の技量もかなり物。おまけにエムとは違い、成熟した精神を持つゲンムを挑発で隙を作らせるのは困難だろう。しかし、ディケイドには秘策がある。

 

「悪いな。お前の攻撃は既に見切っている」

 

 ディケイドが新しく取り出したカードには黄金の竜の如き威容を放つ仮面戦士が描かれている。ディケイドライバーに装填すると同時に、ディケイドの全身を黄金の嵐が包み込んでいく。

 

《カメンライド・アギト!》

 

 神に反逆せし黄金の竜が姿を現わした。大地の力を司る黄金のアギトが手刀を突き出す。話だけは聞いていたディケイドの二重変身を初めて目の当たりにしたゲンムは思わず足を止めた。

 

「……なんのつもりだ」

 

「なに、こいつは傲慢な神様に逆らった大層勇敢なライダーだからな。人様の命を好きにどうこうしようと企んでる不届き者にはピッタリと思ったまでだ」

 

《フォームライド・アギト・フレイム!》

 

 新たなカードの力で、アギトの装甲が燃え盛るような赤色に変化した。超越感覚の赤の異名を持つ仮面ライダーアギト・フレイムフォームは右腕に発生した片刃の長剣フレイムセイバーを両手で握りしめ、ゲンムを迎え撃つ。

 

「さあ、相手になってやるぜ。新世界の神様さんよ」

 

 アギトの赤い瞳がゲンムをまっすぐに捉えた。あの複眼の向こうでは門矢士が不敵に笑っているに違いない。そう思うだけで、何故かこの男だけは完膚なきまでに潰しておかねばという衝動にゲンムは駆られていた。今度は一切躊躇せずに必ず排除する。

 

「はあああっ!!」

 

 もちろん、冷静さを失って動きが悪くなるような愚は犯さない。今度こそ確実に仕留めるために、首から腰まで綺麗に真っ二つにしようと狙う。だが、チェーンソーがすぐそこまで迫っているというのに、ディケイドはフレイムセイバーを構えて不動を保ったままだ。

 

「もらった!」

 

 ゲンムはディケイドに致命傷を与えようとチェーンソーを渾身の力で振り下ろす。ディケイドは全く動かないからには、このままいけば間違いなく葬ることが出来る。そのはずだった。

 

「見えた!」

 

 雨が降り続ける中で無様に地面を転がったのは、燃え盛る炎の刃で切り裂かれたゲンムの方であった。

 

「な、何故だ!確かに私は奴が避けきれないコースを狙ったはず!」

 

 コンクリートの地面に伏したゲンムは膝を抱えながら嗚咽した。彼は知る由もないが、赤のアギトはパワーファイターでありながら、クウガのペガサスフォーム同様の超感覚を有している。この高い動体視力によって、ゲンムの動きを捕捉するなど朝飯前なのだ。

 完全に出鼻を挫かれてしまったゲンムは立ち上がりながら不気味な笑い声を漏らす。

 

「くっくっく!なるほど!確かに()()()の言う通り、お前は油断ならない相手のようだな!世界の破壊者ディケイド!」

 

「……あの人?」

 

 ゲンムと初めて邂逅した際にも同じことを言っていたことを思い出す。最初はどうせ鳴滝のことであろうと大して気にも留めていなかったのだが、何故か違和感が拭えていない。しかし、ディケイドには余計な思考の時間は与えられなかった。

 なにせゲンムの右手には見たことのない新しいガシャットが握られていたからだ。

 

「グレード3!」

 

《シャカリキスポーツ!》

 

 ゲンムが以前との戦いで使用していた奇妙な自転車型サポートメカを召喚。このスポーツゲーマと、今度はエグゼイドと同じように強化装甲として合体を始めた。

 

《アガッチャ!シャカリキ!シャカリキ!バッド!バッド!シャカッと!リキッと!シャカリキスポーツ!》

 

 黒のボディとは相反する蛍光色の強化装甲に、両手に構えた車輪型の武器。ゲンムの強化形態である仮面ライダーゲンム・スポーツアクションゲーマーレベル3に進化を遂げ、両手に装備した巨大な車輪をディケイドに向けた。

 

「ふんっ!」

 

 その巨大さに一見すれば鈍重な動きが予想されていたが、むしろ実態は逆だ。ゲンムのさらに磨きがかかった軽やかなでディケイドを翻弄する。

 

 フレイムフォームお得意の超越感覚でなんとかゲンムの動きを捉えたディケイドは慌ててフレイムセイバーで受け止めようとする。しかし、初撃はなんとか弾いたものの、すぐさま迫ったもう片方の車輪による2度目の突きは完全に相殺出来なかった。攻撃を受け止めた反動でよろめき、ボディがガラ空きとなったディケイドをゲンムの蹴りが襲う。

 

「うおおっ!?」

 

 みぞおちにキックを叩き込まれたディケイドはもう一度フレイムセイバーで応戦しようとするものの、剣を構えるその前にさらなるゲンムの追撃が続く。今度は両手の車輪を同時に振り下ろす斬撃技。防御が間に合わなかったせいでディケイドをとてつもない衝撃が襲いかかった。

 

「くっ!意外と早いじゃねえか!」

 

 一見ふざけた武装に見えるが、その威力はレベル3の称号に恥じず、強力無比であった。新たな装甲が追加された形状でありながら、ゲンムそのもののスピードは格段に向上し、フレイムの運動性能では高まった動体視力に肝心の体が追いつかない程だ。おまけにゲンムの正確かつ反撃の隙を与えない技量も合間って、仮にもパワーファイターに分別されるフレイムフォームが完全に力負けしていた。

 

「ちっ!デッカい車輪をぶんぶん振り回しやがって!良いぜ!お前のゲームにとことん付き合ってやるよ!」

 

 ならば、赤のアギトが有する超感覚に、高い機動力を追加すればいい。あまりにも単純すぎる発想だが、仮面ライダーアギトにはそれを実現可能な力が存在する。

 

《フォームライド・アギト・トリニティ!》

 

 新しいカードを装填とすると同時に、アギトに新たな力が加わった。胸部装甲はグランドフォームと同じ黄金色に、そして左腕は鮮やかな青色に染まり、その手には薙刀が握られている。

 黄金の大地。赤い炎。青き風。

 超越肉体。超越感覚。超越精神。

 これこそが光となったアギトとはまた別の究極のアギト。極められし心・技・体が1つになった三位一体の戦士、仮面ライダーアギト・トリニティフォームである。

 その猛々しい姿に一瞬慄くゲンムだったが、すぐに再び車輪を携えてディケイドに迫る。対して、新たな姿に変わったディケイドもまた両手の獲物を振りかざす。

 剣と槍、2枚の車輪。それぞれの獲物が激しくぶつかり合い、火花を激しく鳴り散らした。今度は互いのパワーもスピードも互角。そして、同じ二刀流。

 

「ぐはっ!まさかこれ程とは……」

 

「ハアハア……ほんとにしぶとい奴だぜ!」

 

 決着はつかず、両者が後ずさる痛み分けに終わった。

 

「わ、私は……負けるわけにはいかない!」

 

「はんっ!お生憎様、そいつは俺も同じだ!」

 

 2人はお互いに必殺技のプロセスを開始する。ディケイドは専用のカードを、ゲンムはシャカリキスポーツガシャットをキメワザスロットへ。

 ゲンムの車輪には虹色のエネルギーが収束し、ディケイドの足元にはアギトの紋章が浮かび上がった。

 

《シャカリキクリティカルストライク!》

 

《ファイナルアタックライド・アアアアギト!》

 

 合図の類は無用であった。最大限に力が高まると共に、2人は同時に駆け出す。

 極限にまで力を解放した2人のライダーがぶつかり合う瞬間、ディケイドは僅かに身を逸らし、ほんの些細な隙を突いてゲンムをフレイムセイバーで薙ぎ払った。

 

「ぐおっ!?」

 

 燃え盛る剣で斬られて呻くゲンムの腹部に、今度はストームハルバードの刃が突き刺さる。炎と嵐の二重攻撃。その身に受けたゲンムは、力尽きて地面に倒れてしまった。黒の装甲も雨に流されるかのように霞の如く塵となって消え去っていく。

 

「終わりだ芸間クロト。さっさとプロトガシャットを渡せ」

 

 ダメージを受けすぎて変身が解かれたクロトの眼前には、ストームハルバードの刃が突きつけられている。誰がどう見ても、ディケイドこそが勝者だ。今まで見守っていたユウスケと夏海も安堵している。これでバグスターウイルスの活性化は抑えられ、エムもゲーム病に苦しみから解放されるはずだ。

 しかし、敗北というエンディングを迎えたはずのクロトは、打ちひしがれるどころか、むしろ愉しそうに口元を吊り上げた。

 

「くっくっく……!」

 

「何がおかしい?完全にお前の負けだろう」

 

 雨に濡れて崩れた前髪から覗くクロトの瞳を目にして、ディケイドは思わず背筋を凍らせた。まだ変身した状態で優位に立っているというのに、クロトの瞳が放つ不気味な輝きに気圧されてしまったのだ。

 

「あいにくだが、ここにはプロトガシャットなど無い!」

 

「なんだと?」

 

「私が発信機に気づいていないとでも思ったか!お前達の考えなどを全てお見通しだ!」

 

「くそっ!俺達をたばかったな!」

 

 クロトは勝ち誇った笑みを浮かべながら、1本の仮面ライダークロニクルガシャットを取り出す。一見、他の同型ガシャットとは区別がつかないが、ガシャットが纏う威容は明らかに格が違った。

 

「ふはははは……時間稼ぎは充分だっ!!!!!!」

 

 マスターガシャットの起動ボタンが押される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ!はっ!」

 

 とある体育館では、仮面ライダークロニクルのプレイヤー達がスコア稼ぎに奔走していた。彼は天才ゲーマーMにこそ遠く及ばないものの、それなりの実力者としてプレイヤー達の間で名が知られている。

 今日もエグゼイドからランク1位を奪取する日を目指して励んでいる。雨が降っているために室内でも戦える体育館に他のプレイヤー達と集まり、雑魚戦闘員のバグスター軍団相手に余裕の立ち回りを見せつけていた。

 

「へへっ!楽……勝……?」

 

 しかし、そんな実力派ライドプレイヤーが戦闘中に胸を抑えて苦しみ始めた。手にしていた銃剣を落とし、そのまま床に倒れこむ。

 

「おい、どうし……ぐお!?」

 

 彼の異変に気付いた別のライドプレイヤーが声をかけようとするが、その前に同じく胸を抑える。

 

「な、なんだよこれ!?」

 

 彼らだけではないだけではない。他のバグスターと戦っていたライドプレイヤーも、観戦に徹していたギャラリーの仮面ライダークロニクルガシャット所有者も例外なくもがき苦しんでいた。

 全身にノイズが走り、存在感が急激に薄れていく。その姿はゲーム病を発症したエムと同じであった。

 

「うわああああああ!!!!」

 

「きゃあああああああ!!!」

 

 体育館全体が阿鼻叫喚の混乱に包まれていく。その恐怖と苦しみはやがて急速に街全体へと広がっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、何をした!?」

 

 勝利を目前にしていたはずのディケイドは慌てふためいていた。ここからでは何が起きているのかわからないが、今までの旅で得た経験から想像するに、追い詰められた悪党が破れかぶれに行う切り札は大抵ロクなものではないと相場で決まっていたからだ。

 

「たった今、仮面ライダークロニクルのバグスターウイルスを最大限に活性化させた。これでプレイヤー達からは膨大なバグスターウイルスが手に入るだろうな。くっくっく……」

 

 クロトは笑っていた。猫を被っていた頃の営業スマイルとは程遠い、邪悪さに満ちた悪魔の笑みだ。

 

「なんだと!?ふざけるな!そんなことをすれば……」

 

「ああ、プレイヤー達は完全にバグスターウイルスに侵食されてじきに消滅を迎えるだろう。だが、悲しむ必要はない。彼らは新世界の礎となる!命の価値観が激変した新世界のだ!フハハハハハハハハハハハっ!!!!ハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!!!!!」

 

 今のクロトにもはや紳士然とした余裕は感じられない。それどころか、とても同じ人の姿とは思えない。狂気を孕んだ、人の形をした怪物と化しているように思えた。

 常軌を逸してしまった怪物はギラギラと目を煌めかせながら叫ぶ。

 

「お前達にも見せてやろう。私が創造する新たな世界をっ!!!!!」

 

《マイティクリエイターVRX!》

 

 クロトが新たに取り出したのは、神々しい白で染められたガシャットだ。プロトマイティアクションXを引き抜き、代わりに同じスロットに差し込む。

 

「変身!」

 

 黒い輝きに包み込まれたクロトは新たなアンダースーツと装甲を纏う。黒を基調にしたボディと髪状のパーツはゲンムを彷彿させる。しかし、ロングコートと目元の大型バイザーが近未来的な印象を与える。

 

《天地創造の力!未来のゲーマー!マイティクリエイターVRX!》

 

 仮面ライダーゲンムが新しく使ったマイティクリエイターVRXガシャットはゲームを作るゲームをモチーフにした物である。その謳い文句の通り、使用者の想像力を形に変えて、常に変化する戦況に合わせた戦法を行使可能とする恐るべきガシャットだ。

 そんな凄まじい能力を持つが故に、本来は電脳空間でのみの使用に限定されているはずなのだが、ライダーの力の源でもあるバグスターウイルスが街中に溢れ出し始めたために現実世界でも使えるようになっているようだ。

 新たな力を手にしたゲンムはガシャットでジェットエンジン付きの翼を描き、背中に装備させた。

 

「さらばだ!新しい世界で再び会おう!ハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 想像の力で空を駆ける翼を得たゲンムは、高笑いと共に大空へと飛び立っていく。虹色の輝きを飛行機雲のように残しながら去っていくゲンムが向かっていった先は、幻夢コーポレーションの本社ビルの所在地だ。おそらくそこにプロトガシャットがあるのだろう。つまり最初から移動させてなどいなかったわけである。

 

「あの野郎!」

 

「うわああああああ!!!」

 

 すぐさまゲンムを追いかけようとするディケイドだったが、すぐ目の前でもがき苦しみ続けるエムを放置することは出来なかった。

 

「ぐああああああああああああ!!!!!!」

 

 変身を解除した士は白衣を翻しながら急いでエムの元に駆け寄った。その瞬間に眉をひそめる。エムの周囲に走るノイズの数はさっきとは比べ物にならない程に増えていた。

 おそらく暴走したクロトの凶行が影響し、バグスターウイルスの症状が急激に悪化しているのだろう。ノイズが走る度にエムが苦悶の声を漏らす。存在感もますます希薄になっていっているように見える。

 だが、よりにもよってバグスターウイルスを制御できる手段を握っているクロトの逃亡は許してしまった。士は自分の詰めの甘さに唇を噛むしかない。

 

「エム!おい、しっかりしろ!エム!!!」

 

「エム君!エム君!!!お願いです!!!目を覚まして下さい!!!」

 

 ユウスケと夏海がびしょ濡れの自分のことなど構わずに、必死に声をかけている。止む様子のない大雨の中で、彼らの叫びは虚しく掻き消されていくのだった。

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