あの戦いから数日が経った。全国で発生した謎の疫病は新型の病原体バグスターウイルスが引き起こしたものであると政府が公表。ゲーム病という病名も正式に与えられ、幻夢コーポレーション社長がバイオテロの黒幕であることも白日の下に晒された。
事件が招いた人々の混乱はこの国だけでなく、世界中にまで急速に波紋している。なにせ、消滅というあまりにも恐ろしい末期症状に加え、バグスターなる強靭な異形を実体化させる特性は人々に大きな衝撃を与えた。死者の蘇生への転用に関しては未だ公になっていないが、事情を知る者達の間では既にその倫理面での是非について激論が飛び交っている。間違いなく、バグスターウイルスの存在は今後この世界を変えていくだろう。
そんな新たな時代の到来の中で、懸念は山程浮かび上がっている。ガシャット以外を媒体に今後バグスターウイルスが自然発生するかもしれない。悪意ある者が再びバグスターウイルスを悪用すれば、今度こそ取り返しのつかない事態に陥ってしまうかもしれない。
そういった今後起きるであろう様々なトラブル解決とバグスターウイルスの研究を専門にした衛生省が設立されるのはまた後の話である。
芸間エムは小学校の教室にて、自分の席で誰とも口を聞かずに俯いていた。元より社交性に欠ける性格なのもあるが、今日は授業参観。クラスメイト達は自分の親が見守る中で和気あいあいとしている中で、エムだけは暗い顔で黒板を見つめているだけだ。
当然だ。なぜならエムの父親クロトは今回の騒動の黒幕。幸い犠牲者が出なかったとはいえ、彼が引き起こした混乱と罪は相当に重い。政府によって拘束され、とてもではないが授業参観に参加できるような身の上ではなかった。
既に授業は始まり、級友たちは親の前で良いところを見せようと張り切っている。しかし、その中でエムだけは黙々とため息混じりでノートにペンを走らせる。
エムが孤独に苛まれ、鬱々としている最中、突如教室の入り口のドアが開いた。
「すみません。少々遅くなってしまい申し訳ない」
「と、父さん!?」
あの戦いで大怪我をしてしまったクロトは松葉杖をついていた。エムと目があった瞬間、どこか気まずそうにしながらも静かに微笑んだ。
「おーいエムー!」
「こ、この声は……」
はにかむクロトの隣から、さらにユウスケと士までもがひょっこり顔を出す。
「おーい、来てやったぞー!あっ、どうもこんにちわ奥様方!どうか俺たちのことはお気になさらず!」
「ったく、いくら主治医だからって、なんで俺がここまでしなきゃならない」
「ユウスケ兄ちゃんと士先生まで!?」
唖然とするエムを尻目に、ユウスケと士が松葉杖をついているクロトの肩を支えながら教室の中に入っていた。謎のイケメン集団の登場にマダム達の注目を浴びつつも、3人で丁度空いていたスペースに立つ。
「よーしっ!頑張れよエム!」
「お前が気合入れてどうする」
「何言ってんだよ士!しっかり気合い入れてエムを応援しないといけないだろ?」
当のエム本人そっちのけで目立ってしまっているユウスケ。エムは恥ずかしさのあまりに目を逸らしてしまっている。しかし、その横顔はどこか嬉しそうに見えた。そんな息子の姿を優しく見守るクロト。
おそらくこの親子にはこれからも困難が迫るに違いない。だが、彼らならきっと乗り越えられる。口には出さないが、士はそう確信していた。
「2人とも、なかなか良い笑顔じゃないか」
自分でも無自覚に口元を綻ばせながら、士は首にぶら下げているカメラのレンズをエムに合わせ、密かにシャッターを切るのだった。
パシャリッ!
「さあ、みんな!張り切って次の世界に行くわよお!」
「キバーラ!いつの間に戻って来たんですか?」
「細かいことは気にしなーい♪」
光写真館の中を忙しなく飛び回るキバーラ。士はこの世界の騒動を解決したというのに、なぜか不機嫌さ全開でキバーラを睨む。
「なんでお前が仕切ってるんだ」
「あら、別にいいじゃない。これからは、またあんた達について行くわよ。感謝しなさいよね」
「ふんっ、勝手にしろ。海東の奴もまたいなくなりやがって。あの野郎、次の世界のでも余計なことしたらタダじゃおかねえからな」
そう言って士は窓際になって沈黙を貫き始めた。珍しく士の嫌味が少なめで拍子抜けしたキバーラは、コーヒーをカップに注いでいる栄次郎の元に飛びつく。
「それより、栄ちゃん♪私に会えなくて寂しかったー?」
「もちろんだよキバーラちゃん♪なんでいつのまにいなくなっちゃうの!」
「ごめんね〜!もう勝手に出て行ったりしないから〜♪」
謎の空間を形成し始めたキバーラと栄次郎を無視して、窓を見つめたまま心あらずといった士にユウスケは声をかけた。
「……クロトさんが言ってたこと、やっぱり気になってるのか?」
士が一瞬だけ眉を潜める。そして、天井を見上げて物思いにふけり始めた。
「ああ」
「仮面ライダークロニクルとバグスターウイルスの実験データが全て盗まれただと?」
「はい、おそらくは
仮面ライダークロニクルの開発をクロトに持ちかけて来た不気味な白いスーツの男のことだ。事件の後、その男との連絡が一切つかなくなってしまったらしい。そんな中での実験データの盗難。無関係とは思えない。
「ガイアメモリとロックシードのデータを持ち込んで来た男か……そいつの背後も含めて怪しさ全開だな」
ロックシードとやらは士の記憶に無いが、ガイアメモリならばよく知っている。地球に存在するあらゆる事象、生物、概念等の力を内包した摩訶不思議なUSBメモリ型の兵器。こことは別の世界の仮面ライダーが共闘の際に、変身に使っているのを士は見たことがあった。
そんな危険な物を知っているということは、その男は士と同じく異世界からの来訪者であることを意味している。ベンチに座ったクロトは冷や汗を垂らしている。今になって男の底知れぬ恐ろしさを認識したようだ。
「気をつけてください門矢先生。奴は……いや、奴らはおそらく何か途轍もなく恐ろしいことを企んでいる気がしてならない!」
「さあ、気を取り直して、次の世界に参るとしますか!」
ユウスケの手拍子に応えるかのように、何処かの病院が描かれていた絵を覆い隠すかのように、新たな垂れ幕が降りた。
「……こいつは!」
世界の破壊者ディケイド。新たなる世界へと渡り、その瞳は何を見る?
これにて本作は完結です。ありがとうございました。