サンリオ・サーガ   作:鈴木遥

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人生においてのトラブルは、アップルパイのりんごと同じ

・出発して間もなく、宇宙旅客機アップルオブサンリオ号はトラブルに見舞われた。

いや、バツマルの父に整備不良はない。

原因は、 明らかな敵意を持って旅客機の背後に迫る、不気味な海賊船の襲撃だった。

 

カリブ海の伝説にあるバトルシップだが、マストはボロボロ、帆は穴だらけ、甲板から不気味な青い触手を出しており、とてもこの世のものとは思えない。

 

「何なんだあいつら……何で旅客機を……!」

 

メーターを全速力にし、ハンドルをしっかり握りしめたバツマルが、背後の見知らぬ敵に舌打ちした。

 

ウィッシュミーメルが、ナビを見て顔を青くしている。

 

「メル!どうした?何があった!?」

 

「敵艦から電文通信……『ワープゾーンの狭間、若い身空で死にゆくおのれの運命を恨むがいい。』」

 

「分かっちゃいたが、まさかここまで敵意むき出しとはな……!」

 

「分かっちゃいた!!?どういうことケロ!?」

 

「バツマル!ヤバい逃げろ!」

 

窓際に立っていたポチャッコが、大声で叫んだ。

 

「オレが優雅にドライブしてる様に見えますか!?とっくの昔から逃げてますよ先輩!」

 

「甲板に居た奴の顔を見たんだ!」

 

「へえー、どんな悪人面が見えました?」

 

「あれは……懸賞金300万アプラのA級宇宙海賊、キャプテン・バット……!!」

 

艦内の全員が顔を見合わせる。

社会情勢には疎い彼らだが、サンリオでキャプテン・バットの名を知らぬ者はいない。

 

宇宙各地で略奪の限りを尽くし、かつての先住民族もろともリンゴの森を焼き、あわや滅亡に追い込んだ悪党である。

バツマルが生まれる前の話だが、工房の近くには不自然な砂場が出来ており、未だその爪痕は相応しい。

 

事件後すぐ、彼に300万アプラの懸賞金が懸けられてから20年。彼は血眼になる宇宙警察や、宇宙国際連合の目を欺き、今まで息を潜めてきた。

 

「何だって、そんな大物が俺たちを……!?」

 

バツマルが冷や汗を拭った時、触手は機体に貼り付き、機体の自由を奪った。

 

「なぜ停まった!」

 

「あの気味悪い触手が、右ブースターを塞いじまった。

このままじゃ、おしまいです!」

 

焦るバツマル。その傍ら、エンジニアではない、何も出来ずに自分を恨むダニエルの耳元に、“声”が届いた。

 

ダニエル……!

 

「……!?」

 

 

声の主が誰かなど分からなかったが、不思議とその声には聞き覚えがあった。

 

ダニエル……!ダニエル……!

 

「誰!?誰なんですかあなたは!」

 

「ダニエル!何をごちゃごちゃ言ってる!?」

 

声が聞こえないのか、ポチャッコが怪訝そうに言った。

 

 

 

キティを……早く、脱出ポットへ……!

 

ダニエルは、艦内の隅、キティがうずくまっている場所を見た。その部分はオレンジ色の床で、近くのレバーを引くと機体と分離し、円形の脱出ポットに変わる。

「ダニエル!何を!」

 

仲間の制止を振り切り、ダニエルはとっさにレバーを引いた。

正体も分からぬ声の言いなりになるつもりは無いが、声がした時キティが『ポットゾーン』に居た事、ダニエル自身もまずキティの安全確保について考えていた事など、あまりに都合がよかった。

 

 

キティは何か言いたげだったが聞き取る間もなく、ポットは機体から分離した。

 

だが、幸運は連鎖する。キティを乗せたポットが分離する際の衝撃で、右ブースターを封じていた触手が破裂。

再び稼働したのだ。

「今がチャンス!」

 

バツマルは左ブースターの出力を最大にし、ハンドルを右に傾けた。機体は触手から逃れ、ただ真っ直ぐにワープゾーンの出口を目指す。

 

「よぉし、前言撤回!これから全速力で地球に向かうぜ!皆しっかり掴まれよ!」

 

もはや安全運転、などと悠長な事は言っていられなかった。

バツマル決死の運転で、旅客機はようやくワープゾーンを脱した。

 

 

 

「チッ……!逃したか!すばしっこいガキ共だ!」

 

キャプテン・バットはワープゾーンを脱出したアップルオブサンリオ号を恨めしげに睨んでいた。

 

濁った水色の肌に、鋭い黄色の瞳。チョッキも帽子も穴が空きボロボロで、地獄から戻った亡者の様な出で立ちだ。

 

「だが、良いさ。行ってみるがいい。真の惨劇は、地球で待ち受けている……!」

 

やがて自らもワープゾーンを離脱し、追跡を一時中断下バット。

 

だが、その瞳には、悪意も、殺意も、憎しみも、何一つ消えてはいなかった……。

 

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