緑と本の山。
私が目覚めた時、そんな世界が広がっていた。
「………?」
混乱と動揺が行動に現れて、さっきから両膝が愉快にタップダンスしている。幻覚?走馬灯?いずれも違う。現実味があり過ぎる、今触っている本の独特の乾いた紙の質感や頬を撫でる春風。これが現実ではないとしたらなんだ?
「…………まずは落ち着きましょう。そう、最後に覚えていることを思い出せば自ずとここからの脱出方法があるバズよ」
最後に覚えているのは、『変身』と『光』。
そして…………。
『仮面ライダー…、でしょ?』
ふと気づいたら私の目の前に車椅子の少女がそこに現れた。私は一瞬の油断も許してはいなかった、それなのに彼女はコンマ一秒で私の対面に現れた。
『警戒しないで、………………は貴方にとっては信用ならない言葉かしら?』
何を言う、血は薄れていても吸血鬼の末裔である私の感覚に引っかからずに私の目の前に突如として現れたあなたをどう信用しろと?
「…………ここは?」
『貴女の脳内妄想か、それとも夢か?判断の付けようと答えは無数にあるけど…………、貴女はどっちが良い?』
「ッ……!?巫山戯ないで!私を早くこんなところから出しなさい!早く、そうしないと………」
『高町恭也が、変わってしまう?戻らないところで行ってしまう?どっちにしろ手遅れよ。
悲壮、苦痛。彼女の表情にはそれが浮き上がっていた。誰かを思うあまりそれが自身を永遠に傷つける刃のように。彼女を苦しめていた。
『………………私が悪いの。』
「は?」
『私が…、私が…!!私が!彼に【望んで】しまったから!!?』
彼女が嘆くのに共鳴するように世界も歯車が軋むような音を出して、今にも弾き壊れそうになる。
「落ち着いて!貴女は何をしたのかは知らないけど、人間は生きてる限り何度でもやり直せる!」
『無理よ!彼はもう、時間的概念の外側にいてしまっている!もう誰も彼を救ってあげることはできない!!』
支離滅裂だ。コイツは何がやりたい?コイツは何を訴えたい?起承転結を習っていないのかコイツは!?内心動揺が絶えない私はなんとか彼女を諌めるべく椅子から立ち上がろうとするが、体が石膏像みたいに固まってしまった。
『…………だから、お願い。彼を、彼を見限らないで、最後まで見捨てないであげて、私ができなかった事を貴方がしてあげて。』
視界が歪む。どうやらこの世界にはもういられないようだ。直感的にそれを理解した。しかし、まだだ彼女には聞きたいことが山ほどある!私は微睡みかけた脳内状態で最後の力を振り絞り、その疑問を声に出した。
「《仮………面、ラ イダ、ー》って……………なんだ!?」
その問に彼女は慈しむように笑って言った。
『誰かの為のヒーローよ、救われる事を望み『救われる』事を求めない。戦士の事よ』
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目が覚めると最初に見たのは『高町恭也』の顔がドアップに広がっていた。
「ん?起きたか」
呑気そうに彼が呟くと無性に殴りたくなった。しかしここはそれを抑えつつ、体を起こしてもらった。どうやら私がうつ伏せにしていたところはビルの残骸の上だった。私が眠っていた隣に妹とその友達が穏やかに寝息を立ていた。
「さてと、ではそろそろお暇させてもらいますか」
「待ちなさい恭也、いや今は《九条誠一》なのかしら?」
「…………、どこでその名前で知ったのか知らないが。俺の名前を知ってるならわかるだろ、お前らが求める《高町恭也》はもう居ない。」
改めて対面に言われると心に軋みが生まれた。今にも泣いて喚き散らしたいくらい辛いが、私には責任がある。恭也を見殺しにしてしまった事に対する責任が。
「………貴方が誰なんて、関係ない。でもその体の持ち主には家族がいて、妹もいる。」
「それは肉体の記憶を見ればわかる、しかし【ニセモノ】がホンモノの様に振る舞って幸せを作れ、というのは些か無理我ある。それにいずれバレたらその家族を傷つけることになってしまう」
「傷つける?巫山戯ないで恭也の代わりに家族守ってよ。貴方がどんな奴だとかはどんな『バケモノ』でも構わない。貴方には、ニセモノでも《高町恭也》として生きる義務と責任がある。違う?」
「………それも、そうだな。でも…。」
ウジウジと彼が呟く。
……ムカつく。恭也の顔でそんな表情作らないでよ。恭也の口で優柔不断みたいなこと言わないでよ。
私はそいつの態度に怒りの沸点が高まる。そして思わずソイツの襟を掴んでしまう。
「ウジウジしないでよ!!恭也の《人生》をアンタがぶっ壊したのよ!確かに私はアンタじゃなかったらあいつに永遠に辱めを受けさせられていた。その点じゃ、アンタを恨めない。」
でも!!
「それでもアンタは!私を。本当に『助けて』くれなかった!!《恭也の人生》を奪った!!私達の《これから》をブチ壊した!!」
最悪だ。本当はこんな事言っちゃあいけないのに、助けてくれたのに。二人を助けてくれたのに。それなのに止まらない。
ーーー『悲しみと憎悪』が。
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「ーーーわかった」
ふっと顔を上げる。彼が真っ直ぐな瞳で私を見つめていた。
「俺が、ソイツの代わりに成る。《高町恭也》に成る。」
「だから、頼むから。泣かないでくれ」
悲しそうな表情で彼は笑った。私は今更ながら自分の言ったことの残酷さを知った。彼だって望んでこの状況を作ったわけではない、でも私は彼に他人になる人生を強要させた。彼の罪悪感を利用した。最低だ。でも今更「やっぱりいい」なんて言えない。
彼には、私の幸せを、罪を、一緒に清算しなければならないといけないのだから。
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ここで一人の男の話をしょう。
彼は何一つ変哲のない家庭に産まれた。
彼は剣道の天才だった、彼は父と妹と共に剣の道を極めた。
別に彼は剣道なんかしなくても幸せだった。優れた父と美しい母に可愛い妹たちそれに、綺麗な彼女。
それさえあれば彼の人生は幸福に満ち溢れていた。
彼はとある日いつも通り部活終わりの帰路に着いていた。今日は父と誕生日だったのだが思っていたほど時間がかかってしまった。途中、誕生日ケーキを買って家へと急いた。
いつも通り、温かい家が待っている。
だが。
それは、
悉く、
ぶち壊されていた。
彼を家で待っていたのは父の変わり果てた姿と犯人に辱められていた母と震えていた妹たちだった。
彼の幸せはその日を限りに壊滅した。
彼はすぐさま犯人に飛びかかった。しかし彼は羽虫の如く叩き潰された。それでも負けまいと再び犯人に突っ込むが、敵わない。その時点で彼は相手の強さの格差を知っていた。が
『妹たちを守るために!!』
もう彼は《正義》で動いていた。骨はボロボロ、内臓からの出血が止まらない。体は死人にであった。
でも、彼は戦った。体の限界を超えて、母と、妹を、守るために。
だか、届かなかった。
彼が目覚めると病院のベットの上だった。
その近くには彼女の月村忍が心配そうにこちらを覗いていた。
ことの顛末は彼女から聞いた。どうやら犯人は自分の相手をしていたせいで妹たちに手を出す前に忍たちが助けに来て逃げたらしい。
あとあの犯人は自分を狙った犯行だったらしい。忍を嫁に取るために現れた『氷室』と言う男が自分が忍の彼女だというのが気に食わなかったらしい。その為の報復として自分の家族を襲ったそうな。
『許さない』
その日から自分は復讐鬼になった。
家族が安心して暮らせるように。
父と母の尊厳のために。
……………でも、届かなかった。
そして自分の彼女が辱められる所をただ見てただけだった。また大切なモノを守れなかった。
………弱い
……………弱い。
………………………弱すぎるッ!!!!
ふと、意識が掻き消える瞬間いつか見た『夢』を思い出した。
それは大切な者の為に化物たちと戦う『仮面の戦士』の夢。
子供の頃始めてみたあの『夢』の戦士の様に。
「ーーー仮面ライダーに、成りたい。」
切な思いと共に《高町恭也》は死んだ。
そして、理想は、願いは託された。
《ニセモノ》に……………………。