魔法少女リリカルはにゃーん様   作:沢村十兵衛

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第10話 はにゃーん様、御策略

はにゃーん様がプレッシャーでその場をお収めなさった時より僅かに時は戻る。

その頃ようやくになって、時空管理局所属の時空航行艦アースラは地球周辺の時空間へ辿り着いていた……ちなみに、過去にはにゃーん様がハマーン様であった頃に幾多の激戦を繰り広げた反連邦政府組織A.E.U.G.の初代旗艦アーガマとは何の因果関係も無い。

はにゃーん様による圧倒的戦いをモニタリングしているブリッジにアースラの艦長、日本被れと味覚障害で有名なリンディ・ハラオウンがやってくると、オペレーターの一人がジュエル・シードに関する報告をする。

「現地では二名……いや一名により戦闘が終結しました。バケモンですね、あの子」

「ロストロギアはA+、不安定な上無差別攻撃を行っていた模様です」

「戦闘は終わったのでしょ?なら早いとこ回収しちゃいましょ、クロノ・ハラオウン執務官、準備の方は?」

「転移座標についてもバッチシです。命令さえあれば何時でも」

「それはよろしい、では、ジュエル・シードの回収と二名への事情聴取、お願いね」

「了解です、艦長」

「よろしくねー」

「はぁ、行って来ます」

せっかく引き締まった気分もすっかり拍子抜けしてしまい、何ともいえない気持ちで転送されるクロノであった……

* * *

「コレは一体……」

転送されるされるやクロノ少年の目の前に広がるは青く輝くジュエル・シードを手にした大天使はにゃーん様と、はにゃーん様のオーラ力の前に畏れおののく庶民フェイト嬢、そしてオーラ力を前に跪くイタチの騎士ユーノ、戦場は既にはにゃーん様の御手の上にあった。

「時空管理局のクロノ・ハラオウン執務官だが……これはどういう状況だ?」

「おやおや、ようやくご登場かい?」

「ああ君、これはどういう状況か教えてくれないか?理解が追い付かない……」

「貴様!なのは様にその様な言い方は無礼だぞ!」

「な、何だぁ!?君は!?」

「よせ、ユーノ。それよりハラオウン執務官には職務があってこちらへ参られたのでは?であればそれを全うすべきでしょう」

微笑を浮かべながらそう言う白いバリアジャケットの少女、しかし何故だかボクにはジュエル・シードよりも彼女から感じる薄気味悪さの方が質が悪いように思えた。

猫被り、という表現が一番彼女に合うだろう。

「そこの黒いバリアジャケットの君、事情を伺いたい。来てもらえるな?」

「…………」

白い少女よりは少なくともまともそうにみえる対照的な黒いバリアジャケットの少女、でも彼女からは明確な敵対心が見える。

来てもらえないなら無理やり引っ張るまで、と愛用のS2Uを黒いバリアジャケットの少女へ向けると、茂みから赤い狼が飛び出して魔力弾をムチャクチャに放ってきた。

「逃げるよ!フェイト!」

「アルフ……うん!」

「くそっ!待てっ!」

「今更追いかけても既に手遅れでしょう。ですが、幾らかあの子に関する情報は持っているのでご安心を……」

「あ、ああ……助かるよ……」

いつの間にか安全な所まで退避していた白い少女……

やっぱりこの子は薄気味悪い。

* * *

フェイト等を差し置いてジュエル・シードを手に入れた瞬間に現れた、時空管理局とやらで執務官をしているクロノ・ハラオウンという少年。

自信に満ちた口調から執務官とはかなりの地位にあるようだ。

しかし直後にあの狼にまんまと出し抜かれ、フェイトを逃がした所を見るとそれ程脅威でもないらしい……

宙に現れた魔法陣の中に映る女と二三言話した後、事情聴取したいのでと私に同行を求めた。

勿論私は了承した、時空管理局がどの様な組織か見るためでもあるし、アースラという艦にも興味ある。

魔法陣に入ったと思えばそこは既に艦内だった。

だが、グワダンやアーガマのような暖かみはどこにも感じられない、周囲が暗色に覆われ「陰気臭中だ」というのが印象か。

《なのは様は、時空航行艦がどの様なものか御存知でしょうか?》

《訊かなくとも大凡の見当ぐらい付く、地球と似たような世界が幾つもあるんだろ?》

《はい、時空管理局は今回のような事件、他の世界が干渉しあう様な事件が起きた時に出動するのですが……》

《フン、所詮は連邦と同じ、事件が終わる頃に出動を掛けるような組織か……》

《はい?》

吐き捨てるようなはにゃーん様の口調にユーノは疑問を抱きつつ、クロノに連れられた二人はオート・ロックのゲートを潜り抜けて艦内廊下に出る。

「ところで、キミは何時までバリアジャケットを着ているんだ?ここならもう安全だよ」

「フフフ……見知らぬ艦に連れ込まれて武装解除する者が居りましょうか?ハラオウン執務官」

「ヤケに用心深いんだなぁ……キミは。そっちのキミ、キミもそろそろ戻ったらどうだい?」

《どう致しましょう……なのは様……》

《私は貴様の正体などに興味は無い、自由にしろ》

「ではその様に……」

緑色の魔力の光に包まれたイタチの騎士ユーノは、その姿を変えて如何にも庶民らしい服装の少年へと姿を変える。

しかし当然、主人のはにゃーん様は既に正体を見抜いておられたので何も驚かれる素振り所か興味さえ抱かず、そのままクロノについて艦長室へ向かう。

「艦長!来て貰いました!」

「まぁ二人とも、どうぞどうぞ、気を楽にして」

オート・ロックの扉が開くやはにゃーん様の前に見えたのは盆栽、そして茶器、正座してはにゃーん様等を迎える女性の姿。

部屋を自由に改装できるというのは個室の与えられる士官の特権、無論中に持ち込む私物に関して咎められる筋合いもないので、この部屋には文句の言いようもないが、流石にミスマッチと言える。

「まぁ、あのロストロギア、ジュエル・シードを発掘したのがアナタなの」

「はい、それで回収しようと……」

「立派ね」

「でも無謀でもある、発掘したとはいえどういうシロモノかは、解っていたんだろ?」

事情聴取が始められ、無謀にも単独で回収しようとしていたユーノの行動は褒められつつも、やはり愚かな行動だと切り捨てられた。

それは確かに考えるまでもない事、宝探しで古代の失われた技術の結晶を掘り当て、それが散らばったからと一人でノコノコ探すのはバカな真似だ、が……

「しかしながら、ユーノの行動には一理有りましょう。危険な遺失物ならば時間が経過すればそれだけ被害も拡大します。迅速な行動が有ればこそ、被害は最小限に食い止められたのですから……」

「そうねぇ、到着が遅れた私達に言えたことでは無いわね、クロノ?」

はにゃーん様の御指摘を受け、リンディは素直に自分達の非を認めて謝罪した。

クロノは釈然としない様子だが、はにゃーん様にお褒めの御言葉を戴いたユーノは感激の余り「はにゃーん様!バンザァァァァイ!!」と叫びそうになる、が、はにゃーん様のプレッシャーを全身に浴び、不発のまま失神するのであった。

「でもホント、特に目立った被害もなくて良かったわ。アナタ達が以前衝突して起きた次元震、アレがちょっと大きくなっただけで、この世界は崩壊してしまうんだから」

「記録に残っているモノでも、中には平行世界諸共崩壊して滅んだ文明さえあるんだ」

「死を実感する暇さえ無かっただけでも幸運でしょう、その住人には」

「ああ、そうだな。しかしそれを繰り返さない為に、時空管理局が設立された。太古の遺失物を正しく管理しなけりゃならないんだ」

「しかし……人の心まで管理出来ましょうか?」

「……人が自ら世界を滅ぼすと言いたいのか」

「ええ、荒んだ心は人に何をさせるか解りませんもの……」

「…………」

ここに来る途中、クロノから薄気味悪い少女がいると念話で報告を受けたけれど、それは本当ね。

彼女、モニター越しでも感じる底知れない力を持っている……

そして今の物言い……まるでその世界を体験したかのような口振り……

彼女は一体何者かしら、ね……

「今回のロストロギア事件、私はこの事件には人の意志を感じてなりません。次元世界を滅ぼすやも知れぬこのジュエル・シードを利用しようと企む人間……果たしてどの様な人物な者か……」

「……その言いようでは……まるで知っているようにも聞こえるが……?」

「フフフ……子供の勝手な邪推ですので、お気になさらず……」

妖美な微笑みを御浮かべながら、はにゃーん様は優雅な手付きで出されたお茶をお飲みになる。

「ともかく、これよりジュエル・シードの回収は我々時空管理局が引き継ぎます」

「君達は元の世界で、元通りの生活を送るといい」

姿勢を正したリンディとクロノがそういった瞬間、ユーノははにゃーん様のお口元が僅かに歪んだ事に気付いた。

「それは助かります。が、果たしてアナタ達が信用できるのでしょうか?」

「それはどういう……」

「このジュエル・シードは、たった一個の、それも全エネルギー総量の何万分の一の威力でも危険なのでしょう?なのにあなた方はそれを今日まで見過ごしていた……私にはアナタ達時空管理局は、このジュエル・シードの存在を嗅ぎ付けたテロリストの様に思えてなりません……」

「到着が遅れたことは謝る。だから……」

「そうは言っても、あの黒衣の少女でさえこのジュエル・シードを欲しているのです。アナタ達がテロリストでないという保証は何処にありましょう?」

「アナタは……時空管理局にどうしろと?」

リンディがはにゃーん様にそうお訊きになったとき、はにゃーん様のお口元が意地の悪そうに大きく歪んだ……

* * *

一方、時空管理局の介入を知ったフェイト達は、その日はマンションに戻ったきり、一歩も外に出ることはなかった。

彼女等のような捨て駒でさえ、時空管理局の恐ろしさはよく知っている、しかも今回はその中でもエリート中のエリート、執務官直々のお出ましときた。

そうなれば一般庶民のフェイト達が二人だろうが十人だろうが、束になって掛かっても勝てる見込みは薄い。

「ねぇ、フェイト、もう無理だよ。時空管理局が、執務官が出てきちゃお仕舞いだよ!いくら何でも執務官じゃあ……!ここもいつバレるか解んないし、フェイトのお母さんだって訳わかんない事してるし……!もう逃げようよ!」

いつかの強気は何処へ行ったのやら、ここが一般庶民と高貴なる御方はにゃーん様との差である。

「母さんの事は……あんまり悪く言わないで……」

「言うよぉ……!私だって使い魔何だから……フェイトが痛い時は痛いし、フェイトが悲しい時は悲しいし……!」

「使い魔とは少し精神リンクしてるからね……でもごめん、私は母さんに喜んで貰いたいんだ……だから後少し、頑張ろう……アルフ……」

「へぇ、意外といい部屋取っているな君達」

「アンタ!白いヤツの使い魔!?どうしてここが……いやいい、アンタと引き換えにジュエル・シードを戴けば!」

「まぁまぁ、落ち着きなよ。君達に悪くない話しを持ってきたんだ……」

 

その日の夜、ユーノを再びイタチの姿に戻し、密命を言いつけた上で外へ放ったはにゃーん様は、その後の管理局との会談を思い出しお笑いになった。

時空管理局に何を望むと訊くリンディに、はにゃーん様はこう答えた。

「アナタ達の指示通り、私はこの件から一切の手を引きましょう。ですが、アナタ達がテロリストでないという確証を得るまで、手元のジュエル・シードを引き渡すわけには参りません」

「なら、首謀者を君の前に引っ張ってくれば良いんだな?」

「ええ、それと引き換えにジュエル・シードは全て時空管理局に引き渡しましょう」

「それなら……」

「いいでしょう、あなた方が必死になって集めたジュエル・シードですもの、そうそう気持ちよく渡せるはずないわ」

そう言ってリンディはその条件を飲んだ。

「フフフ……精々足掻くのだな、俗物共め……」

 

はにゃーん様の狙いとは如何に……


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