魔法少女リリカルはにゃーん様   作:沢村十兵衛

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第12話 はにゃーん様、御出陣

「……これで集まったジュエル・シードは十九個。これだけあれば問題ない、けど……」

私室にて集めさせた十九ものジュエル・シードを眺めるプレシアは何とも言えない気分だった。

時空管理局の現役執務官を気合いで乗り切ったフェイトは大金星を上げた、これでほぼ確実にアルハザードへは行ける。

しかし、しかしだ、集まったジュエル・シード、シリアルナンバーⅠとⅩⅩⅠ、最初と最後のシリアルナンバーだけが欠けている。

どうせなら全部持ってくれば良いのに何故最初と最後だけを取り逃すのか……

「スッキリしないわ……」

プレシアよ、お前はいつからジュエル・シードのマニアになったのかと言いたい。

一方、見事現役執務官を叩きのめす大金星を上げたフェイト嬢はというと、プレシアから与えられた部屋のベッドで休んでいた。

時空管理局の現役執務官を叩き落とした事は戦争をふっかけたのと同義、それ程大部隊とはいかなくともかなりの武装局員達が此処へやってくるだろう。

プレシアからはそれまでの間に休んでいるよう言われ、この部屋を与えられた、つまり決戦に備えろということだ。

しかし当のフェイト嬢はというと……

「あの白い子にお礼しなくちゃ」

律儀にもはにゃーん様への御礼を考えていた。

今更遅いというべきか、それとも決戦が近いにも関わらず能天気と言うべきか、ともかくフェイト嬢ははにゃーん様へのお礼は何にするべきか、早速ベッドの下で丸まっているアルフを揺り起こして相談することにする。

「ねえねえ、アルフ起きて」

「何だい?わたしゃまだ眠いんだ……」

「あの白い子のお礼、何がいいと思う?」

「あの白いヤツに?んなモン何でもいいでしょ」

「ダメだよ、こういうのは気持ちだから……」

「ウーン……んじゃドッグフードでもあげな」

「もういいよ、アルフは寝てて」

「アーイ」

やっぱりこういうのはアルフには相談すべきではなかった。

仕方なくマントを羽織り、彼女は一人海鳴へ戻る事にした。

幸か不幸か、彼女が海鳴に降り立った直後にプレシアはジュエル・シードを発動させ、その次元震で位置を割り出した時空管理局所属時空航行艦アースラは武装局員の大部隊をプレシアの居城へ送り込んだ。

* * *

その日のはにゃーん様はというと、通常通りの学業を終えられ、そのままの足でアリサの家へ遊びに行かれるため、ご友人お二人とご一緒に下校なさっていた。

俗に言う、嵐の前の静けさ、というものである。

ご友人お二人はというと、最近になってどこか変わったような気のするはにゃーん様を気遣ってよくはにゃーん様とお話をなさるのだが、やはりはにゃーん様とご友人お二人の間には見えないシコリのようなモノがあるようで、今まで解決に至っていない。

むしろその妙なシコリがあると感じるのは、自分達がどこか変わった所為なのではと思う位だ。

「そうそう、実は最近面白い子と知り合ったのよ」

そう切り出したアリサに、当然はにゃーん様とすずかはそれが誰なのかと訊いた。

アリサが言うに、その面白い子と知り合ったのは図書館とのこと。

海鳴市にはそれなりの蔵書を誇る図書館があり、はにゃーん様も一時期は学校以上の叡智を養われる為に足繁くそこへ通われた事もある。

その面白い子と知り合ったキッカケは、アリサが大名行列のようなSPを伴って図書館で借りた本を返却し、新たな本を探して無数の書架の間を歩き回っていた時のこと。

「うーん、やっぱりここらには面白そうな本は無いわね。工学系の本なんてすずかやなのはの領分だわ……」

「……ええい、何だこの主観的な記述は……これでは構造の本質など完全に理解出来ん……コレもか……!」

「ん?ちょっとここは図書館よ、もう少し静かに読みなさいよ……!」

小難しい本が並ぶ列なので人気無いといえどここは公共施設、いくら記述が酷いといえど騒ぎ立てるのは御法度、アリサが書架の向こう側へ注意を呼び掛けるとイラついた声は止まった。

代わりに極低音の駆動音が聞こえて、アリサの元へ車椅子に乗った少女が現れる、その少女は茶髪で何故か頭をヘアバンドで縛っていた。

「あいや申し訳無い、本に没頭しすぎてここが何処だか忘れてしまったようだ……」

「次からは気をつけなさいよ。ところでアンタ、それ……」

「ああ、気にしないでくれ。物心付いたときからの因縁だ、今やこの車椅子のおかげで大分楽になった」

「そ、なら私も気を遣わないようにするわ。却って嫌になるだろうし」

「そうしてもらえると助かる。所で君がここ居るとは……なかなか勉学に励んでいるらしいな」

「ええ。パパの会社継がなきゃなんないから」

「ほぉー、是非とも頑張ってくれ。これからの時代を担うのは我々女だからな」

「そうね、男ばっかりに負けてらんないもの」

とすっかり車椅子の少女と意気投合したアリサはそのまま場所を移して様々な議論を交わし、日が沈み別れるときには両手で握手してまた議論しよう、と約束を交わしたのであったそうだ。

「へぇー、その子頭良いんだねぇー」

「車椅子がお手製って聞いたときは流石に驚いたわ」

「凄いねー」

「ねー。あれ?」

「あっ…………」

はにゃーん様がすずかとその天才少女を褒めていたとき、不意にすずかが足を止めたのではにゃーん様とアリサも足を止めてすずかの見ている正面を向く、するとそこには翠屋のケーキの入った箱をぶら下げてこちらを見ているフェイト嬢の姿が。

どうやら結局マシな案が浮かばず、前回同様桃子オススメのケーキに決めたらしい。

こちらを見て気まずそうにするフェイト嬢、はにゃーん様は迷わず佇んでいる彼女に近付くと、なんとフェイト嬢の手を引いてアリサ等の元へ連れて行ったではないか。

「ちょっ……」

《今は私に合わせろ》「私も紹介するね、最近親しくしているフェイト・テスタロッサちゃん」

「へぇー、一緒に遊んでるならもっと早く紹介しなさいよ」

「そうだよ、私達だけ外すなんて酷いよ」

「えへへ、ごめんね……」《お前も何か言ったらどうだ?》

《あっ、うん》「初めましてフェイト・テスタロッサです、よろしくお願いします」

「そんな堅苦しい挨拶は良いわよ、それじゃ一人追加ね」

「えっ?」

「これからアリサちゃんのお家で遊ぶの、フェイトちゃんも来るよね?」

「……うん!」

* * *

一方、時空管理局と本格的な衝突が始まったプレシアの居城は正に一方的なワンサイドゲームと化していた。

プレシアがジュエル・シードを発動させたことにより引き起こされた次元震、それに引き寄せられるように到着した時空航行艦アースラは、ジュエル・シードの発動阻止の為武装局員等を次々に居城内へ投入する。

しかし城主プレシア・テスタロッサの圧倒的火力の前に武装局員等は消し炭とされ、アースラ自身も直接攻撃を受けてメイン動力炉に致命的なダメージを負わされてしまう。

事態を打開すべく、まだキズの癒えていないクロノが単独で居城へと乗り込むが、残念ながらプレシアにたどり着く前に使い魔のアルフにガブッとされてしまい、あえなく戦闘不能になる……

もはや艦隊特攻以外やむなし、という状況で事態は最悪のシナリオを迎えようとしていた……

「艦長!こうなったらアースラであの居城をブッ壊しましょう!」

「バカ言わないで!少し落ち着きなさい!」

「ですが……もう戦力らしい戦力なんてありゃしません……」

「居るわ、あの白いバリアジャケットの子。民間人のあの子に頼るのは心苦しいけど……」

 

「バイバーイ!」

「じゃあねー!」

「さようなら!」

フェイト嬢を連れてバニングス邸でゲームに没頭し、気がつけば既に日は傾いて水平線へ消えつつあった。

アリサとすずかに別れを告げて、はにゃーん様とフェイト嬢は並んで帰路につかれた、最初に沈黙を破ったのははにゃーん様からだ。

「フフフ……まさかお前が礼を告げに私の前に現れるとはな……」

「気に入ってもらえたら嬉しいんだけど……」

「そんな事はない、美味しく頂いたよ」

「そう……なら良かった」

そういってまたしばらく沈黙。

するとまたはにゃーん様が沈黙を破られた。

「お前、時間あるか?」

「え?」

「私も礼には礼を尽くす、私の家へ案内しよう……」

そう仰られてはにゃーん様はフェイト嬢の先を歩かれる。

フェイト嬢は逡巡するも直ぐにはにゃーん様の後を追った。

はにゃーん様の御自宅に到着し、はにゃーん様は手短に新しい友達が出来たと桃子や美由希に説明して自室へと上がられ、フェイト嬢もキョロキョロと新鮮な高町邸を見回しながらはにゃーん様の自室へと入る。

白とピンクに彩られたはにゃーん様の御部屋は正に年相応といった内装で、フェイト嬢は少し戦闘時とのギャップに驚いた。

「フフン、驚くだろう。だが私も子供だ、可愛い物は好きだし甘い物も好きだ」

「そ、そうなんだ……」

「しかし、今日は私の方が驚かせられた。フェイトがお礼をしにここまで来るとは思っていなかった……」

「でも、こういうのは気持ちだし……」

「気持ち、か……。一昨日まで一方的にやられていたヤツの言葉とは思えんな……」

「ソレとコレとは別だよ……あの時はジュエル・シードを賭けて戦っていたんだし……」

フェイトのソレはおそらく違うだろう。

はにゃーん様からジュエル・シードを承って素直に嬉しいと感じ、そしてお礼をしようと考えたのは彼女の優しさからであることも否定できないが、感受性豊かな子供の感覚がはにゃーん様の本質的な優しさを無意識に感じ取ったからだ。

『ニュータイプへの覚醒で人類は変わる、か……』

グリプスの劇場跡でシャアが語った人類への希望、確かにジュドー達子供にはその希望はあった。

だが人間は生きている限り、しがらみや生まれの呪いから逃れる事は出来ないし、それを無くそうとすれば人類そのものが無くなる。

今回の事件、裏で糸を引く者からはにゃーん様は計り知れない絶望と悲しみを感じなさっていた。

アクシズからシャアで出て行った時の自分のような、ジュドーが自分の手を振り払ったあの時の自分のような、深い絶望と悲しみだ。

そして今も、自分がシャアの事を忘れられないでいるのが何よりの証拠だ。

『ふっ、ジオンも連邦もない世界だというのに私は……』

「あの、どうかした?」

「いや、気にするな。フェイト、今頃お前の帰る家には時空管理局が向かっているハズだ」

「え!?」

「先ほどからおぞましい程のプレッシャーを感じている……恐らくは渡したジュエル・シード全てを発動させたな……」

「そんな!?母さん!」

「フェイト、私が何故お前にジュエル・シードを渡したか解るか?」

「何故って……」

「お前に休息をとらせる為でもあるし、私の為でもある……」

「それはどういう意味?」

「それは言えないし、言ったところでフェイトには栓無き事だ」

「そう……じゃ、母さんの所で待ってる……」

そう言ってフェイトは窓から飛び出して消えた。

ちょうどその後になって桃子がケーキを持って部屋へ入って来たが、はにゃーん様は今さっき帰っちゃったと伝え夜空を見上げた。

星の綺麗な夜空だ、決戦を迎えるには丁度いい。

 

はにゃーん様の戦いは遂に幕を下ろす……

 




次でラストです!

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