魔法少女リリカルはにゃーん様   作:沢村十兵衛

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第2話 はにゃーん様、御説教

退屈な主要科目の授業が終わり、いよいよ午前中授業の最後を迎えるなのは、もといはにゃーん様。

午前中の授業の最後は道徳という事でとうとう溜め息を吐いた。

彼女には日本人の道徳心というのがどうも理解できない、子どもに道徳教育を施したところで社会に出た人間にその様な心があるのか、それどころか教育者である彼等ですら道徳心を持っているか怪しい。

冷たい事だが、人間の悪意に敏感な彼女には矛盾のある教育は許せない、これでも一児の母であった人間、それならばここの教師を取っ払ってシャアやブライト・ノアを据えた方が余程教育的だ。

 

「……皆さんも自分の将来について考えてみると良いかもしれませんね」

 

ただ、授業の終わり際に教師が言った一言は、はにゃーん様の心に妙に引っかかるのであった。

 

* * *

 

「将来の夢かぁ……」

 

授業が終わり、なのはとアリサ、すずかは何時もの指定席、屋上のベンチで各々弁当箱を広げて中身を突っついていた。

弁当箱を突っつく間、話題になるのは大抵昨日のドラマやすずかの家で飼っている猫か、なのはの家族が経営している翠屋の新メニューなのだが、今日は何時もと違って直前の授業で教師が言っていた将来の夢となっていた。

 

「そう言えばアリサちゃんやすずかちゃんは大体決まってるんだよね?」

「私はパパもママも経営者だし、色々勉強して会社を継ぐかな……」

「私は工学系かな……」

「ふぅん……あっ、今日の運勢占ってなかったっけ。ちょっと持ってて」

「ちょっ……何よ運勢って……」

 

弁当箱を押し付けられたアリサの苦言を無視して、なのはが鞄から取り出したるはピンクとワインレッドの二色に彩られた一本の筒。

この奇妙な筒に目を見張る二人を気にせずなのははフンフフーンと鼻歌歌いながら筒をシャカシャカ振ってひっくり返すと、筒に開けられた長方形の小さな穴からは黒塗りでスカートを穿いたような一つ目の絵が描かれた薄い板が飛び出しなのはの足元にカランッと乾いた小さな音をたてて転がった。

 

「【ジオング】か……まあまあかな……」

「なのは……それ何?」

「アリサちゃんもやる?赤い彗星占い」

「お、面白そうじゃない!やるわよ!」

「じゃあいくよ~フンフフーンっと」

 

鼻歌を歌いながら、また筒を振ってひっくり返すと、今度は金塗りでノースリーブの男性が描かれた薄い板が飛び出し、なのはの足元にカランッと転がる。

それを見たアリサは「やった大吉ね!」と大喜びし、すずかも「良かったねアリサちゃん。じゃあなのはちゃん、次は私も……」と微笑み次は私が……と言いかけるのだが、それはなのはの「いや、アリサちゃんこれはその逆、大凶だよ」と突飛な事に遮られ、同時にそれまでの和やかな雰囲気から一転、場の雰囲気は一気に氷点下にまで下がった。

 

「ちょっとなのは、それはどういう事よ!金ピカなら普通大吉よ!?それが……」

「アリサちゃん、この赤い彗星占いは普通のおみくじとは違うの。三倍は違うかな……」

「どういう事よ!説明しなさい!」

「じゃあまずはこの赤い彗星占いの説明から……」

 

なのは、もといはにゃーん様お手製『赤い彗星占い』は普通のおみくじより内容はかなりシビアなおみくじだ。

先程なのはが引いた黒塗りに脚のないスカートを穿いたような一つ目の絵が描かれた札【ジオング】は吉に当たる札で、内容は『失恋をバネに新しい技能を身に着け遂に積年のライバルと一騎打ち、相討ちとなる。ただし油断すると後々まで遺るような怪我をするので要注意、ラッキーアイテムはヘルメットで貴方に贈る言葉は「ヘルメットが無ければ即死だった……」』となる。

そしてアリサが引いた金ピカの札にノースリーブの男性が描かれた札は【百式】、大凶だ。

『何事も思うようにいかず、ここぞというとき以外殆どは大失敗。今まで秘密にしていたことが皆に知られて公然の秘密になり、挙げ句みっともない言い訳すると"修正"されてしまうでしょう。ラッキーアイテムはサングラスで、貴方に贈る言葉は「まだだ、まだ終わらんよ!」』である。

 

「こんな感じかな~」

「なんか妙に生々しいおみくじね……」

「勿論、モデルがいるからね~」

「ウソ!?誰よ!?」

「にゃはは、秘密だよ~」

「……まあ良いわ、にしてもぬか喜びさせるおみくじねぇ」

「ふふふ、でも私はこの【百式】はアリサちゃんにピッタリの結果だと思うよ」

「何ですって!なのはのクセに!!」

 

なのはの一言にアリサは怒り心頭に立ち上がり、弁当箱にあったレモンのスライスをなのはの頬に投げつける。

すずかはオロオロしながらか細い声で「二人ともダメだよ~」と声は出すがアリサの耳には届かず、はにゃーんは馬乗りにされて口を思いっきり引っ張られてしまったのであった。

 

「痛たたた……でも、勿論アリサちゃんにピッタリだと思った理由だってあるんだよ?」

「何よ、しょーもない事だったら許さないわよ!」

「アリサちゃん、暴力はダメだよ……」

「ではゴホンッ、【百式】はね?どんなにひどい失敗とかしても絶対に諦めない札なの。急に大役を

任されて、周囲の期待に応えられず何度も頭を下げて……沢山恥をかくんだけど、粘り強く踏ん張るの。それに、【百式】は他の札と違って頼もしいお友達が沢山いるの。そう言う意味では、【百式】は一番良い札かな……」

「へ、へぇーそう?」

「うん、でもねアリサちゃん、【百式】は悩みの札でもあるの、自分のやりたい事と周囲の期待とでとっても悩むの。それが失敗する一番の原因かな……」

 

そう、【百式】のモデルはシャアが自分を偽って戦っていたグリプス戦役の頃だ。

風の噂や何度かの会談で目にしたシャアは、あの頃アクシズに居た頃より大分情けなく思えた、しかし一番シャアが人間的に満足していた時期ではなかろうか?

旗艦アーガマのキャプテンはあの伝説の戦艦ホワイト・ベースのキャプテンを歴任し、ニュータイプ部隊を率いたというブライト・ノアで、直属の部下たるカミーユ・ビダンはアイツが育てたかなりのニュータイプだ。

ラーディッシュにはキャプテンのヘンケン・ベットナーを始め、エリートのエマ・シーン、嘗てホワイト・ベースに乗艦したカツ・コバヤシ。

支援組織カラバにはホワイト・ベースでガンタンクに主に搭乗したハヤト・コバヤシを中心に嘗てのライバル、アムロ・レイが地上で彼等を支え、あの歴史的事件、ダカールの議会を武力制圧して、シャアの全世界への演説を成功に導いた。

奴は既に旧式ともいえる百式でキュベレイとシロッコのジ・Oの猛攻からコロニー・レーザーを死守し、ティターンズの艦隊を殲滅させるに成功した。

それも奴一人の功績とは言えない、劇場跡で窮地に立たされたシャアの救援にカミーユとファ・ユイリィとかいう小娘が入り、アーガマキャプテンのブライトが三人の脱出までコロニー・レーザーの発射にストップを掛けていたからからだ。

ジオン公国時代とは見違えるほど、シャアは周囲の人間に信頼されていたのだ。

 

「自分のやりたい事と、周囲の期待?」

「さっきアリサちゃんはお父さんの会社を継ぐって言ってたけど、それは本心なの?それはお父さんや周りの人の希望じゃない?」

「うっ……それは……」

「その人はずっと、独りでその悩みに苦しんでいた……だから結局は……」

「結局……なによ」

「ともかく、周りにお友達が沢山居るんだから、独りで悩まないでね?」

「う……わかってるわよ……じゃあさ、なのはの夢は何よ。大層なこと私に説教したんだから」

「私?」

 

勿論シャアと幸せな家庭を築ければ私も本望だが、無い物ねだりは仕方無い。

だがビジョンが無いわけでない、私にだって夢はある。

それは……

 

「えぇー、自由奔放で何時も前を見て笑っていたい?パッとしないわねぇー」

「そう、でもねアリサちゃん、幸せな家庭っていったら何を考える?」

「?そりゃあ……やっぱり、裕福でないにせよそれなりの収入があって、それに家族もいて、気の合う友人がいるってトコじゃない?」

「私はね、何もそれなりの収入が無くても、家族や沢山の友達がいればその家族は幸せだと思うよ」

 

私がこの考えに至るようになったのはジュドー・アーシタの影響だ。

どんな悲境に立たされても前を向き、そして奴の仲間だけで私に戦いを挑み、そして勝った。

それは一対多を想定に入れたZZガンダムが有ってこそ得られた結果だが、奴にはカミーユ・ビダンや、あのアムロ・レイにはない強い力が有った。

どんな苦境でも諦めない点はシャアと似てるが、奴にもアレほどの明るさは望めまい。

弁当箱を空にし、なのは達は予鈴が鳴る前に教室へ戻った。

これからの午後の授業はさっき説教したジュドー・アーシタのような明るさが無ければ乗り切れない授業がある。

 

『無傷とはいくまい……だがこの高町なのは、この程度に屈する訳にはいかん!』

 

* * *

 

「行くわよなのはっ!」

「くっ、動けっ!何で私の体は……!」

 

この学校の教師は、何故かドッジボールをやらせたがるらしい。

それは構わないが、このガザC並みの反応しかないこの体では、意識だけが前へ進み、かなり遅れて体が進む様なものだ。

非力な女子児童の割には豪速球を投げるアリサのボールなど、ニュータイプ能力が高まった私にはスロー・モーションのように見える。見えるのだが、悲しい事にこの体は私の反応に着いて行かず、ようやく動き出した頃にボールは命中し、私は外野に行くことになる。

それでも、プレッシャーでなど放たなくとも殺気を放てばこの程度の児童は私に畏れをなしてボールを差し出し、集団的な動きを見せるアリサ達の動きなどは先読みしてボールを投げれば直ぐにでも戻れる。

お陰で私はゲームの間ずっと外野と内野を行き来する事になり、気は大分滅入る。

だが、私の努力の甲斐もあって、ゲームは私陣営の勝利、アリサの悔しがる顔を見れただけでも良しとしよう。

 

「ホントやるわね~なのは、一人で私以外を狩るなんてそうそう出来はしないわ」

「まぁ、私の努力の賜物かな……」

「私もなのはちゃんみたいに頑張らないと」

「あっ、ここよ、近道」

 

放課後、私達はアリサの提案で何時もの帰り道とは違う、周りが木に囲まれた道を通る事になった。

だがそれが、私の新しい人生の中で戦いのなかった最後の瞬間だったとは、ニュータイプでも分からぬ事だ。

 

はにゃーん様の苦労は益々増えてゆく……


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