魔法少女リリカルはにゃーん様   作:沢村十兵衛

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第3話 はにゃーん様、御変身

放課後、アリサが近道を知っているというので興味本位で着いて行ったが、私がアリサの防犯感覚を改めて疑うこととなったのは非常に残念だ。

何故ならその近道とは見通しがかなり悪く、そして人通りも非常に少ない寂しい道だったからだ。

「さっ、行きましょ」

『アリサ・バニングス……余程攫われたいらしいな……』

幾ら私といえど、幼女体型では大の大人に太刀打ち出来ん、直ぐにでも引き返すよう説得しようと走り出した瞬間、私は少年の助けを求める声を聴いた。

〈助けて……誰か助けて……〉

『ふむ……これは……?』

前をゆく二人の様子から、恐らく聞こえているのはこの私だけ……ならばあの子供はニュータイプか?

いや、同じニュータイプなら私の感覚が捉えているハズだが……しかし……これは!?

「うぅぅ……!」

「?ちょっ……どうしたのなのは!?」

何だこの忌々しい感じは!?

無邪気な欲望が増幅されている……これはいったい何なのだ!?

「ちょっと気分が悪くて……もう大丈夫だよ」

私をここまで不快にさせる、あの子供か!

頭を抑えてうずくまるなのはを心配するアリサとすずかだが、そのなのはがゆっくりと立ち上がったのでホッと胸をなで下ろす。

どうやら嫌な気分も治ったようだが、どうもなのはの顔つきがいつもと違う。

何と表すべきか、まるでオーラが違う、そう何時もはにゃーんとした感じのなのはなのに……まるで猫の皮被った虎だ。

「小僧如きが生意気な……!」

「え?」

「ど、どうしたのなのはちゃん!?」

なのはは険しい表情のまま、キッと近道の奥を睨み走り出す。

少し遅れてアリサとすずか等も口々に叫びながら後を追うが、あのなのはの何処にこんな力があったのか、と思うくらいなのはの足は速く、見失わないようにするのが精一杯だった。

* * *

コレほどマズいことを起こしたのは何時以来だろう……

一年前に潜った遺跡で、うっかり貴重な発掘品を奈落に落とした事か?

半年前に掘り当てた巨大な石像を、誤って空間ごと消し去ってしまった事か?

思い出す度にとんでもないことをしたもんだと背筋が寒くなるけど、今回しでかしたのはこれまでのミスが些細なことに思えるぐらいとんでもないことだ。

このままじゃ間違い無くこの世界は………

『ん?誰か来た……?助かった!コレでどうにか協りょ…………』

こういう時は、運がなかったと言うべきか、それとも当然の結果だったと言うべきだろうか、立て続けに起こる災難にユーノは神を呪った。

足音を鳴らして駆け寄ってきた少女を見て、初めユーノは安心した。

そしてその次に絶望した、駆け寄ってきた少女は確かに少女だ、だがその中はまるで違う……悪魔だ……

「キュウッ!!」

「私を……不愉快にさせた事を呪うんだな!」

「ちょっとなのは!何やってんの!」

「そうだよ!怪我をしてる動物をいじめちゃダメだよ!」

間一髪、追い付いたアリサとすずかによってユーノは魔の手から救い出されて難を逃れた。

恐ろしいオーラを漂わせていたなのはも、流石に友人の前では大人しくなり「あっ、ごめん……ちょっとビックリしちゃってつい……」などと驚いた風を装って白々しいことを並べる。

「全くもう。でもどうする?この子怪我してるみたいだし……」

「あっ!病院だよアリサちゃん!病院に連れて行かないと!」

「そうそうこういう時は病院……って病院に動物の医者なんていたっけ?」

「アリサちゃん、獣医さんの方に連れて行くべきだと思うよ」『その方が幾らか手薄だしな……』

「じゃあ決まりね!」

こうして、なのはもとい、はにゃーん様が捕らえたイタチは、市内の動物病院へ送られることとなり、獣医からはしばらく寝かせれば大丈夫だと言われたので三人はイタチを獣医に預けて帰ることにした。

* * *

『……あの小僧、一体何者何だ?ニュータイプではないのならあの力は一体……』

イタチを獣医に預けて帰ることにした三人、アリサとすずかは塾があるのでその足で塾へ。

一方、塾など必要無い聡明な頭脳をお持ちのはにゃーん様はというと、そのまま帰宅しリビングでアニメーションをご観賞なさっていた。

そのアニメーションとは人気で、アクシズにも古いハードディスクの中に残っていた位の作品で、ハマーンであった頃はミネバとシャアとで仲良く見ていたぐらいだ。

そして観賞していた際ミネバがそのキャラクターを気に入り、シャアもかわいいと言っていたので、意を決したハマーン様はお気に入りだったツインテールを解いて、そのキャラクターの髪型を真似ることにしたのだが、余りにも大人気になったためツインテールに戻す機会を完全に逸し、以後死ぬまでその髪型を維持することになってしまったという因縁のあるアニメーション。

しかし過去の事は全て水に流したはにゃーん様にとっては良き思い出、このアニメーションもアクシズの将兵が熱狂的ファンになるのも頷ける出来だ。

「ん?メール……?」

いよいよクライマックスという場面で場を乱す不協和音が乱入し、はにゃーん様は一時停止ボタンを押して不協和音の根源であるケータイを操作、送り主はアリサからだった。

「何……?すずかもアリサもダメだから私の方で面倒を見ろ……?ふざけるなっ!」

直ぐさま自宅は飲食店なのでそれは厳しいという旨を記したメールを返信、すると今度はすずかからメールだ。

「頼れるのは私だけ、どうかあの子の面倒を見てあげて……か。ふふふ、そう言われると嬉しいな、よしっ!」

「なのはー?ご飯よー!」

「はーい!今行きまーす!」

テレビを消し、はにゃーん様は食卓に向かうまでの短い距離の間に思考を巡らせ、どの様に言えばあのイタチを引き取れるかのシミュレーションをし、そして席に着いた。

「ん?フェレットとは何かって?知らないなぁ……恭也は?」

「ああ、知ってる。ペットそしてよく飼われてるイタチの一種だよ。それがどうかしたのか?」

「うん、実は……帰り道で傷だらけのフェレットをアリサちゃん達と見つけて、獣医さんの所へ連れて行ったから……」

「傷だらけのフェレット……逃げ出したのか、それとも捨てられたのか……」

「その子どうするかって、さっきまでアリサちゃん達と話したんだけど……アリサちゃんのお家はダメで、すずかちゃんのお家も猫がいっぱい居るからって……」

ここまで話したなのはは如何にも悲しそうな表情で俯き、声も段々か細くなっていく。

それを見てそれなら家でどうにかしようと考えないほど、この家の住人は冷たくない。

寧ろ自分達の家の中で何時も蚊帳の外のなのはに対して、申し訳無く思っているのだからこのぐらいのことはしなければ。

「じゃあ、なのははその子をどうしても飼いたいんだな?」

「うん!」

「お父さんは良いとして……桃子は?」

「私は大賛成よ」

「俺も」

「私も!そのフェレット見てみたいし」

「じゃあ決定だ。なのは、しっかり面倒を見るんだぞ?」

「はーい!」

コレで準備は整った。

部屋に戻って後ろ手に鍵を捻り、とても少女とは思えない笑みを浮かべてなのははベッドに寝っ転がり天井を見る。

これほどシャア……いやジュドーも容易ければよかったものを……

いや、ジュドーの周りには何時も女子供で溢れかえっていたからな……

シャアは……元々ミネバを祭り上げるのに反対だったな……対立して出て行き、戻ってきて愕然、これでは無理だな。

あれほど冷静だったシャアが人目はばからず激怒したのだ。

シャアが怒った姿を見たのは初めてだったな……

その様に過去を憂いているとまたもやあの不愉快な感覚がなのはを襲い、そして謎のバケモノがフェレットを預けてある動物病院を襲撃するビジョンが見えた。

『あの時の不愉快さはあのバケモノ!?ともかく行かねば!』

* * *

「グオオオオオ!!」

「キューッ!!」

なんてしつこい奴!

追っ払ったと思ったら意趣返しに来るなんて!

あのバケモノ相手にこのケージじゃかえって邪魔だ、なので持てる力を振り絞ってケージを破り、割れたガラス戸をくぐって外へ。

しかし、運悪くバケモノの攻撃が当たって、ユーノは宙を舞った。

『しまった……もう力が……』

「諦めるのはまだ早いぞ少年」

「え?」

あの少女の声が聞こえたと思ったら手に優しく抱かれ、そしてあの時自分を殺そうとした少女がそこにいた。

「貴様を殺そうと思ったが……どうやら私を不愉快にさせたのはアイツらしいな」

「あっ……はい……」

「貴様が何者かは後で聴かせてもらおう、まずは奴を仕留めるか」

「グオオオオオ!!」

「あっ!危ない!!」

「見くびるなよ……俗物!!」

バケモノが少女をターゲットに変えて、襲い掛かって、そしてボクが危ないと叫んだ時、彼女から凄まじい殺気と圧迫感……いやそれ以上の何かをヒシヒシと感じた。

なのはから放たれた凄まじいプレッシャーに、バケモノは動きを止めて、禍々しい赤い目も何だか怯えているようになる。

彼女は凄まじいプレッシャーを放ったままバケモノに近付き、彼女が一歩進むとバケモノはその二倍は後退った、本能的に彼女に適わないと悟ったのだ。

「この私に牙を剥こうとは……余程死にたいらしい……」

「グ、グルルルル……」

「どういう云われがあるか知らんが、私に対して無礼を働いたのなら生かしておけん!」

「グルルルル……グオオオオオ!!」

バケモノめ、追い詰められて自棄になったか!

これじゃあ流石にあの子でも……

「それ以上の無礼は止めい!!」

その瞬間、ボクを抱いている少女からピンク色のオーラが放たれ、バケモノを包み込んだ。

そしてバケモノはオーラに包まれ身動きがとれなくなって……そして……

「ふん、容易いな」

バケモノは霧散した……

跡形もなく……

そしてバケモノが居たところには月明かりを反射する綺麗な宝石が。

なのははバケモノが居たところまで歩いて、それを拾い上げると月明かりに照らした。

とても綺麗な宝石だが……アクセサリーにするには少々曰く付きのようだ。

「これがバケモノの正体……子イタチの悪さかな?」

「ち、違いますよ!ボクじゃありません!」

「まあいいさ。して、これはこのままで良いのか?」

「あっ、はい!ちょっと待って下さい……」

イタチは宝石に向かって何かを唱え始め、なのはは周囲に意識を広げて先程のような奴がいないか気配を探る。

しかし、今は何も拾えずなのはは意識を広げるのを止め、先程何かを唱え始めたイタチを見る、すると……

「宝石が消えた?」

「いえ、封印したんです。あれは危険ですから……勿論それが何故なのかはキチンと説明します!あっ、その前に……これを」

「お詫びに別の宝石かい?」

「いえ、コレはタダの宝石ではありません。取り敢えず悪いようにはしませんので……」

「……不屈の心はこの胸に、レイジングハート、セットアップ」

《Set Up》

「えぇっ!」

「ほう?これはこれは……」

説明無しに契約を結び、セットアップをするなのはは流石といえよう。

しかし、これではにゃーん様の普通は終わり、新たな道を歩む事に……

 

はにゃーん様の戦いはこれから始まる……

 


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