「起きます」
まぁ、とは言っても夜なんだけどさ。
大江山に着いてから2度目の夜。昼間の記憶に禄なことがないけど気にしない。前を向いて歩くのだ。
うむ、ぐっすりと寝られたしこれから一週間は寝なくとも大丈夫そうだ。
「おや? やっと起きたのかい。ここに着いてから赤は寝てばかりいるねぇ」
なんて言いながら萃香が近づいて来た。うっわ、コイツまた酒飲んでるよ。アル中だな、アル中。
「俺だって寝たくて寝てるわけじゃないけどね」
睡眠なんてほとんどいらない体質ですし。
「そうだね~赤って運悪そうだし」
何がそうなんでしょうね。
運は……どうなんだろうか? ま、気にしたってしょうがないか。
そして相変わらず鬼たちは馬鹿騒ぎしながら酒を飲んでいた。何がそんなに楽しいんだろうね。
う~ん、これからどうすっか。
大江山に着いてから数日が経った。
そして俺は逃げることに。別に捕まっていたわけではないのだから、逃げるというのはおかしいけれど、なんとなく後ろめたい。
この山を去る理由はあの鬼たちが原因。だってアイツら一言目には『勝負しろ』で二言目には『酒を飲め』とか言ってくるんだもの。しかも倒しても倒しても『次は俺な』とか言って湧いてくるし。
やってられっか。
勇儀と話そうとしても何故か逃げられるし……これはかなりショックだったなぁ。そのせいで、まともな話し相手は萃香しかいなかった。
だから俺はこの山を出て行くことに。
「というわけで、萃香。俺はまた旅に出ることにするわ」
何処へ行こうかね。とりあえず諏訪の国にでも戻ろうか。久しぶりにあの二柱とも会いたい。
「はあ? ま、またいきなりだねぇ。もっとゆっくりしていけばいいじゃないか」
「ゆっくりできないから出て行くんだよ。んじゃあ、そゆことで。どうせまた会えるだろけど、勇儀にもよろしく伝えといてくれ」
思い立ったが吉日、即決即断。いつだってそうやって生きてきた。きっとこれからもそうやって生きていける。
ん~……よしゃ、行くか。
ああ、そうだ。大切なことを忘れてた。
「萃香」
「ん? なんだい?」
「まさかり担いだ金太郎には気をつけろよ」
「……何言ってんの?」
うむ、満足です。
さて、目指すは東。朝日を目指して進もうか。太陽なんていう、おっきなおっきな目印があるんだ。流石に間違えることもないだろう。
とりあえず大江山を下りきって一息つく。ここから諏訪までどれくらいかかるんだろうね。道案内もいないし……な、何年かかるかなぁ。
ま、まぁ、なんとかなるか、最悪飛べばいいのだ。
ここで一度自分に気合を入れるため、大きく足を上げ叫んだ。
ポケモンの中で有名なあのセリフを。
「俺は今! 諏訪地方への第一歩を踏みdのわぁぁああああ!」
第一歩を踏み出せなかった。
んもう、なんなのさ……
そして気がつくと真っ暗な空間に落とされていた。
うん? 真っ暗なのに自分の体とか見えるな、どうなってるんだろうか?
うっわ、なんか目が沢山あるし……気持ち悪いなぁ。
そんな周りの様子を確認していると、後ろから声がした。
「はじめまして、私は八雲紫と申しますわ」
後ろを見るとヘンテコな帽子を被った金髪の女性がいた。ああ、この人知ってるわ。だって見たことあるもん。
ふーん“ゆかり”って言うんだ。“むらさき”だと思ってた。
「フフッ、いきなり呼び出してしまって驚いt……」
なんか言ってるけど無視。
今までの経験的に、こういうのとは関わらないことが一番なのだ。俺だって学ぶことができるんです。
ポケモン『ケーシィ』をイメージ。
技『テレポート』使用。
瞬間、景色が変わった。
ここは……ああ、大江山かな。
「ありゃ? なんで赤がいるんだい? もう帰ってきたの?」
お、萃香さっきぶりだな。
う~ん、出鼻を挫かれた感がすごいけど、まぁこういうこともあるでしょう。気を取り直して頑張るか。
んじゃあな、萃香。また会おう。
なんて言おうとしたらまた地面が消えてまた落ちた。何だってんだか……
「女の話を最後まで聞かないのは失礼ではなくて?」
なんて目の前の女性が言ってきた。
いやいや、いきなり人を拉致する方が失礼でしょうが。
「仕切り直しといきましょう。八雲紫、妖怪ですわ」
と紫が言ってきたので……
「赤。ポケモンですわ」
と俺も言ってみた。
おやおや、紫さんが不機嫌そうですよ? や、やだなぁ、ちょっとした冗談ですって。
「……貴方の活躍は全て見させていただきまs待って! 能力を使うのはやめて! 貴方だってまた落とされるのは嫌でしょう?」
「全く……話を続けてもいいかしら? 今日は貴方には質問に答えてもらいたくて、招待させていただきましたわ」
「フフフッ。そんなに緊張しなくとも大丈夫よ」
「……ねぇ、赤。貴方はこれから先、妖怪と人間が一緒に暮らしていけると思う?」
「まぁ普通ならそう思うでのしょうね……あれ? 今なんて言ったかしら?」
「ほ、本気でそう思っているの? いえ、頑張ればとかそういう話ではなくて……」
「ま、まぁ、その話はいいとして……」
と言って紫がこちらをしっかりと見た。
そして――
「私の式になってくださらない?」
だなんて言ってきた。
「えっ、嫌ですけど……」
今会ったばかりなのに、そんなことを言われても俺だって困ってしまう。事前にアポくらいは取っておいてもらいたい。だいたい、式って何さ。
「……もう少しくらい考えてくれてもいいんじゃない?」
「よくわかんないけど、その式ってのになったら、俺にどんな利点があるのさ?」
「そうね、私の能力が使えるようになるわ。もちろん制限はあるけれど」
う~む。能力ねぇ、それはつまりこの空間に行けるってことなのだろうか。
でも、俺この空間好きになれそうにないしなぁ。
「ん~、やっぱいいよ。俺には役不足だし」
「意味をわかって使っているわね……そう、それは残念。でもね……私は貴方が欲しいの」
――それと、ごめんなさいね。
そう言って紫は優しく微笑んだ。
急に謝り、そして紫は黙ってしまった。そこから優しげな表情をしていたと思ったら真顔になって、さらに驚いたような表情へと変わっていった。
あらあら、随分と表情豊かですね。
「あ、あれ? 境界が見つからない……えっ?」
ん? 境界? 何を言ってるんでしょうか。一人で勝手に盛り上がられてもこちらは寂しいのですが……何をしていればいいのやら。
もう帰っちゃおうかな。でも、どうせまた連れてこられるだろうしなぁ。
「違う……むしろ境界しか、ない……? あ、貴方、本当は何者なの?」
やっと会話をしてくれた。でもその言葉の意味はちょっとわからない。
「ポケモンらしいよ。すくなくとも人間ではないかな」
「貴方の中には何体いるの?」
ああ……いきなり、か。
これは、ちょいと面倒なことになりそうだ。
「ん~……言っている意味がわからないんだけど」
「貴方の中には感情が多すぎる。100や1000なんてものじゃない。そんな状態でどうして普通でいられるのかしら? そして何より……」
――そんな状態で貴方はどうして平気でいられるのかしら?
『もういいや、コイツ殺そうぜ』
笑いながら言う俺がいる。
『この人の話なんて聞かなくていいんじゃない?』
泣きながら言う俺がいる。
『もう、やだ帰りたい……』
楽しそうにしながら言う俺がいる。
『殺せばいいじゃん』
悲しそうにしながら言う俺がいる。
『素直に答えればいいだろ?』
怒りながら言う俺がいる。
俺がいる。俺がいる。俺がいる。俺が……沢山の声が自分の中で響き続ける。10の100の1000の10000の声が響く、響く……
『俺は俺だろ?』
そして、無表情の俺が言った。
「俺は俺だよ。笑ってるのも、泣いてるのも、楽しんでるのも、悲しんでるのも、怒ってるのも全部俺だ。中に何人いたって、どんな性格をしていたって全部引っ括めて俺だよ」
「そう……」
――狂っているわね
紫はそう言った。
知ってるわ。そんなこと。
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