東方小妖録【完結】   作:puc119

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第13話~あのセリフ~

 

 

「起きます」

 

 まぁ、とは言っても夜なんだけどさ。

 大江山に着いてから2度目の夜。昼間の記憶に禄なことがないけど気にしない。前を向いて歩くのだ。

 

 うむ、ぐっすりと寝られたしこれから一週間は寝なくとも大丈夫そうだ。

 

「おや? やっと起きたのかい。ここに着いてから赤は寝てばかりいるねぇ」

 

 なんて言いながら萃香が近づいて来た。うっわ、コイツまた酒飲んでるよ。アル中だな、アル中。

 

「俺だって寝たくて寝てるわけじゃないけどね」

 

 睡眠なんてほとんどいらない体質ですし。

 

「そうだね~赤って運悪そうだし」

 

 何がそうなんでしょうね。

 運は……どうなんだろうか? ま、気にしたってしょうがないか。

 

 そして相変わらず鬼たちは馬鹿騒ぎしながら酒を飲んでいた。何がそんなに楽しいんだろうね。

 う~ん、これからどうすっか。

 

 

 

 

 大江山に着いてから数日が経った。

 

 そして俺は逃げることに。別に捕まっていたわけではないのだから、逃げるというのはおかしいけれど、なんとなく後ろめたい。

 

 この山を去る理由はあの鬼たちが原因。だってアイツら一言目には『勝負しろ』で二言目には『酒を飲め』とか言ってくるんだもの。しかも倒しても倒しても『次は俺な』とか言って湧いてくるし。

 やってられっか。

 勇儀と話そうとしても何故か逃げられるし……これはかなりショックだったなぁ。そのせいで、まともな話し相手は萃香しかいなかった。

 だから俺はこの山を出て行くことに。

 

「というわけで、萃香。俺はまた旅に出ることにするわ」

 

 何処へ行こうかね。とりあえず諏訪の国にでも戻ろうか。久しぶりにあの二柱とも会いたい。

 

「はあ? ま、またいきなりだねぇ。もっとゆっくりしていけばいいじゃないか」

「ゆっくりできないから出て行くんだよ。んじゃあ、そゆことで。どうせまた会えるだろけど、勇儀にもよろしく伝えといてくれ」

 

 思い立ったが吉日、即決即断。いつだってそうやって生きてきた。きっとこれからもそうやって生きていける。

 

 ん~……よしゃ、行くか。

 

 

 ああ、そうだ。大切なことを忘れてた。

 

「萃香」

「ん? なんだい?」

「まさかり担いだ金太郎には気をつけろよ」

「……何言ってんの?」

 

 うむ、満足です。

 さて、目指すは東。朝日を目指して進もうか。太陽なんていう、おっきなおっきな目印があるんだ。流石に間違えることもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 とりあえず大江山を下りきって一息つく。ここから諏訪までどれくらいかかるんだろうね。道案内もいないし……な、何年かかるかなぁ。

 ま、まぁ、なんとかなるか、最悪飛べばいいのだ。

 

 ここで一度自分に気合を入れるため、大きく足を上げ叫んだ。

 ポケモンの中で有名なあのセリフを。

 

「俺は今! 諏訪地方への第一歩を踏みdのわぁぁああああ!」

 

 第一歩を踏み出せなかった。

 んもう、なんなのさ……

 

 

 

 

 

 そして気がつくと真っ暗な空間に落とされていた。

 うん? 真っ暗なのに自分の体とか見えるな、どうなってるんだろうか? 

 うっわ、なんか目が沢山あるし……気持ち悪いなぁ。

 

 そんな周りの様子を確認していると、後ろから声がした。

 

「はじめまして、私は八雲紫と申しますわ」

 

 後ろを見るとヘンテコな帽子を被った金髪の女性がいた。ああ、この人知ってるわ。だって見たことあるもん。

 

 ふーん“ゆかり”って言うんだ。“むらさき”だと思ってた。

 

「フフッ、いきなり呼び出してしまって驚いt……」

 

 なんか言ってるけど無視。

 今までの経験的に、こういうのとは関わらないことが一番なのだ。俺だって学ぶことができるんです。

 

 ポケモン『ケーシィ』をイメージ。

 技『テレポート』使用。

 

 瞬間、景色が変わった。

 ここは……ああ、大江山かな。

 

「ありゃ? なんで赤がいるんだい? もう帰ってきたの?」

 

 お、萃香さっきぶりだな。

 う~ん、出鼻を挫かれた感がすごいけど、まぁこういうこともあるでしょう。気を取り直して頑張るか。

 

 んじゃあな、萃香。また会おう。

 

 なんて言おうとしたらまた地面が消えてまた落ちた。何だってんだか……

 

 

 

「女の話を最後まで聞かないのは失礼ではなくて?」

 

 なんて目の前の女性が言ってきた。

 いやいや、いきなり人を拉致する方が失礼でしょうが。

 

「仕切り直しといきましょう。八雲紫、妖怪ですわ」

 

 と紫が言ってきたので……

 

「赤。ポケモンですわ」

 

 と俺も言ってみた。

 おやおや、紫さんが不機嫌そうですよ? や、やだなぁ、ちょっとした冗談ですって。

 

「……貴方の活躍は全て見させていただきまs待って! 能力を使うのはやめて! 貴方だってまた落とされるのは嫌でしょう?」

「全く……話を続けてもいいかしら? 今日は貴方には質問に答えてもらいたくて、招待させていただきましたわ」

「フフフッ。そんなに緊張しなくとも大丈夫よ」

 

「……ねぇ、赤。貴方はこれから先、妖怪と人間が一緒に暮らしていけると思う?」

 

 

「まぁ普通ならそう思うでのしょうね……あれ? 今なんて言ったかしら?」

「ほ、本気でそう思っているの? いえ、頑張ればとかそういう話ではなくて……」

「ま、まぁ、その話はいいとして……」

 

 と言って紫がこちらをしっかりと見た。

 そして――

 

 

「私の式になってくださらない?」

 

 

 だなんて言ってきた。

 

「えっ、嫌ですけど……」

 

 今会ったばかりなのに、そんなことを言われても俺だって困ってしまう。事前にアポくらいは取っておいてもらいたい。だいたい、式って何さ。

 

「……もう少しくらい考えてくれてもいいんじゃない?」

「よくわかんないけど、その式ってのになったら、俺にどんな利点があるのさ?」

「そうね、私の能力が使えるようになるわ。もちろん制限はあるけれど」

 

 う~む。能力ねぇ、それはつまりこの空間に行けるってことなのだろうか。

 でも、俺この空間好きになれそうにないしなぁ。

 

「ん~、やっぱいいよ。俺には役不足だし」

「意味をわかって使っているわね……そう、それは残念。でもね……私は貴方が欲しいの」

 

 ――それと、ごめんなさいね。

 

 そう言って紫は優しく微笑んだ。

 急に謝り、そして紫は黙ってしまった。そこから優しげな表情をしていたと思ったら真顔になって、さらに驚いたような表情へと変わっていった。

 あらあら、随分と表情豊かですね。

 

「あ、あれ? 境界が見つからない……えっ?」

 

 ん? 境界? 何を言ってるんでしょうか。一人で勝手に盛り上がられてもこちらは寂しいのですが……何をしていればいいのやら。

 もう帰っちゃおうかな。でも、どうせまた連れてこられるだろうしなぁ。

 

「違う……むしろ境界しか、ない……? あ、貴方、本当は何者なの?」

 

 やっと会話をしてくれた。でもその言葉の意味はちょっとわからない。

 

「ポケモンらしいよ。すくなくとも人間ではないかな」

 

 

「貴方の中には何体いるの?」

 

 

 ああ……いきなり、か。

 

 これは、ちょいと面倒なことになりそうだ。

 

「ん~……言っている意味がわからないんだけど」

 

「貴方の中には感情が多すぎる。100や1000なんてものじゃない。そんな状態でどうして普通でいられるのかしら? そして何より……」

 

 ――そんな状態で貴方はどうして平気でいられるのかしら?

 

 

 

『もういいや、コイツ殺そうぜ』

 笑いながら言う俺がいる。

『この人の話なんて聞かなくていいんじゃない?』

 泣きながら言う俺がいる。

『もう、やだ帰りたい……』

 楽しそうにしながら言う俺がいる。

『殺せばいいじゃん』

 悲しそうにしながら言う俺がいる。

『素直に答えればいいだろ?』

 怒りながら言う俺がいる。

 俺がいる。俺がいる。俺がいる。俺が……沢山の声が自分の中で響き続ける。10の100の1000の10000の声が響く、響く……

 

『俺は俺だろ?』

 そして、無表情の俺が言った。

 

「俺は俺だよ。笑ってるのも、泣いてるのも、楽しんでるのも、悲しんでるのも、怒ってるのも全部俺だ。中に何人いたって、どんな性格をしていたって全部引っ括めて俺だよ」

 

「そう……」

 

 

 ――狂っているわね

 

 

 紫はそう言った。

 

 知ってるわ。そんなこと。

 

 






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