東方小妖録【完結】   作:puc119

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第16話~イワナ買った、家なかった~

 

 

 幽香と暮らし始めて一ヶ月ほど経った。ヒマワリは未だ元気に咲いている。

 俺は知らなかったけれど、このヒマワリたちは幽香が育てているんだって。花を育てるのに便利な能力を持っていると言っていた。なるほどねぇ、そう言うことでしたか。

 

 毎日の生活はいつもだいたい同じ。たま~に幽香のストレス発散という名のゲリライベントが始まるけれど、それ以外はいたって平和な毎日だ。

 

 朝、気温が上がる前にヒマワリに水をあげ、朝食を食べる。その後は幽香と一緒にお茶を飲んだり、お昼を食べたり、草抜きをしたり、おしゃべりなんかをして夕方にもう一度水をやって夕食を食べる。そんな一日。

 

 そして、料理は幽香が作ってくれるわけだけど、何故か俺用の食事と幽香用の食事は少し違った。

 

 特に色が違う。一般的な色をしていない。なにこれ? なんで紫色なの?

 

「なんで俺のと幽香のは違うの?」

 

 一度、そうやって聞いたことがあった。

 

「赤と私では種族が違うもの。だから料理の種類も変えているのよ」

 

 なんて言われた。

 納得はしなかったけれど、深く聞くこともしなかった。決して幽香が怖かったからではない。違うったら違う。

 

 それと、俺の行動範囲だけど、紐の長さは約10米でその先端は常に幽香が握っている。つまり俺は、幽香から10米以上離れられることができない。

 面積で言うと幽香を中心に100π平方米。それが今、俺の過ごしている世界の全てだった。

 

 そして最近どうも体の調子がおかしい。なんだか、手足の先がしびれているような感じがするんです。

 たぶんあの料理が原因なんだろうなぁとは思う。

 

 まずい……これは非常にまずいぞ。予想なんてしたくないけれど、このままだと確実に動けなくなる。

 

 だから俺は逃げることにしました。そう思ったのが今から一週間ほど前のこと。

 

 けれども、いつだってそうだ。俺は行動するのが遅すぎる。

 

 

 

 

 辺りは暗く、もう深夜と言っていい時間のことだった。

 

「どう? お酒でも飲まないかしら?」

 

 そう幽香が言ってきた。

 どうやら今日はお酒の日らしい。

 

「うん、いただくよ」

 

 そんな今日の幽香はどこか興奮していて、ものすごい勢いでお酒を飲んでいった。何か良いことでもあったのかね? 今日はそんなにいじめられたわけでもなかったけど。あと、そんなに急いで飲むと身体に悪いよ?

 

 お酒を飲み始めて数時間、幽香がコテンと倒れて寝始めてしまった。ああ、もう、言わんこっちゃない。

 

 そして、片付けでもしようかなと思ったとき俺は気づいた。

 

 幽香の手から俺をつなぎ止める紐がこぼれ落ちていることに。

 

 

 ……落ち着け、落ち着くんだ俺。これはチャンスだ、この機会を逃したら終わりだ。絶対に逃がすな、生きて帰るんだ

 

 抜き足、差し足、忍び足。

 駆け足、早足、急ぎ足で幽香の家から飛び出た。

 

 そのときの俺はよっぽど慌てていたのだろう。だから俺は、幽香の口が笑っているのに気がつけなかった。

 わざと見なかっただけなのかもしれないけど。

 

 

 外へ出る。

 外の景色は真っ暗で頼りになるはずの月明かりもどこか弱々しい。

 

 しびれる手足を必死に動かしてヒマワリたちの間を駆けた。くっそ、酒の中にも何かいれやがったな。どうにも体が絶不調だ。

 

 ヒマワリ畑のちょうど真ん中に来たとき終に俺の足は止まってしまった。

 

 そして地面へ。

 

 あ~~、これはヤバイやつだ……

 俺の方を向いているヒマワリたちは、まるで俺のことを笑っているようだった。

 

「こんな時間にお散歩かしら?」

 

 あーあー聞こえなーい。

 

 動け、動け! 動け!! 頼むから動いてくれよぉ……

 

「……死にたく、ない……」

 

 無意識に言葉がこぼれた。

 

 ――はぁ。

 

 なんて幽香のため息のようなものが聞こえた。

 

「馬鹿ね。私が赤を殺すわけないでしょ? だって貴方は私の大切な……か、家族なんだから」

 

 言葉が遠く聞こえた。

 幽香の顔は見えない。

 目蓋が重い。

 

 あ~ダメだ、ちょっと眠いわ。

 

「でもそうね。いくら家族と言っても、今回はお仕置きが必要ね」

 

 オシオキと言う言葉だけはやたらとよく聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きます」

 

 目が覚めると外だった。そしてどうにも視界が低い。

 

 肩から下が地面に埋まっていた。

 

 ああなるほど、今回のゲリライベントは土の中でしたか……

 そして、今日はどのくらいで開放してくれるかな~とか考えていると空間に裂け目ができた。

 

「ご機嫌よう赤。それで貴方は何をやっているのかしら?」

 

 紫現る。

 

「ディグダごっこ」

「……そう。毎日楽しそうね」

 

 コイツには今の状況が楽しそうに見えるらしい。ずいぶんと変わった性格ですね。それなら紫さんも一緒にどうですか?

 

「遠慮するわ」

 

 そうですか、それは残念。

 あと二人いればダグドリオになれるというのに。

 

 さて、と――

 

「助けてください」

「馬に蹴られる趣味はありません」

 

 じゃあ、人に蹴られる趣味はあるのだろうか。意味わからん。てか、こんな状況になっているのも元々は紫が原因だよなぁ。

 

「フフッ、本当に危なくなったときは助けてあげるから大丈夫よ」

 

 ――では、またお会いしましょう。

 

 なんて言って紫は消えていった。

 

 ホント何しに来たんだか……あ~今日も良い天気だ。

 

 

 因みにお昼には土から出してもらえました。

 

 

 

 

 

 

 

 逃亡しようとした日から、俺の料理は幽香と同じものになった。

 理由は聞かなかった。そして、紐の長さは半分になって、また逃げ出さないようにと手を握られたり、腕を組まれたりすることが多くなった。理由は聞けなかった。

 ちょっと暑かったけれど文句は言わなかった。言えるわけがなかった。

 

 もう正直に言おう。

 幽香さんマジ怖いんだ。

 

 そんな生活をさらに一ヶ月ほど続け、体の調子もだいぶ良くなってきたと思う。そしてある日の夜、幽香が俺に言った。

 

 

「貴方、ちょっと臭うわよ」

「…………」

 

 今まで散々罵られてきたが一番傷ついた。

 これでも傷つきやすい性格なのだ。

 

 ん? でも確か、えーりんから俺の体臭はほとんど無臭だって言われたんだけど……寿命がないせいだろうか。でも幽香は臭うって言ってるしなぁ……

 

「ほら、うだうだと言ってないでお風呂に入るわよ」

 

 そう言って幽香が服を脱ぎだした。

 

 

 きゃああああああああああああ!!

 

 

 なに!? なにしてんの、あんた! バカじゃねーの!?

 

「何って……赤だけじゃ心配だから私も一緒に入るのよ」

 

 そんな意味わからんことを言って、幽香が俺の服を剥ぎ取り始めた。

 

 きゃああああああああああああ!!

 

 ちょっ、やめ! やめてっ、ええい、やめんか! 離せ離すんだ! 離せばわかる。駄目! ストップ! お願いします。下着だけは、下着だけは勘弁してください! 一人でできる、一人でできるもん。

 

 抵抗したけどダメでした。

 

 あまりにも俺が嫌がったせいか幽香はむくれていた。そんな幽香は可愛らしかったけれど、行動が全く可愛らしくないから困る。

 

 

 

 

 

 

 そんな日から、さらに数日。ヒマワリたちに以前の元気はなくなった。

 次は何を育てるのだろうか? 俺はトケイソウとかがいいな~

 

 日も暮れ始めようやっと涼しくなり始めたとき、幽香が俺に言ってきた。

 

「お散歩でもしましょう」

 

 相変わらず幽香は俺の首輪から伸びる紐を握っている。もう勝手に逃げ出さないよ。信用されてないんかねぇ……

 まぁ、一度逃げ出したことだってあるのだから、しょうがないか。

 

 ぽてぽてと幽香と二人でヒマワリ畑を歩く。夕日に照らされた枯れかけのヒマワリたちはどこか寂しい。

 

 隣を歩いている幽香がポツポツと語り始めた。

 

「私は生まれたときから一人だったわ」

 

 ん~……俺はどうだったかねぇ……覚えてないや。随分と昔のことだから、そんなことも思い出せない。

 

「私の中にある能力に気づいてからは、花を育て始めたわ。最初の頃は何度も枯らしてしまったけれど、今ではこの子たちを立派に育てることができるようになった」

 

 そう言って幽香はヒマワリたちを優しい目で見つめていた。

 

「この子たちを目当てに来た人間や妖怪は例外なく倒してきたわ。だって私にとってはこの子たちが全てだったもの」

「この子たちが立派に咲いたのを見るだけで私は幸せだった。その幸せだけが私の生きがいだった。だから貴方と暮らし始めたのはちょっとした余興みたいなもの」

「そう余興。余興なはずだったのに……ねぇ、赤。私は怖いのよ。貴方が何処かへ行ってしまうことが、また一人になってしまうことが。ねぇ、どうして貴方は逃げ出さなかったの? 貴方の実力ならいつでも私を倒せたでしょ?」

 

 一人ぼっちは寂しいもんなぁ。本当に……

 そして、逃げなっかた理由ねぇ。そんなもの、俺だってわからない。

 

 だから、その時の俺は幽香に対して何も言うことができなかった。

 

「昔はずうっと一人だったのに、今では一人になることが怖い」

 

 ――どうしてかしらね?

 

 なんて幽香は笑いながら聞いてきた。

 頬を流れる雫が夕日を反射していた。

 

 

 

 

 

「そろそろ帰りましょう」

 

 それから暫くの間、お散歩を続け、幽香にそう言われてから帰宅した。

 そして家に着いたが、どこか幽香に落ち着きがない。どうしたんだろうか?

 

「よし、決めたわ」

 

 いきなり幽香が言った。

 

「ん? 何を決めたの?」 

「我慢することをよ。赤、ちょっとこっちへいらっしゃい」

 

 我慢? な、なんのことでしょうね。ゲリライベント開催は勘弁して欲しいのですが……

 それともゲリライベントが、定期イベントになったりするんでしょうか? お願いです。それだけはやめてください。

 

 そんなことを考えながら幽香に近づくと、腕を掴まれ寝床へ押し倒された。

 

 えっ? えっ? なに? なにされんの!?

 

「何をとぼけているのよ……流石の赤でも何をするのかぐらいわかるでしょう?」

 

 待て待て待て! 服に手をかけるな! こういうのはアレだ。ほら、もっと手を繋いだりとか、デートしたりとか、一緒にお食事したりとかもっと段階を……ああ、全部踏んでるな。

 

 いやいや、いやいやダメだ。

 とにかくダメだ。

 

「なによ……貴方だって初めてではないのでしょう?」

 

 それは……その、ねぇ? だって諏訪子とか神奈子とかいたし……

 

「大丈夫よ。天井のシミを数えているうちに終わるわよ」

 

 いや、そのセリフ男女逆なんじゃ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きます」

 

 うむ、気持ちの良い朝ですね。

 

 昨晩? 何もありませんでしたが?

 

「んう……ん…あら、もう起きたのね。昨日の夜h「はい、ダメー。それ以上はダメ」……なによ」

 

 こら、やめなさい。

 タグを増やさなきゃいけなくなるでしょうが。

 

 

 朝起きると、俺の首からは首輪が外されていた。

 

 






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