東方小妖録【完結】   作:puc119

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第19話~だいたい紫のせい~

 

 

 現在時刻は午前3時くらい。

 天候は晴れ。月は見えず新月。夜空に星が映える綺麗な晩のこと。

 

 きっとこの時間なら寝ているはず。あれだけ一緒に生活してきたのだ、相手の生活リズムくらいは覚えている。

 

 そおっと、そおっと、抜き足、差し足、忍び足でターゲットまで近づく。

 落ち着け、落ち着くんだ俺。相手の家からは一番遠い。きっと大丈夫、大丈夫なはず。

 

 頭ではわかっている。しかし体が言うことを聞かない。

 

 進もうとしない足で進み、震える手を動かす。

 

 そして俺は、ターゲットを掴み一気に引き抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

「ホントに行くの?」

 

 かぐや姫がもう何回目かわからない質問をしてきた。

 

「ああ、行ってくるよ。ま、大丈夫だって死ぬことはないからさ」

 

 たぶん……

 そう言ってから俺は笑った。苦笑いだけど。

 

「いや、手足震えてるから。それじゃあ説得力皆無だから」

 

 むぅ、仕方ないだろ、だって怖いものは怖いのだ。

 

 できれば行きたくない。行きたくないけれど都中の笑いものになるよりはマシだ。できることは全てやりたい。

 そして何より俺が行かなかったら、かぐや姫や翁夫婦にも迷惑をかけそうだし。人間相手に借りを作るのはいいけれど、借りを作られるのは嫌なのだ。

 

「んじゃあ、行ってくるよ」

 

 そんな言葉を残し、行こうとしたら姫様に止められた。

 

「はあ!? えっ今から? もう夕方じゃない。例え行くとしても今からっていうのはやめときなさい。本当に危ないわよ?」

「違う、今から行けば暗いうちに花畑に着く。だから今が一番安全なんだ」

「何それ、意味わかんないわよ」

 

 俺を引きとめようとするかぐや姫を説得するが、いつかのように『じゃあ、私もついて行く』とか言い出した。こら、人間は無理しちゃいけません。

 ここからは化け物のお話だ。

 

「こう見えても私、強いのよ?」

「はいはい、そうですねー。姫様は強いですねー」

「もうっ馬鹿にして。ホントに強いのに!」

 

 なんて言っていたけど適当にあしらう。

 キャーキャー、ギャーギャーやっているうちに

 

 ――もう知らない。勝手にすれば?

 

 と結局、拗ねちゃったけれど行かせてもらえるようになった。

 

 ごめんね。

 でも、アイツに姫様と一緒にいるところを見られたら、何されるかわからんもん。何かをされることは確かだと思うけど。

 

「んじゃあ、行ってきます」

「……いってらっしゃい」

 

 うん、いい感じだ。

 よしゃ行きますか。

 

 

 

 

 

 もう真夜中と言っていい時間だろう。漸く、都から見える山の頂上辺りまで来た。

 

「紫」

 

 ぽそりと言葉を落とす。

 どうせ見ているんだろう? このイベントをアイツが見逃すとは思えないから。

 

 

 ……

 

 

 …………

 

 

 …………あれ?

 

 お、おっかしいな~

 ま、まあね。こういうこともあるさ、こういうことくらいあるさ。

 

 いや、あれですよ? 『紫』って言ったのはただのクシャミなわけでして。たまたま、あのストーカー妖怪の名前っぽく聞こえただけですよ?

 

 あ~もう、恥ずかし。

 

 

「ふふっ。何の用かしら?」

 

 ……出てきやがった。やだ、この人ホント意地悪いね。

 

「き、奇遇だな紫」

「ええ、奇遇ですわね」

 

 紫はまだ笑っている。

 もう勘弁してください……

 

 ふぅ――

 

 

「お願いがある」

「イヤ、ですわ」

「…………」

 

 内容も聞いてくれないとは、これいかに?

 

「どうせ『あの妖怪の花畑から花を取ってきてくれ』とでも言うのでしょう? 自分で行きなさいな」

 

 ――自業自得ね。

 

 と言ってまた紫は笑った。いや、まぁ、その通りなわけですが……

 むぅ、少しだけ期待していたけれど、やっぱりダメだったか。

 

「はぁ……まぁ、仕方ないか。悪かったな呼び出したりして」

 

 じゃあ紫って何をしに来たんだろうね。

 

「フフッ、とは言え、貴方と私は友人。少しだけ種を仕掛けておいたわ。ま、頑張ってちょうだい」

 

 ――バーイ。

 

 なんて言って紫は消えていった。

 

 少しだけ紫を見直した。

 少しだけだけどな!

 

 

 そして話は冒頭へ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 1、2の3!!

 

 ヒマワリを一気に引き抜いた。

 

 

 よしっ! 逃げろ! 逃げろ! 逃げるんだッ!!

 後ろなんて振り返らない、それほどの覚悟と勇気だ。絶対に俺は生きて帰るぞ。

 

 しかし、踵を返して走り出してすぐ、何かにぶつかった。

 

 

「あいたぁ」

 

 

 んもう。この急いでいる時になんだっていう、の……さ。

 

 

「あらあら、こんな時間に泥棒かしら? いえ、こんな時間だからでしょうね。そんな悪い泥棒さんには少しばかりのオシオキが必要ね」

 

 

 きゃああああああああ!!

 

 叫んだ。

 

 そしてお腹にいいのを一発。

 ふぐぅっ……

 

 薄れていく視界。能力を使う暇なんてなかった。自業自得ではあるけれど、ホント上手くいかない人生だ。

 

 

「お帰りなさい。赤」

 

 たぶん幽香はそう言っていたと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きます」

 

 いや、起きたくなんてないんだけどさ……

 目が覚めたら土の中ということはなく、ちゃんと寝床に寝かされていた。

 

「ふふっ、おはよう赤。そして」

 

 ――お帰りなさい。

 

 目が覚めると幽香が側にいて声をかけてきた。

 

「うん。ただいま。幽香」

「ずいぶんと長い外出だったわね」

 

 と幽香は言って、一枚の紙を持ちピラピラさせた。出て行くときに残していった、あの書置きだろう。

 よく残っていたね。たぶん、300年は経っていると思うけど……

 

「い、いや~、道に迷っちゃってね」

「そうね。赤は私がいないと直ぐに迷っちゃうものね」

 

 終始笑っている幽香が非常に怖い。

 そして、そんなことよりも――

 

「あの~幽香? この左手についている手錠を「イヤ!」……ああ、そうですか」

 

 因みに手錠の先は幽香の右手だ。

 

「だって、また赤は私を置いて勝手に行っちゃうんでしょう? また私を一人にするんでしょう? そんなの絶対に嫌!」

 

 前科があるだけに何も言い返せない。ホント、申し訳なかったとは思っているんだけどね……

 う~ん、なんて言い訳しようかな~なんて考えていると、幽香がはぁ、とため息を一つして言った。

 

「と言っても、赤が私の言うことを聞かないことくらいわかっているわ」

 

 おっ、お? もしかしてこれは許してもらえるのだろうか?

 

 しかし

 

 ――でもね。

 

 と幽香は付け加えてから……

 

 

「今日だけは、今日くらいは……」

 

 

 ――全力で甘えてやるんだから。

 

 なんて言って幽香が襲いかかってきた。

 抵抗はしなかった。これでも本当に悪かったと思っているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……はい。

 話を進めますよ~。何もありませんでしたよ~

 

 なんちて。

 

 

「そう言えば……どうして幽香はあの時間、花畑にいたの?」

 

 隣にいる幽香に訪ねた。作戦は完璧だったと思うんだけどなぁ。そうだというのに、あの場所に幽香がいたのは気になった。

 

「胡散臭い妖怪が教えてくれたのよ。今日の夜、花畑で面白いことが起きるから起きてろって。言うことを聞くのは癪だったけれど気になったのよ。本当、起きていて良かったわ」

 

 そう言って幽香は笑った。いい笑顔だことで……

 こんなことになるなら、普通に取りに来ればよかったな。俺だって幽香のことは、その……まぁ、嫌いじゃないし。

 

 そして胡散臭い妖怪ねぇ……何が種を仕掛けただよ。友達やめようかな。

 

 

 

 それから一週間ほどまた一緒に幽香と生活した。

 ちょっとばかしのんびりし過ぎちゃいました。そろそろ戻らないとまずいよなぁ。

 

 また絶対帰って来るから。と、なんとか幽香を説得して外出の許可を得ることに。

 また、事情を暈しながらもヒマワリが欲しいことを言うと――

 

 

「赤ならいくらでも持って行っていいわ。貴方の子でもあるわけだし」

 

 と言われ、実際に大量のヒマワリを持たされた。さらりと夫婦発言をされた気がするけれど、きっと気のせい。

 

 う~ん、どうやって運ぼうかな、なんて考えていたら幽香が『一緒に運んであげる』と言ってきた。

 都が火の海になりそうだから丁重にお断りした。幽香はむくれたが。

 

 

 結局、持っていくヒマワリは3本だけにして、残りは置いていくことにした。

 さて、そんじゃ行きますか。

 

「幽香」

「なあに?」

「行ってきます」

「ふふっ、行ってらっしゃい」

 

 今度の外出は短めにしようと思った。

 

 






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