東方小妖録【完結】   作:puc119

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第25話~受け入れて~

 

 

『バッカだなぁ、お前は。小さなことで悩みすぎなんだ』

 

『んなっ、馬鹿とはなんですか。馬鹿とは! 私は真剣に悩んでいるんです』

 

『だからそれが馬鹿なんだって、悪い奴は悪い。良い奴は良いって自分の中で明確な基準を作ってそれに従えばいいだけじゃないか』

 

『……でも、相手には相手の事情があります』

 

『相手の事情? そんなの知らん。そんなもんより大切なのは自分だろうに』

 

『そんな自分勝手な……』

 

『それでいいのさ。どうせ皆、自分勝手なんだから』

 

『……貴方はその基準を持っているのですか?』

 

『えっ、いや、持ってないけど』

 

『はい?』

 

『だから言ったでしょ? 皆、自分勝手なんだって』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きます」

 

 外はまだ薄暗い。

 

 な~んか懐かしい夢を見たなぁ。あの説教好きな地蔵少女は今、何をやっているんだろうか。きっと今日も誰かの為にお説教でもしているのかな。

 

 

 

 1000年ぶりくらいでまた諏訪の国に暮らし始めて最初の朝。

 ま、どうせやることなんてないんだけどさ。今はボーっと縁側に腰掛け、朝日を浴びているところ。うん、やっぱり春の日差しは心地いいね。

 

「あれ、赤じゃないか。やっぱり早いわね」

 

 神奈子が起きてきた。

 まぁ、ほとんど寝てないからねぇ。そりゃ早いよ。てか、まずはその寝癖をどうにかしなさい。んもう、ぐちゃぐちゃだよ?

 

「諏訪子はまだ寝てるの?」

「そうだねぇ、諏訪子は起きるのが遅いから」

 

 俺が出て行った時も熟睡していたんだろうなぁ。

 

「ちょうどいいから、赤。諏訪子を起こしてきてくれないか? そろそろ朝食の時間なんだ」

「お断りします。あ、俺は朝飯いらないから。んじゃあ、適当に人里にでも行ってるよ」

「はぁ、わかったよ。行っておいで」

 

 はい、行ってきます。

 

 

 

 

 

 んで、人里まで来たわけだけど……

 

 そんなに変わってないかぁ。いや、文化は進んでいるんだけどさ。なんかこう、劇的な変化とかは特になかったです。

 まぁ、こんなもんかもね。バナナ売りは明日からにでも始めようかな。時間はあるんだ、ゆっくりしよう。

 

 その日は夕方まで人里をブラブラして神社に戻った。

 

 

 次の日から適当にバナナを売ったり、諏訪の国の中をブラブラして過ごした。特に変わったことなんてないから、その辺りは省略で。だって、俺と諏訪子が遊んでいる場面や、神奈子をからかっている場面なんて興味ないだろう?

 

 強いて言うならば、諏訪子や神奈子が人前に姿を見せることが減ったかなぁ。なんて思ったくらいだ。そのことが何故かやたらと悲しかった。

 

 

 

 

 

 そんな感じの生活を数百年。そんなのあっと言う間だ。

 流石にちょっとのんびりとしすぎたかもしれない。

 

 そして今日、俺がここに来てから何人目になるかわからないけれど、巫女さんがまた一人、天寿を全うした。

 自分が人間ではないと実感させられる。そんなことわかりきっていることなのに……

 

 

「俺さ、また旅に出ようと思う」

「……そっか」

 

 諏訪子が言った。

 

「お世話に……本当にお世話になりました」

「ん。いってらっしゃい」

 

 神奈子が言った。

 

「また帰ってきてくれる?」

 

 諏訪子が俺に聞いた。大丈夫、きっとまた会えるさ。

 

「心配すんなって、また帰ってくるよ。んじゃあ、いってきます」

 

 その日の天気は腹が立つほどの晴天だったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 そろそろ諏訪の国を出たかなぁ、と思ったところで空間に裂け目ができた。なんか久しぶりだね。

 

「やっと、あの国から出てきてくれたわね。久しぶり赤」

「やあ、久しぶりだね紫。んで、どうしたのよ? 何か用事でもあるの?」

「幻想郷の形が漸くできてきたからその報告と、貴方に会ってもらいたい方がいるのよ」

 

 幻想郷? ん~と……なんだったっけかな、それ。

 

 ああ、そうか。人間と妖怪たちが住む、妖怪たちのための楽園か。よく作ったもんだ。まぁ、そんなもんでも作らないと妖怪たちは、この先生きていけないのだろう。

 

「そっか、そりゃ良かった。んで、俺に会わせたいお方ってのは誰さ?」

 

 戦闘大好きさんは勘弁して欲しい。争いごとは苦手なのですよ。

 

「貴方も会ったことがあるお方ですわ。それじゃあ、さっそく逝きましょうか」

 

 紫は笑いながら言った。

 いや、行くのはいいけれどたまにはゆっくrああ、ダメですか、そうですか……

 

 

 

 

 

 

 

 

「むぎゃ」

 

 むぅ、痛い。

 

 さてさて、ここには誰がいるんでしょうね。ん~、どこだここは? 室内なのは確かなんだけど……

 

「え……どうして貴方が?」

 

 そんな声が聞こえてきた方を向いてみる。

 其処には――

 

「ありゃ、映姫じゃん。久しぶりだな、おい。それにしても相変わらずちっちゃいな~全然伸びてないじゃあないか」

 

 そう言って笑いながら映姫の頭を、ヘンテコな帽子の上からパシパシ叩いた。

 

 ん、そう言えば紫がいないな。どこ行っちゃたんだろ。

 

「……うがー!!」

 

 うおぉ、映姫が吠えた。

 

「な、なんなのですか貴方は!? いきなり現れたと思ったら人が気にしていることを言って、仕方ないじゃないですか! 伸びないんですから! 成長もしないんですから!」

「えっ、あっ……その、ごめん」

 

 いや、そこまで気にしているとは……

 

「ま、まぁ、気にすんなって。きっと映姫みたいな体型を好きな奴もいるさ」

 

 俺はちょっと遠慮したいけれど。

 

「いたとしても変態じゃないですか! ……それで、貴方は何をしにきたのですか?」

 

 こら、一部の人たちを敵に回すような発言はやめてください。

 それにしても何しにねぇ……それは俺が聞きたいんだけど。

 

「ん~、映姫に会いに来ただけだよ」

 

 嘘だけど。

 

「私に会いにですか……はぁ、貴方はここがどのような場所かわかっているのですか?」

 

 あれ? そういえば何で映姫がいるんだ。前会った時はただの地蔵少女だったのに。

 

「俺は連れ去られて来ただけだから知らないんだけど、ここって何処?」

「そんなことだろうと思いました。ここは地獄の裁判所。そして私はそこで死者を裁く閻魔です」

 

 ……な、なんですと? なんていう所へアイツは連れてきたんだよ。

 それにしても閻魔ねぇ……まぁ、元地蔵菩薩だしおかしくはないのかな。

 

「よしっ、そんじゃあ映姫にも会えたし俺は帰るとするよ。んじゃあな」

 

 紫~どこ行ったんだよ。

 

「待ちなさい。ちょうどいい機会ですので、あなたに助言をしておきましょう。聞いていきなさい」

 

 あの、すごくイヤなのですが……

 ホント、紫は何をやっているんだよ。う~ん、逃げようにも出口がわからない。

 

「貴方の過去を見させてもらいましたが、昔助言したにもかかわらず、相変わらずな生活を続けているようですね……そう、貴方は少し不器用すぎる」

 

 ああ、始まっちゃったよ。

 ホント、長いんだよね、映姫の説教って。

 

「貴方にどのような事情があったのかも知っています。八意永琳との出会いから守矢での出来事。鬼との戦いや風見幽香との暮らし、月での生活は流石にわかりませんでしたが、その後の守矢での生活も知っています。そして……」

 

 ――彼女のことも。

 

 映姫はそう言った。

 

 

 あらあら、そのこともですか……

 

 う~んちょっとこれは分が悪いね。どうにもあまりよろしくない流れ。俺にだって触れてほしくないことくらいある。

 

「……それで、俺の過去を見た映姫はどんな助言をしてくれるのさ?」

「珍しいですね。貴方が素直に私の話を聞くとは」

 

 だって、逃げられないんだもん。

 きっとそろそろ腹をくくる頃なんだろう。アイツと向き合うのはまだ勘弁してもらいたいところだけど。

 

「たまには、ね」

「そうですか。では、単刀直入に言います……ねぇ、赤。そろそろ自分を許してあげてもいいのではないですか?」

 

 それはたぶん彼女のことなんだろう。

 はぁ……許すとか許さないとか、そういう話じゃないんだ。

 

 本当に勘弁して欲しい。これはずっとずっと昔に俺が決めてしまったことなのだから。

 

「何が言いたいのかわかんないんだけど」

「確かに、彼女が消えてしまったのは貴方のせいです」

 

 むぅ、話を聞いてもらえない。

 

「いや、だからいきなりそんなことを言われても……」

「しかし、あれから何年経ちましたか?」

 

 ……これは困ったね。

 どうやら本当によろしくない状況らしい。

 

「ちょ、ちょっと待ってって」

「貴方は億を超える年月を生き、沢山の者と出会った。それでも貴方は自分を許そうとしない。彼女が消えた日からずっと全てを受け入れようとする。でも」

 

 ――貴方の体には限界がきています。

 

 そう映姫は言った。

 

 ……わかってるさ、とっくに限界だってことくらい。

 

 自分の体の奥の奥にしまい込んだ物が僅かに動いた。大丈夫だよ、お前を忘れることなんてないからさ。

 

「貴方が人間の名前を呼ばない……いえ、呼べないのは貴方の奥で貴方が拒否しているからです。これ以上貴方が背負い込むことを」

 

 だからわかってるよ、そのくらい。

 

「そんな限界な状態でも貴方は関わりを持ってしまった。私を含めた神や妖怪たちと。しかし、いくら寿命の長い私たちでも死ぬときがきます。そのときはもう、貴方は耐えることができませんよ?」

「大丈夫だって、そのときは俺が消えるだけだし」

「大丈夫なわけがないでしょう! それで残された者たちはどうなるのですか? そんな我が儘な理由で死んでしまった貴方と、関係を持ってしまった者たちはどうなるのですか?」

 

 映姫の帽子が落ちた。

 

「でも、俺だっていつかは死ぬよ?」

「死んでしまうことが悪いとは言っていません。自分勝手に死ぬことが悪いと言っているのです。だからすぐに、貴方の奥にあるものを解放しなさい。それが貴方にできる唯一の善行です」

 

 唯一の善行ねぇ……う~ん、今はちょっと無理かな。はぁ、な~んでそんな悲しそうな顔をしているんだか。

 

 

「なぁ、映姫。それはもう決めたことなんだ。もう変えるつもりもない。だからそれが俺の罪だって言うんなら、それを受け入れて罰を受けるよ。どうせ地獄行きだろうから、そこで悔い改めるさ」

「……あの日、私は貴方に救われました。貴方にとっては小さなことでも、私にとっては大きな救いとなりました。だから、今度は私が貴方を救いたい。けれど私の立場では直接貴方に手を貸すことができません。私は貴方に助言することしかできない。そしてそれは、私が貴方にできる唯一の善行なのです……それでも聞いてはもらえないのですか?」

 

 だから、そんな悲しそうな顔なんてしないでほしい。

 

「ごめんな」

 

 そう言ってから俺はそっと映姫の頭を撫でた。

 

 

 

「ゆっくり会話はできたかしら? 赤、そろそろ帰りましょ」

 

 おお、紫じゃないか。でも、出てくるの遅くないですか?

 

「……妖怪の賢者。はぁ、私を利用したのですか?」

「さぁ、どうでしょう? ただ貴方様と、赤を会わせておきたかったのは事実ですわ」

 

 ああ、そういうことだったのね。全く面倒臭いことするね。別にそんな面倒なことをしなくても……まぁ、話さないか。

 

「さ、帰るわよ赤。幻想郷が貴方を待っているわ」

 

 紫が言った。

 

「いいの? 紫。さっきの話聞いていたんでしょ?」

「問題ないわ。幻想郷は全てを受け入れるのよ」

 

 幻想郷、忘れられた者たちがたどり着く最後の楽園。全てを受け入れる、か。

 

「ん、わかった。よろしく頼むよ。じゃあな映姫また会おうぜ」

 

 映姫に帽子をかぶせて俺は言った。

 

「はぁ、貴方は本当に自分勝手ですね……いつでも来てください。待っていますよ」

 

 そんな映姫の声を聞き、満足した俺は紫のスキマへと入り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あれ?『むぎゃ』ってならんかった。

 

 スキマの先は……どっかの山なのかな?

 

「ようこそ、幻想郷へ。歓迎しますわ」

 

 紫が言った。

 

 ふむ、幻想郷か……これからどうなるんだろうね。

 

 

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