『移す程度の能力?』
『そう、それがわしの能力じゃ』
『そりゃあ、また便利そうだね。んで、何ができんの?』
『言葉通りじゃよ、自分の体を違う場所に移したりできる。まぁ、流石に自分意外をとなると移すのは難しいがな』
『ああ、それでいきなり、現れたり消えたりしてたのね』
―――――――――
『悪いな、ちと疲れた……そろそろ限界のようじゃ』
『……なぁ』
『なんじゃ?』
『お前の能力で、俺の中に移るってことはできないの? そうすればお前だって死なないだろ?』
『……お主の中にか?』
『そう、ちょっと騒がしいかもしれんけどさ』
『その意味がわかっているのかえ?』
『わかってるさ』
『ふんっ。どうなっても知らんぞ?』
『大丈夫、今更一匹増えたところで何も変わらんよ。妖怪だろうが、人間だろうが、ポケモンだろうが全部受け入れてやる』
―――――――――
「起きます」
うん、目覚めの良い朝だ。
「おはよう」
真っ白い空間。
ああ、この感覚は懐かしいねぇ……
「おはようございます」
「いきなりで悪いけれど、君は今の自分がどんな状態かわかるかな?」
ありゃ、いつかの神様じゃないですか。どうか今度は蹴らないでほしいな。
「寝不足でないことは確かですね」
「そりゃあ、そうだ。普通なら君には睡眠なんてほとんど必要ないのだし」
普通なら、ね。
「えと……僕がここにいるということは、もしかして僕って死んだんですかね?」
「いや、死んではいないよ」
――ギリギリだけどね。
なんて神様は言った。
ふむ、ギリギリですか。う~ん、よくわかんないね。じゃあなんで俺はここにいるのだろうか?
「どうやら自分の状況がわかっていないみたいだね。全く、自分の世界を他人に移すだなんて、随分と無茶なことをしたものだよ」
そう言って神様はため息をついた。
「んで、僕はどうなるのでしょうか?」
「君の人生を見させてもらったけれど、なかなかに面白かった」
むぅ、スルーですか。
てかホントこの世界ってプライバシーも何もあったもんじゃないな。
「楽しませてもらったお礼として、君には選んでもらいたい」
何をでしょうか?
天国か地獄かってこと?
「選ぶ、と言うのは?」
「このまま天国に逝くのも良し。新しく転生するのも良し。ああ、地獄でも良いよ」
良いわけないだろ。何が地獄だ。
「えと、今の世界に残ることはできないのでしょうか?」
ちょっとした我が儘。
俺だってあの世界は好きだったのだ。
「できるよ」
できるんですか!? それは予想外だ。
「でもね、君を作っていた世界はなくなった。ああ、でも返してもらえるのだっけ? それと、幻想郷から見て外の世界ではポケモンが流行り始めている。だから幻想郷に戻ることは暫くできないよ。それでも良いのかい?」
まぁ、そのくらいわかってるさ。
「はい、大丈夫です」
「そうか、それなら良いんだ。とは言っても今の君じゃあ、外の世界で生活できないし……ああ、あそこでいいか」
うん? どこですか?
あまり変なところはやめてほしいのだけど。
「行ってみればわかるよ。君も行ったことのある場所だ。そこでポケモンが忘れられるまで暮らすといい。私の方から連絡も入れておくから心配もいらない」
「それならお任せします」
どうせ何処に行っても変わらんだろうし。
「今の君は存在がとても不安定だ。自分の世界を返してもらうまで、あまり無茶はしないようにね。まぁ、普通に生活位できるくらいにはしておくけど」
ホント、至れり尽くせりだね。何から何までありがとうございます。
そして、ずっと気になっていたことがあるから俺は聞いた。
「……どうして、そこまで親切にしてくれるのですか?」
「え? いや、ただの暇つぶしだけど?」
聞かなきゃよかった……あんたにはがっかりだよ。
そして目の前に何処かで見たことのあるような扉が現れた。
「さあ、夢と感動の世界が君を待っているよ」
今度は恥ずかしがっていなかった。
なんだつまらん。
「お世話になりました」
「ん、行ってきな」
はい。行ってきます。
さてはて、この扉の先にはどんな世界が待っているんだろうね? そんなことを考えながら俺はどの扉を潜り抜けた。
んしょっと。
着地成功です。
流石にもう慣れた。
「な、どうして貴方が?」
声のした方を見ると、映姫が変なストレッチをしたまま固まっていた。何やってんだ? この閻魔は。
ん~、どうやらこれから暫くは映姫の所でお世話になるんかねぇ。
「なぁ、映姫いくら体操したって身長は伸っ!」
ぶん殴られた。
痛い。
いきなり何をする。
「そんなことわかっています! それでも何もしないよりは何かをしたいんです! 諦めきれないんです! 貴方は小さいほうが好みかもしれませんが、私は大きくなりたのです!」
「んなっ! 俺は別に小さな子が好きなわけじゃないぞ!?」
んもう、アイツが余計なことを言うから……
「黒です! 嘘つきは地獄逝きですね!」
これ、神様と一億年以上を生きてきたやつの会話なんだよね。ホント、何やってんだろうね。
そのままギャーギャーやること数十分。
漸く映姫が落ち着いてきた。
「……それで? 貴方は何をしに来たのですか? 地獄ならここを真っ直ぐ行った先ですよ」
いや、あんまり落ち着いてないね。
いつでも来て良いって言ってたのにね。悲しいね。
「ここで暮らさせてもらうことになったんだ」
「え? ……ほ、本当なのですか? い、いや、しかし、いきなりそんなこと言われても困るのですが」
だよねぇ。いきなりこんなことになって俺も困ってる。
まぁ、とは言っても他に行く場所もないんだよね。これで断られたらどうしようか。
「いや映姫様……流石ににやけすぎでしょ。嬉しいなら嬉しいってハッキリ言わないと」
「んなっ、小町」
後ろから聞き覚えのない声が聞こえた。
うん? 誰ですか貴方は。てかその大鎌は何ですか? すごく怖いのですが。
「初めまして、あたいは小野塚小町。三途の川で死者の魂を運んでいる死神だよ。お前さんはなんて言うんだい?」
し、死神さんですか。俺、殺されるんじゃ……大丈夫だろうか。せっかく戻ってきたのに、いきなり死にたくはない。
「赤。種族はポケモン。今日からここでお世話になるかな。よろしく」
――はいよ、よろしく~
と小町は言って握手をした。
ちょっと怖かったけれど、どうやら良い人そうで良かった。
「それで、どうして小町がここにいるのですか?」
「運び終わった死者達が、映姫様の部屋の前で止まっていたから理由を聞くと、中が騒がしくて入れないって言ったんですよ。それで、映姫様が涙ぐましい努力をしている最中かと思ったので死者達に待ってもらい、部屋の様子を確認したところです」
涙ぐましい努力ねぇ。
無駄な抵抗のが合ってる気がする。
あ痛ぁ!
映姫に足を踏まれた。
こ、こいつも人の心が読めるのか?
「そうですか、わかりました。ご苦労、もう仕事に戻ってもいいですよ。あ、サボっていたらまた説教ですからね」
――わかりました~
なんて言って小町は行ってしまった。
「さて、仕事を始めましょう。赤はそうですね……とりあえず今日は私の仕事を見ていてください」
ほいほい、了解です。
そんな感じで俺の新しい生活は始まった。
その後、映姫にお偉いさんから連絡があったらしく、次の日から正式に俺はここ、是非曲直庁で働くこととなった。
正式に働くことになったと言っても、仕事内容は書類をまとめたり、掃除をしたり等の雑用。今も何だかわからない書類へ判子を押しているだけだ。
ペッタンコー。ペッタンコー。はい、映姫の胸もペッタンkんがぁ!
痛いです。
だから心を読まないでほしい。
そして、たま~に、本当にたま~にだけど、小町の所へ遊びに行って一緒に仕事をサボっている。
昼間からお酒を飲んだり、昼寝をしたり。んで、一緒に映姫から怒られる。
そんなことを続けたおかげか、小町とはだいぶ仲良くなった気がする。
それと、どこから嗅ぎつけたか知らんけれど、紫が来て幻想郷の様子を教えてくれるように。どうやら、諏訪の国の神様も幻想入りしたそうだ。
あと、幽香とえーりんもいるってさ。
か、帰りたくないなぁ。だってきっと俺、殺されちゃう……
そして俺の相棒も元気にしているらしい。暴れだしたら誰も止められないって言って紫が困っていた。
何やってんだよアイツは……
そしてあの霊夢も――
「赤、私は少し用事があるので席を外します」
とある日のこと。そう言って映姫が部屋を出て行ってしまった。
あれ? 珍しいね。まだ死者が残っているのに。
そんな死者を見ると、見たことのある顔だった。
と言うか、その死者は博麗霊夢だった。
最後に見たような真っ白な巫女服ではなく、俺の記憶にあるような、赤いスカートをはいて肩を露出した格好だった。白に混じった赤。たぶん、そういうこと。
「あら? 幻想郷では見たことのない顔ね
仏頂面で言う霊夢。
とりあえず霊夢まで近づき霊夢の両頬を引っ張ってみた。
おお、柔らかい。
「あいううおよ!?」
霊夢に蹴られた。
な、なぜ足がある?
「ん~……なぁ、霊夢。お前の人生は楽しかったか?」
「なんで私の名前を? ま、いいけど。そうねぇ、一概には何とも言えないけれど楽しかったわよ」
「ふふっ、そかそか、それなら良かった」
「なんで、あんたが喜ぶのよ?」
――変な奴ね。
なんて霊夢は言った。
その後は霊夢と適当に雑談。紫の悪口を言ったりして盛り上がっていると、漸く映姫が帰ってきた。
「遅れましたね。それでは裁判を始めたいと思います」
裁判は無事終わり、霊夢も天国へ逝けるそうだ。良かった、良かった。
「……良かったのですか?」
映姫が聞いてきた。
「何がさ?」
「博麗霊夢を助けたのは、貴方だということを言わなくて」
ああ……そのことね。
「いいよ、それは霊夢が知らなくていいことだもの」
俺が勝手に助けただけ。
一方的な恩返し。それだけのこと。
「そう、ですか」
どうやら、映姫はそれが気に食わなかったらしい。
……ふむ。
「なぁ、映姫」
「なんですか?」
「ずいぶんと長いトイレだったな」
「んなっ、私は貴方のために……! もう知りません!!」
そう言って映姫はそっぽを向いてしまった。
むぅ、拗ねちゃった。でも、お堅いのは苦手なんです。
「映姫」
「……なんですか?」
「ありがとう」
「……どう致しまして」
あ~もう、テレ臭いったらありゃしない。小町のとこにでも行こうかね。
それから、時は流れて漸く相棒が俺の所へ来た。どうやら紫と一緒に来たらしい。紫がすごく嫌そうな顔をしている。迷惑かけますね。
「いや~すまん、すまん。すっかり忘れていたのじゃ」
なんて彼女は笑った。
こ、こいつは……
彼女は相変わらずちっこい姿だった。
「なんでお前ちっちゃいまんまなの?」
「いやな、この体に慣れてしまったせいか大きくなれんのじゃ」
「……馬鹿だ、馬鹿がいる」
「馬鹿とはなんじゃ、馬鹿とは! このロリコンが!」
「ロリコンじゃないわ! お前のせいで不名誉な渾名がついたじゃねーか!」
全部お前のせいなんだぞ、このやろー。
そうやってギャーギャーやっていると、映姫にここで騒ぐなと怒られた。
「そう言えば俺の畑ってまだ残ってんの?」
「ん? ああ、ちゃんあるよ」
彼女は言った。あら、それは意外だ。コイツのことだし、畑なんて放っておくだろうと思っていた。
「へ~、何を作ってるのさ?」
「そうじゃな、主にオオイヌノフグリとヒメオドリコソウかな」
雑草じゃねーか。ふざけんな。そして、なぜ見栄を張った。
「それで、そろそろ戻って来られるのかえ?」
「そうだねぇ、あと数年ってとこかな」
「そりゃあ良かった。その時が楽しみじゃな」
そう言って彼女は笑った。
本当によく笑うようになったと思う。
その後、彼女から俺の世界を返してもらった。そのとたん、最近は静かだった俺の中のやつらが騒ぎ出すように。
全く……五月蝿いったらありゃしない。
お帰り。
「あんまり暴れるなよ?」
彼女に言った。
「後ろ向きに善処するよ」
彼女が言った。
「前を向きなさい」
「お主が向いたらな」
むぅ、言い返せない。
そんな会話をしてから、彼女は行ってしまった。
それから時が流れること暫く。
「もう行かれるのですか?」
映姫が言った。
「大丈夫だよ、別に消えるわけじゃあないんだから」
俺は笑って答えた。
「少しだけ、ここも寂しくなりますね」
「そうかもな……まぁ、また遊びに来るよ」
「はい、いつでも来てください。お待ちしておりますよ」
そう言って映姫は笑った。
「それじゃあ赤。行きましょうか。幻想郷が貴方の帰りを待っていますわ」
「ん、頼んだよ紫。んじゃあな、映姫。小町にもよろしく言っといてくれ」
そう言ってから紫の用意したそっとスキマに入る。
う~ん、なんだか緊張するね。
少しの浮遊感。
そして――
ガシャーーーン!! と、けたたましい音をたてながら着地に成功。
ん? どこだここ?
そんな目の前には食べ物まみれの女性たち。
あら、えーりんに輝夜にゴキブリさんじゃん。久しぶりだね~。
ハッハッハッハー……
「ご、ごめん」
とりあえず、土下座だろうか。
というわけで
これにて、この『東方小妖録』は9割終わりとなります
どうでしたでしょうか?
私は今まで小説というものを書いたことがなかったので、かなり酷い内容となっていたかもしれません
けれども、書いていて楽しかったのですから、書いた意味はあったと思います
お気に入りが増えるたびに小躍りする日々が終わってしまうのかと思うと、少しだけ残念です
直接メッセージを送ってくれた方、感想を書いてくれた方、お気に入り登録をしてくれた方、そしてこの作品を読んでくださった全ての読者の方に感謝しております
本当にありがとうございました
では、感想板や違う作品を書いた時にお会いしましょう
感想・質問何でもお待ちしております
追伸 2014/5/9
私の次の作品である『東方酒迷録』の『おまけ~迷子の迷子の~」にて、このお話の主人公と緑の彼女が登場します
時系列的には、主人公が幻想郷を旅立って数百年というところでしょうか
よろしければそちらも、どうぞ