「ご、ごめん」
目の前には食べ物まみれの女性たち。
いや、ホント、どうして紫はこの場所に落としたのさ……お願いだから勘弁して下さい。
「赤……なの?」
まず、えーりんがそんな言葉を落した。
あ、ども。お久しぶりです。
「ひ、人違いじゃないでしょうか?」
とりあえず全力でとぼけてみる。
どうせダメだろうけれど、やるだけやってみなきゃわかんない。
「私が貴方を見間違えるわけがないでしょ? 本当に……本当に久しぶりね」
ダメでした。
知ってました。
顔面に味噌汁のかかったままのえーりん。
それはきっと感動的な再会。けれども、芳醇な味噌の香りが全てをぶち壊していた。やだ、何この人、味噌臭い。
いや、口には出さないけどさ。
せっかく是非曲直庁から帰ってきたのに、また行くハメになる。しかも今度は裁かれる側だ。
最高の笑顔をした映姫が即決で『地獄逝きです』と言ってくれる場面が簡単に想像できるね。ちょっと映姫で遊びすぎたね。
「えと……うん。お久しぶりです。えーりん」
えーりん以外の人達の様子を見ると、輝夜もゴキブリさんも、お茶碗を持ったまま固まっていた。てか何でゴキブリさんがえーりん達と一緒にいるの? 前まで月にいたのにね。
そしてもう一人ゴキブリさんと同じウサ耳の女の子がいた。こちらは誰でしょうね? この女の子も月から来たのかねぇ?
「……とりあえず、台から降りて」
輝夜に言われた。
「あっ、はい」
素直に従ってそれで正座。なんだか懐かしい気分だ。
さてさて、そんなことより此処は何処なんでしょうね? たぶん幻想郷の中ではあると思うけど……
「それで、どうして赤が此処に?」
えーりんが聞いてきた。
うん、どうしてだろうね。俺もどうしてこうなっちゃったのかな~って思ってたところだよ。
それにしても、さっきから皆の視線が痛い。一刻も早くお家に帰りたいです。ちゃんと家が残っているのか怪しいけど。
「第三の人生を謳歌しに?」
「いや、知らないわよ」
難易度はベリーハードらしいです。
出オチも良いところ。
「とりあえず、私たちは着替えてくるから、赤はそこで待っていなさい」
逃がしては……くれませんよね。それくらい知ってます。だって人は成長するのだから。
むぅ、ホントどうしてこうなってしまったんだろうね。
やだなぁ、えーりんとか昔のこと絶対怒ってるじゃないか。何を言われるのやら……と、そんなことを考えていると、白くてモフモフした奴らが近づいてきた。
長い二つの耳。どうやら兎さんのようです。膝の上にピョコピョコ乗って来た兎をひたすらモフってみる。俺も『エルフーン』にでもなって一緒にモフモフしようかな。それなら同じモフモフ仲間になれる。
自分で言っててあれだけど、意味わかんないね。
それにしてもこいつら焼いて食べたら美味しそうだ。すき焼きにして食べたい。まぁ、俺は食事とかいらないんだけどさ。
兎たちをひたすらモフっていると、漸くえーりんたちが帰ってきた。
さぁ、判決の時間だ。てか、皆さっきと同じ服なんだね。えーりんに至ってはあの頃と同じ服じゃん。本当にその服が好きなんだね。
そして、だ。
「あの……輝夜? その手に持っているウサ耳は何ですか?」
あら、やだ。なんだかどっかで見たことのあるデザインなんですが……
てか何故、お前がそれを持っている。
「これ? ペットの証。此処に住みなさいよ赤。永琳も良いって言っていたし、どうせ帰る場所だってないでしょ?」
なんで月人は人をすぐにペットにして、ウサ耳を付けたがるんですかね? 嫌だよ、一度付けたらなかなか取れないんだもん、そのウサ耳。
それに今は自分の家だってあるのだ。アイツのせいで、また畑を作り直すっていう仕事が俺には待っている。
「ん~残念だけど今は帰る場所があるんだ。たぶん、あいつも待ってると思うし」
あの相棒、意外と寂しがり屋だし帰ってあげないと。
「赤は本当にあの娘と一緒に暮らしていたのね……」
えーりんがぽそりと呟いた。
おろ、アイツのこと知ってるんだ。アイツがまだ生きていた頃には会ったことないと思うけれど……
まぁ、どっかで顔くらい合わせることもあるのかな?
「え……それって、あの緑の化物のこと? あんなのといてあんた大丈夫なの?」
ゴキブリさんの台詞。『あんなの』って……何か酷い呼ばれ方されているけど、アイツ何かしたのかな?
「今までだってずっと一緒にいたし、別に大丈夫だよ」
たまに暴れるけど、止められないわけでもないし。基本的にはただの生意気な女の子だ。
「それで、結局赤は私たちと一緒に生活をしないってことかしら?」
ウサ耳を持ったまま輝夜言った。
とりあえず、その物騒なブツを放しなさい。ウサ耳とかそういうのは、もっと可愛い女の子が付けるものでしょ。
俺なんかが付けたところで、誰も喜ばないのだ。
「まぁ、うん。そうだね。いろんな場所にも行ってみたいし」
だって此処にいると、監禁される未来しか見えないんだもん。えーりんこわい。
「本当に?」
「本当に」
輝夜の問いかけに俺がそう答えると、輝夜は
――そう、残念ね。
と、呟き。
「永琳、お願い」
なんて言った。
うん? 何が始まるんですか?
えーりんの様子を見ると、こちらもまた何処かで見たような腕輪を持っていた。
……ああ、これはダメなやつだ。
「えと……あの……その腕輪は?」
月での生活を思いだす。あの姉妹は今も元気で暮らしてるのかなぁ。そうだと嬉しいけど。
「赤も見覚えがあるでしょう? あの時は貴方に効かなかったみたいだけど、あれから色々と改造したから今度はちゃんと効くはずよ」
腕輪を持ったまま、こちらにジリジリと近づいてくるえーりん。
何でこの人こんな笑顔で迫ってくるの? すごく怖いんですが……ちょっ、ちょっと待ってって。落ち着いて話し合おうよ。
きっと俺たちには一度冷静になる時間が必要なんだ。
こちらも逃げるように後ずさり。
けれどもついに、壁の隅へと追い詰められた。絶体絶命。壁際だけど崖っぷち。
……むぅ、仕方がない、か。
久しぶりだしレベルは低めでいこう。
頭の中でポケモンをイメージ。
先端が白いみがかった大きな茶色い尻尾と大きな耳。
首には白のマフラー。
そして最後に茶色のパーカー。
『イーブイ』
タイプ:ノーマル
性別:♂
レベル:1
性格:おくびょう
持ち物:きあいのたすき
とくせい:にげあし
HP:12
こうげき:6
ぼうぎょ:6
とくこう:6
とくぼう:6
すばやさ:7
技:こらえる・じたばた・まもる・でんこうせっか
6 VでAS:全振り
「っーー! 何をするつもり?」
えーりんが言った。
大丈夫、別に乱暴したりするわけじゃないから。レベルも1だし。
んじゃ、まそういうことで、俺は逃げさせてもらおうかな。
技は選ばず、『にげる』を選択。
よしゃ、すたこらさっさだぜー。
全力でえーりんたちの傍を抜けて逃げ出す。
「ちょっと待ちなさい赤!」
えーりんが何かを言った。
特性のおかげで、逃げられないなんてこともない。申し訳ないけれど、さっさと行かせてもらおう。
本当は話したいこととか沢山あるけれど、それはまた今度。
だってなんだか恥ずかしいじゃん。
大丈夫、きっと時間はいっぱいあるのだから。
えーりんたちの家を出ると、竹林が広がっていた。
これは……絶対迷うな。確実に迷子になる自信がある。
右も左も同じ景色。
はぁ……こんな場所が幻想郷にあったんだ。それとも俺のいない間にできたのかな? 竹って成長するの早いし。
歩いてこの竹林を抜けられる気がしなかったから、とりあえず飛ぶことにした。伝説のポケモンになっても良かったけれど、疲れるから『ポッポ』になって飛び上がる。
竹を越え上へ上へ。
上空まで行くと改めて竹林の広さがわかった。すっげーなこれ。どうやら飛んで正解だったようだ。
遠目には人里が見えた。あれから何年も経ったのに、なんだか昔と変わってなさそう。
どうやら幻想郷の時の流れは、俺が思った以上に遅いみたいだ。難しいことはわからないけれど、たぶんこれで良いんだろう。
そして、空を飛ぶこと数分。漸く我が家を発見した。
けれども……あれだ、様子がおかしい。
いや、家はちゃんとあるんだよ。それに畑がないのだって知ってた。
だけど――
「な~んで、大量のヒマワリが家の周りに咲いているんでしょうね?」
たぶん、頭の中の何処かでは理解できている。でも、そのことを深く考えようとはしてくれない。
家の前に降りて改めて確認。
お日様の方向に顔を向け、元気に咲いたヒマワリたち。
うん、すごく綺麗なヒマワリです。
「どう綺麗でしょ? 貴方のために咲かせたのよ、赤」
誰かの声が聞こえた。
彼女が幻想郷にいることは知っていたし、聞いていた。けれども身体の震えが止まらない。
一難去ってまた一難。
いや、ホント、どうしよう……