「どう綺麗でしょ? 貴方のために咲かせたのよ、赤」
後ろから彼女の声がした。その声を忘れるわけがない。
ふむ……状況はあまりよろしくないみたいだ。だってすぐ戻ってくるとか言っておきながら、何年経った?
多分2000年は過ぎてるよね。
ヤバい、怖くて後ろを振り返られない。今にも泣きそうだ。
――逃げるか?
……いやダメだ、逃げたら後がもっと怖い。絶対また無理矢理『キマワリ』にさせられて、ねちねちといじめられる。
こんなことになるんだったら、もう少し映姫の所にいれば良かった。まぁ、ほとんど自分のせいなんだけどさ。
「なにいつまでも固まっているのよ。良いからこっちを向きなさい」
だって怖いんだもん。下手なホラーなんかよりよっぽど怖い。
とは言っても彼女の言う通り、このままでいるわけにはいかない。振り返らなければ、現実と向き合わなければいけない。勇気を振り絞る時が来たんだ。
そして、恐る恐る後ろを振り返る。
そこには、いつか見た姿と変わらない彼女の姿があった。
いや、少しだけ――
「髪、伸びたんだね……久しぶり、幽香」
できるだけ自然な笑顔で言う。
珍しく吃ることもなく、言葉は出てくれた。
「ええ、少し伸ばしてみたわ。ふふっ、久しぶり赤」
そう言って幽香は笑った。
少しだけくせのある綺麗な緑髪。白のシャツに、赤いチェックのスカート。そして、いつもの日傘。
ヒマワリたちに囲まれた彼女の姿は良く映える。ホント、良い笑顔ですね。
幽香も笑っているだけなら可愛いんだけどなぁ。うん、俺はこの笑顔も嫌いじゃないです。
なんちて。
さてさて、そんな恥ずかしいことを考えている場合じゃないのだ。
「えと……それで幽香は、な、なんの用事なのかな?」
幽香なら『いじめに来た』とか普通に言いそうで困る。でも、そんなことを言われたらもっと困る。
「あら、用事がないと来てはダメなの?」
「え? いや……そんなことはないけど……」
むぅ、答えにくいことを。
幽香だってそれくらいわかるでしょうが。俺だって別に幽香を嫌っているわけじゃないんだ。
ただ、ただ怖いだけです。
「…………」
「…………」
そしてお互いに無言で見つめ合うことに。まぁ、俺は下を向いているけど。
うわーん、さっきから空気が重いよ。誰か助けて下さい。
そうだ、アイツは何処にいるんだ? あのお頭が残念な相棒なら、この空気をぶち壊してくれるはず。
「ふふっ、とりあえず家の中に入りましょうか。赤とは沢山話したいこともあるのだし。大丈夫、時間は沢山あるわ」
そう言って幽香が俺の腕を掴み、家の中へと連れて行った。いや、そこ俺の家なんですけど……
やっぱり逃がしてはくれないらしい。
千年近く開けていた家の中の様子は、何故か綺麗なままだった。アイツが掃除をするとは思えないから、きっと誰かがやってくれたんだと思う。
いや、うん。まぁ、幽香がやってくれたんだろうね。
「ちょっと待ってて、今お茶を用意するから」
幽香はそう言って、台所へと向かって行った。
あの……なんで当たり前のように幽香は俺の家のお茶の場所を知ってるの? 君の家はここじゃないでしょ?
なんか怖いから深くは聞かないけどさ。
とりあえず畳の上に座り、ボーっと過ごす。
今日は始まりから色々あったなぁ。まぁ、まだ終わってないんだけどさ。
はぁ、今度えーりんと会う時はなんて声をかければ良いんだろう……
そう言えば、なんでえーりんって生きているんだろうか? 輝夜やゴキブリさんはわかるけれど、えーりんって普通の人間だよね。ここは地上で、寿命の原因である穢れだって溢れているのに。実はえーりんも不老不死だったりして。
いや、そんな……まさかねぇ?
「できたわよ」
幽香の声が聞こえた。
ほのかに薫る香草の匂い。なにかのハーブティーなのかな? その辺の知識は乏しいから分からないけれど。
「ありがとう」
幽香からコップを受け取り、口をつける。わずかに鼻を抜けていくような香り。そしてソイツはピリピリと喉を軽く焼きながら流れていった。
初めて飲むような味だけど、朝飲むのにはちょうど良さそう。目覚めの一杯とか。
「あれ? 幽香の分のお茶はないの?」
よく見ると俺の分しか用意していなかった。もしかしてコップが一つしかなかったのかな?
「私は良いの。どう? そのハーブティーの味は。赤の為に作ったのよ」
そうなの? そりゃあ嬉しいな。なんか舌が痺れるし、正直、美味しいとかは思わないけれど、俺のために作ってくれたお茶が不味いわけがない。温度も熱すぎず、一気に飲めるような温度だったし。
「飲みかけでよければ飲む?」
俺だけゆっくりとお茶を飲むのもあれだしさ。
俺がそう言うと幽香は、解毒がどうとか、私ならとか何かをボソボソと呟いていたけれど――
「せっかく用意したのだから赤が全部飲んじゃって良いわよ」
と言ってくれた。
そっか。それなら、ありがたくいただこうかな。
俺がお茶を飲む間、何故か幽香はニコニコと笑いながら俺の飲む様子をずっと見ていた。えと、そんなに見られると恥ずかしいのですが……
そんなこともあって最後の方は一気に流し込んだ。もうちょっと味わって飲めば良かったかな。
「うん、ありがとう幽香。美味しかったよ」
「えっ……美味しか……ま、まぁ美味しかったのなら良かったわ」
うん? なんだろう。変なことでも言ったのかな? まぁ特別美味しかったわけじゃないけれど、不味くはなかったよ?
あ、そうだ。あの緑の相棒は何処にいるんだ? 幽香なら知っているだろうか。
そんなことを思って俺が幽香に質問してみた。
「ね……こ……たの?」
……あら? 言葉が上手く出せない。
そして気づくと幽香が横に倒れていた。
……いや、違う。俺が倒れたんだ。
なにこれ。力が、入らない。
「う~ん、ちょっと入れすぎたかしら?」
幽香の声が聞こえた。
え? ちょっ、ちょっと待って、どういうこと?
「貴方が悪いのよ赤。だってこうでもしないとすぐに何処かへ行っちゃうんだもの。ねぇ、赤。私がどれだけ貴方の帰りを待っていたのかわかる?」
幽香が俺の頬を両手で触りながら言った。
いや、そのことは本当に悪かったと思っているよ。一応、幽香の所へは行こうと思ってたんだ。でも、ほら月へ行くことになっちゃったから……
なんか昔もこんな状況があった気がするけど、ちょいとまずい状況だね。手足が全く動かない。ポケモンになることもできない。
言い訳すらも……
あの……別に逃げたりはしないので助けてくれませんか?
「……っ」
無意識にアイツの名前が溢れる。けれども音が出ることはなく、ただ空気が吐き出されるだけだった。
んもう、こんな時アイツは何やってんだよ。
「何て言っているのかは分からないけれど、あの緑の娘ならいないわよ。今は地底でのんびり旅行をしているはずだもの」
何やってんすかアイツ……地底って確か旧地獄のことだよね。勇儀もいるんだっけ? 俺も今度行ってみようかな。会ってくれるかわかんないけど。
さてさて、現実逃避はこれくらいにしないとだ。まぁ、今の俺にはなんにもできないんだけどさ。
そしてついに意識も薄れ始めた。
「やっぱり入れすぎたみたいね。ふふっ、もう眠いでしょ? ゆっくり休みなさいな」
幽香が何かを言ったが、何を言ったのかはわからない。
ただ、まぁ。何故かやたらと安心できる声だったと思う。
そして幽香に抱かれながら俺は眠りについた。何事もなく目が覚めますよう祈りながら。
「起きます」
目を開けると見慣れない天井が見えた。
ありゃ? どこだここ……ん、ああ、そっか帰ってきたんだった。よく見れば俺の家じゃん。どうしてわからなかった。
んと……昨日は確かえーりんたちから逃げ出して、自分の家に帰って……ん~そこからの記憶がない。
ふと、隣を見ると幽香が寝ていた。
うわぁっ!? えっ……え? なにこれ? どういうこと? アイツが寝ているのならわかるけれど、どうして幽香が?
こ、ここ俺の家だよね?
そして右手には違和感。
ああなんだ、いつもの手錠か。
しかし、この状況が全くわからない。な、なにもなかったよね? 大丈夫だよね? R18タグいらないよね?
自分の中にいる奴らに聞いてみても、どうにも誤魔化されて教えてくれない。な、何があったんですか?
「んっ……ん~……あ、おはよう。赤」
幽香が目を覚ました。
なかなか見ないような、すごく良い笑顔だった。
ん~何があったのかわからないけれど、悪いことではなかったのかな?
そう思うことにした。
戦闘がないとポケモンを出しづらいです
というか出せません
ポケモンの技で弾幕ごっことか想像できませんし、どうしたものか……
と、言うことで第閑話でした
何もないお話でしたね
もっと幽香さんの感情を掘り下げた方が良かった気がします
気がするだけですが
では、次話でお会いしましょう
感想・質問お待ちしておりますが、あまりつつかれるとボロが出ます