「起きます」
どうやら疲れは完全に抜けたわけではないらしく、何処か体が重かった。それに体を動かす気にもなれない。
目が覚めても周りに誰もいない。
仕方が無かったのかな? 話したいことや一緒にやりたかったことが沢山あった。できれば消えないで欲しかった。
一緒に過ごした時間は長かったけれど、接した時間が少なすぎる。アイツも勝手だよなぁ。どうせなら俺も連れて行けってんだよ。
はぁ……ホント、これからどうすっかね……
「久しぶりね。赤」
声がした。
そちらを見る気になれなかった。
「や、久しぶりだね。紫」
顔を向けることもなく、適当に言葉を返してみた。
ん~……此処って地底だよね。良いのかな紫は此処に来て。
「あの娘は?」
紫が言った。
さぁ、今頃何をやっているんだろうね?
死んだ者の魂は冥界へと誘われる。でもアイツみたいに、初めから死んでいるような奴ってどうなるんだろうか?
「逝ったよ」
暴れるだけ暴れて、好き勝手に色々言って、消えていった。
そう言えば紫は以前から聞いていたんだよな。きっと幽香がついて来なかった理由や、あのセリフはそう言うことだったんだろう。
あ~……何もやる気が起きない。
「そう……それで赤はこれからどうするつもり?」
何をすれば良いか、何をしなければいけないのか……そんなこと俺にはわかんないよ。今は旅をする気にもなれないし、誰かと会う気にもなれない。
脱力、無気力。
消えても人に迷惑をかけるとは、アイツもなかなかな奴だ。
「ホント、どうすっかな~……ねぇ、どうすれば良いと思う?」
もういっそのこと、10年ほどこうやって寝ていようかな。それに何の意味もないけど……
「とりあえず起きなさい。私はあの娘と赤の詳しい関係を知らないけれど、そうやって寝ていることが正解だとは思えないわ」
まぁ、そりゃあそうだよね。うん、それじゃあとりあえず起きるとしようか。
そろそろ進まなければいけないんだろう。相変わらず、何処へ向かって進めば良いのわからないけどさ。
少しだけ重い体を動かして立ち上がり、紫を見て俺は言った。目も疲れているせいか、紫の姿も上手く見えない。
「アイツ何か言ってた?」
「貴方の面倒を見るようには言われたわ」
なんじゃそりゃ。面倒を見てもらわなければいけないほど、子どもではないつもりだけど……一人でも生活はできるし、家もある。
そう言えば幽香ってこれからどうするんだろうか? また一緒に生活するのかな?
「別に面倒は見てもらわなくても、大丈夫だよ? 普通に生活できるし」
「……たぶん、あの娘が私に頼んだのは、そう言うことではないと思うの。貴方の心が壊れないようにとかそう言う意味だと思う」
うん? 心が壊れないように?でも俺って……
「心なら最初から壊れてるよ?」
「そう言うことではないわ」
そう言うことではないらしい。
「ん~……よくわからないな。どういうことなのさ?」
「はぁ」
ため息をつかれた。
仕様が無いじゃん、わかんないんだもん。わからないものは、わからないのだ。
「確かに赤の心は、最初から壊れているわ。今も貴方の心の境界は操ることができないし……でもね、そう言うことじゃないの。赤にとって、あの娘の存在はとても大きなものだった。それが消えたということは、貴方が考えている以上に大きなことなのよ?」
つまり、さらに俺の心が壊れないようにするってことなの? 別に大丈夫だと思うけどな~。
まぁ、確かにアイツが消えたのは寂しいけどさ。
「もしかしたら、気づいていないみたいだから言うけれど……赤、貴方今泣いているわよ」
……俺が、泣いている?
「いや、それはおかしい」
「おかしいも何も実際、泣いているわ」
顔に手を当ててみる。
わずかに手が濡れた。
いや、だって俺泣き方とかもう知らないんだよ? なんで……どうして?
「呆れた。本当に気づいていなかったのね……それだけあの娘の存在が大きかったってことでしょう。どう? これで分かったかしら? 今の貴方はとても不安定なの」
涙が止まらない。
止め方がわからない……
「え? これってどうすれば治るの?」
こんなこと一度もなかったのに。
いや、あっても俺が気づいていなかっただけなのか?
「本当はあの娘のことを忘れるのが一番だと思うけれど、そんなことをしたら余計に壊れそう。そうね……これからゆっくりと、あの娘が空けていった穴を埋めていくしかないでしょうね」
なんだか随分と面倒くさいことになった。
どうやら自分で思っているよりも事態は深刻……なのかな?
「とりあえず、何かを始めて見たらどう? あの謎の果物を売るのでも、農作をするでも何でも良いと思うわ」
つまり何かをして、気を紛らわせろってことなんだろう。それはアイツを忘れろってことなんだろう。
ん~またバナナを売っても良いけれど、どうせなら新しいことを始めたいな。農作は何かをやりながらでもできるし……他にできることって何かあったかな。
ポケモンになれば色々とできるけれど、色々な人の役に立ちたい。
うん……よし、決めた。
「そうだね。じゃあ……」
人と人とを繋げるようなこと、離れてしまった人達をもう一度繋ぐようなこと。そんなことをしたくて俺は選んだ。
ついでに、勝手に消えたアイツを探してみよう。
文句の一つでも言わなければ気がすまん。
冥界だろうが、あの世だろうが、転生していようが、違う物語だろうが必ず見つけて文句を言ってやる。
「……確かに面白そうな仕事ではあるけれど、幻想郷は狭いのだし、仕事なんてほとんどないと思うわよ?」
「良いよ、お金が欲しくてやるわけじゃないんだし。楽しければそれで良い」
「そう、それなら応援はしてあげるわ。まぁ、頑張りなさい」
さてさて、決めたは良いけれど、これからどうやっていこうかね。全く仕事がなかったらどうしようか……
まぁ、その時はその時なのかな。
あれだけ流れていた涙はいつの間にか止まっていた。
これで止まっていた物語は漸く動き出してくれた。
少年の仕事は人々を繋ぐこと。
この狭い幻想郷で切れた繋がりを戻すこと。
これで、心の壊れた少年のお話はきっと終わり。
この少年が赤い帽子を被り皆から『郵便屋』と言われるのは、きっとまた別のお話。
あ~……漸く閑話も終わりましたね
いかにも続きがあるように書きましたが、ただの打ち切りかもしれません
な~んてね
まぁ、もし続きがあったとしても新しいお話になりそうですので、『東方小妖録』はこれで完結です
感想・質問は無理して書いてもらわなくても私は大丈夫です
あれば嬉しいですが……
では、またいつかお会いしましょう