たった一日だけど、あれから俺とえーりんの距離は一気に縮まったんだと思う。
この世界に来て二日目、本格的にえーりんの雑用としての生活が始まった。本当なら料理は俺が全部用意するはずだったけど、如何せん俺は菓子類しか作れない。
結局、基本はえーりんが作って、俺はおやつとかデザートを作るときだけ。あ、でも俺だって、カップラーメンなら自信はあるぞ?
そんな生活をしていて、分かったことがいくつもある。
この世界は、俺の知っている東方Projectの世界よりも、未来もしくは過去に存在しているということ。
その確かめのため、えーりんに
「えーりんって何歳?」
的な質問をしたら怒られた。
女性に年齢の質問はタブーだそうです。
あと、えーりんも能力を持っていて『あらゆる薬を作る程度の能力』と言うらしい。だから、その『程度』ってなにさ?
また、えーりんはこの世界でお偉いさんらしく、会議とかで家を空けることが頻繁にあった。その間、俺は一人ぽっち。さみしいね。
俺の能力に関係することでは――
今のところ、一日になることできるポケモンの種類は、基本的には三匹が限界。長い休憩を入れれば、四匹目までいける。
まぁ、倒れちゃうんだけどさ。
さらに、これは『ヒトカゲ』や『ポッポ』など弱いポケモンの場合で、『ミュウツー』みたいに強いポケモンだと一匹で限界らしい。もちろんブッ倒れた。
最初の一年は倒れてばかりだったせいか、えーりんにはかなり迷惑をかけたと思う。一ヶ月ほど監禁されたりもした。エーリン、コワイ。
また、俺たちの住んでいる街の外には妖怪達が沢山いるらしい。会話できるやつはほとんでいなかったけど。
この街は結界みたいなやつで覆われていて、妖怪が襲って来ないようにしているんだってさ。人間の姿だと問題ないけど、ポケモンの姿で結界を通ろとしたら、一発で意識を持っていかれた。マジ勘弁。
それとレベル上げも一応やってはいる。どうやら、ポケモンを倒さなくてもレベルは上がるみたいだった。
街の外に出て、弱そうな妖怪を見つけたら、背後から最大火力の技を打ち込む。……ちょっとずるいけど仕方ないね。真正面から戦って勝てる気しないし。
そして、コツコツと頑張ったおかげか――
『ヒトカゲ』は『リザード』に。
『フシギダネ』は『フシギソウ』へ。
『ポッポ』は『ピジョン』となった。
タケシくらいなら倒せると思う。カスミはちょっと厳しいくらいかな。
そして、えーりん以外の知り合いも少しだけ増えた。
それはセコセコとレベルを上げているときだった。緑の着物を着た女性が声をかけてきたのは。
それが、俺と彼女の初めての出会い。いつか、俺ではない誰かが語る物語の一部の始まり。
「良い天気じゃな」
「お、おぅ」
そんな彼女の第一印象は『何か痛い人』。いや、だって『じゃな』とかないでしょ。見た目、若い女性が『じゃな』だよ?
その時の会話はそれだけ。その彼女はいつの間にか消えていた。
それからも、彼女と会うことは多々あった。でも、会話はいつも一言、二言で終わり。
彼女が何者で何をしたいのかはわからない。アイツは最初からそんな奴だった。
そんな生活を何年かしてきた。
そしてとある日、実験器具を俺が洗っていると、えーりんが――
「月に行く予定が決まったわ」
なんて言ってきた。
ああ、えーりん研究のしすぎでついに頭が……なんて、哀れみの視線を送っていたら蹴られた。痛い。
んもう、どっかの神様といい、最近の女性はすぐ蹴る。あの緑色の彼女にも蹴られそうだ。
どういうことなのか詳しく聞いてみると――
えーりん曰く、地上では『穢れ』を完全に取り除くことができない。だから、『穢れ無き大地』である月に移住するんだって。
そんなこと言われても、正直よくわかんなかった。難しい話は苦手。
「普通に生活していたら知っているはずなんだけど……」
失礼な。それだと俺が普通に生活してないみたいじゃないか。
そんな会話をしてからえーりんは一枚の紙を渡してくれた。
「?」
「貴方の乗る船の番号と出発時間よ。まぁ、私と同じなんだけどね」
なるほど、俺も月へ行っても良いのか。
しかし、『月』ねぇ。なんか、とんでもないことになっちゃったなぁ。そもそも月で生活ってできるのかな。
その後、いつものようにレベル上げをしていたら、またあの彼女と会った。
「十日後じゃ」
彼女が言った。
「何が?」
俺は聞いた。
「わしら妖怪が人間達を襲う日」
彼女が答えた。
「して、お主はどうするのじゃ?」
――人間から外れた者よ。
彼女の言葉は、よく響いた。
「……さぁてねぇ。その日になったら考えるよ。でも、どうして十日後なのさ?」
「その日、人間どもはこの地を去る。それを止めるためじゃ。浮き足だっている人間どもの隙をつき、滅びぬ程度に殺す」
妖怪が存在するには、人間の存在が不可欠。つまりはそういうことなのだろう。
そして、そんなことより――
「ちょ、ちょい待って。どうしてお前のような妖怪が、人間が月に行く日を知っているんだ?」
「いや、普通に生活していればわかるじゃろ」
……マジですか?
俺って何やってたんだろう。
「ではな、十日後を楽しみにしている。お主の答えも含めてな」
ふむ。
「……中央広場」
「うん?」
「中央広場で待っているよ」
「心得た」
そして、いつものように彼女は消えた。
十日後、かぁ……さてさて、どうしたもんかねぇ。
そこから十日、準備を少ししたくらいで、あとはいつも通り過ごした。妖怪が攻めてくることは誰にも言っていない。
えーりんにもだ。
あの日から、レベル上げをしていても彼女に会うことはなかった。
そして十日後。
「赤、迎えが来たわ。行きましょう」
さて、そろそろ行かなきゃいけない時間なんだろう。少しだけ頑張らなきゃいけない時が来た。これまで随分とのんびり生きてきたけれど、ここらでちょいと頑張ってみようじゃあないか。
頭の中でポケモンをイメージ。
「赤?」
『フシギソウ』になった俺をえーりんが不思議そうに見てきた。
えと、ほら……大事な場面だからツッコミは無しで。
「『ねむりごな』」
「っ!!」
「おやすみなさい。良い夢を」
眠らせたえーりんを、迎えに来た人に渡す。
「えーりんをお願いね」
「……赤様はどうなさいますか?」
「もう少しだけブラブラしているよ」
「八意様がお怒りになりますよ」
それは嫌だなぁ。えーりんって怒るとすごく怖いんだ。でも、今はきっと俺が頑張らないといけない場面なんだろう。
せっかく新しい世界へ来たのだから、自分なりに頑張ってみたいんだ。それが正解なのかはわからない。でもまぁ、間違ってはいないんじゃかな。
「えーりんにさ『ありがとう』と『ごめんなさい』と『お世話になりました』って伝えといてもらえる?」
「……承りました」
「ありがと」
そこまで会話をしたところで爆音が響いた。どうやら妖怪たちが動き出したらしい。
さてさて全面戦争の始まりだ。
そんじゃ、行きますか。
「どちらへ?」
「でぇとの約束」
そう言って俺は『フシギソウ』から『ピジョン』になり約束の場所まで飛んだ。
「良い天気じゃな」
約束の場所まで行くと既に彼女がいた。
待たせちゃったかな。女性を待たせてしまうとは俺もまだまだだ。
「ああ、そうだな」
今度はどもらず言えて一安心。
「して、お主の答えを聞こうか」
『正義の敵は悪ではなく、また別の正義だ』って言葉があったと思う。
その言葉を聞いて、ああ、なるほどなぁ。なんて思った。
でも、俺はそうは思わない。思いたくはない。
だって、正義の敵が正義なら、悪の敵もまた別の悪ってなりそうだもの。それに、正義の敵は悪であった方が気持ちがいい。
気持ちってのは大切なんだ。きっと何よりも。
じゃあ、今回の場合、人間と妖怪どちらが『正義』で、どちらが『悪』なんだろうね。
でも、やっぱり俺は悪が良いかな。ほら、悪の組織とか憧れる年頃なんです。
そんなことを考えながら、俺は『人間の姿』に戻った。
「……それがお主の答えか」
来いよ妖怪。ボッコボコにしてやんよ。
本日、三匹目のポケモンをイメージ。
火力だけなら、今の俺の中では最大なはず。
炎の出る尻尾と鋭い爪。
頭から伸びる龍を思わせる角。
忘れちゃいけないオレンジパーカー。
うん、『ヒトカゲ』よりは凛々しくなったかな。今ならカスミだって倒せると思う。
『リザード』
タイプ:炎
性別:♂
レベル:24
性格:いじっぱり
持ち物:炎のジュエル
とくせい:もうか
HP:69
こうげき:63
ぼうぎょ:40
とくこう:45
とくぼう:43
すばやさ:65
技:つるぎのまい・みがわり・フレアドライブ・おんがえし
6Vで努力値はAS極振り。
これが俺にできる限界。
俺の姿が変わってすぐ、彼女が突っ込んできた。
あらぁ、素早さはあちらの方が上か。
そんな彼女の攻撃を避けられるわけもなく、ボディにいいのを一発。
「かはっ……」
押しつぶされた肺から空気が抜け、口から変な声が出た。
めちゃくちゃ痛い。
いやいや、これくらい耐えてくれよ。
……耐えろって
耐えやがれ!!
「っと……」
残ったHPはもう1/6もない。それでも、なんとか耐えてくれた。
こんな状態の俺じゃ、もう一発は流石に耐えられないだろう。そして使えるポケモンもこれが最後。
だからこれが、最初で最後の一発。
特性:もうか発動
アイテム:炎のジュエル使用
喰らえや、今打てる中でいっちゃん美味いのを。
「『フレアドライブ!!』」
炎を纏った体で彼女へ叩き込み吹っ飛ばした。
「……お主の技、なかなかに効いたぞ」
普通に起き上がった。
てか、全然効いてなくないですか?
いやいや、マジかよ。ホント勘弁して欲しい。それこそレベルが違う。
そして、反動のダメージ。あ~……まぁ、耐えられないわな。
HPが赤ラインを越え0となり、人間の姿へ。かろうじて意識は飛んでないもののフラッフラだ。
「じゃあの。生きていたらまた会おうか」
あ~あ、もう。きっびしいね、ホント。たぶん、彼女を行かせたら、この戦い人間が負ける。
ここの人間は妖怪を舐めすぎだ。
でも、これもしょうがないのかねぇ。一応、俺だって頑張ってみた。自分の限界までは頑張ってみたけど、ダメだっただけ。
それならしょうがない……のかな?
この街に思い出なんかほとんどない。人間が負けようが妖怪が負けようが、どっちだって良い。
知り合いだってえーりんくらいだ。
ああでも、そっか……もし、この彼女を行かせてしまったら、えーりんも困るよなぁ。
それに何より、俺がえーりんに怒られる!!
う~ん。
よおし、やる気が少し出た。だって怒られるのやだもん。最近のえーりん凄い怖いしさ。
正義になんてなれないけれど、泥だらけで汚らしい、這いつくばって生き延びる悪にでもなってやろうじゃないか。
本日、四匹目のポケモンをイメージ。
とっくに限界なんて越えている。
それでもやらなきゃあいけないんだ。
体が白い綿で覆われた。
肩には緑色の手みたいなのが伸びる。
パーカーの色は白だった。
『モンメン』
タイプ:草
性別:♂
レベル:1
性格:ゆうかん
持ち物:きあいのタスキ
とくせい:いたずらごころ
HP:11
こうげき:5
ぼうぎょ:6
とくこう:6
とくぼう:6
すばやさ:5
技:やどりぎのたね・みがわり・がむしゃら・まもる
なんとか立ち上がる。
彼女が気づく。
「なんじゃ、まだやるのか? 次は殺すぞ」
「……いやね、そりゃもうフラッフラで、今にも倒れそうだ。足は痛いし、手は上がらない、眼球運動ですら辛い――つまり、絶好調だ」
反撃返し。
緑の彼女はレベル54の『ハクリュー』くらい
あと1レベルで『カイリュー』に進化です
それは、この世界ではかなりの強さっぽいです
さてさて、主人公どうするんでしょうね
わかる人にはすぐわかるオチですけど……
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