湖に近づくにつれ、どうにも騒がしくなってきた。そして、湖の真ん中辺りで戦っている二柱を発見。
飛び交う弾幕、降り注ぐ木柱、突き出る土柱。
「うわぁ……きれいだなぁ……」
俺が? 今から? あそこに?
いやいや、無理無理。流石に死んじゃうって。これはもう諦めて帰っちゃおうかな。
……さてさてと、そんな冗談はいいとして戦況を確認。予想通り諏訪子はかなりキツそうだった。それに対して八坂神はまだまだ余裕そう。
よしゃ、さっさと行かないとね、また彼女に怒られそうだし。
移動していると、諏訪子に今までとは違う動きがあった。諏訪子が鉄っぽい輪で八坂神を拘束。
おおー、やるじゃん諏訪子。と思ったが様子がおかしい。
拘束していた輪がボロボロと崩れ落ちていった。
そして大技を打ち込もうとしていたのか、諏訪子に隙が。
「あっ……ヤバくないっすか」
思わず声が出る。そしてその隙を八坂神が見逃す訳もなく……木柱が諏訪子に直撃した。
落ちてきた諏訪子を、できるだけ優しく受け止める。
ホント軽いなコイツは。この軽い体に、どれだけの思いを詰め込んでいるんだろうね……
「あ、れ……なんで……赤がいるの?」
いつもの元気さが全くなく、弱々しい諏訪子の声。
助けに来たつもりだったんだけどさ、ちょっと間に合わんかった。ごめんな。
「ごめんね……わたし勝てなかったよ……」
――くやしいなぁ。
なんて泣いてるような、笑っているような声で諏訪子がポソリと言った。
「……諏訪子、ちょっと手出して」
――手?
そう言って、諏訪子は弱々しくも、その手をあげてくれた。んで、その手に俺の手を合わせる。
ほい、バトンタッチ。
ここまでが諏訪子の戦い、ここからは俺の戦い。お前はちょっと休憩してろ。
諏訪子を安全な場所まで運び、神様に効くかどうかはわからないけれど一応『かいふくのクスリ』を使っておいた。ないよりはマシなはず。
その間、八坂神は特に何もしてこなかった。いやぁ、やさしいね。
「なぁ、八坂の神様、諏訪子ってこのあとどうなるの?」
答えなんてわかっていたけど、もしかしたらね。
「洩矢の神には死んでもらう。それで妖怪よ、今度は何の用だ?」
ああ、やっぱダメだったか。ま、わかってたことだけどさ。それに、それに大切なのはこれからだ。
「交渉かな……ん~、殺さないってことはできないんかねぇ?」
「無理だ」
「んじゃあさ、俺が貴方と勝負して勝ったら、諏訪子は殺さないでもらえる?」
まぁ、ヤダって言っても無理やり言うこと聞かせるんだけどさ。
「はっあんたが、私に勝てるとでも? 今朝のことを忘れたのかい?」
「いやぁ、あの時は本気じゃなかったんだ」
なんて言い訳してみたり。とは言え、一応今朝よりは強いはず。あの時はレベル50だったもん。
まぁ、レベルを100にしたところで、八坂神に勝てるかはわからないけどさ。神様相手にどこまで通じるのやら。
「負け犬の遠吠えにしか聞こえんな」
一度負けたって次勝ちゃあいいんだ。チャンスがあるのなら何度だって挑んであげるよ。
「来いよ、勝ち豚。ボッコボコにしてやんよ」
「……妖怪風情が舐めるなよ」
こんないい雨が降っているんだ、負ける気がしない。
さあ、リベンジマッチといこうか。
『キングドラ』
優秀なタイプと特性を持つ。
種族値も平均的に高く、雨パーティーにおける絶対的なエース。
伝説のポケモンを使用可能なバトルですら、コイツが猛威をふるうことがある。そんな伝説に最も近い、非伝説ポケモン。
「エクスパンデッド・オンバシラ」
八坂神の声がした。
ああ、あの木柱って御柱だったのか。昔は御柱に乗って街中を回ったものです。それはもうどれほどに昔のことだろうか。懐かしいなぁ。
さてさて、そんなもの喰らいたくもない。御利益とかある気がしないし。それに今ばかりは素早さなら負けないんだぜー。
「『ハイドロポンプ』!」
自分でも感動するくらい大きな水流を八坂神に向けてぶっ放した。
んで、八坂神にドカーン。
「なっ! はやっ!!」
いよっしゃー! 直撃いったー!
ふふん、どうよタイプ一致眼鏡雨ポンの威力は。等倍程度ならだいたいの敵を吹き飛ばしてくれる技なんです。
そんなことして、喜んでいたら空か大量の御柱。本日の諏訪は雨時々、御柱。こりゃあ、大変だ。
まぁ、避けられるわけもなくそれが直撃。
い、痛い……
でも、耐えた。だからまだ戦える。
八坂神を見るとあちらはボロボロ。さ、流石は雨グドラさん。例え、神様相手だろうとその威力はすごいです。
さぁ、ラスト一発。
さくっと終わりにしましょうか!
「負けられるかあああ!」
八坂神の咆哮が轟く。空には視界を埋め尽くす量の御柱。
おお……さっきの倍近い数の御柱が……
でもさ。負けられんのは……負けたくないのはこっちも同じ。
そんじゃ、またね、大和の神様。サクッと倒して大和の国へ帰ってもらおうじゃないか。
「いっったれぇーーー『ハイドロポンプ』!!」
『あいての かなこには あたらなかった。』
「……はい?」
水流が明後日の方向へ飛んでいった。
そして空から大量の御柱が――
いや、ホント、勘弁してほしい……
さっきよりもさらに多い御柱なんて、避けられるわけもなく直撃。もちろんHPは0です。
湖に叩き落されたけど、もう動けない。
物理的にも精神的にも沈んでいく中、『なみのり』で良かったじゃん。とか、お墓は海の見える丘にして欲しかったなぁとか思った。
この人生、上手くいかないものだね……
「起きmうわぁぁあああっ!」
目を覚ますと、諏訪子の顔が目の前にあった。
ビ、ビックリしたぁ……
諏訪子も諏訪子で驚いたらしく。きゃあああ。とか、あーうー。とか言ってる。
とりあえず落ち着いて状況確認。いつも通りの神社と、いつも通りの諏訪子。
そしてなにより――
諏訪子も俺も生きているみたいだ。
もっと詳しいことを知りたいから、諏訪子に聞こうとしてみたけど、顔を赤くして「あーうー」言ってて、話にならなそう。
なんなんだコイツは、やたらカワイイな。思わず抱きしめてあげたくなる。いや、そんな勇気はないけどさ。臆病者なんです。
そんなことをしていると八坂神が現れた。うっわ、何でこの神様がいるのですか? いや、まぁ、そりゃあいるか。あの戦いで俺たちは負けたのだし。
「どうも騒がしいと思ったら、起きたのかい」
「……おはようございます。えと、どうして八坂の神様が?」
「神奈子でいいわよ、そうだね。そのへんも含めて説明するか」
えっ、神様を呼び捨てでいいんですか?
諏訪子? コイツはまた別のお話。
神奈子から話を聞くと、俺が湖に落ちたあと、神奈子も力尽きて湖に落ちたらしい。それで、ちょうどよく目を覚ました諏訪子が、俺と神奈子を救出したんだと。
いや~、神奈子も助けるとは、諏訪子って優しいんだな。
それから、半日ほどで神奈子は目覚めたらしく、これからのことを話し合ったんだって。一応、戦争自体には神奈子が勝ったのだから、この国を治めるのは神奈子ってことになった。
しかし、ここで問題が発生。
新しい神様を、諏訪の国の人々は受けいれようとしなかった。どうやら諏訪子のことが恐ろしかったみたい。
えっ? 違う? 諏訪子じゃなくてミシャグジさま?
ふ~ん、よくわかんないや。
まぁ、そんな理由から、表向きは神奈子が信仰されるけれど、実際は諏訪子が信仰されるということになった。
意味わからん。
他にも、洩矢から守矢になったりだとか、色々と変わったらしいけど、話が難しくてわからなかった。
俺が倒れている間にそんなことがねぇ……
ふむ、神様も大変なんだね。とか考えているとーー
「さて、赤、あんたに言っておきたいことがある」
ありゃ? なんで神奈子が俺の名前を知ってるんだ? 諏訪子が教えたんかな。
「ん~、なにさ?」
「もし、赤が私に勝てたのなら、諏訪子の命を取らないという約束だったわね?」
「うん、まぁそうだったね」
な~んか、嫌な感じがする。
「結果として、私と赤は引き分けに近かったわけだ。しかし、諏訪子の命は取っていない。これじゃあ少々、不公平だと思わないかい?」
いや、思わん。
とかホントは言いたいけど、言ったら怒られそうだからやめておく。
それにしても不公平ねぇ。ん~と……あれ? でも諏訪子への信仰がいるからとか、なんとか言ってなかったっけ? つまりは、神奈子だって諏訪子に死んでもらったら困るんじゃ……
う~ん、よくわかんないや。
まぁ、でも諏訪子が生きてるんだ。それだけで十分か。
「言いたいことはなんとなくわかった。んで、俺は何をすればいいのさ?」
腕、一本寄こせとか言われたらどうしようか……
まぁ、そのくらいで済めばいいけど。諏訪子の命に比べれば安いものだ。
「あんたには100年ほど私の下で雑用をしてもらう」
はい?
「えっ……そんだけ?」
「は? えっ、いや100年だぞ?」
いやいや、100年だけでいいの? 100万年とかの間違えじゃなくて?
ん? いやちょっと待て、落ち着くんだ、俺。これはチャンスだ。幸いにして、神奈子にとって100年というのは長いらしい。
つまり、『本当は100年も雑用をするのは嫌だけど、まぁしょうがないか』
という雰囲気を出せば、この罰ゲームはたった100年で終わる。ふふん、完璧だ。
つまり俺の演技力を見せつけるときが来たわけだな。
「うわー、100年もざつようするのは大へんだな。でも、しょーがないか」
……う、う~ん、おかしい、イメージしてたのとだいぶ違う。
もっとこう、さらっと言う予定だったんだ。こんなことになるのなら練習しておけば良かった。
「ま、まぁ。本人が良いって言うのなら……これから100年よろしく頼むよ」
神奈子が言った。あ、あれ? 俺の演技ってもしかして上手いの?
ふふっ、ま、そんなわけないか。
「おう、よろしく」
「少なくとも、これからもう100年は一緒だねー」
なんて楽しそうに諏訪子が言った。
うん、これから楽しくなりそうだ。
「そういえば、赤って何歳なの?」
「1億歳くらいだと思う」
「「はい!?」」
諏訪子と神奈子がシンクロした。
仲いいね、君たち。
自分の中で『ハイドロポンプ』は2回に1回は、はずれるイメージです
5回連続で外れた時は、もう何も信じられなくなりました
感想・質問何でもお待ちしております