孝達三人は、国道をバイクで駆け抜けて行く。その際、生きている人間の姿は無く、又、奴らの姿も見受けられなかった。
その時、上空に一機の戦闘機が飛行しているのを見付けた。戦闘機は、街の惨状を撮影しており生きている人間がいないかを探っていた。
「あれは……」
戦闘機のパイロットが国道を法定速度をオーバーしているバイクを見付けた。
「生きている人ですね……見た処、高校生でメットも被っていない。無免許運転ですね」
「ああ、だがこの事態だ。逃げられる手段は限られる。高校生の特権と言えば、無免許運転だろ?」
「違いないですね‼」
操縦席と副操縦席に座るパイロットが雑談をしていた。
「近づけるぞ」
「了解‼」
パイロットは戦闘機を孝達に近づけた。
孝は運転に集中している所為か、目線だけ戦闘機に向け後ろに乗っている麗は片手を上げて、戦闘機のパイロットに生きていると言う事を伝えた。
「まさか、まだ生存者がいたとは思いもしなかったですね」
「ああ、そろそろ燃料が勿体無い。基地に戻るぞ」
「判りました」
パイロットは孝達を追い抜かして基地へと戻るのであった。
「もしかしたら、近くに基地があるのかな‼」
「さぁな。だが俺達を助ける程、甘くはないだろう」
戦闘機を見送った後、バイクを止める孝と麗であったが、麗の言葉に孝はネガティブな言葉を発する。
「どうして、そんな盛下がる事を言うのよ‼」
「学校でも同じ光景を見ただろ? それと同じだよ。自衛隊も自分達の基地を護るだけで精一杯なんだ。俺達、民間人を助けられると思うのか? これから先も同じことの繰り返しさ」
孝は脱出する前に、学校の窓から見えた光景を思い出していた。校庭に逃げ出した生徒が助けを求め、上空を飛行していた自衛隊のヘリに手を振るが、無視して目的の為に動いているのが手に取る様に判った。
「何言い合っているんだ? 今は俊輔達と合流するのが目的なんだろ? こんな所で言い合っていても、何も始まらないぞ」
ヴィータが孝達の許へ降り立ち、孝達の言い合いを止める。
「そうだったな……ん?」
「どうしたの、孝?」
「バイクの燃料が無い。近くにスタンドってあったか?」
「信号二つ過ぎた所にあった気がするけど……」
「なら、今はバイクの燃料を補給するのが目標だな」
バイクの燃料が無くなりかけている事に気付く孝は、この近辺にガソリンスタンドがあったか思い出せなかった。だが、麗の得る覚えに近い記憶を頼りにする他無い為、孝はバイクを走らせる。
ヴィータは先程と同じように、上空へ上がり認識障壁を張り孝達の護衛を務めるのであった。
一方、俊輔達は渋滞に巻き込まれていた。
バスの周りには徒歩で逃げている生存者も多く、又、車で逃げだしている生存者の所為で、道路規制が掛かり思う様に進めなかった。俊輔達は、偽造した運転免許証がある為、無免許運転にはならず、警察の手を焼かせなかった。
「これじゃぁ、動き出すのに時間が掛かりますね……」
「そうね、車だけが逃げる手段じゃないのに………」
バスの窓から見える光景にコータと沙耶が呟く。沙耶は窓に手を当てる。そこには一機のジャンボジェット機が離陸して飛行している光景が目に入った。
「洋上空港ですね。あそこなら行く手段も限られていますし、安全と言えば安全ですしね………リスクも高いですけど…」
「まぁ、逃げる場所も限られるわ。どこの島に逃げ込むのか、武器の人口比が高い孤立した地域とかね」
「沖縄や九州、北海道ですね。あそこなら本土から陸で行く事も困難ですし、自衛隊や海兵隊なんかもいますもんね」
沙耶の言葉にコータも続く。だが、沙耶の言葉は終わっていなかった・
「でも遅いわ。私達が北海道や九州、沖縄に行く手段が無い。既に多くの生存者がそっちに向かっている筈。それに、奴らを抑え込んだとしても、生存者を受け入れる為の厳しい検査や身元確認なんかも行われる可能性が高い。いずれ、軍がいる地域は遅かれ早かれ、そんな状態になるのが目に見えているわ。既に起きているでしょ?」
沙耶は自分の考えを述べる。だが、沙耶の言葉は正しかった。既に沖縄と北海道では生存者の受け入れに厳しい審査が執り行われている為、中々、中に入れない生存者が多く存在していた。
又、北海道は本土と繋がっている鉄道の線路が存在するが、既にトンネルは爆破され通る事が出来ない状況であった。
「なら、あんたはどうする? 他者との交流は奴らを入れてしまうリスクに繋がる。その時になれば?」
「引き籠りますね。その方が安全ですし、第一、他者との接触をしなければ奴らになる事も無いですしね」
沙耶の質問にコータは即答する。
「なら、世界中の人間がアンタみたいな考えになったらどうなる? 生き残るだけのコミュニティーを維持するだけを考える様になったら………」
「高城さんは、頭が良いですね。前から知っていましたけど、もっと尊敬してしまいそうです」
「何言ってるのよ‼ それにアンタも気付いてるんでしょ?」
「ええ、あの紫藤と言う教師の事ですよね?」
コータと沙耶の目線の先には紫藤が演説をしている所であった。演説を聞いているのは、紫藤と一緒にバスに乗り込んだ生徒達だけであった。
沙耶やコータ、冴子、鞠川、永達五人は違い、紫藤の考えに賛同するつもりは無かった。
「宮本が言っていた事が本当になったわね」
「そうですね……あの生徒達を見て下さい。既に紫藤の事を崇拝するような目で見ていますよ」
コータが言った通り、紫藤の演説に惹かれた生徒たちの眼には、紫藤の事を神の様に崇拝する眼差しを向けていたのであった。
「半日よ? 半日であんなことになるとはね……こんな時に小室がいれば相談できたのに………」
「高城さんは小室の事、好きですもんね?」
「なっ⁉ 違うわよ‼ バカな事言わないでよ‼」
コータの言葉に沙耶は強く否定するが、顔は茹で上がったタコの様に赤くなっているのであった。
「「ふ~ん」」
「だから‼ 違うってばぁ‼ それに私には…………」
冴子と鞠川の目線に気付いた沙耶であったが、本当に好きになっている人物の事を言えなかった。
「丁度良いかもね、この際」
永が立ち上がり次の行動の事を話し始めるのであった。
時を戻し、孝達は麗の得る覚えの記憶を頼りにガソリンスタンドへ向かっていた。
「誰もいないわね……逃げ出したのかしら?」
「さぁな……でも逃げ出したとしても逃げる宛はあるのか? 死んでしまって生きている奴を喰う為にどこかに隠れているのかもな………それか、生きている奴を追いかけたのか………どちらにせよ、戦う回数が減ってありがたいけどな」
孝は誰もいなくなった街を見ながら呟く。
「孝‼ 右‼ 右見て‼」
「えっ?」
麗の言葉に孝は目線を右側へ寄せた。そこにはパトカーが一台、交差点で止まっているのが目に見えた。
「無免許、ノーヘル、盗んだバイク。警察にばれたら補導されるのがオチだな‼」
「今更、何言ってるのよ? それを言うなら山本君達はどうなるの?」
孝はバイクのスロットを引きスピードを上げた。だが、その時に見た光景が、世界の終わりを告げる第一歩であると気付かされるのであった。
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