孝達は交差点で止まっているパトカーの前で絶句する。パトカーの右後部にダンプが突込み、後部座席を押し潰して止まっていた。その衝撃でか、乗っていた警察官は座席に押し潰される様に息絶えていた。
パトカーから漏れ出した燃料が流れだしているのが見受けられていた。
「マジかよ……麗?」
孝はパトカーの惨状に何も言えなくなる。だが、麗は静かにバイクから降り、パトカーの元へ向かって行く。
「麗‼ パトカーから燃料が漏れだしている‼ 危ないぞ‼」
「役に立つ物があるかも知れないじゃない?」
麗はそう言うと、パトカーへと近づいて行き、運転手席の扉を開ける。腰にぶら下がっている物を見て麗は躊躇わず、警官からそれを取った。それは拳銃であった。警察官が所持しているS&W M37エアウェイトと呼ばれるリボルバータイプの銃である。
「孝も一緒にやりなさいよ‼ ぼさっとしてないで‼」
「お、おう‼」
麗の一言で孝もバイクを降り、パトカーへと近づいて行く。
暫らくしてから、麗と孝はバイクの元へ戻った。しかし、そこにはヴィータが黒いオーラを纏って待っていた。
「お~ま~え~ら‼ 勝手な行動をするな‼ こっちは冷や冷やしたぞ‼」
「ごめんね~ヴィータちゃん。でも新しい武器が手に入るし、手段が増えるから良いかなって思ったんd「パトカーから燃料が漏れているだろうが‼ 何かの拍子で引火したらどうするつもりだった‼」ごめんなさい」
麗の言葉にヴィータは堪忍袋の緒が切れ、般若の表情を浮かべていた。
「まぁ、良い。それで新しい武器は手に入ったのかよ?」
「う、うん(怖かった‼ あんな小さい子でも迫力があるわ)」
ヴィータの言葉に頷いた麗が、バイクの座面に銃一丁と弾丸五発、警棒一つを載せた。
「孝、この銃は孝が持っていて。使い方は判る?」
「テレビとかで見た事だけだ………ずっしりしているな」
麗に手渡された銃を手に取った孝は、銃の重さに驚きを隠せなかった。
「当たり前だ。その銃の弾丸一つで人の命を獲る事が出来るんだからな。軽かったらその銃の責任が感じられないだろ」
ヴィータの言葉で孝は再認識する。自分が持っている銃の重みの意味を………
「先を急ぐぞ。時間が勿体無い」
「あ、ああ。そうだな」
ヴィータの言葉で孝達はバイクに乗り込みガソリンスタンドへ向かうのであった。
洋上空港では滑走路にいる奴らを狙撃している部隊がいた。
「左右の風はほぼ無風。修正の必要無し。射撃許可を確認‼」
観測手の男性の声でライフルを手に持つ女性が、引き金を引く。
放たれた弾丸は、狂う事無く滑走路にいる奴らの頭を貫通し、今度こそ本当の絶命を迎えた。発砲音はそれからも続き、滑走路内にいた奴らを殲滅させた。
「お見事、化け物共は全滅を確認‼」
「フゥ~」
「何してんだよ」
観測手の男が狙撃手の女性に目を向けると、女性は立ち上がったかと思うと徐に、自分の胸を揉み始めた。
「朝っぱらから寝っ転がって狙撃してんのよ? 痺れちゃってんのよ」
「俺が揉んでやろうか?」
この非常事態でなければ、観測手の男性はセクハラとして訴えられていただろう。だが、長年連れ添った狙撃手の女性には、男性の言葉が冗談であると判っていた。
「揉みたかったら、私より狙撃がうまくなくちゃ揉ませないわ」
「全国の警察の射撃ベスト5に入るお前より上? ムリだな」
「なら、諦めなさい」
狙撃手の女性、南リカはサングラスを手に取り顔から外す。
「にしても、船でなければ入れないこの洋上空港にまで出て来るとはな………警備は怠っていないんだろ?」
観測手の男性、田島が呟く。
「ええ。要人とか空港の意地に不可欠な技術者の家族が入っているけど、その中に噛まれた者が居たのよ。その結果がこれよ」
リカの言葉に田島は肩をすくめる。
「いつまでこの空港が持つか………既に九州や北海道、沖縄の空港は受け入れを拒否し始めているわ。私達がこの空港に派遣されていなかったら、この空港も化け物一色になっていたかもね」
「だが、弾薬や物資も無限にある訳じゃない。いつか枯渇してしまうな」
「あら? 逃げるつもり?」
田島の言葉にリカは尋ねる。
「まさか、だがいずれかはするつもりだ」
「私は街に行くつもりよ」
リカの言葉に田島は驚き「えっ⁉ 男でも居るのか‼」と食いつくほどであった。
「違うわよ、街に私の友達がいるのよ」
そう言うとリカは空を見上げるのであった。
ガソリンスタンドが見つかり一安心する孝達は燃料を補給しようと、バイクを給油機の横に止めた。
「ガソリン残っているのかしら?」
「大丈夫だろ、どこのスタンドでも車千台分の燃料は貯蓄しているって聞くし………チッ‼」
孝は給油機のシステムに舌打ちする。
「どうしたのよ、孝?」
「ここのスタンド。セルフ式だ。金かカードを入れないと給油されないシステムだ」
「お金入れた良いじゃない」
「生憎、金が無い。まだ問題が起きていない学校の自販機でジュースを買ったからな。手元に残っているのが三十円しかない」
孝はそう言うとポケットの中に入っている三十円を麗に見せつける。
「最低」
「まさか、こんな事になるとは思っても見ないだろうが‼」
「何かの時の為に残しておくと言う気持ちは無かったわけ‼」
「家に帰ったら貯金箱に入っている金を出すつもりだったし‼ こんな状況になるなんて判っていたらもっと持って来てる‼」
「いい加減にしろ‼ お前ら‼」
「「(ビクッ⁉)」」
麗と孝の言い合いにヴィータがまたもや雷を落とす。だが、声のトーンは小さく奴らに聞こえる事は無かった。だが、トーンと迫力に二人は体を震わせる。
「今は言い合いしている暇はないと、さっきも言った筈だぞ? 忘れた訳じゃ無いだろうな?」
「いや…その……すみません」
「ごめんなさい」
ヴィータの迫力に二人は唯、頭を下げる他無かった。小学生の女の子が高校生男女を叱っている光景は、状況が状況なので笑う事は出来なかったが、もし何もない時であれば、笑われるのが目に見えていた。
「孝はあそこのカウンターに行ってレジを壊してこい。そこから金を出して燃料を入れろ。麗は付近の確認だ。もしかしたら、暴漢が潜んでいる可能性があるからな」
「ヴィータちゃんはどうするの?」
ヴィータは的確に二人に指示を出していた。
「私はちょっと上空を飛んで、近くに何か無いか探るつもりだ。麗、何かあれば叫べ。それに気付かないバカはいないからな」
ヴィータはそう言うと上空へと上がって行くのであった。
孝はヴィータに言われた通り、カウンターへと向かって行った。麗は誰も近づけさせない様に見張っていた。
だが、三人共気付かなかった。既に麗の近くに暴漢が立って、手にはナイフを握っていた事を………
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